日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
オオバナミズキンバイ
(C)半夏堂
Invader Ludwigia grandiflora ssp.grandiflora

アカバナ科チョウジタデ属 オオバナミズキンバイ 学名 Ludwigia grandiflora ssp.grandiflora
被子植物APGW分類:同分類
国内 特定外来生物
 
2020年7月 千葉県我孫子市 ナガエツルノゲイトウに続く災難(fig1)

【オオバナミズキンバイ】
*従来は琵琶湖など西日本で見られた外来植物だが、近年東日本でも霞ヶ浦や手賀沼で見られるようになった。在来のミズキンバイ(絶滅危惧U類(VU))より花も草体も大きく、繁殖力も桁違いに強い。手賀沼では以前から大問題となっているナガエツルノゲイトウの群落に割り込み、占有してしまうほどの強靭さを見せている。花だけ見れば美しく、灰色の水と地味なナガエツルノゲイトウに支配された手賀沼一帯には暖色系の花が彩りを添える存在であるが、もちろん凶悪性を兼ね備えたインベーダーである。
 名前や花が似ているアメリカミズキンバイ(ヒレタゴボウ)も千葉県北部から茨城県南部で猛威を奮っているが、こちらは耕作放棄水田に多く、利用されいない土地に繁茂する事が多いためか今のところさほど問題視されていない印象が強い。事実外来生物法上は無印であるが定着状況や群落規模を見れば現時点ではオオバナミズキンバイより鬱陶しく感じる。オオバナミズキンバイはその生活を考えると基盤整備された水田地帯に入り込んで問題になることは可能性が低いように思われる。

不死身
■灰から生き返る植物界のフェニックス

 以前キシュウスズメノヒエに付いて調べた際に、草体の水分含有率が10%以下まで低下しないと完全に枯死しないという事実が分かり、要するに植物標本(概ね水分含有量は10%ぐらいだろう)にしても生きているというしぶとさに驚かされたが、実はこのオオバナミズキンバイはその上を行くらしい。
 産経新聞の記事「ソロモンの頭巾」という記事に、千葉県の手賀沼に進出したオオバナミズキンバイの現状報告があるが、その中で「茎の切れ端や葉からの再生能力を備え、乾燥にも耐える。たき火の跡からも発芽する注1)という不死身の侵略性植物なのだ」という記述があり、これが事実であるとすればキシュウスズメノヒエ以上の乾燥耐性とともにナガエツルノゲイトウと同等の分化全能性を備えていることになる。まさに最凶最悪の侵略的外来生物であると言える。このような不死身の植物がはびこってしまっては防除の仕様もないではないか。それが手賀沼の現状とすれば、すでに猛威を奮っているナガエツルノゲイトウ問題に大きなネガティブ要因が加わったことになる。途方に暮れる、とはまさにこの事だ。


2020年7月 千葉県 我孫子市側に到達したオオバナミズキンバイ(fig2)


■定着スピード

 環境省の特定外来生物の解説には琵琶湖での事例として以下の観測結果が記されている。これによるとわずか3年で被覆面積が160倍と驚異的なスピードである。また本来強靭な水生植物でありどんな水域でも見られるマコモ、イシミカワなどの減少も併せて報告されている。迂闊なことに手賀沼の場合、現在ナガエツルノゲイトウやオオバナミズキンバイに被覆された場所に以前は何があったのか覚えていないが、そう言われてみるとマコモが見当たらないな、と思った。(当然の話だがマコモを探して全域調べたわけではない。あくまで感覚上の話である)


【環境省特定外来生物の解説、オオバナミズキンバイより引用】
・琵琶湖南湖の赤野井湾地区では2009年12月に約142uの生育が確認され、2012年12月には約22,435uと、3年間で約160倍の面積に分布を拡大し、南湖のほぼ全域にまで広がった。


