日本の水生植物 水生植物図譜
ラン科 Orchidaceae
(APGW:ラン科 Orchidaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2017準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGW分類 併記
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カキラン属 シラン属 ツレサギソウ属 トキソウ属 ネジバナ属 ミズトンボ属
カキラン属 Epipactis
標準和名 カキラン 学名 Epipactis thunbergii A. Gray 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 日当たりの良い湿地に自生する野生蘭。蘭であるが地味な見かけが幸いし、さほど乱獲はされておらず時折湿地で見かけることがある。花色も地味でカキラン(柿蘭、柿色の意)の由来ともなっている。
 一方、相当マニアックな園芸店では園芸植物として販売されることがあり、1000〜2000円ほどの価格が付けられている。蘭というだけで商品価値が出る風潮は如何なものかと思うが、幸か不幸かあまり顧みる人もいないようだ。尚、原種(本種)以外に改良種も出回っている。

 草丈は生育状況により30cmから70cm程度、葉は互生し長さは10cmほど、遠目にはナルコユリのようにも見える。花は地味ながら蘭科の花で形自体は美しいものだ。育成はサギソウに準じるが、同様に水蘚単用よりも土の方が生育が良い。発芽時に共生菌が必要なことも同様なので用土の交換は注意を要する。

(P)2010年7月 茨城県

2015年7月 茨城県  花(自宅育成)

同左

2015年7月 茨城県 葉(自宅育成)

同左

2015年7月 茨城県(自宅育成)
シラン属 Bletilla
標準和名 クチベニシラン 学名 Bletilla striata 'Kutibeni' 生活型 多年草 自生環境 園芸種
環境省レッドリスト2017:記載なし

 シランの項で述べた、シランを園芸改良したものである。白花で縁に僅かに紅色が入るのが特徴。他に唇弁が黄色を帯びるアマナラン(園芸品種)やシロバナシラン(原種、form.gebinaなどがある。

 シラン同様に園芸逸出して様々な場所で見かけるが、原種や他の園芸種との中間的な形質のものも見られるのが気になる所。この画像も渡良瀬遊水地近くの湿地で撮影したもの。改良品種だけあって原種の適応範囲の広さを受け継いでいるようだ。

(P)2017年5月 栃木県

2017年5月 栃木県 白花、縁に僅かに紅色が入る
標準和名 シラン 学名 Bletilla striata Reichb. fil. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 北海道を除く日本全土から台湾、中国に分布するラン科植物。野生下ではやや湿った草原などに自生するが、園芸栽培・増殖が進んでおり、野生環境にあるものも元々の自生か植栽されたものか判断が難しい。野生に関しては環境省レッドリストで準絶滅危惧(NT)に指定されている。
 地下部に大きなバルブ(塊茎)を持つ。葉は披針形、長さは15〜30cm、幅5cm程度、花期は春から初夏で、和名の元となった紫色の花を咲かせる。やや湿り気のある環境では大きな群落となって美しい。

 原種は野生種か栽培品か区別が付きにくいが、白花種のシロバナシラン、葉に斑が入るフイリシラン、白花で縁に僅かに紅色が入るクチベニシランなどは園芸改良されたもの。栽培下では畑土などで育ち、特に用土を選ばず栽培が容易。このことからランの入門種とされている。

(P)2010年7月 茨城県

2005年5月 茨城県 花

同左

2015年5月 東京都

同左
標準和名 シロバナシラン 学名 Bletilla striata f. gebina 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2019:記載なし

 シランの白花品種である。分布域も重なり花色以外にシランとの相違点はないが、園芸品種として出回るシロバナシランは意外なほど高価である。野外湿地でも白花種はあまり見かけないので希少性が高いのかも知れない。基本種であるシランはラン科の植物としては強靭で増殖も盛んであるが、シロバナシランはさほどでもない印象を受ける。

 本種は薬草として生薬名を持ち「びゅくきゅう」と言い、鼻血、火傷、ヒビ・アカギレなどに効能があるとされる。希少性を考えれば薬草として用いられているとは考えにくいが、一応情報として。

(P)2018年5月 栃木県

2018年5月 栃木県
ツレサギソウ属 Platanthera
標準和名 ミズチドリ 学名 Platanthera hologlottis Maxim. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 北海道から九州まで全国に分布する湿地性のラン。やや富栄養化した湿地に自生するとされるが、必ずしも必要な条件ではない。画像は貧栄養湿地でのものである。湿地タイプの違いは草体の大きさに表現され、前者では1mほどになるが、後者では50〜60cmのものが多い。
 花はサギソウを単純化したような花であるが、数が多く次々と咲かせる豪華な植物だ。花弁の一部が距となり後方に延びる形状で、鳥の形であることからチドリの名を冠した和名となっている。別名でジャコウチドリ(麝香千鳥)と呼ばれるように花の香りも良い。ツレサギソウ属他種は淡黄緑色の花が多いが本種は例外的に白花である。湿地では遠目にヌマトラノオのようにも見える。

 本種も見かける機会が少なくなっているが、ラン科に共通した問題である採集圧もさることながら、生育条件である日当たりの良い湿地が少なくなっていることが大きな要因と考えられる。

