日本の水生植物 | 湿地環境論 |
水田の危機 第二部水田の植物学 | ||
(C)半夏堂 |
水田の植物生態系 |
(P)水田の植生。雑草範疇の植物にも滅びかけているものが多い |
Chapter1 水田植生の興亡 |
右図は当Webサイト、水草事始「水生植物のポジション Part1」で示した水生植物の自生の概念図だが、一応湖沼や河川を想定している。湖沼や河川は季節ごとの水位変動はありつつも、比較的安定した湿地であり、沈水植物、抽水植物、湿生植物が最も居心地の良い場所を中心に自生している。(水質悪化による消失や元々の分布等の条件は除き) 重複や環境変化に対応した草体の変化はあるが、植物にはそれぞれ「居場所」とも呼ぶべき環境があり、植生が揃った状態が健全な水辺の姿である。水田の場合、古来の湿田(*1)は全く同様の概念であり、植生もまた同様である。特に沈水植物に付いては水が無ければ生存できず、小まめに水の出し入れを行う乾田ではほぼ見られない。乾田でも湛水期間はほぼ同様の状態(概念図)となるが、多くの植物はこの限定された湛水期間に子孫を残すことが出来ず、また多年草も年間の大半に及ぶ乾燥期間に存続することが困難で、結果として乾田では多くの希少な植物が失われている。 水田植生は河川湖沼やその周辺湿地と多くの種類が重複するが、湛水(*2)期間のサイクルに生活環を合わせたもの、散布される除草剤に対して耐性を身に付けたものなど姿形は同じでも様々な点で「進化」した植物もある。また、自然湿地にはあまり自生せず、水田に特化したような印象を受ける植物もある。明確な根拠はないが、強害草として知られるオモダカやコナギは自然湿地には少なく水田に多い。印象として彼らは水田の肥料をあてにしているフシもある。だとすれば人間の営みが植物の生活環に影響を与えている証左だが、比較的短期間に環境適応する彼等の姿を見ていると頷ける話だ。 こうした水田の植物はいわゆる「雑草」であるが、滅びかけているものも意外に多い。要因は大別すれば3つあるが、すべて人間による過度の「攪乱」である。水田が食糧生産の工場である以上、人間の都合による環境変化は当然の事だが希少な植物の存続に関わる攪乱が「仕方がない」で済ませられるのか、生物多様性という観点では判断が難しい所だ。以下、希少な水田雑草の減少に直結する3つの要因を概説する。 【除草剤】 水田用の除草剤は稲の生育初期・中期など時期的なものや、稲にはダメージを与えず雑草のみ、さらには科ごとに狙い撃ちできるような選択性のものまで多種多様に揃っている。(参考)この中でもエポックメーキングだったものはアメリカのデュポン社が開発したスルホニルウレア系除草剤(以下SU剤)という除草剤である。この除草剤は稲に対しては安全性が高くヒエを除く一年生、多年生雑草に有効で長期に渡って効果が持続するため散布はシーズン1〜2回で済む(このため一発剤とも呼ばれる)優れものであった。 除草剤の進化が水田の植生に与えた影響は間違いないが、近年「水田雑草の反撃」とも呼ぶべき事象が発生している。SU剤に対する抵抗性を持った植物の出現である。抵抗性を確認された植物にはミズアオイ、イヌホタルイ、コナギと、アゼトウガラシ、アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナ、ミゾハコベ、キクモ、キカシグサ、タイワンヤマイ、オモダカ、スズメノテッポウ、ミズマツバなどがある。この中に環境省RDBにリストアップされているミズオアオイやミズマツバが含まれており、長期的には「除草剤が希少な水田雑草の減少に影響している」という判断は覆るかもしれない。 もう一点、SU剤の負の側面は一部の植物が強力な除草剤抵抗性を身に付けスーパー雑草化(*3)してしまったことだ。有名な所ではNHKのニュースにもなったオモダカ。個体数が増え再生力や成長スピードも従来のオモダカとは桁違いの化物になり、除草の手間(除草剤は効かない)はもちろん、養分収奪によって稲の生育に深刻なダメージを与える始末。