日本の水生植物 | 水生植物図譜 |
イネ科(1) Gramineae (APGW:イネ科 Poaceae) |
■絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2019(第4改訂版)準拠 ■外来生物表示:外来生物法第八次指定 ■植物分類:APGW分類 併記 |
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アゼガヤ属 Leptochloa |
標準和名 | アゼガヤ | 学名 | Leptochloa chinensis (L.) Nees. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 水田地帯に一般的なイネ科一年生雑草。生育期は茎が倒れるが、途中から立ち上がり草丈70cmほどになる。花穂は結実期にかけて特徴的な紫色となり、遠目にも自生が分かるようになる。 自生は本州、四国、九州で、海外にも中国から東南アジア、オセアニアにかけて広く分布する。和名の通り畦に多く、時には水田にも入り込む。花季は9月。 本種を家畜飼料として用いる地域もあるそうだ(奄美群島など)が、当地では駆除対象の雑草で有効利用はしていない。種子生産性、発芽率が高く、発生量が多い駆除難種となっている。 (P)2014年9月 茨城県 |
2014年9月 茨城県 畦の群生 | 同左 小穂は下側にびっしり付く |
2014年9月 茨城県 草体全景 | 同左 花穂拡大 |
花穂スキャニング画像 |
イチゴツナギ属 Poa |
標準和名 | イチゴツナギ | 学名 | Poa sphondylodes Trin. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 水田の畦や休耕田、湿地にも自生するが道端など乾地にまで幅広く生育するイネ科雑草。全体的にザラつくため「ザラツキイチゴツナギ」の別名も持っている。イチゴツナギ属は全般的に同定が難しく、ナガハグサ(Poa pratensis)やオオスズメノカタビラ(Poa trivialis)など帰化種に似たようなものが多い。前述のように特に草体の茎上部、葉鞘がザラつく点、3mm以上ある長い葉舌を持つ点などで判別ができる。またナガハグサのように匐枝を出さず叢生する。 属名Poaは例のヤバい宗教用語ではなく、ギリシャ語(poa)に由来する。「草」を示す言葉だが、家畜に与える「飼葉、秣」も意味し、この属にはその用途のものが多いことに由来するという。和名由来は不明。 (P)2016年4月 千葉県 |
2016年4月 千葉県 草体 | 同左 見かけはオオスズメノカタビラに似る |
イヌビエ属 Echinochloa |
標準和名 | イヌビエ | 学名 | Echinochloa crus-galli (L.) Beauv. var. crus-galli | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし この植物の分類にはヒメイヌビエを含め分類に諸説があり、具体的にはイヌビエ、ケイヌビエ、ヒメイヌビエを同種とする説とそれぞれ別種とする説がある。本図譜では形態の差異に鑑み別種説を用いる。しかしイヌビエとタイヌビエの差異は微小。oNLINE植物図鑑の分類ではイヌビエとケイヌビエを同種としている。 主に水田に生える雑草であるが、耐乾性を身に付けたグループもあるらしく荒地や畑地に自生する場合もあり様々な系統がある模様で、この点がさらに分類を混乱させている。 水田地帯であればどこでも見られる植物。イヌビエ、つまり役に立たない稗のニュアンスであるが、今時本家の稗も役に立っているとは言い難いだろう。もちろん本種は食用にはならない。水田に入り込んだ場合、生育初期の草姿が稲とそっくりで駆除難種の雑草となっている。種子生産力、発芽率も高い。 (P)2009年9月 茨城県 |
2014年9月 茨城県 | 同左 |
