日本の水生植物 | 水生植物図譜 |
カヤツリグサ科(4) Cyperaceae (APGV:カヤツリグサ科 Cyperaceae) |
■絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠 ■外来生物表示:外来生物法第八次指定 ■植物分類:APGV分類 併記 |
genus search フトイ属 ミカヅキグサ属 ワタスゲ属 |
フトイ属 Schoenoplectus |
標準和名 | イヌホタルイ | 学名 | Schoenoplectus juncoides Roxb.var.ohwianus.T.Koyama. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2015:記載なし ホタルイ属では全国的に最も普通で発生量が多いと言われており、水田では普遍的な雑草である。近似種のホタルイはさほどの発生量ではなく、水田への侵入も稀と言われている。事実水田で見られるホタルイはほぼ本種である。 茎は稜があり(下右画像参照、ホタルイとの相違)叢生する。さらに精密な同定ポイントは柱頭でイヌホタルイは二裂、ホタルイは三裂する。しかし見解によってはイヌホタルイをホタルイの亜種、変種とするようなものもあり、極めて近似した種であることは間違いない。 和名は「蛍の住むような場所の藺(い)」という意味だが、蛍が住む場所が無くなってもこの草は生き続けている。変異として除草剤抵抗性雑草化しているものもあると言う。刈り取っても種子や塊根が残り翌年何事も無かったように発芽してくるしぶとさにホタルの儚さはない。 (P)2005年6月 茨城県 More weedイヌホタルイ |
2011年8月 茨城県 小穂 | 同左 多角形の茎断面、ホタルイはほぼ円柱状 |
2014年6月 茨城県 休耕田に発生 | 同左 |
2014年6月 茨城県 開花 | 同左 ガマやタデ科植物と混生している |
標準和名 | オオサンカクイ | 学名 | Schoenoplectus grossus Palla | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU) 絶滅危惧II類(VU)は実態と乖離したランクであるが、現在日本本土には残存しない植物である。繊維を取るために移植された小笠原諸島の母島にのみ残っている。もちろん小笠原固有種ではないし亜熱帯植物でもない。 本土からなぜ消滅したのか。これは様々な情報をあたってみても確たる理由が分からない。カヤツリグサ科の絶滅危惧種他種を調べてみると自生地が限られ独立している場合が多いので、元々自生が限られ、しかもその自生地が消滅したためではないか、とも考えられる。 画像から見る草体の印象は、茎が3稜している様子はサンカクイと同様であるが、自重で垂れ下がったり折れている葉が多いことから軟質のようで、しなやかな繊維を目的として栽培されたという話が納得できる。サンカクイと近似種ではないという印象を受けるが、葉の形状に加え叢生している点、花穂の形状が大幅に異なる点が相違している。おそらくこの植物に関してまとまったテキストは存在しないはずなので実態は不明。 固有種の多い小笠原諸島への植物の持ち込み、持ち出しは厳に慎むべきであるが、本種に関しては元々本土の植物であり、種子等の方法で早めに保全措置を講じた方が賢明であると思う。 *画像手前の植物はオオサンカクイではなく、奥に見える細い稈がオオサンカクイと思われる。 (*)本画像は私が植物関係のあるプレゼンテーションを行うため、及びWebサイトへの掲載用として利用目的を明らかにした上で父島在住のなつきさんにお願いし、母島担当の東京都自然保護員の方に撮影して頂いたものである。 【画像提供】 なつきさん Special thanks 東京都自然保護員(小笠原) 【参考文献】 レッドデータプランツ 山と渓谷社 (P)2008年7月 東京都(小笠原村母島) |
標準和名 | オオフトイ | 学名 | Schoenoplectus lacustris (L.) Palla | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし フトイに極めて近似し、種として独立させるか否かも見解が別れる種。フトイとの相違点は、(1)痩果の長さ、(2)葯の長さ、(3)雌性期の小穂の色、(4)柱頭が3岐する、(5)開花時期などである。分かりやすいのは(3)及び(5)で、オオフトイは雌性期の小穂が濃い褐色〜赤紫色になり、やや薄い色のフトイとの判別点となる。またオオフトイの方が開花が2〜3週間ほど早い。画像はフトイとの混生がある自生地だが、撮影時期にはフトイはまだ穂を付けていなかった。 柱頭が3岐する現象はフトイにも見られ、確実な同定ポイントにはならない。フトイは2分岐が8〜9割、オオフトイは3分岐が6〜7割といった印象だが、現地で肉眼で精査するには細か過ぎるので、穂を採取し分解して見ないと分からない。しかもこれも比率に揺らぎがあるので何とも言えない。またオオフトイと言っても必ずしもフトイより草体が大きいわけではない。 自生環境はフトイと同じ、上記のように場所によっては混生する。従来フトイだと思っていた自生も上記識別点に照らし合わせてみると本種だった、という場合も出てくるかも知れない。 (P)2015年4月 東京都 |
