日本の水生植物 探査記録

Vol.190 秋の遠足 霞ヶ浦編



Location 茨城県稲敷市
Date 2019.09.28(SAT)
Photograph
Canon EOS KissX7 + EF-S24mm 1:2.8 STM
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM

Weather Fine

Temperature 28℃

(C)2019 半夏堂


■浮島湿原の秋


(P)空を見上げれば湿原の上空はすでに秋
Canon EOS KissX7 + EF-S24mm 1:2.8 STM


霞ヶ浦の秋

■デトックス

 体調不良は継続している。昨日渡良瀬遊水地内を相当距離歩いたこともあって翌日は24時間睡眠を覚悟していたが、不調は不調ながら若干復調したような気もする。考えてみれば炎天下歩いて大汗をかく、大汗には体に不要なもの、特に塩分が含まれている。水分補給はお茶やコーヒーなど塩分のないものなので高血圧症には良いのではないか?もっともこの方法論の致命的な弱点は、限界点を超えると熱中症になってしまうところ。結果論ながらその手前でデトックスのみ効果が出たようだ。しかしこれは危険な方法論であることは間違いなく、良い子は真似してはいけない。

 体調と時間が許せば遠足である。昨日の件(殺人事件の検問と大幅な迂回)もあったので本日は逆方向の霞ヶ浦へ。特に目的があったわけではなく、また夢に小さいオジサンも出てこなかったが、こちら方面もしばらく出かけていない。渡良瀬遊水地には及ばないと思うが、何らかの湿地植物の開花が見られるだろう、という程度。


(P)菓子のようなサデクサの花 浮島湿原 Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM


■見所

 霞ヶ浦の湖岸線の長さは日本一注1)だが、ただ長いだけで実質そんなに見所があるわけではない。個人的に好きなのは夕焼け時の北利根橋(潮来市)。北西方向に霞ヶ浦の広大な湖面、その奥に筑波山が夕焼け空にシルエットとなって浮かび上がるフォトジェニックな場所だ。地図で確認すると北利根橋から霞ヶ浦が最も大きく見える延長線上に筑波山がある。茨城県の乏しい観光資源のうち重要な二つが美しく一望できる場所である。

 その素敵な場所は今回の妙岐の鼻(浮島湿原注2))や和田岬の付近から車で15分程の至近距離だが、まだ夕暮れではないし、北利根橋は国道51号線の橋なのでのんびり駐車して写真を撮るような場所ではない。何よりも周辺には目ぼしい見ものがなく、行っても帰ってくるだけ、というのが痛い。近いと言っても往復時間と駐車スペースを探して写真を撮って、とやっていれば最低1時間は見なければならない。そんなわけで今回はパスし、植物寄りの和田岬と浮島湿原に絞って見学することにした。
 霞ヶ浦には「かすみがうら市水族館」「霞ヶ浦環境科学センター」「霞ヶ浦ふれあいランド」「霞ヶ浦総合公園」など自然に親しめる施設がいくつかある。しかし残念なことにそれぞれ「帯に短く襷に長し」の感が否めない。特にこの地域を20年も見ている植物マニアには満足できるものではなく、まさに「マニアには間に合っています」的存在である。さらには霞ヶ浦本体自体が長年の水質悪化で沈水植物がほぼ見られず、興味の対象が少ない=足がなかなか向かない、というスパイラルに陥っている。これだけ大きな水域がありながら自然に親しむことができないとは何とももったいないことだ。

