日本の水生植物 水生植物図譜
キンポウゲ科 Ranunculaceae
(APGV:キンポウゲ科 Ranunculaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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カラマツソウ属 キンポウゲ属 リュウキンカ属
カラマツソウ属 Thalictrum
標準和名 ノカラマツ 学名 Thalictrum simplex L.var.brevipes Hara 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 徐々に数を減らしつつあるキンポウゲ科の大型湿地植物。草丈は1mほどになり、アシだらけの湿地でもかなり目立つ。茎は分岐せず、主軸が一本すっと立つ。利根川水系には残存があり、渡良瀬遊水地や小貝川の氾濫原が有名な自生地となっている。自生地の特色を鑑みると、本種も野焼きやアシ刈に恩恵を受けている植物と思われる。
 RDB、レッドリスト2012とも絶滅危惧II類(VU)であるが、自生地は本県を含めて8県であり、ランク以上に希少となっている植物である。湿地性の多いキンポウゲ属に比し、陸生の多いカラマツソウ属には珍しい湿地性植物でもある。

 他の多くのキンポウゲ科のものと印象が異なり、花弁がなく萼片も開花後比較的早く落ちるのために雄蕊の葯が目立ち、これをカラマツの葉に見立てた和名である、との説がある。本種が好む環境が年々減少しており、同様の環境を好む他種、エキサイゼリやマイヅルテンナンショウなどと共に、残った環境に追い詰められている印象を受ける。

(P)2010年4月 茨城県

2010年6月 茨城県 花序

2010年6月 茨城県 葉

2010年7月 茨城県 開花

同左
キンポウゲ属 Ranunculus
標準和名 イトキンポウゲ 学名 Ranunculus reptans L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 湿地に希産する小型のキンポウゲ。ミツガシワ等と同様、北半球の亜寒帯に自生する北方系の残存植物と言われている。葉も茎も非常に細く、花が咲いていなければマツバイやハリイのようにも見える。分布は非常に限定されており、本州では尾瀬や日光周辺、北海道にも限られた自生地があるだけ。しかし冷涼な気候が必須、というわけではないようで、画像は関東地方平野部、筑波実験植物園で咲いていたものである。

 環境省RDBでは絶滅危惧TB類(EN)であるが、レッドリスト2007では標記の通り準絶滅危惧(NT)と大幅にランクダウンしている。これは尾瀬沼や日光一帯が国立公園の特別保護区、特別区の植物採集禁止エリアとなっており、自生環境丸ごと保護されていることにより当面絶滅の危険性は低い、と判断されたものと思われる。前述の通り草体は地味で目立たず、開花してもキツネノボタンを小型にしたようなものなので園芸採集もされないはず。
 尾瀬では水辺の浜に自生し、千切れて水に乗って分布を広げるようだ。沈水植物の切れ藻のような興味深い増殖を行う水生植物である。

(P)2010年7月 茨城県(筑波実験植物園)

2011年8月 茨城県(筑波実験植物園)

同左
標準和名 ウマノアシガタ 学名 Ranunculus japonicus Thunb. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 葉形が馬の足の形に似ていることが和名由来と言われるがさして似ていない。(下画像を参照)水田の畦や周辺に一般的なキンポウゲ科の多年草。関東地方では花期は例年4〜5月である。
 別名キンポウゲだが、この科名属名植物は実は和名シノニムであったり、ウマノアシガタの八重咲品種を呼んだり、と諸説あってよく分からない。元々の「キンポウゲ」が何を示すのかなかなか興味深い。漢字表記すれば「金鳳花」であり、文字の印象から八重咲き品種に付けられたシノニムという説は何となく納得できなくもない。
 一方、亜種レベルのものが属名になるのか、という疑問もあるが、実際には存在しない植物種を科名に付けたもの(スイレン科)、交雑種が科名属名となったもの(タヌキモ科タヌキモ属、ヒシ科ヒシ属)もある程なのでそれも「あり」か。

 キンポウゲ科には有毒植物が多いが、本種も有毒。稀に草食家畜の被害が話題になることがある。毒性は属名由来のラヌンクリン(ranunculin、配糖体)で、加水分解によってプロトアネモニン(protoanemonin)を生じる。これが有毒成分と考えられている。要するに食べたりしなければ(加水分解)有毒ではなく、触った程度では何も問題はない。有毒植物の常で、ごく微量が薬草としても用いられる。皮膚病や腫れ物に薬効があるとされるが、もちろん素人の使用は厳禁。

