日本の水生植物 水草雑記帳 Feature
トウサワトラノオ
(C)半夏堂
Feature Lysimachia candida Lindl.

サクラソウ科オカトラノオ属 トウサワトラノオ 学名 Lysimachia candida Lindl.
被子植物APGW分類 : ヤブコウジ科(Myrsinaceae) オカトラノオ属(Lysimachia
環境省レッドリスト2017 絶滅危惧TB類(EN)

撮影 2019年5月 栃木県 休耕田の自生地(fig1)

【トウサワトラノオ】
*近似種のサワトラノオ(Lysimachia leucantha Miq.)と非常に良く似ているが、外見上の相違は花弁の先端が尖ること(サワトラノオは丸みをおびる)、葯が黄色であること(サワトラノオは淡紫色)などにより区別される。仲良く国内の自生地が2箇所であること(トウサワトラノオは愛知県と栃木県、サワトラノオは静岡県と埼玉県)、ともに絶滅危惧TB類(EN)であることも同様。
 トウ、は塔のことで草体の高さを表現している和名かと思っていたが、実物を見た限りでは背丈はサワトラノオと大差がなく、むしろ小ぶりなものも多かった。「唐」、つまり中国を示すという説もあるがよく分からない。

2箇所
■絶滅危惧TB類(EN)

 2020年現在、日本国内では愛知県と栃木県、僅か2か所に残された希少種である。そのうち栃木県の自生地は長らく絶滅していたが、工事の撹乱によって約50年ぶりに復活したものである。自然破壊のイメージが強い「工事」だが、たまにはこういう良い事もあるようだ。そう言えば手賀沼近く、手賀川沿いでガシャモク注1)が復活したのも工事の攪乱による休眠種子の発芽だ。

 この栃木県の自生地が復活していなければ愛知県の1箇所の湿地にのみ自生、といういつ何時絶滅するか分からない極め付きの植物だが、近年の地球温暖化の影響による(異論はあると思うが)激甚災害によって湿地の存続自体が危機に晒されている。
 今までは考えられない短時間での降雨によって湿地に土砂が流入し埋もれてしまったり、逆に地形が変化して長期間冠水してしまったり、ということが頻発しているのである。


(P)2019年5月 栃木県 休耕田の自生地(fig2)


 このようなリスクを考えればたった2箇所の湿地なんてものは累卵の危うきにあり、環境省のレッドデータの評価である「絶滅危惧TB類(EN)」が妥当であるかどうか、微妙な所である。ちなみに下表で示す通り、このランクは環境省レッドリストのカテゴリー7つのランク(DD、LPは考慮外として)のうち上から5つ目、ランクとしては中間以下に位置する。

【環境省レッドリストのカテゴリー】
絶滅 (EX) 我が国ではすでに絶滅したと考えられる種
野生絶滅 (EW) 飼育・栽培下あるいは自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種
絶滅危惧I類 (CR+EN) 絶滅の危機に瀕している種
絶滅危惧IA類(CR) ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
絶滅危惧IB類(EN) IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの
絶滅危惧II類 (VU) 絶滅の危険が増大している種
準絶滅危惧 (NT) 現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」に移行する可能性のある種
情報不足(DD) 評価するだけの情報が不足している種
絶滅のおそれのある地域個体群 (LP) 地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの

 まだそれほど多くの種は掲載していないが、このWebサイト、featureのメニューをご覧頂きたい。サワトラノオもトウサワトラノオもトウゴクヘラオモダカやミズマツバのすぐ上のランクだ。これはどう考えてもおかしい。国内に2箇所しか自生しない植物が、多少探せば確実に見つかるはずの植物の一つ上の絶滅ランクということはないはずだ。
 そもそもこのカテゴリーはそれぞれのランクの解説がお役所特有の曖昧さに満ち溢れていていくら読んでも腑に落ちない。TA類とTB類の相違点「絶滅の危険性が極めて高い」「野生での絶滅の危険性が高い」であるが、TA類のシモツケコウホネは近年栃木県内に複数個所の自生地注2)が発見されているのに対し、TB類の本種トウサワトラノオは全国で2箇所である。自生地の数や残存個体数だけでランクを決めているわけではないだろうが、絶滅危惧種の大きな判断基準が現存数であることを考えれば矛盾している。私がここで文句たれてもどこにも届かないと思うのでこの辺にするが、絶滅危惧種のランクなんてそんなもの、目安程度だと考えた方が良さそうだ。