 手賀沼でオオバナミズキンバイが確認されたのは2017年頃だが、今年(2020年)複数地点を見て回り、根拠はまったくないが160倍にはなっていないような気がする。とは言っても2017年には見ていないので、当時1〜2株であればたしかに数百倍になっているので何とも言えない。気が付いたのは結果的に徐々に敗退しているとは言え、生態的地位が同じナガエツルノゲイトウが何らかの抑止力になっているのではないか、ということ。少なくても現時点では負けているにしても全面的に入れ替わってしまった、とううことはない。一時的な現象で評価するには早すぎると思う。定着確認後3年の段階で言えることは駆逐、ではなく共存の段階であると思う。今後どのように推移するのか注意深く見ていく必要があるだろう。

■薄毛疑惑

 前出記事やその他ニュース、更には本稿でもこのあつかましい外来種を「オオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora ssp.grandiflora)」と表現している。ところが見かけは似たようなものでも遺伝子解析の進んだ現代、オオバナミズキンバイと称するものは6、12倍体の亜種、これが10倍体となるものはウスゲオオバナミズキンバイという亜種に分けられるようだ。遺伝子レベルで相違があることは分かるが、ではそれがどのような形質の違いとなって表現されるか、という点は正直な所まったく分からない。僅かに農林水産省が出している注意喚起のパンフレット上に「オオバナミズキンバイ茎:高さ0.3〜0.8m、花:直径4〜5cm」「ウスゲオオバナミズキンバイ茎:高さ0.3〜1.2m、花:直径3cm」という表現があるが、こんなレベルの相違は誤差範囲注2)である。従って専門的な精査を行わない限り「手賀沼の黄色い花を咲かせる外来種はオオバナミズキンバイかウスゲオオバナミズキンバイのどちらか」としか言えない。

 ただ、どちらの種であっても事の本質は変わらず、版図を拡大しつつある事実、防除が困難である事実は変わらない。おそらくどちらであっても茨の道、容易なことでは排除できない。それはオオバナミズキンバイより弱いとされる(次項)ナガエツルノゲイトウの防除も難儀している現状があるからだ。様々な市民団体や外郭機関が防除を進めているはずだが、手賀沼の現状は何ら変わったようには見えない。それは力が足りないのではなく、防除のスピードを繁殖力が上回っているからだ。

 本題に戻り、誤解のないように補足する。オオバナミズキンバイと表現した場合にこれを広義とし単にLudwigia grandifloraとする立場がある。そして上記の6倍体、12倍体の群を亜種オオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora subsp. grandiflora 2n=48, 96) とし、10倍体の群を亜種ウスゲオオバナミズキンバイ(Ludwigia grandiflora subsp.hexapetala 2n=80)とする。特定外来生物としは広義オオバナミズキンバイが指定されていると考えるべきで、どちらであっても結果は同じだが手賀沼にはびこる広義オオバナミズキンバイはどちらか分からない、という意味である。ちなみに西日本の和歌山県日高川町、兵庫県加西市、滋賀県琵琶湖湖岸の群は亜種オオバナミズキンバイ注3)、鹿児島県串良川の集団は亜種ウスゲオオバナミズキンバイであることが判明している。
 本種は園芸逸出の可能性が示唆されているが、見かけがたいして変わらない以上、園芸品種としては区別されずに輸入されたはず、それぞれの定着地ごとにどちらかの亜種が定着しているのは逸出させた育成者が買った、あるいは貰った株の種類次第、ということだ。

競争力
■毒は毒をもって制することが可能か

 上記のように現段階では共存のイメージが強いナガエツルノゲイトウとオオバナミズキンバイだが、ナガエツルノゲイトウは確実に負けつつある。なぜそう言えるのかというとオオバナミズキンバイが定着した段階(2017年)で、手賀沼にはすでにナガエツルノゲイトウがほぼMAXに繁茂していたからだ。現在オオバナミズキンバイが見られる地点も然りで、結果から見ればナガエツルノゲイトウは徐々にではあるが負けている。
 しかしこのままナガエツルノゲイトウが負け続けて完全に駆逐されてしまうことはない、と思われる。オオバナミズキンバイとは生態的地位は被るし自生できる場所も似たような環境であるが、その自生環境に微妙な誤差があるのだ。すなわちナガエツルノゲイトウはオオバナミズキンバイに比べればやや乾燥耐性が強い。手賀沼北岸の遊歩道を歩いてみると分かるが、オオバナミズキンバイの定着地点は湖寄りで、遊歩道近くの湿地には見られない。ここで見られるのはナガエツルノゲイトウである。


