日本の水生植物 探査記録
Vol.136 異形の宴 後編

Location 茨城県取手市
Date Few days in September&October 2014
Photograph Canon PowerShotS120、RICOH CX5 SONY Cybershot WX300
        SONY Cybershot RX100

Weather
Fine
Temperature
25〜27℃
おそまつ


(P)「いらない」3種が繁茂する公園の水路 9月中旬


 水田にアメリカキカシグサが繁茂し新たな帰化種の脅威が現実になりつつある今現在、水田地帯のど真ん中にある公園で信じられない光景を見た。水路に手前からオランダガラシ、ホテイアオイ、オオフサモ、それぞれ凶悪な形容詞を持った外来種である。外来生物法上、オランダガラシは要注意外来生物、ホテイアオイも要注意外来生物、オオフサモは特定外来生物だ。おまけにオランダガラシの間にはセイタカタウコギ(同、要注意外来生物)が顔を出している。
 この公園は水田探査の際の休憩ポイントとして活用させて頂いているが、何度か市の名前が入った軽トラが来て清掃作業を行っていたので市営なのだろう。自治体が管轄する公園にしては植物の構成が寒すぎる。なにしろ水路の植生が要注意外来生物3、特定外来生物1である。



 この水路が流れ出す池のほとりに歩いて行くとミズヒマワリが咲いている。これも言うまでもなく特定外来生物だ。水田地帯、水路が縦横に掘られた地域のど真ん中に水生の要注意外来生物2種、特定外来生物2種。(セイタカタウコギは今更なので除外)いわば火薬庫で焚き火をするようなもの。この事態に市が気が付いていなければ度を超えた間抜け、気が付いて放置しているのであれば厚かましすぎる怠慢である。(納税者なのでこのぐらいは言う)

 ミズヒマワリに付いては当シリーズ「Vol.87 新利根川外来種繁茂(*1)」で報告した通り、オオフサモと共に新利根川流域から河口である霞ヶ浦の多様性の湿地、浮島湿原にいたるまで定着繁茂し問題となっている外来種である。近隣自治体が苦労して防除に努め、新聞地方版にも度々報じられている凶悪なモノがここにある。もちろん防除された形跡もなく「ありのままに」繁茂しているのである。
 周辺の水田地帯に出て行くのは時間の問題だが、無印のアメリカキカシグサがこれだけ猛威を奮う状態で更にこんな連中が定着すればどうなるのか、考えなくても分かりそうなものだが、感覚が農家と同じ「雑草が生える場所に種類の違う雑草が生えるだけ」なのだろうか。

 居住する人間として自治体の自然に対する考え方は気になる所だが、主な趣味が「こういう世界」だと尚更気になる。以前当コンテンツで公開していた「Vol.90 伝説の沼を探査する(*2)」でも述べたが、市の公開していた(さすがに現在は消されているようだが)Web植物図鑑では市内の貝塚沼という湿地にタコノアシ、ミズオトギリ、クサレダマ、ミズトラノオが自生していると書いてある。数年来貝塚沼の位置が特定できなかったが、実は沼そのものが埋め立てや遷移によって消滅していたという「落ち」。 僅かに残った湿地にはアシ以外見るべきものがなく粗大ゴミの投機が目立つ「ゴミ捨て場」であった。
 現在の姿を検証もしないで過去の記事を掲載し続ける姿勢も問題だが、諸般の状況から調査を行う、という発想自体がないのではないかと思う。市内にアメリカキカシグサが入り込んだ事を知っている人間はおそらく行政の側にはいないだろう。もっとも知ったとしても外来生物法上「無印」の植物に対し積極的に行動するとも思えない。なにしろ「印付」でさえこの有様なのだから。ちょっと執拗だが、一体彼等がどのような「仕事」をしているのか伺い知れるモノがある。

取手市 自然・環境・動植物
 特に環境保護のコンテンツは「外来生物Q&A」という寒い内容(詳細は環境省への外部リンクで済ませている)の記事が一本のみ。環境保護が外来生物の問題だけではないことは明らかだが、その外来生物の問題にしてもこの程度の記事のみとは驚くばかり。駄文ながらWebサイトに記事を公開する立場として、この程度なら公開しないほうが良いと思う。一方、利根川を渡った隣県市町村。

我孫子市 自然のなかで楽しむ
 質量共に圧倒的な大差。Webサイトの情報のみで評価はできないと思うが、同じ税金払うならこちらに住みたい。(まっ、住まなくてもすぐ行けるわけだが)外来種に関する防除は五十歩百歩だが、少なくても自然に親しむ環境を多く整備しているのは間違いない。利根川の北側、自然環境の少ない「水と緑の町」の行政の方々には、

