日本の水生植物 | 水生植物図譜 |
イバラモ科 Najadaceae (APGV:トチカガミ科 Hydrocharitaceae イバラモ属 Najas) |
■絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠 ■外来生物表示:外来生物法第八次指定 ■植物分類:APGV分類 併記 |
genus search イバラモ属 |
イバラモ属 Najas |
標準和名 | イトイバラモ | 学名 | Najas yezoensis Miyabe | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 湖沼 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU) 非常に稀な種であり、情報も少ない。北海道固有種とされ胆振、釧路地方に分布するという説もあるが、青森県、群馬県などでも発見されており、北日本、東日本に隔離分布するようだ、ちなみに画像の株は関東地方某所の産である。この情報も口コミで教えて頂き、サンプルとしてこの株をお送りいただくまでは全く知らなかった。 自生の情報を整理すると、水温変動が少なく清涼な湖沼にのみ産するようで、このような湖沼の数が限られている現状通りの自生状況となっている。水田に自生できるイトトリゲモやホッスモ、多少汚れた湖沼にも自生できるオオトリゲモなどに比べ、圧倒的に少なく種の存続も危ぶまれている。自生地情報を明かすことの出来ない植物の一つ。 草体は一見ヒロハトリゲモのように見えるが、葉をよく見てみると(下画像2枚)和名の元となったイバラ(鋸歯)が目立つ。手触りも感じられる鋸歯で、他のトリゲモよりもイバラモに近い印象を受ける。草体全体はイバラモのように硬質ではなく、他のトリゲモ同様やや柔軟である。 (P)2010年11月 茨城県(自宅育成) |
2010年11月 茨城県(自宅育成) 鋸歯が目立つ | 同左 |
標準和名 | イトトリゲモ | 学名 | Najas japonica Nakai | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2015:準絶滅危惧(NT) 主に水田に自生するイバラモ科一年生草本。標準和名の通り元々細いイバラモ科植物の葉のなかで一際細い葉を持っている。 見かけが細いのでイバラモ科他種を見慣れていれば判別も可能だが確実なのは種子を観察すること。オオトリゲモやサガミトリゲモのようにルーペや顕微鏡を使って表面の模様を調べる、というものではなく種子自体が2つ並んでいるのが本種である。これは肉眼で十分観察可能。(下右画像を参照)「日本水草図鑑」にはホッスモも時に種子が並列する、とあるので草体の特徴と合わせればより確実だと思われる。 水田ではしばしばホッスモと混成して繁茂している。当然ながら乾田では見られず、一部の湿田でのみ見ることができる。湿田は年々激減しており本種の減少とリンクしている。 (P)2007年7月 茨城県 |
2007年7月 茨城県 湿田でホッスモと混生する |
同左 2連した種子 |
2011年9月 茨城県 草体 | 同左 結実部分拡大 |
発芽体(2012年6月) 種子生産性、発芽率は高い。減少しているのは常時湛水の水田(湿田)が減少してしまったことによる。時として水路などにも繁茂することがあるが(2011年9月、群馬県邑楽郡邑楽町にて確認)人為的な環境故か消長が激しいようだ。 |
標準和名 | イバラモ | 学名 | Najas marina Linn. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 湖沼 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 各地でRDB入りしている希少植物。(環境省RDBには記載なし)種小名(Najas marina )が示す通り塩分濃度のある汽水域にも自生する。東日本で私が知っている自生地はその通り汽水湖であるが、西日本には淡水湖沼にも多いという。代表的な自生地は琵琶湖。イバラモ科には珍しく雄株と雌株があり、実生には両方必要。一年草であって実生しない限り世代交代は出来ない。 草体は硬質で折れやすく、自生地では流れ藻として岸辺に打ち上げられている姿も見かける。折れた流れ藻でも水中で発根する。折れやすいのは分布を拡大する手段なのだろう。 時折水草ショップで「ナヤス・マリーナ」として販売されることもあるが、分布の広い植物であり国産のものか海外のものか定かではない。 (P)2005年3月 茨城県(自宅育成) |
2010年11月 茨城県(自宅育成) 特徴的な鋸歯 |
同左 形成された果実 |
2010年11月 自宅育成 2005年10月 自宅育成 |
