日本の水生植物 水生植物図譜
シソ科 Labiatae
(APGW:シソ科 Labiatae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
genus search
アキギリ属 イヌコウジュ属 イヌゴマ属 カワミドリ属 シロネ属 タツナミソウ属 テンニンソウ属 トウバナ属 ニガクサ属 ハッカ属 ミズトラノオ属 ヤマハッカ属

アキギリ属 Salvia (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae ハッカ連 Mentheae アキギリ属 Salvia
標準和名 ミゾコウジュ 学名 Salvia plebeia R. Br. 生活型 越年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 「溝」コウジュであるが、溝など水位がある場所よりも畦や河原など地下水位があるやや湿った環境に自生する。シソ科他種に比べ花期は5〜6月と早い。シソ科らしい四角柱の茎で草丈70cmまで育ち、盛んに分岐する大型の湿地植物で、科名植物シソに雰囲気が似た花を付ける。

 湿地植物としては面白い生活史を持っており、越年草である。(または「冬型一年草」と呼ぶ)田の畦などで急減しているのは田植え前に耕起する際に除草されてしまうからではないだろうか。画像のものは茨城県南部の河川敷で発見したものであるが、周辺の水田地帯では見ることが出来なかった。
 ちなみに茨城県南部、利根川や小貝川ではありふれた植物で場所により呆れるほど繁茂しているが、全国的に見ても有数の自生地となっている。

 同じシソ科の似た名前の植物、ナギナタコウジュ(ナギナタコウジュ属)は花を花穂の片側に付け(ナギナタに見立てた)、山地の道端など乾地に自生するので見分けは容易。

(P)2008年6月 茨城県
2010年6月 茨城県 同左
2013年3月 茨城県 越冬草姿、ロゼット 2013年5月 茨城県 開花は早い
2014年5月 茨城県 同左 花序は上から見ると十字型となる
【ミゾコウジュ】2016年5月 茨城県
イヌコウジュ属 Mosla (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae ナギナタコウジュ連 Elsholtzieae ヤマジソ属 Mosla
標準和名 ヒメジソ 学名 Mosla dianthera (Hamilt.) Maxim. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 ヒメジソはシソよりもコシロネに近く、葉茎の特徴がそっくりである。以前コシロネの画像を掲示板に投稿したところ、専門家から「ヒメジソではないか」と指摘を受けたほど開花期以外は草姿が似ている。シソ臭もなく、もちろん食用にはならない。開花すれば花はシロネは葉脇、ヒメジソは花穂に付くので一目瞭然である。
 水田地帯では水田に侵入することは無く、畦などで叢生している姿を良く見かける。同属のイヌコウジュとも似ているが、ヒメジソは画像のように鋸歯が粗い点で同定可能な他、イヌコウジュはほぼ水辺に進出することがないので自生地によっても判断ができる。(鋸歯は片側4〜6個、7個以上はほぼイヌコウジュ)

(P)2005年10月 茨城県
2005年10月 茨城県 粗い鋸歯、全体が三角形の葉 同左 四角柱の茎、葉裏にも繊毛が目立つ

2015年9月 千葉県
イヌゴマ属 Stachys (APGW:オドリコソウ亜科 Lamioideae イヌゴマ属 Stachys
標準和名 イヌゴマ 学名 Stachys riederi Chamisso var. intermedia (Kudo) Kitam. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地や湿り気のある陸上に自生する多年草。北関東ではやや分布が薄い。種子がゴマに似ることで「ゴマ」と名乗るがシソ科であり、もちろん食用にならない。また地下茎が正月料理のチョロギ(幼虫のような、巻貝のような食物)に似ているのでチョロギダマシとも呼ばれる。役に立たない「イヌ」を冠し別名も本家ではない「〜ダマシ」が付いているが、花は十分に観賞価値があると思う。

 茎は中空、四角柱状で稜があり、逆棘がある。葉は対生。休耕田などにもまれに見かけるが、里山北向き斜面などじめじめした場所でも見かけるので環境適応範囲は広いのではないかと思われる。

