日本の水生植物 水生植物図譜
サクラソウ科 Primulaceae
(APGW:サクラソウ科 Typhaceae オカトラノオ属 Lysimachia はヤブコウジ科 Myrsinaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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オカトラノオ属 サクラソウ属
オカトラノオ属 Lysimachia (APGV:ヤブコウジ科 Myrsinaceae オカトラノオ属 Lysimachia
標準和名 イヌヌマトラノオ 学名 Lysimachia x pilohora Honda 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 オカトラノオとヌマトラノオの雑種であり両種の中間的形質を持つ植物。葉幅はオカトラノオに近い(ヌマトラノオはやや細い)が花穂はヌマトラノオのように直立し、先端が垂れ下がる。(オカトラノオは大部分が垂れ下がる)
 自然交雑種であり、両親が近距離に存在しないと発生しないが、雑木林中の沼ではオカトラノオが林縁、ヌマトラノオが林縁近くの湖岸と住みわけており意外とそうした環境が多い。

 本種は交雑種とされているがオカトラノオ、ヌマトラノオ同様2n=24の染色体を持ち稔性がある。イヌヌマトラノオとヌマトラノオの交雑も見られる、との事であるが限りなくヌマトラノオに近い表現型では素人が目視しても判別できないだろう。
 独立種の可能性も視野に入れた研究成果が地元茨城県の中村直美氏によって論文として発表されているが、人工交配や多くのフィールドワークの結論として交雑種である、とされている。

(P)2009年8月 東京都

2015年6月 東京都

同左

2015年6月 東京都

同左

2015年6月 東京都 出穂直後、開花前は花穂はヌマトラノオのように直進する
標準和名 オカトラノオ 学名 Lysimachia clethroides 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 和名は「オカ」トラノオであるが、しばしば湿地や周辺で見ることができる。画像は茨城県の湿地でのもの。また山野でもやや日陰となる湿り気のある場所に自生することが多く、湿地植物的性格を持つと思われる。その証左として上記イヌヌマトラノオの存在があげられる。ヌマトラノオとオカトラノオの自生地が懸隔している(完全な湿地と陸地)場合、交雑が頻繁に発生するとは考え難く、一方でイヌヌマトラノオはやや普遍的に見ることができる。そして自生地は湿地である。

 上記のようにイヌヌマトラノオが湿地に自生し、ヌマトラノオと同様の環境を好むことからオカトラノオは父種である可能性が強く、ヌマトラノオと近接した環境にあることを伺わせる。しかしオカトラノオとイヌヌマトラノオは類似した草姿を持っており、「陸生の」イヌヌマトラノオがオカトラノオ群落に紛れていたり誤認されている可能性も捨てきれない。この場合は父種はヌマトラノオであることが予想される。

(P)2014年6月 茨城県

2014年6月 茨城県

同左

2014年6月 茨城県 花は綺麗だが一つ一つの花は小さい
標準和名 クサレダマ 学名 Lysimachia vulgaris L. var. davurica (Ledeb.) R. Kunth 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 非常に印象的な名称の草本であるが「腐れ玉」ではなく「草連玉」である。マメ科の木本、レダマ(連玉)に似た黄色い花を咲かせることから名付けられたもの。夏の花期には先端の花穂にサクラソウ科らしい美しい形の黄花を多数付ける観賞価値の高い植物である。

 物の本では自生地を山地の湿地としているが、平地の湿地にも見ることが出来、山地のまったく無い関東平野の真っ只中の地元市内でも見る事が出来る。ただし冠水しない湿った土地を好み、湖岸湿地や河川の後背湿地が開発により失われてしまった現在では平野部ではかなり希少になっている。

(P)2007年6月 茨城県

2014年5月 茨城県 葉

同左

2015年7月 千葉県

同左

2015年7月 千葉県
標準和名 コバンコナスビ 学名 Lysimachia nummularia L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 アクアリウム・プランツとして流通する「コインウォーターチェーン」である。ヨーロッパ原産で日本の気候にもフィットし、一部地域で帰化している。乾燥にも強く、元々グランドカバー用として人為的に導入されたものが逸出定着している。水温が20℃を超えれば水中にも適応する。
 茎は長く地面を匍匐し、長さ50-60cmとなる。葉は対生で卵形ないし円形(この形状がアクアリウム・プランツとしての異名「コイン」、和名の「コバン」の由来)で全縁。表裏両面や花冠に黒い小腺点がある。全草無毛で花期は4〜7月、萼片、雄蘂とも5。