2020年7月 千葉県 遊歩道にまではみ出したナガエツルノゲイトウ(fig3)


 波打ち際、浅水域など生息域が被る地点ではオオバナミズキンバイが勝つだろうしその兆候も確認できる注4)。しかしこうした準湿地ではナガエツルノゲイトウが残るのではないだろうか。つまり完全に置き換わるわけではなく、災難がボリュームを増して降りかかる可能性が強い、ということになる。毒は毒をもって制す、結果はゼロサムだが手賀沼の場合は毒+毒となってしまう可能性が強い。
 マコモの減少に関しては因果関係は証明されていない。個人的にはマコモのような強靭な植物が他種に駆逐されるイメージがどうしてもわかない。しかし本当に駆逐されたとすれば恐るべき破壊力であり、予断を許さない。2020年6月のニュースで手賀沼観光名所のハスの自生地注5)が全滅状態であると報じられたが、ハスの自生域にオオバナミズキンバイが居座っているわけではない。原因は現時点では不明である。しかし進出に先立ち他種を攻撃するアレロパシーのようなモノを持っているとすれば恐ろしい。なにしろ相手はあの強力なハスだ。同じことが霞ヶ浦の沿岸部で発生すれば特産品のレンコン注6)も大打撃を受ける。手賀沼のハスの全滅とオオバナミズキンバイの因果関係が杞憂であることを祈るしかない。

■不気味な兆候

 繰り返すがマコモやハス、イシミカワ等の減少に付いてオオバナミズキンバイの進出との因果関係は明確に証明されていない。ちょっとした天候不順や水質変化(手賀沼の場合はむしろ良い方に向かっているはずだが)程度でマコモやハスが衰退する理由は思い付かないが、楽観的に考えて「たまたま」、かも知れない。しかしその「たまたま」がオオバナミズキンバイが侵入した琵琶湖でも手賀沼でも起きていることに不気味さを感じる。
 このように考えると偶然は必然になってしまう。ちなみに前出環境省の特定外来生物の解説には「在来種の中には、ヨシやマコモのように被度が減ったものと、カサスゲ、サクラタデ、イシミカワのように消失したものがあった」とある。ヨシやマコモが減少するのも凄い話(水辺を歩く人なら感覚的に分かるはず)だが、カサスゲ、サクラタデ、イシミカワが消失というのも驚くべき話だ。これらの植物は元々どちらかと言えばしぶとい雑草である。これがすべて繋がる話であれば、従来の特定外来生物どころではない破壊力を持ったモンスターが入り込んだ、と考えなければならない。ただしくどいようだが現時点では因果関係は明確ではない。

■競争力のパワーソース

 オオバナミズキンバイがヨシ、マコモ、ハス、カサスゲ、サクラタデ、イシミカワに加え、あの強力なナガエツルノゲイトウも駆逐してしまうと仮定した場合、そのパワーソースは何だろうか。環境省の解説では「水上と水中にマット状に厚く繁茂し、他の植物の生育を阻害する」とあるが、その程度のモノにヨシが負けるのだろうか。また被覆という点ではナガエツルノゲイトウも同様であり、特に手賀沼においては先住者でもある。ここに割り込んで駆逐するほどの力は環境省の解説からは読み取れない。
 物理的に被覆すればたしかに光合成や成長方向への物理的阻害などで他の植生に影響を与えることは事実である。しかしこの説明には時系列の概念が抜けている。オオバナミズキンバイと言えども一年中繁茂しているわけではない。水域を被覆する前段階の成長時期には他の植物、例えばハスにしてもマコモにしても成長を始めており被覆される状況ではない。更に物理的な力を考えればオオバナミズキンバイの草体よりヨシやハスの方が強靭である。この解説ではまるで他の植物が成長する時期にはすでにオオバナミズキンバイが「水上と水中にマット状に厚く繁茂」しているように読み取れてしまう。

