日本の水生植物 水生植物図譜
タヌキモ科 Lentibulariaceae
(APGW:タヌキモ科 Lentibulariaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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タヌキモ属
タヌキモ属 Utricularia
標準和名 イトタヌキモ 学名 Utricularia exoleta R. Br. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧U類(VU)

 別名ミカワタヌキモとも呼ばれる繊細で非常に小型のタヌキモ。小型種であるヒメタヌキモの半分以下の草体である。アクアリウム用の水草を管理状態の不十分な販売水槽から購入すると付着して来て水槽内で駆除困難な邪魔者となるが、これは熱帯アジア産のものであると考えられる。しかし「種」として同一であることを否定する材料も見当たらない。簡単に言えば同種であり遺伝子上の些細な相違が推測される程度である。もちろんこの「些細な相違」が「種」を考えるときに重要な相違となるはずで安易な廃棄は厳に慎むべきである。

 かたや日本では環境省RDBでIB類(EN)という重いランクの絶滅危惧種となっている。しかし自然度の高い湿地をよく探せば見つけることが出来、水の少ない場所では泥に潜り込んだり、湿った地面でも生きている。

*レッドリストでは「ミカワタヌキモ」として記載

(P)2008年6月 茨城県(自宅育成)

2011年11月 茨城県(自宅育成)

同左
標準和名 イヌタヌキモ 学名 Utricularia tenuicaulis Miki. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 減少甚だしいタヌキモ科にあってはノタヌキモ等と共にやや残存が多い種。水面下を浮遊し、時に黄色い花を咲かせる。冬場は越冬芽となるので開花・結実しなくても越冬可である。越冬芽から発芽、分岐して無性生殖を行う。
 他種に比べ、ノタヌキモやオオタヌキモよりは印象が柔らか、フサタヌキモより小さく、ヒメタヌキモやイトトリゲモよりは大きい。文章にすると難しいが見慣れれば同定は容易であると思う。本種はタヌキモの母種とされ、交雑の相手はオオタヌキモである。タヌキモが実生しないことは長年指摘されてきたが、ゲノム解析の結果明らかになったようだ。

 霞ケ浦・利根川水系でもため池や野池にやや残存する。しかし近年残存が確認できなくなった場所も多く、レッドリストにエントリーされたように減少傾向にあることは間違いない。

(P)2011年6月 埼玉県

2011年6月 茨城県(自宅育成) 草体

同左 捕虫嚢
標準和名 エフクレタヌキモ 学名 Utricularia inflata Walter 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:生態系被害防止外来種

 北アメリカ原産の帰化植物であるが、現在の所、静岡県、兵庫県、大阪府でのみ帰化が確認されている。懸隔した場所で帰化しているのは、詳細は不明ながら人為的に移入された経緯があるようだ。霞ケ浦・利根川水系ではまだ帰化定着は確認されていない。
 「エフクレ」は外来語や学名に非ず、花茎が風や波で倒れないようにするための「フロート」の形状を「柄膨れ」と表現したもの。このフロートは我が国のタヌキモには見られない興味深いものだ。花をガードする、つまり実生に後世を託すのかというと、種の存続上はさほど実生は重要ではなく、常緑に近い状態で越冬し気温が上がれば成長、分裂を行う。無性生殖は凄まじく盛んである。

 自生の状況等はこの株をご提供頂いたマツモムシさんのWebサイト、西宮の湿生・水生植物に詳しく、ご参照願いたい。

(P)2010年9月 茨城県(自宅育成)

2010年9月 茨城県(自宅育成)

同左
標準和名 オオタヌキモ 学名 Utricularia macrorhiza Leconte 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 現在は北海道と北東北の一部にしか自生がない希少なタヌキモ。草体はイヌタヌキモより大型であり、フサタヌキモと同等程度である。特筆すべきは捕虫嚢の数で、イヌタヌキモよりも圧倒的に多い。

 さて、長年議論の対象であった「タヌキモ不稔説」は、タヌキモが本種とイヌタヌキモの雑種であることが遺伝子の解析によって明らかになったようだ。レッドリストにタヌキモが記載されているのは雑種としての確証が無かったから、であろう。今後タヌキモがどう扱われるのか興味深い。
 形質は上記のように大型であり、タヌキモ/イヌタヌキモとはやや乖離する。日本産水生植物の古典サイトである「日本の水草」では(以下「」内同サイトより引用)イヌタヌキモに付いて「殖芽の形態以外はタヌキモと全く同じ草体」と述べており、タヌキモには本種の形質はあまり受け継がれなかったようだ。

