日本の水生植物 水生植物図譜
オモダカ科 Alismataceae
(APGV:オモダカ科 Alismataceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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オモダカ属 サジオモダカ属 シャゼンオモダカ属 マルバオモダカ属
オモダカ属 Sagittaria
標準和名 アギナシ 学名 Sagittaria aginashi Makino 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 近似種のオモダカと比べ圧倒的に少ない。アギナシの葉はオモダカより細い、と言われるが両種とも環境によって表現型は様々で同定ポイントにはならない。「一応」この項に載せているホソバオモダカが良い例だろう。この誤解が多くのWebサイトでオモダカの表現型をアギナシとして紹介している誤認につながっている。本種は、

球根(クワイ)が無く葉柄基部に小球芽(ムカゴ)を形成する
葉の頂裂片(「頭」の部分)の先が鋭く側裂片(「耳」の部分)が頂裂片より短く先端部に丸みがある

という特徴を持っている。これに対しオモダカは球根を持ち、側裂片が裂片より長い。側裂片の先は鋭い。さらに掘ってみればオモダカが根茎を持っているのに対し本種は無い。根も少なめでミズオオバコの根のような印象である。
 画像下はその小球芽から発芽した直後の幼株である。根元の黒褐色の球根状の物体が小球芽である。こうした小球芽が1株に付き20〜30個形成され、散らばることで分布を拡大する戦略を持っている。通常に水草が成長する環境であれば爆発的に殖やすことが可能な丈夫な水草である。これがなぜ希少種となってしまっているのかと言えば除草剤の影響に拠るところが大きい、と思う。

 近似種のオモダカは水田地帯であればどこでも見られるごく普通の種である。この点はコナギとミズアオイの関係によく似ているが、同じような生活史を持つ近似種なのにこの違いは興味深い。尚、本種は水田よりも自然湿地や耕作放棄水田に多い。耕作水田では湿田で無農薬など、自然度の高い条件が揃わないとなかなか見られない。平野部で基盤整備された水田ではまず見つからないだろう。除草剤の耐性にしてもスーパー雑草化するオモダカとは明らかに違う遺伝子を持っていることが推測される。

 一風変わった和名の由来は、発芽直後の子葉が頂裂片と側裂片が分裂せず、顎(「アギ」は古語)が無い、というところから来ているそうである。上画像の左の葉がそれである。

(P)2008年8月(上)側裂片が分裂していない葉
2010年5月(下)小球芽からの発芽 茨城県(自宅育成)

2010年7月 茨城県(自宅育成) 花(雄花) 同左
2010年7月 茨城県(自宅育成) 側裂片 同左
標準和名 ウリカワ 学名 Sagittaria pygmaea Miquel. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 瓜皮すなわち葉の形状を瓜の皮に見立てた命名であるが、瓜は胡瓜のことである。発生初期は同属のオモダカ、ミズアオイ科のコナギと酷似するが成長に従ってやや厚みのあるウリカワ独特の葉の形状となる。走出枝によって殖え、時に大きな群落を形成する。

 花はオモダカに似た白花。下2枚の開花画像は休耕田に於けるものであるが、周囲にはスズメハコベ、キカシグサなど自然度の高い休耕田を好む植物が見える。これが本来の自生環境なのだろう。

(P)2005年8月 耕作田
2010年9月 茨城県 休耕田 同左

2017年8月 茨城県
標準和名 オモダカ 学名 Sagittaria trifolia Linn. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 和名の面高(オモダカ)は葉が人面を想起させ、かつ葉脈が隆起していることから命名された説と面長転じて、という説がある。ちなみに属名のサジタリアは「鏃型」から。まさに葉は鋭いヤジリ型で形状の変異が多い。ネット上の図鑑で葉の角度や太さでオモダカとアギナシを区分しているものが見られるが、変異を想定すればそれは極論。
 水田雑草の普通種であるが、有用種であり根茎が食用、薬用となる。一部地域で正月料理に用いられるクワイは本種の栽培品種である。花は小さく地味であるが、次々と花穂を出して長く開花を続ける(8〜10月)。
 本来は北方型の種であり、我が国では高地の湧水付近などに自生していたらしいが、農耕と農薬の進展により様々な形質を獲得して現在では九州の平野部にも見られるとのことである。(*)

