日本の水生植物 水生植物図譜
トチカガミ科 Hydrocharitaceae
(APGV:トチカガミ科 Hydrocharitaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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オオカナダモ属 クロモ属 コカナダモ属 スブタ属 セキショウモ属 トチカガミ属 ミズオオバコ属 リムノビウム属
オオカナダモ属 Egeria
標準和名 オオカナダモ 学名 Egeria densa Planch. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法上生態系被害防止外来種

 カナダモと名乗るが実はアルゼンチン原産の帰化植物。実験観察用として大正時代にアメリカ大陸から移入されたことによりこの和名となった模様。雌雄異株であるが帰化しているのは全て雄株、増殖は栄養増殖によるものである。所謂アナカリスで、金魚藻として多く販売されており、初心者向きの水草とも言われるが限りなく増殖するために早晩持て余してしまうことは確実で、この状況が現在各地の河川湖沼に帰化している原因と考えられる。

 近似種コカナダモ、クロモとの判別は輪生葉の数や鋸歯によるが、本種は他2種に比してかなり大型であり見た目で同定も可能だろう。画像及び動画は茨城県取手市の小河川だが、オオカナダモ帰化以前に見られたコウホネやエビモはまったく見られなくなってしまった。

 同定参考 大阪府環境農林水産総合研究所 水生生物センター

(P)2011年8月 茨城県 小河川  More invaderオオカナダモ

2011年8月 茨城県 小河川

同左

2011年9月 茨城県 小河川

同左

動画 2011年8月 茨城県 小河川
クロモ属 Hydrilla
標準和名 クロモ 学名 Hydrilla verticillata(L.fil.)Royle.Hydrocharitaceae 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 オオカナダモやコカナダモと近似の固有種。一般には「根無し草」と思われているが、それは栄養増殖過程の戦略で、千切れた草体が水面近くで光合成を盛んに行い、栄養分を備蓄して重量を増し着床する現象を示しているに過ぎない。自生環境では根で着床している。
 水槽では着床した草体は一般の有茎種と同様に育成することが出来る。これは野生の株が着床後光量不足によりエネルギーを使い果たし、軽くなった草体を再び浮き上がらせる必要があるのに対し、水槽ではその必要がないからである。トチカガミ科全般の特徴通り、高硬度環境でよく生育する。

 オオカナダモの項で触れた近似種との同定法だが、よく本種と混同されるのはコカナダモであり、草体の特徴により、オオカナダモかどうか、鋸歯の有無により(下左画像参照)コカナダモかどうか、消去法で容易に同定が可能であると思う。
 本種は国内ではオオカナダモ・コカナダモによる圧迫や水質汚染等の要因によって減少しているがアメリカのフロリダ州などでは逸出によって、定着帰化が問題となる程繁茂しており、侵略的外来種とされている。

(P)2004年12月 茨城県(自宅育成)

2011年8月 茨城県(自宅育成) 微小な鋸歯が見られる

同左 草体はオオカナダモより細い
コカナダモ属 Elodea
標準和名 コカナダモ 学名 Elodea nuttalliiSt. John 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法上生態系被害防止外来種

 こちらはオオカナダモと異なり名前通り北米原産の帰化植物である。茨城県南部ではオオカナダモより分布が広く、かなりの範囲で見ることが出来る。
 クロモ、オオカナダモとの区別であるが輪生や外見のみではやや難しく、こちらなどを参照して調べるようにしている。また「日本水草図鑑」にも詳しい。ポイントは草体がオオカナダモに比べて細く、葉に鋸歯が見られない事である。
 誤解されやすいのが「根無し草」である、ということ。実はしっかり根を張って用水路など水位、水流の変動が激しい環境に適応している。根無しの時期はクロモの項に記載した状況である。
 ついでに誤解されやすい事実を書いておくと、本種も水草なので水質浄化に効果があると思われがちであるが、草体の大部分を枯死させる時期には溜め込んだ栄養素が一気に水中に放出されるのでかえって水質を悪化させる。付近の湖沼で打ち上げられた塊が腐敗して悪臭を放っている場面をよく見かける。

 コカナダモは雄株のみ帰化しており有性生殖はないが、「切れ藻」が流れて版図を拡げるため短期間で水域を占拠してしまう。これは分化全能性による水草のしぶとい繁殖方法であり、欠片と言えども不用意な廃棄は慎みたい。