標準和名 | オオトリゲモ | 学名 | Najas oguraensis Miki. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 湖沼 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 年々希少となりつつあるイバラモ科のなかでは多少の自生が残存する種。近似種のトリゲモとは種子表面に横長の網目模様があること、雄花の葯室が1室か4室か、などの同定ポイントがあるが素人には判別は無理。 2004年に明らかに草姿の異なる琵琶湖産、土浦市産、龍ヶ崎市産3株を、ご無理をお願いし神戸大学の角野康郎先生に見ていただいたが、すべてオオトリゲモの可能性が強いとのご回答を頂いた。いわゆる変異の幅、で草姿による同定も難しいようだ。 尚、草姿の酷似するトリゲモ(Najas mimor L. 絶滅危惧IB類(EN))は自生を見たことが無く、全国の知り合いのフィールドワーカーの目撃情報も現状ない。 (P)2005年1月 茨城県(自宅育成) |
2009年10月 千葉県 水路の滞留にエビモと混生する。他にシャジクモも見られた |
同左 引き上げてみたところ。すでに結実して枯れかけていた |
2011年10月 茨城県 葉には小さな鋸歯がある |
同左 形成された果実 |
標準和名 | ヒロハトリゲモ | 学名 | Najas indica (Willd.) Cham. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU) 水田やため池に自生するイバラモ科の植物。オオトリゲモとよく似ているが、種子表面に六角形の網目模様があることで判別が可能。つまり結実しないと確実に同定できない。種子表面の模様は倍率の低いルーペでも観察できる。またオオトリゲモは主な自生地が湖沼、本種は主に水田と棲み分けているので自生地での判断もある程度可能。(もちろん例外はある) ヒロハトリゲモは別名サガミトリゲモと呼ばれ(環境省レッドリストにはこちらの名称で記載)、関東地方にもやや自生が残っていると推測されるが、主な自生地である水田の乾田化が進捗し残存はさほど多くない。 (P)2008年12月 茨城県(自宅育成) |
2011年8月 茨城県 取手市内の湿田で生育 |
同左 |
2011年8月 茨城県 やや目立つ鋸歯、幅のある葉 |
同左 分岐を繰り返し成長 |
標準和名 | ホッスモ | 学名 | Najas graminea Del. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 水田 |
環境省レッドリスト2015:記載なし 主に水田に自生するイバラモ科一年生草本。発芽から結実まで沈水であることが必要であり、稲の生育に応じて自在に水の制御を行う乾田では見ることが出来ない。本種はしばしば同属のイトトリゲモ(Najas japonica Nakai)と混生すると言われているが、この株が自生していた水田でも混生が見られた。他種との見分けは容易で草体から受ける印象が柔らかく色も淡い印象がある。決定的なのは小さく細い葉に突き出た葉鞘を持っている事で同環境に生育する他種イバラモ科には見られない特徴となっている。 環境省RDBに記載こそ無いが、しばしば混生するイトトリゲモ(絶滅危惧IB(EN))同様、かなり希少な植物になっている。関東地方では圧倒的に多くなっている基盤整備された乾田では見られず、里山で湧水の影響がある水田などで見られる。 (P)2007年8月 茨城県 |
2007年8月 茨城県 湿田でイトトリゲモと混生する |
同左 |
2011年7月 茨城県 草体 | 同左 突き出た葉鞘 |
実生株。自宅育成の水連鉢(常時湛水)でのもの。発芽条件はよく分からないが、晩夏〜早春に水を抜く乾田では見られないことから水中での越冬が条件になっていることが推測される。発芽率は良好で水質に問題(除草剤の流入など)がなければ5〜6月に多くの発芽が見られる。野外での減少原因はやはり乾田化と除草剤の使用と考えられる。 2012年6月 茨城県(自宅育成) |
標準和名 | ムサシモ | 学名 | Najas ancistocarpa A.Br. | 生活型 | 一年草 | 自生環境 | 湖沼 |
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧TB類(EN) 仮同定 全国的に希少なトリゲモの仲間。新潟県と茨城県ライン以西と四国の一部に分布するとされているが、あまり自生報告がない。当水系では印旛沼の某所で近年報告があり、埋土種子としては残存しているようだ。草体は糸状で細くよく分枝する。ホッスモやヒロハトリゲモに似て糸状の長さ1.5〜2cm、幅0.2〜0.3mmの葉を持ち、葉縁に5〜7個の微小な鋸歯がある。しかしこの特徴はヒロハトリゲモと同様で外見的に顕著な相違はない。 最大の特徴は種子の形状で、画像のように著しく湾曲する。この形状を称して別名マガリミヤサモ、マガリイバラモなどと呼ばれることもある。画像の株は水田に自生していたヒロハトリゲモを採集した際に種子が湾曲した株が紛れており、一株すべて同様の種子の形状であったため仮同定を行ったもの。これ以外に顕著な相違が見出せないために同定は仮である点ご了解願いたい。 トリゲモの仲間の同定が難しいのは別記事に書いた通りだが、採集、精査を行う人間が少ないこと、イバラモ科自体の生息環境が急速に減少していることによって、広く知られないまま絶えてしまう種類も出てくる可能性があると考えられる。 (P)2011年10月 茨城県 |