日本の水生植物 湿地環境論
外来生物法の問題点
(C)半夏堂
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律

(P)フサジュンサイ(生態系被害防止外来種

Chapter1 矛盾点
 平成17年10月に施行された外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)は平成26年6月に最終改訂され(平成28年9月時点)現在の形となっている。インターネット時代の明側面として、改訂された最新版の条文は全文公開され誰でも見られるようになっている。(全文
 すでに周知のことだと思われるが、本法は罰則が重く懲役や罰金(第32条〜第36条)に加え、特定外来生物の防除が国によって実施され、尚且つ原因となった個人・法人が特定できる場合において、その費用を徴収することができる(第16条)条文もある。施行以来、けっして形骸化した法律にはなっておらず、施行後毎年検挙の実績がありしかも件数は毎年増加している。自然関連の法律としては鳥獣保護法や種の保存法に比べて検挙件数はまだ少ないが、法が実質的に機能していることは間違いない。
 これもネット時代の利便性だが、新聞記事レベルの出来事は今やキーワード検索が可能となっており、例えば「外来生物法」で検索すれば法律がらみ、検挙事例、問題点解説など全般に渡って多くの記事が検索できる。(朝日新聞デジタル

 施行以来10年、水辺の状況に関して言えば外来生物法によって改善されたとほ言えない状況で、むしろ悪化の一途をたどっている印象を受ける。これは自分の行動範囲の話であって全国的な傾向とは異なるかも知れないが、特に特定外来生物に指定されたオオフサモやナガエツルノゲイトウは同じ期間に版図を拡大しているのである。つまり法が「法として」実質的に機能している状況に反し、対象となっている生物には歯止めがかかっていないという矛盾した現象が見られるのである。
 これは特定外来生物の飼養や売買、移動を禁止(*1)したとしても彼らが版図を拡大するスピードには何ら影響を与えない、という事実の反映に他ならない。また本法に定める防除(第三章、第11条〜第20条)に強制力がなく、地域によっては野放しに近い状況であると判断せざるを得ない。特定外来生物も種によって特性が異なるわけで、形だけの防除はむしろ広範囲に被害を拡大する(*2)だけであり、防除どころか版図拡大の背中を押す結果となるからだ。故なき非難と思われないように実例を挙げるが、関東地方で最もナガエツルノゲイトウの被害実態が大きな千葉県では、特に被害の大きな印旛沼周辺において防除が行われている。(例は以下)

千葉県(印旛地域整備センター)による防除
印旛沼流域水循環健全化会議による防除

 ナガエツルノゲイトウの防除においては「形だけの防除はむしろ広範囲に被害を拡大する」、つまり刈り取りで植物体の欠片を残せば流れ着いた先で更なる群落を形成してしまう。この程度の事実は上記リンクの防除主体では百も承知だろう。それにも関わらず印旛沼(手賀沼もだが)周辺の繁茂状況は年々悪化しているようにしか見えない。これは小規模な防除が最早通用しない段階であるということだろう。
 特定外来生物ナガエツルノゲイトウの被害実態が甚だしく、更に当地ではこれまた特定外来生物であるカミツキガメも急速に増殖している。まさに外来生物法が想定した「ホットスポット」であるはずだが、防除体制は上記リンクのように県や団体レベルしか見えない。本来、外来生物法には「主務大臣等による防除」という項があり、国が大規模な防除を行って然るべきだが、何ら痕跡がないのだ。念のため、全文を転載する。

第十一条 特定外来生物による生態系等に係る被害が生じ、又は生じるおそれがある場合において、当該被害の発生を防止するため必要があるときは、主務大臣及び国の関係行政機関の長(以下「主務大臣等」という。)は、この章の規定により、防除を行うものとする。