(P)2006年7月 茨城県
2013年5月 茨城県 成長期の草姿 2012年7月 茨城県 小貝川氾濫原
標準和名 エゾイヌゴマ 学名 Stachys riederi Chamisso var.villosa (Kudo) Hara 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 基本的にはイヌゴマの変種であり(1)茎に開出毛がある(2)愕片が赤褐色となる、という特徴を持つ、とされている。しかし実際の観察ではイヌゴマの「逆棘」とエゾイヌゴマの「開出毛」は微小な相違であり、愕片にしても時期によって色付いたりするので同定ポイントとしてはどうだろうか。
 イヌゴマの画像を見て頂くと花も茎も無毛に近く、相違は明らかだがこれだけ顕著な例はむしろ例外で、どちらも取れる中間型のような株も多い。これだけの微小な相違をもって果たして「種」として成立(変種、だが)するのだろうか?

 本種はエゾ、を名乗るが北海道の固有種ではなく、近畿地方を南限、西限として広く分布する。関東地方ではやや山地性が強いようだが、平野部の河川敷などにも見られることがある。九州〜沖縄にかけてはまったく無毛の「ケナシイヌゴマ」が分布する。

(P)2010年6月 茨城県 開出毛が目立つ
2011年7月 茨城県 葉形 同左 四角柱、中空の茎
標準和名 ケナシイヌゴマ 学名 Stachys riederi var. japonica 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 イヌゴマの変種である。イヌゴマに見られる逆棘やエゾイヌゴマの開出毛がまったく無く、無毛である。分布は九州〜沖縄とされているが、各地にも点在するらしく画像の株は栃木県の湿地で発見されたもの。ありふれた植物であるイヌゴマを一々精査する人間が少ない、元々さほど分布しないという現状が自生状況を分かりにくくしていると考えられる。ちなみに産地とされる長崎県、大分県では都道府県RDBで絶滅危惧TB(EN)、沖縄県でも絶滅危惧U類に指定され、危急度が高い。

 無毛である点を除けば植物体としての特徴はイヌゴマ、エゾイヌゴマに同じ、茎は四角柱で中空、花色、形状なども同じである。偶然かも知れないが、採集された方、私の環境とも育成株はイヌゴマに比し草体、花が小さくまったくの別種のような印象がある。
 またの名を「チョウセンイヌゴマ」というが、上記の自生状況、画像の株の出自を考えれば朝鮮半島に自生があっても不思議ではない。(ただし未確認)こうした亜種変種レベルでは自生状況が明確ではなく、RDBの検討からも漏れている植物が数多く存在する。

(P)2012年10月 茨城県(自宅育成)
2012年10月 茨城県(自宅育成) 無毛の草体 同左 葉形
2013年6月 茨城県(自宅育成) 開花、花はイヌゴマより小さい 同左
カワミドリ属 Agastache (APGW:同分類)
標準和名 カワミドリ 学名 Agastache rugosa (Fisch. et C.A.Mey.) Kuntze 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 湿地に自生する強い芳香(ハッカ臭)があるシソ科の多年生植物。草丈40〜100cm長になり茎は四角柱状。葉は対生で卵状心臓形、ハーブ類のような印象であるが、事実ハーブのアニスヒソップと同属である。葉を揉むと芳香は更に強く感じられる。

 本種は基本的に川辺や沼岸など湿った場所に多い湿地植物だが、山林内など乾地でもしばしば見られ、花の美しさから観賞用にも用いられるが、この場合花壇などにも植栽される。和名の由来は不明、葉や茎は漢方に用いられ、生薬名はかっ香または排香草、風邪や解熱に効能があるとされる。

