日本の水生植物 探査記録

Vol.192 超鈍足漂流2020



Location 千葉県我孫子市
Date 2020.06.20(SAT)
Photograph RICOH CX4

Weather Fine

Temperature 27℃

(C)2020 半夏堂


■手賀沼 梅雨の晴間


(P)梅雨の晴間の手賀沼。いつもと変わらぬ風景だが・・・
RICOH CX4

超鈍足漂流2020

■2009

 2009年の暮頃、高等遊民、つまり大金はあるし働かなくても給料が入ってくるという夢のような期間に(いつまでも続けば良かったが)やることがなくて、あえて時間をかけた手賀沼散歩を行い「探査記録Vol.77 超鈍足漂流」という記事をアップした。
 タイトルはわりと好きなミステリーのネルソン・デミル&トマス・ブロックの「超音速漂流注1)」という小説からパロったものだ。超鈍足、つまり時間に制約を受けず自分が納得するまで、または飽きるまで湿地を散歩するというのは何物にも代え難い贅沢で、今また定年延長やら下手すれば人手不足、熟練労働力不足から「いつまでも居てください」的な老人虐待がディファクトスタンダードになりつつある昨今、黄金の時期はまた見えなくなりつつある。
 新型コロナウイルスが一段落した2020年6月、けっして一段落してねぇよな、と思いつつも県間の移動注2)がおおっぴらに出来るようになり、他県で遊べるようになったので手賀沼の変化を見に行った。(他県といっても車で僅か10分の距離なわけだが)


(P)人の世のドタバタには関係ない白鳥が出迎えてくれた RICOH CX4


■先制パンチ

 手賀沼といえば拠点になるのは「水の館」という施設。無料駐車場から自販機、トイレから手賀沼に関する展示まで揃っており、至れり尽くせりの有難い施設だが、久々に行ってみると大きく様子が変わっていた。何だか駐車場に車が多いな、と思ったら1Fにレストランと野菜の販売所が出来ており、手賀沼の環境悪化と闘うシンボルはありがちな道の駅になっていた。展示室も移動しており、さすがにガシャモクの展示はあったがテガヌマフラスコモ注3)は影も形もなく、超大型水槽で悠然と泳いでいた魚類や存在感のあった巨大カラスガイも見られなかった。みんな手賀沼に帰ったのだろうか?
 上階にあった水草展示の水槽も撤去されており、正直私が見たい内容は何も無くなってしまっていた。元々入場無料の施設だが我孫子市が費用対効果に目覚めてしまったのだろうか。それこそ他県他市のことなので文句を言う筋合いはないし、地元にはこういう施設も存在しないのでまだ存在価値はあると思うが、少し寂しかった。これでは「半」水の館で、残り半分は本当に道の駅だ。あっ、プラネタリウムもあったな。しかしここに居ても涼しいだけなので手賀沼遊歩道方面へ移動。

■ガシャモク

 その前に、手賀沼を代表する水草である(あくまで過去の栄光だが)このガシャモク、旧来のエントランスの睡蓮鉢、展示室水槽、上階の水草展示水槽にあったガシャモクは新展示室1ヶ所でのみ見られた。屋外のバックヤードの育成環境も撤去されており、おしゃれなカフェレストランになっていた。
 しかしこの水槽、二酸化炭素の添加はないしフィルターは投げ込み式、水草育成には向かない環境のようだが育つことは育っているようだ。なぜか草体が赤い株も混じっており、要するに葉緑素を欠いているわけだが、枯れているわけではない。エビモがよく野外で同じような色で育っているが、エビモは透明度の全くない環境で水底から水面近くまで成長しなければならず、ヒルムシロのアルコール発酵の如き無酸素、光合成なしの成長手段を持っていると推測される。しかし二酸化炭素はともかく明るさは担保されているわけで、かつ一部の草体だけが葉緑素を欠く、というのは不思議な現象でネガティブな表現型だと思う。水槽生活を離れて久しいが、こういう設備で育成されている水草を見ると「もっとこうすれば・・」という思いが自然にわいてきてしまう。まっそれこそ余計なお世話だ。


(P)水の館に展示されたガシャモク RICOH CX4


手賀沼の変化


(P)沿岸の広域に定着しているナガエツルノゲイトウ(中央のグリーンの帯)
RICOH CX4


■特定外来生物

 今回手賀沼を歩いてみて最も変化を感じたのはナガエツルノゲイトウの版図の拡がりである。暫くぶりということもあったが、これまで北岸の遊歩道際では見た事がなかったので、この急速な拡大には驚いた。およそ岸部という岸辺には定着しており、場所によっては浮島状となっている。ここまで来てしまうと最早何の対策も有効ではないだろう。

