日本の水生植物 水生植物図譜
キク科(2) Compositae
(APGW:キク科 Compositae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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タカサブロウ属 トキンソウ属 ニガナ属 ヌマツルギク属  ハハコグサ属 ハマギク属 ヒヨドリバナ属 ミズヒマワリ属 メタカラコウ属 ヤブタビラコ属
ヨモギ属

タカサブロウ属 Eclipta
標準和名 アメリカタカサブロウ 学名 Eclipta alba (L.) Hassk. 生活型 一年草 自生環境 水田
外来生物:外来生物法指定なし

 熱帯アメリカ原産のキク科一年草。関東以西に広範に帰化している。水路、水田など湿地をはじめ多少湿り気のある場所にも進出する。草丈は30〜100cm、種子には翼があり断面が菱形となる。葉は対生、基部に向かって細くなる。柄はなく茎を抱かない。タカサブロウ(モトタカサブロウ)との相違は種子の形状以外に葉形が指摘されるが、やや葉幅がある場合が多い、という程度。同一群落でも葉の形状には変異が多い。花はタカサブロウより確実に小さい。
 茨城県、千葉県では多くの場所でタカサブロウが本種に入れ替わっており、アレロパシーなど何らかの排他性を有している可能性がある。本種は1981年に帰化が確認された(1948年説あり)ことを考えると伝播スピードが異様に早く感じられるが、それ以前にはタカサブロウと区別されていなかったので実態はやや異なる。

 タカサブロウは東アジア原産の史前帰化種、本種は前出の通り熱帯アメリカ産だが似通った草姿であることが興味深い。画像は水路の底、水深1cm程度。アゼナやチョウジタデ、オオイヌタデと混生していた。

(P)2012年10月 千葉県
2012年10月 千葉県 水路 同左
標準和名 タカサブロウ 学名 Eclipta thermalis Bunge 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 タカサブロウ属の湿地性一年草。水田畦周辺や休耕田で普通に見られる。近年帰化したアメリカタカサブロウとは果実の翼(タカサブロウ:ある、アメリカ:ない)葉の鋸歯(タカサブロウ:浅い、アメリカ:深い)、茎が直立する(タカサブロウ)、基部が這う(アメリカ)という同定ポイントがある。葉幅の相違も言及されることがあるが、環境による種内変異のうちだろう。
 アメリカタカサブロウに比して「モトタカサブロウ」と呼ばれる場合もあるが、元ではなく「本」の意と思われる。水田地帯では仲良く共存している姿が見られ、圧迫されて衰退している様子は見えない。本種も実は史前帰化種と言われているので先に来たか後から来たかの違いである。

 アメリカタカサブロウは存在が認識されたのが近年であり、これに伴いタカサブロウの標準和名をモトタカサブロウ、学名をEclipta thermalisとする説もあるが、ここでは当サイトで標準とするoNLINE植物アルバムの学名表記に従っている。

(P)2009年9月 茨城県

2014年9月 茨城県

同左

2014年9月 茨城県

同左
トキンソウ属 Centipeda
標準和名 トキンソウ 学名 Centipeda minima (Linn.) A. Br. et Aschers. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 本来は畑や荒地の雑草であるそうだが、水田にも非常に多く発生が見られる。水田雑草の多くは稲作の伝来とともに渡来した史前帰化種の末裔であるそうだが本種も該当し、ヨーロッパに広がったものは麦畑に多く見られると言う。ルーツは同じでも環境適応力が優れたグループなのだろう。和名の由来は頭状花を押すと中から黄色の果実が出てくる様を表現したもの、という。漢字で書けば吐金草である。

 草丈は5〜20cm程度で小型、茎は地を這って広がり、所々から発根しながら立ち上がる。葉は互生、長さ1〜2cm、独特の楔型で先端近くに鋸歯がある。花は雌花と両性花があり(下画像花の中心部の紫色が両性花)、雌花、両性花とも結実する。発芽率も高く、水田地帯では最も普通に見られるキク科雑草の一つである。湛水された水田でも成長し、一定期間沈水しても枯死することはない。