保護
■費用対効果

 せっかく復活した希少性の高い植物、しかも花も綺麗と来れば保護するのは当然のことだが、こんな特殊な植物を盗掘する輩がいるのだろうか?いるとすれば植物として見ているのではなく、希少性の高い商品としてしか見ていない人間だろう。しかも育成目的ではなく転売目的で。
 私が撮影に行った際にもしっかり監視されていたようで、何気ないふりで地元の方が偵察に来られた。(詳しくは本サイト探査記録下野のトウサワトラノオを参照)これをしなければ守れない、というのはつらい。

 栃木県の自生地は農村地帯のど真ん中、サワトラノオを見に来ても他には何も見るものがなく遊べる場所もない。これが私も数年間訪問に二の足を踏んでいた理由だが、植物趣味のない普通の方は尚更だと思う。つまり自生地を守っても観光資源にはならない。人が来ないので経済効果もない。行く側から見れば、お金を使いたくても使う店もない。つまり保護という費用が発生する割に効果がない状態である。


(P)2019年5月 栃木県 休耕田の自生地(fig3)


 例えば日本で1箇所しかないビャッコイ注3)の自生地は近所の方が巡回で来ることはなかったが、この違いは植物が地味なカヤツリグサで商品価値がない、と思われているためだろうか。私が行った際には人が守らなくても恐ろしい数のヤブ蚊の編隊が守っていたので人間より強力なディフェンスになっていたが、もちろんそんな問題ではない。盗っ人を見分けて噛みつくマムシでもいればインディージョーンズに出てくるような数を放し飼いすればトウサワトラノオは守れるが、残念ながらそんなものはいない。
 公式には下野市のバックアップの下、下野市トウサワトラノオ保存会が自生地の管理を行っているが大半はボランティアであることが想像できる。人員の確保など困難な点が多いことは似たような活動をしていた経験から容易に想像できる。その結果得るものが「トウサワトラノオの元気な開花」。これが本来の姿だとは思いつつ、人間が動く普遍的なモチベーションになるのか?と考えてしまう自分は経済原則というサラリーマンの宿命に毒されているのだろう。

■維持裏技

 トウサワトラノオはもちろん育成した経験はないが、近似種のサワトラノオは挿し木による増殖株を分譲して頂き育成した経験がある。生育条件が似たようなもの、という仮定が前提になるが、育成はさほど難しいものではないと考えられる。自生地が大河川に近く(しかも最近何かと大暴れしやすい鬼怒川注4)地形が平地であるということは前述のようにいつ何時洪水で土砂に埋もれてしまうかも知れない、という危険がある。嫌な想像だが危険がある以上、何らかのリスクヘッジが必要だろう。
 栽培がさほどの難易度ではないことを考えれば、例えばサワトラノオにおける埼玉県環境科学国際センターのように公的な機関や植物園などで系統維持を行っても良いと思う。さらに一般の「好き者」に里親になってもらう手賀沼ガシャモク方式注5)もよいかも知れない。私はそんな責任のかかる育成はまっぴら御免だが、いざという時にはこのような存在が大きな力になるだろう。多少アングラで流通を行なえばオオクワガタ型の保護注6)が可能になるかも知れない。どちらにしてもこれだけ綺麗な花を限られた人間しか見ることができない、ってのはもったいない。