 デジタルカメラで撮影してみると分かるが、花弁にデンプン質を含む細胞層があり、光を反射するためにAEではかなりの確率で飽和(色トビ)する。これはキンポウゲ属全般の特徴である。逆に言えば輝度が高く見栄えのする花ということなので鑑賞用にも相応しい。

(P)2005年4月 茨城県(上)
2010年8月 東京都(下)


2016年4月 千葉県 湿地で群落となった本種
標準和名 キツネノボタン 学名 Ranunculus silerifolius Lev. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ユニークな和名を持ったキンポウゲ科の多年性野草。水田の畦や湿地で晩春から初夏に黄色い花を咲かせる。和名の由来は2説あり、狐の「牡丹」と「釦」である。蕾の形状が釦に見えるので個人的には後者を推すが正確には分からない。もちろん花は牡丹とは似ても似つかない。

 分布は広いが多年草で種子生産性、発芽率などが低いのか、一年草の同属植物タガラシが撹乱(荒起こし)された水田にも発生するのに対し水田内への侵入は少数、畦や休耕田に多く発生する。近似種の科名属名植物キンポウゲ(ウマノアシガタ)とは根生葉の形状で、ケキツネノボタンとは草体の毛の有無で同定可能。

(P)2008年5月 茨城県

2015年4月 東京都

同左
標準和名 ケキツネノボタン 学名 Ranunculus cantoniensis DC. 生活型 多年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 プロフィールは本ページに記載のキツネノボタンとほぼ同じである。混生もしばしば見られる。顕著な相違点は画像のように「毛」に覆われている、ということである。従来の植物分類体系で、花穂や茎、葉に毛があるか無いかという観点で種とするかどうか、という判断には確固としたガイドラインが無いように思われるが、本種は種として扱われるのが一般的だ。

 本図鑑を作成する上で参考としているoNLINE植物アルバムではイヌビエとケイヌビエを区別していないが、本種とキツネノボタンは独立した「種」として扱われている。どちらも顕著な違いは毛の有無だけである。
 この辺の種としての扱いは植物図鑑でもまちまちであり、どの説を採用するかというレベルの問題のようである。遺伝子解析による種の概念ではまた別の判断があるとは思うが。

 一応、であるが一般に言われるキツネノボタンとの相違点を記しておく。また近似種であるが湿地性ではないヤマキツネノボタン(Ranunculus quelpaertensis Nakai var.quelpaertensis)を併記する。

キツネノボタン ケキツネノボタン ヤマキツネノボタン
無毛 茎に毛がある 微小な毛がある
果実の棘 先端が曲がる 直線状 先端が曲がる
小葉の形状 切込みが深い、幅が広い 切込みが浅い、幅はやや狭い 切込みが深い、幅が広い

(P)2008年6月 東京都(上下とも)

標準和名 コキツネノボタン 学名 Ranunculus chinensis Bunge. 生活型 越年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 湿地に稀産する小型のキンポウゲ。全体の雰囲気はキツネノボタンやケキツネノボタンに似ているが、集合果が細長いこと、葉の幅が狭く切れ込みのパターンが全く異なることで同定が可能。(以上、画像を参照)コキツネノボタンという和名であるが、草体の大きさでは判別できない。キツネノボタンも生育条件により、かなり小型化する場合があるからである。
 本種は絶滅危惧種となっている通り、湿地ならどこでも見られる種ではなく、やや湿った原野など限られた環境に自生する。渡良瀬遊水地の第一、第二調整地などは通年こうした環境であり、本種が見られる環境となっている。しかし全般に個体数が少なく、この環境にはキツネノボタンやケキツネノボタンも繁茂していることから探すには想像以上の苦難がある。この画像は同地で探し始めて3年目にして巡り合ったものだ。
 減少原因は、こうした通年湿り気が保持される原野が少なくなっていることだと考えられる。同属で攪乱環境(里山)に順応したタガラシやキツネノボタンとは植物生理が大きく異なっているのだろう。花期は同地で5〜6月、6月に入れば日当たりの良い場所で独特の楕円形の集合果を見ることが出来る。

(P)2011年6月 栃木県 渡良瀬遊水地

2011年6月 栃木県 渡良瀬遊水地

同左
標準和名 タガラシ 学名 Ranunculus sceleratus Linn. 生活型 越年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 水田周辺でよく見られるキンポウゲ科越年草。右画像は発生時期(秋)のものであるが、春になって伸長し株となる。ウマノアシガタに似た黄花を多数付ける。