(P)2005年4月 茨城県

2011年9月 茨城県 印象はクロモに似る

同左 鋸歯が見られない
スブタ属 Blyxa
標準和名 スブタ
マルミスブタ
学名 Blyxa echinosperma (C. B. Clarke) Hook. f.
Blyxa aubertii L. C. Rich.
生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 茎を持たず根生するブリクサの仲間。葉にわずかに鋸歯が見られる。主に水田やため池に自生する。果実が特徴的で、楕円形で表面にいぼ状の突起があり、両端が刺状になることで他種と区別できる。(画像下右)植物体の外見がほぼ同様で突起がないものがマルミスブタ(Blyxa aubertii L. C. Richard)である。
 北関東一帯、山間の棚田まで広範囲に調査をしているが、ヤナギスブタとともに見つかっていない。水位が担保された湿田に於いてもミズオオバコは見つかるが本種はなかなか見られず、減少原因としては乾田化以外に除草剤の使用等の要因もあると考えられる。ちなみに両種とも環境省レッドデータ2012で絶滅危惧U類(VU)とされている。

(P)2012年8月 茨城県(自宅育成)

2012年8月 茨城県(自宅育成) スブタ根茎付近

2012年4月 茨城県(自宅育成) 果実

2012年10月 マルミスブタ種子(ご提供:藻草様)

同左
標準和名 ヤナギスブタ 学名 Blyxa japonica (Miq.) Maxim. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 国産のブリクサのうち茎が伸長するタイプ。西日本に多く関東近辺では稀である。元々西日本に偏在するのか、関東地方の乾田化の進展によるものかは分からない。ただ、関東地方でも時として埋土種子からの発芽も報告されているので後者の可能性が強いと思う。要するに乾田化を原因として減少している沈水植物である。環境省RDBには記載されていないが希少な植物であることは間違いない。

 非常に近縁の種にセトヤナギスブタ(Blyxa alternifolia)があり、分布は中部地方以西、本種より大型になり(葉は6cm〜8cm長)、種子表面に微小な隆起があることで区別される。

(P)2008年8月 茨城県
セキショウモ属 Vallisneria
標準和名 コウガイモ 学名 Vallisneria denseserrulata (Makino) Makino 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 北関東一帯ではセキショウモより残存が多いと思われる。セキショウモとは良く似るが、鋸歯と地下茎の細かい棘の存在によって同定可能。地下茎は触ってみれば棘によってかなりザラつくので有力な識別ポイントになるだろう。「コウガイ」は殖芽の形状を模しているネーミングである。尚セキショウモは殖芽を形成しない。また開花していれば雄蕊が1本(セキショウモ)、2本(コウガイモ)という同定ポイントもある。雌雄異株である。
 水質の汚染にはやや強く、清流とは言えない小河川に大きな群落を形成しているのは本種である場合が多い。アクアリウムで流通する「バリスネリア」も本種である場合が多く、特にセキショウモとは区別されていない。育成に於いては同一種としても問題はないだろう。

 沈水植物としてはマツモやクロモとともに残存が多く、首都圏の河川でもしばしば見られるのでフィールド観察で見られるポピュラーな自生種水草と言えるだろう。

(P)2010年9月 茨城県 河川

2010年9月 茨城県
同定ポイントの鋸歯

同左
河川浅水域に自生

2011年8月 栃木県

同左

2018年5月 栃木県
標準和名 セキショウモ 学名 Vallisneria natans (Lour.) Hara 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 河川湖沼に自生する、やや普遍的に見られるヴァリスネリアである。Vallisneria natans を名乗る同属にはネジレモ(地域変種とされる、葉が捻じれる)、ヒラモ(同、熊本県に産し、葉幅が広い)がある。
 セキショウモも特定の条件で葉の捻れが出ると言われており、この条件が何なのか不明であるがネジレモは琵琶湖以外に移植または育成しても形質は変わらないので土壌や水質に起因するものではないようだ。DNAの相違も無い事で前記3種は同じ学名を名乗っている。

 霞ヶ浦では一部に残存しているが多くはない。下の動画に見るように水質改善の進んだ河川では復活している例もある。

(P)2005年7月 東京都

2015年7月 千葉県

同左

動画 2012年8月 千葉県松戸市坂川のセキショウモ群落。水質改善が進み、本種をはじめ多くの沈水植物が復活している。

2015年7月 千葉県
標準和名 ネジレモ 学名 Vallisneria natans var. biwaensis 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 セキショウモの変種とされる琵琶湖特産の沈水植物。繁殖力が強く増殖されてアクアリウム用水草としても古くから流通している。流通名はスクリューバリスネリア。ネジレを除けば基本的にはセキショウモそのものであり、生態も同様。幅広い環境で地下茎(ランナー)によってよく増殖する。

 学名が示す通り琵琶湖特産であるが、文献によって他の地方でも自生が確認されている。セキショウモの「変種」であればそれも不思議ではなく、「霞ヶ浦の水草」という本にも記述が出てくる。ただし一般的には前述の通り琵琶湖特産とされる。他地域で報告のある株も、これだけ流通しており、繁殖力も強いので逸出したものである可能性は否定できない。尚、学名にはいくつかシノニムがある。

