日本の水生植物 水生植物図譜
スイレン科 Nymphaeaeceae
(APGW:スイレン科 Nymphaeaeceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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オニバス属 コウホネ属 スイレン属
オニバス属 Euryale
標準和名 オニバス 学名 Euryale ferox Salisb. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 各地で減少が甚だしい大型の浮葉植物。稀にため池などで見かけるが、系統維持のために保護されている場合が多く、採集にあたっては注意・確認が必要。巨大な草姿から受けるイメージと異なり意外なことに一年草である。南方系の種であり北限を持つ(新潟県)。
 草体は棘に覆われ、時には直径2m近い浮葉を付ける。種子生産性は高いが、冬季に干上がり種子が空気に触れることで発芽率が上がるなど特殊な生活史を持つため、もともと分布には濃淡がある。

 本種を霞ヶ浦沿岸部で保存されていた農家では、アメリカザリガニの侵入によって新芽が次々と切断され絶えてしまった、との事で系統保存にも思わぬ大敵がいるようだ。埼玉県の自生地ではザリガニ対策なのか、池に巨大なライギョを泳がせている。

(P)2006年10月 茨城県

2011年6月 埼玉県
イメージと大きく異なる発生初期の浮葉。大きさはアサザ程度

同左
発生初期の浮葉は形も細長く、イメージが異なる

2011年9月 群馬県 花

2011年9月 埼玉県 棘に覆われた果実

2015年8月 東京都(水元公園)

2015年8月 東京都(水元公園)
コウホネ属 Nuphar
標準和名 オグラコウホネ 学名 Nuphar oguraense Miki 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 近畿以西に自生するコウホネ。かつて水生植物の宝庫と言われたが、豊臣秀吉の土木工事以来連綿と痛めつけられ、1941年の干拓で遂に消滅した巨椋池にちなむ和名である。干拓以前の時代、当時は数少ない水草研究家であった三木茂博士が巨椋池で採集、分類を行った名残が和名となっており、他にもオグラノフサモ(アリノトウグサ科)などの例がある。これらは和名に「オグラ」、学名に「Miki」が付与された組み合わせである。もちろん両者とも巨椋池の固有種ではない。

 本種は他のコウホネ属と異なり抽水葉を形成しない点が重要な同定ポイントであり、開花後の花色によって近似種のベニオグラコウホネとの区分も容易である。花期以外、浮葉以外の形態的な同定ポイントは浮葉故の水位の変動に対応したと思われる細長い中空の葉柄と、その三角形の断面だ。関東近辺では自生は無く、画像の自宅育成株は園芸店からの購入株。

(P)2007年7月 茨城県(自宅育成)
標準和名 オゼコウホネ 学名 Nuphar pumilum (Timm) DC.var.ozeense (Miki) Hara 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 ネムロコウホネの亜種で北方型のコウホネ。沈水葉と浮葉を持ち、柱頭盤は赤い。北海道・東北地方に分布するが、南東北や北関東にも自生する。しかし後者の場合平地には分布せず、和名由来となった尾瀬ヶ原のように標高が高い(尾瀬は海抜1400m以上)山岳部の地塘に自生する。
 画像は関東地方平野部、つくば市の植物園でのものだが、生育には特に問題がないようで、多くの開花が見られた。また、時折園芸ルートでも流通することから育成には寒地の条件は必要ないように思われる。

 代表的産地である尾瀬では多くの観察者が指摘するように本種が減少している。以前は地塘の深さによってミツガシワやヒツジグサと棲み分けていたようだが、土砂の流入によって水深が全般的に浅くなって来ているようだ。代表的な湿地である尾瀬も遷移は確実に進行している、ということだろう。

(P)2010年7月 茨城県(筑波実験植物園)

2013年8月 茨城県(筑波実験植物園)

同左
標準和名 コウホネ 学名 Nuphar japonicum DC. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 河川湖沼に一般的なニムファ。薄い柔らかな沈水葉とやや固め、肉厚の抽水葉を形成する。冬季には抽水葉が枯れ沈水葉のみが残る。一説には沈水葉は光合成を行わず根茎の栄養分によって成長するため、汚染が進み導電率の高い水域でも残存率が高いという。
 根茎から花茎が伸長し、水面上で黄色い花を開花させる。大きく見応えのある花なので活花にも用いられる。花の外側に広がるのは萼片であり、花は内部に咲いている。花期は8〜9月。

