日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
キシュウスズメノヒエ
(C)半夏堂
Invader Paspalum distichum Linn.

イネ科スズメノヒエ属 キシュウスズメノヒエ(別名 カリマタスズメノヒエ) 学名 Paspalum distichum Linn.
被子植物APGW分類:同分類
  国内 生態系被害防止外来種(その他の総合対策外来種)

川岸に定着したキシュウスズメノヒエ 2014年7月 千葉県我孫子市(fig1)

【キシュウスズメノヒエ】
*今やどこにでも見られるようになった侵入経路不明の帰化植物。水田の畦や河畔、湖沼の岸など広範な湿地地形で見ることができる。他の雑草と混じり合って自生するが、見た限りでは特に悪さをするようには感じられない。(穂を触るとベタ付いて多少不快なぐらいか)地元周辺ではこの程度であるが、地方によっては水上に伸長し、水面を覆う場合もあるという。水路の水流を悪くしたり、水質を悪化させることは十分に考えられるので生態系被害防止外来種の指定は妥当な所。
 帰化植物でありながら日本国内の地名(紀州)を名乗るのは発見された場所に由来する。似たような帰化植物のチクゴスズメノヒエ(キシュウスズメノヒエの4倍体)も同様。ありがちな「アメリカ某」とか「ブラジル何とか」と名乗らないのはどこから来たのか分からないという事情によるものか。

名は体を表さず
■侵入ルート

 近年帰化して局所的に猛威を奮っている外来植物、ナガエツルノゲイトウやアメリカキカシグサなどは帰化定着ルートがはっきりしない注1)。様々な可能性の取捨選択と、北関東というごく限られた地域での侵攻ルートを勘案すると、おぼろげに予測らしきものが成立する。それは輸入コンテナ、特に農産物に紛れてやって来たのではないか、というものだ。もちろん確証もなければ立証する手段もない、単なる「推測」である。

 本種、キシュウスズメノヒエ(別名カリマタスズメノヒエ)は鑑賞目的や農業作物などで育成されるようなモノではなく、人為的に持ち込まれたものではないことは明確だろう。一部の解説には「飼料作物として試作後、非意図的移入」とあるが、調べてみた限り根拠となる出所がない。そもそもキシュウスズメノヒエ程度の貧弱な草体を飼料にしようとするだろうか?在来のスズメノヒエの方が余程食べ応えがありそうなものだ。


(P)手賀川沿いに群落を形成したキシュウスズメノヒエ 2014年7月 千葉県我孫子市(fig2)


■ディフェンス

 どちらにしても確証があるわけではなく、実際に見た人間が居るわけでもないので真相は「藪の中」である。実は帰化種に関してはこういうパターンが一番厄介で、侵入ルートの特定ができない以上、今後も増えるであろう帰化植物の水際防除ができないということになる。侵入し、定着してはじめて気が付くという状況では防除は完全に後手に回る。また、いつ何時どのようなモノが入り込むか分からない、ということにもなるし現実もそうなっている。
 かの悪名高いスパルティナ・アルテルニフロラ(Spartina alterniflora)はアシに似た外見で「何気なく」侵入した形跡があるが、干潟や湿地をすべて陸地化してしまうという恐るべき影響力を持つ。このクラスの破壊力を持つ新たな外来種は新たな脅威だが、水際防御が不可能な事態であるということは無防備状態に等しい。

 完全な水際防御は理論的には可能である。しかし防御するにしても日本の食料自給率を考えれば、日々海外の様々な国から輸入される食料品のコンテナすべてを「微小な植物の種子が混入していないか、付着していないか」と調べることは現実的には無理である。そんな事を始めた日にゃ物流は完全にパンクするしサプライチェーンが破綻する。あの凶暴な、人間に直接被害が及ぶヒアリでさえ完全にチェックすることが難しいのに。