 結論を言えば強靭な他植物を駆逐するパワーソースは毒である。植物にとっての毒は他感作用、すなわちアレロパシー注7)であると思う。本件がらみで被覆というキーワードが度々出てくるが、オオバナミズキンバイの草体の大きさを考えればヨシやハスは被覆できるはずもない。被覆という物理的なパワーソースではなく、アレロパシーという化学的なものである可能性の方が強いと考えられる。とは言え現状は仮定の上に推論を被せたものなので論拠は「チラシの裏」レベルである。しかし状況を評価すればそうとでも考えなければ辻褄が合わないではないか。万が一この推論が成立した場合、それは上記の強力な植物群を駆逐する、誰も経験したことのないような強力なアレロパシーである。こいつが居る限り自然再生もへったくれもなくなってしまう。

危険性
■予断と憶測

 以前何かの記事に書いたが、環境省の特定外来生物の解説には個人的に納得しがたいものが多く含まれる。上記の解説(よく考えると時系列が変)もそうだが、日本語としてはたしかに成立しているが意味を考えていくと矛盾していたり怪しいものが多い。この一例をもって批判しているわけではなく、他種に関しても色々あるが、すでに本サイトの外来生物法の問題点に詳述してあるのでここでは重複を避ける。このオオバナミズキンバイのように現実に被害実態があるものはともかく、特定外来生物の中には必ずしもそうではないものも含まれている。その理由が明確な根拠のないものでは情けない。不利益を受ける注8)場合もあるのだ。
 今回のオオバナミズキンバイに付いても玉虫色の不確定な記述があり、それは備考に記述された「ルドウィジアの名前で様々な種類の観賞用の水草が流通、栽培されており、その中には浮葉ルドウィジア(L. sp. from Roraima)やL. sp. from Pantanalのように、本種に類似したものが含まれている。ビオトープ用の植物として販路があったと考えられる」という一文である。この文章も日本語としては成立している。読み流すと「なるほどなぁ」と思わせる。しかし良く考えてみると事実と予断、憶測が混在していることに気が付くはずだ。


2020年7月 千葉県 大津川河口、湖岸湿地を埋め尽くすオオバナミズキンバイ(fig4)


 あえて書くまでもないかも知れないが、何が事実と予断、憶測なのか。「ルドウィジアの名前で様々な種類の観賞用の水草が流通、栽培されて」いることは事実である。現在でもアクアリウムではその通りの状況である。ただし「本種に類似したものが含まれている」は予断と憶測に満ちている。本種に類似、何が類似しているのだろうか。特定外来生物の解説文として書いている以上、姿形が類似しているとかアホなことは書いていないはずだ。ここでの意味は「危険性が類似」しているという意味でなければならいはず。ではそれは何という水草で科学的な根拠は何か、示すことが出来なければ無意味だ。更に「ビオトープ用の植物として販路があったと考えられる」は蛇足以外の何物でもない。だから何だ、と言いたくなる。
 深読みしてみると、ヒレタゴボウや本種のようにあっという間に分布を拡大し環境負荷をもたらす「ルドウィジア」という存在自体にビビってオオバナミズキンバイ以外の他種ルドウィジアが定着してしまった場合の予防線にも思われてしまう。「環境省は何やってんだ、後追いの指定なら誰でもできるじゃねぇか」と言われた時に「だから事前に危険性は指摘しておきましたよね」という流れ。こうした公開された文書に現れる予断と憶測は将来への布石、というのが官公庁のありがちな責任逃れの手法だ。