(P)2015年7月 茨城県
2015年7月 茨城県 同左
シロネ属 Lycopus (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae ハッカ連 Mentheae シロネ属 Lycopus
標準和名 コシロネ 学名 Lycopus ramosissimus Makino var.japonicus (Matum.et Kudo) Kitam. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 水田や湿地に自生するシロネの仲間。茎が四角柱、直立し分岐が少ない。遠目にはハッカのような印象を受けるが鋸歯が粗くハッカ臭もない。同じ小型のシロネであるヒメシロネに比べて葉が短く丸い印象である。サルダヒコ・イヌシロネという犬猿揃った、神話時代風の奥ゆかしい別名を持つ。
 近隣では水田畦際に群落となりヒメジソなどと混生しているが、本籍は湿地のようである。どこにでもあるようで探してみると意外に無い。
 花はシロネ、ハッカ系の葉脇に密集するタイプで小形白色の唇形花をつける。発見当初はシソ科であることは分かったが葉形からシロネの仲間とは思えなかった。調べてみたところ地域によって葉形が大きく異なる場合があるとの事で納得。

(P)2005年10月 茨城県 花はシロネ同様葉脇に付く

2005年10月 茨城県 ヒメジソに似た葉の印象 同左

2015年9月 茨城県

2016年10月 茨城県
標準和名 シロネ 学名 Lycopus lucidus Turcz. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 地域や環境によって草体の変異の多い属であるが、コシロネやヒメシロネを圧倒する草体の大きさで同定可能な種。繊細な種が多いシソ科の野草にあって大きな葉、粗い鋸歯、四角く太い茎など存在感も圧倒的である。引き抜いて見れば和名の通り根が白い。
 本種は東北地方では水田に侵入する雑草だそうだが、茨城県南部では湿地に自生する。霞ケ浦沿岸の湖岸湿地には特に多く、ヒメシロネ、ヤブジラミ、ホソバノヨツバムグラ、ジョウロウスゲなどと共にアシ帯の外縁に繁茂し株数も多い。

 大きな草体に比し、花は地味な唇形白花が葉脇に輪生する。コシロネやヒメシロネも同様。花期以外の同定は上記の通り四角柱の茎と鋸歯によるのが確実。あまり似通った種も他にない。

(P)2010年6月 茨城県
2010年8月 茨城県 同左 花
2014年6月 茨城県 特徴的な鋸歯 同左

2015年7月 千葉県
標準和名 ヒメシロネ 学名 Lycopus maackianus (Maxim.) Makino 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 シソ科の多年草。北海道〜九州から朝鮮半島、中国などに分布する。シロネ属他種同様に茎は四角柱状で直立し、草丈50cm長前後となる。葉は無柄に近く、縁には鋸歯が目立つ。裏面には腺点がある。水田地帯にも多いシロネ、コシロネ(ともにシロネ属)に比べればやや希少な植物。コシロネとの区別は葉が長く鋸歯の形状も違うので一目瞭然であるが、シロネとの違いは生育初期には難しい。シロネを見慣れていれば「やや小さくスリムかつ葉がまばら」ということで一目で区別が付く。

 湿地で見かける種だが、最近になって減農薬・無農薬となった水田脇で発生している姿を見かけることがある。元々は水田雑草的な性格を持つ植物なのだろう。

(P)2007年9月 茨城県
2015年6月 茨城県 同左
2015年6月 茨城県 同左
タツナミソウ属 Scutellaria (APGW:タツナミソウ亜科 Scutellarioideae タツナミソウ属 Scutellaria
標準和名 ヒメナミキ 学名 Scutellaria dependens Maxim. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地や水田などに自生するタツナミソウ属の植物。タツナミソウ属で湿地植物なのは本種だけである。花は他種タツナミソウ属に特有の花冠の筒部が基部で湾曲し立ち上がる形状のものとやや印象が異なる。葉は三角形の独特な形状のものが対生する。細い地下茎で増殖し群落を形成する。草丈は50cm近くに伸長するが柔らかく自立する力に欠け、他植物に寄りかかって成長する。自生は湿地であるが、抽水することや完全な水中で生育することはない。アシ帯やスゲ帯などで他の植物に混じって目立たずに生えている。(右画像はミゾソバ群落に自生していたもの)
 環境省RDB、レッドリスト2007ともに記載されていないが、関東地方ではそれほど残存は多くない。地誌やフロラによる霞ケ浦沿岸の湿地をかなり時間をかけて調査したがほぼ絶滅状態であった。(画像は茨城県南部の湿地で偶然発見したもの)感覚的にはヒメハッカやマルバノサワトウガラシと同様に希少になっている。