 霞ヶ浦・利根川水系でも各所で見られる植物だが、アサザとともに植栽が進められている植物であり、元々の自生かどうか判断が付かない。園芸店でも入手できるので出自が明らかでない群落があちこちにあるのが現状。下画像は茨城県龍ヶ崎市の住宅街を流れる河川に一角だけ群落があったもの。

(P)2003年5月 千葉県

2011年8月 茨城県 河川

同左

2013年8月 茨城県 和名由来の地下茎

同左

2015年6月 千葉県
標準和名 サイジョウコウホネ 学名 Nuphar japonicum DC.var. saijoense Shimoda. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 抽水葉はコウホネに類似するが、花がベニオグラコウホネに類似し、柱頭盤が赤い。また葯と花糸の長さ比が両者の中間であることから両者の種間雑種と考えられている。

 学名通り変種とされているが、基準産地は東広島市の西条盆地で和名由来ともなっている。また現状当地が唯一の自生地でもある。わりと希少性が高いと思われるが、園芸の通販などでよく出まわっている。画像の株はそうしたルートで購入された方から増殖した株を頂いたもの。自宅でも株が充実し良好な生育を見せている。

(P)2017年8月 自宅育成

2017年8月 抽水葉 自宅育成

2018年5月 同左

2018年5月 自宅育成
標準和名 シモツケコウホネ 学名 Nuphar. Submersa Shiga & Kadono 生活型 多年草 自生環境 河川
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧TA類(CR)

 2006年に新種記載された栃木県固有のコウホネ。発見、新種記載を行ったのは志賀隆・石井潤・井鷺裕司・角野康郎各氏で、学名には志賀隆氏(大阪市立自然史博物館)と角野康郎氏(神戸大学)の名前が献名されている。
 植物体としての特徴は他種コウホネのように浮葉や抽水葉を持たず、沈水葉のみで生活する点だ。沈水葉の形状も独特で、細長く基部の切れ込みがほとんど入らない直線状となり、葉柄は三角柱状となっている。

 画像は発見地であり基準産地である日光市小代地区のものだが、自生する小河川は湧水由来なのか水温が低く、冷水性のバイカモなども自生している。栃木県内では後にもう1か所、那須烏山市で発見されている。またコウホネとの種間雑種、ナガレコウホネが佐野市や栃木市で発見されており、未発見の産地が残存する可能性もある。
 自生地を見れば非常に僅かな範囲で生き残っている植物であり、採集はもちろん水質などの要因でも容易に絶滅してしまう危うさがある。身勝手な採集や他種水草やゴミの放棄などしないように見守りたい植物だ。

(P)2011年8月 栃木県

2011年8月 栃木県 花

同左 沈水葉のみ形成

2011年8月 栃木県 動画(水上)

同左 動画(水中)

2018年6月 栃木県日光市 花

2018年6月 栃木県日光市 沈水葉
標準和名 ナガバコウホネ 学名 Nuphar japonica var.stenophylla Miki 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 種としてコウホネ(狭義)から独立させて扱うかどうか議論の別れる種。独立させる根拠としては浮葉を出さない点が挙げられるが、コウホネ(狭義)も場所により浮葉を出さない群落が見られるし、そもそも「ナガバコウホネ」とされる千葉県香取市の自生地でも浮葉や抽水葉を展開した群落が普通に見られる。
 元は三木博士が1937年に「沈水葉が特に細長いもの(長さ/幅=3-4)をナガバコウホネ(Nuphar japonicum var. stenophyllum Miki)と呼びました.」(「」内、コウホネ愛より引用)とあり、沈水葉の長さによって区別していたようだ。

 千葉県内唯一の自生地とされる香取市佐原の小野川(本項写真撮影場所)では沈水葉のみの群落、普通に浮葉や抽水葉を展開した群落が見られたが、柱頭盤の色が褐色系の花が混じっており、何らかの交雑の可能性もあると思われる。