標準和名 | ケイヌビエ | 学名 | Echinochloa crus-galli P.Beauv. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし イヌビエと種小名が同一であり、変種であることは動かないがイヌビエとタイヌビエの差異よりは見た目の相違が大きい。毛は芒であって全体的に紫の濃い小穂が印象的である。 本種やイヌビエ、タイヌビエを含めたノビエのなかでは分類学的な差異よりも生態学的に興味深いものがあり、ケイヌビエは休耕田等で圧倒的な発生量があるようだ。小穂の印象から来るものか、と思ったが実際に株数が多い。本種も自生はイヌビエ、タイヌビエとかぶっており、手入れの少ない休耕田では稲の間からこの紫色の小穂を突き出している姿をよく見かける。 通常、本種の芒は3〜4cmであるが、イヌビエのなかにも短い芒を持つものもあり、また本種も芒が1cmに満たない場合もしばしばある。(下画像左)もともと同種とする立場も多いので当然の話だが、別種とした場合この中間型を何と称するのか興味深い。 (P)2006年9月 茨城県 |
2014年9月 茨城県 | 同左 |
2014年9月 茨城県 水田に大発生 | 同左 |
2009年8月 茨城県 |
標準和名 | タイヌビエ | 学名 | Echinochloa crus-galli var. oryzicola L. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし イヌビエの変種とされる水田雑草。外見的にはイヌビエと同様だが穂が肉厚で葉縁が白く肥厚する特徴がある。乾燥した土壌に生えるものは葉縁が紫褐色になるものもある。タイヌビエはケイヌビエ、ヒメタイヌビエ、イヌビエとともにノビエと総称されるが、一般に水田ではタイヌビエが最も発生量が多い。 草丈40〜90cm長、ノビエのなかでは大型になる。小穂は3〜4.5o長、芒は目立たない場合とやや長い場合が混在する。イネに紛れて生育し、稲刈り前に結実して種子を散布する厄介な性質を持つ。C4植物であり強光下で光合成能率の高い回路を持つことから、熱帯アジアからの史前帰化種であることが推測される。 (P)2015年11月 茨城県 |
2017年8月 茨城県 後方はケイヌビエ |
同左 結実 |
2017年8月 茨城県 |
イネ属 Oryza |
標準和名 | イネ | 学名 | Oryza sativa L. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし(栽培品種) あえて解説の必要もない日本人の主食であり、最重要の農作物でもあるが、近年小学校の教育の一環として「学校水田」や「バケツ稲」という形で栽培されたり、ビオトープでも古代米を育てることが流行ったりしており水生植物として教材や趣味の対象となっている。 ご存知の通りOryza sativa種には様々な品種が存在し、改良の努力は今日まで綿々と続けられている。耐寒性、耐病虫害性、収穫量の向上とともに近年飽和ぎみの生産量を鑑み消費者志向のブランド米や無農薬米も登場するなど多様化している。国際イネ研究所によればOryza sativa種には262品種あるそうである。 農業技術として水田の湛水管理はその目的がすべからく収穫量の増大にあり、個人で一株二株育成する上では気にする必要はないだろう。一々中干しや湛水を行っていては「最も管理が難しい水生植物」になってしまう。本物の水田では防除されてしまうコナギやオモダカを一緒に植えメダカでも泳がせて雰囲気を楽しめればよいだろう。 尚、株の入手は水田の田植え後に目的を話して余剰分を分けていただくか(田植え終了後に余剰分が畦近くに纏められているのをよく見かける。もちろん無断持ち帰りは犯罪)、園芸用の品種を購入すればよい。 (P)2005年7月 茨城県 開花 |
2011年8月 茨城県 稲刈り直前 | 同左 |