(P)2010年4月 茨城県(自宅育成)

2010年7月 茨城県(自宅育成) 開花

同左 花も大きい(自重で垂れ下がっている)
標準和名 オオバナイトタヌキモ 学名 Utricularia gibba L. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
外来生物:生態系被害防止外来種

 外来(東南アジア、オーストラリア、アフリカ亜熱帯、熱帯域に分布すると言われている)の帰化植物。観賞用に輸入されたものが各地に帰化している。便宜上「多年草」と標記したが、湿地のものは冬を越せず種子で越冬、すなわち一年草となり、水中にあるものはホテイアオイ等と同じで、草体の一部で越冬する多年草である。開花期以外の草体はイトタヌキモに良く似た貧弱なものであるが、花はイトタヌキモの2〜3倍の大きさであり、和名由来となっている。

 アクアリウムの水草を購入した際に水草に絡まって付いてきた経験が何回かあるが、これは元々東南アジアの水草業者の栽培環境から付着して来たものだろう。そうした意味では広義のアクアリウム逸出の水草であるのかも知れない。

*紫色に反射しているのは補虫嚢

(P)2010年7月 東京都

2011年10月 茨城県(自宅育成) 開花

同左

2015年6月 東京都(公園植栽) 花

同左
標準和名 タヌキモ 学名 Utricularia vulgaris L. var. japonica (Makino) Tamura 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 本種に付いては長年の間不稔説が有力で雑種起源の可能性が指摘されていたが、2005年にゲノム解析他(交配実験と葉緑体DNA分析、AFLP分析)によってイヌタヌキモとオオタヌキモのF1雑種であることが確認された。尚、母種はイヌタヌキモ、父種はオオタヌキモである。
 本来インバモの例に見られるように希少であってもRDBには載らないが、本種の扱いはいまだにRDB、レッドリスト2012ともに記載されている。また学名に付いても雑種であることを示す標記に改訂されておらず、今後の動向によって変わる可能性がある。

 上記イヌタヌキモの項で記した通り草体の特徴は母であるイヌタヌキモから受け継いでおり、顕著な相違が見られない。殖芽の形状はオオタヌキモから受け継いでいる。分布がオオタヌキモと一致しないのは水鳥伝播と雑種優勢によって版図を拡げたことによるものらしい。

(P)2010年6月 千葉県

2013年8月 茨城県

同左

2015年12月 茨城県 球形の越冬芽
標準和名 チョウシタヌキモ 学名 Utricularia australis f.fixa 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:記載なし

 情報の少ない種であり、千葉県銚子市に希産するタヌキモの一型とされる。(二名法種小名はタヌキモと同じ)タヌキモとの相違は、浮遊性のタヌキモに対し、本種は沈水生、殖芽を形成する量、時期の違いなどがあげられているが、自宅で育成観察したところではあまり変わらないようだ。
 この株は銚子市産の育成株を地元近くの方に分けて頂いたもの。現時点ではイヌタヌキモにも似ているかな?程度の相違しか見い出せていないが今後も継続して観察、精査したい。

 尚、千葉県銚子市の産地は他にも複数種の食中植物が自生、自治体によって保護されており、採集はもちろん立入りも制限されているらしい。よって現状は不明。

(P)2013年7月 茨城県(自宅育成)

2013年7月 茨城県(自宅育成)

同左
標準和名 ノタヌキモ 学名 Utricularia aurea Loir. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 殖芽で越冬する多年草の他種タヌキモと異なり種子で越冬する一年草のタヌキモ。タヌキモ、イヌタヌキモと似ているが、葉の分岐が3本で、他種より立体的なイメージがある。自生はイヌタヌキモより富栄養化した水域を好むという説があるが、霞ヶ浦水系の止水はどこもかしこも富栄養化しておりイヌタヌキモの分布域と水質の差はない。
 近似種との同定法には他にユニークなものがあって、ノタヌキモは水から持ち上げると毛筆状になる。これは上記のように葉が立体的に付くためであって、イヌタヌキモが紐状となるのに対して印象的かつ特徴的である。

 条件が良ければ草体は1mを超えて長大化する。自生地のある沼では巨大な姿が水面近くを占拠し季節により黄色い花を多数付けて壮観である。花は概ね一つの花穂に3つ以上付ける。色は黄色(下画像参照)。

