日本の水生植物 水草雑記帳 Weed
ハンゲショウ
(C)半夏堂
Weed Saururus chinensis (Lour.) Baill.

ドクダミ科ハンゲショウ属 ハンゲショウ 学名 Saururus chinensis (Lour.) Baill.
被子植物APGW分類 : 同分類

撮影 2015年6月 千葉県市川市 湿地(fig1)

【ハンゲショウ】
*湿地に自生するドクダミ科の植物。ドクダミに比べて草体が大きく、独特の「ドクダミ臭」はしない。葉や茎を傷付けると似た香気がする程度だ。ドクダミが湿地でも陸上でも自生できるのに対し、ハンゲショウはやや湿地性が強い。完全な乾地では生きられず、湿地とは言えないまでも日蔭の湿り気のある地形までである。
 漢字で書けば「半夏生」、二十四節気をさらに3分割した七十二侯の一つを名乗っている。その形状から「半化粧」ではないか、という説もあるが気持ち的には季節と密接な関係である和名の方がすんなり落ちる。この点は世間一般誤解もあり、本文で詳しく紐解きたいと思う。

 地域によりあまり見られないエリアもあるそうだが、当地周辺の霞ヶ浦沿岸から茨城県南部、千葉県北部にかけての湿地や湖岸ではごく普遍的な植物である。初夏、まさに半夏生の季節には葉が白く色付き、群落となった姿はなかなか見応えがある。

七十二侯
■二十四節気

 冒頭で記したように、そもそも七十二侯は二十四節気を3分割したものだが、何を隠そう自分は多くの現代の日本人同様にこの手の知識がまったくない。調べてみると「太陽の黄道注1)上の位置によって季節を24等分し、その分割点を含む日に季節を表す名称を付したもの」(ウィキペディア)とある。その名称の一部は春分、夏至、秋分、冬至などポピュラーで私でも知っているものもあるが、清明、穀雨、小満など聞いたこともないものも多く、それを3分割したと言われても何の事やらサッパリである。
 半夏生を調べてみると「夏至」を3分割したもので、乃東黄、菖蒲華が仲間である。それぞれ暗号のような文字だが、「なつかれくさかるる、あやめはなさく、と読み平仮名であれば何となくイメージはわく。ただし半夏生は「はんげしょう」ではなく、はんげしょうず、と読み、要するにハンゲ(カラスビシャク)が生ずるという意味。従って湿地植物のハンゲショウは関係ないという、こんがらがった世界である。
 私のペンネーム「半夏堂」はこのハンゲ(カラスビシャク)由来のものだが、二十四節気も七十二侯も知らない中で、裏庭にはびこってウンザリしている所から付けたのだが、一応自分の誕生日近辺の日付となっている。偶然の一致ながら何だか嬉しい。


(P)2005年6月 自宅裏庭のハンゲ(カラスビシャク)(fig2)


■半化粧

 というわけで実はハンゲショウは七十二侯の半夏生には関係なく、巷説である「ハンゲショウ=半夏生」は季節や字面がたまたま一致しているために生まれたものと考えられる。そうなるとハンゲショウは「半夏生」ではなく「半化粧」が正解っぽい。本家の半夏も今やカラスビシャクが標準和名であり、ハンゲとする呼び名もあまり見かけない主客転倒状態ではこうした混乱も仕方がないのかも知れない。つまり半夏生はハンゲショウではなくカラスビシャクである。本当にややこしい話だ。