■オンリーワン

 植物的に見るものが少ないこの一帯ではあるが、稲敷市の浮島湿原には「世界にここだけ」という希少な植物がある。カヤツリグサ科のカドハリイ(Eleocharis tetraquetra var. tsurumachii.)という植物で、マシカクイの変種とされているが、どういうわけか地球上でここにしかない。(本当は某植物園にも移植されている)「ここにしかない」と言っても湿原全体にあるわけではなくピンポイントの区域であって、うっかり周囲が写った写真を掲載してしまうと場所が特定されてしまいかねないので今回はパスする。(植物体の画像は水生植物図譜の方で)採集する人間はあまりいないと思うが、浮島湿原は文字通り「湿原」なので見学者による踏み固め等のリスクもあるだろう。本種を扱った記事がおしなべて同様の扱いなので私も右にならう、ということで。実際問題、ピンポイントの情報を出さなければ遊歩道が少なくほぼ全域湿地の90haの原野で巡り合うのは不可能に近いと思う。

 この植物も「野焼き」によって存続が可能になっているという話がある。もちろん野焼きによって存続が図られているのはカドハリイだけではなく、浮島湿原全体で確認されている植物種は300種を超える。しかしどちらかと言えばこの湿原は植物マニアより野鳥マニアの方が多く、案内によれば環境省レッドリスト絶滅危惧TB類オオセッカ注3)なども見られるという。残念ながら自分にはそれがどういう鳥なのか分からないし、基本的に鳥の写真は撮らないので(だって装備の主力は50〜60mmのマクロレンズだよ)見ているのかも知れないが記憶にない。

和田岬

■堤防道路

 和田岬は霞ヶ浦南岸の小さな岬で、東に向かって鍵型に突出している。特に何かがあるわけではないが、岬全体が公園(和田公園)になっており駐車場もある。霞ヶ浦沿岸には珍しく設備が整った場所である。
 以前よく通っていた美浦村の沿岸部などは基本的に路駐するしかなかったが、その「路」が霞ヶ浦の堤防上の道路で、釣人が車で移動しながらポイントを移動するために意外に交通量がある。しかも堤防の上なので幅が狭く、端に寄せないと通れなくて叱られてしまうのだが当然のようにガードレールはなく、寄せ方をミスると霞ヶ浦にドボンか、田んぼにゴロンになってしまう。大惨事だ。そもそもこの堤防、車が通ってよいのか悪いのかはっきりしない。一般道路から接続しているので当然のように車が進入するが、まさに自己責任の見本のような場所だ。

 この堤防道路は和田岬の外周にもあって、この近辺で特別に見るべきものがなければ車窓からチラ見で終わらせようと車で流していた。すると堤防道路の岬突端近く、霞ヶ浦側に魅力的な場所が見えた。


(P)和田岬からの霞ヶ浦 Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM


■湖岸湿地の浄化力

 魅力的なモノは砂浜である。砂浜は人工的なものと思われるが、砂が流出しないように防波堤に囲まれている。この地形は少し湖沼学をかじった人間にはとても魅力的なのだ。まず砂浜は湖岸湿地であって湿地の植生がある、ということが一点、湖岸湿地は水質浄化力があり防波堤の内側は水が綺麗、というのが二点目。水が綺麗であれば沈水植物も期待できる。
 アサザの植栽が正しいのか誤っているのか注4)という議論は時間の経過と得られる結果によって判断するしかないと思うが、湖岸湿地はそれよりも相当早くポジティブな結果が見える。下左画像はこの砂浜の波打ち際であるが、言わなければ霞ヶ浦と思えない程に水が澄んでいる。これは湖岸湿地(砂浜)土壌内部に住んでいる微生物の力によるものだ。素人が考えても土壌には護岸コンクリートとは桁違いの微生物がいるはず。そのうち水の汚染物質、窒素やリンを餌にするやつも数多いだろう。理屈は別としても目に見える明らかな結果がここにある。明らかなのは植生浄化という概念よりも湖岸湿地による浄化の方が即効性がある、ということ。これは目に見える事実なのである。
 護岸か湖岸湿地か、という議論はそれぞれ経済的側面(水田や畑を塩害から守り、洪水から生命財産を守る)と環境的側面(水質浄化)という絶対に交わらない不毛の議論だと考えていたが、何のことはない、護岸の外側に砂浜を作れば良いのだ。これはある意味コペルニクス的転回だなぁと思った。誰が考えたのか知らないが相当頭が良い。まぬけな環境対策の中では出色の出来だ。