 和名由来は養分収奪力が大きく田を枯らす(稲を枯らす)「田枯らし」説と、辛子のように辛いという「田辛し」説がある。しかし有毒植物でもあるので「辛い」だけで済まないはずで個人的には前者が正解のような気がする。
 関東地方では秋に発芽し春に開花する「越年草」であるが、気候によって時期が異なる地方もあるのか、一年草の定義を誤っているのか、文献により「一年草」の区分も見える。

(P)2002年10月 千葉県 水路

2015年4月 東京都

同左

2015年5月 東京都 水路の縁に群落を形成している
標準和名 トゲミノキツネノボタン 学名 Ranunculus muricatus L. 生活型 越年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ヨーロッパ・西アジア原産とされる越年草(一年草説あり)。タガラシやキツネノボタンに比べると草体はかなり小型で概ね20cm以下である。葉や花の雰囲気はウマノアシガタに近いが、集合果(痩果)の形状が下画像に見られるように特徴的で判別できる。

 従来、西日本に多く帰化しているとされており、事実関東地方では見る機会がなかったが利根川の常磐線橋梁下で大群落を発見した。ここ数年の橋梁架け替え工事で搬入された土砂に種子が含まれていたものと考えられる。河川敷はグラウンドや遊歩道などの利用がなされており、草刈や小工事等も頻繁に行われ、撹乱環境となっている点も外来種の繁茂の理由となっているのだろう。

(P)2015年4月 茨城県

2015年4月 茨城県

同左

2015年4月 茨城県 河川敷に大群落を形成している(黄色いのはすべて本種の花)
標準和名 バイカモ 学名 Ranunculus nipponicus var. major 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧TB類(EN)

 和名を漢字で表記すると梅花藻、花が梅の花に似ていることに由来する。北日本では平地の河川湖沼にも広範に自生するが、関東地方以南では高地の渓流や湖沼に自生する冷水性の沈水植物。水位が低下すると気中葉を形成し陸生型となる。この場合でも浮葉や抽水葉は形成されない。バイカモの中では静岡県柿田川に自生するミシマバイカモのみが浮葉を形成する。
 上記の通り関東地方では平野部では稀で、軽井沢や日光、山梨県の忍野八海などが著名な産地である。しかし湧水起源の河川上流部であれば自生が可能で、この画像はそうした環境がある栃木県の水田地帯のものである。コカナダモ、ミクリ(沈水型)、コウホネなどと混生していた。

 尚、本種はイチョウバイカモの変種と言われ別名オオイチョウバイカモ、環境省レッドリストにはこちらの名前で記載されているが、本水生植物図譜では一般名称を使用した。

(P)2011年8月 栃木県

2014年5月 茨城県(展示 筑波実験植物園)

同左

2015年 6月 茨城県

同左

2011年7月 栃木県 奥日光湯川
標準和名 ヒキノカサ 学名 Ranunculus ternatus Thunb. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 コキツネノボタン同様、湿地に稀産する小型のキンポウゲ。湿地は初夏にはアシやオギに覆われてしまうが、これらの植物が生長する前に開花、結実する春型植物(スプリング・エフェメラル)である。植物体の特徴は同属植物に比してかなり小型であること、根生葉と上部の葉の形状が異なること(根生葉はタガラシに似て切れ込みが浅く、上部の葉は右画像のように線型のものを出す)、根が紡錐状に膨らむこと(下画像参照)である。集合果は文献により楕円とされるが、当地でのものは円形となるものが多い。(下右画像参照)
 この種も滅多に見られる植物ではなくなって来ているが、定期的に野焼きを行う氾濫原河川敷などで見ることが出来る。野焼きによる遷移の防止、氾濫による土壌の更新や水分の保持などの攪乱が自生条件になっている可能性がある。こうした条件が揃う湿地は数少なく、本種の自生環境が狭まっている、と言えるだろう。河川に於いては徹底した護岸と堤防整備、ライフスタイルの変化によってカサスゲやアシを刈り取ることがなくなり環境遷移してしまった場所が多いことも一因と考えられる。

 ヒキノカサはヒキ(蛙)の傘、という意味で、カエルが住むような湿地環境にあることを示している。完全に水没して生育することは出来ないが、氾濫原に残った池のほとりなどに群生する姿を見ることが出来る。尚、学名Ranunculus ternatus Thunb.は一般的であるが、文献によりRanunculus extorris Hance.と表記される場合もあり、こちらはシノニムと思われる。

