日本の水生植物 水生植物図譜
ミソハギ科 Lythraceae
(APGV:ミソハギ科 Lythraceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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キカシグサ属 ミソハギ属 ヒメミソハギ属
キカシグサ属 Rotala
標準和名 アメリカキカシグサ 学名 Rotala ramosior (L.) Koehne 生活型 一年草 自生環境 水田
外来生物:外来生物法指定なし

 1993年に横浜市で定着が確認された比較的新しい帰化植物。北アメリカ〜熱帯アメリカ原産。帰化の経緯は不明だが、沈水葉を形成するのでアクアリウムの何らかの水草が逸出した可能性もある。一説にはアクアリウム商品名「アルアナの夕焼け」が本種の正体とされている。
 葉は対生し、線形〜広線形で鈍頭、淡紅色〜白の4枚の花弁を持った花を咲かせる。キカシグサ属でこのような花を咲かせるのは本種しかない。花は長さ直径とも3〜4mm程度である。草丈は20cm前後になりキカシグサ属としては大型、ヒメミソハギ属の植物のようにも見える。茎は紅色を帯び斜行し、盛んに分岐する。同じ帰化植物のホソバヒメミソハギにも印象が似るが、葉の基部に耳を持たない事、花弁が鮮やかな紅色にならない事で同定できる。

 利根川流域では見られなかったが、ここ2〜3年で千葉県北部から茨城県南部にかけて分布を拡大している。ヒレタゴボウと同様のルートで拡大しており、在来種に対する排他性の問題など今後の動きが注目される。

(P)2011年9月 千葉県 耕作田  More invaderアメリカキカシグサ
2011年9月 千葉県
花、キカシグサ属の特徴、葉脇に一輪
同左
十字対生しヒメミソハギの印象に近い
2014年9月 茨城県 同左
2014年10月 茨城県 群生 同左 紅葉は色がどぎつい
標準和名 キカシグサ 学名 Rotala indica (Willd.) Koehne var. uliginosa (Miq.) Koehne 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 やや自然度(農薬使用量や基盤整備の有無など)が高い水田に自生する小型のミソハギ科一年生草本。自生密度には濃淡があり、一年目の休耕田で大群落となっていたり耕作田で一株独立して生えていたり、という生え方をする。
 学名はRotala indica であるが、水草ショップで出回っているロタラ・インディカではない。水中に入っても沈水葉を形成することはなく、気中と同じ姿である。まるで作り物のような配色の美しい植物である。
 和名の由来は定説が見つからないが、種子の形状から「シラミの卵」を意味する古語「キサシ」「ギサシ」からキサシグサ転じてキカシグサと呼ばれるようになったらしい。(出典「日本水生植物図鑑」)多くの水田雑草同様、稲作とともに我が国にやって来た「史前帰化種」であるとされる。

(P)2003年9月 茨城県
2003年9月 茨城県 開花 2011年8月 茨城県 群生

2010年9月 茨城県
標準和名 ヒメキカシグサ 学名 Rotala elatinomorpha Makino. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧TA類(CR) 仮同定

 非常に微小な植物で、草丈4〜7cmと言われるが当地で見られるものは概ね開花時の草丈は2〜3cmである。キカシグサに似るが、葉は倒卵状楕円形であり形状が異なる。分布は資料によれば本州中南部と四国だが、茨城県南部の休耕田でも稀産する。同定にあたっての資料が少なく、以下を参考として暫定的な同定を行った。

 (1)当地に多いヒメミソハギの矮性株と紛らわしいが、Ammannia属(ヒメミソハギ属)は葉一枚に対し花を多数付ける、Rotala属(キカシグサ属)は葉一枚に対し花は一つである。開花状態は下画像
 (2)牧野植物図鑑に記されたヒメキカシグサのイラストと同一の印象であったこと
 (3)ヒメミソハギに特徴的な十字対生が見られない

 自生はかなりムラがあって、豊作の年は複数の休耕田(ただし一時的にでも湛水することが条件)で多数の株が見られるが、不作の年はほとんど見られない。下画像の2002年は群落を形成するほどの密度があった。この年はじめて存在に気が付いたのはこの密度によるものである。不思議なことに同地域の湿地では見られず休耕田と耕作田の一部にしかない。年度による密度の違い、自生地の傾向は当地域ではキカシグサも同傾向である。
 当該地域は他にもスズメハコベなどが見られるが(これもごく狭い地域であるためフロラにもない)利根川の水運による伝播か、何らかの突発的な隔離分布によるものと思う。水田雑草のなかでも南方系の色彩の強い種が孤立して分布する事実は想像力を刺激するが、一切の資料もないため同定には苦労する。

