日本の水生植物 水草雑記帳 Feature
ヒメタデ
(C)半夏堂
Feature Persicaria erectominor (Makino) Nakai

タデ科イヌタデ属 ヒメタデ 学名 Persicaria erectominor (Makino) Nakai
被子植物APGW分類 : 同分類
環境省レッドリスト2017 絶滅危惧U類(VU)

撮影 2011年10月 茨城県南部河川敷(fig1)

【ヒメタデ】
*ありがちな「ごく普通の」和名を名乗るタデ科植物だが、長い間個人的に正体が良く分からなかった。それもそのはず、この植物を初めて見たのは2011年、やけに地味で薄汚いタデだなという所から始まり、専門で研究されている方のご協力もあってやっと特定できたのだ。それまでネットで画像を見ていた「ヒメタデ」はまったく似ても似つかぬ別の植物、園芸品種あり別種あり、その正体はちょっとしたカオスになっていたのである。
 いわゆる本物の「ヒメタデ」は湿地植物らしく湿り気の多い河川敷で、ホソバイヌタデやヤナギタデなどやや大型になるタデの群落に隠れるように、また地面を這うように密やかに自生している。まるで自ら目立つことを避けているような自生形態は我々のような植物マニアの目からも正体を隠している。

正体
■紛れる植物

 ヒメタデは今現在も色々な意味で「紛れている」。玉石混淆のネット上の情報の海の中に紛れ、自生地では他種に紛れ、まるで自ら正体を明らかにすることを拒むかのように生きている。意識しなくても視線に入ってくる存在感のある植物と異なり、ヒメタデは強く意識しないと見い出せない。植物に興味があっても余程注意深くないと見つからないほどの「紛れ」のなかで生きているのだ。

 常日頃「ぼぉー」と生きている私はこの手の紛れにはいとも容易に混乱させられてしまい、冒頭に書いたようにヒメタデという名前は知っていてもそれがどのような植物なのか正確には分からない状態が続いていた。ある時ちょっとしたきっかけがあり有力なアドバイスや情報、資料を頂いたことで何とか把握することができたわけだが、その経緯や見分けるポイントなどを判明次第随時記事にしたため、本人(私)の整理整頓が苦手な性格も相まって一応当Webサイト内にはありつつも纏まりのない状態が続いていた。今回「ヒメタデ」の単独記事を書くにあたり、重複情報や無駄な部分をスクリーニングし、なるべく分かりやすく纏めてみた。尚、情報を再録した元記事は以下である。


水生植物図譜タデ科イヌタデ属
FieldNoteヒメタデの正体
・FieldNoteヒメタデの正体補足記事ヒメタデというタデ
・同成長期の氾濫原イヌタデ属


■攪乱依存

 さて、この記事で書きたいのは上記の通りサマリーに近いが、あちこち断片的な情報をかきあつめてやっと正体が分かる状況を改善し、このテキストだけである程度「ヒメタデ」という、わりと「ぞんざいに」扱われてきた植物の正体が分かるようにしたい、ということである。。

 「ぞんざい」とは別に人の手によっての話ではなく、ヒメタデが自生する環境が河川の氾濫原という、ある意味「ぞんざい」な環境という意味である。氾濫原注1)は文字通り河川が増水した際に冠水する場所であって、水によるダメージがある構造物などは少ない。有効利用しにくい、ということは手入れもそれなりであり、その意味で「ぞんざい」なのである。
 この環境はよく言われる攪乱環境であるが、観察していると攪乱するのは水流と水流が運ぶ土砂などで、台風など攪乱が甚だしい場合には地形が大きく変化するような場合もある。こうした環境に依存する植物にはあるパターンがあって、安定した湿地にはあまり見られないようなものが多いという特徴がある。もちろん四六時中氾濫しているわけではないので他の湿地でも見られる植物も進出しているが、環境依存する植物の存在がこの環境の本質を示していると言えるだろう。


(P)2011年10月 茨城県南部河川敷(fig2)


