日本の水生植物 水草事始
水生植物の利用 食材編
(C)半夏堂
食材としての水生植物




オランダガラシ(Nasturtium officinale R. Br.) 別記事にも書いたが、本種はアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の機関誌「Preventing Chronic Disease」の2014年6月5日号に発表された同研究でカリウム、食物繊維、タンパク質、カルシウム、鉄、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、葉酸、亜鉛、ビタミンA、B6、B12、C、D、E、Kの17の栄養素の含有量をもとに世界の野菜をスコア化した結果、総合100点を獲得して第一位となっている。ある意味世界最強の野菜であることが証明されている。また、抗酸化作用、脂肪の燃焼、抗アレルギー、ナトリウムを体外へ排出、タバコに含まれる発ガン物質のNNKを部分的に無毒化など生活習慣病の予防にも役立つ。
 この強力無比な健康食品は、同時に我が国では生態系被害防止外来種でもある。邪魔者を喰う、利害が一致する所ではあるが、残念ながら現状は肉料理の付け合せ程度の消費であり、あえて採集したり栽培したりしてまで調達することはない。自分では安全性(農薬など)が確認できた場所ではわりと大量に採集し、単品でオリーブオイルをかけたサラダにして食べているが、次に採集に行った際には採った分の何倍も増えている。さすが生態系被害防止外来種、と変なところに関心したりする。



■リライト版公開に際して

 以前公開していた「水辺の薬草」という記事を書くために情報を整理していて気が付いたことだが、水生植物の一部には民間療法や漢方原料の薬草としての位置付けよりも、野菜として食用に出来るものが意外に多い。一般的に知られているジュンサイ、ホンタデ(ヤナギタデ)、クワイなどの農作物も立派な水生植物であるが、これらの栽培作物以外にも、多少調理に工夫が必要だったり、必ずしも美味しくは無い、という条件も許容すれば非常に多くの野草範疇の水草が食用になるのだ。
 歴史的に人類の登場以来大部分の期間は飢餓の歴史であった、とする説があるが近代でも(例えば我が国の江戸時代)飢饉があればここにある植物以外にも多くの水生植物が食べられて来たはずである。例えばミゾソバはその名が示す通り救荒植物であったし、ひょっとするとある時期まで常食されていた可能性もある。柳田國男の真の意味でのフォロワーが出現していない状況、こうした庶民史とも呼ぶべき歴史が残っていない現状は残念。
 過去の状況も含め、現代の利用法も到底全ては網羅できないが、自分で経験のある(食べた事のある)ものを中心に出来るだけ情報をお伝えして行きたいと思う。

 言うまでもないが、野草を食用とすることは手軽な反面、様々なリスクがあり、それらは全て自己責任として許容しなければならない。主なリスクは下記するが、本記事を参照し水生植物を食した結果、いかなる損害を被ったとしても責任を負えないことを付記させて頂く。しかし、大災害が発生し食料の調達が不可能になった際に、食べられる野草を知っておくことは生き抜く上で大きなアドバンテージになると思う。水辺版岡本信人。


【野草を食用にする場合の基本ルール】

■注1 毒性
明らかな毒性を持つものは文末に別途まとめているが、未知の毒性や他の食材との食べ合わせによる毒性などは網羅されていない。くどいようだがあくまで自己責任で食用とすること。これは水草に限らず野草を採集、食用とする際の原則的・基本的なルールである。分からない物、判断が付かない物は避けて通るのが賢明である。

■注2 農薬
水田雑草範疇のものは、生えている水田で使用される除草剤、殺虫剤等の影響を何らかの形で受けていると考えるべきであり、無条件にはお奨めできない。農薬の個々に関しては安全基準を満たしているはずだが、それは食用となる稲に対してであり、農薬の複合的な影響や生物凝縮等を考慮すれば慎重な行動が望ましい。

■注3 私有財産
明らかな野草に関しては採集に法的な問題はないが(無主物先占)、同じ植物でも食材として栽培している場合があり(ジュンサイ池、山葵田など)、このような場所ではもちろん採集は許されない。厳密に言えば水田に生えている雑草も私有地にある以上は手出しできないが、そこは常識の範囲で判断、ということで。