 この記事の画像はすべて同一日に自生地で撮影したものであるが、自生地ほぼ全域に広がっていることから推察し、実生も多いのではないか、と考えられる。どんな条件で発芽するのかまったく分からないので何とも言えないが、種子での拡散も可能なのではないだろうか。
 他県のことなので余計なお世話なわけだが、地形を見て消失の危うさを感じた部分もあり、また個人的希望として、この美しい花をまた見たくなった時にどこかで見られる、という安心感も欲しくなり僭越なことを書いてみた。この心象はかつてコシガヤホシクサが自生していた砂沼注7)の現在の状況と、奇跡的に筑波実験植物園で保全している状況を見た際に感じた事と根が一緒である。それはどこの自生地でも脳裏に浮かぶことだが、ちょっとした台風や大雨で消え去ってしまうという、一種の危機感である。

出所不明
■市場流通

   と、ここまで書いて来て調べてみると(この時点で十分迂闊だが)ごく少ない事例ながら個人で育成している方や園芸店のブログに掲載(ただし非売品)されているものが確認できた。この状況は前述したように種の保存という側面から見れば明側面であるが、商品価値を持ってしまったと考えれば暗側面でもある。もっとも私も個人でサワトラノオを育成しているので事情をご存じない方が見れば同じように感じられるだろう。

 地元保護主体や市が私のように種の存続を考えてリリースしたという記録はないし、他には愛知県の1箇所しか自生地がない現状を鑑みればおそらくゲリラ流通であり、出所は不明と判断せざるを得ない。もしかすると盗掘株かその増殖株の可能性もある。この手の話は不愉快感を伴う倫理の論議になりがちなのであまり好きではないのだが、希少種であろうとなかろうと植物採集には付きまとう話であるのできちんと整理をした方が良さそうだ。


(P)2019年5月 栃木県 休耕田の自生地(fig4)


■野生植物の採集問題

 野生植物の採集問題を考える場合、一つのガイドラインとして森林法注8)という法律が目安になると思う。残念ながら湿地植物に関する「湿地法」というものはないので、似たようなポジションニングのものを参考にするしかない。場合によって森林の合間にある湿地も連続した地形としてこの法律の適用を受ける可能性もあるので知っておくに越したことはないだろう。

 この法律の第197条に「森林においてその産物(人工を加えたものを含む。)を窃取した者は、森林窃盗とし、3年以下の懲役(以下省略)」とあるが、問題は条文中の「産物」が具体的に書かれていない点である。拡大解釈すれば植物や昆虫、無機物の石や土にいたるまで産物と言えなくもない。よくある話でマツタケが出る山に地権者が「採集禁止」の札を立てるのは森林法の規定に加えてさらに「専有」を宣言したことになり、勝手にマツタケを採れば「森林窃盗」である。
 管理者が意思を明示しなくても採集のために他人の所有地に立ち入れば、別の法律(刑法)による「不法侵入」で、私がよくやっている休耕田での植物撮影や採集も、地権者が存在する以上、下手をすれば該当してしまう。(実際問題そこまではならないが)下野市のトウサワトラノオの自生地にも地権者がいるはずだし、何よりも案内板に「保全地」と書いてある。この場合、立入と採集を明示的に禁じていると解釈すべきで、保全地では採集は原則禁止である、というのは飛躍した考え方ではない。

 法律が変わると全く別の視点による解釈が出てくるのはこの国の弱点であるが、民法の規定(第239条1項)には「所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。」とある。(無主物先占という考え方)おそらく子供の昆虫採集や河川湖沼での釣りを想定したものであると考えられるが、民法だけで理論武装すれば採集OKという考え方も成立してしまう。しかしよく考えれば刑法や森林法は民法に優先する事象であり、厳密に考えれば昆虫や植物といった「無主物」であっても、他人の土地には立入をせずに占有しろ、って話になってしまう。