 沈水植物の方は「ここで遊んではいけません」という注意を無視し(遊んでいることに違いはないし)自然石を積み上げた足場の不安定な防波堤を先端近くまで歩き湖面を見たがそれらしき姿は見られなかった。和田岬からほど近い浮島湿原も巨大な濾過装置であるはずだが、湿原の一辺である新利根川も相当汚く注5)、その影響もあるだろう。考えてみればこの砂浜も湖岸線の何千分の一、何万分の一である。全般的な効果を期待する方が間違っている。ただ考えなければならないのは、護岸ができるまでは霞ヶ浦・北浦・外浪逆浦全周で常時浄化機能が発揮されていた、ということ。
 だからと言って「元に戻せ」というのは暴論かつ極論で実現性も皆無。これまで見聞きしたなかでは常に二択の結論が出ない議論しかなかった状況で、この方法論はコロンブスの卵、本当に素晴らしい。これに気が付いただけでも今回来た甲斐があった、というもの。

【和田岬付近】
ここまで澄んだ水は霞ヶ浦では珍しい
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM
砂浜の流出を避けるための防波堤
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM

■湖岸湿地の植生

 先ほどからこの湖岸湿地を「砂浜」と表現しているが、実際に砂なのである。霞ヶ浦は太古の時代には海であり、最近まで汽水湖注6)であったので砂浜も違和感はないが、これでは海浜性の植物しか期待できないな、と思った。アシやメドハギなど多少の水分があればどこでも生える強い植物はあったが、やはり泥質の湿地とは植物の種類も密度も違う。どちらかと言えば海浜だな、と思った。
 更に言えば現在、霞ヶ浦の湖岸で海岸のような砂浜は見られない。泥だか何だか長年に渡る堆積によって、通常の淡水湖沼のやや(というかかなり)汚い岸部が普通になっている。従ってこの砂浜はどこかから搬入したものであることは間違いない。しかしこの風景は霞ヶ浦の沿岸部としてかなり新鮮である。

 人工的に作った砂浜はいわば「裸地」である。こうした地形に真っ先に進出するのは外来種であるのが普通だが、ここでも意外な外来種が見られた。詳細は最後にご紹介するとして、霞ヶ浦沿岸部では初めて見たオオフタバムグラ、ツルノゲイトウ(ナガエ、ではなく)、ミズヒマワリの進出が見られた。ミズヒマワリは別に意外でも何でもない注7)が、前2種はこの付近の里山や水田周辺では見られないだけにかなり珍しい。

 水質改善のために人工の湖岸湿地を造成すると真っ先に外来種が進出する、悩ましいジレンマだが現時点では水質改善が優先だろう。外来種は人工湖岸湿地という狭い範囲で有無を論ずることが無意味であるほど全域にある。この近辺では見られなかったが、他にもオオフサモ、ボタンウキクサ、アマゾンフロッグピット、ウチワゼニグサ、外来種アゾラ、カナダモ、ホテイアオイ・・・枚挙に暇なく、さらにアサザだって系統注8)の異なるものを植栽すれば国内移入種になり、「不自然な自然」の構成要素となる。水の中はもっと凄くて、泳いでいる魚の過半は外来種、このあたりは本サイト「霞ヶ浦の外来生物」に一覧してあるのでぜひご参照願いたい。これらはどう考えても早期の排除は不可能である。そうであれば不可能な事に時間と労力を費やすよりも、多少なりとも効果が実感できる方がマシではないではないか。