 尚、近年アクアリウム・プランツとして一部で出回るようになったドワーフアマニア(スリランカ産)を和名ヒメキカシグサとして紹介しているWebサイトもある。現物を入手していないので何とも言えないが「種」として語るには何ら根拠も示されていないので意見は保留とする。この手の話が通用するのであれば、バリエーションの多い東南アジアのシソクサ類もすべて「和名シソクサ」である。そもそもヒメキカシグサであればRotalaであってAmmanniaではない。

(P)2009年9月 茨城県(上下とも) 休耕田

標準和名 ホザキキカシグサ 学名 Rotala rotundifolia (Roxb.) Koehne 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧TB類(EN)

 アクアリウムの水草として販売されているRotala rotundifoliaと同種の植物と考えられるが、わが国では九州・沖縄の一部地域に自生し、絶滅危惧TB類(EN)に指定されている。東南アジアの水湿地ではわりと容易に見ることができるので熱帯・亜熱帯植物であろう。
 Rotala rotundifolia(流通名)とされる植物には、葉に赤みを帯びたものや大型のものも混じり、学名にsp.や採集地を冠したものもあるが、それらには亜種、地域変種、別種が混じる可能性は高い。画像の株はマレーシアの沼沢地で見つけたもので、日本の水草ショップでRotala rotundifoliaとして販売されているタイプ。我が国に自生するホザキキカシグサと同種であると考えられる。詳細な同定が及んでいない点、ご容赦願いたい。

 尚、国内の分布情報は こちら
 産地熊本県で撮影された開花画像は こちら をご参照願いたい。

(P)2005年8月 マレーシア ペナン州

2005年8月 マレーシア ペナン州

同左
標準和名 ミズキカシグサ 学名 Rotala littorea (Miq.) Nakai 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 水田や湿地に稀に生える中型のキカシグサ属草本。ヒメミソハギに似るが、キカシグサ属の特徴である、花が葉に対して単生する点が異なる。またヒメミソハギの茎が四角柱状であるのに対し円柱状である。
 関東地方では非常に稀で、群馬県や神奈川県で絶滅となっている。地元茨城県にはデータも残されていない。ただし調査が不完全であることは、スズメハコベ(自生記録はないが群落発見)の例もあるので逆に言えば「希望はある」状態か。また不完全な写真のみしか残っていないが本種と思われる植物を自分が目撃しているので調査は継続している。

 尚、参考文献の山と渓谷社「レッドデータプランツ」には、従来信頼度の最も高い植物写真図鑑であった平凡社「日本の野生植物」の本種写真がヒメミソハギであることを指摘している。

(P)2011年8月 滋賀県(生態画像提供:藻草様)
2011年10月 標本(標本ご提供:マツモムシ様) 同左
2012年8月 茨城県(自宅育成)
標本より種子採取、発芽
同左
2012年9月 茨城県(自宅育成) 開花 同左 果実

2012年9月 茨城県(自宅育成) 開花した株
標準和名 ミズスギナ 学名 Rotala hippuris Makino 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧TA類(CR)

 属名植物のキカシグサがしぶとい水田雑草で各地に自生するのとは異なり、本種は非常に希少で、一説では宮崎県と和歌山県、四国の一部にのみ自生が残っているとも言われている。当然ながら関東地方では自生を確認していない。
 草姿や自生形態は同属のキカシグサやミツマツバと異なり沈水植物そのものである。従って水辺環境悪化の影響をもろに受けるものと思われ、これが減少要因であると考えられる。画像は宮崎県産の株であるが、水槽育成では非常に繊細な美しいロタラになるが、窒素を中心とした肥料、二酸化炭素の添加は不可欠である。屋外育成では水面を突き抜けて気中葉を形成、小さいながら美しい花を付ける。

 アクアリウムプランツのミズスギナとして流通するもののなかには水面近くの頭頂部が赤く色付くものと緑が濃いものがあり、東南アジア産の近似種も混同されて流通していると考えられる。逸出を考えれば残った僅かな自生にとって大きな脅威だと思う。

(P)2005年2月 茨城県(自宅育成) 沈水葉
2010年9月 茨城県(自宅育成) 気中葉 2005年10月 茨城県(自宅育成) 開花

2010年9月 茨城県(自宅育成)