 法律上の解釈は別として、実際問題欲しい植物があれば採集して持ち帰る行為を日常的に行っている。しかし水田でも湿地でも、雑草範疇の植物採集で文句を言われたことはないし、地権者とその場で世間話をしたことも度々ある。一方、トウサワトラノオやシモツケコウホネの自生地や採集禁止の国立公園内などでの植物採集はしたことがない、と自信を持って言うことができる。
 曖昧かつ非論理的な話で恐縮だが、そこには「一般常識」と「倫理観」というものがあって、自分自身特別に常識的で倫理観を持った人間であるとは思わないが、この判断で間違ったことはない。こんなことはあえて書くまでもないと思うが、世の中幼稚化というか物事を一面からしか見ない人間も増えているのであえて記しておくことにする。

朱鷺化
■中国に産するのか

   よく知られている事実だが、現在新潟県佐渡市の佐渡トキ保護センターで繁殖及び野生復帰がトライアルされているトキは中国産である。トキの学名がNipponia nipponであることを思えば忸怩たるものだが、いないものは仕方がない。最後の日本の朱鷺はキンというメスで、2003年に死亡し(日本産トキの絶滅)佐渡トキ保護センターで剥製となっている。かつて日本のお家芸であった半導体や液晶ディスプレイも国内ではほぼ壊滅状態、中国、韓国、台湾産が広く出回っている現状を思えば同じようなパターンか。

 トウサワトラノオのトウは唐で、中国にも産する、中国に自生が多い、という真しやかな話があふれているが、誰か裏を取っているのだろうか。ネーミングからの「想像」が劣化コピーとして出回っているのだろうか。昨今の政治的軋轢とは別に、中国、韓国の自然、特に植物には興味があって機会がある度に現場を見たり現地の植物図鑑を購入したりしているが、中国では限られた行動範囲ながら見たことはなく、収録数の多い湿地植物図鑑注9)にも記載はなかった。


(P)2019年5月 栃木県 休耕田の自生地(fig5)


■朱鷺化

 仮に俗説の通り「中国に多い」のであれば遺伝的系統は別として、種としての存続は問題がないことになる。非常に乱暴な話だが、日本国内で絶えてしまっても中国から譲り受けて増殖すれば良い。(だから国内で保全しなくて良い、と言っているわけではない)しかしそれを言い出せば、ビャッコイが絶えたらオーストラリア注10)から、カラフトグワイ注11)は中国黒竜江省から導入すれば良いという話になってしまう。種の保存という点では有効だと思うが、国内の生態系を保存する、という考え方で見た時に「朱鷺化」は如何なものか、と思う。

 佐渡トキ保護センターの取り組みやその支援を行う方々を否定するものではないし、この事業は国民的コンセンサスを得ているもので、私ごときがグチグチ口出しすることではない。しかし放鳥や自然繁殖が大成功し、トキが再び日本の空を飛びまわるようになった未来を想像した時に「すばらしい」という感想と「でもそれって外来種だよね」という相反する気持ちがわいてこないだろうか。そこはかとない「偽物感」とでも言うべきか。希少な生物なので大同小異(系統)には目を瞑る、という流れと、しぶとく見かけも違うので排除するという外来種、両立する考え方なのだろうか。それはそれ、という便宜的な考え方は対自然環境の思想として相応しくないようにも思われる。
 仮にカラフトグワイが近場の植物園や湖沼で見られれば個人的には嬉しい。対面を熱望している植物の一つであるからだ。それが遺伝的系統の異なる中国産であっても見た目が同じであれば気にしないと思う。しかしそのメンタルは何でもかんでも植物を輸入し、観賞用とし、飽きたら放棄するという外来種問題の一つの「根」と同じであるような気がする。