 本種ヒメタデをはじめとしてホソバイヌタデ、ノウルシ、ヒキノカサ、ノカラマツ、ミゾコウジュなどこの環境で見られる植物達がなぜ攪乱を好むのか、という点に付いては正確には分かっていない。このサイトでも「植物の生き残り戦略」というテーマで「攪乱依存戦略」としてご紹介しているが、言ってみればそれは外見的な現象面を人間が「上から目線」で評価した余計なお世話で、本質は正直よく分からない、というのが正直な所だ。そこは相手が物言わぬ植物、意図して戦略通り生き残っているのか、結果を人間が理屈付けしているのか、植物のみが知るところ。
 以上を踏まえた上でヒメタデの自生環境を見ると、近場では小貝川や江戸川など河川敷に冠水する「攪乱環境」にある。たまたまその場所に残存した、という可能性もなくはないが、安定した湿地である霞ヶ浦や北浦の沿岸部、菅生沼付近の湿地などでは見つけることができなかった。これも人間の理屈になってしまうが、状況を見る限りにおいては単なる「湿地」には生きられない植物の可能性もあると思う。その意味では河川敷の有効利用が進み彼らが好む環境が減少しつつある現在、レッドデータの評価が妥当なのだろう。

■藪の中

 また「ぞんざい」ついでに書いておくと、前述のように園芸植物を含む様々な種類のイヌタデ属植物が「ヒメタデ」として扱われている現状は「ぞんざい」以外の何物でもない。意図的かどうかは別として、小さな園芸用のイヌタデ属植物に流通名として名付けるのに「ヒメタデ」という名前は用いやすい。なにしろ本家ヒメタデが世間一般レベルでは曖昧模糊とした正体、確たる存在ではないわけだから。その積み重ねが更にヒメタデを曖昧模糊とした存在に追いやってしまう。一種の負の連鎖というやつだろう。
 世間的にどれだけ正体不明か、データとは言えないまでも状況証拠となる話がある。現在は休止中で自然消滅を待つばかりの私のブログ「半夏堂花鳥風月」だが、エンジンのexciteブログにはエントリー(記事)毎のアクセス数が分かる管理者ツールがあり、2011年10月に投稿したヒメタデの記事がいまだに上位に来るのだ。この植物の正体を求めて多くの人がネットの海を彷徨っている様が目に浮かぶではないか。ちなみにヒメタデの記事と双璧を成すのはミズキカシグサで、両種とも誤認や誤解が多い種であることが原因だと思う。

 ヒメタデがある意味曖昧模糊とした存在になってしまった原因は、ありがちな「適当なネーミング」とか「気軽な流通名付与」といった今日的な原因ではなく、歴史的な経緯がある。詳しくは上記リンク記事「FieldNoteヒメタデの正体」の囲みにあるが、ざっくりまとめると牧野富太郎の記載(1890年)と種小名の変更(1914年)にヤナギヌカボとヌカボタデ、ヒメタデの3種が絡んでおり、その情報が交錯した状態をずっと引っ張っている、ということらしい。現に県の博物館レベルでもこの3種の標本の取り違えが発生しているのは100年前の混乱の影響であるはず。
 私見ながら、秋に渡良瀬遊水地に行けば見落としようがない「アオヒメタデ」の存在も混乱に一枚かんでいるような気がする。和名が示唆するところは「青い」ヒメタデ、しかしこのアオヒメタデは青くないし、この形質で色違いのタデを探しても一生見つからないはず。アオヒメタデはヒメタデよりかなり草体が大きく、立ち上がる傾向が強い。この件に関して渡良瀬遊水地の植物に精通された大和田真澄氏注2)も自身のホームページで「(アオヒメタデはヒメタデとは)品種以上の違いを感じる」と述べておられる。両者を見れば本当にその通りだと思う。こちらはこちらで和名付与の問題がありそうだ。

 かくしてヤナギヌカボとヌカボタデ、ヒメタデにアオヒメタデも絡んでの情報交錯、この状態から真実を見つけるには一介の植物愛好家には荷が重い。というのが幸か不幸かヒメタデに興味を持ってしまったアマチュアに共通する迷路なのである。しかしそれでも何とか解明したいのがアマチュアの意地、この記事が藁にもすがる方の「藁」一本にでもなれば幸いだ。

