日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
セイタカタウコギ
(C)半夏堂
Invader Bidens frondosa Linn.

キク科センダングサ属セイタカタウコギ 学名 Bidens frondosa Linn.
被子植物APGV分類 
  国内 要注意外来生物

種子を形成したセイタカタウコギ 2015年10月 東京都葛飾区
センダングサ属の興亡

 私が水田や湿地の植物に興味を持ち野外を歩くようになった15年程前、水田地帯を歩くとキク科センダングサ属の雑草は本種セイタカタウコギ(別名アメリカセンダングサ)(*1)だらけで、似たような植物は無かったように記憶している。水生植物として興味を惹かれるような植物ではないため綿密に見たわけではないが、似たような草姿をしていても白い花弁を持つコシロノセンダングサや特徴的な総苞片が短いコセンダングサとは見間違えてはいないと思う。

 この植物が持っている二つの和名、セイタカタウコギとアメリカセンダングサはそれぞれ在来種のタウコギとセンダングサという名前が入っている。本種が駆逐した(*2)のかどうかは分からないが、15年前の時点で両種ともほとんど見ることはなかった。タウコギとセンダングサは現在も状況は同じで、特にセンダングサはまったく姿が見られなくなってしまった。

 実は最近、セイタカタウコギの圧倒的な繁茂も様相が変わってきており、注意深く観察すると従来セイタカタウコギの純群落であった場所が上記コシロノセンダングサやコセンダングサ、さらに中間的形質を持つアイノコセンダングサに変化してしまった場所も多い。
 同じような雰囲気を持つ植物、注意深く観察しないと同じように見える草でも、これだけの短期間にちょっとした興亡が起きていることは非常に興味深い。他のセンダングサ属外来種と共存している場所も多いことから、彼等が何らかの排他性(アレロパシーなど)を持っているとは考えにくく、またスカスカの草体を見ると日照争いが起きている気配もない。同じ外来種同士、場所を分け合って生きているのだろうか。
 後述するが、センダングサ属が形成する種子は「ひっつき虫」で、動物や鳥、人間によって運搬され版図を拡げる。逆に言えばそれらが版図拡大に役に立つことを植物自身が知っているのだ。「同じ外来種同士、場所を分け合って生きている」という意思を持つこともあながち荒唐無稽ではないと思う。

 園芸植物でもなく水草でもない、経済的価値はもちろんない、人為的に持ち込まれる要素が見当たらない彼等(センダングサ属)がなぜ次々と現れるのだろうか。この点、古顔のセイタカタウコギを調べてみても「北アメリカ原産、大正時代に帰化」以外の情報がない。最も「公式情報」に近いものと思われる国立環境研究所の侵入生物データベースでも「非意図的移入」としか書かれていない。侵入ルートが特定できないのはセンダングサ属に共通する版図を拡げるための方法論にあると考えられる。それは種子が「ひっつき虫」であることと無縁ではないだろう。


(P)湿地でも問題なく進出する。後方に見えるのは湿地植物のウスゲチョウジタデ 2015年9月 茨城県取手市

近年多くなったコシロノセンダングサ 2015年10月 茨城県取手市 逆に押されて少なくなったタウコギ 2015年10月 茨城県取手市

種子運搬

 「ひっつき虫」は子どもの頃の手軽なアウトドア玩具として(最近は他にいくらでも玩具があるので遊ばないか)オナモミ(*3)をよく使った記憶がある。オナモミ自体も外来種であるオオオナモミが戦前から入り込んでいるので、また狭義オナモミは第三次のレッドリスト(*4)に記載される程少なくなってしまったので、今となってはどの種類だったか定かではないが、多少の形状の相違はあっても総じて爆弾状の形状で、まるで投げろと言わんばかりの果実を形成する。これを友達に投げてセーターなどに「ひっつけて」遊ぶのである。
 服に引っ付けばともかく、首や顔に当たると結構痛い。目に入れば怪我をするだろう。こういうのを考えると今は「危険な遊び」として禁止されてしまいそうだが、昔は結構鷹揚な時代だったのだ。またこういう遊びで四季の移ろいや自然を学習していたような気もする。