(P)2011年5月 茨城県

2011年5月 茨城県 特徴的な根茎

同左 野焼き跡に自生する

2011年5月 茨城県
標準和名 ヒメリュウキンカ 学名 Ranunculus ficaria L. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 ヨーロッパ、西アジア原産の植物だが園芸用途に用いられ、改良品種を含めて帰化が確認されている。和名に「リュウキンカ」が付与されているがキンポウゲ属(Ranunculus)の植物である。
 早春に開花し夏に地上部が枯死するスプリング・エフェメラルで、地下に塊根がタコ足状に数本ある。基本種は黄色の一重咲き(画像)だが、白花や八重咲き、葉に斑が入る等の品種もあり、国内でも園芸用として幅広く流通している。

 原産地では湖畔などの湿地に多く、湿地植物の性格が色濃いと推測されるが、関東地方ではまだ自然湿地で見かけていない。植物体は非常に生命力があり、乾燥にも耐性がある。今後新たな帰化生物として拡大が懸念される植物だろう。

(P)2016年3月 東京都

2016年3月 東京都

同左

2016年3月 東京都
標準和名 ミシマバイカモ 学名 Ranunculus nipponicus var. japonicus 生活型 多年草 自生環境 河川
環境省レッドリスト2017:記載なし

 種としてはオオイチョウバイカモ、イチョウバイカモとの差異が微妙であり、ミシマバイカモを含めた3種がイチョウバイカモにまとまられている。(「日本の水草」角野康郎 P226)話が複雑だが、このうちオオイチョウバイカモが絶滅危惧TB類(EN)に指定されている。

 銀杏の葉形の浮葉を出すが、このうちミシマバイカモは沈水葉が「ぼんぼり型」になるとされている。(同書同頁に記述)和名の通り静岡県三島市に自生するが、環境悪化のために一度絶滅し、現在三島市内で見られるこのバイカモは隣町である駿東郡清水町の柿田川から移植されたものである。

(P)2019年5月 静岡県

2019年5月 静岡県

同左
リュウキンカ属 Caltha
標準和名 エンコウソウ 学名 Caltha palustris L. var. enkoso Hara 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 リュウキンカやキツネノボタンに似た黄花を付けるキンポウゲ科の湿地植物。花、葉ともリュウキンカに似るが花茎、茎とも直立せずに横に這う。この様子を猿が手を伸ばす様子に例えて猿猴草(えんこうそう)と名付けられたとされる。

 本種は平野部の湿地ではほとんど見ることがないが、山地の湿地ではやや普通に見られる。花期以外はご覧のように何の変哲もない植物なので顧みられることも少ない。園芸植物としても稀に流通するが、地味な外見が幸いして盗掘されることも少ない。自生地ではほぼ例外なく画像のような泥状の湿地に在り、湿地依存度が高い植物である。

(P)2008年9月 茨城県

2015年6月 茨城県 特徴的な根茎

同左

2016年4月 千葉県 花は2つ並んで咲くことが多い

同左 群生

2016年4月 千葉県 水流中に茎を這わせて開花している
標準和名 リュウキンカ 学名 Caltha palustris L. var. nipponica Hara 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湿地でまれに見つかる美しい黄花を付ける植物。湿地植物では開花が早いミツガシワよりも更に早く、気候次第で2〜3月から開花が始まる。
 日本、朝鮮半島、中国東北部〜シベリアに分布する、とある通り北方系の湿地植物であり、日本での南限は熊本県近辺とされている。南限を持つ植物は概して高温多湿に弱いが、本種は鉢植えし通常の睡蓮鉢に鉢の6〜7割を浸すように育成すれば問題はない。沈水はしない。
 花の美しさが災いしたのか山野草としての人気もあり、採集され尽くして滅んでしまった湿地も多々あり、ちょっとした珍種となっている。逆に山野草としての購入も容易かつ安価であるので入手は購入をお奨めする。
 ちなみに同科キンポウゲ属のヒメリュウキンカ(Ranunculus ficaria L.)はリュウキンカより複雑で美しい花を付けるが完全な湿地植物ではない。

(P)2008年4月 茨城県(自宅育成)

2010年4月 茨城県(自宅育成)

2011年4月 茨城県(自宅育成)
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