日本の水生植物 水生植物図譜
モウセンゴケ科 Droseraceae
(APGW:モウセンゴケ科 Droseraceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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ムジナモ属 モウセンゴケ属
ムジナモ属 Aldrovanda
標準和名 ムジナモ 学名 Aldrovanda vesiculosa Linn. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧IA類(CR)

 1種1属の多年草で、食虫植物カテゴリーに含まれる。本種は残念ながら野生絶滅がほぼ確認されている種であり、復活の試みが成されている埼玉県の宝蔵寺沼(日本最後の自生地、1966年に台風による洪水で流失、消滅)での育成株や愛好家が維持している株以外には存在しないと思われる。環境省RDBでは本来野生絶滅(EW)であるはずだが注記の通りCRとされている。
 元々の自生もごく限られた地域であったと考えられている。「水草の観察と研究」(大滝末男 ニューサイエンス社)に拠れば発見は1890年、牧野富太郎によるもので、比較的近年であることがその証左であろう。世界的には原産地と考えられているインドをはじめ、そこそこ旧大陸に分布するらしい。このため、日本列島がユーラシア大陸と地続きであった頃からの残存植物と考えられている。

 冬季は冬芽となり底近くに沈み、春に浮上して成長を開始する。育成時にはこの生活史がネックとなる場合が多く、殖芽が浮上する時期に増殖を始めるアオミドロが天敵となって成長できずに枯死してしまう場合が多い。この対策には藁(稲または麦、アオミドロ増殖抑制効果があると言われている)やミョウバン(アオミドロを化学的に排除する)などが方法論として知られている。この特性で分かる通り、基本的には貧栄養の水質を好むようである。詳しい育成方法に付いては狢藻栽培録というサイトに詳しく、ご興味があればご参照願いたい。
 食虫植物ではあるが、屋外で育成する場合自然発生するプランクトンや微小な貝類などを捕食するので特に餌は必要ない。適切な日照があればどんどん成長し分岐によって増殖する。問題となるのは世代交代なのである。

 世代交代は上記の通り越冬芽で行われるが、ごく稀に開花する。下の開花画像はタヌキモ科をはじめ食虫植物に造詣の深いHOUさんにご提供頂いたものであるが、私の拙い技術による育成経験では開花を見ることはなかった。薄い緑色の萼と白い小さな花が美しい。滅多に見られるものではないことが残念である。

(P)2005年6月 茨城県(自宅育成) (上)
花 画像提供HOU様

モウセンゴケ属 Drosera
標準和名 イシモチソウ 学名 Drosera peltata Smith var.nipponica (Masam.) Ohwi 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 半月状の捕虫葉を持つ美しい食虫植物。球根性の多年草で、4月頃発芽し根生葉を展開、5〜6月に開花するが、開花時には根生葉は消える。花期には画像のように捕虫葉と花だけの芸術的な草姿となる。残念ながら盛夏には休眠してしまうので、見られる期間はごく短い。自生地ではナガバノイシモチソウと混生するが、花期が異なるので2ショットは見ることができない。
 ナガバノイシモチソウは別として、あまり虫を捕らえている姿を見ない他種モウセンゴケ属と異なり、かなり大型の昆虫も捕食する。捕虫葉が強力かつ繊毛の粘液も粘着力が強い。
 同属他種同様に、明るい開けた湿地に自生するが、そうした湿地自体が少なくなって来ており、自然下で目にする機会は少ない。一方そうした湿地ではかなりの個体数が見られるので繁殖力自体は旺盛と思われる。

 イシモチソウは強い捕虫葉が石を持つ様を表現した和名だが、小石程度であれば本当に持ち上げるぐらいの力を持った草である。

(P)2010年6月 千葉県
2010年6月 千葉県 同左

2018年6月 千葉県
標準和名 コモウセンゴケ 学名 Drosera spathulata Labill. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 モウセンゴケよりもロゼットの直径は小さく3cm程度で、たしかに「小」モウセンゴケであるが、葉は太くしっかりした印象を受ける。モウセンゴケのように葉が立ち上がらず密な印象を受ける。この見かけが山野草愛好家に受けるようで園芸流通する場合も多い。「常緑」多年草で冬に枯れることはないが、葉色は季節によって微妙に変化する。夏には緑色が強くなるが、概ねの時期は画像の通り赤が強い。

 小さな草体から日陰を好むかと思ったが意外とそうでもなく、開けた、酸性の湿地を好み、酸化鉄が地表に現れるような湿地にも存在する。育て方はモウセンゴケに準じる。モウセンゴケの白花に対し本種は紅花である。