 一方、長年に渡って本種をはじめとする水田雑草の除去に「水稲用一発処理除草剤」という利便性及びコストパフォーマンスに優れた除草剤(主成分がSU系化合物であるのでSU除草剤とも呼ばれる)を使用して来た水田ではアゼナ類やホタルイ類とともにオモダカも除草剤に抵抗性を有する「スーパー雑草化」したものが見られ始めたという。(*)
 スーパー雑草化したオモダカの特徴は短時間で驚異的な繁殖を行い、これに取り付かれた水田では米の収穫量が20〜30%も減少する。既存の除草剤も効かないために人手で除去することになるが、稲作農家の高齢化があり大きな問題となっている。(*)

 上記の通り変異の多い植物であるが、特に葉の幅に顕著に現れる。アギナシとの誤認の原因にもなっているが、著しく葉幅の狭いものをホソバオモダカ(Sagittaria trifolia f.longiloba)として扱う立場もある。これには形質が遺伝するという条件があるが、数年の観察で形質の安定が見られた群落を確認できたので別途独立させて解説することにする。

(*)2009年9月7日放映、NHK総合「クローズアップ現代 スーパー雑草大発生」による情報

(P)2002年6月 茨城県(上)
2009年9月 茨城県(下) 雄花 More weedオモダカ

2010年9月 茨城県 雌花 2010年9月 茨城県 果実
2014年7月 茨城県 同左
標準和名 クワイ 学名 Sagittaria trifolia L. var. edulis (Sieb.) Ohwi 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし(栽培品種)

 オモダカの園芸品種と言われる農作物。市場には青クワイ、白クワイなどが出回り、それぞれ国産やら韓国産やらがあって諸々種類(品種)が存在する。画像は水田の一角にまとめて植栽されたものである。
 球根の周囲に出来る小球根を収穫するための植物なので花が咲かない、咲きにくいという特徴がある。下に2014年9月に初めて見た開花画像を掲載、しかし見た目や構造はオモダカと同じ。育て方はバケツ稲ならぬバケツクワイなるものも出回っている程なので他の水生植物が育つ環境なら問題はないはず。

 食材としての利用は煮物が一般的であるが、地方によって揚げたり焼いたり、最大の産地である埼玉県ではクワイを使った菓子まであり、馬鈴薯のようなに様々な利用ができる。農薬のない場所のものならオモダカも似たような利用が可能だ。

(P)2002年7月 千葉県
2011年9月 群馬県 同左
2014年7月 茨城県 栽培 同左 手前のオモダカと対比
2014年9月 茨城県
珍しいクワイの花 雌花
同左 雄花
標準和名 タイリンオモダカ 学名 Sagittaria montevidensis 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 南米原産のオモダカの仲間だが、その名の通り大輪の花を咲かせるので園芸用や水辺公園植栽用として盛んに出回っている。明確な帰化実態は分からないが、日本の環境に定着しており逸出も考えられる状況だ。北米大陸やオーストラリアではすでに帰化が見られるという。また東南アジアのリゾートホテルでは水辺庭園に必ずと言ってよいほど植栽されている。亜熱帯温帯地域にも帰化実績があり、我が国でも取扱には十分な注意が求められるだろう。園芸サイドの情報では一応非耐寒性、世代交代は採種が推奨されている。ホテイアオイやオオサンショウモも扱いが同じであった経緯を考えれば危険性も同じはずだと思う。

 草体はオモダカと大差がないが、花は大きく日本のオモダカの2〜3倍、ご覧の通り色も綺麗だ。観賞価値もあり育成も容易であるが、花付は日照や肥料分に左右される面があるのは他の水生植物同様である。

(P)2010年7月 茨城県 公園植栽
2015年6月 茨城県 公園植栽 同左
2015年6月 茨城県 公園植栽 同左
標準和名 ナガバオモダカ 学名 Sagittaria graminea Michx 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:生態系被害防止外来種

 アクアリウム・プラントではジャイアント・サジタリアと呼称され、広く水槽用植物として販売されている。原産地は北アメリカの東部と言われている。水槽内、屋外とも繁殖力が強く、持て余して廃棄されたものが逸出源である可能性が強い。
 実生の実態は未確認ながら、冬に株と球根、両方を残すことで倍増する。毎年最低でも累乗で勢力を拡大するわけで、他種への圧迫は言うまでもない。水生植物の豊かな京都の深泥池でもナガバオモダカの繁茂が問題となっており、固有種に対する影響が懸念されている。