 この手賀沼が置かれた状況で最も問題なのは、浅瀬の光が届く良さげな場所がナガエツルノゲイトウに占拠されてしまった、ということで今後ガシャモク他沈水植物を復活させようとした時に最大の障害になるはずだ。この植物を防除するためにはカケラ一つ残さずに除去しなければならず、それは実質的に不可能であるからだ。それこそ農業用の肥料にでも使い道があればともかく(それも外来生物法によって困難注4)になってしまったが)今はそんな時代でもないだろう。この植物が好きで好きでたまらん、という魚類か鳥類でもいれば良いがそんな都合の良い生物は聞いたこともない。何とかしなければならないが何ともならない、というジレンマが目の前にあった。


(P)近づいてみるとほとんど開花している RICOH CX4


■水生植物域拡大のパラドックス

 この植物の被害を最も被っているのはこの「高野山新田地区植生帯」だろう。この植生帯は手賀沼の沖合10〜20mの場所に湿地帯を作り多様な湿地植物を呼び戻そうという試みである。看板の下部分に「功績」として確認された湿地植物が紹介されており、トネテンツキ、ジョウロウスゲ、カンエンガヤツリ、コイヌガラシ、ウスゲチョウジタデなど絶滅危惧種の名が記されている。
 沖合にあるこの植生帯には実質立ち入ることができないので何とも言えないが、少なくても岸から見る限り岸辺の良い場所はナガエツルノゲイトウ、奥にアシやマコモといった構成になっている。結果論だが植生帯の設置はナガエツルノゲイトウの侵攻を後押しした形となっているようだ。もっともこの植生帯が建設された当時はこの付近までナガエツルノゲイトウは到達していない。
 なぜそれが言えるのかというと、ちょうど建設が行われている頃、この近辺に何度か通っていて「これ(植生帯)は何ですか?」と森島先生注5)に質問させて頂いたことが記憶に残っているからだ。お門違いの質問にも快くお答え頂いたのでより鮮明に記憶している。


(P)植生帯を説明した看板 RICOH CX4


■植生変化

 今回は気のせいか時期のせいか、原因がよく分からないので無理やりナガエツルノゲイトウと結びつけるわけにはいかないが、遊歩道沿いの湿地植生が微妙に変化していることが感じられた。特に珍しいものではないが、遊歩道沿いにはハンゲショウ、ホソバノヨツバムグラ、ジョウロウスゲをはじめとするスゲ帯があったが今回は確認できなかった。目を皿にして見たわけでもない、と思ったが考えてみれば毎回そうなので何らかの変化要因があった可能性が高い。それが懸念するようにナガエツルノゲイトウによって生態的地位を奪われたのであれば恐ろしい。絶滅危惧種はもちろんだが、こうした普通の水辺植物まで追われてしまうことになれば大変な事態だ。「水生植物域の拡大」、それはそうなっているが主役はナガエツルノゲイトウではないはずだ。
 いくら行政が何も知らないとは言えそこまで酷くないだろう、と思ったが水の館の展示パネルに「現在よく見られる水生植物、アシとナガエツルノゲイトウ」と書いてあるのを見ると100%そうは言えないのではないか、と思うようになった。この文章は日本語として間違いではない。たしかによく見られるので事実にも即している。しかしそれで良いのか?これもよその県、市のことなので余計なお世話か。