(P)2009年9月 千葉県

2013年8月 千葉県 開花 
標準和名 トウカイコモウセンゴケ 学名 Drosera tokaiensis (Komiya et C.Shibata)T.Nakam. et K.Ueda 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 以前はコモウセンゴケの「関西型」とされていたが、近年独立種「トウカイコモウセンゴケ」として扱われるようになった。モウセンゴケとコモウセンゴケの雑種起源の種である。その名の通り、東海地方から近畿地方にかけて分布する。

 本種は交雑種ながら6倍体であり、減数分裂が正常に行われる、すなわち稔性であって実生による増殖が可能である。植物体としての特徴はモウセンゴケとコモウセンゴケの中間的な形質であり、コモウセンゴケには明瞭ではない柄の存在による同定が可能である。花は紅色。

(P)2011年10月 茨城県(自宅育成 兵庫県産)

2011年10月 茨城県(自宅育成 兵庫県産)

同左
標準和名 ナガエノモウセンゴケ 学名 Drosera intermedia Hayne 生活型 一年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法上特定外来生物

 2016年10月に特定外来生物に指定された北アメリカ〜ヨーロッパ原産の外来植物。葉柄が長い点ナガバノモウセンゴケに似るが、補虫のための腺毛が付く葉身の形状が異なり、やや大きく丸みを帯びる。花色は白、雄蕊は5で葯は黄色である。

 以前から園芸用に流通していたが、岡山県等で湿地に帰化が確認され、在来植物との競合・交雑の危険性という観点から特定外来生物に追加指定された。同じ水辺の特定外来生物であるオオフサモやナガエツルノゲイトウとは被害実態に大きな差があり、本種選定に関して疑問や批判も出ているが、現状食虫植物が生存できる湿地が限られており、帰化定着した場合の被害が多様性に大きな被害があるという想定で致し方ないところだろう。

(P)2015年6月 茨城県(植物園展示)

2015年6月 茨城県(植物園展示)

同左
標準和名 ナガバノイシモチソウ 学名 Drosera indica L. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 湿地性の食虫植物。かなり稀である。同じ食虫植物でもタヌキモなどと異なり、かなりの部分の栄養を食虫で賄っており、画像を拡大してみると必ずと言って良いほど何匹かの虫が捕らえられている。文字通りの食虫植物である。
 花色には変異があり、赤花をアカバナナガバノイシモチソウ、白花をシロバナナガバノイシモチソウとする場合もある。他にも紫やオレンジ系の花を付ける株もある。この湿地では基本色の白である。(下画像参照)

 知られる自生地は本州では数箇所だと思うが、等しく保護されており採集はできない。背丈の低い植物だけに湿地の遷移が減少の最たる原因と思われる。この自生地でも湿地自体の手入れ(野焼きなど)によって少数が生き残っているに過ぎない。見ることが出来たのは僥倖であった。

(P)2009年8月 千葉県

2013年8月 千葉県
白い花が本種。紫はホザキノミミカキグサ

同左
虫が捉えられている
標準和名 ナガバノモウセンゴケ 学名 Drosera anglica Hudson 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 高層湿原に自生する希少な食虫植物。本州では尾瀬にのみ自生する。ディープな食虫植物マニアの世界では出所定かならぬ増殖株が時折流通する。
 モウセンゴケやコモウセンゴケと異なり、名前通り長い葉が特徴である。この長い葉で虫を捕らえるがたいした粘着力はなくごく微小な羽虫などが時折捕らえられているのを目撃する程度。

 育成する機会はあまり無いと思うが、雨水で涵養される高層湿原という環境を考えれば他の湿地植物を育てる環境とは自ずと異なり、多湿貧栄養の水蘚単用が望ましいだろう。種を保存する意義という点で個人の育成に異を唱えるつもりはないが、商品価値を持ってしまうのはあまり望ましい話でもない。

(P)2009年7月 茨城県 筑波実験植物園

2015年6月 東京都(夢の島熱帯植物館)

同左
標準和名 モウセンゴケ 学名 Drosera rotundifolia L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地に毛氈を敷き詰めたように見えることから命名された小さな湿地植物。ヘラ状の葉先に多数の突起があり、突起先端に粘り気のある液体を分泌、これで虫をおびき寄せ補足する。下画像の突起の先の玉が粘液である。下右の葉は蚊が捕まっている。
 コケと名乗っているがこれでも立派な顕花植物、被子植物である。小さいが美しい白花も咲く。花穂は最初ワラビの芽のように巻き、開花近くなると解ける。(下画像)

 この植物が自生するのは貧栄養で、かつ長期に渡り乾燥も冠水もしない湿地である。このような地下水位の安定した湿地はそうそう無く、あっても生活排水やら何やらで富栄養化してしまう。要するに自生地が少ない。そこそこ商品価値もあるので採集の対象ともなり減少に拍車をかけているものと思われる。

(P)2010年7月 茨城県

2010年7月 茨城県 捕虫葉

同左

2010年7月 茨城県 蕾

同左
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