日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
オオカナダモ
(C)半夏堂
Invader Egeria densa Planch.

トチカガミ科オオカナダモ属オオカナダモ 学名 Egeria densa Planch.
外来生物法 要注意外来生物 茨城県取手市寺原 2002年9月
外来生物法の矛盾

 特定外来生物に選定された「キンギョモ仲間の」オオフサモと異なり、要注意外来生物のオオカナダモはいまだに販売され続けている。従って現状は、逸出はもちろん販売、採集、運搬、飼養に関する罰則が存在せず、単なる「注意喚起」で終わっている。
 関東地方一帯の水辺を考えると、むしろ特定外来生物のオオフサモよりも本種の方が被害実態があると思うが、本来現実の被害実態を外来生物の選定基準にするのが筋だと思う。
 不思議な事に現時点では環境省の見解もこの被害実態そのものを要注意外来生物の選定理由としており、その流れで行けば本来オオカナダモも特定外来生物に選定されて然るべきと思うが、(以下、環境省外来生物法、要注意外来生物のページより引用)「既に広範囲に蔓延しているため指定の緊急性は低い。」と解説されている。要するに今更取り締まっても何も変わらない(良くも悪くも)ということだろうか。厳しい見方をすればオオフサモもナガエツルノゲイトウも特定外来生物指定以前と以後、何ら変わっていないように見えるので同じではないだろうか。「既に広範囲に蔓延」しているものを防除するのが外来生物法の本来の目的ではないのか。

 これまで自分の書いた記事では都度都度この外来生物法に対する疑義を述べているが、このあたりの「理由」が不明確な故である。もちろん外来生物法自体に反対しているわけではない。例えば、タイリクモモンガ(*1)の特定外来生物指定の理由中、被害実態は(以下、同コンテンツより引用)「エゾモモンガと亜種間交雑する。ただし、自然界での亜種間交雑については、確認された事例はない」とあり、備考に(以下同)「本種のみに在来種との交雑の危険性がある」と書かれている。

 あまり文章に親しまない方でもこの矛盾が理解できるだろう。かたや「すでに広範囲に蔓延しているので」要注意外来生物、かたや「交雑する危険性があり、被害実態はないが」特定外来生物。この事例だけみれば外来生物法は、すでに手の打ちようのない帰化生物は要注意(法的拘束力はない)、危険性が予見されるものは特定外来生物(法的拘束力有り)という予防措置的法律であると思われても仕方がない。こうした法律の危険性は我々国民はかの治安維持法(*2)で学習したはずではないのだろうか。
 しつこいようだが、更に。オオカナダモは雄株のみ帰化している。しかし栄養増殖によって際限なく増えるのである。一方、タイリクモモンガは哺乳類であり、異性に出会わない限り繁殖することはない。エゾモモンガに遺伝子型が近い(見解により同種)のであれば、この「危険性」も地域限定のはず。この扱いの差は大きな疑問だ。動物の「純血」に拘わるのであれば、同じ環境省の行っているトキの放鳥はどうなのだろうか。すでに日本固有のトキは絶滅しており、新潟県佐渡一帯に放鳥されているトキは中国産(*3)である。現場で苦労されている方には申し訳ないが、論理としては「形が同じなのでOK」ということにならないだろうか?現在日本産のトキが絶えているから良い、という理屈なのだろうか。


(P)水田地帯の水路に繁茂したオオフサモ 茨城県取手市岡 2011年9月


爆発的繁茂の謎

(P)繁茂するオオカナダモ 茨城県取手市岡 2011年9月

 国内の水辺ではやや見かける機会も少なくなったクロモは、北米に帰化、爆発的繁茂し大問題になっていると言う。また河川敷などで見かける大型のタデ科植物イタドリは、わが国ではさほどではないのにイギリスに帰化定着し、これまた大問題になっているという。
 わが国に定着した帰化植物を見ても、セイタカアワダチソウの大繁茂、コンクリートの僅かなヒビからでも生えてくるヤナギハナガサ(*4)など根絶は不可能と直感的に思わせるようなしぶとさを見せている。もともと固有の植物ではないはずの彼らが、異郷の地でこれほど繁茂できるのは何故だろうか?従来様々な説が唱えられているが、主なところは次の通りである。