その看板の足元までナガエツルノゲイトウが
RICOH CX4
植生帯の岸はほぼ占拠さている
RICOH CX4

パンドラの匣


(P)データ上は水質は改善している
RICOH CX4


■COD一本かぶり

 手賀沼の性格を現す指標として「連続日本一記録」があり、それはCODワースト湖沼という有り難くない記録である。千葉県や我孫子市は余程これがトラウマになっているのか近年多少改善され、日本一を返上したCOD値をやたらアピールする。水の館にも丁寧な説明と年度グラフ付きの説明パネルがあった。しかし良く考えて欲しいのは我々のような手賀沼への訪問者がどう感じるか、という点でそれは言葉でも説明パネルでもない。手賀沼にガシャモクをはじめとする水草があって二枚貝が生息している姿が理想のはず。この点は通い始めて20年以上、何も変わっていない。むしろ前項のように退行、劣化している部分の方が多い。
 CODはたしかに重要な指標かも知れないが、所詮は化学的酸素要求量注6)というデータに過ぎない。言い方を変えれば多面的に評価しなければならない自然のたった一つのパラメータである。たしかに長年「最も汚い」と言われ続ける精神的なダメージは理解できなくもないが、手賀沼の水を薄めるために他に目に見える効果がない注7)トンネルを3500億もかけて掘る価値があるのだろうか?北千葉導水路ビジターセンターという不要不急の施設にもガシャモクの展示があったような記憶があるが、稼働したことでガシャモクが定着できるようになったのか?もちろん出来ていない。

 ガシャモクをはじめ沈水植物が定着できない理由はCODのみではなく湖底に堆積したリンや食害するアメリカザリガニなど複数の要因があって、CODだけ改善すれば自然が回復するわけではない。どうもこのあたりは真面目に考えている雰囲気が伝わって来ず、日本最悪の汚名を返上できればそれで良し、的な安易な発想が透けて見えるようだ。
 汚れた水を、少しだけ汚れた水で薄める、実験するまでもなく結論は「多少汚れた水になる」。その程度を実績としてさらに霞ヶ浦導水路注8)に多額の税金を突っ込むのだから開いた口が塞がらない。それはともかく、行政がそれ以上考えていないと思われるのは北千葉導水路の開通によって霞ヶ浦名物のカワヒバリ貝注9)が入り込むようになった事実の公表も対策も何も見えてこないことでも分かる。そのうちどこかのパイプが詰まって大破裂でもすればニュースになって叩かれるのかな?
 プラス面を拡大解釈してアピール、マイナス面は知らぬふり、何か事が起きるまで対策しようとしない、過去何度も繰り返された図式が透けて見えるのが情けないというか腹立たしいというか。事は千葉県や我孫子市で起きていても投入された費用は国税、私にも少しぐらいは物申す権利はあるだろう。

■匣に残ったのは希望か絶望か

 凶悪な外来種ナガエツルノゲイトウの大繁茂や半ば無駄に終わりつつある植生帯、北千葉導水路などパンドラの匣の蓋が開けっ放しの手賀沼だが、セオリー通り匣の底に「希望」は残っていないのだろうか。現時点では目に見えるものは少ないが、今回意外なものを発見した。ナガエツルノゲイトウが作る浮島状の部分に黄色い花が多数見えた。ナガエツルノゲイトウの花は白、また遠目にも形状が異なるので別種植物である。
 浮島なので沼に入らなければ接近できないが、この日はコンデジ1台スニーカー履きの「超鈍足スタイル」であり接近は適わない。この時期水の上で咲く黄色い花と言えばアサザだがアサザにしては開花位置が高く浮葉も見えない。というか浮葉はナガエツルノゲイトウに覆われている水面に出せないはずだ。つまりアサザではない。
 消去法ながらこれはミズキンバイ注10)ではなく、噂のオオバナミズキンバイの可能性が高いと考えられる。外来種オン外来種、何とも言えない風景だが手賀沼はもはやガシャモクどころの騒ぎではない。



(P)ナガエツルノゲイトウの群落中に見られた黄色い花、このカメラでは太刀打ちできない RICOH CX4


 何が一筋の希望なのか?それは正体が何にしてもナガエツルノゲイトウの繁茂に負けない水生植物があるということだ。そしてもしそれがミズキンバイであった場合(可能性は非常に低い)、絶滅危惧種の植物が戻れるだけの環境が担保された、という朗報もある。結末は凶悪な特定外来生物に負けてしまうかもしれないし、湖底に堆積したリンによって枯死してしまう可能性もある。それでも一時的にせよこのような植物が成長して開花した、という事実は変わらない。
 しかし、である。遠目にはミズキンバイに見えたがオオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora ssp.grandiflora)であった場合には悲惨である。特定外来生物の中に特定外来生物、まさに手出し無用の無法地帯、従来オオバナミズキンバイは兵庫県や滋賀県、西日本を中心に帰化が報告されており当日もまったく脳裏にも浮かばなかったがナガエツルノゲイトウに負けないのは絶滅危惧種ではなく、同じ特定外来生物の方が可能性が高いのかも知れない。「手賀沼 オオバナミズキンバイ」で検索してみると出る出る、たとえば我孫子市環境レンジャー通信という記事には「ナガエツルノゲイトウの群落の先端部分が、とりついたオオバナミズキンバイにより浸食され置き換わってしまった」という表現がある。ナガエツルノゲイトウを上回るほどの凶悪な植物らしいので、私が見た黄花の植物は99%オオバナミズキンバイだろう。