浮島湿原

■観察路再建

 1〜2年前に浮島湿原を訪れた際にはいつものように鳥類観察小屋方面注9)(入口から右方向)と逆の野焼き実施ゾーン(入口から左方向の遊歩道)に入った所、あまりの荒廃に驚いたものだった。観察路は両側からアシを中心とする植物が覆いかぶさり見通しが悪い上にプチ藪漕ぎを行わなければ進めない状態。何とか終点の観察デッキにたどりつけば霞ヶ浦に突き出したデッキは大きく破損し立入禁止。観察路を設置している湿地としては最低の条件に近いほど荒廃していたが、数m標高の高い道路から見た限りでは今回、歩きやすそうな観察路に戻っていた。

 ここまで荒れた理由は色々あるが、特に観察デッキは東日本大震災やその後の大型台風の直撃が原因ではないだろうか。どちらも想定外と言えば想定外、考えられるダメージの範囲を超えてしまったことは今や日本全国で起きている現象、管理側の責任範囲を超えている。


(P)観察路、霞ヶ浦方向 Canon EOS KissX7 + EF-S24mm 1:2.8 STM


■湿地植物

 この湿地は全域イヌタデ属が多く、特にシロバナサクラタデとサデクサが目立つ。観察路際にもこの両種が多く、シロバナサクラタデはともかく、サデクサは知らずに引っ掛けると衣服やバッグが破れたり怪我をしたりする。和菓子のような可憐な花を咲かせるが茎には凶悪な棘があり、湿地歩きではノイバラ注10)とともに要注意植物である。オーストラリアの亜熱帯にはWaite a Whileという植物があり、直訳すると「ちょっと待ての木」だが、ツルに棘が多く捕まると「ちょっと待て」状態になる。サデクサとノイバラはまさに「ちょっと待て」で、強行突破すると被害が拡大してしまう。植物マニアは見れば避けるが、一般見学者が予備知識なしに観察するには危険な観察路であるようだ。
 この時期、アシの壁は最高強度で、突破したとしても観察路を外れれば泥濘の湿地で踏み込みを拒否られている。結論として観察路際で植物観察するしかないが、どうしても見られる種類は一般的なものに限られる。(これもあまり来ない理由の一つである)例えばどうしてもシロネやハンゲショウを見たい、ということならお勧めできるが、何があるのか楽しみでワクワクしたい、というリクエストであればお勧めできない。渡良瀬遊水地のような掘削実験もしていないので外来種以外の新種が見つかる可能性も低い。どう考えてもここは鳥類観察のための湿地のようだ。

【観察路際の湿地植物】
シロバナサクラタデ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM
ハンゲショウ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM
イガガヤツリ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM
シロネ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM

外来種問題

■新顔降臨

 前出記事の「霞ヶ浦の外来生物」は2015年4月頃の記事だが、このリストのうち植物はそれまでの何年間か自分で沿岸部を歩いて調査した内容である。しかし今回、このリストに入っていない、つまり私のとっての新顔が2種類も見つかったということに軽い衝撃を受けた。リストにある植物は現在にいたるまで一過性の現象ではなくシュリンクしているわけではない。逆に爆発的な拡大も見られないので落ち着いてしまった、ということだろうか。これだけの種類の外来生物が霞ヶ浦の生態系の一部として定着しているという事実は空恐ろしい気もするが、この新顔が同じ経緯をたどるとすればさらに恐ろしい。

 新顔2種が見られたのは前述、和田岬の浜だが、これが来歴を示唆しているような気がする。すなわち砂浜を造成するために搬入した土砂に植物体ないしは種子が混入していた、という可能性。このパターンは意外に多いのだ。