■慧眼部分

 逆に好意的に解釈した場合、オオバナミズキンバイのように危険な奴が出現した以上、現時点では被害実態はなく危険性も把握できないが同属であるので危険を予知し慎重に推移を見た方がよい、という意味かも知れない。好意的過ぎるかも知れないが、その意味であればまさに慧眼だと思う。しかしこの場合、将来的にルドウィジア(チョウジタデ属)の輸入植物まるごと特定外来生物に指定する根拠にもなりかねない。
 アクアリウムプランツとしてのルドウィジアは一定の勢力(種類)があり、水草水槽でも重要な構成要素になっている。これがすべて売買禁止になれば趣味世界として大きなダメージを受けてしまうが話はこれで終わらない。前述のオオバナミズキンバイとウスゲオオバナミズキンバイの話、状況から判断して種を特定する前に特定外来生物の指定が成されたと思われるが、これこそ「似たような植物丸ごと」の道筋である。現状は特定外来生物に指定されていないが、前段階である生態系被害防止外来種注9)に指定されている「水草」は結構ある。

 バコパ・モンニエリ(Bacopa monnieri、ゴマノハグサ科ウキアゼナ属 和名オトメアゼナ)、バコパ・ロトンディフォリア(Bacopa rotundifolia、ゴマノハグサ科ウキアゼナ属 和名ウキアゼナ)、グロッソスティグマ(Glossostigma elatinoides (Benth.) Benth. ex Hook.f. 、ゴマノハグサ科グロッソスティグマ属、和名ハビコリハコベ)、それぞれ生態系被害防止外来種に指定されているが被害実態が拡大すれば特定外来生物指定への道筋は容易である。その際にルドウィジアのように「巻き添え」が発生すれば大惨事(趣味世界にとって)だ。この話はそのような可能性も内包する、という事を覚えておくべきだ。

手賀沼へのとどめ
■続く災難

 手賀沼はCOD値注10)において27年連続ワースト記録という不名誉なレコードホルダーであるが、利根川から導水して「汚い水を薄める」ことによって何とか最下位から脱出している。これ(北千葉導水路)自体賛否両論、どちらかと言えば私を含めて否定的な意見が多いが、それは汚染の主原因(一説に汚染物質の40%を流入させているとされる)である大津川や大堀川の浄化対策が進んでいないからである。いわば対処療法であって、北千葉導水路の暗側面、霞ヶ浦・利根川経由のカワヒバリガイ注11)の定着によって導水管が詰まればすぐに元に戻る。巨額の費用をかけながら致命的なマイナス面をもたらす可能性によって危機に瀕していることは事実。
 長年に渡り汚染の発生源に対して何の手も打たず、まるで中国の三峡ダム注12)のように「費用をかけた危機」を招いている人災は手賀沼にとって時系列的に第一の災難と言えるだろう。この巻き添えを食っているのはガシャモクやテガヌマフラスコモ、貝類や魚類など手賀沼の豊かだった自然である。この汚染が激しかった時期に我孫子市で家を探していたが、不動産屋が「相当匂いますよ」とやんわり断ってきた(実話)話を思い出す。その意味では私も巻き添えをくっている。


2020年7月 千葉県 開花、形成される果実、来シーズンもまた・・(fig5)


 第二の災難は手賀沼に限った話ではないが、外来魚、特にブラックバスとブルーギルだ。水質悪化にめげず細々と残存していた生態系はこの特定外来生物によって壊滅的な被害を受けている。何も悪いことをしていないのに倍返しを受けている。そして第三の災難がナガエツルノゲイトウだ。ちらほら姿が見え始めたと思っていたら2〜3年で全域に拡がってしまっている。この第三の特定外来生物も両魚種とともに根絶は不可能な状態に見える。そして今回のオオバナミズキンバイである。降り続く災難は呪われているとしか思えないが、考えてみれば同じ水系の霞ヶ浦も同様の状況であるし印旛沼にいたってはこれらの面子に加え、凶暴なカミツキガメまで加わっている。特に手賀沼だけの災難に限ったことではないが冷静に考えれば悲惨としか言いようがない。