(P)2010年6月 千葉県

2010年6月 千葉県

同左
標準和名 ヤマサギソウ 学名 Platanthera mandarinorum var. brachycentron 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 ヤマ、を冠するが山地性ではなく日当たりの良い湿原に自生するランである。湿原の場合「日当たりの良い」が曲者で、早晩アシなど背丈の高い植物が進入、繁茂し「日当たり」は失われてしまう。結果的にアシ刈、野焼きなどにより人為的に管理されている湿原に残存することになる。霞ケ浦・利根川水系でも見られる場所は成東・東金食虫植物群落など一部の湿地のみとなっている。
 ツレサギソウ属はどれも似通った花で同定が難しいが、ヤマサギソウは長く湾曲した「距」が他種から際立ち、同定のポイントとなる。この特徴的な距による花の形を模して「草原のクリオネ」と呼ばれる場合もある。

 他種との相違はともかく、ヤマサギソウ種内でも変種が多く特定しにくいらしい。画像は上記成東・東金食虫植物群落内のものであるが、「ヤマサギソウ」とタグを付けつつも変種の可能性は排除していない。

(P)2010年6月 千葉県

2018年6月 千葉県

同左

2018年6月 千葉県
トキソウ属 Pogonia
標準和名 トキソウ 学名 Pogonia japonica Reichb. fil. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 トキはもちろん朱鷺であるがサギソウが花の形状を示すのに対し本種は花の色を朱鷺の羽色に模した名称である。花色は基本的に淡紫紅色(トキの羽色)だが稀に白色もある。
 本種もサギソウ同様に栽培目的の採集圧のため、自生は保護された湿地以外ではほとんど見ることは出来ない。RDBに記載されており自生はたしかに絶滅寸前であるが、園芸ではサギソウ同様に流通量が多く安価なランである。湿地で見かけたとしても僅かな出費を惜しんで採集するような真似は慎みたい。

 園芸に於ける育成方法は水苔を用土とした多潅水、腰水になるように工夫すれば睡蓮鉢で育てることが出来る。発芽前の球根の堀上と植替えが必要。実生による増殖の可能性であるが、蘭である本種もラン菌共生による炭素循環が必要で、素人にはほぼ不可能であると思われる。花期は早めで5月に見られる。

(P)2008年5月 茨城県(自宅育成)

2008年5月 茨城県(自宅育成)

2009年5月 茨城県(自宅育成)
ネジバナ属 Spiranthes
標準和名 ネジバナ 学名 Spiranthes sinensis var.amoena 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:記載なし

 公園の芝生などでよく見かける小型の多年草。陸上植物のイメージが強いが湿地でもよく見かける。右画像は成東・東金食虫植物群落でのもの。幅広い環境適応能力を持っているようだ。
 別名はモジズリ、または白花品種を「シロバナモジズリ」と呼称したりもする。ネジバナの名の通り花が花茎に螺旋状に付くが面白いことに右螺旋、左螺旋は決まっておらず、同一株でも両方見られる場合がある。

 勝手に生えて丈夫に育つ雑草のイメージが強いが、育成してみると意外に難しい。ラン科植物の特性である共生菌の存在の有無が主な理由だが、一説には「イネ科の共生菌による作用で栄養分を効率よく吸収する」性質を持つ。公園の芝生(まさにイネ科)に生えるのはこんな所に理由があるのだろう。もちろん湿地でもイネ科雑草には不自由しない。

(P)2018年6月 千葉県

2009年7月 茨城県
ミズトンボ属 Habenaria (APGV以降、サギソウはサギソウ属 pecteilis として分離)
標準和名 サギソウ 学名 Habenaria radiata (Thunb.) Spreng. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:準絶滅危惧(NT)

 トキソウ同様湿地性のランである。鷺草の名前が示す通り鷺に似た美しい白花を盛夏に咲かせる。自生は保護された湿地以外にまず見ることは出来ないが、育成が容易で美しいと条件が揃っていればある意味仕方が無い。
 RDBに入っている(レッドリスト2012には記載されず)がそれは「自生」に限っての事で、園芸では流通量が多いランである。増殖も容易なことから価格もこなれているので育成したければ購入すれば良い。野生採集株も育成増殖株も違いはない。

 園芸に於ける育成方法は水苔を用土とした多潅水で、育成本には大抵「水をやり過ぎる、ということはない」と書かれている。完全に水没させてはいけないが、腰水になるように工夫すれば睡蓮鉢でも十分に育てることが出来る。発芽、生長初期にラン菌との共生が必要であるが、発芽後に新しい用土との交換も必要でなかなか曲者。私は根茎周りの旧用土を残しつつ荒木田+赤玉土の混合土と交換することで両者の要件を満たしている。花期は7〜8月。

(P)2008年7月 茨城県(自宅育成)

2008年7月 茨城県(自宅育成)

同左

2008年4月 茨城県(自宅育成) 春の新芽
標準和名 ミズトンボ 学名 Habenaria sagittifera Reichb. fil. 生活型 多年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2017:絶滅危惧II類(VU)

 開けた湿地に生えるミズトンボ属の属名植物。花の付き方や構造はサギソウとは大きく異なる。地下に球根があり、三角柱状の茎を50〜60cm伸ばし、直径約1pの淡緑色の花を多数咲かせる。唇弁が十字形となる。サキソウよりも花が緑色に見えるため、別名アオサギソウとも呼ばれる。

 湿地に自生するものはやや地味な印象に見えるためか、採集圧はさほどではなく残存している場合が多い。一方、人為的に育成することはかなり難しく、増殖も困難であるので通販や園芸店で販売しているものはほぼ山採りの自生株であると思われる。

(P)2017年9月 茨城県

2017年9月 茨城県

同左

2017年9月 茨城県
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