■言った者勝ち

 キシュウスズメノヒエは1924年に和歌山県で見出されているが、上記のようにどのような経緯で入り込んだのか分かっていない。今になって解明しようとしても当時からすでに90年以上経過しており尚更解明しようがない。もちろん文献やデータが残っているような事案でもない。原産地はアジア、アメリカの熱帯地方とされているが、1924年と言えば戦前、歴史上高名で教科書にも載っている「米騒動注2)」の翌年である。すでに歴史の一部であって、真相を求めるのは「本能寺の変の黒幕は誰か」と議論するのと大同小異である。

 話が戻るが、今現在(2017年)版図を広げつつあるアメリカキカシグサも事情はまったく同様、つまり侵入経路がはっきりしない。一時期アクアリウム逸出説もあったが、確証がないままウヤムヤになりかけている。奇しくも高城邦之氏注3)が、本件(アメリカキカシグサの侵入経路)に付いてアクアライフという雑誌の別冊「アクアプランツNo.03でアメリカキカシグサを「アクアリウム逸出ではない」と述べたように「言った者勝ち」の状況であることは否めない。高城邦之氏の説を肯定または否定しているわけではないが、自分の現場の調査から考えて、個人的にはこの発言は明確な根拠に乏しいのではないか、と考えている。(本Webサイト記事Invaderアメリカキカシグサを参照)

 真の意味でもっと「言った者勝ち」なのはナガエツルノゲイトウだ。環境省の見解では「アクアリウム等観賞用に意図的に導入後、野外逸出したと考えられる」とある。私が知る限りこんな水草が流通・育成されていた記憶がないが(白状すると相当重度の「水草マニア」だったので、水草に付いてはある程度信用して頂いて結構)何を根拠としてこんな事を言っているのだろうか。確証がないことは語尾に「考えられる」とあることで日本語の文脈として理解できる。しかし確証がないのにある意味「推定有罪」のような表現は国として如何なものか。「考えられる」のなら誰が何を根拠に考えたのか付記しろ、って話。これぞまさに「言った者勝ち」と指摘されて然るべきである。
 エビデンスが無い以上、この状況はある意味仕方がない。しかし仕方がないで終わらないのが帰化種の繁茂。今やアメリカキカシグサもキシュウスズメノヒエも水田風景の一部となってしまっている。原因を追究し解明しても状況は変わらないが今後の防除の参考データとしての意味はある。次々と凶悪な外来種が入り込む現代、次にどんなモノが入ってくるのか誰も分からず、その被害も想定できない。しかし一つの入口でも塞ぐことが出来れば多少の抑止効果はあるはず。

 キシュウスズメノヒエは、国立環境研究所の侵入生物データベースによれば、染色体数は2n=20,30,40,48,60とあり、多様な遺伝子を取り込んだ個体群によって様々な「強さ」を持っていそうな印象がある。事実、同データベースでも「水位変動に対する適応性、耐塩性を持つ」とある。水没しても平気、海浜湿地のように他の水生植物(淡水)が入っていけない場所でもOK、強力な耐環境性能を持つのである。これだけ考えても地味な外見とは裏腹に相当厄介な性質が垣間見える。しかし本当に強力な能力は別にある。

まさにインベーダー
■増殖

 当Webサイト、水生植物図譜の本種解説欄にも書いているが、キシュウスズメノヒエは草刈りして積んでおいても結実してしまう。綺麗に除草したつもりでも翌年には当然のような顔で復活する。事情を知らなければ化け物並みにしぶとく強力な雑草か、超強力な伝播力を持つ植物だと思うだろう。どこで読んだのか忘れたが、昔々、ヨーロッパでは小麦を保管している倉庫を密閉してもネズミが発生するために、ネズミは小麦から生まれるという説が信じられていたという。もちろんどこか穴を掘って侵入したはずだが、事情を知らなければマジックとしか考えられない、という話だ。
 割り引いて考えても刈り取られても結実する、という事実は十分にマジックである。身近な例でも、切っても抜いてもいつの間にか地を覆うツルニチニチソウ(キョウチクトウ科、Vinca major)という植物が自宅の庭にあるが、園芸植物扱いするのが恐ろしいほどの繁殖力で、これもマジックだ。もちろん「種」はあって個人的には植物界最大のマジックだと考えている分化全能性である。


