日本の水生植物 水生植物図譜
ヒシ科 Trapaceae
(APGV:ミソハギ科 Lythraceae ヒシ属 Trapa
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
genus search
ヒシ属
ヒシ属 Trapa
標準和名 イボビシ 学名 Trapa japonica var. tuberculifera. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 おそらくはヒシの種内変異と考えられるが、果実にイボ状の突起の発達が著しい。イボ状の突起はオニビシやコオニビシの棘の位置にあり、ヒシ雑種起源説(オニビシ×ヒメビシ)から考えれば棘の痕跡とも思われる。「イボ」は鈍頭で太く、棘ではない。
 植物体の特徴は草体、花、生態ともヒシに同一であり果実の特徴以外に変化はない。この点はヒシの種内変異説の根拠ともなっているようだ。尚、学名をTrapa japonica var. tuberculifera.としているが、ヒシとは完全な別種としてTrapa bispinosa Roxb. var. makinoi Nakano.とする立場もある。この場合シノニムではなく、独立種として種小名を付与したものと考えられる。

 北関東での分布は少ないが、自生地ではヒシとの混生が見られないことから、形質は安定していると考えられる。形質が安定して世代交代を行っているので「種」としての要件が成立していると考える。

(P)2011年5月 群馬県
2011年5月 群馬県 同左
標準和名 オニビシ 学名 Trapa natans L. var. rubeola Maxim. f. viridis Sugimotro 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 果実の形状以外はヒシと判別が難しい。ヒシが2刺であるのに対し、本種はコオニビシ同様に4刺である。種子自体もかなり大きく、食用としてはこちらの方が好まれる。関東地方ではヒシと分布がほぼ被るが、利根川以南に多く、特に印旛沼では大繁茂して問題になる程である。(画像も印西市の印旛沼で撮影したもの)浮葉は色々な昆虫が食草とするために、自然状態では食害を受けていないものはほぼない。汚れた湖沼の窒素を多少なりとも湖沼外に運び出す役割も担っているようだ。
 本種のうち葉柄や葉裏が赤褐色のものを「メビシ」と呼ぶ場合があるが、その他に形質の差異がなく、どの程度の色付があればそう呼ぶのか分からない。この点に関しては角野康夫氏の見解通りであると考える。(以下)

 「葉柄や葉の裏面が赤く色づくものが、メビシvar. rubeola Makinoとして区別されることもあるが、このような着色は多かれ少なかれさまざまなオニビシ集団で見られるものであり、分類群を特徴づけるものではない(角野1994)」

(P)2011年5月 千葉県
2011年5月 千葉県
浮葉にはかなりの虫が付いている
同左 果実
標準和名 コオニビシ 学名 Trapa natans var.pumila 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 分布や分類に謎が多いオニビシの変種。(とされる)分類同定に関して、ヒメビシとの同一種説(これは怪しい)、ヒメビシとオニビシの雑種説(分布を考慮するとこれも?)があり、学名と異なる種である可能性もある。学名は冒頭記した通りオニビシの変種を示している。

 次に分布であるが、関東地方のごく限られた調査ではあるがオニビシやヒメビシとは一致しない。もっともヒメビシに関しては最早「分布」というレベルではないが。従って雑種説をかなり疑わしく考えるが、オオタヌキモの分布とタヌキモの分布が一致しない例(最近のゲノム解析によりタヌキモはイヌタヌキモとオオタヌキモの雑種であることが証明された)もあり、あながち否定はできない。この種も「ゲノム解析」による検証が待たれる種のひとつである。
 分布に関してもう一点。本種は関東地方では南西部に偏りがあって、北東部はほぼヒシまたはオニビシが分布している。オニビシはさらに利根川以南に分布が濃い。オニビシ変種とした場合この偏りをどう見るか、という所。何らかの棲み分けに至った要因があるのか?単なる偶然なのか?普遍的な種でありながら考え出すと謎だらけな種である。