 同じ「ひっつき虫」でもセンダングサ属の植物は種子がバラバラになり、一度服に付くと全部取るまでに相当手間がかかるので遊びに使わなかった。逆に言えば 一度「ひっついて」しまうと容易に種子が運搬されてしまうのである。それは国境も関係なく、実際に海外旅行から帰国した際、服に植物の種子が付着しているかという点を調べられた経験はない(*5)。子供達が外国の公園で転げまわっても「帰国してから洗濯するか」とスーツケースに放り込み、洗濯の前に庭で埃をパタパタ、この時に付着してきた未知の外来種の種子が落ちる可能性も十分あるだろう。
 こうした悪意のないキャリアーが毎日何万人も出入りする現状を鑑みれば、強力なひっつき虫であるセイタカタウコギが版図を拡げられない理由はない。また後続のコシロノセンダングサやコセンダングサも同様である。

 現在外来生物法上では「要注意外来生物」として扱われているが、何をどう注意すれば良いのだろうか。水田や畑地であれば除草の機会もあるだろう。しかし上記侵入生物データベースの表現を借りれば「水辺や湿地を好む。肥沃地に多いが、土壌の種類、乾湿、肥沃度への適応性は大きい。」ということで、湿地や農地のみならずどこにでも生えるのである。居住地周辺でもご多聞にもれず空き家や荒地が目立つが、空き家の庭や荒地の除草を行う奇特な方はいない。そうした環境には猫や鳥が入り込み、ひっつき虫の思惑通りに事が進む。

 似たような(動物に引っ付いて版図を拡大する)方法で版図を拡大する植物はセンダングサ属やオナモミなどキク科植物に限らず、ヤブジラミ(セリ科)、ハエドクソウ(ハエドクソウ科)、ミズタマソウ(アカバナ科)、ヌスビトハギ(マメ科)、イノコヅチ(ヒユ科)、キンミズヒキ(バラ科)、チジミザサ(イネ科)などが知られてる。こうした植物の叡智、戦略を考える度に、種子を引っ付けて運んでくれる動物の存在をどうやって知ることができ、版図拡大の方法として考えたのだろう、と不思議な気持ちになる。


(P)セイタカタウコギの種子、ひっつき虫。しがみ付く「逆棘」も見える

コセンダングサの種子は細長い コシロノセンダングサの種子。形状はコセンダングサと同系統
アイノコセンダングサの種子。形状はコセンダングサと同系統 タウコギ種子。形状はセイタカタウコギと同系統

防除難

 環境省が本種を外来生物法上で「要注意外来生物」として指定したのは前述の通り。しかし防除に対する具体性が見えない点、指定しただけで終わる可能性が最も強い植物の一つであると考えざるを得ない。これは特定外来生物に指定しても同じだろう。特定外来生物の場合、移動に対する罰則もあるので「ひっつき虫」による意図しない移動をどうするか、とか厄介な問題もありそうだ。

 本種の結実期に湿地で写真を撮っているとかなりの確率で衣服のどこかに種子が付いている。外来生物法の場合、意図的であるかどうかを問わないので、また法律全般、認識の有無を問わないので(簡単に言えば知らなくて不法行為を行った場合、知らない方が悪い)私なんざ真っ先に処罰されてしまいそうだ。
 要は外来生物法本来の趣旨である「防除」に対しての実効性が見いだせない。実効性が見いだせない以上、指定する意味が無いということになる。加えて種子による拡大以外にも防除の難しさはある。第一に前述したように自生地を選ばない点。水湿地から(*6)乾地まで幅広く分布する。河川敷や荒地など人間が無関心の土地に生え、そこから動物や鳥によって拡散する。

 第二に除草剤があまり効かない。この点は隠れRDBとなりつつあるタウコギも同様のようだが、水田で主として用いられるスルホニルウレア系除草剤(*7)があまり効かず、除草剤で駆除するためには中期剤、後期剤(*8)を用いる必要がある。しかし、化学系の話としては理屈は分かるとしても、現在の米価とコストを考えた場合、稲作農家が高価な除草剤を二度三度使用できるとは思えない。経済的側面から難しい話なのだ。そもそもスルホニルウレア系除草剤(SU剤)は広範な水田雑草に効果があり、稲には影響がない夢の除草剤として登場しているはず。稲作農家もまだ追加の除草剤という発想がないのではないだろうか。
 SU剤に対する耐性を持った水田雑草はここ10年程で色々登場(*9)しているが、端的に言えば10種類を超える雑草に「効かない」除草剤となってしまった現在、SU剤は夢の除草剤とは言えない状況になってしまった。またコストの観点から二重三重に除草剤を使用する農家もない。かくして居住地周辺の水田でも外来種センダングサ属(だけではないが)が猛威を奮う風景が日常となってしまった。