■希産の謎

 サワトラノオの育成経験やトウサワトラノオの繁茂状況を見て、それぞれ日本国内に2ヵ所しか自生地がないほど脆弱な植物ではないように思われる。少なくても同属のノジトラノオやクサレダマ程度の生命力は持っているように見えるが、なぜこれほど少ないのだろうか。元々分布が薄い、と思えば納得できなくもないが、オカトラノオ属の植物達は現状の自生地から分布を拡大するだけの繁殖力を持っている。日本にそれぞれ2ヵ所という分布はどう考えても極端に過ぎるのである。
 極端に希少な植物は、一部のものを除き注12)育ててみると意外なほどの生命力を見せてくれる。絶滅危惧IA類(CR)のガシャモクでも、睡蓮鉢に1本刺しておけば1シーズンでちょっとした茂みになるほど増殖する。幻化しつつあるフサタヌキモ(絶滅危惧TB類(EN))も無性生殖によって持て余すほど増殖する。生育条件や殖え方はそれぞれ同属かつ一般種のササバモやイヌタヌキモ(と言っても今や絶滅危惧種だが)と大差がない。サワトラノオも同じサクラソウ科のクサレダマと育ち方は似たようなものである。それでも自然下では自生場所、株数に圧倒的な差がある。これはいかなる理由だろうか。

■減少モデル

 植物の生育や増殖、版図の拡大、あるいは減少、消滅には無数のパラメータがあって、複雑に影響し合っており、単純なモデルでは語れない。あえて単純化するとすれば、多少突飛ではあるが、損益分岐点の考え方で仮説が成立するような気がする。例えば、100という生育環境の分岐点があった場合、101で植物は徐々に増えるし版図を拡大する。しかし99では徐々に衰退する。上記の例で、私の育成環境が110であった時、分岐点が100の一般種も105の希少種も十分に余力のある環境なので似たような育ち方、殖え方をする、という考え方である。個人の育成環境、しかも植物第一で考えているのでこれは当然の話。
 一方、現状の水辺環境が劣化しているのは確かで、生育環境を95程度と想定した時に、一般種も徐々に減少(これは上記例、ササバモやクサレダマにも該当する事実である)するが、より振り幅の大きな希少種は加速度的に減少すると考えられる。くどいようだがこの世界、パラメータが多すぎて単純化できるものではないが、一つの仮説、公式としてはこのようにも考えられるのではないだろうか。

 栃木県下野市のトウサワトラノオは攪乱によって50年ぶりに復活したものである。一般に50〜60年とされる休眠種子の寿命を考えれば限界ギリギリかも知れない。この一事をもってしても奇跡的であるが、逆に考えれば50年の間、トウサワトラノオの種子は発芽して成長する環境ではない、と考えていたわけだ。この事実からいかに湿地環境が長い年月の間、劣化していたかが分かる。植物だけにフォーカスすると大局を見失うが、減少や復活は単なる現象面の話であって、先に来るのは環境保全という、いつもながらの結論である。

脚注

(*1) ヒルムシロ科の希少種で、現在わが国で唯一自生しているのは福岡県北九州市南部のお糸池であるとされている。以前自生が確認された琵琶湖や利根川水系ではおそらく野生絶滅していると考えられる。しかしトウサワトラノオと事情が異なるのは、アクアリウムやビオトープ用としての流通があり、相当数が残存しているという点。この意味では自然下では滅多に見つからないオオクワガタが趣味者の手によって増殖され、相当数が飼育されている事情と似ている。和名由来は肥料としてかき集める際の農機具の音という説があるが、現状沈水植物がほとんど見られない千葉県の手賀沼や印旛沼でも、ごく普通の水草であったようだ。

(*2) シモツケコウホネは発見当初(2003年発見、2006年新種記載)は日光市の自生地だけが知られていたが、その後栃木県内の那須烏山市、さくら市、真岡市で発見され、合計4カ所の自生地が確認されている。茨城県西部の桜川市、筑西市あたりは地形的に「何となく」栃木県に繋がるエリアであり、自然環境も似たようなものなので、もしやと思い何か所か探してみたが見つからなかった。都道府県という区分は人間が決めたものなので植物の自生には関係ないが、本文にある通り、理由はよく分からないが栃木県には植物分布の特異性があるようだ。