 果実には4刺あり、オニビシに比べればやや小型、ヒシと同程度の果実だが、子房突起が膨らんで突出するという特徴がある。本種も種子が食用になる。画像上の浮葉は小さな穴が数多くあけられているが、ヒシ科植物を食草とする昆虫によるものと思われる。ヒシハムシ、ジュンサイハムシ、マダラミズメイガ、ヒシチビゾウムシなどがヒシ科植物を食害する。

(P)2010年7月 栃木県

標準和名 ヒシ 学名 Trapa japonica Flerov 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 湖沼に自生する浮葉植物。爆発的な繁殖力を持ち、小さな溜池なら水面を埋め尽くしてしまうほど。他種、特に沈水植物には致命的な影響を与え、ハスとともに生物多様性を維持する上での厄介者。花は可憐であるが、忍者のマキビシの語源になっているように、棘のある硬い果実をつける。果実は栗のような素朴な味わいで食用としても優れている。近似種にオニビシ、ヒメビシなどがあるが、種子の形状とくに棘の数で判別が出来る。詳しい同定はこちら四季に生きる草木と昆虫を参照。

 ヒシは抽水葉を基本的に出さないが、水面が混み合ってくると葉の上に葉が重なり、遠目にはコウホネやトチカガミの群落のように見えることがある。この環境では沈水植物は期待できず、フィールド探索の一つの指標になる。

(P)2002年7月 茨城県
2011年5月 千葉県 発芽 同左 果実

2015年8月 東京都(水元公園)
標準和名 ヒメビシ 学名 Trapa incisa Sieb.et Zucc. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 どこにでもあるヒシと異なり非常に希少となってしまった種。ここ数年関東周辺で探しているが見つかっていない。画像は維持されているフラワーパーク大船植物園でのものである。尚、同植物園では本種を含む希少な自生植物を原則非公開(時折公開するそうだ)でバックヤードにコレクションしている。急な依頼を快くお受け下さり見学させて頂いたご好意をこの場を借りて御礼申し上げる。
 「ヒメ」と付くが植物体の大きさはヒシと大差がない。小さいのは果実である。また果実には細長い刺が4本あり、他種との相違点となっている。尚、種子はヒシ同様食用となり非常な美味であるそうだ。

草津市立水生植物公園みずの森の解説によれば(「」内引用)「池沼の開発、水質汚濁、湿地植生の遷移の減少により、環境省では絶滅危惧類に指定されている。」とあるが、ヒシも同じ環境で生き延びており、元々の分布の濃淡、発芽率など他の要因も考えられるのではないだろうか。

(P)2009年7月 神奈川県(フラワーパーク大船植物園)
2011年10月 果実(兵庫県産) 同左

 浮葉の形状では容易に判別できないヒシ科植物にあって、ヒメビシはやや特徴的な浮葉の形状を持っている。すなわち、鋸歯の大きさは他種と変わらないのに、葉が小さくやや縦長であり、鋸歯がまばらに見えるのである。しかしヒシも浮葉が著しく小型化する場合があり、絶対的な同定ポイントではない。
 この浮葉は頂いた種子標本から発芽したもので、2011年には関東地方をかなり広範に調査したが自生は見つかっていない。

 *右画像:2012年6月 頂いた兵庫県産果実から発芽した株(自宅育成)
 *下段 2012年8月開花画像(2点、自宅育成)
標準和名 メビシ(参考種) 学名 Trapa natans L. var. rubeola Maxim. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 扱いに付いては上記オニビシで触れた通り。草体の色合い以外はオニビシとの顕著な差異(というか微小な差異も)は認められない。ただし学名はあるし「種」として扱う立場もあることは事実である。
 ヒシ科は種によって雑種起源説があったり、一般にヒシの種内変異とされているが明確なイボ状突起(擬角、棘ではない)を持つイボビシなどがあり、身近な水草のようで分かっていないこと、定説がないものも存在する。メビシはそうした「よく分からない」範疇の種であるので参考としてオニビシの情報に付加しておくことにする。

*画像 とりあえず茎や葉裏、浮葉の一部分はかなり「赤い」。種子はオニビシそのものであった。

(P)2011年5月 埼玉県
inserted by FC2 system