標準和名 | ムラサキイネ(古代米) | 学名 | Oryza sativa | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし(栽培品種) イネの品種。より原種に近い品種で古代米のもち品種ともされる。(品種名は紫大黒、紫稲、紅血糯など)ちなみに古代米は「稲の原種とされる野生稲の特徴を受け継いでいる品種」とされ、原種そのものではない。古代米の特徴は脱粒性が強く、草丈が1.5m以上にもなるため倒伏しやすい、収量が少ない、などである。花期は現代の稲に比べてやや遅い。このため同じ水田でも交雑は発生しないようだ。 古代米の系統にもいくつか品種があり、糠にタンニン(赤い色素)を含むものが「赤米」、本種のようにアントシアニン(黒紫の色素)を含むものが「紫稲」または「黒米」と呼ばれる。どちらもおそらく現代人の味覚にはマッチせず、食す場合には白米8に対し古代米2を混ぜて炊飯するのが一般的。 以前は水田の境界線用に植栽したらしいが、昨今の水生植物ブームで、今ではホームセンターの園芸コーナーで販売されるようになった。元々は多年草の性格が強く、環境によっては冬越しする。 *下画像は品種のバリエーション(2014年9月 千葉県で撮影) (P)2010年7月 育成 |
ウキシバ属 Pseudoraphis |
標準和名 | ウキシバ | 学名 | Pseudoraphis ukishiba Ohwi | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 草体や水に浮く挙動がアシカキと似るが、節に特徴的な白い毛が生えておらず、成長点が独特の形をしていることで判別できる。画像では水中から生えているように見えるが根茎は岸の泥中にあり茎を水面に伸ばしている。 どこにでもあるような気がするが、イネ科の水辺雑草はどれも同じような外見なのでそう思うのだろう。事実都道府県レベルではRDBにリストアップされている場合もある。茨城県南部ではアシカキやサヤヌカグサは見られるが本種はいざ探してみるとなかなか無かったりする。この画像も利根川南岸の千葉県側でやっと撮れたものである。(水中にあるのはホザキノフサモ) 文献によっては「ため池に生育するイネ科植物」とあるが、水路や河川にも自生する。この画像は小河川のものである。用水路など水位変動の激しい環境のものは水の無い時期に陸生型となる適応力も持つ。全体的に分布が薄いことは事実で、言葉通り「どこにでもある」アシカキとの関係はアギナシとオモダカの関係に似ているような気がする。 (P)2009年9月 千葉県 |
2015年5月 東京都 |
ウシノシッペイ属 Hemarthria |
標準和名 | ウシノシッペイ | 学名 | Hemarthria sibirica (Gandog.) Ohwi | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 開けた湿地に自生する、小型のアシのような植物。葉は長さ20〜30cm、線型で幅は1cm未満、葉鞘は茎に密着するがイネ科植物に共通するように合着して筒状にはならない。(画像、下上段右参照)草丈は生育条件により1m程度にまで育つ。 小穂の形状は、花軸の各節から2つ生じたものが合着し、一本の小穂のように見える。これを牛追いの鞭に例えたのが和名由来となっている。漢字表記すると「牛の竹箆」である。近似の種にはチャボウシノシッペイ(Eremochloa ophiuroides、東南アジア原産)、コバノウシノシッペイ(Hemarthria compressa (L. fil.) R.Br.、西日本、九州沖縄に自生)があるが、関東地方では見かけない。 霞ヶ浦・利根川水系では様々な湿地で見かけるが、利根川河川敷のアシ帯外縁に特に多い。一説に鑑賞目的の改良品種であるトワダアシは大きさから見て、アシを改良したものではなく、本種を品種改良したものではないか、と言われている。 (P)2011年8月 千葉県 |
2011年8月 千葉県 | 同左 |
2011年8月 千葉県 | 同左 |
2011年8月 千葉県 | 同左 |
カモノハシ属 Ischaemum |
