日本の水生植物 水生植物図譜
イグサ科 Callitrichaceae
(APGV:イグサ科 Callitrichaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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イグサ属
イグサ属 Juncus
標準和名 アオコウガイゼキショウ 学名 Juncus papillous Franch. et Savat. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 開けた湿地に自生するイグサ科多年草。別名ホソバノコウガイゼキショウ。水田など人為的撹乱環境に多いコウガイゼキショウと異なり、安定した自然湿地に多い印象を受ける。画像は遊水地周辺の湿地でのもの。同様の環境に自生するハリコウガイゼキショウとの区分が難しいが、葉や茎がより細く、地下茎に休眠芽を形成する点が異なる。草丈は20〜40cm、花期はコウガイゼキショウより遅く、7月〜9月となる。
 和名は青笄石菖、青は「緑」でありコウガイゼキショウの仲間が暗緑色なのに対し、本種が明るく薄い緑色であることから来ている。秋には赤みを帯びる。

(P)2013年8月 茨城県

2013年8月 茨城県

同左
標準和名 学名 Juncus effusus L.var.decipiens Buchen. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地植物としては最も有用な植物の一つで、葉が畳表の材料となるイグサである。(厳密に言えば栽培されるものは改良品種)関東ではなかなか見かけないが西日本ではイグサ専用の水田もあり栽培も成されている。野草であるが立派な農作物である。
 標準和名は「イ」であるが言い難く「イグサ」と表記されることも多い。科名属名もイグサである。。かなり大型になる草で、似たような草姿のカヤツリグサ科カンガレイとは葉の断面(カンガレイは三角形、イは円)、花が咲いていれば花の形状で区別する。実はより簡単な同定法があり、茎を千切ってかいでみると仄かに畳の臭いがするのである。

 自生のものは意外に減少しており、本種だと思っていた群落が外来種のコゴメイに変わっていた、という話をよく聞く。

(P)2006年9月 茨城県

2014年5月 茨城県

同左

2014年7月 千葉県

同左

2015年6月 千葉県 茎内部は中実で格子状にならない

同左
標準和名 イヌイ 学名 Juncus yokoscensis (Franch. et Savat.) Satake 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 海岸近くの湿地に自生する湿地植物。地下茎は太く、横走して芽を出す。イグサにも似るが茎や花柱が捻れる点が異なる。捻れは激しく、一見茎が太くなったり細くなったりしてるように見える。別名はヒライ、ネジレイなど。後者はまさに本種の形質を示す異名。
 自生地は塩の影響がある湿地とされるが、撮影地(成東・東金食虫植物群落)では多くの食虫植物やヒメナミキ、アイナエなど一般湿地で見られる植物も自生しており、特異性のある湿地とは考えられない。

 画像は開花前であり、イグサやカヤツリグサ科植物のような印象だが、開花するとコウガイゼキショウのような印象であり、イグサ科の植物である事がよく分かる。

(P)2010年6月 千葉県(成東・東金食虫植物群落)
標準和名 クサイ 学名 Juncus tenuis Willd. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地のみならず道端や空き地にも進出する普遍的な雑草である。そうした雑草的な性格、またイグサに比べてより草っぽい所から草藺、と呼ばれるようになったようだ。
 本種の性格を表現するのに「踏み付けに強い」という言い回しがよく用いられる。たしかに河川堤防上や空き地の踏み固められた通路など、人間が通る場所にも多い。一方水田や湿地にも進出する姿をよく見かけるオールマイティな植物だ。

 踏み固めに強いのには理由があり、種子に水を含むと粘着性を増す物質が含まれており、靴裏などに付着して広範囲に運ばれるためである。人間を利用した種子の散布方法とも言えるだろう。同じ散布方法を持つオオバコも「踏み固めに強い」植物と言われているが、たしかに踏まれたぐらいで枯れてしまってはこうした散布方法は覚束ない。
 それでも完全に乾燥してしまうといつの間にか消えているので、多分に湿地植物的な性質は持っていると思う。普遍的な雑草ではあるが、花や実の形が王冠のようで意外に美しい。(下画像)

(P)2010年6月 茨城県

2010年6月 茨城県 花序(果実期)

同左

2014年6月 茨城県

同左
標準和名 コウガイゼキショウ 学名 Juncus leschenaultii Gay 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 水田や用水路際に一般的なイグサ科の植物。葉が扁平で昔の髪結いの道具、笄(こうがい)に似ていることから名付けられた。この古の生活道具の形状を模したネーミングの例は他にコウガイモ、コウガイビルなどがある。花の付き方が花火のようで美しい。

 「石菖(せきしょう)」はセキショウまたは同科同属のショウブのことでサトイモ科、帰化種のニワゼキショウ (庭石菖)はアヤメ科、セキショウモはトチカガミ科の沈水植物であり、それぞれ石菖を名乗るがまったく別科の植物である。イグサ科の多年草であり分布の濃淡はあるが水田地帯で普通に見られる。

(P)2010年6月 東京都

2014年6月 茨城県

同左
標準和名 コゴメイ 学名 Juncus sp. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法指定なし