2015年4月 東京都 | 同左 |
標準和名 | カンガレイ | 学名 | Schoenoplectus mucronatus (L.) Palla subsp. robustus | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 湿地に湿生・抽水する植物。寒枯藺と書く優雅な和名を持つ。由来は冬の立ち枯れの姿を現したものだそうである。茎の断面が三角形で特徴的であるが、類似種のサンカクイも同様の特徴を持っており開花しないと同定が難しい。花期に側生する花序に柄がないのが有力な同定ポイントである(サンカクイの項もご参照願いたい)。また柱頭はカンガレイが3個、サンカクイは2個である。草姿としては叢生するという特徴を持つ。これに対しサンカクイはややまばらである。 本県産一部地域のものは一般的な草体に比して稜が突出(面が著しく窪む)する特徴を持っており、タタラカンガレイほどではないが、時に稜に微小な面を持つものも出現する。同属他種との交雑か地域変種と考えられるが、あまり人気のないジャンルなのか研究資料がない。ちなみにサンカクイも本県産のものは同様の特徴を持ったものが見られることがある。 (P)2010年10月 茨城県 |
2010年10月 茨城県 花穂 | 同左 種子 |
2014年10月 千葉県 株立ちとなるのも特徴の一つ |
2015年8月 東京都 柄のない小穂 |
標準和名 | サンカクイ | 学名 | Schoenoplectus triqueter (L.) Palla | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 湿地に自生し、草丈1m前後になる大型のフトイ属植物。地下茎が横走し、所々から芽を出すのでまばらに群生する。茎の三稜以外はフトイに近いが、交雑も発生しコサンカクイという交雑種もある。 同じ環境に自生し、同じ特徴的な三角形の茎断面を持つカンガレイと誤認しやすい。主な相違は花に柄があること(下画像参照、時期により柄の無いものもあり)、叢生しないことである。 また、三角形の茎断面は一般的にサンカクイがほぼ三角形(下画像参照)、カンガレイはやや面がへこむが茨城県に自生するサンカクイは多くの場所で面がへこむことを確認している。地域変種の可能性もあるかも知れない。 霞ヶ浦・利根川近辺ではやや一般的な植物であるが、河川際や自然湿地など安定した環境で見られる場合が多い。 (P)2005年9月 茨城県 |
2011年8月 茨城県 花穂 | 同左 |
2011年8月 茨城県 三角柱状の茎 | 同左 断面 |
2011年8月 茨城県 小穂拡大 | 同左 |
2015年8月 東京都 群生 |
標準和名 | サンカクホタルイ | 学名 | Schoenoplectus hotarui×triangulatus | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2015:記載なし ホタルイとカンガレイの種間雑種と推定されるフトイ属の植物。茎は三稜しカンガレイの特徴が出るが面は陥没せず、やや丸みを帯びる点はホタルイの遺伝子か。3〜5個を出す小穂の印象はホタルイに近い。 カヤツリグサ科入門図鑑(谷城勝弘著 全国農村教育協会)ではホタルイ、カンガレイの混生地に本種が生育する写真が掲載されているが、自分が確認した場所(休耕田)ではホタルイが見られただけで、カンガレイの姿は確認できなかった。同書にはよく結実する、とあるので種子が捻性を持っている可能性も高く、種子で伝播する場合もあるだろう。 上記図鑑の撮影地コメントには冠水のある場所にカンガレイ(抽水)、岸辺にホタルイ(湿生)、両種の中間にサンカクホタルイが見られたとあるが、本種が見られた休耕田では冠水部分もあったが、ほとんどの株は湿生しており、生態としてはホタルイやイヌホタルイに近いと考えられる。 (P)2011年7月 千葉県 |
2011年7月 千葉県 三角柱状の茎 | 同左 断面 |
