日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
ハゴロモモ
(C)半夏堂
Invader Cabomba caroliniana A. Gray.

ハゴロモモ科ハゴロモモ属ハゴロモモ 学名 Cabomba caroliniana A. Gray.
被子植物APGV分類:同分類
  国内 生態系被害防止外来種

園芸スイレン(生態系被害防止外来種)とのコラボ 2015年7月 茨城県小美玉市 ため池
シノニム

 本種は長い間、そして現在も販売され続けている「キンギョモ(*1)」の一種である。その名の通り金魚飼育時の金魚の隠れ家兼エサ的用途で用いられ、広範に継続的に販売されてきた歴史がある。
 広く長期間に出回っているということはそれだけ外に出て行く機会が多いということであり、事実様々な湖沼やため池で見ることができる。また特定外来生物ではなく駆除の責務もないために放置され、増殖するままにされているのが現状だ。

 本種は分類上(*2)ハゴロモモ科に属する。しかしこれには異説もあって、スイレン科に属するという立場、また欧米ではガボンバ科として独立させる立場が一般的なようだ。 同じ科に属するジュンサイとは見かけも乖離しているのでハゴロモモ科に押し込めるのもどうかと思うが、一応は科名植物だ。 とは言え、ジュンサイもスイレン科に含める立場もあって、ハゴロモモ科自体がテンポラリーな分類であるかのような印象も受ける。考えようによってはメンバーが全員出て行きたがっている組織のようで何となく落ち着きが悪い。

 話を戻すが、金魚ショップや水草ショップで販売されている本種の名称は金魚藻、ガボンバまたはカモンバである。もちろん金魚藻(キンギョモ)は植物分類上の名称ではなく商品名である。ガボンバまたはカモンバも学名読み(属名)であって正式な和名ではないように思われる。では正式にこの植物は和名で何と呼ぶべきか、実はよく分からない。環境省の文書には一応「ハゴロモモ」と記載されるが、生態系被害防止外来種のリストにも及び腰的表現で「ハゴロモモ(フサジュンサイ、カモンバ)」とある。
 「カモンバ」は上記の通り通称である可能性が高く、和名としてはハゴロモモ、フサジュンサイが同列で和名シノニムになっている印象を受ける。フサジュンサイはまさに「房」ジュンサイの意で、たしかに切れ目のない丸い浮葉のジュンサイが房状の葉になっている、という意味だろうが、それにしては「房」は浮葉ではなく水中にあり、花の色も形状も異なる。どこからジュンサイの名前を引っ張ってきたのか分からない。
 ちなみに「ハゴロモモ」は当時の小石川植物園の園長、松崎直枝が1929年に命名、「フサジュンサイ」は植物学者の正宗厳敬が命名(「植物研究雑誌」で発表)している。(大滝末男・石戸忠「日本水生植物図鑑 復刻版」の記述より)

 国立環境研究所の侵入生物データベースによれば(ちなみにこちらの記載和名も「ハゴロモモ」)、自然分布は北米大陸、帰化定着の経緯は「1929年に小石川植物園に導入され、1950年に東京近郊で野生化確認」とある。小石川植物園(正式名称は「東京大学大学院理学系研究科附属植物園」)は行かれたことがある方は分かると思うが、かなりクローズな環境である。ここから逸出することは考えにくいが、むしろ金魚飼育で販売開始された時期や地域を精査した方が(難しく、かつ意味がないと思うが)正解のような気がする。植物園が逸出源とされては(読みようによってそう理解される)小石川植物園も立場がないだろう。申し訳ないが侵入生物データベースはとても有用な資料だがt他種の解説記述に予断や憶測が含まれる場合があり、100%鵜呑みに出来ない。このWebサイトのような個人の怪しいサイトではなく「国立」なのだから情報源としての正確さに善処を願いたい。


(P)開花したハゴロモモ 2015年6月 東京都葛飾区

因果関係

 冒頭画像及び右画像は茨城県小美玉市の野池のものだ。ため池か自然の池か知らないが、水の出入りを行う設備が完備されている所を見るとため池だろうか。周辺は水田を中心とした農業地帯なので現在でも役割を果たしているのだろう。どちらにしてもこの池には水域としての歴史があり、以前は植物を含めた生態系ができていた。私が初めて植生を見に行ったのは高々15年ほど前なので現状と大差がなかったが、それでもイヌタヌキモやヒルムシロが残存しており、生態系の名残を十分感じさせるものだった。
 しかしこの写真を撮影した2015年には上記在来種はすでに姿を消しており、狭からぬ水面は本種ハゴロモモと園芸スイレンによって大部分が占拠されていたのである。

 さて、そこで問題です。在来種水生植物は彼等、生態系被害防止外来種によって絶えたのだろうか、それとも水質が存続に適さなくなって消えてしまったのだろうか?どちらも結果は変わらないのだが、実は外来種問題を考える際の大きな分岐点である。しかも正解は分かりっこない。どちらかが原因、あるいはどちらが主因でどちらが従因?または全く別の原因?それは消えた生物だけが知っている。