 定着すると一定範囲を被覆してしまうため多様性にとって脅威となる外来種であるが、幸いなことに関東地方ではまだ目立つほどの帰化はない。

(P)2007年6月 茨城県

2015年6月 茨城県

同左
標準和名 サワトラノオ 学名 Lysimachia leucantha Miq. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧TB類(EN)

 元々自生地が少なく、湿地の環境破壊もあって滅びかけている美しい湿地植物。象徴的な話として、本州には静岡県と埼玉県、2箇所の自生地があったが埼玉県のものは道路工事によって埋め立てられ減少してしまった。画像は埼玉県の機関で系統保存されているものである。
 環境省RDBによれば、現在自生地があるのは静岡県、佐賀県、熊本県、大分県で、それぞれ1箇所、放置すれば遷移によって絶滅してしまう危うさである。さらに変種であるトウサワトラノオは愛知県で不安定な自生地が1箇所のみ(休耕田で出る年がある、という程度)である。栃木県でも埋土種子から発芽のニュースがあったが存続は不安定なようだ

 ヌマトラノオの花穂を膨らみを持たせて丸くしたような綺麗な花を咲かせるが、上記の通りの状況であって野外で見かける機会はない。自生地の保全以前に種の存続を考えなければいけないレベルの植物である。

(P)2010年5月 埼玉県(埼玉県環境科学国際センター)  More Featureサワトラノオ

2012年10月 茨城県(自宅育成)
ロゼットで越冬する

同左
元株は挿し芽から発根したもの

2013年6月 茨城県(自宅育成)
挿し芽株からごく少数の花が開花した

同左
株の充実度が足りないのかドーム状にはならない

2010年5月 埼玉県(埼玉県環境科学国際センター)
標準和名 トウサワトラノオ 学名 Lysimachia candida Lindl. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧TB類(EN)

 愛知県と栃木県、僅か2か所に残された希少種。栃木県の自生地は長らく絶滅したと考えられていたが、約50年ぶりに復活したもの。存続基盤が微妙で絶滅が危ぶまれている。植物体の印象はサワトラノオに近いが、草体がやや小さく花は大きいようだ。
 サワトラノオとの外見上の相違は花弁の先端が尖ること(サワトラノオは丸みをおびる)、葯が黄色であること(サワトラノオは淡紫色)など。その他はオカトラノオ属他種と近似している。

 沢虎尾に対し「トウ」が付いているが、中国に多く分布することから「唐」が冠されたという説がある。しかし中国の自生の実態は分かっておらず、中国の植物図鑑(湿地植物 南方日報出版社)にも記載されていない。

*画像3枚は栃木県植物研究会、吉永イキ子氏のご好意によりお借りしたものです。

(P)2011年6月 栃木県(撮影・著作 吉永イキ子様)

2011年6月 栃木県(撮影・著作 吉永イキ子様)

同左

2019年5月 栃木県

同左

2019年5月 栃木県
標準和名 ヌマトラノオ 学名 Lysimachia fortunei Maxim. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 トラノオと名乗る植物は多く、庭植えで楽しまれるカクトラノオ、山野に自生するオカトラノオ、オカトラノオと本種の交雑種であるイヌヌマトラノオ、アクアリウムで馴染み深いミズトラノオなどがある。和名の共通語は同科同属の植物を示唆していない点に注意。ヌマトラノオは名前通り湿地に自生するサクラソウ科の植物であるが、花穂を直立させることで近似種との区別が出来る。

 近隣の自生地では沼の岸辺や休耕田湿地などにもあり、旺盛な繁殖力を誇っている。自生地では同環境下でミソハギ、ボントクタデ、アキノウナギツカミなど湿地性の植物達と混生している。この属では最も目にする機会が多い植物だ。

(P)2008年8月 茨城県 More Weedヌマトラノオ

2014年5月 茨城県

同左

2014年7月 茨城県 小貝川氾濫原

同左

2015年7月 茨城県
標準和名 ノジトラノオ 学名 Lysimachia barystachys Bunge 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 似たような草姿のオカトラノオやヌマトラノオと異なり非常に稀な植物である。近隣では渡良瀬遊水池のような自然度の高い湿地や谷津田の奥、水田への傾斜地などで稀に見かける。
 完全な湿地植物ではないが湿り気のある土地を好み、日当たりの良い乾地には自生しない。類似の他種との相違は草体が毛深いこと、花期が早い(関東地方基準で6月頃、画像のものは7月下旬の撮影であり、すでに花が終わりかけている)こと、葉が細長いことである。
 また花穂に変異が起きやすいようで、図鑑や基準標本のものは先端がまさに虎の尾のようにすっと伸びるが、画像の株のように切り落とされた形のものがまま見られる。この点オカトラノオやヌマトラノオには見られないので有力な同定ポイントになるのではないだろうか。