標準和名 | シズイ | 学名 | Scirpus nipponicus Makino | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 通常は湿地に自生するが東北地方では水田に大発生する強害草となっている。別名テガヌマイ。茎は三角柱状でサンカクイを柔軟に細くしたような印象の植物だが根生葉を持つ点が特徴。手賀沼の名を冠するが関東地方ではわりと希少で手賀沼周辺では現在見られない。画像は水生蘭の自生する貧栄養湿地でのもの。本来はこうした環境に特化した植物なのだろう。 東北地方の水田での実態を文献で見ると、種子生産性発芽率の高さと種子と同程度以下の根茎による無性生殖を同時に行い、短期間に増殖する。栄養収奪も激しく米の生産性が著しく低下する、とある。全国的にやや希少とされる植物の姿と相反する記述ながら、カヤツリグサ科の植物が環境にはまるとどうなるか、という好例だろう。 (P)2013年8月 茨城県 |
標準和名 | タタラカンガレイ | 学名 | Schoenoplectus mucronatus (L.) Palla var. tataranus (Honda) K.Kohno, Iokawa et Daigobo | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 茎は太く三稜形で、全体の印象はカンガレイであるが、稜は鋭く狭い翼がある点が見かけ上異なる。また種子に付く刺針状花被片が痩果と同じ長さか、もしくはより長く、種子表面に横ジワが入る特徴を持つ。種子の特徴や茎の断面は太さを除けばヒメカンガレイに近い。 和名由来は群馬県の多々良沼で1931年に栃木県の植物研究家である関本平八氏によって発見されたことによる。現在の多々良沼では野生株は見られず、旧中野沼埋立地跡に作られた植物園に植栽されたものが見られるのみとなっている。(2012年の自分の調査では植栽されたものはすべて「カンガレイ」であった) 本種は明らかに攪乱依存種であり、環境が安定するといつの間にか消えてしまう植物だ。非常に短命な、と称される通り記録のある茨城、千葉の自生地ではまったく見ることが出来なかった。一方、水位の増減により土壌が毎年更新される沼の湖畔などに長年群生状態が保たれている場合もある。本種の自生地の一つである渡良瀬遊水地も大規模な攪乱環境であり、本種が存続している。 (P)2008年9月 千葉県 |
2011年9月 栃木県 翼のある三角柱状の茎 | 同左 断面 |
2011年9月 栃木県 花穂 | 同左 花柄はない |
2011年9月 栃木県 種子、2mm弱長、独特の横シワが見える | 同左 刺針状花被片は痩果と同長程度 |
2019年8月 自宅育成 |
標準和名 | ハタベカンガレイ | 学名 | Schoenoplectus gemmifer C.Sato, T.Maeda et Uchino | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU) 2004年に新記載されたカンガレイの仲間。栃木県以西に分布とあるが、自生地が限られており関東地方では未見である。草体の特徴はこの株を頂いたマツモムシさんの「西宮の湿性・水生植物」を参照されたい。ここに書かれた情報以上は私も知らないので無意味にトレースすることもないだろう。同サイトに記された情報のうち、(「」内同サイトより引用)「茎はふつう、カンガレイよりも細くて柔らかく、ヒメカンガレイよりも太い。」は、現実に実物を比べるとよく分かる。育成条件にもよるだろうが、自宅ではヒメカンガレイの何倍かの太さになっており、カンガレイと比べるとやや細く柔軟である。もちろんこれだけでは同定できない。 生態的な同定ポイントは沈水葉を生じること、不定芽を生じること、があげられる。前者はタタラカンガレイにも見られる特徴であるが、カンガレイには見られない。また、流水中では常緑である、という重要な生態的特徴を持っている。この点はタタラカンガレイも同様である。後者はタタラカンガレイ、カンガレイとも見られない。沈水葉は水草水槽でも生じるので水草として育成も可能である。 (P)2009年12月 茨城県(自宅育成) |
2009年12月 全草 | 2010年3月 気中葉断面 |
2010年1月 水槽育成。中央のテープ状が本種沈水葉 | 2010年8月 花穂。花柄はない |