仕事のクオリティを上げてもらいたい



(P)開花する特定外来生物ミズヒマワリ 9月中旬

迂闊

 古顔の帰化種、セイタカタウコギ(アメリカセンダングサ)は日本古来のタウコギを駆逐し、水田地帯で最も普遍的な外来生物の一つとなっている。・・・という数年前の状況が大きく変貌していることに迂闊ながら最近まで気が付かなかった。
 セイタカタウコギなんぞ水田歩きでは最も興味のない植物のひとつで、調べる以前に視線に入っても「見ていない」。結実期には「ひっつき虫(*3)」果実が嫌でむしろ避けている。ところが最近、姿形は似ていても微妙に異なる新顔が混じっていることに気が付いた。
 新顔はコシロノセンダングサ(シロノセンダングサ)、コセンダングサなどで、セイタカタウコギのような頭花の周囲の托葉がない。またコシロノセンダングサは白い花弁を持っている。しかし草体全体の印象は極めて似ており、開花していないとなかなか区別が付かない。
 両種は水田畦や湿地にも存在するが、乾燥に耐える性質を強く持っており、空き地や路傍にも多い。何となく「最近色々な場所にセイタカタウコギが生えているなあ」程度の認識では気が付かないのも道理。かくして彼等がいつ「新顔」になったのかも定かではない始末。木は森に隠せ(*4)というが、この手の植物の愛好家としては迂闊そのものであった。

 そもそもコセンダングサ(Bidens pilosa L. var. pilosa)は江戸時代に帰化したとされているが、2000年以降、自分が水田地帯の雑草を見るようになって13,4年、この一帯ではまったく気が付かなかった。各種資料やWebサイトを調べても、各地で近年セイタカタウコギに取って代わった、という記述が多く見られるので、爆発的に広まったのはごく最近のことである可能性が強い。もちろん上記のように気にした事がなかったので推測だ。
 同程度に爆発しているコシロノセンダングサ(シロノセンダングサ、Bidens pilosa Linn var. minor)は明治時代後期に定着帰化したとされるが、目立つようになったのはコセンダングサと同時期であるので、両種が繁茂する要因、例えば平均気温や降水量など気候要因が関与している可能性が強いと考えられる。(確証はない)両種とも(*5)外来生物法上の要注意外来生物であり、この現状は憂慮すべき状況だ。

 セイタカタウコギ(アメリカセンダングサ)も以前から要注意外来生物だが、そうは言っても今更どうしようもないと思う。「憂慮すべき状況」ではあるが、狙い撃ちの防除は主体がどこであれ、費用的にもパワー的にも不可能であるし法的にも特定外来生物ではないので義務もない。これはセンダングサ属の外来種に限らず「要注意外来生物」というカテゴリーすべての生物に言えることではないだろうか。このあたりが外来生物法の有名無実、指定しても何ら変わりがない現状だと思う。


(P)増加してきたコセンダングサ 10月中旬

圧迫?されつつあるセイタカタウコギ(アメリカセンダングサ)頭花下に目立つ托葉が見える コシロノセンダングサ(シロノセンダングサ)。頭花に白い花弁がある。本種に関しては注釈にある通り分類に異論も存在する

似て非なるもの

 迂闊その2、水田雑草スカシタゴボウ(アブラナ科)は根生葉が羽状に切れ込むことでイヌガラシやヒメイヌガラシ(交雑種)と区別できるが、どうも妙な切れ込みの葉を持つ連中が目に付くようになってきた。雰囲気はスカシタゴボウに似ているが、全体的に違和感がある。調べてみると近似種に帰化種であるキレハイヌガラシ(Rorippa sylvestris L.Besser)やコゴメイヌガラシ(Rorippa obtusa (Nutt.) Britton )という種があると言う。他にもキレハミミイヌガラシ(Rorippa ×armoracioides (Tausch) Fuss)、サケバミミイヌガラシ(Rorippa amphibia (L.) Besser)、ミミイヌガラシ( Rorippa austriaca (Crantz) Besser)、マガリミイヌガラシ(Rorippa curvisiliqua (Hook.) Bessy ex Britton)など、あまり聞かない帰化種やら交雑種 (*6)やらがあるらしい。

 本種(と呼べるかどうかは別として)を2箇所の水田で調査中、どちらも自分の水田だという農家のご婦人が話しかけてきた。(というか挙動不審者かと思い軽トラで追いかけてきた)田んぼ探査で怪しまれた(*7)のは久しぶりだが、話してみるとすぐに仲良くなり「去年ぐらいから見たことも無い雑草が多数生えてきた」という決定的な話を聞くことができた。うち1種は直前に発見していたミズマツバ(*8)で、農薬の使用減少によって埋土種子が発芽したもののようだが、他は件のアメリカキカシグサ、イヌガラシやスカシタゴボウに「似て非なるもの」らしい。
 シーズンにはほぼ毎日水田を見ている農家の方が「見たことがない」と言っている以上、従来知られている種ではないことは確かだと思う。また目の前で実物を見ながら会話したので間違いないだろう。少なくてもスカシタゴボウでないことは確かだろう。
 これが何なのか正直よく分からない。上記の通り名前はあちこちに落ちているが、画像があまり無いので突合せも出来ない。学名で検索し海外サイトまで網を広げると色々出てくるが、見掛けが似たものがあっても決定的な同定ポイントが書いてなかったり、要するに断定ができない。どうやら花が咲くまで保留にせざるを得ないようだ。

