日本の水生植物 水生植物図譜
タデ科(1) Polygonaceae
(APGV:タデ科 Polygonaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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イヌタデ属
イヌタデ属 Persicaria
標準和名 アオヒメタデ 学名 Persicaria erectominor var. erectominor f. viridiflora 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 渡良瀬遊水地に産する湿地性イヌタデ属。同定に疑義はあるが関係自治体や遊水地の公式資料にも掲載されており、同定された情報として掲載させて頂く。写真はすべて同遊水地でのものである。
 和名、学名からヒメタデの変種、そして解説には「ヒメタデの白緑花種」とあるが、これには渡良瀬遊水地で活動される大和田真澄氏も疑問をお持ちのようである。草体がヒメタデに比べて大きく全体の印象がイヌタデに近い。イヌタデには白花種のシロバナイヌタデというものもあるが、花穂の毛や葉形がイヌタデとは乖離している。

 水槽水中で長期間生育することからイヌタデとは異なる形質(=遺伝子)は間違いなく持っている模様。イヌタデと異なり乾地に進出することもない。このような種こそAPG植物分類体系による種の特定が必要であると思う。尚、本種は環境省RDB2007により絶滅危惧II類(VU)として指定されたが、同2012では記載なしとなっている。

(P)2007年9月 栃木県(渡良瀬遊水地)
2007年9月 栃木県(渡良瀬遊水地) 同左
標準和名 アキノウナギツカミ 学名 Persicaria sieboldii (Meisn.) Ohki. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ウナギツカミという名称は茎に逆棘があり、これを用いればウナギでも掴めそうな様子を現した和名である。他にもホソバノウナギツカミ、ナガバノウナギツカミなどがある。この2種が希少であるのに対しアキノウナギツカミは自生域が広く、水田の畦、湿地など広範囲で見る事が出来る。ホソバノウナギツカミ同様、葉に耳があるがこちらは丸い、角度の無い耳であることから区別出来る。また基部は茎を抱く。やや軟質。

 花はミゾソバやヤノネグサと同じ金平糖形で花穂先端に密集し、その名の通り秋に開花する。当地では湿地、水田、湖畔など広範に見ることができる。

(P)2003年7月 茨城県
2011年10月 茨城県 花穂 同左 茎を抱く葉

2015年9月 東京都
標準和名 イシミカワ 学名 Persicaria perfoliata (L.) H. Gross 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 大きな三角形の葉と独特な形状の托葉を持ち、他のイヌタデ属と一線を画す外見を持つ。また自立しないツル性植物であることも特徴である。
 基本的には道端でフェンスを伝ったり荒地で他植物に拠りかかって生える陸上植物であるが、時に休耕田や湿地に大きな群落を形成しているのを見る。この画像も地下水位の高い、湿地状となった河川敷でのものである。

 画像の藍色の物体は果実であるが、種子生産性、発芽率ともに高く、駆除難種雑草でもある。大きな理由の一つは鋭い棘を多数持つことで、ツル性として他の植物に「巻きつく」のではなく「引っ掛ける」ためのものだ。軍手程度では突き抜けて怪我をするほど鋭く、ワルナスビなどと共に農家には嫌われる植物でもある。別名「カエルノツラカキ」、こちらの方が本質を表した名前だろう。「イシミカワ」の由来はよく分からない。

(P)2009年9月 茨城県
2013年10月 茨城県 同左
2013年10月 茨城県 果実 同左

2015年8月 栃木県 他の植物に覆いかぶさる
標準和名 イヌタデ 学名 Persicaria longiseta (De Bruyn) Kitag. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 夏から秋にかけて、水田脇や湿地などで開花するタデ。その名の示す通り普通種でありふれており、特に有用な植物でもない。この草は多少湿気のあるところなら自生し、完全な陸上にもよく生えている。反面完全に水没する環境、水田内や水路流水中などでは見られない。
 この生活史はイヌタデ属全般、非常に興味深いところで、水中生活が可能なタイプ(ホソバノウナギツカミ、シロバナサクラタデなど)、やや条件が厳しいが水中生活可能なタイプ(ヤノネグサ、ヤナギタデなど)、陸上向きのタイプ(イヌタデ、オオイヌタデなど)と、同じイヌタデ属で生活史によってグルーピングすることが出来る。同属でも異なる進化をたどって来たと考えられる。