 話を元に戻すと、半夏生(七十二侯の方)は特定の日付と決まっているわけではなく、2019年は7月2日、2020年は7月1日である。一説に半夏生は夏至から11日目とされるが、現在は太陽が黄経100度の点を通過する日と定義されている。このため年によって若干のズレがある。考えてみれば1年365日も閏年の366日も24(二十四節気)でも72(七十二侯)でも割り切れない。概ねこの近辺、と覚えれば良いだろう。というか別に覚えなくても人生、何の不自由もない。地域によって異なるが、タコでも鯖でもウドンでも注2)好きなものを行事食として食べればよい話。ちなみに関東地方、居住地近辺ではそれもなく、幼少の頃から見たことも聞いたこともない。この手の行事で記憶にあるのは節分の豆と土用の丑の日ぐらいか。
 由緒ある季節の行事が広く知られぬまま消滅してしまうのは寂しい気もするが暇な昔の人とは違い、現代人はアホのように忙しい。とてものこと年間72回も祭事をやるわけにはいかない。カレンダーの並びが悪ければ(振替休日が発生しない場合)年間の祝祭日の休日は15日しかない。(祝日法の規定)昔は玄関に国旗を掲げる家も多かったが最近はそれもなく、我が身を振り返れば何ら特別な行動を起こす事もなく睡眠時間を増やすのみ。半夏生はその意味さえ忘れ去られた日の更に下位分類である。日本人の意識からフェードアウトして行くのも自然な流れだろう。

■白化

 湿地植物の方も紛らわしいことに半夏生のあたりから葉が色付き始める。色付く、というか見かけ上は緑色が抜けるわけだが、なぜこの時期に光合成に必要な葉緑素を半分近く抜くのだろうか。有力な説は、あまり目立たない穂状花序が昆虫を誘因(虫媒)するための補助手段というもの。地下茎を張り巡らして群落を形成する多年草のハンゲショウがそこまで真剣に受粉を考えるものかと思うが、ハンゲショウにはハンゲショウの事情があるのだろう。
 異なる系統からの受粉、実生に関するアドバンテージ、遺伝的多様性注3)に付いてはもちろん理解している。しかしこれだけ強力な無性生殖の手段を持つということは遺伝的に完成されていると見ることも出来る。

 この説の補足に、同じドクダミ科のドクダミは白く目立つ花弁を持つために葉が白くならない、という説明がある。しかしこれこそ蛇足であって、宿根の根絶難代表的雑草であるドクダミが実生をどれだけ重要視しているのか、種の存続という観点から考えれば説明になっていないような気がする。


(P)2014年6月 茨城県守谷市 白化したハンゲショウの葉、この葉は「半」化粧というより9割方化粧(fig3)


 そもそもドクダミよりハンゲショウに近いアメリカハンゲショウ(Saururus cernuus L.)は同程度に地味な穂状花序でありながら葉の色が変化することはない。そうであればなぜ「ハンゲショウ」を和名に被せたのか、という話はあるが、それはそれ。というわけでハンゲショウがなぜ半分「化粧」するのか、という設問には明確な解がない。

 ハンゲショウの白化を、かなりざっくりとした範疇で考えるといわゆる「斑入り」と考えられなくもない。斑入りは植物学的には葉緑素の欠乏によって生じる場合、表皮細胞と内部細胞に間隙を生じる場合があり、元々の形質つまり遺伝的形質の場合は後者が多く、ハンゲショウはほぼ間違いなく後者だろうと思う。つまり前述のように「葉緑素を抜く」わけではなく葉緑素が一時的に隠れる状態である、ということ。これによって比較的短期間に色が変わる(花期が終了すると葉は緑色に戻る)現象に対する合理的説明にはなる。もう一点間違いないのは葉緑素が抜けようが隠れようが光合成の不利は変わらない、ということ。光合成生産量と虫の誘引がトレードオフになるかどうか、もちろん「なる」と判断したからこそハンゲショウは白くなるわけだが、人間の論理では理解が及ばないことも植物の世界には多い、という好例だろう。
 この光合成生産量が気になったわけは、ハンゲショウの「化粧」が出現するのは株の上部の葉、つまり光を得やすい部分の葉が多く、しかも「半」化粧どころか画像の葉のように9割化粧もしくは全化粧の葉が多いからである。つまり光合成生産という観点からは最も不利な挙動である。ハンゲショウが生えるような湿地ではスゲ属やイヌタデ属、その他モロモロの湿地植物と折り重なるように自生するが、緑の重なりの中で白は最も目立つ。しかし目立つ目的であれば他に方法もあるような気もする。

