日本の水生植物 水生植物図譜
アリノトウグサ科 Haloragaceae
(APGW:アリノトウグサ科 Haloragaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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アリノトウグサ属 フサモ属
アリノトウグサ属 Haloragis
標準和名 アリノトウグサ 学名 Haloragis micrantha (Thunb.) R. Br. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 湿地や、やや湿った草地などに自生する科名植物。乾地でも自生するが、湿地のものは群落が大きくなることから湿地性の強い植物と考えられる。小さな花を蟻に見立てた「蟻の塔」、同様に小さな花を蟻の頭に見立てた「蟻の頭(とう)」と和名由来に2説ある。

 植物体は10〜40cm長、下部は匍匐し各節から根と茎を出す。茎は4稜形、赤褐色を帯びることが多い。葉は茎下部に付き基本は対生(茎上部には互生のものが見られる場合もある)で柄がないか、ごく短い柄を持つ。小さな花を夏に咲かせる。科内他種と異なり水中に自生することはない。

(P)2013年8月 千葉県
2015年7月 千葉県 同左
フサモ属 Myriophyllum
標準和名 オオフサモ 学名 Myriophyllum brasiliense Cambess. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:外来生物法上特定外来生物

 水辺に進出が著しい南アメリカ原産の外来種である。水草ショップではパロット・フェザーという名前で、金魚日淡では「金魚藻」の一種として長年販売されており、逸出源は明らかである。
 硬質のライトグリーンの水上葉が水をはじく様はなかなか美しいが水辺での繁茂ぶりが凄まじく大きな問題となっている。在来種への圧迫はもちろんであるが、内水面漁業において漁船のスクリューに絡みつき通行を阻害するなどの実害も出ている。霞ヶ浦水系では広範に帰化定着しており、多少の湿り気があれば陸上にも進出している。

 本種は特定外来生物であり採集・移動・飼養は罰則の対象となる。自家用に採集持ち帰りしただけでも罰則の対象となるので注意が必要。

(P)2003年6月 千葉県  More invaderオオフサモ
2011年12月 千葉県 同左
2014年6月 千葉県 手賀沼湖畔 同左
標準和名 タチモ 学名 Myriophyllum ussuriense (Regel.) Maxim. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 非常に繊細な沈水葉を展開するミリオフィラム。水槽内育成では光量不足のためか水上に立ち上がる事は少ないが、野外では開花、結実のために水面上に立ち上がる。この様子から立藻と命名されている。
 気中葉、沈水葉ともに3〜4輪生し、葉は羽状に深裂する。気中葉は小さな画像で恐縮ながらよく見て頂くと欠刻があって完全な羽状にはなっていない。些細な相違がある。産地による差異は認められないが(西日本産と福島県産を比較)遺伝子レベルでの差異は可能性がある模様。本種は雌雄異株であるが、兵庫県で雌雄同株との中間型のような株が採集された、との事で分化途中の植物なのではないか、という説もある。こうした差異もあるので移植や逸出が無いようにしたい。

 東日本、関東周辺では本種の自生は希で、私は唯一福島県の浜通り地方のため池で見かけたのみである。分布資料によれば西日本には自生が多く残存しているらしい。茨城県南部〜千葉県北部で本種の自生環境と思われる地形にはほぼオオフサモが生えている。タチモは偏在するためか環境省RDBでは準絶滅危惧(NT)となっている。

 適切な環境であれば水槽育成、屋外育成とも容易。水槽育成時に注意点があるとすれば有機窒素の含まれた底床肥料を用いること、光の当たる場所に植栽すること、である。
 育成状態が良ければ次々に分岐するので増殖は容易。ピンチカットでも増殖させることが可能。水槽で気泡を多数付けた姿は美しく、育成の醍醐味を味わえる。ただし繊細さが災いしてヤマトヌマエビや草食性の強い観賞魚の好餌となるようなので同居生物の選択は必要である。


 アリノトウグサ科はアリノトウグサ属とフサモ属により構成されるが、前者はすべて陸上植物、後者はすべて水草である。似たような草姿のものが多いが、フサモは雌雄同株である。アリノトウグサ属の2種、アリノトウグサ(Haloragis micrantha (Thunb.) R. Br.)とナガバアリノトウグサ(Haloragis walkeri Ohwi)は水中育成の可能性はまったくない。

(P)2008年8月 福島県(上) 2008年9月 茨城県(自宅育成)(下)


2005年5月 自宅育成(屋内水槽)
標準和名 フサモ 学名 Myriophyllum verticillatum Linn. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 国産ミリオフィラムとして一般的な種。開花の際に立ち上がる気中葉は小型の葉を付け、好ましい草姿となる。雌雄同株であり、容易に結実する。
 近似種のオグラノフサモとは殖芽の形状、葉の色で区別できるが、ホザキノフサモとは沈水状態での同定がかなり難しい。ホザキノフサモすなわち穂咲の房藻であり、開花時は花穂の形状で容易に同定が可能である。
 神戸大学角野研究室によればフサモとオグラノフサモの中間型も確認されており、雑種の可能性も指摘されている。

 霞ヶ浦周辺ではかなり水質汚染が進んだ地域でも見ることが出来たが、不思議なことに近年は見かけない。画像は湧水河川でのものであるが、湧水のみの河川部にはほとんど見られず一般河川から取水した用水路と合流した流れから増え始める。程良い富栄養が必要なのかも知れない。

(P)2005年7月 東京都
標準和名 ホザキノフサモ 学名 Myriophyllum spicatum L. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 肉眼ではフサモとまったく区別が付かないが、開花期にはホザキの名前通り花穂(穂状花序)を水面上に立てることで判別できる。画像は未開花であるが、開花時に確認済である。(下画像は開花した茨城県内の群落)

 汚染の進んだ霞ヶ浦周辺や手賀沼周辺にも自生するが、群落が安定せずに年ごとに消滅・縮小を続けている。2009年に霞ヶ浦周辺で写真を撮ろうと思って出かけたが昨年まで群生していた河川には見事になかった。キンギョモと呼ばれるように(他にもオオカナダモ、コカナダモ、フサジュンサイなどもキンギョモと呼ばれる)昔から育成されてきた入手の容易な水草であった。それだけに定着している群落も元は逸出したものの可能性もあるだろう。また、これだけ普遍的な水草の見られる場所が限られてきたことが水辺の危機的な状況を雄弁に物語っている。

(P)2009年8月 千葉県
2014年5月 茨城県 同左

2011年9月 茨城県 水田脇水路
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