 まさに印旛沼周辺の状況は「当該被害の発生を防止するため必要がある」と思われるが、上記のように国(主務大臣等)の痕跡は見えない。多少意地悪だが国会質問で環境大臣に「印旛沼周辺の外来生物の状況」を抜き打ちで質問して欲しいものだ。たぶん事前カンペなしには何も答えられないだろう。
 この状況には外来生物法自体の抜け道が影響しているものと考えられる。抜け道とは「主務大臣等以外の者による防除(第18条〜第20条)」である。日本では地方自治イコール国の出先機関という認識、そしてそれを誰も不思議に思わないという社会だ。そもそも法律に国の責任と書いてあるのになぜ防除が自治体によって、場合により業務委託によりNPOや企業で実施されているのか。しかも第18条には「地方公共団体は、その行う特定外来生物の防除であって第十一条第二項の規定により公示された事項に適合するものについて、主務省令で定めるところにより、主務大臣のその旨の確認を受けることができる。(第18条第1項)」とある。ニュアンス的に国の責務を代替する方がお伺いを立てなければならないことになっている。どれだけ上から目線なのだろうか。個人的に正しい地方分権のためには第18条〜第20条は削除するのが妥当だと思う。

 現状では上記の通り、簡単に言えば「丸投げ」の連鎖が発生している。では予算も人手も限られる自治体が防除をどうするのかと言えばこれである。指名競争入札(*3)は予定予定価格を下回らず最も安い価格で落札される。これが原則であって、そこには自然科学の専門家がいるとか豊富な経験があるとか、こうしたパラメータは加味されない。それならば知識技術とも優れた企業と随意契約(*4)で実施すれば良いように思えるが、なにしろ相手は土木建設業。土建業、随意契約と揃えば痛くもない腹を探られる結果にもなりかねない。生態系に被害をもたらす外来種を排除する、簡単な話に思えるが法律が施行され国から地方自治体、委託業務まで降ろされれば大人の事情が絡んでくるわけで、なかなかすっきりとは行かないようだ。


【印旛沼周辺のナガエツルノゲイトウ】
Chapter2 二段構造
 外来生物法はこれだけ罰則の重い法律でありながら罰則の対象となるモノが法律に書かれていない、という特徴がある。もちろん「特定外来生物」という対象は書かれているが、それがどこの何物という点は法律だけでは分からない。同じ罰則(刑罰)のある刑法は章ごとに「○○に関する罪」とあり、○○は具体的な行為を示している。例えば傷害の罪(刑法第27章)の第204条には「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」とあり、具体的な行為と処罰がセットになっている。これは刑法全般に共通する構造で非常に分かりやすい。

 外来生物法はこうした構造ではなく、規制と罰則が法律条文の本体、対象物が別途という二段構造になっている。これは非常に分かり難い。対象となる特定外来生物は都度見直され、知らない間に追加されたりすることがある。例えばこの項を書いている2016年9月時点で、自分は新たにビーチグラス、ツルヒヨドリ、ナガエモウセンゴケが対象となった(*5)ことを知らなかった。
 外来生物は栄枯盛衰のある生態系の一部であり、状況に応じて指定種を追加削除できる「二段構造」は合理的である。法改正と言う時間も手間もかかるプロセスを経ずに即応できるからだ。しかしその追加削除の周知という点では構造的な弱点があると思わざるを得ない。

 ナガエモウセンゴケは食虫植物マニアの間で需要があり、通販でもよく目にするが、2016年8月指定、2016年10月規制開始のこの植物が9月時点では多くの通販サイトで販売されている。規制されるまでの間に売ってしまえ、ってことではなく単に知らないだけだと思われる。実はこの「知らないだけ」が恐くて、法律は知らない方が悪いのである。検挙されて「知りませんでした」は通用しない。
 一方、周知に関しては各種資料が配布されているようだが、私のような地方在住者がどこで入手できるのか分からない。環境省のホームページには告知されるが、定期的に中央官庁のホームページを閲覧する人間は少ないだろう。今やホームページでの情報公開が当然の時代ではあるが、利害の関連する人達が見なければ意味が無く、これは逆にインターネット時代の暗側面であるだろう。中央官庁を含むいかなるWebサイトも現時点では閲覧の義務は存在しない。まして官報を購読する層が、外来生物法で不利益を被る層のどの程度の比率なのか知る術もない。植物関連で言えば園芸店や水草ショップ、卸元は間違いなく官報は読んでいないはず。

