日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
ミズヒマワリ
(C)半夏堂
Invader Gymnocoronis spilanthoides DC.

キク科ミズヒマワリ属ミズヒマワリ 学名 Gymnocoronis spilanthoides DC.
外来生物法 特定外来生物 茨城県取手市 2011年8月
新利根川

 2010年7月に、茨城県南部で配布されるミニコミ紙に「利根町・河内町の新利根川(*1)流域に特定外来生物のミズヒマワリが繁茂し問題となっている」という記事が掲載された。当時高等遊民で相当暇だった私は、運動不足解消を兼ねて自転車で見物に行ってみた。
 新利根川はその雄大な名前とは裏腹に、その気になれば源流から河口まで自転車で走れるほどの小河川だが、記事で紹介された「利根町」もさほど広い町ではない。しかし初めて真面目に見た新利根川は両岸にブッシュが続き視界が悪く、ミズヒマワリどころか川面も確認できない場所が大半だった。ミズヒマワリが確認できたのは利根町(茨城県北相馬郡(*2))から河内町(*3)に入るあたりで、密度濃く蔓延っていた。

 ミズヒマワリはご存じの通りアクアリウム由来の逸出植物である。不思議なのは、利根町と河内町の人口を足しても2万6〜7千、アクアリウム趣味者の比率(*4)はよく分からないが、せいぜい数人?よくも逸出したな〜というのが正直な感想だ。しかもご丁寧に同所的にオオフサモも蔓延っている。よく言われることだが、逸出帰化は一人の不心得者がいれば十分起きうることなので可能性は0ではないが、流域の、のどかな農村地帯の光景に比し甚だ違和感を覚える。アクアリウム趣味者人口比を考えれば周辺にもっとこれらの植物が帰化定着している河川湖沼があってもよいはずだが、あまり見られない。家の周辺の水場、利根川、小貝川、手賀沼、牛久沼あたりでは見かけず、植栽された公園を除けば唯一ミズヒマワリを見られるのが新利根川なのである。



 新利根川は霞ヶ浦に注ぐ河川で、ミズヒマワリの分化全能性を考えれば新利根川の被害は霞ヶ浦に及ぶことは火を見るより明らかだが、問題は河口付近に霞ヶ浦有数(というか唯一)の大規模湖岸湿地であり、植生の多様性が残存した浮島湿原(*5)が存在することである。
 結論を書けば、すでにミズヒマワリは浮島湿原に入り込んでおり、版図を拡大しつつある。ミズヒマワリが生態系に及ぼす影響は正直なところ、よく分からない。環境省の外来生物法の解説には相変わらず、よく言えば修辞的、悪く言えば玉虫色の文言が並んでいて意味不明状態となっている。国内の「生態系に関わる被害」は2点記述がある。(以下引用、下線部筆者加筆)

■愛知県豊橋市における4年間の調査結果から、地域の自然性を脅かす危険性と駆除の必要性が指摘されている
■江戸川河川敷柴又排水樋管内で、東京都葛飾区が除去作業を実施した

 読んですぐ分かるように、これは「生態系に関わる被害」ではない。それぞれ「指摘されている」「除去作業を実施」の事実である。厳しく言えば事実の羅列、さらに江戸川河川敷柴又排水樋管内で除去を行ったのは水流を確保するためで「生態系に関わる被害」のためではないと思われる。知りたいのは、ミズヒマワリの帰化定着によってどのような生物が被害を受け、具体的に何が衰退し、あるいは絶えたのか、ということ。もちろん外来生物の繁茂は望ましいことではないが、こうした情報なしに霞ヶ浦浮島湿原に対する影響は測れない。


(P)新利根川流域に繁茂するミズヒマワリ 茨城県北相馬郡利根町 2010年7月


霞ヶ浦

(P)霞ヶ浦浮島湿原 茨城県稲敷市 2010年10月

 上記のようにすでにミズヒマワリは霞ヶ浦に入り込んでいる。しかし霞ヶ浦に付いて言えば「今更それが・・」というところだ。現在確認されている霞ヶ浦の外来植物はミズヒマワリ以外に25種類以上あり、1種や2種の増減は誤差のようなもの。(かなり乱暴な表現なので、誤解を避けるために注釈を参照(*6)してください)
 さらに魚類、軟体動物含めて考えれば霞ヶ浦はもはや「カオスの湖」。同じ仕掛けでアフリカ産、南米産、中国産の魚が釣れる、という天然の釣り堀状態である。釣り人的には楽しが、生態系的には「乱れる」という事態を超越している。そこに今更植物が1種類入り込んでも、という意味である。変な話、「毒は毒をもって制する」的な動きもあって、猛威を振るったブラックバスはブルーギルの増殖によって卵を食われ、減少に転じているらしい。
 ブラックバスはもちろん、近年話題となったチュウゴクオオタナゴなど、釣り味を楽しむために密放流された疑いが濃厚であり、今後も同様の事例が予想される。しかし外来種同士の競合関係もあり、栄枯盛衰定かならぬ現状が「カオス」で、別の言い方をすれば複雑系、これほど縺れた状況では防除に有効な手立てを見いだせないのも現状。