(P)水田地帯のキシュウスズメノヒエ 2005年8月 茨城県取手市


 キシュウスズメノヒエは、一説には草体の水分含有率が10%以下まで低下しないと完全に枯死しないと言われており、ありがちな水田地帯の風景、草刈り機でジャッジャッとやれば除草終了、というわけにはいかない。そしてその事実は作業主体である農業生産者にもあまり知られていない。ちなみに植物の水分含有率が10%以下というのはほぼ植物標本並みの乾燥具合である。自然状態では有り得ないし、一般に本種が成長、結実する夏〜秋には日本では湿度が高い。刈り取って天日乾燥だけではこうならない。どちらにしても一筋縄では防除できないのである。水に強く、乾燥にも強い。しかも刈り取られても結実する、ある意味最強の植物である。そして実は別な意味で除草剤にも強い。(以下)

■完全防除の困難さ

 こいつを完全に防除するには株ごとに手作業で根から抜き取り灯油でもかけて燃やしてしまうしかない。しかし除草にそんな手間や費用がかけられない以上、根絶は事実上不可能ということになる。なにしろキシュウスズメノヒエは、水田内という収量に直接影響する場所ではなく注4)、畦や水田周辺に多く発生する。ある意味どうでも良い場所に多いのだ。さらに河川敷や土手などでは除草さえも望めない。
 経済にあまり関係がないとなれば当然、除草のプライオリティも低くなろうと言うもの。水田や畑に生えなければ移動の際に多少邪魔になる程度だ。もっとも翌年さらに大きなダメージとなって返ってくるが、そこまで考えて除草する人間もあまりいない。本Webサイトでも何度かご紹介しているが、水田内のノビエ類注5)やクサネムなどの除草もままならない水田も増えている。就労人口の高齢化か兼業比率の上昇か、はたまた補助金などの不労所得故か、それらの複合要因であるとは思うが、見かけ上は「やる気」が感じられない水田が増えている。水田本体がこの有様であり、周辺までは手が回らない状況が増えて来ていることは間違いない。

 キシュウスズメノヒエを有効に防除するにはどうしたら良いのか。隣県の千葉県はこうした点でもWebサイトが充実し(つまり真面目に知見を積み上げているということ)、農業県でありながらこの手のデータが少ない茨城県の住民としてはうらやましい限りだが、農林水産業のコンテンツには雑草毎の防除方法が記載されており、キシュウスズメノヒエ(含む他イネ科雑草)に付いても丁寧な解説が成されていた。(以下引用)

【上記リンクサイト(千葉県ホームページ)より引用】

水稲生育期間中の水稲用除草剤では効果が期待できません。
春先、水田に侵入し始めた雑草は、節からの萌芽や発根の初期で生育が進んでいなければ、代かきをして土中へ完全に埋没することで発生を抑えられます。しかし、生育が進み株化すると代かきで埋没しても再生力が大きく抑草効果が低いため、代かき時には残さず埋没させることが大切です。
キシュウスズメノヒエには、代かき後の再生茎3〜6葉期までにクリンチャーEWを散布すれば防除できます。ただし、キシュウスズメノヒエ以外に効果はないので正確な草種の判断が必要です。
畦畔で繁茂し水田にほふく茎を伸ばすようであれば、浸透移行性が高いラウンドアップマックスロード200〜500ml/10aやバスタ液剤500〜1000ml/10aを散布します。