2010年9月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ミズマツバ 学名 Rotala pusilla Tulasne 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 各地で激減し、絶滅危惧種となっている水田雑草。草丈10cm前後、葉が3〜4輪生する。葉長は数mm〜1cm、幅2mm前後の線形から長披針形。根元付近で分岐し株を形成する。
 減少している理由は除草剤と言われており、基盤整備が進んだ管理水田ではほぼ見ることが出来ない。しかし一定のシードバンクは形成しているらしく、画像は地元で20年来本種を見ることがなかった耕作水田に2011年突如現れた数100株の群落のものである。米価の自由化に伴うコストの厳しさ、農薬使用量の減少が背景にあると考えられる。付近の水田では近年サワトウガラシやミズネコノオも見られるようになった。

 図鑑等で特に開花期に茎が赤い姿を見るが、赤い着色は環境(日照や土壌条件など)によるもので、何らかの変異を示すものではない。本種は水中にも適応能力があり、繊細な沈水葉を形成する。

(P)2011年9月 茨城県 More featureミズマツバ
2011年8月 茨城県 耕作田に出現 同左
2011年9月 茨城県
葉脇に一つ付く花がキカシグサ属の特徴
同左
輪生の様子
2014年10月 茨城県 全草の様子 同左 耕作田畦際に自生していた
ミソハギ属 Lythrum
標準和名 エゾミソハギ 学名 Lythrum salicaria L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 一見するとミソハギと変わらない。「エゾ」を名乗るが北海道の固有種ということでもなく関東地方でも普通に見ることが出来る。場所によっては本種の方が多い。ミソハギとの相違は様々な微小な点があるが、同定ポイントとされる萼の付属片の開き方(ミソハギは水平、エゾミソハギは上向き)や草体の大きさ(エゾミソハギは大型)などの点は環境により容易に変異するようであり、あまり当てにはならないだろう。確実な同定ポイントとして毛の有無(有る方がエゾミソハギ、萼にもある)と葉柄(短い葉柄があるのがミソハギ、葉柄が無く葉が茎を抱くのがエゾミソハギ)によるものを御紹介しておく。

 当地では水田畦(植栽か)、湖岸湿地、畑地など広範に見ることができる。畑地や路傍で生育している所を見ると乾燥耐性も強いようだ。本来は湿地植物であるが、沈水葉を形成することはない。

(P)2003年8月 茨城県
2016年6月 茨城県 同左 茎や萼に毛がある
標準和名 ミソハギ 学名 Lythrum anceps (Koehne) Makino 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 茎は四角柱状、葉は3〜6cm長で広披針形、対生で直角の方向に出るので上から見ると綺麗に十字となる。花期は後述のように8月、20〜30cm長の穂状花序を形成する。

 関東地方ではお盆の頃に開花し、仏前花として良く用いられる。別名ボンバナ(盆花)、ショウリョウバナ(精霊花)など。色味が臙脂で地味、仏前花というイメージもあって嫌う人も多い。一般的に湿地植物にカテゴライズされるが、エゾミソハギ同様、畑地や路傍でも生育している。ヒメミソハギ属は湿地依存度が高く水中適応能力もあるが、ミソハギ属にはこうした傾向は見られない。

(P)2003年9月 茨城県
2014年9月 茨城県 同左
2014年9月 茨城県 同左

2015年6月 東京都
ヒメミソハギ属 Ammannia
標準和名 シマミソハギ 学名 Ammannia baccifera Linn. 生活型 一年草 自生環境 水田
外来生物:外来生物法指定なし

 別名ナガトミソハギと呼ばれる熱帯アジア原産の一年草。画像は2007年8月に茨城県常陸太田市の水田で見かけたものであるが、一見してアマニアであるにも関わらず未知の種であり、以下一般的に言われる本種の特徴と合致しているため本種と同定した。

 ・根は直根で多数の側根を持つ
 ・葉は対生、先端が尖り全縁、基部は細く無柄
 ・茎は四角柱で無毛

 従来シマミソハギは別名(長門)の通り西日本に帰化しており関東地方には侵入していないとされている点、アマニアは変異が多く開花前の草姿のみでは断定できない点に鑑み、他種、特にヒメミソハギ変種の可能性は排除しない。
 2011年、千葉県の耕作田で発見した本種の画像を追加(中2枚)。上記特徴に加え、花は小さく花弁を欠き、ヒメミソハギの赤みを帯びたものに対し白っぽい特徴がある。