(P)2018年6月 千葉県

2018年6月 千葉県

同左

2018年6月 千葉県香取市
標準和名 ナガバベニコウホネ 学名 Nuphar subintegerrimum f.rubotinctum 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 学名はヒメコウホネの品種を示しているが実態は不明である。草体の差異が微小なベニコウホネとコウホネとは異なり、本種とヒメコウホネはあまりにも葉形が異なりformaの範疇なのかどうなのか、という点も疑問。国際植物命名規約上、formaは自然状態に於いて「形態」は明確に区別できるが、同地域の同種個体群とは生殖的に隔離されていない個体群であるので、未見ながらヒメコウホネとの交配、再交配のような中間型も存在するのだろう。
 園芸ルートでよく流通している事実とコウホネの分類情報など学術的な情報でほぼ名前が見えない事実から改良品種である可能性もある。ただし上記したように学名表記にcv.が用いられる例は確認できず、あくまでformaである。従ってここでは自生種扱いをさせて頂く。

 ヒメコウホネの性質を持っている、と感じる点は水槽水中生活に馴染む点で、水槽での長期維持が困難な他種コウホネに比しヒメコウホネとともにレイアウトに利用可能である。コウホネ属他種同様に多肥、有機質を好む。

(P)2008年6月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ナガレコウホネ 学名 Nuphar×fluminalis Shiga & Kadono 生活型 多年草 自生環境 河川
環境省レッドリスト2017:記載なし

 シモツケコウホネとコウホネの種間交雑種と言われる。栃木県のみに稀産する。交雑種は絶滅危惧種に記載されない場合が多いが、本種は絶滅危惧TA類(CR)、絶滅(EX)を除けば最も危急度の高いランクに記載されている。(レッドリスト2012では除外されているようだ)
 シミツケコウホネと同じ環境、水流がありやや水温が低い環境、小河川に自生し、通常は抽水葉を上げず、その名の通り沈水葉を水流にたなびかせる。自生地ではわりと大きな群落を形成している。(佐野市の自生地では抽水葉を上げるという情報、画像提供を頂いた 下2枚の画像参照)

 交雑種とされるが現在シモツケコウホネと同じ環境では確認されておらず、栃木市、佐野市などに隔離分布している。シモツケコウホネとの差異は抽水葉を稀に出す点、沈水葉の基部がほぼ水平なシモツケコウホネに対し先端に向かって切れ込む点、葉柄が三角柱状のシモツケコウホネに対し円柱状、根茎がシモツケコウホネに比べて細く半分程度の太さである点などがある。

(P)2011年9月 栃木県

2011年9月 栃木県

同左

2012年9月 栃木県(吉永イキ子様撮影)

同左(吉永イキ子様撮影)

2018年5月 栃木県佐野市

2018年5月 栃木県佐野市

2018年5月 栃木県佐野市 開花した群落

2018年5月 栃木県佐野市 沈水葉
標準和名 ヒメコウホネ 学名 Nuphar subintegerrimum (Casp.) Makino. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 浮葉はコウホネよりかなり小型で「姫」の名に相応しい草姿である。コウホネ同様に黄色い美しい花を付けるので園芸植物として出回ることも多い。分布は中部以西の西日本で当水域には存在しない。本種は、葉が小型で丸い東海型、葉が大型で卵形の西日本型に分けられ、狭義のヒメコウホネは東海型を指している。西日本型はサイコクヒメコウホネとして独立させる立場もある。画像の株はサイコクヒメコウホネである。

 ヒメコウホネはコウホネよりも深い水中で生育し浮葉を出すので浅水域で抽水生活をするコウホネより進化していると考えられている。ただコウホネも環境によっては沈水葉のみで生育するので環境適応が進化の姿とすると何とも言えないと思う。

(P)2006年6月 茨城県(自宅育成)

2015年8月 茨城県

同左

2015年8月 東京都(水元公園)
標準和名 ベニオグラコウホネ 学名 Nuphar oguraense Miki var. akiense Shimoda 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 オグラコウホネの変種とされるコウホネ。資料によれば広島県・賀茂台地のみに分布すると言われている。広島県のみに分布するコウホネとしては他にサイジョウコウホネがある。本種は限定的な地域のみに存在する希少種であると思われるが変種扱い故か交雑種の可能性故か環境省RDBには記載されていない。和名の通りオグラコウホネ同様、最初に巨椋池で発見記載されているが同地ではすでに見ることができない。

