日本の水生植物 水生植物図譜
ミツガシワ科 Menyanthaceae
(APGV:ミツガシワ科 Menyanthaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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アサザ属 ミツガシワ属
アサザ属 Nymphoides
標準和名 アサザ 学名 Nymphoides peltata (SG Gmel.) Kuntze. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 霞ヶ浦では植生による水質浄化のシンボル的な植物としてアサザ基金によって市民参加の植栽が進められている。
 ハスやアシの植栽・放置によって富栄養化が進むように、吸収した栄養分を刈り取りによって湖外に搬出しなければ意味が無いと考えていたが、鷲谷いずみ先生(東京大学大学院)と飯島博代表(アサザ基金)共編の「よみがえれアサザ咲く水辺」によれば蛾の一種で水生植物の浮葉を食草とするマダラミズメイガによって食べられ結果的に窒素とリンが搬出されるとの事で、即効性は無いながら自然の力を生かした浄化策となっている模様である。余談ながら飯島博代表は「100年後の霞ヶ浦」をビジョンとして持っており、拙速にならず骨太の精神によって環境に相対している。

 睡蓮鉢で育成可能であるが、肥料分と日照を確保しなければ開花しない。黄花を多数つける観賞価値がある水草である。葉は次々と枯れるが、葉の寿命が短く新しい葉を展開する性質なので問題は無い。

(P)2009年5月 茨城県(自宅育成)
2007年6月 茨城県
霞ヶ浦沿岸部に見られた陸生型
2010年9月 茨城県 浮葉
2014年6月 千葉県 池に群生 同左
標準和名 アメリカアサザ 学名 Nymphoides crenata  生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法指定なし

 アメリカ、と名乗るがオーストラリア西部原産のアサザの近縁種である。浮葉に暗褐色の斑が入り、アサザに似た黄色の5弁花を付ける。花弁はフリンジが入りアサザよりやや細く、形状はアサザよりガガブタに近い。花期は6〜9月。

 本種は近年ビオトープ向け植物として盛んに販売されているが、寒さにやや弱く、さほど大規模に繁茂はしていない。外来種としての危険性は低いと考えられるが、野外で越冬しているので注意は必要。尚、本種の展示がある筑波実験植物園では種名を明記せず不詳(「アサザの一種」と表記)としている。本稿記載の和名、学名は暫定。

(P)2015年6月 茨城県(公園植栽)
2015年6月 茨城県(公園植栽) 同左 浮葉には暗褐色の斑が入る

2015年6月 茨城県(公園植栽)
標準和名 ガガブタ 学名 Nymphoides indica (Linn.) O.Kuntze 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 小さな白花をつけるニムフォイデス。汚染の進んだ霞ヶ浦でも普通に見られる。冬越しの殖芽の形状が面白く、アクアリウム用として販売されているバナナプラント(ハナガガブタ、同属)をスリムにしたような形となる。ガガブタは「鏡蓋」であり、時代を感じさせる古風な標準和名であると思う。

 アサザやトチカガミと同じ環境に自生するが、アサザのように浮葉に鋸歯がなく、トチカガミのように抽水葉を出さない。殖芽形成時期は蛸のように特徴的な殖芽となるので同定は容易だと思う。

(P)2007年9月 茨城県
2011年4月 群馬県 2012年9月 茨城県
 特徴的な根茎(殖芽)。蛸の足のようだ。(タコノアシはユキノシタ科の植物に和名付与されているが、こうして見るとガガブタの方が相応しいような気がする)
 霞ヶ浦水系の自生地ではあまり実生は目にしないが、ガガブタは長花柱花、短花柱花のタイプが混生しないと結実しない。こうした場所が稀なので殖芽による無性生殖を普通に行っているものと考えられる。

 こうした増殖方法でも競合のない水域では爆発的に増殖し、水面を覆い尽くす姿を見かける。なぜガガブタがあえてハードルの高い有性生殖方法を持っているのか興味深い。

右:2008年1月 茨城県 特徴的な殖芽

2015年8月 東京都
標準和名 ヒメシロアサザ 学名 Nymphoides coreana (Lev.) Hara 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 ガガブタに似た、同じアサザ属の浮葉植物。ガガブタとの違いは独特の殖芽「バナナ」が無いこと、花がさらに小さく数mmであること、花の「毛」が花弁の縁にのみ見られること、などである。
 その殖芽であるが、形成するタイプ(多年草)としないタイプ(一年草)があり、自生地タイプなど単純な切り分けができない。まさに一年草または多年草である。画像の株は自宅育成株であるが、殖芽を形成する多年草である。

 分布は薄く、またガガブタとの誤認等もあって確実な自生情報が少ない。関東地方の自生地、渡良瀬遊水地でも工事が入り撹乱があると一時的に休眠種子が発芽し復活するが、残念なことにすぐ見られなくなってしまうという。一方岡山県などでは水田の強害草となっており、その興亡の植物生理が興味深い。
 育成環境下では実生、殖芽とも盛んに繁殖する。元々強靭な雑草なので、湿地の喪失や水田の乾田化、除草剤などありがちな原因に追い詰められていると考えられる。

(P)2009年7月 茨城県(自宅育成)
2009年7月 茨城県(自宅育成) 浮葉と花 2015年8月 茨城県 花弁が複雑な形状をしている

2015年8月 茨城県
ミツガシワ属 Menyanthes
標準和名 ミツガシワ 学名 Menyanthes trifoliata Linn. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 一般的にはやや標高の高い湿地、沼沢地に自生すると言われる多年生、大型の水生植物。自生地の特性からほとんどが保護されている国立公園や採集禁止区域にあると思うが、平地でも自生できるようで茨城県の平野部湿地でも複数個所で確認している。時折水辺の園芸植物として出回ることもある。氷河期からの古い植物と言われ、少し前まではリンドウ科に分類されており、何かと謎めいた植物である。現在はミツガシワ属の一属一種である。マタタビのように猫を酔わせる成分を持っていると言われている。
 自生地に付いてだが、育成しているものは平野部産であるし特に関東地方の気候で弱るということもないので、尾瀬の大群落のイメージなどが独り歩きし、高山植物と思われているフシもある。必ずしも冷涼な気候を好むというわけでもないだろう。

 縮れた白い毛がある花冠が5裂した花を花穂に多数つける。花の大きさ、雰囲気はヒメシロアサザやガガブタに似ている。上画像が花、下画像、睡蓮鉢中央の抽水葉が本種(3小葉の複葉)。水中の地下茎は太く側根を多数付ける。同科のアサザやガガブタと異なり浮葉は形成しない。

 本種はコウホネなどの競合がない環境では時に大群落を形成するが、種類は不明ながら葉を好む昆虫によって食害される。これはアサザ/マダラミズメイガの場合と同様に湿地・湖沼中の窒素やリンを外部に循環させる浄化の機能を持っていると思う。また根茎の密度や伸長速度を考えれば窒素固定量も大きいであろうことが推測される。

 育成は可能な限り広い環境が望ましく、地下茎の伸長とともに年々広がる強い植物である。日照条件、栄養条件によって4月から9月ぐらいまで開花を続ける。下画像の睡蓮鉢は60cm径だが、コウホネやミズトラノオ、ヒシモドキなども混植しているためミツガシワの伸長を抑制しようと、鉢植えにして沈めたが、地下茎はあっさり鉢を乗り越えて定着、他種を圧迫する勢いとなっている。

(P)2007年4月 茨城県(自宅育成)(上)
2006年6月 茨城県(自宅育成)(下)

2011年4月 茨城県(自宅育成) 同左
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