(P)2007年8月 茨城県
2011年9月 千葉県 耕作田 同左 花は白く密集する
2011年10月 千葉県 耕作田
葉は先端が尖り全縁、基部は細く無柄
同左 花は花弁を欠く(赤くなっているのは果実)
標準和名 ナンゴクヒメミソハギ 学名 Ammannia auriculata Willld. 生活型 一年草 自生環境 水田
外来生物:外来生物法指定なし

 別名アメリカミソハギと呼ばれる北米原産の一年草。北米原産ながら「南国」なのは1968年頃鹿児島県で確認され、その後九州全域に帰化が拡大した経緯によるもの。南方系の種ではない。
 植物体の特徴、特に花の形状がホソバヒメミソハギに似るが、花に顕著な柄があることで区別できる。また葉形も直線的なホソバヒメミソハギと異なり披針形に近い。葉の基部には耳があり四角柱状の茎には翼がある。

 現時点の情報では「九州を中心に西日本に分布・・・」とあるが、私の調査では関東地方でも確認しており、全国的に定着している可能性もある。主な自生環境が水田であり、ホソバヒメミソハギやヒメミソハギと混生していても気が付かれない場合も多々あるだろう。草体の雰囲気はちょうどホソバヒメミソハギとヒメミソハギの中間的な印象である。
 尚、学名で検索すると海外のサイトではアクアリウム・プランツとしてヒットする。手持ちの水草図鑑には同名の学名を持つ「アマニア」は見当たらないが、新たな水草としての用途もあるかも知れない。

(P)2011年9月 栃木県
2011年9月 栃木県 耕作田
花に顕著な柄がある(画像は結実後)
同左 茎、分かりにくいが四角柱状で翼がある
2011年9月 栃木県 耕作田
花は紅色
同左
2011年9月 栃木県 耕作田
同属他種と異なる葉形
同左 基部には小さな耳がある
標準和名 ヒメミソハギ 学名 Ammannia multiflora Roxb. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湿地や水田に自生するアマニア。小さな花を無数に付け、秋になると草体全体がエンジに染まったようになる。草体は条件によって様々な表現型があり、大きな株から矮性のものまで様々。茎は四角柱状で草丈は20〜30cmの中型の草本で、分枝を繰り返し株となる。しかし矮性のものはほとんど分岐せず、そのまま開花結実を行う。(下画像右)
 葉は対生、基部は不明瞭な耳形で茎を抱く。花は微小な色の薄い花弁が4枚あり(画像下左)、葉形基部とともにホソバヒメミソハギとの相違点となっている。

 地元ではホソバヒメミソハギの侵入が少なく、休耕田を中心に多くの株が見られる。ホソバヒメミソハギやアメリカキカシグサの侵入が多い千葉県北部ではヒメミソハギが少なく、何らかの競合関係があることが推測される。

(P)2005年10月 茨城県
2011年9月 茨城県 休耕田
同属他種と異なる葉形
同左 矮性株、ホシクサの花穂(中央)より草丈が低い
2011年9月 茨城県 休耕田 小さな花弁が見える 同左
標準和名 ホソバヒメミソハギ 学名 Ammannia coccinea Rottb. 生活型 一年草 自生環境 水田
外来生物:外来生物法指定なし

 北アメリカ大陸原産の帰化植物である。来歴は不明。在来種のヒメミソハギとの区別はピンクの花を葉の付け根に対称に咲かせる(画像参照)のが本種、在来のヒメミソハギは花は葉腋で径1.5oで花弁が4 枚、赤紫色で小さい(ヒメミソハギ参照)ことで区別する。一般に葉の形状で区別(本種はかなり細長い)も出来るが、生育状態によって容易に草姿が変化する場合もある。秋にはヒメミソハギ同様に全草が紅葉する。
 一説に本種は、ヒメミソハギとナンゴクヒメミソハギ(別名アメリカミソハギ Ammannia auriculata)の交雑及び倍数化により生まれた種とされるが未確認。

 繁殖力が強く、利根川流域の水田地帯では在来種ヒメミソハギに代わり、生態的地位を占めるようになっている。ヒメミソハギと競合関係がある可能性もある。

(P)2011年8月 茨城県
2011年8月 茨城県 休耕田 同左 花弁は紅色
2009年9月 埼玉県 耕作田 同左 葉は名の通り細い
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