 なんだ、防除できるではないか、という感想は木を見て森を見ず、である。ある農薬情報販売サイトを見ると、クリンチャーEWは100mlで税込2,100円、ラウンドアップマックスロードは500mlで同1,850円、バスタ液剤は1000mlで同3,500円である。農地周辺の除草に要する費用としてはかなり高額である。農地の面積にもよるが、もちろん複数必要になるので水田から上がる収益が実質マイナスの情勢下では経済的にかなりキツい。というか現実的な費用ではない。自分の立場で考えてみても、たとえ5000円の収益が上がる土地を持っていたとしてもこれだけの余計なコストはかけられないだろう。
 書くのは簡単だが「3〜6葉期までに(中略)正確な草種の判断が必要」なのも厳しい。意外に知られていない事実だと思うが、業として関わっている農家の方は意外に雑草種をご存じない。必要な情報は除草すべきかどうか、という所で止まっているようだ。あくまで自分の経験上の話なので一般化はできないかも知れないが、この判別は非現実的ではないか、と思う。開花していても判別が困難な種があるイネ科雑草を発芽直後に判定できる方はそう多くはないはず。もちろん私にも不可能である。
 変な話、この流れがキシュウスズメノヒエが除草剤に強い理由である。メーカーが効果をテストした除草剤であるので散布すれば枯死するはず。しかしその散布の費用と適切な時期、対象となる植物種の判別など、主に人間側の都合が除草剤を使い難くしている。使われない除草剤は雑草側にとって脅威でも何でもなく、この意味で「除草剤に強い」のだ。アホのような話だが本当の話。

 さらに懸念されるのは、遺伝子組み換え作物の栽培によって、都合の良い受粉注6)により、これらのイネ科雑草が除草剤耐性を身に付ける、あるいは身に付けた雑草が侵入する事態。スーパー雑草注7)化してしまうと手も足も出ない、さらなるモンスター雑草になってしまう。恐ろしい近未来だが、すでにオモダカなどで現実になっている。キシュウスズメノヒエは前記のように様々な遺伝タイプがあり、この能力を身に付ける、あるいはすでに身に付けている可能性も十分にある。こうなってしまうと文字通り「除草剤が効かない」雑草となる。こうなってしまった場合、キシュウスズメノヒエが持つ他の耐環境能力を勘案すればスーパー雑草より強力な、ウルトラ雑草、モンスター雑草というカテゴリーが出現するかも知れない。

似た者
■仲間

 冒頭「名は体を表さず」のチャプターで、キシュウスズメノヒエの侵入ルートに付いて「飼料作物として試作後、非意図的移入」説をご紹介し、否定的見解を付させて頂いたが、一応否定の根拠はあって、それはアメリカスズメノヒエ(Paspalum notatum Fluegge)の存在である。この種はキシュウスズメノヒエ同様にV字状の2個の花軸を持つ。そして牧草として利用された事実があり、逸出帰化も確認されている。

 このアメリカスズメノヒエはキシュウスズメノヒエに比べて乾地性が強いが、印象がわりと似通っているために来歴が混同されたのではないか、と思う。くどいようだがキシュウの方は湿地性が強く、そんな限られた地形(湿地)で牧草として育成するようなシロモノではないように思う。変な話だが、本当に用途があるのであれば防除に苦労する程の強力な植物なのでさぞかし効率的な生産ができるだろう。もちろんこれは事実ではないと思う。


(P)畦を中心に群生する 2005年8月 茨城県取手市


 これも冒頭チャプターに書いたが、様々な染色体のパターンを持つキシュウスズメノヒエのうち、4倍体(2n=40)のものはチクゴスズメノヒエ(var.indutum)と呼ばれる。学名が示す通り変種だが、無毛のキシュウスズメノヒエに対し、チクゴスズメノヒエの茎は有毛であるとされている。チクゴスズメノヒエはともかく、同じキシュウスズメノヒエのなかに様々な遺伝のバリエーションがあるということは、ちょっとやそっとの環境変化にはびくともしない、ということで入り込んだ以上、追い出すのは事実上困難という事情を裏付けている。

■和名

 明らかな外来種でありながら「キシュウ=紀州」を名乗るのも違和感があるが、その変種に「チクゴ=筑後」を名乗らせるのも凄い。これではまるで両種とも地域性の強い在来植物と事実誤認されかねない。やってみる価値も出てくる結果にも意味はないと思うが、無作為アンケートでこの両種に付いて聞いてみたら、世間一般かなりの比率で和歌山と九州の植物という回答が出るのではないか。こうした誤解の可能性を鑑みれば和名付与にも一定のルールが必要ではないだろうか。

