日本の水生植物 水生植物図譜
ユキノシタ科 Saxifragaceae
(APGV:ユキノシタ科 Saxifragaceae ウメバチソウ属はニシキギ科(Celastraceae)、タコノアシ属はタコノアシ科(Penthoraceae)に移動)
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2019準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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ウメバチソウ属 タコノアシ属 チダケサシ属 チャルメルソウ属
ウメバチソウ属 Parnassia APGV:ニシキギ科(Celastraceae
標準和名 ウメバチソウ 学名 Parnassia palustris L. var. multiseta Ledeb. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 ブナ帯(標高約600〜1,600m、地域により異なる)の湿地に自生する多年性植物。花も梅に似ていなくもないが、和名由来となったのは大宰府天満宮の紋「梅鉢紋」に似ていることによる。
 標高の高い地域に自生する植物だが育成環境下では平地でも問題なく育てられる。山野草としての流通量も多い。本種の高地型と言われるコウメバチソウ(Parnassia palustris L. var.tenuis Wahl.)も平野部で育成されている場合が多々見られ、特に標高が育生のキャップ条件とはならない。

 平凡社の「日本の野生植物 草本U」の本種に関する記述には「蜜を分泌しないウメバチソウの花」とあり、そのわりに昆虫がよく訪れる、とあるが、実は仮雄蕊の付根付近に蜜が分泌されている。

(P)2008年6月 茨城県(自宅育成)

2015年7月 自宅育成 蕾の周囲の托葉

同左 草体

2015年10月 千葉県

同左

2015年10月 千葉県 平地の湿地
タコノアシ属 Penthorum APGV:タコノアシ科(Penthoraceae
標準和名 タコノアシ 学名 Penthorum chinense Pursh 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:準絶滅危惧(NT)

 ベンケイソウ科という説、タコノアシ科を設けるべきという意見もある植物。(APGV植物分類体系に於いてタコノアシ科として独立)希少な植物になってしまったが、茨城・千葉では水田脇湿地や放棄水田で稀に見かけることがある。休耕田周囲に生える雑草と草姿が非常に良く似ており、本種を知らないと開花期以外はまず見つけられないと思われる。

 タコノアシに模される部分は花穂で、花は「吸盤」にあたる。晩秋には草体、花穂とも赤く紅葉し湿地で一際目立つようになる。茎は分枝せずに直立しやや硬い。花序枝は先端が渦巻状に外向きに巻いているが、開花前に伸長し斜上する。花は雌雄同花、直径4〜5mmで萼片は5、花弁は退化して無い。

(P)2005年9月 千葉県

2012年10月 千葉県 紅葉

2009年9月 千葉県

2015年6月 千葉県 成長期

同左

2015年6月 東京都 湿地帯の群生

2015年10月 東京都 紅葉
チダケサシ属 Astilbe
標準和名 アワモリショウマ 学名 Astilbe japonica (Morr. & Decne.) A. Gray. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 漢字では泡盛升麻。円錐花序に小さな白花が泡を盛ったように咲くことから名付けられたチダケサシの仲間。ショウマ(升麻)は生薬の名称で、原料となるサラシナショウマ(キンポウゲ科)に花が似ることによる命名。日本全国の山地の渓流沿いに自生するが、園芸用植物としても人気が高く、商品流通も多い。
 同属のチダケサシとは葉が2〜3回3出複葉で、頂小葉は菱形になることや花弁の幅が倍近く広いことで区別できる。また写真では判別し難いが、草体の印象はかなり異なる。種内変異も多く、文献によっては「西日本に分布〜」とあることから同属植物を誤認した可能性もあるが、自生記録のある茨城県筑波山で撮影したものである。

 近年園芸流通するチダケサシ属の植物に、属名をそのまま読んだ「アスティルベ」というものがあり、本種と明瞭に区別出来ないほど似通っている。アワモリショウマは元々山地の植物であり交雑種が発生する危険は少ないと思うが、要注意。

(P)2010年7月 茨城県 筑波山

2015年6月 東京都

同左

2015年6月 東京都
標準和名 チダケサシ 学名 Astilbe microphylla Knoll 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 湿地や、林床の湿った場所に自生する植物。初夏にピンク色の美しい花を付ける。一風変わった和名は「乳茸刺」で、乳茸という茸を採集してこの植物の茎に刺し持ち帰ることに使った云々の由来がある。乳茸(チダケ、またはチチダケ)は茶色の食用になるキノコで、北関東の山岳部、ブナ帯が有名な産地である。栃木県ではマツタケと並び称される高級品。チダケサシも平地の湿原よりも標高の高い山地の湿潤な土壌を好む。用途が和名となったように茎は硬質だ。

 花の美しい野草であり、園芸植物として流通することもあるが、チダケサシという名称で類似のトリアシショウマやアカショウマが販売されていることもある。また近年かなり近似したアスチルベという商品名の外来種が増えている。

(P)2015年6月 東京都

2015年6月 東京都 花穂

同左 葉

2015年6月 東京都 ヒメガマ、ナガボノワレモコウ、ヒメシダと混生
標準和名 トリアシショウマ 学名 Astilbe odontophylla var. congesta 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 日本固有の植物で、北海道から中部地方の主に日本海側に自生する。茎の先端から伸びる芽(3回3出複葉)の葉が閉じた形状が鳥の足に見えることから付いた和名。渓流沿いなど湿っぽい場所で見られるが、時には高山帯などにも自生する。若芽は春の山菜として食用になる。

 ちなみに「ショウマ」は「升麻」という漢方のことだが、調べてみるとサラシナショウマ属(Cimicifuga、キンポウゲ科)の植物であり、別科別属のもので形状が似ることによる命名と思われるが、ソースによってトリアシショウマの根茎から作られる、という情報もあり真偽は不明である。

(P)2015年6月 茨城県 花穂

2015年6月 茨城県 葉

同左 花が終わり結実に向かう
チャルメルソウ属 Mitella
標準和名 コチャルメルソウ 学名 Mitella pauciflora Rosend. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 照葉樹林の河川際や湧水の滲み出す斜面などに自生するユキノシタ科多年草。ユニークな和名は果実の形状がラーメン屋台のチャルメラに似ていることによるものらしい。漢字では小哨吶草。
 草体は小型で常緑、葉は心形で大きくても7〜8cm程度、両面に毛が密生する。匍匐枝を出し横に広がり株が大きくなる。本種はスプリング・エフェメラルで4〜5月に開花する。照葉樹林に自生するために、木々が鬱蒼とする前に生殖を終了する戦略である。

 当地では県北、阿武隈山地の渓流沿いや県央筑波山塊の沢などで見られるが、多くの種類があるチャルメルソウ属のうち本種がほとんどである。

(P)2013年8月 茨城県
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