植物的特徴
■地味

 ヒメタデを一言で表現すると、小さく地味な特徴のないイヌタデ属植物である。おまけに生え方も地味で、他の植物群落に紛れるように生えている。当地の氾濫原河川敷においては特にホソバイヌタデ群落に随伴することが多く、このことは同じ氾濫原河川敷でも様々な地形が存在するなかで、同一の地形を好む傾向が強いと言うことができるだろう。

 ヒメタデやホソバイヌタデは氾濫原河川敷のなかでも湿地性が強い場所を好む。多少泥濘となっており、踏み込むと水分が感じられるような場所である。そのような場所を探せばヒメタデが見つかるわけだが、より簡単なのはホソバイヌタデを見つける方法だ。ホソバイヌタデの独特のピンクの花穂はかなり遠くからでも目立ち、ホソバイヌタデと随伴する傾向が強いヒメタデの探査にはより効率的な方法だ。経験的に「随伴する確率」は3割程度あり、当地では季節になるとかなりの数のホソバイヌタデ群落が目立つのでより効率的にこの地味な植物を探すことができる。
 余談ながらこういう趣味を総称して「ズブズブ」というが、好き好んでズブズブしているわけではない。目的は植物を探すことであって、無駄に靴を汚すことではないのだ。効率が良いに越したことはない。


(P)2015年5月 千葉県北部河川敷 ホソバイヌタデなど他植物に紛れる生え方が普通(fig3)


■紛らわしい仲間たち一覧

 ヒメタデの植物的特徴だが、状況を整理すると一部でヌカボタデ、ヤナギヌカボ、アオヒメタデとの情報交錯が発生し、西日本系ではフトボノヌカボタデ(別名シマヒメタデ)、サイコクヌカボとの境界が曖昧な印象を受ける。従ってこれらの種に付いて各々特徴を明らかにすることでヒメタデのプロフィールが明らかになるだろう。まずは簡単に特徴的な部分を列記する。

種名 学名 ポイント
ヒメタデ Persicaria erectominor (Makino) Nakai 褐色が強く匍匐性あり、種子は三稜で光沢あり
エドガワヌカボタデ 不詳 不詳
ヌカボタデ Persicaria taquetii (Lev.) Koidz. 緑色が強く標本となっても色を保持、種子は光沢がなく二稜でレンズ型
アオヒメタデ Persicaria erectominor var.erectominor f.viridiflora ヒメタデより大型、花穂の開出毛が目立つ。種子は三稜で光沢あり
フトボノヌカボタデ Persicaria kawagoeanum Makino 葉の色がオリーブがかる。種子はレンズ形で光沢のある黒色
ヤナギヌカボ Persicaria foliosa (H. Lindb.) Kitag. var. paludicola (Makino) Hara. 葉が細長い、種子はレンズ形、茶褐色で光沢がある
サイコクヌカボ Persicaria foliosa (H.Lindb.) Kitag.var.nikaii (Makino) H.Hara ヤナギヌカボに似るが花穂がやや疎ら、種子は弱い三稜型、茶褐色で光沢がある


■紛らわしい仲間たちの種子(利根川水系で見られる種)

ヌカボタデ(fig4) ホソバイヌデ(fig5)
ヒメタデ(fig6) アオヒメヌデ(fig7)

■アオヒメタデ

 和名が亜種、変種を連想させるアオヒメタデは実はあまりヒメタデに似ていない。ただしあくまでアオヒメタデは渡良瀬遊水地産のもの注3)の話。(上記の通り)大きなポイントは草体が匍匐性が強い(ヒメタデ)、立ち上がる(アオヒメタデ)、他にも花穂には開出毛が少なく短い(ヒメタデ)、開出毛がやや多く長い(アオヒメタデ)、草体の色味の印象など違いの方が多く、類似点は種子の形状ぐらいで、種としては相当の距離を感じる植物である。にも関わらず渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団が出している「渡良瀬遊水地の植物図鑑」では「ヒメタデ(アオヒメタデ)」と種として同一の扱いを行っている。これは両種実物を見れば明確な誤りであることが分かる。

アオヒメタデの花穂(fig8) ヒメタデの花穂(fig9)

■ヌカボタデ

 同所的に自生する事があるヌカボタデは下図のようにまったく別の特徴を持ったイヌタデ属植物であるが、自然博物館レベルでも誤認(取り違え)が発生している、とのことなので追記する。実際には細かい部分の差異を精査する必要もなく、ビジュアル的にもまったく異なる植物である。

ヒメタデ
Persicaria erectominor (Makino) Nakai
ヌカボタデ
Persicaria taquetii (Lev.) Koidz.