 以上、ある意味ハンゲショウの最も大きな特徴に付いて諸説を紹介してきたが、有力とされる昆虫誘引、受粉補助説の根拠も「花穂が目立たない」「白化する葉が上部(花穂の近く)」という状況証拠に拠っている。葉緑素を出したり引っ込めたりするエネルギーを花穂の充実にあてて目立つようにする方が合理的であると思うが、それも人間が考える状況による判断か。

プロファイリング
■湿地植物特性

 自分の行動範囲で見るハンゲショウの自生は概ね湿生で、抽水は皆無ではないがかなり珍しい。画像の株もたまたま増水して抽水に見えている雰囲気もある。(岸から見てマコモよりも「沖」なので完全に抽水だが、一株だけなので怪しい。種子の一つがこの場所に着弾?)ハンゲショウは水没しても沈水葉を形成注4)するほどなので生存には支障がない。しかしどうやらお好みの環境は湿生のようだ。
 そもそも湿生と抽水では何が異なるのだろうか。どちらにしても根の嫌気耐性という点では変わりはなく、湿生でも抽水でも生育条件に大差はないと考えられるが、水没という観点で見てみると可能性、危険性がより高いのは抽水である。この条件を踏まえて湿生に拘る理由は一つ、前述の「受粉の優先」である。水没しても枯死することはないが受粉はできない。当然ながら結実もできない。そこには多年草であるにも関わらず種子を残すという強い意思を感じる、白化に続く2点目のポイントである。


(P)2015年6月 千葉県松戸市 抽水するハンゲショウ(fig4)


 似たような自生形態を持つシロバナサクラタデを考えてみると、こちらも多年草であるが開花・結実傾向が強い。自生場所もハンゲショウと被るが、もちろん葉は白化しない。白化しない代わりに「黒斑」と呼ばれる暗褐色の模様が出ることが多く、これが昆虫類の誘引に役に立っているかどうかは分からない。
 色的にはアントシアニン注5)のようにも見えるが、人間の目で見た色と昆虫の目で見た色は異なるので、この黒斑が昆虫にとってはこの上なく魅力的に見えている可能性もあるだろう。ちなみにシロバナサクラタデの花もタデ科としては美しい方だが一般的に評価すれば地味だろう。これも誘引の補助手段と考えれば納得できるものはある。しかし言うまでもなくシロバナサクラタデやサクラタデは多年草であり地下茎で無性生殖を行う。どうしても受粉しなければ子孫を残せない立場ではない。

■シードバンク

 シロバナサクラタデは、ほぼどの植物体も、一枚一枚の葉も同じ位置に同形状で出現するのでこれも遺伝的なものと考えられる。解析すればそういう遺伝子が見つかるだろうが、ゲノムにはその理由までは書いていない。ハンゲショウもシロバナサクラタデも人間が想像もできないような長い時間を過ごす間に種の存続に関わるような重大な危機があり、その結果何が何でも種子を結実させ一定部分をシードバンクで残す方針を取ったのではないだろうか。
 植物種として何らかの脆弱性があり、克服できていない場合に群落が絶えてしまった場合でも種子が残れば復活の可能性がある。種の存続において連続性を担保しなくてもよい唯一の手段だ。そこまで考えてこういう生態になっているとすれば(結果はその通りになっている)凄いことだ。