標準和名 | カモノハシ | 学名 | Ischaemum aristatum L.var.glaucum (Honda) T. Koyama | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 海浜近くの湿地に自生するとされているイネ科の湿地植物。文献によって塩湿地性ともされることがある。たしかに内陸の湿地では見たことがないが(*)、ソースによっては同属のケカモノハシ(Ischaemum anthephoroides (Steud.) Miq.)を「海浜近くの湿地植物」としているものもあり、情報の混乱が見られる。ケカモノハシは「海浜近くの湿地」ではなく海浜植物である。 上画像は千葉県内陸部の湿地のものであるが、海底が隆起した地形であり所々砂地もあるので「海浜近くの湿地」は外していないような気もするが実態はよく分からない。近場では多くの湿地で観察できるほどの分布がない。 植物体は穂が2つ合着した特徴的な形をしており、鳥類のカモのクチバシ、転じてカモノハシと呼ばれるようになったという説が有力で、オーストラリアの珍獣カモノハシとは関係がない。 (*)下2点は太平洋岸からかなり内陸に入った土浦市のものである。土浦市は霞ケ浦に面しているが、霞ケ浦は太古の時代には太平洋の入り江であり、海浜性の植物が残存する。この意味で「海浜近くの湿地植物」は誤りではない。 (P)2009年8月 千葉県 |
2010年10月 茨城県 雌性期小穂 | 同左 雄性期小穂 |
2015年10月 茨城県 大株となった株 |
標準和名 | ケカモノハシ | 学名 | Ischaemum anthephoroides (Steud.) Miq. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし カモノハシ同様に海浜近くの砂質湿地に自生する。カモノハシとの違いは葉や小穂にある毛、花穂の大きさ(ケカモノハシの方がやや大きい)などである。草体全体も太く硬質な印象を受ける。 湿地植物と言うよりもカモノハシの項で記した通り本来的には「海浜植物」そのものであるが、茨城県霞ケ浦一帯は海跡地形であって、砂礫質の湿地が残存しケカモノハシはこうした地形に生えている。また護岸の影響が少ない湖岸には海浜同様砂が堆積し浜辺となっているが、しばしば大きな群落が見られる。元々砂地であった地形が淡水湿地に移行しても絶えることなく残存している。以上から湿地にも適応力がある植物としてご紹介する。 花穂は1本に見えるが2本の花穂が合着したもので、嘴状となっている。この様を「鴨の嘴」と評したものがカモノハシ同様に和名由来である。 (P)2010年7月 茨城県 |
2015年6月 茨城県 | 同左 |
2015年6月 茨城県 | 同左 |
クサヨシ属 Phalaris |
標準和名 | クサヨシ | 学名 | Phalaris arundinacea L. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 全国の湿地や小河川に自生するイネ科雑草。和名の通りアシ(ヨシ)に似るが、草体がより軟弱で「草」っぽい。流速が早くない河川では抽水する。地下茎を延ばして増殖する点はツルヨシやアシと同様。 同じ環境に自生するアシとの相違は上記草体の印象に加え、出穂の時期(本種は初夏、アシは晩夏〜秋)、穂の形状(本種は直立し、アシの穂は広がる)が主なところ。発生期はアシよりも、ドジョウツナギやヒエガエリに似た雰囲気がある。 草体は直立し、150〜180cmとなる大型の草本で、地下茎を長く延ばして群落となる。茎にはまばらな節があり、節毎に葉を付ける。葉鞘は長く細長い葉とあいまってスマートな印象を受ける。 やや競合に弱いところがあり、同環境にアシやマコモが密生すると見られなくなる。当地水田地帯では同じ水路でも日当たりの良い場所にアシやマコモが生え、木立の陰になるような場所にクサヨシが生えている。 (P)2010年5月 茨城県 |
2014年6月 茨城県 | 同左 |
2015年5月 東京都 | 同左 |
2015年5月 東京都 葛飾区水元公園 |
2015年5月 東京都 開花した小さな花が見える |
標準和名 | トワダアシ | 学名 | Phalaris arundinacea cv.Tricolor. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 園芸種 |