楽ができる夢の除草剤がとてつもない苦労を連れて来てしまったようだ。 【乾田化】 本稿第一部お米の経済学で述べたように、減反政策によって水田の耕地面積は減少しているが米の生産高は維持されている。要因は農業技術の進展であるが、乾田化が寄与した部分は少なくない。逆に言えば沈水植物を中心にした多様性が担保された湿田が減少しているということ。乾田は稲の成長充実期に落水し根に酸素を供給することで収量を増加させることができる。一方、土壌が嫌気的な湿田は硫化水素などの有害物質を生成し根腐れ等のダメージを与え、結果的に乾田よりも収量が少なくなってしまう。 生産量の観点で言えば乾田の方がはるかに上だが、乾田は灌漑設備を必要とする。こうしたインフラ整備は広義に農業基盤整備と呼ばれ、水田に関して言えば圃場整備と呼ばれることが多い。圃場整備は耕区(耕作上の最小単位)と圃区(水管理を一元的に行うための区画)を整備し用排水施設、農道、客土、暗渠排水などにより行われる。このため圃場整備された水田はビジュアル的にもフラットで用排水路も規則正しく引かれていることで分かる。 乾田の最大の特徴は冬季に水が完全になくなる事で、更に言えば湛水期間は関東地方基準で5月上旬〜7月中旬、8月の一定期間だけであり、年の1/4、3か月程度である。もはや水田とは言えないレベルで水管理が成されている。この状況では沈水植物の存続が困難なのは自明で、事実水田型の沈水植物であるミズオオバコ、スブタ、ヒロハトリゲモ、イトトリゲモなどが多くの地域で見られなくなっている。 一方、沈水植物ながら、この湛水のサイクルにあわせて子孫を残す技を持っているのがシャジクモ。絶滅危惧種でありながら近所の水田では以前よりも増えている印象がある。しかしこれはあくまで例外だろう。 【水田自体の減少】 第一部で述べたように、減反政策の推進により水田面積は1969年の317万ヘクタールをピークに、2000年以降、170万ヘクタール前後にまで減少している。この事実だけでも水田の水生植物の自生地は半減しているが、この数値さえ信憑性があるとは言い難い現状がある。それは農業センサスや統計データに現れない農家の自主的な耕作放棄地の増加が理由である。耕作放棄は諸々個別に事由があると思われるが、主な所は就労者の高齢化、稲作の採算性悪化などだろう。 一帯ではこうした耕作放棄水田が非常に増えている。転作や復田のための湛水も行われておらず、書類上(地目)は水田であるが実質は荒地だ。しかも元乾田であるために遷移は急速で、耕作放棄後2〜3年で陸地化する。植生も陸上型となり植物相から見ても陸地になる。水田の植物はシードバンクを相当長期間維持するので復田すれば植生の復活は容易だと考えられるが、この状況では復田の可能性は薄い。 以上のように水田の植生は様々な減少要因があり、特に分布が元々薄かった希少種に付いてはおしなべて絶滅危惧種となっている。また近年、大きな繁殖力を持つ外来種の侵攻という問題があり、普遍的な種と思われていた在来種も影響を受けている。例えばセンダングサ属の外来種によってタウコギやセンダングサが滅多に見られなくなってしまったのが好例だ。 外来種に付いては本コンテンツで広範に扱っているのでそちらをご参照頂くとして、水田に侵入する外来種が比較的短期間で種類、発生量とも増大している事実を指摘しておきたい。茨城県南部〜千葉県北部の現状はここ15年ほど見ているが、キンガヤツリ(カヤツリグサ科)、ヒレタゴボウ(アカバナ科)、アメリカキカシグサ(ミソハギ科)などが新顔として侵入しているが、どの種も発生量が多く、在来種の生態的地位(*4)を奪ってしまうほど強力である。下画像はその例であるが、左画像、アメリカキカシグサに包囲されごく狭い場所(中央部分)でかろうじて残存するキカシグサが典型的であろう。また右画像は休耕田に大発生したヒレタゴボウだが、この環境ではチョウジタデが圧迫されて見ることができなかった。言うまでもなくアメリカキカシグサとキカシグサはミソハギ科キカシグサ属、ヒレタゴボウとチョウジタデはアカバナ科チョウジタデ属である。