 以前、東京都立の尾久の原公園という自然公園を見て不思議に思ったことが、この公園は旭電化工業(現在のADEKA)注6)の工場跡地に造成されたもの。そして旭電化工業は化学品、現在の製品ラインナップを見ると添加剤や安定剤など化学製品を作っている会社である。化学製品を製造すれば有害な物質が排出されることは素人の私でも分かる。排水の処理は当然行っていたと思うが(同社をディスる気持ちは一切ない)イメージ的に、いわゆる「化学工場跡地」である。その跡地にハンゲショウもシロバナサクラタデも何気に生えていたのである。もちろんシロネやミゾコウジュなど他の湿地植物も生えていた。自然湿地と何ら変わらない植生のラインナップである。
 周辺の地形を見ると、東京23区そのもの(と言っても大きな幅があるが)で、これらの植物が周辺から入り込む余地はない。具体的には足立、葛飾、荒川近辺の、下町っぽいがあまり自然がないような街並みの真っただ中。誤解を避けるために書いておくが、舎人公園(足立区)や水元公園(葛飾区)は植物ラインナップ的には「自然豊か」ではあるが、植栽されたものも多いはずで、その意味では公園である。そして「下町っぽいがあまり自然がない」のはそれ以外の場所。
 この公園がある場所は荒川と隅田川が最接近する地域であり、今でこそ護岸されて住宅地や商業施設があるが、工場が建設される以前(1918年以前)はほぼ確実に湿地であったことが推測できる。これら水生植物の種子がいつ頃の年代のものか分からないが、最低でも数十年以上の時間は経過しているだろう。
 植物一本一本に由来が書いてあるわけではないので当時の埋土種子由来かどうか確証はないが、例えば鳥類の種子運搬によるものであればもっと植物構成に偏りがあっても良いはずで、これだけ「普通の湿地」のような植物構成ということは元々の地形の植物相を反映していると見るのが自然だと思う。

■絶滅危惧

 どちらかと言えば雑草のイメージが強いハンゲショウだが、意外なことに多くの都府県で絶滅危惧種となっている。(日本のレッドデータ検索システム参照)山形県、東京都にいたっては絶滅危惧T類である。U類も東北から北陸にかけて多くの県が指定している。関東地方でも埼玉県がU類に指定している。自分の行動範囲では想像も付かないが、湿地植物「あるある」で、ない所にはないのだろう。ドクダミがない地域というのは考えられないが、仲間のハンゲショウはどこかに脆弱性を持っている、ということかも知れない。その結果がこのレッドデータと考えれば納得できなくもない。さらにその脆弱性が種子の生産に対する拘りにリンクしているとすれば辻褄は合う。

 もちろん辻褄が合うというのは人間の論理の話であって植物の論理ではない。植物の「論理」を読み取ることができない以上「ハンゲショウにはハンゲショウの都合がある」と納得するしかないが、都立尾久の原公園の事例を見ればハンゲショウもシロバナサクラタデも見事にリスクヘッジが活きている。結果から見れば種子の生産に対する拘りの意味は見えてくる。


(P)2015年7月 茨城県石岡市(fig5)


 「脆弱性」に付いては、その正体は想像もできない。身近な繁殖力の強い雑草が上記のように地域によっては絶滅危惧種になっているという事実から、気候や土壌に影響されやすいのだろうか?もしくは元々の分布に偏りがあるのだろうか?という程度。ハンゲショウは身近な地域では繁殖力の強い雑草というイメージしかなく、水田地帯の用水路際でも見られる、ごく普遍的な植物である。何かに負けて(人為的なモノは除き)絶えてしまった、という例も見たことがない。こんな植物が絶滅危惧種になってしまう理由はサッパリ分からない。湿地の喪失という一般的な傾向はたしかにある。ただそれを言うのであればそれこそヒメジソやヤナギタデも同じ立場だ。これまた「ハンゲショウにはハンゲショウの都合がある」のだろう。

沈水
■水草としてのハンゲショウ

 上記のようにハンゲショウは水中でも生き延びる。外来種のアメリカハンゲショウ(Saururus cernuus L.)は「サウルルス」という名称で水草として流通しているが、気中葉を沈水馴化するにはやや手こずる。見かけによらず難しい水草、というわけだが最大の理由は「水中が嫌い」ということで、ありがちなエクスキューズ、設備(照明や二酸化炭素、底床の材質など)の問題ではないと思う。