(P)2005年7月 茨城県
2011年9月 茨城県 休耕田 同左
ニガナ属 Ixeris
標準和名 ニガナ 学名 Ixeris dentata (Thunb.) Nakai 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地に生えるキク科の多年草。和名を漢字で表記すれば「苦菜」だが野菜として利用するという話は聞いたことがなく、そもそも和名由来は葉や茎に苦味のある白い乳液を含むことから来ている。食べられたモノではないと思うが、なぜか「菜」を名乗る。

 茎は細く全体的に柔らかい。根生葉は倒披針形で有柄、まばらな鋸歯がある。茎葉は無柄で微細な鋸歯があり茎を抱く。頭花は舌状花で黄色、直径15〜20mm程度。舌状花は通常5〜7であり、7〜9のものをハナニガナとして変種扱いすることもある。

(P)2019年5月 千葉県

2019年5月 千葉県

同左
ヌマツルギク属 Spilanthes
標準和名 ヌマツルギク 学名 Spilanthes americana var.repens 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 1975年頃に福岡県で発見された北アメリカ原産とされる帰化植物。現在では本州にまで拡大しているが居住地周辺では見かけない。(画像は本種を展示している「帰化植物見本園」で撮影)匍匐性が強くグラウンドカバー的に群落を形成する。田の畔、沼地や湿地に繁茂する。

 草丈は30〜100cmで三角状卵形の葉を対生する。秋に頭頂に直径1cmほどの花を付ける。花色は黄色。薬用・園芸用として流通するオランダセンニチ(同科同属)とよく似る。オランダセンニチ同様に本種も薬用・食用になるとされる。

(P)2015年8月 東京都(江東区:帰化植物見本園)

2015年8月 東京都(江東区:帰化植物見本園)

同左
ハハコグサ属 Gnaphalium
標準和名 ハハコグサ 学名 Gnaphalium affine D. Don 生活型 越年草 自生環境 湿地

 畔や水田の周辺に生える越年草。春の七草のゴギョウ(又はオギョウ)は本種のこと。若芽を茹でたものを七草粥に入れて食べる。 ちなみにハハコグサ属は GnaphaliumからPseudognaphaliumに変更となっているが、旧分類をベースとした本稿では Gnaphaliumと標記した。

 草体は全体に綿毛があり白っぽく見えるのが特徴。茎葉はヘラ状で2〜6p長、0.4〜1.2p幅で花期にも根生葉が残る。頭花は黄色で球形、中央が両性花で周囲は雌花が付く。花期は春、3〜5月で、秋にも似たような種を見かけるがこれは「アキノハハコグサ」という別種だ。頭花が褐色のセイタカハハコグサなどの近似種もある。

(P)2010年4月 茨城県

2015年5月 茨城県

2015年5月 茨城県
ハマギク属 Nipponanthenum
標準和名 ハマギク 学名 Nipponanthemum nipponicum 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 海浜性の常緑多年草。本県では海浜近くの淡水湿地でも群落が見られる。草丈60〜90cmで茎の下部が木質化する。葉は多肉植物のように肉厚である。花期は秋、白く中央が黄色い頭状花を咲かせる。野菊としては草姿、花が綺麗で見栄えもすることから園芸植物として栽培もされる。湿地性だが乾燥耐性もあり、庭植えでも用いられるようだ。

 尚、本種は従来キク属(Chrysanthemum)に分類されていたが、ハマギク属として分類される考え方が一般的になっており、本Webサイトでも分類・学名はこの考え方に準拠した。