 個人的意見であるが、被害実態がある帰化植物は即座に特定外来生物として指定しても差し支えないと考えている。ナガバオモダカ、温帯スイレン、ハゴロモモ、他種を圧迫する帰化植物はその水域では1年で他種を圧倒してしまう。
 防除に予算や妥当性が付くのは「特定外来生物」であって要注意外来生物ではない。時間が勝負で、いざ指定された時にその植物しかない状況であれば防除が更なる環境悪化につながってしまうのである。

(P)2006年8月 栃木県 More invaderナガバオモダカ
2006年8月 栃木県 同左
2014年6月 茨城県 小河川に群生 同左
標準和名 ヒメオモダカ 学名 Sagittaria graminea ssp. graminea 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 学名を見る限り北米原産ナガバオモダカの亜種。日本にはビオトープ用植物として輸入販売され、一部公園などでも植栽が見られる。学名の標記はこの植物に付いていたタグ(園芸店購入)によるもので、シノニムなのか近似種なのか、ソースによってSagittaria eatoniという標記も見られる。
 草体の形状はヘラオモダカにも似るが小型、また花が単性花であることからオモダカ属の植物であることが分かる。生育初期(下左画像の右下に写っている株)はやや線形に近い葉を出し、ウリカワにそっくりだ。耐寒性があり根茎で越冬する他、水中で沈水葉を出して越冬する。アクアリウムプランツとして可能性があるかも知れない。尚、アクアリウムプランツのSagittaria subulata(サジタリア・スブラタ)とは別種の植物のようだ。

 どちらにしても遺伝的にウリカワやオモダカに近く、耐寒性もあることから逸出や交雑には十分な注意が必要。研究用として購入したが、自宅では屋外とは隔離した環境で育成している。

(P)2012年9月 茨城県(自宅育成)
2012年9月 茨城県(自宅育成) 同左
標準和名 ホソバオモダカ 学名 Sagittaria trifolia f.longiloba 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 植物の「種」としては基本的にはオモダカである。日本水草図鑑の記述もそうなっている。しかしWeb上ではf.、form、として品種扱いされることもしばしばあり、種内変異の「品種」として掲載させて頂くことにする。
 もう一点、アギナシはオモダカよりも葉が細い、という種内表現型の差異をないがしろにする解説も目立つので、葉が細ければアギナシというものでもない、ということを示す意味もある。(詳しい判別法はアギナシの項を参照)
 葉の細いオモダカは福島県や茨城県でよく見られるが、一説にこの f.longilobaを付与するものは連続性があることを条件にする、とのことである。連続性が形態を示すものであれば画像の株は初見のものなので「不明」だろう。しかし近所には毎年同じ形態を示す群落があるので、代表的な形態の例として掲載をさせて頂く。

 逆の(つまり葉が太い場合)誤認例としてオモダカ→クワイがあるが、クワイは基本的に栽培種であり水田で稲の間に育つことは無い。また根茎の大きさなどで区別が可能である。

(P)2009年8月 福島県 耕作田
2011年10月 茨城県 耕作田 同左
サジオモダカ属 Alisma
標準和名 サジオモダカ 学名 Alisma plantagoaquatica L.var.orientale Samuels. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 鏃型のオモダカ、ヘラ状のヘラオモダカと並ぶオモダカの代表的な種である。本種は匙(スプーン)型の葉を持つ。茨城県南部での分布密度はオモダカ>ヘラオモダカ>サジオモダカで、耕作田や用水路などよりも自然湿地に自生が多い印象である。都道府県レベルのRDBではリストアップされることも多く、やや希少な部類に入る植物である。
 花は白〜ピンク色で、比率としてはピンクが多い。葯は緑〜黄色。花色は紛らわしい葉形のサジオモダカ変異種との明瞭な違いになると思う。花は午後開花する一日花である。

 オモダカ科の根茎は食用や薬用になる例が多いが、本種も漢方や民間医療で根茎を生薬にしたものを用いるそうである。生薬名は沢瀉(たくしゃ)。こうした生薬原料として人為的に栽培されることが多い。本来サジオモダカは北方系品種で、関東地方以北に多く西日本には稀とされている(*注)。しかし西日本に存在する自生は、こうして人為的に栽培されたものが逸出したものである、という指摘もあり本来の分布がやや分かりづらい状況となっている。

(*注)日本水草図鑑 角野康郎 文一総合出版P16より引用
・おもに北日本の湖沼、ため池、河川や水路などの浅水域に生育する多年草。
・西日本にも稀に見られるが、薬用植物として栽培されているものが逸出したものである。