(P)霞ヶ浦沿岸部では初見、オオフタバムグラ Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM


 オオフタバムグラ(Diodia teres)は北アメリカ原産であるが、帰化はかなり古く1927年と記録されている。鳥取砂丘で爆発的に増殖注11)し草原化を引き起こした、という事例があり砂丘や砂地を好むという特性があるようだ。そうであればこの環境(砂浜)に定着していることは納得。(納得しても仕方がないが)まだ「爆発的」とまでは言えないが近未来的にこの環境の多様性をスポイルすることは十分に予想できる。
 もう一つの新顔はツルノゲイトウ(Alternanthera sessilis (L.) DC. )。「ナガエ」でないのは救いかも知れないが、この植物の侵略性がどの程度なのか分からないので何とも言えない。千葉県側ではナガエツルノゲイトウは猛威と言ってもよいほどの繁茂を見せており、水辺にこんもりした緑があればほぼ本種である、という状態になっている。ただ同じ水系の茨城県側ではさほど繁茂が目立たない。
 ツルノゲイトウはナガエツルノゲイトウの陰に隠れてあまり表面的に問題になっていないが、今後の暴れ方次第でどうなるか分からない。経過観察ってやつだろうか。ただし本種は耐寒性に欠けるという情報もあり(その情報で当初はホテイアオイもボタンウキクサも見過ごされていた)何とも言えない部分がある。

【今回見られた新顔帰化植物】
オオフタバムグラ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM
ツルノゲイトウ
Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM

■旧顔跳梁

 相変わらずなのはミズヒマワリ(画像)。大群落を形成することはないがその分まとめて防除しにくい。と言っても沿岸部で外来種を防除している場面は見たことがないが。この場所でもあちこちに株単位で定着していた。元はと言えばアクアリウムの水草であることは間違いないが、これだけ広範囲に拡大してしまうと元々逸出させてしまった「犯人」にも自覚がないに違いない。オオフサモにしてもホテイアオイにしても、取り扱う人間の自覚がないための現在の惨状だ。いまさら販売や移動を禁止しても勝手に拡がって行くのである。
 数年前にここでミズヒマワリを見たのは新利根川沿い(浮島大橋の下あたり)であったが、今回は和田岬の砂浜エリア、浮島湿原の「野焼き実施」エリア、ともに見られた。こいつの繁殖力や分化全能性(植物体のカケラからでも再生する力)を考えれば当然の結果だろう。この程度版図が広がらなければ特定外来生物ではない。まして防除の形跡もないわけで当然の帰結である。


(P)和田岬の砂浜にもミズヒマワリ Canon EOS KissX9 + EF-S60mm 1:2.8 USM


 新利根川側にはオオフサモも随所で見られたが今回は河口方面には行っていないので確認していない。というか、わざわざ植物の写真を撮りにきたはずが、何が悲しくて帰化種ばかり撮らないとならないのか、徐々にアホらしくなってしまった。自分で公開しておいて何だが「霞ヶ浦の外来生物」植物編のリストはべらぼうに行が増えた。そしてWeb上の行数だけの話ではなく、現実も沿岸部のどこを歩いても最低数種の外来植物を目にするようになってしまった。ここは本当にどこの国?状態だ。「そのうち何とかなるかも」というのは最も非現実的な展望であることが、このあたりを10m程度歩けば理解できる。

■愚者跳梁(馬鹿者問題)

 この沿岸部で写真を撮っていると、必ず沖合から不必要に大きなエンジン音とやかましい人声が聞こえてくる。バスボートである。騒音が激しい2ストロークエンジン(軽量なのでバスボートにはよく用いられる)の傍で会話するのででかい声になるのは分かる。しかし沿岸部でまったり過ごす善意の第三者(少なくてもここは公園だ)がなぜそれを我慢しなければならないのだろうか。付近の狭い道路ではボートを牽引した車が邪魔だし、こういう奴らはほぼ県外ナンバーで地域住民にとっては迷惑以外の何物でもない。コンビニぐらいでしか買物もしないので経済効果も誤差範囲でしかない。
 それよりも深刻なのはバスボートの排気中に未燃焼ガスとオイルが含まれる点だ。特に水中排気の船外機は最悪で、水質汚染の有力な原因になる。アサザだ湖岸湿地だ、この汚れた巨大な水溜りをどうしようか、と議論している一方で最悪の汚染が進行している。しかも漁業という生きるための「業」ではなく、単なる楽しみのために、だ。大気汚染で周辺の県に迷惑をかけている注12)首都圏からさらに迷惑をかけに来てどうするのか、と言いたい。本当にこいつら何とかならないものか。