脚注

(*1) これはさすがに書き過ぎだと思うが、完全に燃え尽きて灰となってしまえば復活の可能性はないはずで、燃え残りの植物体から発芽する程度のこと(これでも凄いことだが)だと思われる。他人の文章を批判するほどのモノは書いていないが、それでも誇張や曖昧さは極力排除しようと思っているのでこういうのは気になる。これでは「燃えるゴミ」に出しても分布を拡大するだけになってしまうではないか。ついでに指摘しておくと「同県の専門家に手賀沼の状況を見てもらうと至る所でナガエツルノゲイトウの群落にオオバナミズキンバイが侵入して置き換わりつつあることが判明した」という文章もあるが、これは事実ではない。たしかにそのような場所も見られるが、上流方向(大津川河口から西、北千葉導水路ビジターセンター、大堀川河口方面)ではナガエツルノゲイトウの純群落が多い。これは自分で見ているので間違いない。遠隔地に住んでいて手賀沼を直接見られない方はこの記事を読んで「そういうものか」と思ってしまう。少なくても新聞社の名前で出している記事だけに残念だ。

(*2) 花の直径、草丈などは個体ごとに誤差があるのは当然の話。同じエリアに生えていても日照、栄養分など環境は一定ではなく、こうした部位に差が生じる。オオバナミズキンバイではないが、コウホネなど育成環境が悪いと開花自体しないこともあり、環境要因は意外に大きい。本文にあるように確実にウスゲオオバナミズキンバイを判別するには染色体を調べることだが、外見的には脚注3にあるように各部位を精査することで「ある程度」は特定できる。ただし変異の多い植物体という前提では確実ではない。

(*3) 別なソースの調査結果によれば、琵琶湖に定着している集団の特徴として茎・葉の毛量、がくの裂片、花弁、花柱の特徴を精査したところウスゲオオバナミズキンバイの特徴を示し、染色体数は2n=80であった、との報告がある。要するに琵琶湖に定着した群はウスゲオオバナミズキンバイである。本文の記述とは反するが、新顔の帰化植物であり正体の特定が混乱するのはよくある話。どちらにしても定着スピードが早く、競争力は異常に強く深刻な脅威であることは変わらない。

(*4) 前出「ソロモンの頭巾」には「至る所でナガエツルノゲイトウの群落にオオバナミズキンバイが侵入して置き換わりつつあることが判明した」という一文がある。自分で見られる範囲であれば見た上で判断するのが自分のやり方なので手賀沼の広範囲を見たが、オオバナミズキンバイの純群落は見つからなかった。優勢となっている地点でもナガエツルノゲイトウが紛れ込んでいる場合が多々見られた。もちろん私の見落としもあると思われるし、たまたま過渡期の群落だけを見た、という可能性も否定できないが「至る所で」と表現されているわりには、という疑念もある。内容からほぼ伝聞に基づく記事であると考えられるし、取材対象者の「言葉のあや」ってのもあるだろう。

(*5) 手賀沼のハスの状況に付いては2020年7月10日に地元自治体である千葉県柏市が公式サイトで「壊滅状態」と表現している。このページを下の方まで見ていくと、僅かに開花したハスの周囲にオオバナミズキンバイが無数に開花している画像が確認できる。これを見れば因果関係がない、とは言い切れない。逆にオオバナミズキンバイの排他性が証明されていない以上、あるとも言い切れない状態だが何とも不気味な画像だ。あの強力でどうしようもないナガエツルノゲイトウを排除してしまうぐらいなら、ひょっとしてハスも?と考えてしまう。

(*6) 茨城県の霞ヶ浦沿岸部を中心としたレンコン栽培は規模が大きく、全国で出荷量はダントツの1位である。(出荷量シェア46%強)2位が徳島県で12%程度なのでほぼ1強状態である。言うまでもなくレンコンはハスの根であって、品種は違えどオオバナミズキンバイが排他性を発揮するとなれば大問題である。救いがあるとすればレンコン栽培は霞ヶ浦本体ではなく、管理されたハス田で行っているので万が一オオバナミズキンバイが入り込んでも除去はできる。しかし生産農家にとってはただでさえ重労働の生産に余計な手間がかかってしまう点は否めない。