標準和名 | ヒメカンガレイ | 学名 | Schoenoplectus mucronatus (L.) Palla var.mucronatus | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU) Schoenoplectus mucronatusを名乗るカンガレイはタタラカンガレイ、ホソイリカンガレイ、本種ヒメカンガレイと3種あるが、実物が入手し難く詳細な相違はよく分からない。ヒメカンガレイは一説にタタラカンガレイの変種とも言われている。本種を特徴付けるのは痩果表面の横しわである。(画像)さらにヒメカンガレイには新変種としてイヌヒメカンガレイというものがあるらしいが、これまた情報不足で実態が不明である。 ヒメカンガレイは稈が鋭稜とされるが、ここは変異が大きく結実期以外には断定的に同定出来ない。実物サンプルの入手難と相まって「難しいカヤツリグサ科」の代表的な存在であろう。 本種は山地の湿地に稀産すると言われており、当水系では自生を見たことがない。この種子は兵庫県のフィールドを調査するマツモムシさんに種子をサンプルとして頂き発芽した兵庫県産のものである。 下画像左:カンガレイ(ハタベカンガレイ、上)との太さの違い 下画像右:稈は鋭稜である (P)2010年2月 茨城県(自宅育成) |
2010年2月 茨城県(自宅育成) 上:ハタベカンガレイ 下:ヒメカンガレイ |
同左 茎断面 |
2014年8月 茨城県(自宅育成)小穂 | 同左 茎先端 |
標準和名 | ヒメホタルイ | 学名 | Schoenoplectus lineolatus Franch. et Savat. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 水田や湿地に生える小型のホタルイ。砂質混じりの土壌を好むとされており、水田にはやや稀である。しかし近年一部地域では水田で大発生が見られ、強害草となっている場合もあるようだ。一方分布が薄い地域では都道府県レベルで絶滅危惧種となっている場合もある。 ホタルイにもやや矮性のものがあるが、ホタルイは地下茎を出さずに株となって叢生するのに対し本種は地下茎によって単生する。また小穂の数も複数付けるホタルイに対し1つである。(稀に2つ付ける場合もある)茎は中実で円柱形、秋に地下茎の先端に紡錘型の塊茎を形成し、この塊茎によって越冬する。 痩果の刺針状花被片がほとんど見られないタイプがあり、この形状のものをコツブヒメホタルイ(Schoenoplectus lineolatus Franch. et Savat.f. achenes)として品種扱いする場合がある。 (P)2011年7月 茨城県 |
2011年7月 茨城県 小穂 | 同左 水田に侵入した株 |
標準和名 | フトイ | 学名 | Schoenoplectus tabernaemontani (C.C.Gmel.) Palla | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 巨大に成長するカヤツリグサ科の湿地植物。2m近くなり、湿地や湖沼の浅水域に自生する。地下茎を発達させ、時には大きな群落を形成する。茎の断面は円形で、直径15mm程度まで太くなる。漢字では太藺と書く。(本種の花言葉「肥大」は和名連想だろう)葉は退化して見られないが、カヤツリグサ科としては大きな花を開花させる。 霞ヶ浦水系では沿岸湿地帯に普通に自生しており、様々な野鳥や小動物の棲家となっている。大型のフィシュ・イーターが入ってこれない抽水部では水生昆虫や小魚が繁殖しており、生態系としても重要な位置にある植物である。 (P)2003年7月 茨城県 |
2011年10月 千葉県 花穂 | 2015年5月 東京都 |
2015年5月 東京都 湿地に群生する |
2015年5月 東京都 抽水で生育 |
標準和名 | ホタルイ | 学名 | Schoenoplectus hotarui (Ohwi) Holub | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 身近な種でありながら正確な同定が難しい。極めて近似したイヌホタルイとしばしば混生する上に、雑種と思われる中間型もあるからである。一応の同定ポイントとして(ホタルイか、イヌホタルイか、雑種か絞り込んだ上で)茎が円柱形であることが上げられる。イヌホタルイは5〜6稜あり、中間型も不明瞭ながら稜がある場合が多い。イヌホタルイの項にあるように柱頭の特徴を併せれば同定できるだろう。 茨城県南部では水田にはあまり侵入しない。しかし休耕田ではイヌホタルイと混生するのでまったく侵入しない、ということではないと思う。画像は河川で涵養された休耕田でのもの。 交雑種はホタルイモドキと呼ぶらしいが、カヤツリグサ科入門図鑑(谷城勝弘著 全国農村教育協会)によれば結実の状況や柱頭の分岐など細かい観察が必要だそうだが決定的な同定ポイントは書かれていない。稜にしても柱頭にしてもホタルイとイヌホタルイの変異を考慮すれば非常に困難な同定となるだろう。 (P)2010年7月 茨城県 |