 現状、霞ヶ浦の外来種駆除は内水面漁業(*7)の邪魔になるものが中心となっており、具体的に言えば漁港に繁茂したオオカナダモやボタンウキクサ、そして在来種ではあるがトチカガミの除去などを見たことがある。これらは生態系云々よりも漁港に出入りする漁船のスクリューに巻きつくなど物理的な害が大きいという理由によるもので(それも被害実態と言えばそうだが)、沿岸の美浦村(*8)では水路に繁茂した絶滅危惧種(といってもNTだが)のリュウノヒゲモの除去も行われたことがある。
 要するにミズヒマワリが沿岸部に繁茂したとしても漁業に影響を及ぼさない限り除去される可能性は低く、浮島湿原においても状況は変わらない。また浮島湿原自体、多様性の湿地と称されることが多いが(本項でもそう表現しているが)、自分で確認した植物種の範疇(*9)に於いては必ずしもそう言えないのではないか、と思う。もちろん湿地における希少植物の多寡と外来種の問題は別の話だが、事実関係を明確にしないと「防除」の大義名分もない。特定外来生物だから防除する、これは法律上の「事実」だが、現地の「事実」は異なるのだ。


(P)霞ヶ浦の新利根川河口付近。橋は稲敷大橋

浮島湿原に入り込んだオオフサモとミズヒマワリの混成群落
2010年10月
湿原内部にも入り込んでいる 2010年10月

一般認識の「壁」

(P)茨城県取手市某水辺公園 2011年8月

 上の画像は地元自治体(市)が管轄する「水辺公園」である。水際の複数地点にミズヒマワリが群落を形成しているが、防除された形跡はなく、また防除自体の発想がないように見える。なぜなら公園の他の地点ではオオフサモ(特定外来生物)が蔓延り、オランダガラシ(要注意外来生物)が版図を広げている。これらの植物を、防除すべき外来生物ではなく、水辺の緑、と考えているフシがあるからだ。何度か市の名称が入った軽トラが除草に入っているのを見かけたが、これらの「水辺植物」には手を付けず、公園周辺や広場の雑草のみ刈り取っている。
 一般に市役所の職員、作業を受託した業者であれば尚更だが、この手の植物(特定外来生物、要注意外来生物)に関する基本的な知識認識が薄いのではないかと思う。この水辺公園に関して言えば、周囲は水田地帯であり水場は豊富だが、上記外来生物の自生は見られない。推測ながら公園造成時に持ち込まれた可能性が強いと思う。
 これらの植物はそれぞれ特定外来生物や要注意外来生物に指定される程なので繁殖力は強い。すなわち手をかけずに水辺の緑を維持できるという側面がある。この公園にある他の水辺植物もミソハギ、ガマ、スイレン(園芸種)、ハナショウブ(園芸種)などで、放置しても緑が維持できる種類ばかりだ。断定は避けるが、公園の立ち上げにあたって、植物が育っていない荒野のような公園(*10)よりも(定着が難しい水辺植物を植栽すればそうなる危険性は高い)、短期間に緑豊かな公園に仕上げることを優先したのかも知れない。

 さて、なぜ自治体に認識が薄いと思うのか。実は理由があって、以前市内の河川にホテイアオイが大繁茂し、見かねて市のWebサイト経由で除去要請を出したことがある。やりとりが面倒なので「返信不要」「報告不要」で依頼したが、しばらくすると綺麗に除去されていたのである。つまり認識があれば動く。市民の声であれば尚更だ。逆説的だが動かないのは認識が薄いためではないか、と考えたのである。
 ではまた善意の第三者としてWebサイトに意見を投稿するか?実は別な思いがあって保留としている。別な思いとは、上記したようにこの公園から外来生物を除けば極めて貧相な植物種となってしまうという事実。ガマ、ミソハギ、スイレン、ハナショウブ程度ならどこにでもあって、休耕田に植栽されている場所も多いのだ。「水辺公園」を名乗る必要性もなくなってしまう。
 もちろん外来生物、特に特定外来生物や要注意外来生物の定着は望ましくない。逸出の危険性があるので出来れば除去した方が良い。しかし周囲は水田地帯といっても基盤整備された乾田地帯。水が入る期間は極めて限られ、逸出帰化の危険性は極めて低い。優先順位は自治体の認識にあると思うが如何だろうか。

 
脚注

(*1) 北相馬郡利根町を源流とし、稲敷市で霞ヶ浦に注ぐ全長約33kmの一級河川。元々は人工的に開削された河川で、江戸時代の印旛沼・手賀沼干拓工事に付随し、利根川の水位を低下させるために利根川と並行してバイバスとして使われた。現在では農業用水路としての性格が強く、一帯の灌漑用として使用されている。