葉色がやや暗い 2012.8月(fig10)

葉色は明るい緑 2012年6月(fig11)

花穂がややまばら 2011.11月(fig12)

花穂がやや密 2012年6月(fig13)

種子 光沢あり小型、三稜 2012.7月(fig14)

光沢なし、二稜レンズ型 2011年11月(fig15)

草体 2012.7月(fig16)

草体 2012年9月(fig17)

■葉形の違い

 上記近似種を含めた葉形の相違は右図の通り。図に見える「エドガワヌカボタデ」はヒメタデである(暫定、後述)。葉形のみ見ればヒメタデはたしかにヌカボタデに印象が似る。ただし葉形は生育条件や時期によって変異が最も出やすい部分であるので、あくまで目安として考えたい。また葉形が似ていても、質感(ヒメタデは厚くヌカボタデは薄い印象)と色味(ヒメタデはオリーブ系が強くヌカボタデは緑色が強い)が全く異なるので紛れることはない。

 葉形で突出した特徴が見られるのはヤナギヌカボで、「ヤナギ」の名に恥じず葉が細長い。生育条件により差異が発生するが概ね細長い葉を付ける。ヒメタデの自生エリアで考えられる混生は西日本に分布するフトボノヌカボタデ(シマヒメタデ)とサイコクヌカボを除外すればヌカボタデ、ヤナギヌカボであり、ある程度は葉形による判別も可能である。ただしくどいようだが変異はある。
 似たものついで、であるがヤナギヌカボとフトボノヌカボタデは葉形、色味が非常に近似する。(下図)この「雰囲気」であればヒメタデではない、と消去法に使える程度の情報だが。


(P)2013年5月 ヒメタデと近似種の葉形の違い(fig18)



ヤナギヌカボ(左)、フトボノヌカボタデ(右)の相似(fig19)

斑はフトボノヌカボタデがやや臙脂色が濃い(fig20)
その他
■エドガワヌカボタデ

 詳しいいきさつはよく分からないが2013年3月15日の日本植物分類学会第12回大会に於いて「新種エドガワヌカボタデ」が愛知教育大の芹沢俊介氏他注4)により発表された。エドガワヌカボタデの形質を見る限り本稿で取り扱っているヒメタデそのものなのではないか、と思うが、それは素人が勝手に思うだけと言われれば返す言葉もない。
 考えられるのは(1)和名シノニム注5)(もちろんヒメタデと)、(2)微小な形質の相違がある「新種」、であるが私は(1)の可能性が強いように思う。というのは、産地とされる江戸川左岸はわりと綿密に調査を行っているつもりだが、ヒメタデを除外するとエドガワヌカボタデに該当するイヌタデ属植物を見たことがないからである。最近エドガワヌカボタデの名が各所で見られるようになってきたが、ヒメタデの存在と根本的に矛盾するかも知れない情報も散見される。

渡良瀬遊水地植物の会 アオヒメタデ解説
当該リンクから引用(下線部筆者注)「ヒメタデPersicaria erecto-minorは花が赤色であるが、アオヒメタデは花が緑白色で、その品種とされる。遊水地には本来のヒメタデはなく、アオヒメタデがヨシ・オギ原などで普通に見られる。アオヒメタデは関東地方の低湿地にのみ分布する希少な種類。」

 この記述には2つの疑問点があり、一つはヒメタデ関連で非常なご助力を頂いた長島様のテキストヒメタデというタデにある記述の通り、渡良瀬遊水地にはヒメタデ(長島氏のネーミング「クボチヒメタデ」)が存在する。リンク先サイトで「ない」と言い切っているのはエドガワヌカボタデの存在を意識しているからであることは間違いない。それはそれで良いが、こうなるとヒメタデの種としての存在の議論はどうする?という話になるはず。
 疑問点の二点目は「アオヒメタデは関東地方の低湿地にのみ分布」という件(くだり)で、ヒメタデには直接関係はないが、全国から報告のあるアオヒメタデが渡良瀬遊水地のアオヒメタデと形質が乖離していることは理解しているが、渡良瀬遊水地産を基準としてしまって良いのか、という話。こうなると再度このグループ、ヌカボタデとヒメタデの仲間の整理が必要になってしまう。