環境省レッドリスト2019:記載なし(園芸品種) クサヨシの改良品種と言われる園芸植物。葉に沿って縦に入る白の斑が美しく、白、緑、白をトリコロールとイメージしたのか、cv.Tricolor.と命名されている。「十和田アシ」としてホームセンターでもよく販売されているが、園芸品種であって十和田湖原産というわけではない。命名由来は不明である。 植物としての挙動や性質はクサヨシと同じ、と言いたいところだが注意深く見ていると2種類あるような気がしている。すなわちクサヨシ同様に湿地性が強く大型になるものと、花壇など陸地でも育ち、やや小型のものである。後者は草姿からイネ科ウシノシッペイ(Hemarthria sibirica (Gandog.) Ohwi)に似ているような感じもする。(確証はない) 画像のものはどうも後者に見えるが、「クサヨシの改良品種」という定説を信頼し、学名その他情報はクサヨシ改良品種を前提にさせて頂いた。 (P)2009年7月 東京都 公園植栽 |
コブナグサ属 Arthraxon |
標準和名 | コブナグサ | 学名 | Arthraxon hispidus (Thunb.) Makino | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 独特のウェーブのある葉の形状を小鮒に見立てて命名されたイネ科植物。湿り気のある場所に群生する、畦際や湿地には一般的な植物。尚、国内ではコブナグサ属の唯一の種である。 八丈島では刈安(カリヤス)と呼び黄八丈の染料に使用される。「カリヤス」はイネ科ススキ属にも同名植物があり、一般的な名称ではなく八丈島以外では使わないようである。ちなみに八丈島では原材料として採集し過ぎたため減少が甚だしく、移入や保全なども行われている。 細い茎が分岐し、葉鞘や節に開出毛が多い。葉は2〜6cm長、基部が茎を抱く。花期は9〜10月(北関東)。花序は分枝し、淡緑色〜黒紫色だが、経時変化によるものではなく、遺伝的または環境によるもののようだ。 (P)2005年7月 茨城県 |
2009年9月 茨城県 色の濃い花序 | 2010年10月 茨城県 色の薄い花序 |
2014年9月 茨城県 開花寸前 | 同左 茎を抱く葉 |
2015年9月 東京都 畦に群生する |
サヤヌカグサ属 Leersia |
標準和名 | アシカキ | 学名 | Leersia japonica Makino | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 春先から盛夏にかけて用水路や水田に繁茂する駆除難種雑草。当地の水田地帯では最も普遍的なイネ科雑草の一つである。水田では畦にも水路際にも発生し、時に抽水する。水面に到達すると水面上を横に繁殖する。水が無くなれば立ち上がって生育する。節に特徴的な逆毛が生えており(下画像、本来は逆毛は白いが泥水によって汚れている)、近似種との見分けは容易である。逆毛は意外に剛毛で引っ掛かると痛い。 成長力が旺盛で、農作業時に足を掻くように纏わり付くので「足掻き」という和名由来となった。イネ科の病気である葉枯病を発生させ、イネごま葉枯病の伝染源となる。稲作にとっては養分収奪に加え病原となるなど、非常にやっかいな雑草である。従来アシカキは水田内での発生はほとんどないと言われていたが、近所の耕作田内では発生しており、意外とそうでもない。またイネ科雑草の除草剤もアシカキには効果のないものもあり、尚更駆除が難しい雑草となっている。 本種に付いての解説を文献やWebサイトで閲覧すると溜池や河川での自生が多く、時に水田付近で雑草扱いされる「こともある」ような表現を目にするが、当地では水田付近に多い完全な害草である。どちらが正解ということではなく自生に付いては地域によって偏りがあるようだ。水田に入るかどうか、議論はあると思うがクサネムの挙動にも似ているように感じられる。 自生に付いてもう一点。上画像は素掘りの水路での状況であるが、アシカキが繁茂するエリアには他種の侵入がない。この10mほど下流にはマコモの群落、さらに降ってドジョウツナギの群落、ミゾソバの群落と続き、互いに侵入がなく棲み分けが成されている。アレロパシーによるものかどうか分からないが、何らかの排他性があるような印象を受ける。 以上のように駆除困難な害草であるが、驚くべきことにいくつかの都県では絶滅危惧種となっている。東京都や沖縄県では最も重い絶滅危惧種T類となっているほどであるが、これは元々分布に濃淡があるためと考えられる。地域によっては駆除に苦労している場合があり、かたや絶滅危惧種に指定されている場合があり、興味深い植物である。 (P)2010年6月 茨城県 特徴的な茎の「毛」(下画像) |