【注意事項・禁止事項まとめ】

(1)食用として供する際に確実な同定を行うこと
(2)ヤナギタデ(ホンタデ)、ワサビ、ジュンサイなど農作物として栽培されているものも多いので、採集場所に注意
(3)食べられる水生植物には生態系被害防止外来種も含まれているので、余ったから、と言って放棄はしない

(1)同定に自信のないものを食べること
(2)必要以上に採集してしまうこと
(3)農薬の影響が考えられるものを食べること

水生植物食材リスト
植物名
(当Webサイト内解説リンク)
画像 食用部位 代表的調理法 個人的感想
アサザ 若葉 2〜3分、さっと湯がく 不味くはないが旨くもない。あえて言えばあまり味もない。調味料はマヨネーズが合うと思う。要するにサラダであり、葉っぱである。ジュンサイハムシやマダラミズメイガが好んでつくので栄養分はあるのだろう。
イヌガラシ 天麩羅 大味かつ水分の多い春菊といったテイストである。野菜の代用品として食する地方もあるらしい。スカシタゴボウや本種が母種の交雑種も同様。除草剤が撒かれた畔近くに生えていることが多く、採集場所に注意が必要。
オモダカ 根茎 煮物 やや小さく食べ応えがない。筋のあるサトイモ的な食感。最近農薬耐性のあるスーパー雑草になったものがあり、いわば「勝手にできた遺伝子組換え植物」、食べることでどんな影響があるのか不明という不気味さがある。
オランダガラシ 生食、湯がく、炒める 立派な食材であるクレソンなので当然食用になる。やや苦味があるが肉料理に合う。生態系被害防止外来種。食べる分には何ら問題はないが野菜屑の放棄に注意。
カワヂシャ 若葉 生食 食感がレタスに似ていなくもない。川の「チシャ」であり、チシャはレタスの古語である。食感、味はレタスより相当落ちる。同所的に生えるオオカワヂシャは特定外来生物で採集は禁止。
カワラケツメイ 全草 煎じて茶葉 野草茶の代表的存在。ベストセラー、十六茶の主要な原料の一つにもなっている。
ギシギシ 若葉 湯がく ミリンや酢で和える。白ゴマで味付け。十分なアク抜きが必要。とろみが出てジュンサイ風に食べられる。シュウ酸を多く含むので大量摂取は不可。
クログワイ 根茎 炒め物 あまり一般的ではないが、栽培品種としてオオクログワイ(別名シナクログワイ)というものもある。
クワイ 根茎 煮物。出汁は昆布、酒、みりん、砂糖、醤油、塩などで弱火で煮込む スーパーなどでも販売される場合がある。栽培品でありオモダカよりはるかに美味。
コウホネ 根茎 煮物、油炒め 食した経験はなし。一般的には仙骨(センコツ)として生薬での利用が有名。利尿、強壮などの効果があるとされる。
コオニタビラコ 春の七草、ホトケノザは本種のこと。七草粥に入れて食べる。
コナギ 湯がいた葉を刻んで納豆に混ぜる 休耕田のものを左記調理法で試したが、苦味があって好みによっては、というところ。東南アジアでは常食しているようだ。万葉集にも出てくる食材。
シソクサ 生食 食べた直後は清涼感があって良いが、意外と長時間口中に味が残る。うどんやソバの薬味利用が良いかも。ベトナムあたりでは常食されているらしい。
ジュンサイ 若葉 2〜3分、さっと湯がく 有名な食材で販売もされている。秋田県での栽培が有名。自宅での栽培は食用目的の場合、広大な面積が必要になる。
スカシタゴボウ 天麩羅 イヌガラシと同じ。
セリ 天麩羅、ごま和え、おひたし、味噌汁 常食される野菜である。どう食べても旨いが、花期が近づくと固くアクが強くなるので季節限定で。近似種のドクゼリ(後述)に注意。
タネツケバナ 生食、おひたし オランダガラシよりもクセが強いが非常に美味しい。納豆やおからに混ぜてもいける。
ツユクサ 若葉 キッシュ、天ぷら、炒め物 クセはない。乾燥した葉を使った入浴剤や葉を揉み潰した皮膚病の薬など薬効もある。
ドクダミ 乾燥して茶葉にする ドクを名乗るが毒はない。大好きな爽健美茶の原料の一つでもあるが、ドクダミ単独の茶はクセが強い。
ハス 種子、根茎 一般食材に付き省略 種子も根茎も普通に売っているので一般的だが、自生種の場合は根茎を掘り上げるのが大変である。種子(果実)は花後に簡単に採れる。
ハッカ 生食、ハーブティー 葉を刻んで紅茶に抽出すると自家製ハーブティーのような味。清涼感があって好ましい。
ハナウド 若い茎 シイタケや昆布などとともに佃煮 調理法、食感ともにフキに近い。毒草説があるが普通に食べられる。
ヒシ 茹でてそのまま 栗と里芋の中間のような味でなかなか旨い。アイヌ民族は常食していたという。棘に注意。
ヒメハッカ 生食、ハーブティー ハッカと同じだがやや風味が強いように感じる。
マコモ 根茎 生食、サラダ、浅漬、酢味噌あえ、天ぷら、煮物、炊込ご飯など多数 根基に近い茎の肥大部分(マコモタケ)を食用とする。低カロリーで食物繊維が豊富な健康食材である。実はワイルドライスと呼ばれる低カロリーのスーパーシードである。
ミズアオイ 湯がいた葉を利用 コナギと大差のない味。やや苦味、青臭さを感じた。
ミゾソバ 摺り潰してソバを打つ 残念ながら食う機会に恵まれていない。見かけは同じタデ科のソバと同じように見える。採集はともかく、製粉とソバ打ちの技術が必要となる。
ミツバ 生食 他 販売されるミツバと同じ。森を流れる小川の岸などで採集できる。
ヤナギタデ 若葉 刺身のツマ 本種の栽培品種がホンタデである。立派な農作物。自生と栽培品種は種として異なる、という情報もあるが、自生種でもピリッとした味は基本的に同じ。
ヤマラッキョウ 根茎 生食、酢漬け 一般に食用にはしない、とされるが小さなラッキョウとして食べられる。無理に食べるより花を観賞するのに向いた植物であることはたしか。「ヤマ」を名乗るが湿地の植物。
ワサビ 根茎 ご存知の通り 生の風味が素晴らしい。練り製品とはまったく異なる味に感じる。山奥の渓流沿いには意外に自生がある。
危険植物リスト
 前述の通り水辺植物の中には毒性を持つものがあり、以下表記する。くどいようだが未知の毒性や私が知らないものは含まれておらず、食用には確実に安全なものだけを供することが基本である。