 さて、一応当Webサイトは植物系サイトなので、特定外来生物のうち植物はどのようなものがあるのか一覧する。これが二段構造の二段目である。言うまでもなく二段目は法律の条文には書かれていない。主題としている水辺の植物に関しては太文字で表現している。法の規制によってアクアリウム系ではすでにオオフサモ(パロットフェザー)やミズヒマワリなどが流通ルートから消えているが、なじみのない特定外来生物(植物)を誤って採集育成してしまう危険は残るわけで、このジャンルの趣味者は自ら情報収集する必要があるだろう。


(P)特定外来生物に追加指定されたナガエモウセンゴケ


【特定外来生物(植物)】2016年10月現在
植物名 備考
キク
Compositae
ハルシャギク
Coreopsis
オオキンケイギク
ミズヒマワリ
Gymnocoronis
ミズヒマワリ アクアリウム逸出種
オオハンゴンソウ
Rudbeckia
オオハンゴンソウ 別名ルドベキア、ハナガサギク、ヤエザキハンゴンソウ等
キオン
Senecio
ナルトサワギク 河川敷や湿地にも生育する
ツルギク
Mikania
ツルヒヨドリ 2016年10月に追加指定
ゴマノハグサ
Scrophulariaceae
クワガタソウ
Veronica
オオカワヂシャ 低水温の環境で沈水化する
ヒユ
Amaranthaceae
ツルノゲイトウ
Alternanthera
ナガエツルノゲイトウ 利根川水系で多い
セリ
Apiaceae
チドメグサ
Hydrocotyle
ブラジルチドメグサ 西日本に多い。他種との同定が難しい
ウリ
Cucurbitaceae
アレチウリ
Sicyos
アレチウリ
アリノトウグサ
Haloragaceae
フサモ
Myriophyllum
オオフサモ アクアリウム逸出種
アカバナ
Onagraceae
チョウジタデ
Ludwigia
オオバナミズキンバイ アクアリウム逸出種とされる。オオバナミズキンバイ「等」と複数種が該当する
イネ
Poaceae
スパルティナ
Spartina
属全種 干潟を乾地化する強力な繁殖力を持つ
オオハマガヤ
Ammophila
ビーチグラス 未侵入ながら想定される被害規模に鑑み、2016年10月に指定
サトイモ
Araceae
ボタンウキクサ
Pistia
ボタンウキクサ アクアリウム逸出種
アカウキクサ
Azollaceae
アカウキクサ
Azolla
アゾラ・クリスタータ アゾラ農法(農業)逸出種
モウセンゴケ
Droseraceae

Drosera
ナガエモウセンゴケ 園芸逸出種、2016年10月追加指定

Chapter3 予防の論理
 特定外来生物に指定された生物には、実際に被害実態があり客観的に「特定外来生物」であると納得できる種がある一方、指定されてはじめて名前を知るようなモノが含まれている事実には驚きを禁じ得ない。自分自身、無知蒙昧な人間であることは否定しないが、それにしても植物に関しては世間一般の平均以上の知識は有しているはず。そういう人間が知らない植物がいきなり登場しても世間一般、どの程度認識があるか、甚だ心もとない。

 こうした指定種、よく知られていない生物の選定理由はズバリ「予防」である。前項の一覧表中、イネ科のビーチグラスはその典型で、環境省の公式見解としても日本には侵入していない。現時点ではフィールドで見ることが無く、植物に対する知見の多寡以前に存在を認識できない種である。こうした未見の種が特定外来生物に指定されたのは帰化してしまった場合の被害規模が甚大な物になることが「予測」され、尚且つ帰化定着にさほどの障壁がないことが「予想」されたからだろう。