 記載は比較的新しく、2001年に関口克己氏によって報告された外来植物。関東から近畿地方にかけて帰化が確認されている。しかし原産地や侵入経路、正確な学名も分からない。この記事の画像は自宅前であるが、1993年に引っ越して来て以来見ているので侵入はより以前であると思われる。検証もされずにイやホソイと誤認されてきたのだろう。自分も先年茎を割ってみて初めて気が付いた。
 基本的には湿地環境に自生するが、畑地にもかなり小型化しつつも進出する。各地でイグサだと思われていた植物が、いつのまにか本種コゴメイだけになっていた、という話をよく聞くが、それほどの排他性としぶとさを持っている。

 よく似た草姿のイやホソイの茎は中身が詰まっているのに対し、コゴメイの茎は画像右上のように梯子状になる。 また和名の元となったように果実はどことなく米を思わせる。(画像左下)花序枝は茎に沿って直立し長い枝がある。(画像右下)草丈は湿地で1m前後、畑地では40cmほどになる。

(P)2011年6月 茨城県

2011年6月 茨城県 花序

同左 茎内部が梯子状になる

2010年6月 千葉県手賀沼畔 果実

2011年6月 茨城県 花序
標準和名 タチコウガイゼキショウ 学名 Juncus krameri Franch. et Savat. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地や小河川沿いなどに群生するコウガイゼキショウの仲間。一見クサイに似るが背が高く60cmほどに伸長し(「タチ」コウガイゼキショウの和名由来)、花茎が硬い。茎・葉とも円筒状で、根茎は長く這う。近似種との相違は雄蕊が6本、果実の先端が鋭角に狭まる、等の点。
 当地では非常に稀な種類であるが、本来山間の湿地に自生する、とされることから大平野部の霞ケ浦近辺では分布が薄いのであろう。茨城県では栃木県境近く、栃木県では真岡〜益子近辺で見かけることが多い。水田・休耕田では見かけず、溜池畔や自然水路沿いに多い。

 コウガイゼキショウの仲間、ということで普通種であると思っていたが、調べてみると都道府県版RDBでは重いランクにエントリーされている場合が多く、水田など撹乱環境に無いことから、溜池の放棄や河川の護岸など自生環境の喪失が原因であることが推測される。隠れた希少種であると言えるだろう。

(P)2010年7月 茨城県

2011年8月 茨城県

同左
標準和名 ドロイ 学名 Juncus gracillimus (Buchen.) V. Krecz. et Gontsch. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 同属のクサイに姿形が似るが、より大型で最大草丈60〜70cmになるイグサ科植物。内陸湿地よりも海岸近くの湿地に多い。場所によっては海岸の岩場、波しぶきを浴びるような場所にも自生する。塩湿地にも生える。全草にやや粉白色を帯び、茎は円筒状、葉は線形でイネ科のように見える。鞘は短く葉耳はごく小さい。

 環境省カテゴリーでは記載はないが、都道府県RDBでは多く絶滅危惧種として記載されている。当県でも自生は限られ、あまり目にすることがない植物である。近県では栃木県でも確認しており、塩湿地に特化した植物というわけではないようだ。

(P)2015年5月 東京都

2012年10月 茨城県

同左
標準和名 ハナビゼキショウ 学名 Juncus alatus Franch. et Savat. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地に生えるコウガイゼキショウの仲間。叢生し、茎は扁平で2翼がある。葉は長い剣状で長さ15〜20cm。花序は頂生でまばらに集り、さらに集散状の花序を出す。この形状を花火に模した和名。その花火は夜空に広がる打上げ花火説と線香花火説があるが、個人的には後者にしっくりくる。花被片は6枚で披針形、長さは約3mmで花全体としては小さい。雄蕊は6、刮ハは楕円状三角錐で長さは4mm前後。

 休耕田などで見かけるが、背の高い他植物の進出とともにいつの間にか見かけなくなる印象が強い。遷移環境を好む植物なのかも知れない。また種子生産性に比して発芽数は少なく、大きな群落を形成することはない。

(P)2018年6月 千葉県

2018年6月 千葉県

同左

2018年6月 千葉県
標準和名 ヒメコウガイゼキショウ 学名 Juncus tenuis Willd. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 クサイに雰囲気が似た小型のイグサ科植物。イグサ科のなかでもコウガイゼキショウは変異が多く草姿は多くの変異が見られる。一応の同定ポイントとして「ヒメ」を名乗るように、草体が小さく細く弱々しい印象であり、他種との同定ポイントとなる花序の特徴としては、
 1.最下の苞は葉状で花序より短い
 2.花被片の外片が内片よりも長い
という所。より拡大された画像や各々同定ポイントに関しては西宮の湿生・水生植物に詳しいので参照されたい。

 本種はかなり稀で、河川改修工事によって撹乱があった休耕田にカンエンガヤツリやミズガヤツリ、ヌマガヤツリなどと混生していた。普通の水田や休耕田では見たことがなく、撹乱環境を好む種なのではないだろうか。草体が上品で周囲の雑草群にあっても小さいながら目立つ植物である。

(P)2010年9月 茨城県

2012年6月 茨城県

同左

2012年6月 茨城県

同左 種子
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