(P)2011年6月 茨城県
2011年6月 茨城県
花は葉脇に花柄を持った薄い紫〜ピンクのものが2つ並んで咲く
同左 紫色の斑点がある
2011年6月 茨城県 葉形は三角系状、荒い鋸歯が入る 同左 花に毛があるのも特徴の一つ

2015年5月 草体スキャン画像
テンニンソウ属  Leucosceptrum(APGW:オドリコソウ亜科 Lamioideae テンニンソウ属 Leucosceptrum
標準和名 テンニンソウ 学名 Leucosceptrum japonicum (Miq.) Kitam. et Murata 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 全国に分布する多年草。広葉樹林の斜面下部や渓流際など湿った場所に生育する多年草。草丈は50〜100cmと大型になり、茎は四角柱状、葉は対生し長さ20cm前後になり無毛。9〜10月に先端部に花序を付ける。花冠は白〜淡黄色、4本の雄蕊と1本の雌蕊が突出する。地下茎は木化する。

 和名由来ははっきりしないが、葉を羽衣に見立てたという説(本種の葉は虫食いされやすくほぼボロボロだが)や、群生する花を天女の舞いに見たてた説がある。個人的印象は後者である。花は美しく園芸用植物としても用いられることがある。

(P)2017年9月 栃木県
2017年9月 栃木県 同左
トウバナ属 Clinopodium (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae ハッカ連 Mentheae トウバナ属 Clinopodium
標準和名 イヌトウバナ 学名 Clinopodium micranthum (Regel) Hara 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿り気のある原野・路傍や湿地に自生する。湿地周辺では水田の畦、湛水されていない休耕田などで見られる。花穂が円筒状で段階的な塔状(輪散集散花序)になることはトウバナ同様であるが、鋸歯がやや大きく、開花期が秋であることが相違点。茎や葉の表面には短毛がある。
 萼は基本的に赤紫色であるが、日当たりが悪い場所では画像のように緑色となる。湿地以外に生育するものは林縁の木陰などに自生するので緑色になる場合が多いようだ。

 有用植物に似て役に立たない、という「イヌ」が冠されているが、トウバナ自体も食用になったり何らかの薬効があるということは確認されていない。

(P)2015年8月下旬 茨城県
2015年8月下旬 茨城県 塔状の花穂 同左 葉はやや鋸歯が大きい
標準和名 トウバナ 学名 Clinopodium gracile (Benth.) O.Kuntze 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿り気のある原野・路傍や湿地に自生する。花穂が円筒状で段階的な塔状(輪散集散花序)になることが和名由来。草丈は10〜30cm程度で茎は四角柱状、鋸歯のある2〜3cmの三角形状の葉を対生させる。花期は5〜8月。

 近隣では谷津田の畦、水路付近などに他の湿地植物と混生する場合が多い。上3点の画像は水田の畦、下の大きな画像は水路際で撮影したもの。近似種のイヌトウバナ(C.micranthum)が酷似するが、イヌトウバナは葉に毛や腺点があり、また開花が秋なので本種と区別できる。

(P)2011年7月 茨城県
2011年7月 茨城県 塔状の花穂 同左 葉はヒメジソに似る

2015年7月 千葉県 疎水の岸辺に自生していた
ニガクサ属 Teucrium (APGW:キンランソウ亜科 Ajugoicleae ニガクサ属 Teucrium
標準和名 ニガクサ 学名 Teucrium japonicum Houtt. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 山野の湿った場所や水辺に自生するシソ科多年草。草丈30〜70cmとやや大型になり茎は四角柱状、葉は対生し5〜10cm程度の卵状長楕円形〜広披針形、鋸歯の目立つ葉を付ける。葉脈が陥没し立体的に見える。花穂に1cm前後の淡紅色の花を付ける。上唇は深く2裂、下唇は3裂し、中央裂片が大きく、舌状に垂れ下がる。花期は夏。
 草体や花が近似するツルニガクサ(Teucrium viscidum var. miquelianum)は萼に腺毛が密生するが本種はまばらに短毛があるだけで、両種の有力な判別ポイントとなる。

