日本の水生植物 水生植物図譜
タデ科(2) Polygonaceae
(APGW:タデ科 Polygonaceae 本頁内属はタデ亜科 Polygonoideae に属する)
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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イタドリ属 イブキトラノオ属 ギシギシ属
イタドリ属 Fallopia
標準和名 イタドリ 学名 Fallopia japonica (Houtt.) Ronse Decr. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 荒地から湿地まで広範に自生する植物。やや湿った地形を好み、河川敷などに多い。茎は中空、節があり竹のような構造となっている。三角状の葉を互生させ、草丈は最大2mほどになる大型種。雌雄異株であるが、地下茎が発達し、無性生殖によって群落を形成する。
 日本をはじめとする東アジア原産の植物であるが、19世紀に観賞用としてイギリスが輸入、繁殖力の凄まじさによって収拾がつかなくなっている。2010年3月には駆除のために天敵の「イタドリマダラキジラミ」を輸入することを決定している。この事実を見ても分かる通り、本種は世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000)の選定種の一つにもなっている。

 本種は食用になり、若い茎を山菜として用いることがある。生食も可能だが有機酸を多く含むため酸味がある。また、シュウ酸も含まれるため、大量摂取すると尿路結石の原因ともなるので注意が必要。

(P)2010年9月 茨城県 More invaderイタドリ
2010年9月 茨城県 同左

2014年9月 茨城県
イブキトラノオ属 Bistorta
標準和名 イブキトラノオ 学名 Bistorta major var. japonica 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 高山植物的な性格、湿地植物的な性格を持つタデ科植物。和名由来は伊吹山(滋賀県)で多く見られることによる。本来高山植物に分類されるが、奥日光戦場ヶ原など高地の湿地帯にも見られる。画像は湯川の河畔、湿地に自生していた本種である。
 茎は直立し、草丈50cm〜1m、根出葉は卵状長楕円形で長柄があるが、中間部では無柄で茎を抱き(画像右下)、上部では線形となる。花期は7〜9月で、円柱形の穂状花序に白花を付ける。自生場所によって花穂がピンクに色付く株もあるが、日照か土壌か、何らかの要因が関与している可能性がある。花穂の色が異なっても種として分ける話は聞かない。

 関東地方で見られるのは前記奥日光の戦場ヶ原、小田代原や那須高原など。梅雨の時期にかかるのが悩ましいが初夏の高原の花、ニッコウキスゲやホザキシモツケなどと共に楽しめる。
2011年7月 栃木県 花穂 同左 茎を抱く葉
2015年7月 東京都 同左

2015年7月 東京都
ギシギシ属 Rumex
標準和名 アレチギシギシ 学名 Rumex conglomeratus Murr. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ユーラシア大陸原産の帰化植物。茎は直立するが細く、他のギシギシ属植物に比べて外観が異質である。根生葉は花期には脱落する。茎は赤みを帯びることが多く、葉は長さ10〜30p、幅2.5〜6pで長楕円状披針形。葉柄は長い。
 通常道端や荒地などの乾地で広く見られるが、河川敷や湖畔などの湿地地形にも進出する。湿原でも地下水位が高く地表には水がないような場所ではよく見られる。地下部に嫌気耐性があるのだろう。右画像の株は根元が水没し抽水状態となっていたが何ら影響なく生育していた。

 一般的には陸上植物のカテゴリーだが、湿地や水田の畦、湖畔などでも完全な湿地植物と混生している姿をよく見かけるので本図譜に収録した。

(P)2016年5月 茨城県
2016年5月 茨城県 湿地性のイヌスギナと混生 同左 ドジョウツナギと混生

2016年5月 茨城県 茎は赤く細い。ギシギシ属としては特徴的な外見
標準和名 エゾノギシギシ 学名 Rumex obtusifolius L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ギシギシに近似したヨーロッパ原産の帰化植物。(とされる)内花被に棘があり、痩果部分中央部が盛り上がる点など、ギシギシよりもコギシギシに近い。コギシギシはエゾノギシギシの亜種だという説もあり、見分けが難しい。現状ではエゾノギシギシは外来帰化種、コギシギシは絶滅危惧種となっている。分布状況もこの通りである。(コギシギシは非常に稀)
 コギシギシとの相違は、葉が大きく、中脈が赤色になることが多い点、裏面脈上に毛がある点である。コギシギシを探す過程で、内花被に棘のあるギシギシはすべて葉裏を返して見てきたが、いまだにコギシギシは1箇所でしか発見にいたっていない。

 「エゾ」を名乗るが、これは帰化が北海道で初めて確認されたことによる。分布は日本全土に広がっており、一説には一株あたり数万個の種子を生産する恐るべき繁殖力を持った帰化種である。

(P)2010年7月 東京都
2015年5月 茨城県 中脈が赤色、葉も赤くなっている 同左 外縁に刺状の突起が目立つ果実
標準和名 ギシギシ 学名 Rumex japonicus Houtt. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 盛期には1m近くにもなる大型の多年草。自生地を選ばず空き地、道路法面、中央分離帯、土手などいたるところに生えている。湿地にもしばしば進出する。
 なぜこのような奇妙な和名が付いたのか定かではないが、大型の草体が風に吹かれて「ギシギシ」と音をたてるから、という説があり、なるほど、と思った。冬は画像のようにロゼットとなり、春先から夏にかけて茎が立ち上がる。食用とはかけ離れたイメージの植物だが根は薬用(根を煎じた茶が皮膚病や便秘に効く、とされる)となり、若葉はぬめりがあってジュンサイのような食感であるらしい。