 例えばクレソン、オランダガラシ(どちらも同じ植物だが)、アメリカキカシグサと言えば何となく外来の植物であることが分かる。(その植物の原産国は正確に表現していない、念のため)しかしナガエツルノゲイトウ、オオフサモと言った場合、世間一般の認識はどうだろうか。特定外来生物や我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種注8)は広く周知を徹底することが国の責務である。和名付与の守備範囲が違うからと言って放置で良いのだろうか。このジャンルにおいて一般の認知レベルはそれほど高くない事を理解しているのだろうか。上から目線で申し訳ないが、日頃からとても気になっていることを述べさせて頂いた。

 ついでに。キシュウスズメノヒエの(記録上の)定着は1924年とされている。外来生物法の選定種予備会合で、江戸期以前の帰化種は検討対象から除外するという了解があったとされている。しかしキシュウスズメノヒエは明治以降(1867年)から起算すると、わずか57年後の帰化年代である。こんな古株をいまさら総合対策外来種注9)に指定して何をどうしようと言うのだろうか。技術的、経済環境的にどうしようもない事は前述の通りであるし、実態もかくの如し。特定外来生物はともかく、意思の見えない選定は単なるリスト化、お役所仕事の誹りを免れないと思う。この部分、非常に腹立たしく、蛇足ながら次項にてやや掘り下げたい。

その他総合対策
■具体性

 本種は生態系被害防止外来種(その他の総合対策外来種)に指定されている。どのような外来生物が指定されているのか、動物と植物に分かれたリストが環境省のWebサイトに公開されておりダウンロードできるが、そのカテゴリーには謎が多い。謎と言うよりも意味がまったく不明である。
 キシュウスズメノヒエは「総合的に対策が必要な外来種」という大カテゴリーに含まれ、小カテゴリーは「その他の総合対策外来種」である。なるほど、と納得してしまうのは考えが至らな過ぎる。この指定には元々5W1Hが含まれていないのである。Whatは「指定された外来生物」であるので、正確には4W1Hか。さらにカテゴリーの文言は「総合的に対策」、小カテゴリーは「その他の」である。一体全体誰がどうしたいのか、という核となる話は一切含まれていない。こんなモノを公開する価値があるのだろうか。もちろんリストに含まれていても特定外来生物以外は法的な縛りもない。

■仕事の中身

 このリストには別ページに「抽出根拠」が附属しており、ざっと見てみると文献、Webサイト、調査報告書などが並び、最後に言い訳のように「検討委員からの情報提供」とある。つまり要約すると「自分達では調査せずに、有りもののデータからまとめました」「一応、検討した委員からも聞いてみました」なのである。この程度のモノが国が発信するデータとしてまかり通ってしまう。こんなんで税金を払っている我々は納得すべきなのだろうか。それは違うと思う。
 省庁は異なるが、こんな話を聞いたことがある。結論が出ない事が分かっているテーマでも「有識者」を集めて会議体注10)を形成する。その会議数が仕事の評価になるという。有識者を集めれば費用はかかるし資料の作成やコピーなど経費もかかる。それが「結論が出ない事が分かっている」のに開かれてしまう。民間企業では100%有り得ない話だ。これに類する事をやって出てきたリストに何の意味や価値があると言うのだろうか。

 外来種は本来存在してはならないし、実害があれば注意喚起する、そんな事は分かっている。問題はそれらリストアップされた外来種の被害実態が明記され、防除の方針として誰が何時までにどうするか、という点だ。それは上述したように環境省のみならず農業生産者の管轄である農林水産、輸入品の時点で水際対策を行なおうとすれば経産省も絡むだろう。省庁横断的な問題解決が難しいことは理解できる。しかし難しいからとりあえず並べただけ、では仕事は完結しない。上記千葉県のように防除方法を具体化するのも一つの手であるが、結局防除にかかる費用は生産者持ち。情報提供で終わっているが、その情報の精度が高いので許容範囲だ。しかし国としてはそこまで考えた上での「政策」なのではないか。キシュウスズメノヒエとは離れてしまったが、あらためて曖昧な文言のカテゴリーに分類された外来種がリストに並んだだけの状態を見て強くそう思った。あらためて聞きたい。総合的な対策とは、いつ誰がどのように行うのか。