植物名
(当Webサイト内解説リンク)
画像 毒性
危険注意!!
ドクゼリ
シクトキシンを含有、嘔吐、下痢、痙攣、呼吸困難などの中毒症状を引き起こす。セリより概して大型、葉柄が長く太い地下茎があることが判別ポイント。
危険注意!!
オトギリソウ
特徴的な腺点に含まれるヒペリシン(hypericin、アントラキノン系天然色素)が感光性の皮膚炎症を引き起こす。和名由来となった薬効成分もあるが、薬と毒の両面性を備えた代表例であると言えるだろう。
危険注意!!
オランダカイウ
シュウ酸カルシウムを全草に含む。サトイモ科なので芋が旨そうだが、嘔吐や炎症などの症状が出る。花を少しかじっただけで口内に激痛が出るほどである(経験者)。
危険注意!!
ウマノアシガタ
プロトアネモニン(Protoanemonin)、ラナクリン(Ranunculin)を含むため、皮膚炎、幻覚、下痢、嘔吐、胃腸炎、麻痺などの諸症状を引き起こす。ちなみに有名な毒草、トリカブトも同じキンポウゲ科である。
危険注意!!
キツネノボタン
毒性はウマノアシガタと同様であるが、キンポウゲ科全般に同じ毒性があるので注意したい。葉や茎を折ったりしてそのままの手で目や皮膚を触っただけでかぶれる症状が出ることがある。
危険注意!!
サワギキョウ
ロベリアに特有の「ロベリン」という物質を含む。呼吸興奮薬の一種で、禁煙補助剤に使用される「毒物」。
危険注意!!
タカトウダイ
有毒成分ユーホルニンを含む。茎や葉を折ると白い乳液状の液が出るが、食べることはもちろん、触らない方が良い。
危険注意!!
ノウルシ
有毒成分ユーホルニンを含む。トウダイグサ科全般同じ。
危険注意!!
ミゾカクシ
ロベリアに特有の「ロベリン」という物質を含む。呼吸興奮薬の一種で、禁煙補助剤に使用される「毒物」。
【付録】薬草リスト
 薬草(漢方、民間伝承、その他)としての情報を付記。この情報は以前に「水辺の薬草」として調べた結果をリライトして転載している。今時本気で薬として使う場合はないだろうが(漢方材料は別として)、一応のナレッジベースとして記載しておくことにする。使用上の注意その他は食材と同様である。また、本情報の正確性を保証できるものではないことを付け加えさせて頂く。