 沈水葉は気中葉に比べてかなり小型で極端に成長の遅いものが展開する。湿地植物を水中に沈めた際に見られる「一刻も早く水面へ」という力は感じられない。水草としてはその方が都合は良いが、その姿は「死なない程度に生きている」ようにも見える。ハンゲショウの場合もまったく同じで、自生下では一切水中での生育を見たことがなく、育成下ではじめて小型の地味な沈水葉が見られる。いや、沈水葉というには不完全で、単なる矮小化かも知れない。水中にあって光合成生産量が極端に低下注7)する=成長に必要なエネルギーが得られていない、ということだ。要するに水中が全面的に嫌いな湿地植物なのだ。このことは「水草とは何か」という根本的な問題を内包する。


(P)2015年7月 茨城県石岡市 自然下では水中に入ることはない(fig6)


■水草とは何か

 水草とは何か、確たる定義はあるようでない。従って販売者が「水草」とし、購入者が納得するものであれば取引成立、立派な「水草」である。こうした玉虫色の取引は多分に詐欺的な要素が入り込む余地があるが少なくても商品の実物(ネットであれば画像)は見せているわけで、それはそれで仕方がない。
 前項で例示したシロバナサクラタデやサクラタデも状況はまったく同じで、水槽水中では沈水葉とは呼びにくい硬質の矮小化した葉を展開する。そして早い段階で葉が茶色くなり脱落する。成長点近くは何枚か葉が残るので、いわゆる「差し戻し」をしながら維持することになる。それでも植物体が枯死しないのは驚きだが、これをもって「水草」とは呼びにくい状況であることは間違いない。しかしこのタデ科の湿地植物もしばしば水草として販売される。

 この状況、つまり水草として生活できるのかどうかという点は自生の形態にはまったく関係がない。ミズネコノオやシソクサも自生では沈水することはまず無いが、育成下では意外なことに水草として生育する。もちろんこれには二酸化炭素の強制添加や強光など人為的な条件が不可欠であるが、少なくても条件さえ整えば沈水植物として生きる能力を備えている、ということだ。

 育成者の感覚としては水槽内で新芽を出す植物は「水草」であるが(現状は販売者もそうだが)、湿地で気中生育する姿を知っていれば、これも「死なない程度に生きている」としか思えない。この状況はハンゲショウとシロバナサクラタデ2種だけではなく、イボクサやキカシグサなど、一部で水草として扱われている注8)植物も同じである。この状況、モノ言わぬ植物だから何とも言われないが、動物であれば間違いなく虐待だ。
 このように考えるとやはりハンゲショウはどう見ても「水草」ではないと思う。湿生、抽水では開花・結実に向けて全力投球するが水中に入ると専守防衛モードに突入する。この挙動は水草のものではなく、一時的な冠水に対応する湿生植物のものである。水生植物ハンゲショウにとっての脆弱性は皮肉なことに水なのかも知れない。

蛇足の話
■薬の怖さ

 ハンゲショウには薬効があり、生薬名を三白草(さんぱくそう)という。この話は後で書くとして、漢方だろうと何だろうと薬は恐ろしい、という話を先に書いておきたい。植物由来だから安全、漢方だから副作用はない、ということは絶対にない。それは薬品にありがちな但し書き「正しい用法・用量」という話でもない。なにしろそれ自体が信用できないのだ。

 個人的な話だが、亡父は亡くなる前の10年ほど認知症を患い、様々な治療の甲斐なく最後の数年間は近親者の見分けも付かない状態であった。この期間を通じ「認知症は治らない」という先入観もあり諦めもあったが、最近非常に優れた認知症治療のエキスパート医師と一緒に仕事をしている中で、どうやら父はずっと誤った治療と投薬を受けていたらしい、と気が付いた。
 聞きかじり、門前の小僧の話なので間違っていたら申し訳ないが、一口に「認知症」と言ってもアルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型など様々なタイプがある。また認知症薬としてもアリセプト、レミニール、リバスチグミン、メマンチンなどがある。実は症例と薬剤の組み合わせによっては全く効果がないばかりか、場合によって症状を悪化させてしまうのである。