■裸地や乾燥地でも生育できる種類が多い
■繁殖力や適応力に優れ、種子生産性、発芽率が高い種類が多い
■栄養繁殖力が旺盛で、人為的に駆逐が難しい種類が多い
■元々の母国に存在する天敵が存在しない

 他にもいくつか理由があると思うが、個人的に大きな理由だと考えているのは天敵が存在しない、というものだ。天敵は物理的なもの、例えば植物であれば食草とする昆虫がいない、アレロパシーや被覆によって成長を阻害する他植物が存在しない、などの要因もあると思うが、気候条件や環境要因、特に日照や土壌の組成などが爆発的増殖を抑制する「天敵」となっている可能性もあると考えている。そうでもなければクロモやイタドリが侵略的外来種(*5)となっている状況が納得できない。従って本種オオカナダモに関しては、これほど繁茂し警戒されている原因に付いて、栄養繁殖力と日本の気候水質条件であると考えている。

 オオカナダモはよく知られた事実の通り、カナダ原産ではなく南米原産の植物である。戦前に植物生理学の実験用に持ち込まれたが、1940年代には早くも山口県で帰化が確認されている。この段階で、栄養増殖はともかく、未知であった日本の気候水質条件に対する適応力の議論と配慮があれば扱い方も違ったと思うが、覆水盆に返らず、半世紀後にはかくの如しである。
 歴史に対する「if」はない。(オオカナダモの帰化定着経緯はすでに「歴史」)ここで言いたいのは、日々新たに持ち込まれる外国産植物の日本の気候水質条件に対する適応力に付いての議論があまりにも蔑ろにされている危険性の話だ。例えばホテイアオイはオオカナダモ同様に南米原産の植物である。園芸販売される際にオオカナダモの教訓が活かされたとは言えず、また、晩秋に草体を溶かすことから、帰化の危険性に付いてより楽観視されていたフシも感じられる。現実は草体の一部が冬も残存し、翌年そこから新芽を出して増殖するという栄養増殖の形態をとっている。寒さで溶ける植物でも越冬するかも知れないという想像力の欠如と言わざるを得ない。

 少し脱線するが、現在個人的に危惧を覚えているのはアカバナ科チョウジタデ属(Ludwigia)の植物だ。在来植物のうち、チョウジタデは密度やや薄くおとなしい水田雑草、ウスゲチョウジタデやミズユキノシタは影が薄い、やや希少な種、ミズキンバイは絶滅危惧種と概して印象に残らない植物が多い。現在水田湿地で最も印象的なルドウィジアは外来種のヒレタゴボウである。植物体として、たいして変わらないチョウジタデに比べれば圧倒的な繁茂だ。
 アクアリウム・プランツとして「ルドウィジア」は結構な種類が輸入販売されているが、おそらく、と言うか確実に日本の気候水質条件に対する適応力に付いてのアセスメントはされていない。元アクアリストとして遺憾ではあるが、同様に危険性が予見される(*6)ロタラ(Rotala ミソハギ科キカシグサ属)やアマニア(Ammannia ミソハギ科ヒメミソハギ属)全般含めて販売禁止になっても仕方がない。上記のように外来生物法は現状予防措置を許容しているとしか考えられない法律なのだから。

植物的特徴と同定

 オオカナダモは類似の他種、クロモやコカナダモに比べて草体がかなり大型になり、自生を見れば概ね一目で分かる植物だ。しかし日照や栄養など条件が悪いと矮小化することがあり、遠目には他種と見分けがつかない場合がある。一節採取し、特徴を精査すれば他種との相違は判別可能なので、各々ポイントとされる特徴に付いて情報とを記しておく。

(1)オオカナダモは草体がごつく密になる(下画像参照)
(2)輪生:オオカナダモ4〜5輪生(右画像左)
(3)輪生:コカナダモ3輪生(右画像右)
(4)輪生:クロモ4〜10輪生
(5)鋸歯:肉眼で目立つ→クロモ


(P)オオカナダモ(左)、コカナダモ(右)の対比

 草体、輪生に付いては上記の通りアバウトなので決定的な同定ポイントとはならない。また上記生育条件による相違もあるので、考える以上に判別が厄介だ。そこで、輪生→鋸歯の順で絞り込めば判断が付くと思う。以下検索表を参照されたい。