(*7) Allelopathy 植物が病害虫や競合植物を抑制するために放出する物質及び作用を称する。他感作用と訳される。農業生産分野では様々な雑草が放出するアレロパシーと生産量の関係が知られており、甚だしい例ではキンエノコロのアレロパシーによってトウモロコシやダイズが50%抑制される例がある。他の植物を完全に排除する例ではクログルミの木の周囲ではジャガイモやトマト、また木本植物でも松やニセアカシアが枯れてしまうことが知られており、この強力なアレロパシーは「ユグロン(C10H6O3)」という物質である。木を枯らすほどの強力なアレロパシーが存在するということはハスを枯らす能力を持つものがあっても不思議ではない。

(*8) 個人的な不利益の事例で恐縮だが、自分個人と言えども国民の一人、国民が不利益を受けている事実に変わりはない。それはタイリクモモンガ(Pteromys volans)で、げっ歯類の飼育が趣味であった自分には中心的な存在であったが、残念ながら特定外来生物に指定されてしまった。その理由がどうしても承服できない。それは「定着実績:エゾモモンガ(P.v orii)は固有亜種。国内での定着については不明」「被害状況:エゾモモンガと亜種間交雑する。ただし、自然界での亜種間交雑については、確認された事例はない」という理由を主なものとしている。すべて可能性に立脚した論拠であり憶測と予断だ。しかも特定外来生物に付いては非常に重い刑事罰が伴う。こうした法規制の弊害は悪名高い戦前・戦中の治安維持法で国として経験しているのではないか。

(*9) 正式には「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」に記載された生物種が生態系被害防止外来種、ということになる。このカテゴリー自体に法的拘束力はなく自由に採集育種売買が可能であるが、その主旨は定着状況を評価し対応目標を決定すること、すなわち次の段階の特定外来生物指定に繋がるものであり、知らない間に指定されると大ピンチで、懲役刑や多額の罰金を伴う罰則が適用されてしまう。法律の適用は「知らなかった」は免責にならないので注意が必要だ。君子危うきに、で言えば現時点の生態系被害防止外来種には手を出さない方が無難だ。

(*10) Chemical Oxygen Demand、化学的酸素要求量。海域と湖沼の水質指標に用いられる。(河川はBOD)一般に有機物が多い(すなわち汚れた)水域ではCODは高い値を示すが還元性の無機物によっても値が上昇するので、CODが高い水域でも一概に汚れているとは言えない。しかし手賀沼の場合は有機物が多いことは明白であり、27年連続ワーストはその言葉通りの実態であったと言えるだろう。ただ水域の性格を示すのにCODは一面しか示せない。北千葉導水路の稼働によりCODが低下した手賀沼は外来種問題は別として生物に何の変化もない。複雑系である自然環境の一面を数値化した指標に過ぎない、と考えれば間違いない。

(*11) 淡水性の二枚貝で特定外来生物に指定されている。日本には1980年代に中国から輸入されたシジミの仲間に混じって渡来したと考えられている。その生態から排水管、取水管に付着して通水障害を起こす、酸欠等の理由により大量斃死して水質悪化を招く、水道や水力発電の施設に付着するなどの被害実態によって特定外来生物に指定された。利根川水系でも確認されており、暗い環境を好むことから北千葉導水路や霞ヶ浦導水路の地下水路での繁殖が懸念されている。通水を阻害する程度の被害であれば良いが、水圧の増加による事故でも起きれば大惨事だ。また淡水魚類の寄生虫の中間宿主でもあり、カワヒバリガイの定着と同時に腹口類吸虫という寄生虫も日本へ侵入してしまい、すでに感染した魚類も確認されているという。

(*12) 中国・湖北省にある長江に建設された大型のダム。2020年夏の多雨で決壊の危機が話題になっている。中国が援助し建設した外国のインフラでは様々な事故が起きており、手抜き工事と汚職が蔓延する中国の実情を考えればけっして杞憂ではないだろう。何なんだろう、かの国は。とても趙雲や張遼が祖先の国とは思えない。


【Photo Data】

・Canon PowerShotS120 *2020.7.24(fig1,fig2,fig3) 千葉県我孫子市
・RICOH CX5 *2020.7.24(fig4,fig5)  千葉県柏市


Invader Ludwigia grandiflora ssp.grandiflora
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