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2011年7月 茨城県 花序 | 同左 用水路際の自生 |
標準和名 | サヤヌカグサ | 学名 | Leersia sayanuka Ohwi | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2019:記載なし 水田や湿地にごく普通にあるイネ科の雑草。和名は鞘糠草で、鞘つまり果実に糠、つまり実がない状態を示しており、事実、実はほとんどスカスカである。なぜこうなったのか諸説あるが良く分からない。 アシカキにも似た非常に地味な植物で、水田内への侵入も甚だしくないが、イネ白菜枯病の冬期における寄主植物となっており、稲作にとっては危険な雑草である。この点もアシカキに似ている。 植物体の特徴は茎が非常に細く、地面を這うように成長することで、途中からやや立ち上がり開花する。また、葉茎とも全体的にザワつくので触ってみれば類似の他種との同定が容易。物の本には「分布が薄い」「なかなか無い」と表現されることもあるが、繊細で貧弱な植物のために他種植物に紛れて見つけ難い、というのが正解のような気がする。 (P)2015年6月 東京都 |
2015年6月 東京都 | 同左 他の湿地植物に埋もれるように自生 |
ジュズダマ属 Coix |
標準和名 | ジュズダマ | 学名 | Coix lacryma-jobi Linn. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
外来生物:外来生物法指定なし ジュズダマ=数珠珠(玉)という和風の名称を持つ植物であるが熱帯アジア原産の帰化種である。実が固く、数珠を作ったことでこの名が付いたと言われている。帰化時期ははっきりしないようであるが、外来生物法で検討されていないことから江戸期以前に帰化したものと考えられる。和風の名前、草姿を持ちながら実は帰化種、という植物は結構あって、本種やキショウブなどは代表例。 用水路の縁や畦道に小型の玉蜀黍(トウモロコシ)のような佇まいで自生しているが、東京都国立市で流水中に抽水で自生している姿を目撃したことがあるので抽水でも自生するようだ。 野草茶などに用いられるハトムギは実は本種であり、栽培種と自生種で名称が変わる植物の一例。もちろん麦ではない。このような例は他にホンタデ(栽培種)とヤナギタデ(自生種)などがある。 (P)2005年8月 千葉県 |
2014年8月 茨城県 | 同左 |
2015年9月 千葉県 下方に数珠状の果実が形成されてる |
ススキ属 Miscanthus |
標準和名 | オギ | 学名 | Miscanthus sacchariflorus (Maxim.) Benth. | 生活型 | 多年草 | 自生環境 | 湿地 |
環境省レッドリスト2019:記載なし アシとともに湿地に一般的なイネ科の多年草。アシやススキよりも豪華な花穂を持ち、群生して夕日を受けたりすると美しい光景となる。画像下にはセイタカアワダチソウが見えるが、この侵略的な帰化植物のアレロパシーにも強いようだ。また湿地ではアシやツルヨシと住み分けている。これは土壌の好みにもより、オギは粘土質や砂質を好み、礫の多い河原には自生しない。この点ではアシやツルヨシよりも自生域が狭い。 東京都杉並区の荻窪や井荻という地名に見られるように、湿った窪地に自生する湿地植物であるが(荻窪や井荻は今では古の地形はまったく見られない。念のため)冠水や刈り込みといった撹乱に弱く河川ではあまり増水の影響がない高水敷に多い。草刈が成される場所ではいつの間にかアシやススキに取って代わられる。 太古の帰化植物とも言われるが、すでに万葉集には何度も登場しており、いつ頃帰化したのかは定かではなく確証もない。 (P)2008年10月 茨城県 |
2014年9月 茨城県 | 同左 河川高水敷に群生 |
2014年9月 茨城県 ススキに見られるノギがない | 同左 株とならず地下茎所々から発芽成長する |