 現状、こうした予見に基づく指定は多く、「現実の被害実態に基づいていない」としか思われない特定外来生物が多々存在する。たとえば植物ではないが、当初から特定外来生物に指定されたタイリクモモンガの解説は以下である。(環境省特定外来生物の解説、タイリクモモンガから一部抜粋)

タイリクモモンガ Pteromys volans
【定着実績】
・エゾモモンガ(P.v orii)は固有亜種。国内での定着については不明
【被害状況】
・エゾモモンガと亜種間交雑する。ただし、自然界での亜種間交雑については、確認された事例はない
【備考】
・フクロモモンガ(有袋類)、アメリカモモンガ、タイリクモモンガの3種がモモンガとして販売実績があるが、本種のみに在来種との交雑の危険性がある。 個人の飼育下などでの繁殖は難しいとされる。

 下線を引いた部分から素直に読み解くと「タイリクモモンガは帰化定着については不明、在来種と交雑の可能性はあるが確認された事例はない。しかし危険性はある」ということで、これが選定理由のすべてである。客観的に考えるとこの選定理由はかなりおかしい。論理学的な指摘は的を射ないが、危険性がある、ということは危険性がないかも知れない、と同義であるからだ。なにしろ確認された被害実態が皆無なのである。
 この被害実態のない大人しい動物が印旛沼で猛威を奮うナガエツルノゲイトウやカミツキガメと同じ扱い?と思ってしまう。もちろん遺伝子の攪乱や亜種の重要性(多様性)は認識しているので選定自体に反対しているわけではなく、根拠が成立していない気がするのだ。もっと言えばタイリクモモンガよりも先に指定すべき、根拠が目に見える外来種が多数あると思う。

 本稿を通じて何かを提起しようとか議論しようという気はないが、こうした予防的措置による選定は推定無罪(*6)の原則に反する。幸いなことに外来生物法の対象は人間ではないので変な所からの突っ込みは入らないが、精神として、予防に基づき、重い処罰が伴う法律と来れば悪名高い治安維持法(*7)を想起してしまう。相手は人間ではなく、恣意的に何かを狙い撃ちという事でもないので問題はないのかも知れないが、今後の展開として拡大解釈による「何でもあり」は避けて欲しい。

 タイリクモモンガの例が出たついでに。自分は植物以外に小型哺乳類の飼育を趣味としており、以前タイリクモモンガとシマリス(チョウセンシマリス)を飼育していた。タイリクモモンガは特定外来生物指定直前に亡くなって申請書提出の機会がなかったが、非常な違和感を覚えた。上記の通りタイリクモモンガは我が国に亜種エゾモモンガが生息しており遺伝的な攪乱の危険性がある。逸出しなければ問題は起きないが100%ではない。この理屈は理解できる。しかしシマリスもエゾシマリスと非常に近似(見た目では区別が付かない)しており、しかも販売数はタイリクモモンガより圧倒的に多いのだ。現在シマリスは特定外来生物に指定されておらず、客観的にはより危険度の高い生物と優先順位が逆転しているように見える。
 ブラックバスのキャッチアンドリリース議論(*8)ではないが、こうした選定に明確な理由が付かなければ何らかの力が作用したのか、と穿った見方をされても仕方がない。予防の理論に加えて優先順位の混乱、選定種と選定理由は外来生物法の一部ではあるが法律の条文と異なり選良の審査を経ているわけではないだけに分かりやすい説明責任が伴うと思うのだが・・。

Chapter4 名称変更の意味
 従来カテゴリー、要注意外来生物は2015年3月26日に廃止となり、新たに生態系被害防止外来種になった。このカテゴリー名称変更の経緯に付いて、環境省の説明によれば、(下線部、リンク先より引用)

 平成22年10月に名古屋で開催された生物多様性条約第10 回締約国会議において、「2020 年までに侵略的外来種とその定着経路を特定し、優先度の高い種を制御・根絶すること」等を掲げた愛知目標が採択されました。
 平成24 年9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」においては、愛知目標を踏まえ、外来生物法に基づく特定外来生物のみならず、我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種のリストを作成することを国別目標の一つとしました。