 このリンク先サイトの解説は、個人的にも今まで調べて整理してきた事が根本から覆されてしまう可能性もあり、非常に重大な内容だ。紐解けば、結局のところ今まで結論が出ないまま残っている「渡良瀬遊水地のアオヒメタデは何者か」という命題に加えてエドガワヌカボタデは存在するがヒメタデは存在しない、という極論が絡んで私にとってはカオスの解説としか思えない状態に陥っている。

■素朴な疑問

 エドガワヌカボタデに関して一つ疑問なのは 愛知教育大学という、江戸川や小貝川に縁もゆかりもない、さらに言えば土地勘もない研究者の方が、普通に探しても見つけにくい「ヒメタデ」近似の植物をなぜピンポイントで探し出すことができたのか?そもそも精度の高い情報がなければわざわざ探査に出向くような場所ではないことも事実。エドガワヌカボタデがヒメタデと同一の植物だとして、江戸川、小貝川とも流域全域に自生しているわけではなく、おそらく事前情報なしでは見出すことは困難である。(この点に関するヒントは、まったく関係のない「ワタラセツリフネソウ」新種記載の経緯を調べていた分かった。詳しくは脚注2)
 疑ってかかればきりがないが、当時(新種「エドガワヌカボタデ」発表前)はヒメタデの画像や自生地情報を自分のブログ上でやりとりしており、強いて言えば自分の情報リテラシーに問題があったのかも知れない。仮定の話で何だが、もしかすると私の情報管理の甘さがエドガワヌカボタデとヒメタデという混乱を生んでしまった、と言えなくもない。公開した以上、情報の利用は閲覧者の自由である。また、そんなもの見ていない、と言われればそれまで。無いことを証明するのは悪魔の証明だ。前述のように本種はヌカボタデ、ヤナギヌカボ、アオヒメタデまで巻き込んでの混乱が残っており、ここにエドガワヌカボタデまで参加させるのは誰にとっても益がないだろう。というわけで、私が知っているヒメタデは現在にいたるまで「ヒメタデ」として扱っている。

脚注

(*1) Flood Plain 用語として広義、河川が洪水時に流路から氾濫する範囲にある低地部分の総称、狭義、沖積平野のうち蛇行流路の発達した低地で扇状地と三角州との間にあたる部分、とあるが本稿ではニュアンスとしては前者、広義に使用している。もっとも想定している小貝川、江戸川ともに外堤防が完備され、特に小貝川においては莫大な貯水量を持つ堰が3つも整備されており実質的に氾濫原は河川敷に限定されている。自宅前の電柱には数十年前の小貝川氾濫の際の到達水位が刻まれているが、この意味では我が家も広義氾濫原にある。

(*2) 栃木県植物研究会所属で渡良瀬遊水地を中心に活動するフィールドワーカー。渡良瀬遊水地の植物に最も精通した一人である。元高校・養護学校教師。新種ワタラセツリフネソウの発見者でもあるが、記載時には愛知教育大学の渡邊幹雄助教授と共同研究を行った、とありエドガワヌカボタデの「情報ルート」もこんなところかも知れない。大和田真澄氏はたぶん江戸川には来ないと思うし、渡良瀬遊水地の「ヒメタデ」を新種記載するのであれば「ワタラセヒメタデ」もしくは「ワタラセヌカボタデ」になっていたはず。江戸川や小貝川に来てタデを調査する栃木県植物研究会の人は一人しか知らないが、この方は著作やメール文面から「ヒメタデ」派だと思うし、何とも言えないが、愛知教育大と栃木県植物研究会の接点ははっきり分かった。

(*3)  渡良瀬遊水地産、というか実はそれ以外の湿地ではついぞ見かけたことがない。一方、全国的にはWebで見る限り様々な地域に分布しているようだが、形質がやや異なるようだ。これが地域による変異なのか亜種、変種、はたまた誤認なのか手掛かりはない。渡良瀬遊水地ではホソバイヌタデとともに最も多いイヌタデ属植物の一つであり、気合を入れなくてもすぐに見つかる植物である。