 これを踏まえた上で外来生物が生態系に被害をもたらした、と言い切れるだろうか。もちろん外来生物を擁護しているわけではなく事実を客観的に把握しなければならない、という話。それこそ侵入生物データベースのように「在来の水生植物との競合」と言うからにはそれなりの根拠が必要であるというごく普通の話だ。これがなければ水質悪化や除草剤、工場排水など化学物質の流入や、種の存続上の問題点(*3)や、すべての問題がすりかえられてしまう危険性がある。
 たしかに外来種が侵入定着し、同じ生態的地位を持つ在来種の生存空間を争えば「在来の水生植物との競合」である。しかし霞ケ浦のように主な水生植物が水質の問題であらかた絶えてしまった水域にハゴロモモやオオカナダモが入り込んだ際に(現実に侵入しているが)一つ覚えのように「在来の水生植物との競合」とは言えないのである。この場合、霞ケ浦を在来の水生植物が生育できないほど汚したのは人間で、その汚した程度が外来植物なら生きられる程度だった、というだけの話である。霞ケ浦の外来種はこれだけの種類が生息している。現実的には不可能だが、これらをすべて排除したとしても、現状では以前の豊穣な生態系は帰ってこない。これだけは断言できる。
 一方、外来生物(植物)の功罪のうち「功」を挙げれば、僅かに残存した生物達に隠れ家や繁殖場所を提供していること、水質を含む水辺環境の浄化に多少は貢献していることがあるだろう。何の事は無い、在来植物の担っていた役割を肩代わりしているのである。無くなれば汚れた水だけが残るという図式。

 ハゴロモモは幸か不幸か強い繁殖力を持っている。在来種が存続できないような水質の河川湖沼でも見ることができる。そこで僅かに残存する水生昆虫や魚類にとっては多少の助けになっているはず。生態系の議論から外来種を排除する、それは理解できるが残存する生態系との因果関係も考慮に入れないと外来種の駆除は環境破壊以外の何物でもなくなってしまう。まさに本末転倒である。そんなことは頭の良い人間が集まる環境省や国立環境研究所の方々は十分分かっているのだろうが、表に出る文書やWebサイトには現状一切出てこない。


(P)ため池に繁茂したハゴロモモ 2015年7月 茨城県小美玉市 ため池

秘めた能力


水路に大繁茂したハゴロモモ 2003年5月 茨城県稲敷市(撮影時は稲敷郡桜川村)

 ハゴロモモの染色体は2n=26,78,104、と色々なタイプがあるようだ。フィールドで見るハゴロモモは明らかな変異を持つものは見出せないが、葉の分裂形状に付いては微小な変異を見ることが出来る。成長度合や生育環境による可能性もあるので断言はできないが、染色体セット数で見る限り倍数体ではなく、もともといくつかの系統が存在するように思われる。(このあたりが文科系の限界)
 ハゴロモモ科は被子植物の中でも最も原始的なグループに属するとされる。たしかに花は輪生配列(*4)し、単子葉植物のように同花被花(*5)である。こうした特徴を見ると最古の被子植物は水生植物(*6)という説も信憑性を帯びてくる。こうして長い期間、特に形状を変化させることなく生き残り、しかも異国の地でこれだけ蔓延る強さを持っている。完成された強靭性を感じる植物だ。

 ハゴロモモは前述のように程度問題はあるにしてもかなり汚れた水域でも繁茂している。沈水植物があらかた消えてしまった霞ケ浦近辺では残存するわずかな水草の一つでもある。同地域で確認できた他の沈水植物、エビモ、ササバモ、リュウノヒゲモ、ヤナギモ、クロモなどは霞ケ浦本湖に入ることが難しく、周辺の河川や池に残存するが、非常に不安定で短期間に消長する。本湖を含めて広範に定着したハゴロモモは水質に対する抵抗性が強いということが言えるだろう。言い方を変えればどこにでも進出する水草、という性格だが、たしかに環境省や国立環境研究所の言う通り在来種と競合するだろう。これだけ水域を占拠すれば駆逐される沈水植物も出てくるはず。「はず」というのは霞ケ浦近辺では上記の状況なので確認しようがないからだ。