脚注

(*1) 湖岸線の長さは霞ヶ浦単体(西浦)では120km(琵琶湖は241km)だが、北浦、外浪逆浦、常陸利根川の水域全体としては332.9kmに及ぶ。一般に「霞ヶ浦」というと斜めVサインのような湖のみを指すことが多いが、正式には西浦という湖で、これに北浦、外浪逆浦(常陸利根川の一部)+常陸利根川、鰐川を加えた水域が「霞ヶ浦」である。従って面積や水量は琵琶湖が日本一だが、複雑に入り組んだ湖岸線の長さは「霞ヶ浦」が日本一なのだ。別に一位でも二位でも良いが、地元民としては何だか嬉しい。(魅力のない県日本一は嬉しくない)

(*2) 浮島という名称の湿地は日本各地にあって、検索して一番多く出てくるのが北海道大雪山近くの高層湿原である。次に静岡県の浮島が原。当地は希少種サワトラノオの自生地としても有名だ。霞ヶ浦の浮島湿原は新利根川が霞ヶ浦に注ぐ地点の三角形状の湿地で岬状に突き出た部分を特に「妙岐の鼻」という。行政区分は茨城県稲敷市浮島、霞ヶ浦の最南部に近い。面積は約90haである。ちなみに本当に浮いている島ではなく、地形は湖岸湿地である。

(*3) 画像を見るとスマートなスズメのような(まさにスズメ目の鳥)何の変哲もない野鳥である。見る人が見れば違いは分かると思う。見かけ上はどこにでも居そうな外見でとても絶滅危惧T類には見えない。この湿地にあるカドハリイも絶滅危惧T類(TA(CR))ながら、ヌマハリイのようなどこにでもある外見なので植物にあまり関心がない人には同じに見えるだろう。せっかく様々な生物が生息する空間を歩いているが、鳥類や苔類などはほぼスルーなので我ながらもったいないとは思うが、とてもそこまで頭も手も回らないというのが現実だ。

(*4) アサザ基金のHPを読んでいると、実際にアサザやガガブタを育てている立場として、さらにアサザが大繁茂した池の水質を日常的に見ている身として「何だか変だぞ」と思いつつ自分の知識のなさ、読解力の至らなさに原因を帰していた謙虚な私の目からウロコを落としてくれたのは東大の山室先生のLimnology 水から環境を考えるで、自分としてはかなり説得力のある内容だと思った。一方、最近のアサザ基金のHPの内容も説得性があり、読んでいると納得している自分に気が付く。お前は定見がないんかい、と言われても仕方がないが、どっちみちここで何を言おうと、どのような立場を表明しようと影響力がないことは分かっているので、こうして霞ヶ浦に行った際にはペットボトルや手で拾えるゴミ(腐乱した巨大魚の死骸は勘弁だが)を近くのゴミ箱に入れよう運動を1人で行っている。

(*5) 新利根川のBOD値は公開されているデータが見つからないが、国土交通省のこのデータを見るとこの地域はBOD3.1〜8.0のゾーンに入っている。3.1と8は随分違うが、実際の印象は8に近いと思われる。この時点(2019年9月末)から何か月か前に見た三島市の源兵衛川や清水町の柿田川(比べる対象が間違っていると思うが)と比較すると水がドロリとした密度があって透明度がない、まったく別の世界の川のように見える。