 植物体の特徴としては、オグラコウホネ同様に沈水葉と浮葉のみ展開し抽水葉を出すことはなく、花は柱頭盤が赤くなる。

(P)2007年6月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ベニコウホネ 学名 Nuphar japonicum DC. f. rubrotinctum (Casp.) Kitam. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 正体がよく分からない。学名はコウホネの品種を示しているが幾多のコウホネ群生地でも同種を見た記憶がなく、改良品種との説もある。橙赤色の花色以外はコウホネそのものである。沈水葉と抽水葉を展開し、花期やその他生態もコウホネ同様である。

 似たような名前のナガバベニコウホネ(Nuphar subintegerrimum f.rubotinctum)はヒメコウホネの変種とされており、話がややこしい。どちらも学名はforma f.であり、現在の見解では「個体群のうちの個体に現れる些細な変異」を持つ「品種」であるとされている

(P)2008年4月 茨城県(自宅育成)

2011年5月 茨城県(自宅育成)
その名の通り花は他種の黄色に比べてかなり赤みが強い

同左
開花当初は黄色、時間とともに赤味が強くなる
スイレン属 Nymphaea
標準和名 スイレン 学名 Nymphaea cv. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし(園芸品種)

 スイレン科の科名植物のような和名であるが、あくまで一般呼称かつ総称である。温帯性のものは母種がヒツジグサであると言われているが、面影が無いまでにカラフルに改良された品種が出回っており、ブームとともに河川湖沼への投棄定着も多い。過失ならともかく自治体やNPOが積極的に植栽している例も多く、自生種への圧迫も甚だしい。

 県内小美玉市の池花池は以前ヒツジグサやヒルムシロが繁茂する自然度の高い池であったが、園芸種スイレンが植栽されたため、これらの自生種は現在見ることができない。同様の例は各地に多く、多様性に対する深刻な脅威だ。

(P)2005年5月 茨城県 More invader園芸スイレン

2015年5月 東京都

同左

2015年7月 茨城県
標準和名 ヒツジグサ 学名 Nymphaea tetragona Georgi 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 園芸植物としても販売流通する本種であるが、その多くは交雑種らしく花色、浮葉の違いなど様々な相違がある。自生地のものも温帯スイレンとの交雑により完全に本種と同定できるかどうか微妙である。ただし花や葉は日本水草図鑑によっても地理的クライン(勾配)による相違が示唆されており外形的特徴によっては断定できない。こうした自生株の紛れは間違いなくスイレンの安易な栽培に責任を帰すことができるだろう。
 貧栄養の湖沼に自生する国産のスイレンであり、和名の由来は未の刻(午後2時前後)に開花することによる。夕方になれば花は閉じてしまう。貧栄養の環境を好むためか、北関東では自生地は少なく、非常に希少な植物となっている。

 コウホネと異なり、株が充実して分割という無性生殖をすることはない。すべて種子による繁殖である。(多年草なので親株は毎年発芽する)下の画像が実生株だが、種子(黒い粒)が見える。種子生産性、発芽率ともに高く、開花翌年には育成環境一面に子株が見られる。
 開花終了後、花柄が螺旋状に水中に沈み、果実を形成する。果実内部に種子が多数形成され、不思議な事に水に浮かぶのである。これは水流によって分布を広げたり水鳥に付着して遠方に運ばれやすくするため、と言われている。
 発芽後は明確なロゼットの沈水葉を形成し、しばらくすると株の中心から浮葉を次々と出してくる。浮葉はアサザ等に比べると寿命が長い。尚、ヒツジグサの「純潔」の見分け方として、この浮葉に模様があるかどうか、という点があげられる。ヒツジグサの浮葉にはいかなる模様も入らない。裏面は紅紫色である。確実ではないが、同定法の一つではある。

 自生環境には湿地中の池や小さな沼などが多く、大型の湖沼には少ない。この理由は発芽後の沈水葉が草食性の強い魚に食われやすいから、という説がある。大型の鯉や草魚が生息できない程度の面積の湖沼では生き残っている、というわけだ。アメリカザリガニのいる環境では論外。たしかにロゼットの沈水葉は薄い。

(P)2007年7月 茨城県(自宅育成) 花(上)
2009年6月 茨城県(自宅育成) 実生株(下)


2013年8月 茨城県(自宅育成)
浮葉表面。葉脈以外の模様はない

同左
浮葉裏面。紅紫色
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