 今回久しぶりに手賀沼周辺を見て、ネガティブな変化も、僅かながらもポジティブな変化も感じられた。気のせいかビジュアル的に透明度も若干改善したようにも思われた。可能性はゼロに近いかも知れないが、植生として考えた場合にナガエツルノゲイトウは水生植物として今まで数十年の手賀沼に見られなかった程の質量がある。彼らが堆積したリンを吸収して他の植物が生育できるようになったとしたら話が一挙に複雑化する。しかし、どの道何とかしなければならないのであれば「毒をもって毒を制する」的な柔軟な発想もありか、と思わせる情景であった。

脚注

(*1) 2001年12月に文春文庫から出版されたミステリー。誤射されたミサイルが旅客機を直撃しパイロットが死亡、乗客のほとんどが酸欠脳障害という究極の状況を僅かな生き残りが何とかするストーリー。専門家の評価は真っ二つだが、他人の評価よりも自分が読んでどう思うかの方が重要なので気にしない方が良い。金を出して買ったのにつまらん、ということを気にする人はブックオフの100円コーナーで探せばよいし、読んだ本から何らかの教訓や人生訓を得る、というスタンスの人は読まない方がよい。

(*2) 新型コロナウイルスの蔓延に伴い、県をまたぐ移動の自粛を含む緊急事態宣言がが2020年4月7日に発出されたが、2020年6月19日に緩和された。(実質解禁)それ以前に私なんざ茨城県在住で千葉県を通り過ぎて東京都まで通勤しているので関係ないと言えば関係ないが、リスクが高いことは間違いない。一応皆さん自粛を続けていたようで、朝の通勤電車はスカスカ、都内の人通りも疎らだったが「お上が良いと言えばOK」の日本人的体質がモロに出てすぐに元に戻った。茨城県は緊急事態宣言下に入りほぼ1ヶ月半、新規感染者がゼロであったが解禁と同時に東京にふらふら遊びに行って2名の感染者が出た。これを考えると県をまたぐ移動の自粛は一定の効果があり、解禁は時期尚早だったと言えるだろう。

(*3) Nitella furcata var. fallosa 環境省RDBでは絶滅。その名の通り手賀沼にかつて自生していたシャジクモ科フラスコモ属の植物。森嶋先生のグループが手賀沼の底泥に含まれた休眠胞子から復活させている。我孫子市の水の館には以前展示があったが現在は見られない。森嶋先生の車軸藻のページによれば「1.造卵器の小冠細胞が長い(60〜90マイクロメートル)特に上列の細胞は下列の二倍以上、2.雌雄同株、3.主軸は500〜800マイクロメートル、4.結実枝は不結実枝より小さく密集する、5.3〜4回分枝、第一分射枝は小枝全長の2/3程度、6.造卵器は2〜3個群生、長さ550〜650、幅420〜480 螺旋は7〜8本、7.卵胞子膜は網目状、卵胞子長さ360〜410、幅300〜340」などの特徴があるという。自分は不勉強でシャジクモ属とフラスコモ属の判別がやっとなので詳しくはリンク先サイトを参照されたい。

(*4) 外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)においては、特定外来生物の飼育、栽培、保管及び運搬することが原則禁止となっている。仮に市民団体などで自発的意思かつ許認可なしにナガエツルノゲイトウの除去作業を実施し、手賀沼から運び出したとすると、この「運搬」に抵触してしまう。現実的にそこまで厳格な運用はしないと思われるが、それにしても「法律は法律」と言い出す人間が居ないとも限らず難しい問題になっている。植物はともかく、例えば印旛沼でカミツキガメに出くわしたらどうする?という解がない。環境にとってベストなのは捕獲、殺処分して個体数を減らすことだと思うが、法律に従えば避けて通るしかない。

(*5) 脚注3参照。本職は千葉県の県立高校の教諭をされておられるが、元々学校の理科部の活動として始めた研究を引き継いで継続されている。(「車軸藻のページ、はじめに」より)カヤツリグサの谷城先生も千葉県の県立高校の教諭だが、千葉県には凄い先生がいるもんだ。私の高校時代の先生は体育館の裏に喫煙者がいないか見に来るのを生きがいにしているような先生が多かったが、レベルが違う。私は今でも両氏のホームページや著作をしばしば参考にさせて頂いているし他のアマチュアの方もそうだろう。その意味では世の中に大きな貢献をされていると言えるだろう。