 この植物は水田脇などで時に大きな群落を形成するが、一斉に開花する様は見事で観賞価値という観点からはけっして「イヌ」ではない。

(P)2003年9月 茨城県
2011年10月 茨城県 花穂 同左 托葉鞘付近
2013年10月 茨城県 畔に群生 同左
標準和名 ウナギツカミ 学名 Persicaria aestivua Ohki 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 別名ウナギヅル。アキノウナギツカミに非常に近似しており、見分けにくい。見かけの相違点は小型(草丈20〜30cm)、葉幅がやや広い、茎の逆刺がややまばら、托葉鞘が短い、などだが最大の識別点は開花期が早い点である。アキノウナギツカミがその名の通り9月頃から開花するのに対し、本種は5月頃から開花する。(どちらも関東地方基準)花はアキノウナギツカミと同じ印象、10個以上の花をまとめて付ける。

 本種は稀で、普遍的に見られるアキノウナギツカミとは異なる。草体の特徴に微小な相違しかないために「夏開花するものをウナギツカミといい、秋開花するものをアキノウナギツカミとして区別することがある」という認識も一般的。(「」内Yahoo!百科事典より引用)ちなみに夏に開花するナツノウナギツカミ(Persicaria dichotoma)は形状が大きく異なる、九州以南に自生する南方系のタデである。

(P)2012年6月 茨城県(自宅育成)

茎の逆刺

洋梨型の種子

托葉鞘


葉形

同左
標準和名 オオイヌタデ 学名 Persicaria lapathifoliua (L.) S. F. Gray 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 その名の通りイヌタデを巨大にしたようなタデ科植物。湿地にもあるが、道路工事などの際に一時的に土砂を積み上げたような荒地、つまり遷移環境でも目立つ。草丈がMAX2mと大きくなるが一年草である。葉や茎もそれなりに立派であるが花は意外に地味。白花と赤花があるが種として区別はされていない。
 葉はやや硬質であるが、大きな分、食害する虫も大きく種類は不明であるが巨大な芋虫が付いているのを見かけることがある。蓼喰う虫でも最強クラス。

 尚、学名をPersicaria lapathifolia ssp. nodosaとする説もある。花色をもってssp.(亜種)としているのかどうか不明。ごく一般的な植物であるが、この辺りになると極端に情報が少ない。花色、草姿、特に地理的なクラインや分布の傾向があるとは思えない。それどころか混生している姿もしばしば見かけるほどである。従ってssp.説は参考情報として記しておく。

(P)2003年9月 茨城県
2011年10月 茨城県 同左

2015年10月 茨城県 赤みが強い

2015年9月 茨城県 白が強い花
標準和名 オオミゾソバ 学名 Persicaria thunbergii   var. stolonifera 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 見た目はミゾソバそのものであるが、葉柄に翼があり葉はミゾソバより概して大きく、形状もやや異なる。一説にオオミゾソバは托葉冠を持ち、ミゾソバは持たない、という情報があるが筆者の調査では稀にミゾソバも托葉冠を持つものがあり、判別点にはならない。尚、本種は近年ではミゾソバと区別しない立場が主流であるが、原色牧野日本植物図鑑など古い植物図鑑には「種」として掲載されている。

 その他生態に関してはほぼミゾソバと同様、分布も似たようなもので場所により混生が見られる。ミゾソバ同様に開放花以外に匍匐茎に閉鎖花も付けて結実する。ミゾソバの種内変異の範疇かと考えられるが目視できる明瞭な判別点もあり、また自然教育園もオオミゾソバの名称で展示していることから参考種として扱った。