 今回帰化種の話が中心になってしまったが、元々の目的というか発作的に「ミズネコノオを見たい」と思い立った希望は何とか達成された。ただし自生していた昔ながらの植生が見られた水田はたった1箇所、その他はこれまで書いてきたようなカオスの状況であって全体の傾向を示していることは間違いない。本末転倒ながら次回その「昔ながらの植生」に付いてもご紹介したいと思う。


(P)微妙な雰囲気のイヌガラシ属植物 10月下旬

スカシタゴボウやイヌガラシと異なり、相当な密度で群生する 根は太く直進する

脚注

(*1)(*2) Vol.87 新利根川外来種繁茂(2010年8月公開)、Vol.90 伝説の沼を探査する(2010年9月公開)当コンテンツ記事。現在は公開を終了している。内容は前者が新利根川に繁茂し問題となっているミズヒマワリの実態を調査したもの、後者が市が公開していたWebサイトで希少種が自生するとした沼の位置がどうしても特定できず、詳細に調べたところ沼自体が消滅していた、という調査記録。両記事とも再公開の予定はない。

(*3) 果実表面に鉤毛を持ち、動物や人間の衣服に付着して散布される種子の総称。自分では子供の頃から使っていたが、地方名かと思い調べたところ、各地で同様の意味で使用していることから一般的な名称であるようだ。有名な所ではオナモミ、オオオナモミ、ヤエムグラ、ヌスビトハギなど。日本国内に自生する種としては50種類ほどがあると言う。センダングサの仲間(キク科センダングサ属)も含まれる。
 ちなみに厄介なのは(もちろん全部厄介ではあるが)イノコヅチ(Achyranthes bidentata var. japonica、ヒユ科イノコヅチ属)で、種子が小さくセーターなどに付着すると取るのが大変になる。道端に普通にある草なので、写真を撮り歩く際に頻繁に被害にあっている。(汗

(*4) 木を森に隠すと発見しにくい、転じて「似たようなものに紛れると発見されにくい」という意味で使われている格言。曰く、犯罪者が雑踏に逃げ込むなど。本文にもあるが、コシロノセンダングサやコセンダングサが開花期以外にアメリカセンダングサに紛れて生えていれば見分けはほぼ不可能。葉の付き方、鋸歯など細かい相違はあるようだが、素人ではまず判別不可能。「似たようなものに紛れる」を生き残り戦略にしている植物もあって、出穂前の水田に出現するイヌビエ属はイネと紛らわしく、結果的に引き抜かれを防いでいる。

(*5) コセンダングサ、コシロノセンダングサ(シロノセンダングサ)を便宜的に種として扱い「両種」と表現しているが、コセンダングサを基本種としコシロノセンダングサ、シロバナセンダングサ、アワユキセンダングサを変種とする立場、また場合により個体変異の品種、すなわち同種とする説もある。

(*6) イヌガラシ、スカシタゴボウ以外の種が市販の植物図鑑に掲載されていることは稀で、コイヌガラシやヒメイヌガラシも然りである。帰化年代が古いと推定されるキレハイヌガラシ(ヤチイヌガラシ)などは北海道を中心に定着した北方型植物であり、広く認識されにくいという側面もある。と言うよりも今回テーマとしているような内容は世間一般では「どうでもよい」カテゴリーの話。

(*7) 水田も畦も基本私有地であって無断立ち入り(ほとんどはこうなる)は厳密には不法侵入である。所有者が居ても用件を話せば了解してくれる場合がほとんど。一番有効なのは「植物の分布調査」で、カメラやメモを持っているのが吉。昨今の農業情勢から本音は「買う人がいれば売りたい」と思う農家も少なからず居るので、今回のように(たぶん)「不動産業者キター!」と勘違いされる場合もある。

(*8) 市内3箇所目の発見。2箇所はすでに消滅しているが、この場所も以前見た際にはなかったので埋土種子の発芽が有力。しかし同時期にアメリカキカシグサが入り込んでいるので存続は微妙な状況となっている。尚、この時の調査で発見したミズマツバの画像は当サイトミソハギ科ミズマツバの最下段に2枚掲載している。

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