 和名を漢字表記すれば「苦草」だが、葉に苦味はない。名称がどこから来たのかは不明。センブリ(リンドウ科)の別名がニガクサで、こちらは「名は体を表」しており、どこかで混乱が発生し定着してしまったものかも知れない。花の観賞用として園芸植物並みの美しさを持つ。育成は日陰であれば庭植えでも良いが、細い地下茎によって予想以上に増えてしまうので管理が難しい。

(P)2011年7月 茨城県
2011年7月 茨城県 花 同左 葉、縁に鋸歯

2015年6月 東京都
ハッカ属 Mentha (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae ハッカ連 Mentheae ハッカ属 Mentha
標準和名 ハッカ 学名 Mentha arvensis var. piperascens 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地や水田、用水路に自生する野生種のハッカ。ヒメハッカとの違いは葉が大きく鋸歯があること、花が葉腋に複数つくこと(ヒメハッカは頭頂部に集中)などで、ヒメハッカに比べれば分布は圧倒的に広い。ハッカ臭はかなり強く、葉を揉まなくても草体に近寄っただけで香りがある。

 ハッカはすなわち薄荷で、出荷する際には絞ったハッカ油だけになるので荷物が軽く(薄く)て済む、というところから来ているとの事。古来から香料として幅広く利用される天然ハーブであったことを示唆する命名である。尚、本種は古来の「日本薄荷」そのものであるが、現在ガムや煙草に用いられる「ハッカ」は化学的に合成されたもので本種が使用されることはない。

(P)2005年6月 茨城県 More weedハッカ
2005年8月 茨城県 花 同左 花は葉脇に付く
2013年10月 茨城県 農業用水路に群生 同左
標準和名 ヒメハッカ 学名 Mentha japonica (Miq.) Makino 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 自生地が極端に限られた、絶滅寸前の湿地植物。偶然発見した近所の自生地も近隣の造成工事の影響によって湧水を水源とする池が干上がりつつあり、あと数年は持たないと思われる。
 小型ながら綺麗な形の花を密集させ、観賞価値は高い。また、全草はハッカそのものの香りがあり、葉をそのまま噛んでも清涼剤代わりになる。
 水中では矮小化して長期育成が困難。屋外水鉢で花を楽しむビオトープ向き植物。実生、走出枝により生殖は盛んで増殖は容易である。人為的に挿し芽で殖やすことも可能。
 交雑種の多い属であるが、同定については薄荷な百科展が詳しい。

 この植物の自生環境と元自生地と言われた地形を見たが、地下水位がありかつ表層土が乾いている地形で粘土質の湖岸である。今やどんな小さなため池でも護岸工事が進められてしまっており、地形自体が無くなりつつあることがこの植物が減少している理由とリンクしていると思う。レッドリスト2012のランクは個人的にかなり疑問がある。

(P)2003年8月 茨城県 More featureヒメハッカ
2008年9月 茨城県 花 同左 花は頭頂部に密集する
2011年7月 茨城県 成長期 同左 葉形。鋸歯はない
2014年9月 茨城県 同左
標準和名 マルバハッカ 学名 Mentha rotundifolia Huds. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 非常に美しい葉と花を持つミントの仲間である。優雅な和名を持つが、園芸種逸出による帰化種である。またの名をアップルミントという。この仲間(ハーブ類)はブームになっている事もあり、数多くの種類が野生化している。それだけではなく、在来固有種との交雑もあり正体不明のシソ科植物も見かけることも多い。遺伝子レベルで影響を与える植物の帰化は大きな問題であると思う。
 この写真は千葉県我孫子市、手賀沼のほとりのものであるが、周辺にはオオフサモやフサジュンサイの群落も見られる。水質の問題が一段落した今、取り組むべきテーマである点を喚起したい。