外来種が侵入定着した際に最も影響を受けるのは同じ生態的地位を持つ同属の在来種であるのはごく自然な話だろう。 上記したように水田の質的な変貌、減少や除草剤などの要因に加え、外来種による圧迫と言う新たなマイナス要因を抱えることになったのが水田植生の現状である。普遍的な種でも、モノによっては見るためにやや探す努力を強いられる植物もある。3000年以上定着(*5)してきた植生が、ここ10年、20年という短期間に大きく変貌しようとしている。個別の種に付いては後述するが、RDB等を策定するにしても昨年の残存メッシュが有効かどうか再調査しなければ正確な判断ができないだろう。ひょっとすると我々は水田植生の3000年ぶりの大きな変革期を目撃しているのかも知れない。 (P)畦際を占拠した外来種、アメリカキカシグサ 【大発生する外来種】
|
Chapter2 水田植生の特徴 |
水田には多いが、自然湿地ではあまり見られないという植物群がある。前記したオモダカやコナギなどはその典型で、あくまで個人的な仮説だが、水田の肥料分を当てにしているのか、耕起や湛水などの攪乱のサイクルに生活環がピタリとはまっているのか、何らかの理由があるはず。また、もともと湿地植物である彼等が土壌の水分に依存しているのは明らかで、適潤・過潤の判断がどこかで成されているのか、そのために水没する可能性のある湖岸湿地や河川敷に生えないのか、考えてみれば色々と可能性がある。 次に水田には多く発生するが同様に自然湿地にも自生する植物群が存在する。ヤナギタデやサクラタデ、コウガイゼキショウが代表的である。またカヤツリグサ属のうち、湿地性の種は大部分この傾向がある。これらは特にセグメントされた環境に特化した種ではなく、一般的な意味での水生植物と呼ぶことが出来るだろう。意外なことに水面に浮葉を広げるヒルムシロも除草剤普及以前は水田雑草、それも駆除難種であったという。ヒルムシロはよく知られているように陸生型(気中葉)として生活できる。河川や用水路で生活していたものが水田に入り込むことで版図を拡げたのだろう。 こうして好む自生地の性格による大別を行ってみると、似たような植物でも環境の「お好み」が微妙に異なっている点に気が付く。例えば似たような草姿のミズネコノオとミズトラノオ。前者は水田に自生するが後者は見たことが無い。(もっともミズトラノオは自生地自体が減少してしまい、明瞭なプロファイリングが難しいが)またミズマツバやアズマツメクサ、スズメハコベなどの小型植物も水田の畦際などで見るが自然湿地ではあまり見ない。水田を好むか、湿地を好むか、この判断は植物学上の分類単位ではなく、種毎に傾向値を持っているようだ。 もちろん例外は山ほどあって、成立年代を考えれば自然湿地と言ってもよい渡良瀬遊水地では上記した植物の大半が見られる。これらは遊水地成立以前の水田で自生していた植物の後裔なのは明らかであるが、少なくても1917年以降の耕作が行われていない事実(*6)に鑑みれば「自然湿地に自生する水田雑草」と呼んでも差し支えないだろう。 水田雑草の多くは稲作の伝来とともに渡来した史前帰化植物であるとの説がある。事実タイ、マレーシア、ベトナムなどの水田地帯を歩くとシソクサやミズワラビなど姿形では区別が付かない植物が多々存在する。熱帯アジアにおいても雨季・乾季という季節変動はあるが、こうした姿形が同じ植物が日本の四季に見事に対応しているのは奇跡的でもある。さらに言えば植物の成長期間である春〜秋の間も水田の耕作サイクルにあわせて生き残りを図っている植物が多い。 田植え前後、湛水開始前後から咲き始めるスズメノテッポウやタネツケバナ。これらは稲が成長することによって遮られる日照を確保し、開花・結実する。彼らは春咲き植物、長日植物である。また彼らほど開花時期は早くはないものの同様に日照が確保できる時期に開花するウマノアシガタ、キツネノボタン、ムラサキサギゴケなど。逆に稲刈り後に日照を確保して開花・結実する秋咲き植物(短日植物)。これは非常に種類が多く、ヒメミソハギ、ヤナギタデ、ホシクサ、ミズマツバ、ミズネコノオ、アゼナなど多岐に渡る。 