とある。しかしこの説明文を読む限り、本質は要注意外来生物と何ら変わっていない印象を受ける。たしかに「要注意」は誰がどのように注意すべきなのか、主語が見えない不思議な表現である。また法的にも注意義務もなく取扱上の罰則もない。はたしてリストアップする必要があったのか、必要があったとすれば次の特定外来生物候補という「舞台裏の」必要性ではないのか、と思う。選定委員が自分用のメモで持っていればよい話。公開しても実質的な抑制ができなければ同じではないか。
 この有名無実とも言うべき要注意外来生物が生態系被害防止外来種と名称変更されて何が変わったのか。上記環境省の説明によれば愛知目標という裏付けが加わっただけで、本質は何ら変わっていない。少なくても変わった内容を確認することができない。選定種(リストアップされた種)もほとんど要注意外来生物からの横滑りである。

 変更された点があるとすれば、選定対象に「国外由来の外来種だけでなく、国内由来の外来種も対象」も含まれた点である。愛知目標は生態系被害を主な観点としており、国内移入による生態系被害も侵略的外来種と同義であるとした点は評価できる。公開されたリストにも国内由来の外来種(表現が微妙だが)が10種掲載されている。(リストNo.191〜200、侵入予防外来種1、緊急対策外来種1、重点対策外来種6、その他総合対策外来種2)
 しかしこのカテゴリーを外来生物法の範疇に含めるのは現時点では不可能だ。外来生物法第2条の定義では本法の対象は「この法律において「特定外来生物」とは、海外から我が国に導入されることによりその本来の生息地又は生育地の外に存することとなる生物」とされている。条文通り解釈すれば国内移入種が含まれないのは明らかだ。もちろん生態系被害防止外来種は外来生物法の制約を受けず、上記の通り実質的に機能しないカテゴリーであるが、次の特定外来生物、という位置付けがあるとすれば、この位置付けは消えたことになる。
 リストに記載された国内移入種(国内由来の外来種)は、そのほとんどが南西諸島や高山帯の希少植物を保護するような意味あいが強く、これが主目的であればむしろ即効性があり狭い範囲で手が打てる条例などの方が良いように思う。

 外来生物法は国内法であるが、生物多様性条約(*9)は言うまでもなく国際条約である。生態系被害防止外来種というカテゴリーは、もともと枠組みが異なる両者の落とし所、折衷案のような印象を受ける。要注意外来生物というカテゴリー自体、上記のように実効性がないシロモノであったが、生態系被害防止外来種となると話が違う。外来生物法の第1条にはこう書いてある。

(前略)特定外来生物による生態系等に係る被害を防止し、もって生物の多様性の確保(後略)

 生態系被害防止外来種はまさに「生態系等に係る被害を防止し、もって生物の多様性の確保」することで、つまり特定外来生物そのものに他ならない。言葉遊びも重箱の隅をつつくつもりもない。しかし現実に生態系被害防止外来種に指定種があり、国内法で同じ意味合いを持つ特定外来生物がある以上、両者を明確に説明できる意味がなければ要注意外来生物と同じ、具体的な内容を欠いたお題目になってしまうと思う。

Chapter5 自然帰化の問題
 近年、どこからどうやって侵入したのか分からない、という帰化植物が増えている。身近な所では水田に多くなってきたアメリカキカシグサ。偶然なのか必然なのか、アクアリウムプランツに極めて近似した種(*10)があり、アクアリウム逸出の可能性がなくはない。しかし逸出帰化種のパターンである「一定時期に同時多発的に確認される」ものではなく、個人的には農業資材か何か輸入物資に混入したものが定着したのではないか、と考えている。帰化生物のカテゴリーで言えば自然帰化種ではないか、と。