(P)2015年10月 茨城県
2015年10月 茨城県 同左

2015年10月 茨城県
ヒヨドリバナ属 Eupatorium
標準和名 サワヒヨドリ 学名 Eupatorium lindleyanum DC. var. lindleyanum 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 開けた湿地でまれに見られるキク科の多年草。やや大型になり条件により80cm程度まで育つ。初秋に開花する。ヒヨドリバナ属は変異が多いことで知られており、特に葉の形状に強く表現される。この理由は2倍体のサワヒヨドリが3倍体のヨツバヒヨドリなど無性生殖性の近似種と交雑し、子孫がさらに2倍体のサワヒヨドリと交雑を繰り返して中間的特徴を持つ草が出現したりするためで、この画像対生の葉を持つ草体も便宜上サワヒヨドリとして分類した。当然の事ながら塩基配列を調査して同定したわけではない。

 尚、文献によりキク科フジバカマ属と表記されるものもあるが、拠り所としているoNLINE植物アルバムではフジバカマ自体もヒヨドリバナ属に分類しているほどであり、こちらの分類に準拠した。

(P)2009年8月 千葉県
2015年6月 千葉県 同左

2015年6月 千葉県
標準和名 フジバカマ 学名 Eupatorium fortunei Turcz. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT)

 秋の七草の一つとして有名なキク科の多年草。春の七草は食用だが秋の七草は鑑賞用、花の蜜には人間には無害らしいが、アルカロイドを含む。アサギマダラ(蝶)はフジバカマの蜜を好むが、このアルカロイドを溜め込むことで鳥に食われないようにしている、という説もある。
 庭植えの園芸植物として用いられることもあり、乾燥にもある程度強いが元々は湿地植物である。自生は採集圧によって減少し、RDBでは絶滅危惧種となっているが(レッドリスト2015では外れてるようだ)園芸流通しているので絶滅の恐れは少ないだろう。(ただし多くのものが交雑種らしい)数少ない自生地は河川の氾濫原などあまり人が立ち入らない場所が多い。

 草丈は2m近くになる大型種。葉は対生、粗い鋸歯がある。(下右画像)花期は8〜10月で、頭頂部に散房状花序を形成し頭花を咲かせる。頭花は淡紫色の管状花5個により形成される。花が一斉に咲く様は豪華で見応えのある植物だ。尚、学名はEupatorium japonicum Thunb.とする説もある。

(P)2011年10月 栃木県 渡良瀬遊水地
2011年10月 栃木県 渡良瀬遊水地 同左

2014年10月 茨城県
ミズヒマワリ属 Gymnocoronis
標準和名 ミズヒマワリ 学名 Gymnocoronis spilanthoides DC. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:特定外来生物

 アクアリウム逸出により広まった特定外来生物。中南米原産と言われている。日本では1995年愛知県で帰化が確認されたのが最初。抽水・湿地性の常緑多年草で草丈は1m以上になる大型草本である。葉は長卵形〜披針形、長さ10cm前後、幅は3〜4cmで対生、鈍い鋸歯がある。
 注目すべきはその版図の拡大方法で、葉の欠片からでも発根し草体を再生させることで、河川に蔓延ったものは流域すべてに広がってしまう。利根川流域では新利根川、霞ヶ浦東南部、千葉県香取市など広範に帰化が確認されている。
 ミズヒマワリが帰化している地域ではナガエツルノゲイトウ、オオフサモ(ともに特定外来生物)も見られ、防除が困難な場合が多い。茨城県の防除計画書を見ると上記生態を考慮し、植物体断片の飛散を防ぐ手立て等が書かれているが、相当大がかりな作業となり、予算面での懸念もある。

(P)2010年7月 茨城県 稲敷郡河内町新利根川  More invaderミズヒマワリ
2011年8月 茨城県稲敷市浮島湿原 2011年8月 茨城県取手市水田脇水路

2015年7月 千葉県香取郡多古町 栗山川
メタカラコウ属 Ligularia
標準和名 オタカラコウ 学名 Ligularia fischeri (Ledeb.) Turcz. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 山地から亜高山帯の湿原に自生する、フキに似たキク科植物。葉は根出葉と茎に付く葉があり、根出葉には長い葉柄があり心円形。直径50〜60cmになり大型である。葉縁には鋸歯がある。花期は7〜10月、総状花序に黄色い頭花を咲かせる。