【オオカナダモ、コカナダモ、クロモ検索表】

A.3輪生 ・・・ コカナダモ(見た限り、いかなる場合も3輪生)
B.4輪生以上
  鋸歯が目視できない ・・・ オオカナダモ
  鋸歯が目視できる ・・・ クロモ

葉の付き方が密で茎が太い 4輪生が典型的

脚注

(*1) 体の大きなムササビと勘違いされる方が多いが、小型のリス科げっ歯類で特定外来生物に指定されるまでは普通にペットショップで販売されていた。自分も飼育していたが、夜行性で人に慣れにくい面があり、一般的なペットとは言えない動物だった。しかし夜行性らしく黒い大きな目、飛翔のための柔らかい体、可愛らしさは抜群で、現在販売されているモモンガ(アメリカモモンガ、フクロモモンガ)に比べて人気があった。
 特定外来生物に指定された理由、エゾモモンガと近縁で交雑の恐れがある、というのは本文にあるように予防的措置であって(これ自体に反対するわけではない)、他の被害実態がある要注意外来生物、特定外来生物に比べて選定基準が曖昧だと思う。反対するのは、こうした予防的措置が可能で拡大解釈ができる法律及びその運用である。

(*2) 1925年公布、国体(天皇制)や私有財産制を否定する運動(主に共産主義)を禁止、取り締まる事を目的に制定された法律。実際には宗教団体や思想も取り締まりの対象となり、予防的措置の拡大解釈、解釈自体の曖昧さが指摘されている悪法。1945年廃止。

(*3)  日本のトキは2003年に最後の一羽、キンが死亡し絶えている。現在佐渡トキ保護センターで飼育繁殖、放鳥されているトキは中国から贈られたもの。(正確に言えば「借りたもの」で、協定によって増えた分を少しづつ返還している)しかし日本固有のトキと中国のトキは学名(Nipponia nippon)は同じながら、遺伝子型が多少異なるという研究もある。遺伝子型が異なれば別種ということになるだろう。日本固有のトキは「キン」をはじめ10羽以上の遺伝子が茨城県つくば市の国立環境研究所で冷凍保存されており、復活の日を待っている。

*(画像)佐渡トキ保護センターエントランスに展示されている最後のトキ「キン」の剥製


(*4) Verbena bonariensis L. クマツヅラ科クマツヅラ属(APGV)。南アメリカ原産で日本全国に帰化している点、オオカナダモに同じ。空地、道端、場所を選ばず自生し、地下部を残して刈り取っても復活してくるしぶとさも同じ。もともと園芸植物として輸入されただけあって紫色の花はなかなか綺麗だが、花の美しさよりも茎葉が大きく場所によって邪魔になる印象の方が強い。花の密度がさほどではなく、同じような草姿のアレチハナガサという近縁種も帰化している。

(*5) 環境省外来生物法の解説によると「外来種の中で、地域の自然環境に大きな影響を与え、生物多様性を脅かすおそれのあるもの」を侵略的外来種としている。日本生態学会が定めた「日本の侵略的外来種ワースト100」には本種オオカナダモも入っている。水生植物関連では他にオオフサモ、キショウブ、コカナダモ、ボタンウキクサ、ホテイアオイなどがリストアップされている。

(*6) ヒレタゴボウの侵略性は、純群落を形成して他種を圧倒することで、畔や休耕田は場所によって本種だけになってしまう。またロタラに付いては本コンテンツ「アメリカキカシグサ」に詳述したように、アメリカキカシグサが発生数も多いが同属他種を駆逐するような動きもあり、まだ要注意外来生物にも指定されていないが危険性は高いと考えている。
 私見ではあるが、これまでの事例から「熱帯地方産なので日本の冬は越えられない」「適正な管理を行えば逸出しない」は机上の空論であることがはっきりしている。同属他種を禁止抑制することは「予防的措置」ではなく「確度高く予見される危険に対する防御」であって似て非なるものだと考えている。



Photo :  Nikon E5000 PENTAX OptioW90 RICOH CX5 Canon EOS KissX3 with SIGMA 17-70mm

Invader Egeria densa Planch.
日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
inserted by FC2 system