(P)2015年10月 茨城県
2015年10月 茨城県 葉柄に翼が視認できる/葉形がやや異なる 同左 群生

2015年10月 茨城県 托葉冠が見える
標準和名 サイコクヌカボ 学名 Persicaria foliosa (H.Lindb.) Kitag.var.nikaii (Makino) H.Hara 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 三重県以西に分布するとされるヤナギヌカボの地域変種(暫定)。ヤナギヌカボと比べ左画像の通り花がまばらで葉はやや太いという特徴を持つ。(下左図)また托葉鞘は筒状で、同長の縁毛を持つ。(下右図)
 当地、霞ケ浦・利根川水系には存在しない植物であり、自生地も見ていないので確定的な事は言えないが、溜池環境の変遷で絶滅しかけている、という話をよく聞く。当地の植物に置き換えれば、湖岸湿地に強く依存するヒメハッカのような生活史を持った植物だと思う。護岸工事や遷移による陸上植物の進入に強く影響される植物なのだろう。画像株は頂いた種子を発芽させたものであるが、発芽率は約8割であった。種子生産性、発芽率は良好であり、絶滅が危惧される要因は上記の通りだと思われる。

(P)2010年9月 茨城県(自宅育成)
2010年9月 茨城県(自宅育成) 葉 同左 托葉鞘
2011年11月 茨城県(自宅育成) 草体 同左 花穂
2012年10月 葉裏 同左 花
2012年10月 全草標本 同左 葉
2012年10月 蕾 同左 托葉鞘付近拡大
標準和名 サクラタデ 学名 Persicaria conspicua (Nakai) Nakaiex Ohki 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 イヌタデ属最大の花をつける美しいタデ。湿地や水田地帯に多く自生し畦や水路沿いでもよく見かける。開花しないとシロバナサクラタデとの違いが良く分からない。自生環境も同じである。
 タデにしては花が大きく色も形も良いことから山野草としても出回ることがあるが、鉢植でも水切れしなければ育成できる。陸地にもある程度対応した植物であると思われる。一方、水草水槽でも水中生活が可能な湿地植物らしさも併せ持つ。沈水時には気中葉の15〜20%程度の矮小化した葉を展開するが完全な沈水葉ではない模様で、短期間に黄化し枯れやすい。

 シロバナサクラタデとしばしば混生しているが、中間的な交雑種は見たことがない。サクラタデの白花もあるそうだが、「シロバナハナサクラタデ」という和名が付けられているらしい(未確認)。こうなると開花してもシロバナサクラタデとの相違は花の大きさしか無いことになり、ますます分からない。果たして「種」とは何か、という類の問題である。

(P)2004年9月 茨城県
2011年10月 栃木県 同左
2014年10月 茨城県 同左

2015年9月 東京都
標準和名 サデクサ 学名 Persicaria maackiana (Regel) Nakai 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湿地に自生するタデ科植物。鋭い逆棘と耳のある葉を持つ特徴的な草姿を持つ。同じ特徴を持つホソバノウナギツカミに比べると逆棘が立派なこと、葉の耳の張り出しがやや大きな事、そして何より特徴的な托葉鞘(冠)で区別が出来る。(下段右画像参照)
 北関東の湿地ではわりと希産であり、自然度の高い湿地でしか見つからない。環境省RDB、レッドリストには記載されていないが、都道府県版RDBでは記載されている場合が多い。同じ自生環境のミゾソバやイヌタデが大きな群落を形成して繁茂するのとは対照的に、株が独立して点在する場合が多い。

 非常に奇妙な和名を持つ植物であるが、由来は「サデ」が「なでさする」意の古語であることに拠る、という説がある。なでさすれば本当に無事に済まない逆棘があるので意味は不明である。

(P)2005年11月 茨城県
2011年10月 茨城県 氾濫原に自生 同左 花穂
2010年4月 東京都 幼株 2007年6月 茨城県 トライコームと独特の托葉冠

2015年9月 東京都
標準和名 シロバナサクラタデ 学名 Persicaria japonica (Meisn.) H. Gross 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 サクラタデよりやや小型の白花をつけるタデ。湿地や休耕田で大きな群落を作る姿をよく見かける。一斉に開花する様は見事である。この種は比較的湿地依存度が低く、自宅周辺では水田を残土で埋め立てた駐車場に生えている。ただし水辺から離れた荒地や山林には自生しないので地下水位など、湿地性の傾向はもちろん保持していると推測される。