【水辺の薬草一覧表】*植物名ゴシックは毒草

植物名 有用部位 薬効 漢方・生薬利用
アサザ ミツガシワ アサザ 果実 解熱、利尿、解毒
ミゾカクシ キキョウ ミゾカクシ 全草 利尿、腫れ物 半辺蓮
イグサ イグサ 全草 胃炎、夜泣き、浮腫 灯心草
イヌタデ タデ イヌタデ 全草 下痢、腹痛
ウキクサ ウキクサ ウキクサ 全草 発汗、利尿、水腫、解熱 浮萍
オモダカ オモダカ オモダカ 根茎 脚気、腎臓病 澤瀉
オランダガラシ アブラナ オランダガラシ 全草 貧血、ビタミン補給
ガマ ガマ ガマ 花穂 火傷、切り傷 蒲黄
クワイ オモダカ オモダカ 根茎 産後止血、膀胱結石
コオホネ スイレン コウホネ 根茎 強壮、止血、婦人病、風邪 河骨
コナギ ミズアオイ ミズアオイ 全草 夏バテ、日射病、暑気あたり
コブナグサ イネ コブナグサ 全草 咳止
サジオモダカ オモダカ サジオモダカ 根茎 頻尿、口渇、めまい 沢瀉
サワギキョウ キキョウ ミゾカクシ 全草 去痰、解毒
ジュズダマ イネ ジュズダマ 穀果、根 神経痛、リューマチ他 川穀
ジュンサイ ハゴロモモ ジュンサイ 葉茎 腫れ物、解熱、利尿
ショウブ サトイモ ショウブ 全草 鎮痛、腰痛、冷え性など 白菖、菖蒲根
スイバ タデ ギシギシ 便秘、水虫 酸模
セリ セリ セリ 全草 食欲増進、去痰など 茴香、水芹
チドメグサ セリ チドメグサ 全草 解熱、利尿、止血
ツユクサ ツユクサ ツユクサ 全草 利尿、喉頭痛、湿疹など 露草
ドクダミ ドクダミ ドクダミ 葉茎 解熱、肌荒れ、利尿 十薬
フタバムグラ アカネ フタバムグラ 全草 肝炎、癌、免疫力向上 白花蛇舌草
ハス ハス ハス 根茎 悪酔、ダイエットなど 蓮肉
ハッカ シソ ハッカ 健胃、解熱 薄荷
ハンゲショウ ドクダミ ハンゲショウ 利尿、腫れ物 三白草
ヒシ ヒシ ヒシ 胃病、強壮 菱実
ヘラオモダカ オモダカ サジオモダカ 根茎 解熱、解毒 沢瀉
マコモ イネ マコモ 高血圧、肝炎、糖尿病、胃腸病 菰角
ミクリ ミクリ ミクリ 根茎 貧血、利尿、生理不順 三稜
ミゾソバ タデ イヌタデ 葉茎 リュウマチ、止血(葉)
ミソハギ ミソハギ ミソハギ 全草 止瀉 千屈菜
ミツガシワ ミツガシワ ミツガシワ 葉茎 胃炎、消化不良、高血圧 睡菜葉
ヤナギタデ タデ イヌタデ 全草 暑気あたり、虫さされ 水蓼
ヨシ イネ ヨシ 全草 中毒、黄疸、便秘など 蘆根、蘆茎
ワサビ アブラナ ワサビ 根茎 殺菌、消毒、鎮痛など 山葵根
【参考・出典】
薬用植物総合情報データベース
武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園

日本の水生植物 水草事始
inserted by FC2 system