 本種は時として水中に育つことがあり、目撃情報によれば明らかに気中葉と異なる葉を展開していた、とのことだ。水槽で育てばエキノドルスのような立派なセンタープラントになると思うが、これだけの大きさの植物を収容するスペースがなく、水槽でも屋外でも実験にいたっていない。

(P)2009年12月 茨城県
2010年7月 茨城県 花穂 同左 果実
2015年5月 茨城県 ロゼット 同左 花穂
標準和名 キブネダイオウ 学名 Rumex nepalensis Sprengel 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧IB類(EN)

 淀川、鴨川上流の貴船川沿いと岡山県の一部にしか自生しない非常に希少なタデ科多年草。自生地地名と以前の分類であるダイオウ属(Rheum)により、また生薬・漢方薬分野で本種を使用した生薬を大黄と称することによる和名である。
 自生地では護岸工事や近似種との交雑によって減少が甚だしいとされるが、薬草であることが幸いし東京都薬用植物園で栽培されているものを見ることができた。
 画像の植物体はすでに結実し枯死に向っているが、特徴とされる花被片の、横幅が広く、縁に鈎状の突起がある様子が分かる。(果実はすでに脱落していた)

 本来自生地では河床に生えて水面上に立ち上がるそうだが、護岸工事はこうした浅瀬を消滅させてしまう。自然災害への対応も重要であり判断が難しいが、結果的にRDBでは非常に危急度の高い植物となっている。自生地の喪失が種の喪失に直結する代表的な植物であると言えるだろう。

(P)2010年7月 東京都(東京都薬用植物園)
2010年7月 東京都(東京都薬用植物園) 同左
標準和名 コギシギシ 学名 Rumex nipponicus Franch. et Savat. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 ギシギシ、エゾノギシギシの近似種だが正体がよく分からない。帰化種とする説、交雑種とする説がある一方、絶滅危惧U類(VU)に指定されている。(レッドリスト2012)ギシギシやエゾノギシギシより小型で花序が疎らである。外見的には痩果の外縁に鋭い刺状の附属体が見られる点が特徴。葉は近似種同様に柄を持ち、長楕円状披針形〜披針形。基部は楔形〜浅心形で、先は丸い。またエゾノギシギシは痩果が赤みを帯びるが、本種は薄い緑色である。分布は栃木県以南の日本全国。

 当水系では渡良瀬遊水地や小貝川流域の氾濫原湿地で確認しているが数は少ない。自生環境はギシギシやエゾノギシギシ同様であり、常時冠水する湿地には生えず、やや乾燥した地下水位の高い高水敷などに自生する。また未確認情報ではあるが、渡良瀬遊水地では工事跡など、小貝川では氾濫原で確認しており、撹乱との因果関係が自生に影響する可能性もあると思われる。

(P)2010年7月 茨城県
2010年7月 茨城県 同左
標準和名 スイバ 学名 Rumex acetosa L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 ギシギシと同じような自生、生活史を持つ。異なるのは本種の葉の基部が鏃型で茎を抱く点、植物体に蓚(シュウ)酸を含み、噛むと酸味があること、である。この酸味が和名由来(酸い葉)であり、蓚酸の蓚はスイバのことでもある。若葉は食用になる。
 やや湿った野原や山林の縁などにも自生するが密度はさほどではない。河原や湿地周辺では群落を形成するほどなので、ギシギシに比べると湿地性が高いような印象を受ける。

 本種は雌雄異株であるが、性決定はX染色体と常染色体の比によって決定され、興味深いことにショウジョウバエなどと同じ様式らしい。ありふれた植物であるが、このあたりの植物学にとっては研究材料の宝庫で、本種の性分化に付いては多くの研究成果、論文が残されている。

(P)2010年4月 茨城県
2014年4月 茨城県 同左
2015年5月 茨城県 同左
標準和名 ノダイオウ 学名 Rumex longifolius DC. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 湿地に自生する大型のギシギシ属植物。スイバやギシギシと似るが、大型になり草丈1m以上に育つ。また花穂が直立し、花被片が円心形で中肋に瘤体がない点で区別できる。葉形もギシギシが中央部分が最も葉幅があるのに対し、ノダイオウは葉柄付近が最も広くなる。

 和名由来はダイオウ(中国奥地に自生するタデ科の薬草、大黄)に似て野(水湿地)にある、すなわち野大黄。絶滅危惧U類(VU)に指定されている通り自生は少ないが、渡良瀬遊水地ではオギ・アシ原中でやや普通に見られる。かなり大型に成長するので遠方からでも存在が目立つ。水系では他に荒川沿い、埼玉県の田島ケ原でも見られた。自生地はエゾノギシギシと被り、また交雑の可能性が強く指摘されている。

(P)2011年6月 栃木県(渡良瀬遊水地)
2016年5月 埼玉県 花被片が円心形で瘤体が見られない 同左

2017年5月 栃木県(渡良瀬遊水地)

2018年5月 栃木県(渡良瀬遊水地)
標準和名 ヒメスイバ 学名 Rumex acetosella L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ヨーロッパ原産の帰化植物だが、渡来は古く明治初期とされている。基本的に路傍や荒地など乾燥地に自生するが、適潤地や過潤地にも進出する点はスイバと同様である。草丈は20〜50cmでスイバより小型、和名の由来となっている。根茎を伸ばして増殖し群落を形成する。葉は基部が耳状に張り出す。スイバの葉は鏃形なのでやや印象が異なる。雌雄異株。花期は5〜8月である。

 近隣では河川敷などにスイバやギシギシと仲良く混生しており、一見区別が付かない。よく見ると意外に本種が多く、古手の帰化植物であることをうかがわせる。

(P)2016年6月 東京都
2016年6月 東京都 同左

2016年6月 東京都
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