脚注

(*1) 国立環境研究所、侵入生物データベースによればナガエツルノゲイトウは「アクアリウム等観賞用に意図的に導入後、野外逸出したと考えられる」とあって、断定はしていないながら趣味世界の責任を示唆している。たしかにアクアリウム・プランツにはアルテナンテラ(Alternanthera、ツルノゲイトウ属)何とか、という水草が多種類存在するが、相当なマニアであった私もナガエツルノゲイトウのような形質を持つ「水草」は知らない。結局は「帰化定着ルートがはっきりしない」ということを別な表現で言っているだけのように思える。アクアリウムが「犯人」であると示唆するのであれば証拠が必要、原則は疑わしきは罰せず。

(*2) 1918年に米価の高騰によって各地で発生した騒擾事件。日本史の教科書にも載っている歴史的事件だが、平成に入っても「平成の米騒動」と呼ばれる事件が1993年に起きている。個人的事情があって1993年は記憶が鮮明だが、夏はほぼ寒く(前々年のフィリピンのピナツボ山の噴火が原因の冷夏とされる)、海水浴など夏らしいイベントができなかった。このため米も大凶作で、江戸時代なら間違いなく大飢饉レベル、米価も高騰したが、さすがに現代は暴れる人も打ち壊しも餓死者もなかった(と思う)。「騒動」は過大表現だが、盗難などは発生したようだ。この年緊急輸入によるタイ米を中心とする外米が流通したが、食味のなさに愕然とした記憶もある。

(*3) 市ヶ谷フィッシュセンター(アクアリウムショップ&釣堀)勤務、雑誌ライター兼務的な業界の人。なにか書こうと思って検索してみたら私の記事が2つもヒットして驚いた。自生種の育成にも造詣が深く、初めて船橋店を訪問した際には沈水葉となったシロバナサクラタデやスズメハコベを販売していて驚いた。実際に水田や湿地で植物を採集している方なのでアメリカキカシグサの動向にも詳しいと思うが、出所不明というのが現状は正しい解で、アクアリウムが火元ではないと否定する材料はないと思われる。

(*4) 従来はキシュウスズメノヒエは水田内に侵入することはないとされていたが、石原バイオサイエンス株式会社の雑草図鑑(内容が良いのでしょっちゅう参照している)では「最近は暖地の水田に入りこんで強害草となっている」とある。従ってこの表現は自分の居住地周辺、北関東の話としてお考え頂きたい。しかし最近の気温傾向を考えると、いつの間にか全国的な状況となってしまう可能性が高いと思う。幸いなことに2020年時点で水田に入り込んだキシュウスズメノヒエは確認していない。

(*5) ノビエという植物も分類もないが、一般に野にある稗、程度の意味でイヌビエ、タイヌビエ、ケイヌビエなどを総称して使用することが多い。これはこれで味がある表現で良いと思う。良くないのは水草はじめて間もない素人衆が「ロタラ系」などとほざく事で、ではロタラとは何かと聞いても彼等から正解は出ないし、そもそもロタラは属であって系統ではない。アクアリウムの弱点はこういう素人の疑似科学で、これが業界の衰弱につながっている。それこそナガエツルノゲイトウは「アルテナンテラ系」だからアクアリウムが犯人だろう、と言われても反論できない。同じ植物を対象とする以上、趣味であっても呼称や分類は正確に行った方が誤解がなく、間違いもない。