(P)2008年3月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ヒラモ 学名 Vallisneria asiatica var. higoensis 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 熊本県特産のセキショウモの変種。別名ヒロハノセキショウモ、日本固有種。江津湖(熊本市東区〜中央区)及び周辺に自生する。セキショウモに比べ大型で常緑である。また、葉脈の数が多く葉幅も広い。画像は筑波実験植物園で展示していた株だが、前述特徴以外はセキショウモと区別が出来ない。

 熊本県の自生地付近でも環境悪化により減少が甚だしく、環境省が保全活動を行っており自生地での採集は禁止されているというが、水草のネット通販で販売していたりする。実際には珍しいだけでセキショウモや海外産のヴァリスネリアと似たようなものであるので購入するようなことは控えたい。(購入層がいれば採集販売する)

(P)2014年5月 茨城県(筑波実験植物園)
トチカガミ属 Hydrocharis
標準和名 トチカガミ 学名 Hydrocharis dubia(Bl.) Backer 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 霞ヶ浦周辺ではやや一般的な水生植物。無性生殖が盛んで場所によっては水面を埋め尽くしている。水面が混み合ってくると更に抽水葉が出て増殖する。増殖は水面下のランナーによる。
 一見ガガブタのようにも見えるが何より根が着床していない。浮草というには語弊があるが、浮遊植物である。葉裏には浮遊のための浮袋があり重要な同定ポイントとなる。抽水葉には浮袋は見られない。花は一日花、雌雄異花(画像は雄花)。冬は種子や殖芽で越冬する。

 当地では比較的汚れた水域でヒシやハスなどと共に残存が多いが、沈水葉がない、または光合成を行なわないため導電率上昇による影響が及ばないことによるものと考えられる。霞ヶ浦沿岸部では水田や用水路にも侵入が見られる。

(P)2007年8月 茨城県 霞ヶ浦

2011年7月 茨城県 浮葉

同左 葉裏、中央に浮袋が見える
ミズオオバコ属 Ottelia
標準和名 アフリカミズオオバコ 学名 Ottelia ulvifolia (R.Br.) Rich. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法指定なし

 アフリカミズオオバコ、オテリアSP.、アフリカンオテリアなどの名称でアクアリウム用に輸入販売される水草。原産はアフリカの熱帯・亜熱帯地域だが、画像を撮影した筑波実験植物園(茨城県)では屋外で越冬している。また温帯のオーストラリアにも帰化しているとされる。
 本邦産ミズオオバコに比べ葉が大きく丈夫で、葉縁は波うち葉身には紫がかった褐色の斑が見られる。水面に浮かぶ「浮葉」のような葉も形成するが、この場合には色が薄緑で斑は見られない。

 知る限り帰化定着は確認されていないが、温帯オーストラリアでの帰化、また北関東の植物園で屋外育成されている事実を考えても注意が必要な植物。広くネット通販されており、流通量も多いと推測されるだけに無視できない。

(P)2015年6月 茨城県(筑波実験植物園)

2015年6月 茨城県(筑波実験植物園)
標準和名 ミズオオバコ 学名 Ottelia japonica Miq. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 水田の乾田化、湖沼の水質汚染などの理由により、関東近辺では非常に少なくなった沈水植物。利根川水系の湿地や水路などで僅かに残存するが自生地は極めて少ない。
 草体の印象は和名通り陸上植物のオオバコに似、根生葉を広げる。幼葉は線形だが成葉は葉柄が長く、卵状広楕円形、長さは10〜30センチ。葉形、葉長とも生育環境に影響される所が大きく、下画像のような休耕田で水深の浅い環境ではやや小型、水量のある環境では大型になる場合が多い。
 葉は意外に軟質で水中生活に特化した形質である。非常に折れやすく葉柄、葉とも脆い。花はトチカガミ科の他種、クロモやトチカガミに似る白花だが、僅かにピンクに色づくことが多い。

(P)2011年8月 茨城県 棚田 More featureミズオオバコ

2011年7月 千葉県 谷津田休耕田

同左

2011年7月 千葉県 葉身

同左 果実

2011年8月 茨城県

2019年8月 自宅育成
リムノビウム属 Limnobium
標準和名 アマゾントチカガミ(不詳) 学名 Limnobium laevigatum (不詳) 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法指定なし

 アクアリウムやビオトープ用として流通する、いわゆる「アマゾンフロッグビット」である。トチカガミにも見えるが、葉に入る切れ込みの深さの違い、草体の大きさなどが異なる。トチカガミ同様に浮葉の裏側に浮袋を持ち、浮葉を水面に安定させる形状をしている。

 帰化実態がよく知られていないが、種子による世代交代は行っていないようだ。ホテイアオイ同様に草体の一部を残し越冬を行う。無性生殖の速度がトチカガミ同様に早く、水域生態系への影響も懸念される。

(P)2006年8月 茨城県 湖沼

2015年7月 千葉県

同左

2015年7月 千葉県 水路に繁茂。小さな葉はウキクサ
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