 「湿地植物」としては妙な挙動があり、睡蓮鉢で抽水で育てている株よりもこぼれ種で庭から生えてきた株の方が生育状態が良いという逆転現象をしばしば見ている。また山野草を扱う園芸店で鉢植として販売されている場合もあり、水遣りに注意すればそれでも育つのだろう。
 これは根が明らかに嫌気状態の水底土中でも好気状態の陸上でも対応できる機能を備えている証左だと思われる。こうした場所(陸上、庭)の株でも切り取って水槽に挿しておくと沈水葉になる。水に適応した能力を保持しつつ陸上に向かって進化途中と考えれば納得できる話ではあるが、あくまで私論。

 水槽に沈めて育成する上ではタデ科植物として最も馴化しやすく、直線的に伸びる茎、やや硬質の葉が他にない雰囲気のユニークな「水草」となる。その「沈水葉」であるが、気中葉に比べてかなり矮小化しつつも形状に付いては気中葉と大差がない。写真に撮ってみると肉眼で見る以上に表面反射を拾ってしまう。これはクチクラを残しているためではないか、と思われる。従って本来の意味で沈水葉と言い切ってしまうのはどうか、と思う。(下画像中央の植物がシロバナサクラタデの沈水状態)

(P)2009年9月 千葉県(上) 2009年12月 茨城県(自宅育成)

2011年9月 茨城県 同左
2014年9月 茨城県 同左

2015年9月 東京都 群生
標準和名 ナガバノウナギツカミ 学名 Persicaria hastatosagittatum (Makino) Nakai 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 ヤノネグサに似た雰囲気のタデ科一年生草本。採集した当初、ヤノネグサの変異かと考えていたが、世代交代しても草姿が安定して変化しないこと、逆棘の多さ、花柄の腺点などにより判定した。実に採集後5年目である。
 言訳半分であるが、ネット上、文献上、ホソバノウナギツカミを本種としていたりと、明確な同定ポイントが不明であったことから本種の可能性を考えなかった、というのが正直なところ。
 この手のポピュラーではないタデ科植物に付いては資料が少なく、本種の同定ではこちらを参照させて頂いた。→小川誠のページ内、似たものくらべ「タデのなかま(イヌタデ属)の見分け方」氏は本職の植物担当の学芸員であり、植物鑑定依頼を受けた際の裏話や植物標本の作り方など非常に楽しめるWebサイトである。こちらの情報に依り、決定的と思われる同定ポイントは小花柄にも腺毛があることで、これはヤノネグサやホソバノウナギツカミ等、誤認しやすい他種にはない特徴だ。

 ちなみに葉形の変異は体験上非常に多く、基本形は基部がほこ型とされるがヤノネグサのような矢じり型、小さな矢じり型(まさにヤノネグサ)、切型(画像のようなタイプ)と同一株でも様々な表現型があり、葉形の一時期、一タイプをもって同定は不可能である。尚、個人的には確信しつつも本種の同定に関してはまだ疑義が多々あることをお断りさせて頂く。

More Featureナガバノウナギツカミ

(P)2008年6月 茨城県(自宅育成) ヤノネグサに似た株(上画像)
 2013年7月 茨城県(自宅育成) ヤナギヌカボに似た株(下画像)