(*3) 日本にたった1箇所、福島県白河市の杉林の奥にある湧水水源地にのみ自生するカヤツリグサ科の植物で、少なくても国内では1属1種。見た目にはマツバイやハリイのようにも見える。以前は周辺の河川にもあったというが、なぜこの付近にピンポイントで自生するのか分からない。渡り鳥伝播説もあるが、渡り鳥によるものであれば毎年行き来があるはずで、少なくてもキタミソウ並みの自生地の数があっても良さそうだ。尚、和名は白虎藺だが戊辰戦争の白虎隊に由来する。同じ福島県だが会津と白河は相当離れており関連性の感じられないネーミングとなっている。これは発見者と命名者が異なり、情報伝達の手段が未発達の時代背景があるようだ。

(*4) 記憶に新しい所では2015年に発生した「平成27年9月関東・東北豪雨」による茨城県常総市での堤防決壊、氾濫。鬼怒川は過去にも多くの災害が発生しており、過去の災害一覧は国土交通省Webサイトで見ることができる。茨城県南部ではもう一つの「暴れ川」である小貝川と絡み合い(現在では分離された)多くの災害をもたらしてきた。なにしろ鬼が怒る川である。その破壊力は名前からも推測できる。この2つの暴れ川、鬼怒川と小貝川はそれぞれ私の居住地の上流と下流で利根川に合流するが、利根川の治水が相当高度に対策されているせいか近年は氾濫していない。

(*5) 手賀川沿いで休眠種子が発芽したガシャモクは我孫子市の手賀沼親水広場にある水の館という施設で維持されている他、里親を募って分譲も行っている。(今はどうか知らないが)ガシャモクは通常では市場に出回るような植物ではないが、市場で取引されている株はこの辺が出所であると思われる。つまり今出回っているものは遺伝的に同一の手賀沼系統のものではないだろうか。ガシャモクは無性生殖でがんがん増える育成の容易な水草であるが、里親が「俺の家で増えたものは俺のもの理論」で流通させた可能性が高い。どちらかと言えばその結果を享受もしている(趣味者から頂いた株が自宅で育っている)ので倫理的な部分がどうか、という批判はできないが、少なくても本家本元に何かあった時にはバックアップするつもりなので全く意味がない、ということはないはず。

(*6) 脚注1参照。一時期の過熱的なブームは終わったようだが、いまだに趣味者は多いようだ。育成目的は1mmでも大きなオスを作出することで、1mm1万円というアホのような価値観(失礼)もあった。しかしこれらの幾多の育成者が自然下でのオオクワガタの存続に寄与できるかというと疑問が大きく、第一に現金価値のある生体を自然再生には使わないだろうし、第二に滅多やたらにリリースされては生態系もへったくれもない。言ってみれば趣味者がいるので絶滅はしないが、その生息場所はどこかの家やマンションの飼育箱の中、ということで「絶滅しない」ことに意味があるのかどうか微妙な所ではある。

(*7) 茨城県下妻市にある農業用ため池。周囲6kmと、ため池にしては大きい。以前ここにあったコシガヤホシクサは世界でも越谷市と下妻市にしかない希少な植物であったが、どちらも絶滅している。現在越谷市で植栽されている株、筑波実験植物園で展示されている株はどちらも砂沼の系統である。砂沼の現状は水質悪化が甚だしく、アオコが浮く富栄養の池となっている。コシガヤホシクサ他沈水植物は見られず、残念な状況である。ため池ではあるが周囲は公園化され、人口4万の市にはオーバースペックな憩いの場となっている。人口10万のわが町にこれだけの公園がないのが普通なのか下妻が分不相応なのか・・・普通に考えれば人口10万の町の現状は逆の意味で身の丈に合っていないのかも。