 幸か不幸か、私はこの植物を育成したことがない。まず金魚を飼ったことがないし、水槽でも水草中心だったので新しい、難しい水草を育てることに闘志を燃やしていたので眼中になかった。ミズヒマワリやオオフサモのように水槽で沈水化するのが意外に手こずる種は育成したことがあるが(もちろん外来生物法施行以前)、どこにでも売っている金魚のエサ程度の水草には見向きもしなかった。また当時は自分の水槽の中に全注意が行っており、野外を見て回る習慣もなかったので自宅から遠からぬ場所でこれだけ帰化定着していることも知る由もなかった。
 こうした事情もあってハゴロモモの植物的な性格はよく知らなかったが、調べてみると強い分化全能性(*7)を持つようだ。しかも本種を販売している水槽を見ると、千切れた葉のカケラが無数に浮いている。購入者が金魚の飼育環境に投入し、水を汚しやすい魚なので頻繁に換水、排水を葉のカケラと一緒に流すとすれば今日の状況は当然の帰結。この状況が無くならない限り、いくら定着したものを刈り取っても状況は変わらないように思う。
 金魚飼育は近年凋落の激しいアクアリウムと異なり、ショップの増減動向(あくまで居住地近辺の話だが)はあまり感じられず、比較的趣味として安定しているかのような印象を受ける。ここで用いられる金魚藻も顔ぶれは変わっていない。すなわち、ハゴロモモ、オオカナダモ(コカナダモ)、マツモ、フサモ(オオフサモは排除されたが、おそらく外国産のホザキノフサモ(*8)が主力と考えられる)である。このうちマツモを除けばどの種も逸出定着して問題となっている種ばかりであり、特定外来生物にでも指定されない限り状況の変化はないだろう。金魚飼育をディするものではないが、そろそろ代替を探すべき時期だと思う。

脚注

(*1) 本文にもある通り、キンギョモは特定植物ではなく、商品名として一定の植物群を総称する呼称である。一般にはハゴロモモ、オオカナダモ(コカナダモ)、マツモ、フサモなどを総称するが、異なる植物が入る場合もあり一定のものではない。見た限り、金魚ショップではオオカナダモ、コカナダモ、ハゴロモモの販売比率が高いようだ。

(*2) APGV分類でもハゴロモモ科Cabombaceaeに分類される。同科のジュンサイの花も単子葉植物の花のようなフォルム(脚注4、5を参照)なので、遺伝的な分類でも非常に近似したものなのだろう。これを踏まえた上でスイレン科に含める、ハゴロモモ科として独立させるという議論がある。

(*3) 事例をあげればニホンウナギ。国際自然保護連合(IUCN)が2014年にレッドリストに追加、環境省も第4次レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)にリストアップしている。ニホンウナギの種の存続の問題点は人間による漁獲である。農林水産省の漁獲量データ(天然ウナギ)を基にした3世代(12-45年)の減少率は72〜92%、というデータもある。環境省レッドリストでも、定量的要件A-2(過去 10年もしくは3世代の長い期間を通じて、50%以上の減少があったと推定される)に該当するため、絶滅危惧IB類(EN)という重いランクに選定したようだ。減少分はもちろん鰻丼。食生活ライフスタイルがニホンウナギの種の存続の問題点であることは明らかだ。

(*4) 花葉の配列によるタイプ分けで、対立概念は「らせん配列」というもの。原始的(進化上の)植物の花はらせん配列しているが、スイレン属植物は萼片と雌しべが輪生し、花弁と雄しべがらせん配列するという過渡期的な特徴にも思える構造となっている。ハゴロモモは本文にある通りスイレン属植物に近い。

(*5) 花被による花のタイプ分けの表現である。大別すれば花被を持つ有花被花と花被を欠く無花被花に分けられ、同花被花は有花被花の一表現である。萼と花冠が未分化な花の構造で、オニユリ、ネギ、ヒガンバナなど単子葉植物や原始的被子植物に多いとされる。

(*6) 大阪市立博物館によれば、「中国の東北部、遼寧省のジュラ紀〜白亜紀の地層から驚くべき化石が発見されました。現世の被子植物のどれにも似ていませんが、原始的な被子植物の特徴を備えている」とあり、しかもその植物は「葉は水草の沈水葉のように細かく切れ込んでいます。水生植物あるいは水辺の草である可能性が高い」とあり、最古の被子植物は水草の可能性が強いと結論付けられている。
 一般に淡水の沈水植物は、進化の過程で海から上陸し、再び水に入ったと考えられていた。こうした物証があると必ずしもそうではないのではないか、と思われる。特にハゴロモモは本文のように単子葉植物的な特徴を備えており、独自の進化をとげた可能性もある。

(*7) ホザキノフサモは、販売されるものはおそらく栽培増殖したものと思われるが、世界に広範に分布する種であり、元々の自生なのか逸出定着したものなのか、さらにはその先祖が日本国内のオリジナルなのか輸入販売されたものがルーツなのか、株を見ただけでは誰にも判断が付かないと思う。ありふれた一般種ながら、来歴という点では判断が難しい種。

(*8) ホザキノフサモは日本の他、朝鮮半島、中国大陸、台湾、シベリア、ヨーロッパなど広範に自生する。輪生する葉は、裂片が羽状全裂し小裂片は線形となる。他種フサモ類と異なり穂状花序を水面上に上げて開花する。北米に帰化定着したものは外来種として防除の対象となっているほど繁殖力が強い。



Photo :  RICOH CX5 Canon PowerShotS120 NIkon E5000

Invader Cabomba caroliniana A. Gray.
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