2008年7月 茨城県(自宅育成) 托葉鞘 2008年10月 茨城県(自宅育成) 花穂と小花柄の腺毛

2015年10月 千葉県 小花柄の繊毛が見える

同上 基本形の基部が「ほこ型」の葉は同一株でも意外に少ない

同上 開花期は草体全体の印象が赤っぽい
標準和名 ヌカボタデ 学名 Persicaria taquetii (Lev.) Koidz. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 ヒメタデと混同される場合が多々ある植物。植物体の特徴、自生環境も混同された記述が多く、確たる情報が少ない。最も確実な同定方法(他種は除き、ヒメタデとヌカボタデどちらかまで絞れた段階で)は種子を精査することである。ヒメタデは概ね1.5mm程、三稜である。ヌカボタデは二稜であって形状が異なる。また現段階の調査ではヌカボタデは葉裏に繊毛がなくヒメタデにはある。自生環境での判別は下段画像右の通り、ヒメタデ(上)の花穂の軸がやや太く花が密に付くのに対し、ヌカボタデ(下)は軸が細く花が疎らな印象がある。
 自生状況はヒメタデ>ヌカボタデで、氾濫原河川敷など撹乱を受けやすい湿地にはヒメタデがホソバイヌタデやヤナギタデに紛れるように目立たずに自生しており、実は広範な地域に相当数残存している。一方ヌカボタデは環境省レッドデータの指定通りの状況で、どこでも見られるという植物ではない。

 以上、博物館収蔵の標本レベルでもヒメタデを本種としている話を覆す記述となるので異論反論があれば承りたいと思う。ネット上でもヌカボタデとしている画像はほとんどヒメタデであると思われる。(ヒメタデは現状、エドガワヌカボタデと区別していない)

(P)2012年9月 千葉県

托葉鞘 伏毛が顕著

葉表面 伏毛

弱々しいが自立する

花穂(下)やや疎 上はヒメタデ

種子はレンズ型、二稜

同属他種に比べライトグリーンが強い
標準和名 ハナタデ 学名 Persicaria posumbu (Buch.-Ham.ex D.Don) H.Gross 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ボントクタデやヤナギタデと同じような草姿、花穂のタデ科1年草。他種との区別は特徴的な葉形で、本種はやや丸みを帯びた葉が先端近くで急激に細くなり、尖る。ヤナギタデやボントクタデがスリムな葉形であるのとは対照的。
 問題は本種が「水辺の植物」であるかどうか、という点だが自生はイヌタデに近く、荒地や空き地でも見ることが出来る。(家の近くでは空き地でシロバナサクラタデも見られるので地下水位が関係するのか、乾燥耐性を身につけている属なのか分からない)
 種子は水中でも発芽し、水面上に立ち上がるようなのでこの点に於いて湿地植物とした。自然湿地水際には多いのであながち無理な解釈でもないと思われる。ハナタデ、と名乗るが花はイヌタデ属最大の花を付けるサクラタデの方が綺麗であり、「ボントクな」ボントクタデやヤナギタデ並みである。

(P)2006年10月 茨城県
標準和名 ヒメタデ 学名 Persicaria erectominor(Makino) Nakai 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 文献や図鑑では極めて正体が分かりにくい種。博物館レベルの標本でもヌカボタデとの誤認による収蔵が行われているらしい。ネットで画像検索をかけても矮性の園芸種(もちろんこれらはヒメタデではない)ばかりが引っ掛かる。タデ科ではちょっとした謎の種となっている。ヒメタデは花穂がまばら、淡紅色が混じり葉先は鋭頭または尖鋭頭である。種子は三稜し光沢がある黒、それぞれ部分がヌカボタデやホソバイヌタデに似た形質を持つために数多くの誤認が発生している物と考えられる。

 変種とされるアオヒメタデとの関連性は形質からは分かりにくく、むしろ上記したようにヌカボタデやホソバイヌタデとの共通性が感じられる。主な自生地は河川敷など定期的に撹乱が発生する地形であり、この生態はホソバイヌタデに近い。本種の同定並びに自生地情報に付いては栃木県の長島様にご協力を頂いた。
【エドガワヌカボタデに付いて】
 本種、江戸川河川敷に多産する「ヒメタデ」が、2013年3月15日の日本植物分類学会第12回大会に於いて「新種エドガワヌカボタデ」として愛知教育大の芹沢俊介氏他により発表された。和名シノニムの可能性もあり、とりあえずヒメタデの項に併記することにする。明らかな別種との確証を得られれば分離することにしたい。