ミカヅキグサ属 Rhynchospora |
標準和名 | イトイヌノハナヒゲ | 学名 | Rhynchospora faberi C. B. Clarke | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 湿地や水田に自生するミカヅキグサの仲間。繊細な葉だが硬く(イヌノヒゲの語源)、叢生するので姿が美しい。花序や針刺状花被片に特徴がありハリイやマツバイとの区別は容易。 カヤツリグサ科の権威である谷城勝弘氏「カヤツリグサ科入門図鑑」に拠れば上記学名に foma.faberiが付与され、同じfoma.であるヒメイヌノハナヒゲと区別される。外形的特徴はほぼ同一で、針刺状花被片の小刺が下向き(イトイヌノハナヒゲ)か上向き(ヒメイヌノハナヒゲ)の違いである。実物を目視してもそもそも針刺状花被片がmm単位であり、そこに付く小刺であるので肉眼では分かりづらい。 自生は「貧栄養湿地」とされるが、稀に耕作水田や休耕田でも見られる。 (P)2014年5月 茨城県産株 標本 |
2014年5月 茨城県産株 標本 | 同左 種子 |
標準和名 | イヌノハナヒゲ | 学名 | Rhynchospora rugosa (Vahl) Gale. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 湿地に自生するミカヅキグサの仲間。生育環境による変異幅が大きく、イトイヌノハナヒゲやコイヌノハナヒゲ、オオイヌノハナヒゲなどと酷似する場合がある。確実な判別は小穂にある6本の刺針に上向きに微小な突起がある点。しかしこの突起は通常の観察用ルーペでは見えず、倍率的に顕微鏡的サイズである。(観察は顕微鏡モードの付いたコンパクトデジカメが便利) 温暖な地域に自生するとされるが、北関東ではあまり見かけない。画像の株は自宅の育成環境に生えてきたものだが、採集してきた植物か、遠隔地から送って頂いた別の植物に付着していた土に種子があったものと考えられる。西日本の自生地では低海抜地にイヌノハナヒゲ、高海抜地にオオイヌノハナヒゲが生育するとされる。 (P)2017年7月 茨城県(自宅育成) |
2017年7月 小穂 茨城県(自宅育成) | 同左 草体 |
2017年7月 茨城県(自宅育成) |
標準和名 | オオイヌノハナヒゲ | 学名 | Rhynchospora rugosa(Vahl) Gale. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 湿地に自生する大型のカヤツリグサ科植物。草丈は最長で1mほどになる。草体は強剛で直立し暗緑色。頭頂部に近い葉腋から柄を出し先端に褐色の小穂を付ける。同属の近似種(イトイヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲなど)に比べると刺針状花被片が痩果の3〜4倍に達するという突出した特徴がある。 貧栄養の湿地を好むのか、利根川流域の自然湿地では見かける機会が少ない。都道府県版のレッドデータでは多くの地域で絶滅危惧種となっており、当県でも絶滅危惧U類、隣県の千葉県では最も重い絶滅危惧T類に指定されている。 (P)2015年7月 千葉県 |
2015年7月 千葉県 |
ワタスゲ属 Eriophorum |
標準和名 | サギスゲ | 学名 | Eriophorum gracile Koch var. coreanum Ohwi | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 山地の湿地に自生するワタスゲ属の多年草。花被片が綿毛状で初夏〜盛夏に伸びるため、遠目にはワタスゲと区別が付かない。本種は小穂を複数持つが、ワタスゲは小穂を1個頂生するので同定ポイントとなる。またワタスゲが叢生するのに対し、本種は長い地下茎の所々から茎が1本ずつ出るので株を形成しない点も異なる。 分布は兵庫県の六甲山以北の本州、北海道とされるが、近畿地方のものはミツガシワ同様に氷河期の残存種として隔離分布している、という見方もある。茨城県では県央、県南地域では見られず、北茨城市、高萩市、常陸太田市など県北山地の湿地で見ることができる。日光戦場ヶ原や尾瀬でも代表的な湿地植物構成種となっており、標高が高い地域を好む、というよりも冷涼な気候を好む植物なのだろう。 画像は平地の植物園に植栽されたものだが、撮影時期である8月中旬でも特徴的な箒状の綿毛が見られない。(右下の画像で僅かに伸びかけている程度)平地でも生育可能だが気温によって開花期が異なる植物のようだ。 (P)2011年8月 茨城県(筑波実験植物園) |
2011年8月 茨城県(筑波実験植物園) 開花直前 | 同左 |