 父の場合、随時病院側からCT画像を見せられていたがアルツハイマーの特徴(委縮)が見られず、今から思えば別なタイプの認知症だったと思う。この状況でアリセプト(当時はこれが主流)をMAX投与し続ければ症状は確実に悪化し、現実もそのような経過となっている。しかしこれは今更の話で当時は最新の治療であったのだ。ただ、その「当時」が21世紀になってからである、という点は留意したい。
 蛇足の蛇足で恐縮ながら、このアリセプトという薬もよく分からない。PMDA注9)(医療安全情報)の医薬品情報を読んでみるとこの薬品「本剤がアルツハイマー型認知症及びレビー小体型認知症の病態そのものの進行を抑制するという成績は得られていない」とある・・・。では何に効くのだろうか。患者側としては回復を祈り少なからぬ医療費を負担しているわけで、進行を抑制するという成績は得られていない、なんていうワケワカラン薬は使ってほしくない。この疑問は素人の素朴な疑問、というわけではなく件の医師も仰っておられた。そもそもこの「ワケワカラン」が理由で、これらの抗認知症薬はフランスでは保険適用を外されているのだ。

 いささか例示としては長すぎたきらいはあるが、大病院が処方する薬でもこの有様である。なので「薬効が云々」という情報は気軽に書けないという気持ちが強く、以下は参考程度に読んで欲しい。繰り返すが、薬の怖さは「植物由来だから」「漢方だから」は関係ない。そもそもトリカブトとケシも植物である。近頃何かと肩身の狭いタバコだってそうだ。

■ドクダミ、ハンゲ、ハンゲショウ

 以上を踏まえ、ドクダミ科のドクダミ、ハンゲショウ、サトイモ科のカラスビシャク(ハンゲ)、混同されやすいこの3種の植物に付いての「薬効」を紹介しておく。ただしくどいようだが上記の通り私はあまり信用していない。本当に薬効が発揮されれば現状の医薬品が要らなくなるではないか。薬効があったとしても良く言えば「効果は緩やか」、悪く言えば「加持祈祷と五十歩百歩」、過度の期待は禁物だ。

植物 生薬名 効果・効能
ドクダミ 十薬(じゅうやく)*1 緩下剤、利尿剤、膿瘍、創傷
ハンゲショウ 三白草(さんぱくそう)*2 清熱、消炎、解毒
カラスビシャク 半夏(はんげ)*1 鎮嘔、鎮吐、鎮静、去痰

出典
*1 薬用植物総合情報データベース
*2 武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園

脚注

(*1) 黄道は天球上、つまり地球から見た空を一つの球体とみなした時に太陽の見かけ上の通り道のことを呼ぶ言葉。赤道に対し約23度27分傾き、春分点(黄経0度)、秋分点(黄経180度)の 2点で交わる。太陽はこの上を1年に1周する。黄道上を春分点から東へ90度の点を夏至点、270度、つまり秋分点から90度動いた点が冬至点である。本分にあるように一年365日、閏年366日とも24では割り切れないが黄道一周360度は24で割り切れ(15度)、これが二十四節気となっている。もちろん15は3の倍数であるので七十二侯も決められる。

(*2) 半夏生の日には地方によってタコ、鯖、ウドンなど様々なものを季節食として食べる風習があるようだ。本文にあるように自分が生きてきた地域ではこういう風習はないが、一説には半夏生は「ここまでに田植えを終えないと秋の収穫が半分になる」という意味もあり、農作業が一段落したという意味、お祝いの意味も含まれているのだろう。他はどうか知らないが、近隣では田植えはGW前後、8月末には早くも稲刈りが始まるペースなのでこんな季節に田植えを行うことはない。また近年の温暖化の影響で、暑い時期は伸びているので半夏生を過ぎて田植えを行ってもそこそこ収穫できそうな気もする。

(*3) 植物が他の株から受粉するのは様々な遺伝子、例えば特定の病虫害から身を守る能力や少しでも強い繁殖力などを手に入れるためとされている。一方、異なる系統の群が受粉範囲(昆虫の行動範囲、風による花粉の到達範囲)にないと意味がない、という側面もある。雌雄同花の場合は自家受粉しやすくこのメリットは享受できないが、ほぼ確実に受粉ができるというメリットがある。植物種にとって遺伝的多様性はたしかに重要だと思うが、種として獲得した形質が一巡してしまえばそれ以上の向上はないわけで(スーパー雑草など突発的な進化は別として)意味は失われるような気もする。多くの植物がこの状態にあると思うがどうなのだろう?