 育成時には特にミジンコなどを与えなくても十分以上に生長する。むしろ他の水草の領域にも侵攻して邪魔になるほどなので適当な間引きが必要になるほどである。この傾向は育成しているフサタヌキモ、ヒメタヌキモも同じであり、本来生命力が強い属なのだ。容器は睡蓮鉢でもプランターでも構わないが、一年草であるため増水した際に種子が流失しない構造のものが良い。アオミドロの大量発生などがなければ水質も特に注意する必要はない。

(P)2009年5月 茨城県(自宅育成) (上)
2009年9月 同上 開花 (下)

標準和名 ヒメタヌキモ 学名 Utricularia minor Linn. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 湿地や湖沼水中のごく浅いところに自生する小型のタヌキモ。タヌキモやイヌタヌキモと異なる点は、土中にも茎を伸ばし土壌微生物の捕食を行っていること。水中微生物の捕食に依存度が低いためか、タヌキモ科に特有の捕虫嚢は水中部分にはほとんど付けない。逆に言えば浅水域でに適応した生態であると言えるだろう。

 葉が疎らに付き、小型種の印象を受けるが、実際にはイヌタヌキモ等と草体の大きさは変わらない。冬には頭頂部に殖芽を形成して越冬する。

(P)2005年7月 福島県
標準和名 フサタヌキモ 学名 Utricularia dimorphanta Makino 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧TB類(EN)

 第二のムジナモ、と称される程希少となってしまった日本固有種のタヌキモ。自生地は秋田・新潟・岐阜等で数ヵ所しか残存しない。
 本種はイヌタヌキモやノタヌキモに比べて大型である。タヌキモ属他種に比べ捕虫嚢が小さく非常に少ないことも特徴。花は通常の開放花とは別に、茎の節に付く閉鎖花の2種類がある。閉鎖花は自家受粉し結実する。育成下では開放花は見ることが無かったが、これは日照条件によるものだろう。

 草体は他種に比べ柔軟で繊細な印象を受ける。成長は早く分岐によって盛んに増殖する。冬は円形の殖芽によって越冬する。

(P)2008年11月 茨城県(自宅育成)

2013年7月 茨城県(自宅育成)

同左
標準和名 ホザキノミミカキグサ 学名 Utricularia caerulea L. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 タヌキモ科の食虫植物。モウセンゴケ科の食虫植物や水中に浮遊するタヌキモ類と異なり、地中の地下茎に捕虫嚢を形成する。見えないところで「食虫植物」である。もちろん栄養は食虫のみではなく、和名のもとになった「耳かき」状の小さな葉を持っており光合成も行う。
 本種は同属ムラサキミミカキグサと混同されがちだが、花の形状(色は個体差あり)で判別可能。やや不鮮明ながら下唇が突き出た受け口状の花が見えると思うが、これが本種の特徴である。

 尚、本種は熱帯・亜熱帯アジアにも自生し、この場合生活型は多年草となっている。我が国では実生により世代交代を行うので「一年草」とさせて頂いた。もともと多年草の遺伝子は持っているはずなので温室などの環境では通年育成できるのではないだろうか。

(P)2013年8月 千葉県
標準和名 ミミカキグサ 学名 Utricularia bifida L. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 本州〜九州・沖縄から中国・東南アジア、インドやオーストラリアに分布する食虫植物。ミミカキグサの仲間同様、地中の地下茎に捕虫嚢を形成し、土中の微生物を捕食する。6〜8mm長の葉を出し、光合成も行う。
 花期は8〜9月で花色は黄色。花後、和名の元となった耳かき状の顎が残存する。ミミカキグサの仲間としては最も分布が広く、湿原や湖岸から溜池畔などにも自生する。他種ミミカキグサが貧栄養湿地でしか見られないのとは対照的だ。また水位変動のある環境にも適応し、長期間の水没にも耐えられる。

(P)2013年8月 千葉県

2015年7月 千葉県

同左

2015年6月 千葉県 水中から発芽
標準和名 ムラサキミミカキグサ 学名 Utricularia uliginosa Vahl 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 貧栄養湿地に自生するタヌキモ科食虫植物。北海道〜九州、日本全国に分布する。他種ミミカキグサ同様地中の地下茎に捕虫嚢を形成し、土中の微生物を捕食する。また小さな葉を出し、光合成も行う点も同様。ホザキノミミカキグサに似るが、距が下を向き短い。また受け口状の花の形となる。果実は本種とミミカキグサが耳掻状となるのに対しホザキノミミカキグサはより丸い印象。

 他種ミミカキグサに比べ自生環境の幅が狭いため各地で減少しており、レッドデータでは準絶滅危惧(NT)の指定を受けている。

(P)2013年8月 千葉県
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