 アメリカキカシグサは現状特定外来生物でも生態系被害防止外来種でもないが、現状の「暴れっぷり」を見ると今後何らかの指定が成される可能性は十分あると考えられる。指定の有無に異論を唱えるつもりはないが、危惧されるのは「巻き添え」だ。
 指定が成された場合、環境省では「アクアリウム逸出」と定義してしまうだろう。また指定パターンの傾向から「キカシグサ属全般」やオオバナミズキンバイの例(上記指定種一覧表参照)で見られるように「等」という指定があるかも知れない。こうなるとアクアリウムプランツにとってはダメージが大きい。現在輸入される水草の一定比率を占める「ロタラ」(ミソハギ科キカシグサ属)が対象となるからだ。
 こうした可能性は他にもあって、オオバナミズキンバイ(特定外来生物)、アメリカミズユキノシタ(生態系被害防止外来種)など被害実態が確認されているアカバナ科チョウジタデ属の植物が増えて来ている。これも将来的に「属全般」「等」という括りで規制がかかる可能性がないとは言えない。この「括り」もアクアルムプランツで一定比率を占める「ルドウィジア」である。以前アクアリウムプランツを趣味としていた感覚で言えば、ロタラとルドウィジアを抜きにしてはレイアウトは成立が困難になると思う。言い方を変えれば趣味にとどめを刺すことにもなりかねない。
 とどめを刺す主役が趣味からの逸出であれば仕方がない。自業自得である。しかし被害実態のないもの、根拠が希薄なものが更に巻き添えを発生してしまっては救われない。齧歯類(タイリクモモンガ)も水草育成も所詮不要不急の趣味である。しかし趣味は文化であって、ギチギチの規制が文化に影響を及ぼす事態は本末転倒である。なぜなら外来生物法の総則には本法の目的として「国民生活の安定向上に資することを目的とする」とある。幸いなことに我が国は先進国であって、衣食住を確保することだけが「国民生活の安定向上」ではないはずだ。文化的な活動が保証されることも含めての話であるはず。

 自然帰化は不可抗力である。しかしそれが思わぬ波紋を広げてしまった場合、予想もしない分野に影響が出る可能性もある。この流れが現状は「危険性がある」「現状は不明」レベルの希薄な根拠で決定されていることを忘れてはならないと考える。外来生物はたしかに不必要であり、生態系に影響を与える事態は避けなければならない。しかし対象選定にあたって現状は「何でもあり」になっているとしか思えない。錦の御旗に隠れた不都合は常に監視する必要があると思う。


(P)自然帰化と考えられるキレハイヌガラシ

脚注

(*1) 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律第4条〜第10条。特定外来生物のうち水辺の植物に関して言えば人間の行為を規制した時期が完全に機を逸している。外来生物法施行時点で水辺の特定外来生物(植物)は人間による運搬や放流というプロセスを経ることなく版図を拡大しており、法律や書類が何の抑制にもならない状況となっていたからだ。ブラックバスやカミツキガメは飛ばないので新たな水域に出現した場合、ほぼ人間の関与によるものと推測できる。この意味では抑止力になっていると思うが、植物の場合鳥による種子の運搬、草体の漂着による群落拡大など動きが変則的なのである。つまり新たな水域への出現が予測できない。このようなものを法律で規制することは不可能だからである。

(*2) ミズヒマワリの防除を見たことがあるが、方法は通常の河川堤防周辺の除草と同じ、つまり草刈機によるものであった。この方法では根が残るので根本的な防除にはならない上に、飛び散った草体の一部が水流によって他の場所に漂着しそこで新な群落を形成するので、かえって被害を拡大することになる。これは「形だけの防除はむしろ広範囲に被害を拡大する」典型的な例であると思う。

(*3) 対義語は一般競争入札。この場合、基本的に入札金額の安さだけで落札者が決定し、工事の技能や施工能力の高低は考慮されない。一方、指名競争入札は入札段階であらかじめ不適当な業者を排除できるメリットがある。しかし、特定外来生物防除の業務委託の場合、発注する自治体側にも受注する業者側にも対象となる種ごとの詳細な知識があるとは思えない。(あくまで自分の地元の役所と業者に付いての感想)指名競争入札に参加するにはノウハウや実績以外に色々あるが、あまり踏み込んでしまうと叱られてしまうので以下省略。