(*4) 沈水葉の明確な定義がないので異形葉を含めて便宜的に沈水葉と呼んでいるだけ。現実はかなり小型化した「異形葉」であり、自然状態では見られない草姿である。水槽内という人工的な環境、つまり二酸化炭素の添加や透過性の高い光源などによって初めて見られる草姿だが、これはこれで興味深い。この植物を通販で販売するサイトでも「水中化は難しい」と書いている。水草として販売するのであれば「難しい」と総論的に書くのは反則で、何をどうすれば良いのか具体的な情報を出すべきだと思うがこれはまた別の話。

(*5) アントシアニンは植物が持つ色素で、フラボノイド系の色素とされる。果実や野菜、花色を構成する色素で、人間が摂取することにより視力が回復する効果がある。ブルーベリーはその代表。またアントシアニンは抗酸化成分ポリフェノールの一種でもあり、活性酸素の生成を抑制する働きがあるとされている。生活習慣病の主な原因は、過剰に発生した活性酸素であるという説もあり、要するにアントシアニンは「体に良い成分」である。という情報からここ25年ほど自宅でブルーベリーを栽培しているが、庭仕事のついでに私がつまみ食いする他はムクドリやスズメを喜ばせる結果になっているようだ。

(*6) 本社は東京都荒川区東尾久、東証一部上場。会社概要によれば「樹脂添加剤や界面活性剤等の機能化学品が柱、電子材料にも展開。パン・菓子用の加工油脂類も」とある。2019年3月期で連結売上3000億、同純利益170億の優良企業である。同社の沿革によれば尾久工場の操業開始が1918年、移転が1979年とあり、半世紀は当地に工場があったことになる。一般に埋土種子の寿命は50〜60年と言われており(種によって異なる)、まさに絶妙のタイミングで尾久の原公園ができたことになる。また化学工場とは言え、地下の埋土種子まで殺すような廃液を流さなかった、という証明にもなるだろう。

(*7) 水中では色が薄くなり(葉緑素の量が減少)、表面積も減少(同)する。すなわち植物体として光合成生産量が著しく減少しているということ。湿地植物が沈水化した場合、水面を目指して成長し開花しようとするはずだが、そうした挙動は見られない。従って自分はこの状態を「死なない程度に生きている」と考えている。

(*8) 定義が成されていない以上、何を「水草」として販売しても自由。この事を非難しているわけではないが、逆に言えば商品として販売されている以上、ユーザー側で取捨選択する必要が生じる、ということだ。私の場合、幸いなことにこれらの「グレーゾーン」の植物達は購入せずとも近所で調達可能であったので無料で実験が出来たが、育ててみたくても購入するしかない立場の人には悩ましい。この業界、販売者側にその部分を期待しても無駄であることは事実だ。

(*9) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)。同法人のHPによれば(「」内引用)「国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構及び財団法人医療機器センターの一部の業務を統合し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づいて平成16年4月1日に設立」(一部略)業務としては、審査関連業務、安全対策業務、健康被害救済業務など医薬品や医療機器に関する権限が集中している。


【Photo Data】
・RICOH CX5 *2015.6.30(fig1) *2014.6.18(fig3) *2015.7.6(fig5,fig6)
・Canon PowerShot S120 *2015.6.22(fig4)
・Canon EOS KissDigital + SIGMA 50mmMacroF2.8 *2005.6.18(fig2)
Weed Saururus chinensis (Lour.) Baill.
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