一方、稲の成長期間にも自らの草丈を競合に負けないほど伸長させ、真夏に開花するオモダカやイヌビエなど強靭さを持ったグループもあり、同じ環境(熱帯アジア)から渡って来たと考えられる植物も種によって様々な生き残り戦略をとっていることが分かる。なかでもタネツケバナやトキワハゼに見られる「開花可能な時にはいつでも開花する」という熱帯的なアプローチを持つ植物もあって興味深い。 一説に、熱帯アジアを出発点とするこれらの植物は、日本に渡来してきたものが上記のように今日的な生態となり、ヨーロッパに渡ったものは畑地の雑草としてまた別の生態を身に付けたと言われている。本来の湿地植物が乾地である畑地に適応したことを考えれば、環境にあわせて成長時期や開花時期をコントロールすることなど容易なのかも知れない。さて、以上水田植生(雑草)の特徴を整理すると以下4つの特徴が見えてくる。 (1)相当種類が絶滅に瀕している 上記のように特に沈水植物は壊滅的で、イバラモ科の多く、ミズオオバコやスブタなどトチカガミ科、シャジクモ科の植物が絶滅危惧種となっている。また湿生植物でもミズネコノオ、スズメハコベ、ミズアオイ、ミズマツバ、マウバノサワトウガラシなど多くの種類が絶滅危惧種となっている。 (2)基本的に「水草」である 水田も湿地である以上、雑草も湿地性の植物や水草である。アクアリウムプランツと同属であるものも多く、ロタラ(ミズマツバ、キカシグサ)、ポゴステモン(ミズネコノオ)、アマニア(ヒメミソハギ)などがある。また育成下で沈水化するものも多く、水草としての利用もできる。 (3)熱帯系植物の性格が強い 水田雑草は基本的に小型の一年草が多いが、育成下では多年草のように越冬する場面が多々見られる。前述したように熱帯アジアの植物との共通性もあり、通年生育する遺伝子を持つものが多いと推測される。 (4)多様な生き残り戦略を持っている 現代の代表的な水田、乾田でも開花時期の調整や水のある時期に開花・結実して世代交代を図るなど様々な生き残り戦略を持っている。このような能力の有無が絶滅危惧種になってしまうかどうかの分岐点のような気がする。 (P)水田に特有なコナギ |
Chapter3 滅びつつある水田の植物 |
以上のように水田の植物は危機的状況にあるが、他の絶滅危惧種植物のように保全を図るのは難しい。生育場所が米の生産現場たる水田であって、本来は邪魔者なのである。水田で雑草を保全するのは生産者の立場では本末転倒も良い所。また水田に特化した植物も多いために、どこかに生育場所を確保して移すということも難しい。 スケールの小さな話になるが、水田雑草を自宅で育成するのは非常に難しい。もちろん初年度、二年目ぐらいまでは何とかなるが早晩消滅してしまう。それも希少種ではなくミゾハコベやホシクサなど普通種でもこの傾向が強い。水田の土を使用し、湛水や落水のタイミングを水田と同じにすれば可能性はあると思うが、雑草の保全のためにそこまでするか、というと個人の環境でも難しい。 こうした保全が困難である以上、希少な水田雑草は早晩絶滅するか絶滅寸前になってしまうと考えられるが、それに拍車をかけているのが第一部から書いてきた水田自体の減少である。もともと希少な植物が生えるような水田は自然度が高く、逆に言えば生産性の低い水田のため、減反や耕作放棄の第一候補になってしまう、という話がある。事実自分の居住地付近でもスズメハコベの発生量が多い水田が休耕となり、休耕後数年で陸地化している。またサワトウガラシとヒロハイヌノヒゲの密度が高かった水田にいたっては現在道路の下になっている。山間の棚田などは生産性の問題、就労人口の高齢化など複数要因により休耕割当や道路計画がなくても自然に消滅が続いている。 この問題をどうすべきか、正直まったく分からないし提言すべき立場でもないので推移を見守る事しかできないが、現在見ることができる水田の希少植物に付いて、消滅リスクの要因毎に一覧してみた。個人的な感想なので絶滅危惧には別の要因があるかも知れないし要因が重複しているかも知れない。しかし水田の絶滅危惧種がこうしたリスクに晒されていること、水田の植物にこれだけ多くの絶滅危惧種があることをご理解頂ければ本稿の目的は達したと考えている。 【乾田化の進展による自生場所の喪失】