(*6) まったく縁もゆかりもない植物の花粉を拾って都合の良い遺伝子を取り込むという荒業をする植物があるらしい。スーパー化したオモダカはこうして除草剤耐性のある遺伝子組み換え作物の遺伝子を拾ったらしい。オモダカ科の作物というものはクワイぐらいしか思い浮かばないし、クワイが遺伝子組み換えされたという話も聞かないので(そもそも収穫量を飛躍させなければならないほどクワイに需要があるとは思えない)、科属を超えてどうしてこんな真似ができるのか自分の理解範囲を超えていて分からないが、私の想像力や理解を現実が超えているということだろう。

(*7) 脚注6に関連し、除草剤が効かない、成長が早い、大型化する、収量(種子生産量)が多い、など作物を栽培する上で人間にとって都合の良い能力を拾ってパワーアップした雑草。言うまでもないが作物としてのメリットは防除しなければならない雑草が身に付けた場合、人間にとっては大きなデメリットとなる。投げたブーメランが獲物ではなく自分の後頭部に刺さるようなもんだ。これはけっして結果論ではない。この事例は遺伝子組み換え作物を作出した人間の想像力を現実が超えた、ということである。人間の想像力なんてその程度のモノ。
 水にも強く乾燥にも強い、刈り取られても結実し除草剤も効かなくなれば、キシュウスズメノヒエは「スーパー雑草」のカテゴリーを超えて、本文にあるように「ウルトラ雑草」「モンスター雑草」など新たなカテゴリーの雑草となるだろう。綿密に調べれば、他にもこの手の外来種雑草が色々出てくると思う。

(*8) 我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種(生態系被害防止外来種リスト)は旧来の「要注意外来生物」カテゴリーを網羅し、新しいカテゴリーで再分類された網羅的なリスト。初出は平成27年3月26日に環境省が発表。リストそのものは環境省のWebサイトよりCSV形式(EXCELで開けるファイル)にてダウンロードできる。本文に散々書いたように、だからどうする、という視点は決定的に欠けている。またそのリストアップの根拠に関しても従来資料のスクリーニングが主であって、意味としてはどういう外来種が入って来ているのかの一覧表程度である。
 平成27年以前の要注意外来生物も、誰がどのように「要注意」なのか、という点において大きな疑問があったが、生態系被害防止外来種も言葉を変えただけで本質的には何ら変わっていない。生態系被害防止、というからには被害を防止しなければならないはずだが、国が主体となって被害を防止するとはどこにも書いていない。責任が発生しない仕事の典型的な手口である。

(*9) 環境省が決定した「対策の方向性を示すカテゴリ」である。総合対策外来種とは、既に国内に定着しており、防除、遺棄・導入・逸出防止等の普及啓発などの総合的に対策が求められるもの、と定義されている。他に定着予防外来種:国内に未定着のもので、侵入の予防が求められるもの、産業管理外来種:産業又は公益的役割において重要であるが、利用上の留意が求められるもの、というカテゴリーが存在する。くどいようだが意味がまったく分からない。意味が通らない文言を並べて定義もないもんだがこれが現実の仕事である。個人的には外来種の前にこういう仕事をする人間を防除して欲しいと思う。その方が結果的に環境に良い影響が期待できるはず。

(*10) 携帯電話の契約上の独禁法抵触有無(○年縛り、が違法かどうか)に付いて公正取引委員会が行った「有識者会議」の模様がこれでいいのか? 公取委「携帯電話 意見交換会」の違和感−信憑性乏しい調査、「有識者」発言の疑問という記事で公開されているが、会議の着地点以前に、招集された「有識者」の識見に問題があるようだ。会議内容は笑えるが、これが税金を使って開催されている点は見逃せない。結論が出ない事が分かっている、会議メンバーが参加適正を欠く、結論ありき、どの会議も時間と費用の無駄であって行うべきではない。「これでいいのか?」、もちろんいいわけがない。


【Photo Data】

・Canon PowerShotS120 *2014.7.15(fig1,fig2) 千葉県我孫子市
・Canon EOS KissDigital + SIGMA MACRO50mmF2.8 *2005.8.7(fig3,fig4) 茨城県取手市


Invader Paspalum distichum Linn.
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