(*2) 茨城県南部、旧分国下総から続く郡。現在町村合併が進み、利根町は北相馬郡唯一の町となっている。人口約16,600人、水田地帯であり観光資源に乏しいが、町役場入口には「柳田國男第二の故郷」とあり、記念館もある。しかし実際に居住したのは5年ほどで、「第二の故郷」は誇大広告?彼が住んでいた利根町布川(当時は布川村)では後年、有名な冤罪事件となった布川事件が起きている。

(*3) 茨城県南部、利根町に隣接する稲敷郡の町。利根町から見ると新利根川下流方向にある。人口約9,600人。利根町同様に純農村地帯で観光資源はない。

(*4) アクアリウム趣味者の人口比はよく分からないが、最近の相次ぐ雑誌の廃刊、ショップの閉店ペースを見るに著しく減少している傾向が垣間見える。ブーム最盛期にはホームセンターにも売り場がある程だったが、今や昔日の面影はない。趣味の栄枯盛衰は世の常ながら、熱帯魚に関しては東日本大震災とその後の電力供給不足が大きく影響していると思われる。自分は震災の前に諸般の事情でアクアリウムから足を洗ったが、続けていたらリビングの水害のみならず最悪火災まで行ってしまったかも知れず、再開は心理的にもしたくない。同じように考えた方も多数いるだろう。

(*5) 霞ヶ浦南部、稲敷市妙岐の鼻(半島部)浮島地区に広がる湿地帯。広さ約50ha(東京ドーム10個分)。霞ヶ浦が汽水湖であった時代の植生が残存し、塩湿地性のカモノハシ、ハマヒルガオ、ハマエンドウなどが見られる。環境省指定の特定植物群落となっている。自分の調査では植生がそれほど豊かとは思えなかったが(注釈*9参照)、野鳥の種類は豊富で何か所かのバードウォッチング設備がある。

(*6) 現在確認している霞ヶ浦(沿岸部湿地、水田水路を含む)の外来植物は27種以上、特定外来生物も本種ミズヒマワリ以外にアゾラ・クリスタータ(アメリカオオアカウキクサ)、オオフサモ、オオカワヂシャ、ナガエツルノゲイトウが揃っており、要注意外来生物も同様。特に魚類は釣り味のための密放流が後を絶たず、霞ヶ浦の場合は外来植物一種一種に付いてどうするか、という問題よりも、どのような形であれ利用する人間のモラルを正すことが先決だと思う。その意味で外来種一種の動向に一喜一憂すべきではないという個人的意見。

(*7) 海以外の淡水、河川湖沼などに於ける漁業。便宜的に使ったが、霞ヶ浦の漁業は(琵琶湖も同様)漁業法上、海面漁業と扱いは同じである。逆に海と連続した浜名湖、宍道湖の漁業は内水面漁業の扱いである。霞ヶ浦は有名な帆船によるワカサギ漁、シラウオ漁、また一時期鯉ヘルペスによって壊滅的打撃を受けた鯉の養殖などが主流。面白い所では漁獲された外来魚、ハクレン、ブラックバス、ブルーギル、アメリカナマズなどを使った魚粉が作られている。

(*8) 茨城県に残った2つの村の一つ。もう一つは東海村だが、それぞれ原子力と中央競馬のトレーニングセンター(トレセン)で有名になってしまったためか、合併や町制への移行は検討されていない様子。霞ヶ浦西岸、茨城県稲敷郡に属し人口約18,000人。トレセンの他、日本テキサスインスツルメンツ、ホギメディカルなどの工場や美浦中央病院があり雇用や財政、医療は安定している。基本は稲作を中心とした農業地帯。

(*9) 前出塩湿地性のカモノハシ、ハマヒルガオ、ハマエンドウ以外には圧倒的にガマとアシが広がる。一部にタコノアシ、スズメウリ、シロバナサクラタデなどが自生するが、基本的にアシ原である。注釈*5の通り「多様性の湿地」と称されるのは植物種よりも野鳥種が多いため。身を隠すブッシュ多数、三脚を立てるスペースもあり、鳥撮りには理想的。

(*10) 隣接する某自治体の水辺公園では希少種のタコノアシやミズトラノオを植栽したが短期間に消滅してしまい、植物種を示す看板のみが墓標のように立っている。そのエリアに進出したサンカクイやコゴメイをタコノアシやミズトラノオだと思う人もいるぐらいなので始末が悪い。この光景は物理的な意味よりも「啓蒙の荒野」と評すべきかも知れない。



Photo :  RICOH CX4 Canon EOS30D/EOS KissX3/EF-S60mmF2.8MACRO PowerShotS95 SIGMA 17-70mm

Invader Egeria densa Planch.
日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
inserted by FC2 system