 サクラソウ科ではサワトラノオやトウサワトラノオとともに掛け値なしに絶滅の危険が高い植物であり、見かけても採集することは避けたい。

(P)2005年7月 茨城県  More Featureノジトラノオ

2010年7月 栃木県 渡良瀬遊水地湿地資料館

同左

2010年6月 栃木県 渡良瀬遊水地湿地資料館
毛の多い茎、花穂の様子

2015年8月 栃木県 渡良瀬遊水地第一調整池
標準和名 ヤナギトラノオ 学名 Lysimachia thyrsiflora L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 山地の湿地に稀産するオカトラノオ属。草丈30〜80cm程度、同属他種と異なり花序は頂点に付かず葉腋に短い総状花序を付ける。花色は黄色。葉は対生、披針形で無柄。茎は無毛でやや軟弱、直立してほとんど分枝しない。ご覧の通り花期以外は地味な目立たない草体で、湿地で見ているかも知れないがスルーしてしまっている可能性もある。タコノアシやクサレダマなど希少な植物も花期以外は「単なる雑草」で、歩く人間(私)がより広範な知識と観察眼を持たないとどうしようもない。

 尾瀬など山岳部の湿原で稀に見られるが平地の湿地にはない。画像は平地の植物園でのもの。

(P)2008年9月 茨城県 筑波実験植物園

2014年5月 茨城県 開花

同左 抽水する株もある

2018年6月 茨城県
サクラソウ属 Primula
標準和名 キバナクリンソウ 学名 Primula smithiana 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ビルマ、チベット原産とされる(中国西南部原産説あり)黄花の常緑多年草。学名はPrimula helodoxaの表記も見える。外来種だが所々帰化しており、高名なサクラソウの自生地である奥日光中禅寺湖畔の千手ケ浜にも入り込んでいる。草丈50〜60cm、花期は4〜6月。
 標高の高い地域の原産であるため夏の暑さには弱いとされるが、上記中禅寺湖畔のみならず平野部でも時折見かけることがある。直射日光の入り込まない森林中の小河川沿いなどで越夏している。箱根湿生花園や筑波実験植物園にも植栽展示されている。

 クリンソウ同様に和名由来は花が花茎を中心に円状、数段に重なる様を五重塔の先端などにある「九輪」に模したもの。

(P)2014年5月 茨城県

2014年5月 茨城県

同左
標準和名 クリンソウ 学名 Primula japonica A.Gray 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 山地の湿地、画像のように山水が染み出し苔類が生えるような湿地に自生する大型のサクラソウである。九輪草の名の通り綺麗な花が咲く。(画像は残念ながら花期以外のロゼット)基本色は赤系だが園芸流通するものには桃色や白花などもある。変異なのか園芸改良なのかは不明。本種は環境省RDBには記載されていないが、山野草として採集されることも多く、都道府県版では絶滅危惧種とされている場合もある。

 奥日光中禅寺湖畔の千手ケ浜には有名な群生地があるが、花期以外は雑草にしか見えないためか観光客や釣り人による踏みつけが問題となっている。

(P)2008年9月 茨城県

2014年5月 茨城県 開花

同左

2018年6月 栃木県
標準和名 サクラソウ 学名 Primula sieboldiiE.Morr. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 一般的に花壇植えの園芸植物のイメージが強い本種であるが、自生は池の岸など湿地に生える湿地植物である。そして園芸流通のものを見慣れているためか、意外な印象を受けるが環境省レッドデータに記載される絶滅危惧種である。

 園芸植物として人気も高いため種々の改良も行われ、多彩な花色があるが原種は画像の通りピンク色である。自生は確認しているが元々自生のものなのか逸出して定着したものなのか残念ながら分からない。しかも厄介なことに美しい花は江戸時代から人気であり、長期間に改良が進み、現在は300種以上あるのでオリジナルかどうかも分からない。

(P)2007年4月 茨城県 More Featureサクラソウ

2015年4月 茨城県

同左

2015年4月 茨城県
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