 本種は低山の湿地帯でも見られることがあるが、標高の高い森林限界近くにまで自生する。特に高層湿原では群落となることもある。この画像は標高500m付近で撮影したもの。高山植物ではないが、山地性の植物と言えるだろう。また、この株は渓流の水底から直接立ち上がっており、湿地性が強い植物であるとも言える。

(P)2017年9月 栃木県
2017年9月 栃木県 同左
ヤブタビラコ属 Lapsana
標準和名 コオニタビラコ 学名 Lapsana apogonoides Maxim. 生活型 越年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 水田に自生するキク科越年草。春の七草ホトケノザは広く分布するシソ科オドリコソウ属の植物ではなく、本種のことである。圃場整備による乾田化や除草剤によって急速に減少している。
 早春にロゼット状に根生葉を展開し、中心から花茎を立て、茎頂に散房状に花を付ける。花茎は20cm長、花は1cm径ほど。根生葉は羽状に深裂し、葉先の分裂片が大きくなるのが特徴。同族のヤブタビラコ(Lapsana humilis (Thunb.) Makino)と自生環境、草姿とも似て紛らわしいが、花弁の数がコオニタビラコでは6〜9枚、ヤブタビラコは18〜20枚と倍近くあり、花の印象が異なることで判別できる。

 茨城県南部ではほぼ絶滅状態で、僅かに谷津田の休耕田や湿地で見ることができる。「春の七草セット」として販売されるものにはほとんどの場合別種植物が入っているようだ。

(P)2013年1月 茨城県
2015年5月 東京都 同左
2015年5月 東京都 同左

2016年3月 東京都
ヨモギ属 Artemisia
標準和名 オトコヨモギ 学名 Artemisia japonica Thunb 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ヨモギと同様に日当たりのよい山野や路傍、荒地に多いキク科多年草だが、湿地にも入り込む。画像は湿地である成東・東金食虫植物群落でのもの。やや湿地性あり。和名は種子が小さく目立たないために、種子を作らない=雄のヨモギ、という所から来ている。(もちろん現実には種子を作る)ヨモギ同様に薬効もあり、解毒、解熱、皮膚病などに効果があるとされる。一方、過度の服用によって高血圧の原因になる場合があるようだ。また全国的に減少傾向にあるヒメビロウドカミキリは本種を食草としている。

 草体は大型となり1.5m程度にまで育ち、上方で分枝する。葉は楔形、先広で浅い鋸歯がある。発芽、成長期にはロゼットがあるが、花期(8〜11月)には枯れて脱落する。秋には紅葉する。発芽率や種子の保存が容易なこと(乾燥耐性)から道路法面の緑化に使われる場合もある。

(P)2009年9月 千葉県
2015年6月 茨城県 根元付近の葉 同左
2015年8月 栃木県(渡良瀬遊水地) 同左

2015年8月 栃木県(渡良瀬遊水地)
標準和名 カワラヨモギ 学名 Artemisia capillaris Thunb. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 和名が示す通り河原(礫・砂質)や海浜などに自生する半木本性の多年草。生育環境は表土が乾燥し、かつ地下水位によって涵養される前記のような地形である。草丈は1m前後、茎は直立し枝を分岐する。枝に付ける葉以外にロゼットを持ち、ロゼットは花期に消失する。
 8月ごろから大型の円錐花序を付け開花する。この時期の花穂を刻んで陰干しにしたものを生薬の「茵陳蒿(いんちんこう)」と呼び、胆汁の分泌や排泄を促進させる効能があり胆のう炎や肝炎に効果があるとされている。また草木染めの原料としても利用されており、様々な用途に供される有用植物である。

 利根川流域では下流部の河川敷に群生し大きな群落を作っている姿が見られる。また太古は入江であった霞ヶ浦沿岸部にも多い。本来は下部が木質化し亜灌木となるが、これらの場所では繰り返される冠水のためか、草本的な株が多く見られる。

(P)2010年7月 茨城県
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