(*4)  愛知教育大学教育学部特別教授。専門は植物分類学、地域環境論、環境教育。タデ科に関する研究論文も多数発表されている。もちろん面識はなく、個人的な恩も恨みも現状は皆無。エドガワヌカボタデに関しては自分の調査結果と照らし合わせて疑問がある、と言っているだけである。疑問の内容は上記の通り江戸川流域でも限られた場所にしか自生しないエドガワヌカボタデをよくピンポイントで、しかも最も行きにくく植物好きがスルーするような場所に行って見つけたな、ということ。

(*5) Synonym 同物異名。つまり同じモノに複数の名称がある状態を指す。本来の意味は「同義語」であり、日常会話には英語読みはほぼ登場しないために、生物の同物異名として使用される場合が多い。シノニムには同タイプ異名(homotypic synonym)と異タイプ異名(heterotypic synonym)があり、植物命名規約に限定して話を進めると前者は「命名法上の異名」(nomenclatural synonym)とも呼ばれる。記載されている事実を知らずに新規のつもりで記載した、亜種や変種として記載したが、独立種に昇格、などの場合がある。後者は「分類学上の異名」(taxonomic synonym)とも呼ばれ、異なるタイプ標本と考えられ、それぞれ命名された名前が後に同じ種類と判定されたことで生じるシノニム。仮定の話で恐縮だがヒメタデがエドガワヌカボタデとタイプ標本に著しい差異があり、ヒメタデが種内変異の多い植物であった場合、後者の可能性も考えられる、という状況であった時には後者の可能性もあるのではないか、という弱い「提案」レベルの話である。


【参考文献】

新日本植物誌 至文堂 大井次三郎著 北川政夫改訂 P626 ホソバイヌタデ ヒメタデ P627 ヌカボタデ
日本の野生植物U 平凡社 佐竹義輔他編 P23 ホソバイヌタデ ヒメタデ ヌカボタデ
原色日本植物図鑑 草本編U 保育社 北村四郎 村田源著 P312 ヌカボタデ P312〜313 ヒメタデ ホソバイヌタデ
渡良瀬遊水地の植物図鑑 渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団 P71 ヒメタデ(アオヒメタデ)
水辺の植物 保育社 堀田満著 P119〜125 U.形態、とくに葉の形の変異
野草図鑑第6巻 保育社 長田武正著 P14〜15 葉形に関する定義、概念
フロラ栃木 第19号「渡良瀬遊水地の「ヌカボタデ」は何者か?」長島永幸 2011
千葉県植物誌 千葉県生物学会 1958 P15 第131図フトボノヌカボタデ
本草綱目記聞一 水谷豊文 湿草 下ノ下 十二 P472〜485
草木図説 草之九 ヌカボタデ
新訂草木図説 P260 ヌカボタデ
増訂草木図説 P575〜576 ヌカボタデ
植物研究雑誌 第31巻第6号 1956年6月 P10〜18 伊藤至「ヒメタデ類小記」
 
【参考資料】

ヒメタデというタデ 長島永幸氏
(著作者の承諾の下、全文を補足資料として公開。)
小池コレクションのヌカボタデ(草稿) 長島永幸氏(非公開)
栃木県でサイコクヌカボを確認 フロラ栃木第20号 長島永幸
渡良瀬遊水地の”ヌカボタデ”は何者か?(2)仮称クボチヒメタデ フロラ栃木第20号 長島永幸
牧野標本館 Makino Herbarium(MAK)
渡良瀬遊水地植物の会 アオヒメタデ解説

【Photo Data】

RICOH CX5 *2011.10.25(fig1,fig2,fig9) *2011.10.4(fig8) *2013.5.24(fig18) *2013.5.18(fig19,fig20)
Canon PowerShotA2300 *2012.9.27(fig3) *2012.9.27(fig13)
Pentax OptioW90 *2011.11.24(fig4,fig5,fig15) *2012.7.29(fig6,fig14) *2011.11.25(fig7) *2012.8.19(fig10) *2012.6.3(fig11) *2011.10.27(fig12) *2012.7.22(fig16) *2012.9.30(fig17)

Feature Persicaria erectominor (Makino) Nakai
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