(P)2011年10月 茨城県

草体

葉面

花穂

種子。光沢のある黒、三稜
標準和名 フトボノヌカボタデ 学名 Persicaria kawagoeanum Makino 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 九州南部〜沖縄県地方に希産するイヌタデ属の植物。和歌山県や千葉県の一部など本州でも目撃例があるようだ。自生地から考えて南方系のタデと思われるが、関東地方屋外でも世代交代できる。一年草とされるが、自宅環境では多年草化している。また南方種シマヒメタデとの類似性があり、現時点では明瞭な相違が不明である。
 草体の特徴はオリーブがかった葉色、臙脂の斑、別名にあるようにヌカボタデの花穂を密に、太くしたような花穂を持つ。また容易に沈水化し、赤い沈水葉を展開する。美しい水草としても用いることが出来る。(下画像)

 長年正体が分からず、アオヒメタデとの共通形質からアオヒメタデ(タイプ2)として仮同定していたが、栃木県植物研究会の長島様より私信にてご指導を頂き、文献を調査し正体が判明した。「フトボノヌカボタデ」であるが、ヒメタデとヌカボタデ(狭義)の混同状態を考えると、誤解を与える別名になっていると思う。ヒメタデとヌカボタデを完全な別種として考えると(図鑑やWebでは混同、誤認が多々あると考えられる)ヌカボタデよりも草体、種子等の形質がヒメタデ(アオヒメタデ)に近い。

 本種を掲載する図鑑は少なく、形質に付いて触れたものは確認できたレベルで以下の通り。またWebで本種と思われる画像を掲載しているものもご紹介しておく。

 【図鑑】
 ・原色日本植物図鑑 保育社  ・日本植物誌 至文堂
 【Web】
花の日記 シマヒメタデ
野の花賛歌 シマヒメタデ

(P)2007年8月 茨城県(自宅育成)


2002年7月 茨城県(自宅育成) 臙脂の斑

2002年7月 茨城県(自宅育成) 沈水葉

2014年11月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ホソバイヌタデ 学名 Persicaria trigonocarpa (Makino) Nakai 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 一見するとイヌタデのようだが、花穂がピンク(ないし薄紫)で葉が細い。しかしこの外見は種内変異の範疇であり、より確実な同定は葉裏の腺点と托葉鞘の緑毛の特徴である。茨城県内ではここ利根川水系でのみ確認されており、利根川合流点にほど近い小貝川河川敷で確認している。以前の画像はやや不鮮明であったため、群落が点在する渡良瀬遊水地産(渡良瀬川河畔)のものを撮り直して再録した。
 イヌタデは湿地にも進出するが基本的に陸上植物である。本種は湿地から離れず、発見した地点ではサクラタデやアキノウナギツカミなど湿地性のタデと混生していた。完全な湿地性の植物であると言えるだろう。

 利根川水系では小貝川、江戸川河畔と渡良瀬遊水地一帯でのみ自生を確認しているだけで、けっして広範に分布する植物ではない。これはハナムグラやノカラマツ同様に自生地として湿地の存在形態を選ぶためと考えられる。すなわち適度に冠水があり湿潤で、いわゆる「氾濫原」地形である。種の存続が自生地地形の維持にかかっている植物と言えるだろう。

(P)2010年11月 茨城県(自宅育成) 独特の花穂の色 More featureホソバイヌタデ

花穂拡大

葉裏の腺点

托葉鞘の緑毛

和名由来の細い葉

2011年10月 茨城県

同左
標準和名 ホソバノウナギツカミ 学名 Persicaria hastato-auriculata (Makino) Nakai 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 東日本ではなかなかお目にかかれないタデ科の希少種。九州や関西でよく見られるという。南方起源なのかどうか分からないが、水生植物全般にこの傾向が強い。同属のサクラタデ等と異なり、直立するよりも斜行し時として他種植物に寄りかかるように生長する。ウナギツカミと名乗る植物の逆棘はこのような場合に効果を発揮しているものと思われる。

 葉には特徴的な耳を持つが、日照などの条件によりヤノネグサに似た葉を持つことがある。このまま開花・結実することもありネオトニーの例として紹介されることもある。一年草であり種子での世代交代となるが、自宅育成株ではこぼれ種による庭先での発芽も多数確認しており発芽時の湿地依存度はさほどではないと思われる。一方、水中でも生長可能で、水草水槽では赤い異形葉を展開しある程度の長期育成も可能である。