(*4) 国及び地方公共団体(自治体)が一般競争入札や指名競争入札を経ずに業務委託を行うことができる制度。無制限ではなく様々な制約があるが、「なるべく見積書を徴すること」、「なるべく二以上の者から見積書を徴すること」などやや玉虫色、つまり拡大解釈も許される制約が一定部分を占める。(予算決算及び会計令)従って公平性、透明性に欠ける印象があるが、入札と比べ早期の契約締結が可能なメリットがあり、災害復旧など緊急性を要する公共工事では一定の必要性がある。市町村レベルでは工事の場合、130万円以下は随意契約が許されている。少額であるためニュースになりにくいが、キックバックなど不正の温床になる可能性も高い。

(*5) 平成28年8月15日閣議決定による特定外来生物等の新規指定についてを参照。外来生物24種(うち植物は3種)が同年10月1日から特定外来生物に追加指定された。今回、本文にあるように、食虫植物として幅広く販売されているナガエモウセンゴケが含まれた。

(*6) 対象はもちろん人間だが「何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という近代法の原則。外来生物も好きで来たわけではなし、動植物だからと言って推定有罪のような理由で適当に扱われるのには違和感がある、というレベルの話。根拠に客観的な妥当性があれば問題はないが、現状の選定に「客観的な妥当性」は条件になっていない点を注意喚起したい。

(*7) 戦前に施行されていた国内治安を安定させる名目の法律。1925年制定・施行、1945年廃止。成立にはロシア革命後に国際的に高まりつつあった共産主義活動を牽制する政府の意図があったとされている。しかし現実には共産主義活動に加え、新興宗教、民主主義的運動、極右運動など広範に弾圧するための根拠として活用された。内容は現代から見るとお粗末そのもので、裁判官ではなく検事が逮捕状を発行できる、予備拘禁により容疑者を無制限に拘禁できるなどまともな法律ではなかった。

(*8) 外来生物法の規制事項、第2章第4条〜第9条にある飼養、輸入、譲渡、放出をすり抜けた扱い。ブラックバスを釣り上げてもその場でリリースすればこれらの規制にはかからない。つまり現状を追認する内容でしかない。施行時点にこの点が議論になった際に、釣具製造者や販売者などが一定の圧力をかけたのではないか、という議論があった。個人的にはブラックバスやブルーギルのルアーフィッシング自体を禁止すればこうした議論も必要ないと思う。念のため、これは本文にある「文化を滅ぼす」ものではない。ブラックバスやブルーギルの生態系に対する害は客観的に証明されているからである。

(*9) 正式には「生物の多様性に関する条約」(Convention on Biological Diversity)。2016年現在、アメリカ合衆国を除く全国連加盟国が批准している。会議はほぼ2年毎に実施されており、Conference of the Partiesの略称COPと呼ばれる。またCOPの次に開催回数が付与される。2016年は第13回(COP13)がメキシコのカンクンで実施。

(*10) アメリカキカシグサはアクアリウムプランツ「アルアナの夕焼け」と同種説並びに逸出説がある。(詳細は当Webサイト水草雑記帳「Invaderアメリカキカシグサ」参照)当該種は外来生物法に於いて何ら規制の対象とはなっていないが、近年千葉県北部〜茨城県南部に於いて急速に分布拡大している。


【参考文献】
日本の外来生物 自然環境研究センター著、多紀保彦監修 2008年 平凡社
外来種ハンドブック 日本生態学会編 村上興正・鷲谷いづみ監修 2002年 地人書館
外来水生生物事典 佐久間 功・宮本 拓海著 2005年 柏書房
帰化植物ガイドブック 2016年 東京都公園協会
増補改訂日本帰化植物写真図鑑 第2巻 植村修二他著 2015年 全国農村教育協会
アクアプランツ No.03 2006年 マリン企画

【参考記事・法令など】
特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律
特定外来生物等の新規指定について 環境省
外来生物法の問題点
(C)半夏堂
日本の水生植物 湿地環境論
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