 というわけで、耕作地、非耕作地を問わずセイタカタウコギの防除は現実的に非常に難しい。上記リンク侵入生物データベースにも防除方法は「抜き取り、刈り取り」としか書かれていない。これが現実である。(誇張も過少評価もない点は評価できる)一再であるが、環境省はなぜ要注意外来生物に指定したのだろうか。個人的に存在を容認するものではないが、もはや古顔の帰化植物として梅や沈丁花並みに見守るしかないのが実情であると思うのだが。


(P)セイタカタウコギのフォルム 2015年9月 東京都葛飾区

脚注

(*1) アメリカセンダングサは中井猛之進、セイタカウコギの命名は牧野富太郎によるが、本Webサイト(水生植物図譜及び関連の記事)では牧野富太郎命名の和名を使用している。中井猛之進(1882-1952)という人は植物分類学者で東大教授、小石川植物園長、ボゴール植物園長、国立科学博物館長を歴任した学者。一般的には本種の和名としてアメリカセンダングサを使用する場合が多いように思われる。

(*2) タウコギやセンダングサはセイタカタウコギが駆逐した、という論調をよく目にするが、科学的根拠、例えばアレロパシー等の排他性があるとか他植物を被覆して枯死させるとか、そうした具体的傍証が確認できていない。ただし、未確認の競合が発生している可能性は排除できない。

(*3) キク科オナモミ属の一年草。主に乾地に生えるが水田の畦などやや湿り気のある環境にも進出する。秋に結実した果実が「ひっつき虫」であるが、センダングサ属のように種子がバラバラになることはない。オナモミ自体、史前帰化植物と考えられているが、近年オオオナモミ(Xanthium canadense)やイガオナモミ(Xanthium italicum)などの新しい帰化種に駆逐されているようだ。

(*4) レッドリストの平成18年〜19年公表版。3011種の生物がリストアップされている。平成24年の第4次レッドリストでは絶滅危惧生物種が更に増加し、3430種類となっている。ちなみに植物分科会には角野康郎氏(神戸大学大学院理学研究科教授)や芹沢俊介氏(愛知教育大学教育学部自然科学系特別教授、エドガワヌカボタデの発表者)が選定・評価検討会のメンバーに名を連ねている。

(*5) 成田空港は最近家族旅行以外に使ったことがないが、帰国の際にスーツケースさえ開けられたことがない。もちろん怪しいものは持ち帰らないが、海外で植物採集してもノーチェックで持ち込めると思う。この、いわば「ザル」審査を利用して個人的に東南アジアからクリプトコリネや水草類を持ち帰り、高値で販売する業者が多数存在する。(飛行機代や滞在費を賄って利益が出るほどなので立派に高値)開き直りか馬鹿なのかネット通販で得意げに持ち帰りの事実を公表しているが、本来植物防疫法というものがあり、第二章の第6条、7条、8条に抵触するはず。

(*6) 他の水生植物の多くとは異なり、セイタカタウコギの種子は湛水条件下では発芽しない。また発芽後の幼植物も湛水下では生育できないとされている。しかしある程度成長した後は抽水状態でも問題なく生育する。他の湿地条件、たとえば土壌が湿潤で嫌気状態となっていても湛水しなければ問題なく発芽成長する。

(*7) アメリカのデュポン社が1987年に発売した「DPX-84」。登場直後は「広葉、ヒエともに1回の処理で、普通の雑草の発生量であれば、適期に使用することで、中期剤、後期剤を使わなくても十分に雑草を防除できるという評価」(農業協同組合新聞デュポンファームソリューション(株)代表取締役社長インタヴューより)であったが、早くも9年後の1995年には耐性を持ったミズオアイが発見され、以降次々と耐性雑草が見つかっている。(脚注(*9)参照)

(*8) 除草剤の種類は使用時期、期待効果により初期剤、中期剤、後期剤に分けられる。本文のスルホニルウレア系除草剤(SU剤)はこのカテゴリーを超越し、効果が大きく持続する「一発処理剤」として手間とコストを大幅に削減する夢の除草剤であった。

(*9) 1995年にミズアオイ、1997年にイヌホタルイ、2000年にコナギがSU剤耐性雑草として報告されている。その後アゼトウガラシ、アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナ、ミゾハコベ、キクモ、キカシグサ、タイワンヤマイ、オモダカ、スズメノテッポウなどが確認されている。



Photo :  OLYMPUS E-M10/70-140mm Nikon CoolPixP330 Canon PowerShotS120 PENTAX WG3 SONY CybershotWX300

Invader Eichhornia crassipes Solms-Laub.
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