日本の水生植物 水生植物図譜
アヤメ科 Iridaceae
(APGW:アヤメ科 Iridaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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アヤメ属
アヤメ属 Iris
標準和名 カキツバタ 学名 Iris laevigata Fisch. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 園芸種(改良品種)としては良く流通しているが自生はRDBに記載されるほど少なくなってしまった水生アヤメ。近似種のハナショウブ、ノハナショウブとの相違が微小な上、改良が進み、湿地にあるものでも本種なのか園芸逸出なのか見分けが難しい。画像は霞ヶ浦近郊の湿地でタコノアシやクサレダマなどの湿地植物があり自然度が高い場所、かつ花や葉脈の特徴から本種と判断したが正直まったく自信がない。
 水辺園芸では睡蓮と並んで市民権を得ている植物であり、花は文句なく美しいが、野池や湖沼にあっても種の特定が難しくなってしまった事情も睡蓮と同じである。

 園芸店で本種(と思われる)を「アヤメ(青)」、キショウブ(要注意外来生物)を「アヤメ(黄)」として販売しているのを見たことがあるが、消費者の圧倒的多数は言われたまま書かれたまま信用するわけで、そろそろこの辺のその場しのぎの名付は止めて貰いたいものだ。
 根茎の形状から地下茎や株分けで増殖すると思っていたが意外に難しく、実生によって子株を得る方がはるかに確実で好成績を収めた。開花は肥料次第なので園芸植物として育成技術の確立されている肥料・施肥方法を用いたい。

(P)2006年9月 茨城県

2014年5月 茨城県

同左 コツブヌマハリイ群落中に自生

2015年5月 東京都

同左

2015年5月 東京都

同左
標準和名 キショウブ 学名 Iris pseudacorus Linn. 生活型 多年草 自生環境 湿地
外来生物:外来生物法上生態系被害防止外来種

 霞ヶ浦付近では普通種の菖蒲。日本的な雰囲気を持つ湿地植物であるが、意外なことにヨーロッパ・西アジア原産の帰化種である。おまけに外来生物法の要注意外来生物に指定されている。
 画像のように大輪の黄花を開花させ、観賞価値が高い。もともと観賞用として持ち込まれたものが逸出した経緯がある。それどころか水辺に出来る「親水公園」では今なお積極的に植栽もされている。

 元々湿地性だが乾地にも適応し、花壇や庭植えにも使われる。いかなる逸出事由か不明だが自然湿地にも群落を形成していることがある。外来生物としては歴史も古く広範に帰化している植物だ。

(P)2003年5月 茨城県 More invaderキショウブ

2014年5月 千葉県

同左

2015年5月 東京都

同左
標準和名 キリガミネヒオウギアヤメ 学名 Iris setosa var. hondoensis Honda 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧IB類(EN)

 学名から分かる通り、ナスノヒオウギアヤメ同様にヒオウギアヤメの変種。花が大きく、内花被片がヘラ型となるのが特徴。一日花で、一本の花茎から2つの花が数日おいて開花する。和名由来は霧ヶ峰(長野県)の湿地に自生することによる。

 霧ヶ峰には八島ヶ原湿原という大規模な高層湿原があり、モウセンゴケやツルコケモモとともに本種が見られる。また低層湿原の車山湿原や高層と低層を併せ持つ踊場湿原があり、この霧ヶ峰の三大湿原は国指定の天然記念物となっている。

(P)2018年6月 栃木県

2018年6月 栃木県
標準和名 ナスノヒオウギアヤメ 学名 Iris setosa var. nasuensis 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧IA類(CR)

 高山の湿原に自生するヒオウギアヤメの変種。栃木県那須地方で発見されたことにより地名を冠した和名となっている。分布は栃木県、いわゆる局地分布で那須町と黒磯市にのみ分布する。日光市の田母沢御用邸記念公園や日光植物園(東京大学大学院理学系研究科附属植物園分園)で見られる本種は移植されたもの。

 ヒオウギアヤメの変種であるが、全体的に草体が大きく花茎は1m前後にまで伸長、葉幅も2〜3cmと太い。また内花被片はヒオウギアヤメの倍の長さがあり、外花被片も幅広いことで見応えのある花となる。花期は5月中旬〜6月、染色体数は2n=54で不稔とされる。

(P)2018年6月 栃木県

2018年6月 栃木県

同左

2018年6月 栃木県
標準和名 ノハナショウブ 学名 Iris ensata Thunb.var.spontanea (Makino) Nakai 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 水生アヤメとしてはカキツバタと並んで代表的な植物である。カキツバタと似たような花だが、カキツバタは花に白い筋が入り、本種は黄色いスポットが入ることで外見的な区別が付く。色もやや紫がかっている。
 園芸目的採集や湿地の喪失によって自生のものは減りつつあるが、湿地で見かけるアヤメのほとんどは本種か帰化種のキショウブである。5月中旬から咲き始め(関東地方北部)、花期も長い。観賞価値が最も高い湿地植物の一つである。

 一方で交雑、特に園芸品種との中間型の形質を持つものも見られ、画像のものは典型的ノハナショウブの形質を示すが遺伝的に純粋かどうかは断言できない。種としての同定は「形態的種」によるものである。
 菖蒲湯に用いられる「ショウブ」はサトイモ科の別種であるが、本種と混同されることも多く混乱が見られる。尚、「ノ」が付かないハナショウブとして販売されるものには採集物の本種であることもあり、名称の混乱に拍車をかけている。
【参考】日本産アヤメ科植物 ニューサイエンス社 大滝末男著

(P)2009年5月 茨城県

2015年7月 千葉県(成東・東金食虫植物群落)

同左

2015年6月 茨城県
標準和名 ハナショウブ 学名 Iris ensata var.ensata Thunb. 生活型 多年草 自生環境 湿地
園芸品種

 ノハナショウブ(Iris ensata Thunb.var.spontanea (Makino) Nakai)の改良品種と言われるが、一般的に学名とされる上記のものは変種を示している。二名法上はノハナショウブと同一であるが、いかに花の色形が異なっていてもパンジーがそうであるように同一種、なのだろう。そう言えばノハナショウブのなかにも花の色形は同じだがどことなく豪華な株を見かけることがあるが、先祖帰りしたものかも知れない。
 湿地や公園には逸出がどうの、というレベルではないほど植栽されている。花も千差万別で、見ている分には綺麗だが園芸植物とガマに占拠された公園の池は不気味に思えてしまう。ホームセンターでも盛んに販売されているのでこの流れは止められないだろう。潮来や手賀沼のアヤメ公園も大部分は園芸品種やキショウブである。

(P)2009年6月 茨城県

2014年5月 千葉県

2014年6月 千葉県

2015年6月 東京都

同左

2015年6月 茨城県
標準和名 ヒオウギアヤメ 学名 Iris setosa Pall. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 中部地方以北の本州、北海道に分布する高地性の美しいアヤメ属植物。外花被片は3枚あり、基部に黄と紫の虎斑模様があり、内花被片は短く上向きに立ち上がる。葉は剣状で同属他種に似るが、やや幅広となり、根元から放射状に広がる様子を緋扇(ヒオウギ)に模した和名が付与されている。

 関東地方の高地である霧ヶ峰と那須の地名が冠されたキリガミネヒオウギアヤメ (var.hondoensis)とナスノヒオウギアヤメ (var.nasuensis)は本種の変種とされ、両者とも2n=54の3倍体である。

(P)2018年6月 栃木県

2018年6月 栃木県


2018年6月 栃木県
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