(*6) ここですべてを語ることは不可能なので、困った時のウィキペディアでご確認願いたい。細々と汽水湖的性格を維持していた霞ヶ浦が淡水化したのは常陸川水門の閉鎖が原因であることは明らかで、その後ヤマトシジミの絶滅や水質の更なる悪化など連鎖的に起きた事案もすべてこれが原因である。汽水湖だったら、水門を閉鎖せずに水の滞留時間を短くしたら、というのはタラレバ議論で今更意味がないが、事前にこうした事態を予測できないという怠慢、事後に勝手な言い訳をする、という姿勢には腹が立つ。

(*7) 公開終了したが本コンテンツの「Vol.99多々良寒枯藺クエスト 浮島編」(2010.10.7)で浮島湿原にミズヒマワリが進出していることを確認している。ミズヒマワリは霞ヶ浦に流入する新利根川に多く定着しており、その新利根川の河口が浮島湿原なのである。9年経過した2019年、この拡大状況を見ると何ら対策が成されていない印象を受ける。今や外来植物が見られない水域の方が珍しいが、この浜のように主だった植物がほとんど外来種という環境も珍しい。

(*8) どこのアサザも見た目は「アサザ」だが、日本における絶滅危惧水生植物アサザの個体群の現状と遺伝的多様性(2009 上杉、西廣、鷲谷)によれば、各地域の個体群により複数の遺伝型が確認されたそうだ。メダカの地域毎の「型」は有名だが、アサザでも同様であったようだ。つまり迂闊な地域間の移動(譲渡、販売、植栽)はこの遺伝的多様性を攪乱することになる。この論文はアサザ基金に近い方々が記述されたものなので、アサザ基金もおこの知見を共有しているはずである。

(*9) 観察小屋がある方向は構造物があるためか野焼き対象エリアから外れている。渡良瀬遊水地も同じだが、野焼きをしない場所では植生の多様性に欠ける傾向がある。従っておおむねどのような植物があるのか分かってしまう場所には体力を使わないようにしているのだ。この湿地は最初の2〜3回は行ける場所は全域歩いたが、観察小屋コースは行けども行けどもひたすらシロバナサクラタデとカモノハシを見ることになり、その後は新たな出会いを求めて野焼きコースしか行かなくなってしまった。シロバナサクラタデとカモノハシが嫌いなわけではないが、見たけりゃいくらでも近場で見られるし、ってのもある。

(*10) 湿地やその周辺でよく見かけるのはノイバラ(Rosa multiflora)とテリハノイバラ(Rosa luciae)で、これらも素朴な白い花を咲かせ美しいが、房咲き園芸種の原種でもある。一般に河川敷や都度氾濫する湿地など攪乱環境に多く出現する。低木で目立たないために、アシなどをかき分けて湿地探査している時によく引っ掛かる。園芸用途として最近とても気になっている植物のひとつ。原種だけあって病虫害に強く丈夫なバラなので、そのうちどこかで掘ってこようと考えている。

(*11) 鳥取砂丘の外来植物オオフタバムグラの種子生産と発芽特性を参照。同記事によれば砂防林を造成したために砂の移動が抑制され、内陸性の植物が定着してしまったという。その中でもオオフタバムグラの出現頻度が高いらしい。霞ヶ浦での状況も併せて考えれば、オオフタバムグラは砂地を好むようだ。この好みの土壌の特性によりメリケンムグラと棲み分けているのかも知れない。

(*12) 首都圏から飛来する大気汚染物質(窒素化合物)と越後山脈周辺の雨水及び沢水窒素濃度との関係などエビデンスは多数ある。この論文によれば、源流部で人為汚濁の可能性が皆無の沢水で、水質汚染の象徴のような霞ヶ浦の10倍の窒素濃度が計測されたという。もう少しゾーンを広げて考えてみると、中国のPM2.5も日本に飛来するわけで、飛来するものが「物資」である以上、質量保存の法則があるわけで、それは結局河川湖沼に流れ込む。関東地方首都圏以外の水質汚染は少なからず首都圏に責任があるわけで、県単位で浄化を考慮しても仕方がない、ということにならないだろうか。


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