日本の水生植物 水生植物図譜
シャジクモ科 Characeae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
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シャジクモ属 フラスコモ属
シャジクモ属 Chara
標準和名 カタシャジクモ 学名 Chara globularis var.globularis. 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧T類(CR+EN)

 シャジクモ科は多くの種が絶滅危惧種となっているが、本種もどこでも見られるというものではない。少なくても水田には適応していないようで、限られた湖沼でのみ見られる。千葉県の市川市の調整池や同横芝光町の湿性植物園など撹乱された環境にも現れることがある。
 草体の特徴であるが同定に当たっては有力なポイントが2つある。一つは草体の堅さで、これは独特の皮層の構造に拠るものであり、森嶋先生の車軸藻のページでは以下のように表現されている。
 <以下引用>
 3列性の皮層をもち、棘細胞は退化して痕跡的ないしは乳頭状。小枝は先端の2〜3節を除いて複列性の皮層でおおわれる。(肉眼では小枝の先端だけ薄い色に見えます)
 <引用以上>
 もう一つの有力な同定ポイントは草体がかなり「臭う」ことである。 水田からシャジクモを引き上げると藻類系の匂いがするが、本種はタンパク質の腐敗臭のような強烈な臭いがする。同定の難しいシャジクモ科だが本種は分かりやすい、と言えるだろう。

(P)2009年8月 千葉県
標準和名 シャジクモ 学名 Chara braunii Gmelin 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 水田にも発生量が多いが、湖沼に於いては「シャジクモ帯」という沈水植物で最も水深のあるところに自生する植物として知られている。
 この科は各地でRDB入りしているが、湖沼の透明度低下によるシャジクモ帯消滅、圃場整備による自生の減少などが理由として考えられる。山室真澄先生は農薬の影響という仮説を立てられ調査、研究されているとのこと。感覚的な話で恐縮だが、絶滅危惧I類(CR+EN)は重過ぎる(レッドリスト2007で見直し)と思えるほど近所の水田ではありふれた植物である。

 造卵器・造精器を多数つけた姿は他の水草では見られない不思議な姿だ。屋外睡蓮鉢では水田で採集した他の植物に付着した卵胞子などから盛んに発生し増殖する姿がしばしば見られる。

 下画像上段:藻体 中段:藻体拡大(造卵器・造精器が見える) 下段:水田(休耕田)に自生する姿

(P)2005年6月 茨城県
2007年7月 茨城県 藻体 同左
2011年8月 茨城県 藻体拡大(造卵器・造精器) 同左
2011年8月 茨城県 休耕田に発生 同左
フラスコモ属 Nitella
標準和名 イノカシラフラスコモ 学名 Nitella mirabilis var. inokasiraensis 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2019:絶滅危惧T類(CR+EN)

 1957年に東京の神田川源流、井の頭池近くで発見されたフラスコモ。発見後絶滅し、野生絶滅と考えられていたが1986年に千葉県市川市のじゅんさい池で再発見され国内唯一の自生地とされてきた。その後2016年に発見地の井の頭池での復活が確認されたり千葉県内の耕作放棄水田で発見されたり(千葉県の耕作放棄水田から発見された絶滅危惧種イノカシラフラスコモ(Nitella mirabilis var. inokasiraensis)2021 森、宮田、西原)と、何か所かでの残存が確認されている。
 自生はやや水深があって透明度もさほどではないため(井の頭池、じゅんさい池)藻体は写真撮影はもちろん目視もできなかったが、それぞれ説明板に写真があって形状が確認できる。(右画像は市川市じゅんさい池の設置看板。草体の様子がよく分かる)

(P)千葉県市川市じゅんさい池の設置看板

 井の頭池での復活は池の環境改善のために実施された「かいぼり」の効果とされており、他にもツツイトモ(ヒルムシロ科)など希少な水草が復活している。同地ではイノカシラフラスコモは約60年ぶりの復活となり、想像以上に埋土胞子(ツツイトモは埋土種子)の寿命が長いことが分かる。しかも井の頭池は感覚的にほぼ都会のターミナル駅である吉祥寺の駅前という立地であって、尚更に意外感がある。
 イノカシラフラスコモの草体は長さ30p程度、主軸の直径は0.5o前後で非常に細い。画像の写真においてもフラスコモ属の特徴である小枝の分岐が見られる。またこの属には珍しく本種は雌雄異株である。
標準和名 テガヌマフラスコモ 学名 Nitella furcata (Roxburgh ex Bruzelius) C. Agardh var. fallosa (Morioka) Imahori 生活型 一年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:野生絶滅(EW)

 野生絶滅種であるが、森嶋先生を始めとするグループによって手賀沼の底泥から復活させられなければ掛け値なしの絶滅種となったであろうシャジクモ科の藻類である。本種に限らずシャジクモ科には絶滅、野生絶滅、絶滅危惧I類が目白押しで、自生環境に特化して進化したグループが孤立して自生を保っていたためではないか、と愚考する。

 画像は以前、千葉県我孫子市手賀沼北岸の「水の館」に展示されていたものであるが、巨大な淡水魚水槽や蛍の飼育水槽など人目を惹く展示物に比べれば地味なせいか、2008年現在は展示されていない。もちろん来場者の目を惹いている鯉や蛍より意義は遥かに重い。
 森嶋先生はもちろんであるが、県立我孫子高校(当時)の谷城先生(カヤツリグサ科入門図鑑の著者)など、千葉県は植物関係でハイレベルな人材を輩出している。お二方とも本業ではないながら事跡を輝かせる点が素晴らしい。

(P)2002年5月 千葉県(手賀沼水の館)
標準和名 フラスコモ sp. 学名 Nitella sp. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:種不明

 シャジクモの仲間だが、小枝が更に分岐することでシャジクモ属と区別される。「フラスコモ」は造卵器の形状が実験器具のフラスコに似ていることに由来する。フラスコモ属(Nitella)は我が国に50種類前後存在すると言われ、微小な同定ポイントを精査する必要があり、自生地の状況(水田、湖沼)を含めて判断する必要がある。画像の藻体は屋外睡蓮鉢に生えてきたもので来歴は不明。
 文献の検索表で調べると(「ため池と水田の生き物図鑑」P81)副枝がなく最終枝は2細胞なので、ミノフサフラスコモ、ジュズフラスコモ、レンリフラスコモ、ミルフラスコモ、ミゾフラスコモが該当するが図鑑の写真と実物が合わず、同定にはいたっていない。輸入苗やアクアリウム由来の外来種も存在するらしいので、これらも考慮に入れるとお手上げ状態である。
 近隣の水田にはシャジクモが圧倒的に多く、フラスコモ属は少ない。湖沼にのみ自生するフラスコモもあるらしいが、霞ヶ浦水系の湖沼では水質の問題もあるためか、いまだにシャジクモ科の植物を見たことがない。

参考 「シャジクモ類」NIESコレクション 「ため池と水田の生き物図鑑」トンボ出版

(P)2013年7月 茨城県(自宅育成)
2013年7月 茨城県 藻体 同左
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