(*6) 水中の有機物を酸化剤で分解する際に消費される酸化剤の量を酸素量に換算したもの、英語表記のChemical Oxygen Demandの頭文字を取ってCODと表現される。要はこの数値が高いほど水中に有機物が多い、すなわち汚れた水域であると言える。一方、CODは湖沼など止水域に用いられる指標であって河川など流水域にはBOD、Biochemical Oxygen Demand 、生物化学的酸素要求量が用いられる。手賀沼は法的にも地形的にも河川であるが、慣例的にCODが指標として用いられている。手賀沼のCODは2019年度には4月、5月、7月、8月、10月に10(mg/L)を超えており(千葉県公開のデータ)、一般に10を超えると悪臭がする、と言われている水準を超えている。多少綺麗になったと言ってもこの程度で、そもそも北千葉導水路がけっして綺麗とは言えない利根川の水を水源としていることから十分に予想されたことである。
 本文に書いたように評価はCOD一本かぶりではいけないし、一喜一憂すべき評価項目でもないが、悪臭がするほどの水準は評価以前の問題である。現在の家を探す過程で(1994年頃)我孫子の不動産屋から「手賀沼の近くは悪臭がするので止めた方が良い」と言われたことを思い出した。

(*7) 北千葉導水路の役割は、国土交通省関東地方整備局利根川下流河川事務所によれば「その役割は、利根川の水を東京都、千葉県、埼玉県で飲み水などに利用できるようにしたり、洪水を防いだり手賀沼をきれいにしたりすることです」とある。しかし「目に見える」、つまり効果として数値化されたものは手賀沼のCOD値の改善だけで、飲料水として寄与したのか、洪水を防止したのか、結果としての評価は不明である。これは当然の話で、あったことを証明することは容易(手賀沼のCOD)だが、なかったこと(首都圏の水不足、洪水)を証明するのは悪魔の証明でそもそも無理な話。こうした「突っ込まれてもどちらも証拠が用意できずにうやむやになるであろう事項を表記してしまうのは卑怯な手口だと思う。

(*8) はっきり言えば北千葉導水路の二番煎じ、自己模倣、多額の予算を使うための口実。霞ヶ浦はこの稿で述べた手賀沼の問題点がもれなく存在し、かつ規模も大きいために、稼働させても何ら得る物はないだろう。この点自己模倣ではなく経験から学んで欲しかったところ。霞ヶ浦導水路の詳しい内容は批判記事ではあるが、当Webサイトの「霞ヶ浦導水路にまとめてある。北千葉導水路も霞ヶ浦導水路も人間の健康で言えば対処療法であって根本治療ではない。それでも何もしないよりはマシかも知れないが予算規模を考えればそうも言っていられないはずだ。

(*9) 東アジア、南米原産の二枚貝。霞ヶ浦水系では大規模に定着している。吸虫類の第一中間宿主となるために魚類に被害が出る他、ムール貝のように密集するために排水管や取水管を詰まらせる。見た目はそれこそムール貝に似て美味そうだが味は不明、それ以前にカワヒバリガイ属まるごと特定外来生物に指定されており迂闊に採集することもままならない。寄生虫がいる時点で触りたくもないが。この貝がすでに北千葉導水路で確認されているという情報があり、性格として水中の暗所を好むことからトンネル状の導水路は格好の住処、事実であれば手賀沼はさらに厄介者が増えることになる。パンドラの匣にはまだ在庫が残っていたようだ。

(*10) Ludwigia peploides subsp. stipulacea アカバナ科チョウジタデ属の水生植物。環境省レッドリスト2019では絶滅危惧U類(VU)に指定されている希少な植物。<残念なことに茨城県では自生を見たことが無く、千葉県や群馬県の湖沼で稀に見かける程度である。手賀沼で見た黄花の植物は遠目ながら葉の雰囲気がチョウジタデ属に似ていたのと、ヒレタゴボウ(外来種)にしては時期が早い、ということで類推した。まさか手賀沼で水に入って調べなければならない植物があるとは思わずお散歩スタイルが仇となったが、立入を制限する金網の設置もあり入りにくい場所であった事は事実。場所は北岸の市民農園から植生帯に向かう途中の沖合6〜7m地点。


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