【主に除草剤の影響により減少したと考えられるもの】
【外来種の影響により減少したと考えられるもの】
|
脚注 |
(*1) 最も古い稲作は自然湿地の浅水域に稲を植栽したものと考えられており、そのスタイルを踏襲したのが湿田である。ただし現代的な湿田の定義は土壌がグライ土壌であるかどうか、という判断で定義されているものもあり、生態学的なイメージ(Chapter1の概念図)とは異なっている点に注意。 (*2) 読みは「たんすい」。水田に導水して水を張ることである。広義にはダムにも使用される。 (*3) スーパー雑草は世界的な問題で、英語でもsuperweedという単語で表現されている。意味する所は除草剤の効果がない雑草という所である。これは現代の農家にとっては致命的で、人力による除草が就労者の高齢化で困難になりつつある実態に加え、スーパー雑草は発生量が多く成長スピードも速いため、耕地の養分収奪や作物の成長不良に繋がる可能性が高い。一般にスーパー雑草が誕生する要因は遺伝子組み換え作物の花粉を雑草が受粉し、除草剤に対する耐性を身に付けたこととされている。水田のスーパー雑草、オモダカは別で、毎年散布されるSU剤に「馴れて」耐性を身に付けたようだ。 (*4) 英語でniche。英語読みをそのまま使用して「ニッチ」と表現する場合もある。生態系の中でその種ないしグループが占める地位である。一般に食物連鎖を軸に動物に用いられることが多く、この場合、渓流のイワナとヤマメが混生せずに棲み分けを行っている話がよく出される例だが、これは単なる「棲み分け」で、イワナとヤマメの力関係、食性の微妙な違いなど理由が明確でなければ生態的地位とは言えないだろう。 植物の場合考えられるのは日照や肥料分、水分といった成長に不可欠のリソースの確保で、外来種が侵入する以前に確立されていたものが取って代わられている、という意味で使用した。生態的地位の簒奪は同属植物、近似種の外来生物によって行われることが多く、本文例としてお示ししたアメリカキカシグサ(キカシグサ)、オオカワヂシャ(カワヂシャ)、キク科センダングサ属外来種(センダングサ、タウコギ)など多くの例がある。また従来の生態的地位、棲み分けを踏み越えて大規模に環境を簒奪するナガエツルノゲイトウなどの例もある。 (*5) 従来の歴史の教科書では我が国の稲作は弥生時代から始まった(伝播した)という記述があったが(現在どうなっているのかは確認していない)、最近の研究では縄文時代後期(B.C1000年頃)から稲作が成されていた、という説が一般的になっている。当時の出土物から稲作の証拠となる発掘があったということなのでほぼ確実だろう。また伝播ルートも熱帯アジアから島を伝わって伝来したと考えられていたものが、中国大陸を経由して伝わったという説が有力になっている。誰も見たわけではないので、史実は新たな証拠によって度々変更される。 (*6) 現在の渡良瀬遊水地の(元)谷中村の全域が強制買収されたのは1906年だが、強力な反対運動もあって、一部の村民はその後も遊水池内に住み続け、最後の村民は1917年2月25日にこの地を離れたとされている。この間水田がどのような状況であったのか知る由もないが、水田雑草の多くは大量のシードバンクを形成するので、現在確認されている植物の多くはその後裔と推測される。近年見出されたキタミソウのように後天的に定着した植物ももちろん存在する。 【参考文献】 ・ウェットランドの自然 角野康郎/遊磨 正秀 保育社 ・田んぼの生き物図鑑第一版 内山りゅう 山と渓谷社 ・ミニ雑草図鑑 広田伸七 全国農村教育協会 ・ため池と水田の生き物図鑑植物編 浜島繁隆他 トンボ出版 ・湖沼植物の生態と観察 浜島繁隆 ニューサイエンス社 |
水田の危機 第二部水田の植物学 | ||
(C)半夏堂 |
日本の水生植物 | 湿地環境論 |