 本種に付いては文献やWeb上の情報から「一年草」とさせて頂いたが、そうとも言えない現象がある。画像下は自宅で育成した株が越冬したもので、4月上旬の姿である。これが1箇所であれば暖冬、環境、偶然などのキーワードによって終わりであるが、西宮の湿性・水生植物のマツモムシさんによれば西宮はもちろん(リンクサイト内フィールドメモに記事)九州や関東南部など広範な地域で確認されている「事実」のようであり、「一年草または多年草と表記すべきではないか」というご意見も私信により頂戴している。

 一年草のメリットは冬季に種子で休眠するのでエネルギーのロスがない、1年に1回(または複数回)交配するので遺伝上の有利さがある、などだが、特に後者は種(しゅ)の生き残りに於いて進化した姿と考えられるので、元々南方型で多年草の本種が四季のある日本に適合した結果、と考えられなくも無い。
 その意味で「先祖返り」または「分化の程度が浅い」ためかとも思われるが、一方沈水加温環境(水草水槽)で育成すると比較的短期間で枯死してしまう脆弱さもあり、湿度(水中/陸上のみならず湿地か乾地か)や温度が必ずしも越冬の条件ではないような節もあり、ウナギをツカムどころか性質の捉えどころがない。

(P)2005年6月(上)2009年4月(下) 茨城県(自宅育成)


2013年8月 茨城県(自宅育成) 花

2002年5月 茨城県(自宅育成) 沈水葉

2015年10月 茨城県 水中や水に近い場所を好む

同左 折り重なるように群生する

2015年6月 茨城県 素掘りの水路に発生

同上
標準和名 ボントクタデ 学名 Persicaria pubescens (Bl.) Hara 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ヤナギタデに非常に良く似ているが、こちらには葉に八の字型の暗斑があることが多い。また何より葉に苦味が無いので区別は容易。有用植物のヤナギタデ似ている割に食用として使えないことから「ボントク」(=愚か者)と有難くない命名をされているが、私の感性ではタデ科中サクラタデやミゾソバとともに最も好きな花である。花穂は長く、やや疎らに花が付きミズヒキのようにも見える。ただ、こちらは自重で垂れ下がってしまう。

 日本全国、本州以南の湿地や水田周辺に広範に自生し、中国、東南アジア、インドにも分布する。花期は10月。

(P)2005年10月 千葉県

2015年10月 千葉県

同左 葉

2015年10月 千葉県 葉幅はヤナギタデよりやや広く暗斑も確認できる
標準和名 ミゾソバ 学名 Persicaria thunbergii var. thunbergii 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湿地や水田に自生する普遍的なタデ科植物。葉形が独特で正面から見た牛の顔の形に似ていることから、別名ウシノヒタイとも呼ばれる。

 花は群落によって紅が強く出るもの(下左画像)と白が強いもの(下右画像)がある。サクラタデが土壌の性質によって白くならないように、この違いは単純な土壌の栄養構成や日照によるものとは考えられない。ちなみに数年間の観察ではこの性質は引き継がれる。

 増殖は実生によるが、花の部位のみならず地下茎にも閉鎖花を付け結実するという面白い性質を持つ。地上部でまったく開花しなくても世代交代が可能である。この機能は、地上部を除草されても翌年また発芽できる多年草並みのリスクヘッジであると考えられる。逆に言えば駆除難種雑草と言えるだろう。
 溝「蕎麦」は蕎麦同様食用になる。飢饉の際の救荒植物であった歴史を踏まえ畑地の蕎麦に対して溝(湿地)の蕎麦、という名前が付けられたそうである。この点でイヌ「胡麻」やネズミ「麦」とは異なる。

(P)2009年10月 茨城県
紅花と白花

2015年9月 千葉県
標準和名 ヤナギタデ 学名 Persicaria hydropiper (L.) Spach 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湿地や水田に普通に自生するが、普通すぎて開花期以外は他種イヌタデ属との区別がつけにくい。本種の同定方法は葉を噛んでみること。独特の刺激的な苦味が来るのですぐに分かる。諺の「蓼食う虫も好きずき」はこの苦辛い葉でも食草とする昆虫がいることで生まれたものである。
 河川周辺では砂礫質を好む傾向があるが、特に条件というわけでもなく水田にも侵入する。稲刈後の水田にポツポツと開花している背丈の低い株をよく見かける。ただし水田のものは概して小型である。