(P)2012年8月 茨城県(自宅育成) 茨城県産
2011年9月 茨城県(自宅育成) 同左
2014年5月 茨城県 同左
2014年8月 茨城県 果実 同左 種子
標準和名 シモツケヘラオモダカ 学名 Alisma sp. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし(参考種)

 栃木県環境基礎調査「とちぎの植物T」(2003)に登場する植物。同資料によれば葯が黒褐色、花序の第一節の分岐が3、を特徴とするヘラオモダカである。(画像は掲載されていない)
 この特徴に合致するヘラオモダカは実は自宅で栽培中、画像のものだが産地は千葉県であり、尚且、自分ではトウゴクヘラオモダカの可能性が強いと考えている。葯の「黒褐色」はホソバヘラオモダカもトウゴクヘラオモダカも時期により黒褐色〜茶褐色に変異するので確定的ではない。また花序の第一節の分岐はトウゴクヘラオモダカでも3分岐するものもあり、これも確定的ではない。

 以上により本種はトウゴクヘラオモダカの誤認の可能性もあると考えられるが、トウゴクヘラオモダカも形質が確定的ではないと思われる部分もあるので(詳細は本Webサイト「トウゴクヘラオモダカ」及び「トウゴクヘラオモダカ2」を参照)参考種として掲載した。

(P)2012年8月 茨城県(自宅育成) 千葉県産
2012年8月 茨城県(自宅育成) 同左
標準和名 トウゴクヘラオモダカ 学名 Alisma rariflorum Samuelsson 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 ヘラオモダカと微小な相違がある種。微小な相違とは葯の色(ヘラオモダカは黄色、トウゴクヘラオモダカは褐色、最下段画像参照)と花茎の第一分岐(同、3本以上と2本、ただし画像注釈を参照)である。葉形は同様だが草体がヘラオモダカに比してかなり小型であるという特徴を持つ。オモダカ属の単性花と異なり直径約1cmの白色3弁の両性花を咲かせる。雄蕊は6。

 自生地は一般に水源近い(湧水)湿地や棚田とされるが、筆者の調査では平野部の水田でも見つかっている。本種の特徴、自生地の概要などに付いては本Webサイト内の別記事で詳述しているのでご参照頂きたい。

(P)2011年7月 千葉県 休耕田  More Featureトウゴクヘラオモダカ Featureトウゴクヘラオモダカ2
2011年7月 千葉県 同左
2009年9月 千葉県
ヘラオモダカの葯は黄色
2011年7月 千葉県
トウゴクヘラオモダカの葯は褐色
2013年6月 茨城県(自宅育成)
草体は概して小型。この株は草丈約10cmで花芽を上げた。(成熟した)
同左 花芽第一分岐は2。しかし時間の経過とともに弱い分岐を行う傾向がある。向かって左の分岐根元に芽が2つ見える。

2013年8月 果実

同左 種子
2013年6月 茨城県 黒い葯が目立つ 同左 葯拡大、黄色い花粉を付けている。
標準和名 ヘラオモダカ 学名 Alisma canaliculatum A.Br. et Bouche 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 アクアリウム・プランツのエキノドルスがオモダカ科であることが納得できる種。アマゾンソードやウルグアイエンシスに似た草姿の水田雑草。オモダカに比べるとやや分布が狭い。和名の由来は花がオモダカに似て葉がヘラ状であることによる。
 北方型なのか北陸や関東以北、東北・北海道で水田の強害草となっているらしい。ただこれは分布の濃淡であって自生自体は全国にある。花は断面が三角形中空の花茎から複輪生総状花序をつけ、白色の一日花をつける。

 水田雑草としては最も巨大な部類であり農家にとってはいい迷惑の雑草であるが、水田に立つ姿は王者然とした品がある。近所では用水路に多く、ミクリと競い合うように開花する姿をよく見かける。根茎は解熱、解毒作用を持つと言われている。

(P)2002年7月 茨城県 休耕田
2009年9月 千葉県 休耕田 2005年5月 茨城県 小河川
標準和名 ホソバヘラオモダカ 学名 Alisma canaliculatum A. Br. et Bouch. var. harimense Makino 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧TA類(CR)

 別名シジミヘラオモダカ、兵庫県播磨地方(兵庫県南部)のみに分布する、と言われるが、後述するように再検討が必要かも知れない。葉はヘラオモダカに比べて著しく細長く、葉身と葉柄の境目が不明瞭。葯はトウゴクヘラオモダカ同様に褐色である。
 葉の特徴以外、花の構造や生育形態はヘラオモダカと同一、ただし両種が混生する地域では花期はホソバヘラオモダカの方が早いらしい。外見以外にも種としての懸隔があるようだ。

 分布に付いて再検討が必要と思われるのは、内山りゅう「田んぼの生き物図鑑」に掲載されたヘラオモダカの写真が本種の特徴を持っており撮影地が他県ととなっていることなどに拠る。また、葉が同一形状(但し葯は黄色)の株、やや細い葉を持つ葯が褐色の株などが自分の調査で見つかっており、種としてどこまで許容するか、という問題もあると思われる。

(P)2011年10月 茨城県(自宅育成)
2011年10月 茨城県(自宅育成) 葉は名の通り細長い 同左 花茎
2013年8月 茨城県(自宅育成) 葯は褐色 同左 花弁の欠刻はやや大きい
シャゼンオモダカ属 Echinodorus
標準和名 ヒロハシャゼンオモダカ 学名 Echinodorus grandiflorus subsp. aureus 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 アクアリウムプランツとして用いられるシャゼンオモダカ属(Echinodorus)の多年草。日本でも屋外で開花するため、園芸植物としても流通している。野外湿地では見かけないが、水辺公園などで盛んに植栽されており、越冬するので帰化の懸念もある。扱いはナガバオモダカ同様に慎重なものが求められるだろう。原産地は北アメリカ南部〜中米〜南アメリカ北部。ちなみに岡山大学資源植物研究所野生植物グループの「日本の帰化植物一覧表」にはリストアップされている。
 和名の漢字表記の「車前」は、葉がオオバコ(車前草)の葉に似た形状であることに由来する。サジオモダカにも似るがより葉幅がある。またオモダカ属と異なり長い花穂を伸ばして花穂上に直線的に開花する。花の径は約4cm、白い3弁花。花期は関東地方で6〜7月である。

 アクアリウムでは「エキノドルス・グランディフロルス・アウレウス」と学名の読みで流通している。種小名、grandiflorus(グランディフロルス)は、grandi(大きな)+florus(花)という意味、その名の通り観賞価値のある植物だ。

(P)2008年9月 茨城県 公園植栽
2008年9月 茨城県 公園植栽 同左
2015年6月 茨城県 公園植栽 同左
マルバオモダカ属 Caldesia
標準和名 マルバオモダカ 学名 Caldesia parnassifolia (Bassi. ex L.) Parlat 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 本種の属名はオモダカ属とマルバオモダカ属、二つの見解があるが、形状や生態がオモダカ属各種と懸隔しており、当サイトではマルバオモダカ属とする。本種は浮葉、抽水葉両方を形成する。花はオモダカ同様の白花である。
 二つの見解があるのは生活型もそうであり、しばしば「一年草または多年草」と表現される。これには自生地の種類(水田なのか池なのか)による、とも言われるが詳細は不明。自宅育成株は有性生殖、種子に拠らなくても越年可能な多年草である。殖芽、無性生殖によって世代交代を行うので根茎やムカゴにより越冬するアギナシ等と同列である、という理解である。
 このためか、日照条件が悪かったりすると開花せず、花芽に殖芽(下画像)を多数付ける。開花・結実に拠らなくても世代交代を行うわけでリスクヘッジが図られているのだ。

 オモダカやヘラオモダカと異なるのは残存で、関東地方では極めて少なく、限られた場所でしか見られない。一方関西以西や東北地方ではわりと残っているようで多くのナチュラリストのフィールドレポートにも登場する。秋田県のジュンサイ農家の池ではジュンサイに紛れる強害草となっており駆除に追われているようだ。

 近似種にはウキマルバオモダカ、ヒメマルバオモダカという種もあるそうだが実物どころか情報も少なく正体は把握していない。もちろん流通するような植物ではない。

(P)2008年6月 茨城県(自宅育成) 浮葉(上)
2009年5月 茨城県(自宅育成) 殖芽からの発芽(下) More featureマルバオモダカ

2010年9月 茨城県(自宅育成) 抽水葉 同左
2010年10月 茨城県(自宅育成)
殖芽を形成しつつある花茎
同左
2011年9月 茨城県(自宅育成) 花 同左
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