 家の近所では逸出源は明らかで、農村と新興住宅地のモザイク状の街にありがちな「レンタル農園」で、周辺の水田に見慣れない植物があると隣接するレンタル農園に必ずと言って良いほど同じ種がある。特にハーブ類が多く本種もそうしたハーブの一種である。

(P)2005年10月 千葉県
2014年8月 茨城県 同左
ミズトラノオ属 Eusteralis (APGV:オドリコソウ亜科 Lamioideae ミズトラノオ属 Pogostemon
標準和名 ミズトラノオ 学名 Eusteralis yatabeana (Makino) Murata 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 自生環境の喪失により急速に野生絶滅が進んでいる植物。近似種のミズネコノオが水田に多く、稲作のサイクルに合わせて生き残っているのに対し、清浄な環境の湿地を中心に自生する本種は自生環境が狭まっているのが原因と推測される。山と渓谷社「野に咲く花」に掲載された本種の市内自生地もすでに消滅している。

 水槽でも育成できるエウステラリスであり、水草として流通することもある。水中葉は三輪性の場合が多く、オランダプラントやミズネコノオのように豪華な草姿にはならない。一方屋外では草姿に比べて綺麗な花を開花させるので、水槽で地味な水草扱いするのはもったいない。

(P)2005年9月 茨城県
2010年9月 茨城県 複雑で華麗な花 同左 拡大
2011年7月 茨城県 4輪生が一般的な気中葉 同左 不完全な殖芽と思われる越冬芽
2011年10月 茨城県 同左

2011年9月 茨城県
標準和名 ミズネコノオ 学名 Eusteralis stellata  (Lour.) Murata 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 主に水田、休耕田に自生する小型の一年草。ミズトラノオに比べ花が地味で目立たない。花に独特の香りがあり、文章表現が難しいが「沈丁花を希薄にしたような独特の甘い香り」がする。ミズトラノオ同様、各地で減少しているが、要因は除草剤の使用にあると考えられる。当地でも本種が自生する水田は除草剤の使用がないか、極端に少ない。

 本種は上記のように地味な草本で、成長期は下画像のように他種水田雑草の合間に生育する。このため非常に探しにくい。花は稲刈後に開花するので(北関東基準)やや目立つ。

(P)2003年9月 茨城県 耕作田  More Featureミズネコノオ
2005年7月 茨城県
稲や水田雑草の合間に並んで生育
2005年8月 休耕田
2007年10月 茨城県 開花 同左 花穂は各分岐に付く
2014年9月 茨城県 同左

2014年9月 茨城県

2015年10月 東京都 湿地で群生する
ヤマハッカ属 Isodon (APGW:イヌハッカ亜科 Nepetoideae メボウキ連 Ocimeae  ヤマハッカ属 Isodon
標準和名 カメバヒキオコシ 学名 Isodon kameba  Okuyama ex Ohwi 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 山地の湿り気のある場所に自生するシソ科の多年草。画像は栃木県日光市内で、根本が渓流に洗われるような湿地に生えていた。シソ科らしく茎は4稜し、長さ10cm前後、幅5cm前後の葉は対生で鋸歯が目立つ。葉先が3裂し、中央が尾状に細長く伸びることから亀の尾に見立てた和名が付けられた、という説がある。花は唇形花で花柄に開出毛が密生する。花冠は青紫色、2唇形で上唇が4裂し下唇はボート形となる。

 本種は薬草で弘法大師空海が発見した起死回生の野草と言われている。一風変わった和名は「亀」由来ではなく「噛めば引き起こし」という効能を謳ったものではないだろうか。

(P)2017年9月 栃木県 渓流際
2017年9月 栃木県 同左
inserted by FC2 system