 水中での生育には諸説あるが、通常の河川や湖沼では抽水までで、明らかに水中で生育する姿を見ることはない。しかし、水温の低い湧水起源の河川では葉緑素を減らしアントシアニンを増加させた赤い葉を展開した姿を見ることがある。(下画像)これは水温と光合成スピードの関係、もしくは水流からの抵抗を避けるためにクチクラを形成しない故に光から身を守るためではないか、と推測できる。どちらにしても意味するところは沈水葉の性質であり、手に取っても明らかに気中葉と質感が異なる。この沈水葉を採集し、水草水槽に導入しても短期間に緑色となりやがて枯死してしまうので、特定条件下のみ沈水する「水草」だと言えるだろう。

 分布は広く、我が国では北海道から南西諸島まで自生する。人為的に栽培される品種や変種には、
・ムラサキタデ(又はベニタデ、アカタデ) f.purpurascens
・アイタデ(又はアオタデ) var.laetevirens
・アザブタデ(又はエドタデ) var.fastigiatum
・ホソバタデ(又はサツマタデ) var.maximowiczii
などの種がある。しかし最近の食文化には馴染まないのか、北関東では山間部でも栽培している農家を見たことがない。

【本種を用いたタデ酢の作り方】イー・薬草・ドット・コムを参照。

(P)2003年9月 茨城県(上) 2006年6月 東京都(下)


2011年10月 茨城県

同左

2014年10月 茨城県 耕作田の小型草体

同左
標準和名 ヤナギヌカボ 学名 Persicaria foliosa (H. Lindb.) Kitag. var. paludicola (Makino) Hara. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 撹乱の発生する湿地に稀に自生するイヌタデ属植物。他の「ヌカボ」を名乗るタデに比べて花穂がやや密に付く。花被はピンク。最大の特徴は「ヤナギ」を思わせる細い葉で、中央部付近で両縁が平行、端は急速に細くなる。この状態は開花後に見られ、成長期はより葉幅がある、という情報もあるが未確認。種子はレンズ形で、ごくまれに3稜形が混じるようだ。褐色でツヤがあり、約1.2〜1.5mmほど。葉裏にはホソバイヌタデ同様に腺点があるが、より微小で目立たない。托葉鞘は膜質で、筒部と同長かやや短い縁毛がある。
 野外未見の種であるが、画像検索すると、開けた環境ではオリーブ色の葉色に暗斑が入り、南方種のシマヒメタデ(フトボノヌカボタデ)にそっくりの画像が見られる。花穂の形状は両種やや違うが、何らかの「血縁」があるのかも知れない。

 本種は上記の通り野生未見であるが、利根川水系にも僅かに残存するらしい。全国的にも希少種となっており、環境省レッドデータでは標記の通りのランクとなっている。

(P)2012年10月 茨城県(自宅育成)

花穂

花被の様子

葉(かなり細長い)

葉裏 中肋の伏せ毛、腺点

托葉鞘付近

種子 光沢、レンズ形
標準和名 ヤノネグサ 学名 Persicaria nipponensis (Makino)H.Gross. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ミゾソバと自生環境が同じ、似たような草姿、花を持つ。どちらも水田地帯では普遍的な植物であるが、ミゾソバは葉に耳を持ち、ヤノネグサは切型であることから区別できる。分布は北海道〜九州まで日本全国。また朝鮮半島や中国にも分布する。

 茎にはあまり棘がなく、草丈50cm程度、托葉鞘は長くて膜質で縁に縁毛がある。花期は9〜10月で先端に花が集合するタイプ、花色は淡紅色である。花柄には腺毛があるが、ナガバノウナギツカミと異なり小花柄には腺毛がない。

(P)2003年7月 茨城県

2011年10月 茨城県

同左
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