(*8) 昭和26年施行の森林生産力向上を目的とした森林行政の基本法である。保護監督の行政規定と盗伐などに対する特別刑法を内容とし、当然ながら刑事罰を伴う意外に重い法律である。重い刑事罰ありき、だが本文にあるようにその対象物が具体的ではなく「産物」としか書かれていない点で紛れがある。この点は外来生物法が条文に重い刑事罰を明記しながらも、その対象となる特定外来生物が別建てで、国会審議を経ずに指定や解除ができるという2段構造になっていることと似ている。考えようによっては究極の後出しジャンケンであり、本来民主主義国家にはそぐわないような気もする。

(*9) 手元に上海の空港で買った「湿地植物」という図鑑があるが(中国語が読めないので)写真や絵と学名を見る限りトウサワトラノオは掲載されていない。中国にこのジャンルの図鑑が存在する事自体が驚きなので多少の「抜け」はご愛嬌だと思うが「中国に多い」のであれば載っていても不思議ではない、とも思う。今度行った際には田舎の湿地と大きな書店を中心に見て回ろうと考えていたが、予想に反し身の回りが何かと忙しくなってしまったことと、2020年発の新型コロナウィルスのためにしばらくは行けそうにない。

(*10) ビャッコイがオーストラリアにも自生するという情報は確定情報ではなく、個人的な調査からの推論であり、情報精度は保証の限りではない。(詳細は本サイト内の記事推定帰化種の絶滅危惧種を参照)尚、ビャッコイは学名であるIsolepis crassiusculaで検索をかけてみると、オーストラリアとパプアニューギニアに分布する、とあるがこれはあくまで状況証拠。北欧の植物と同種、という説もあるが渡り鳥による伝播も考慮に入れれば渡りの方向が概ね南北であることから個人的に南半球由来説に傾いている、という話である。もちろん渡り鳥による伝播も確証はない。

(*11) Sagittaria natans、属名から分かるようにオモダカ属の植物であるが、寒冷地仕様の植物らしく北海道の然別湖など何カ所かに自生するとされ、また現状不明の場所も多く、文字通り絶滅に瀕している。(環境省レッドデータ:絶滅危惧IA類(CR))何人かの旅行者のレポートを読むと中国黒竜江省でそこそこ目撃例があり中国東北地方には残存が多いようだ。尚、2017年にカラフトグワイの新産地として岩手県の夜沼で発見・同定されたという情報がある。(植物研究雑誌92号、岩手県夜沼(国内新産地)から見つかったカラフトグワイ(オモダカ科)のDNA塩基配列に基づく種同定

(*12) 同じ希少種でもムジナモなどは絶望的に育成が難しい。育成成功者(貉藻栽培録参照)によればアオミドロなどの藻類が大敵で、ミョウバンやら稲藁やら裏技を駆使して押さえ込んでいるが、相当小まめな管理が必要であり、私なんぞでは到底真似ができない。ムジナモの最後の自生地である埼玉県羽生市の宝蔵寺沼も際だって水質が良い、というわけではなく、アオミドロなどの藻類もそこそこあるがどのように生育しているのだろうか。残念なことにムジナモが生育するエリアは一般見学者は立入禁止となっており仕組を見る事はできない。
 湿地植物ではないが、極め付きの希少種(なにしろ1株しか残存していない)である小笠原のムニンツツジは研究が進み、特殊な土壌の組成が不可欠であることが判明したようだ。このように特殊な環境が必要な場合もあり、何でもかんでも個人で育成環境を整えれば育つ、というわけではない。


【Photo Data】


・Canon EOS6D + EF-70-200 F4L IS USM *2019.5.11(fig1,fig2,fig3,fig4) 栃木県下野市
・SONY DSC-WX500 *2019.5.11(fig5) 栃木県下野市


Feature Lysimachia candida Lindl.
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