日本の水生植物 水生植物図譜
ホシクサ科 Eriocaulaceae
(APGV:ホシクサ科 Eriocaulaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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ホシクサ属
ホシクサ属 Eriocaulon
標準和名 イトイヌノヒゲ 学名 Eriocaulon desemflorum Maxim. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 水田や湿地に自生するやや稀なホシクサ科植物。他種ホシクサに比べて花穂が非常に長く、植生豊かな休耕田では花穂だけが突出している姿もよく見かける。
 本種と外見的特徴が似ているシロイヌノヒゲ(Eriocaulon sikokianum Maxim.)は総苞が狭被針形、本種はやや短く丸みを帯びる。また花茎が螺旋状になるという特徴を持ち、肉眼である程度の判別が可能。

 文献では貧栄養湿地に自生、とのことであるがこれまでに何度か見かけたのは休耕田であり、この画像の株も福島県白河市の休耕田のものである。茨城県では県央部水戸市周辺やかすみがうら市周辺に多く自生する印象がある。
 安定湿地よりも休耕田などの遷移環境を好む種でもあり、自生を確認しても翌年は全く見られない、ということもある。地方版RDBにはよく顔を出すホシクサである。

(P)2009年8月 福島県 休耕田
2011年10月 栃木県 渡良瀬遊水地 同左
2013年8月 茨城県 水戸市湿地 同左
標準和名 イヌノヒゲ 学名 Eriocaulon miquelianum Koernicke. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 葉長5〜20cm、幅1〜3mmのやや大型の草本。花茎は高さ5〜20センチメートル頭花に総苞片が多数あり、よく目立つ形状をしている。(頭花の1.5〜3倍長、先鋭)雄花と雌花が混生し、花に白色の毛がある。湿地や水田、休耕田などに自生するが関東地方ではやや稀。
 近縁のシロイヌノヒゲは花茎が長さ15p以上あって長く、総苞片が短い。(頭花と同長かやや長い程度)また、ニッポンイヌノヒゲは花に白毛が僅少で花茎が太く、葉長より長くならない。また花茎の捻れが少ない。イトイヌノヒゲは総苞片が薄く鈍頭、花茎が細い。以上の外見的形質の相違によって目視での同定が可能である。

 水湿地に於いてイヌノヒゲの仲間をパイオニア植物とする説もあるが、水田や休耕田での動態ではそのような性格は感じられない。また湿地においても安定した湿地で他種と混生している姿がよく見られるので、むしろ大型植物との競合に弱い植物、と見るのが妥当だろう。

(P)2011年10月 標本
2011年10月 標本 同左
2012年9月 茨城県(自宅育成) 同左 頭花

2012年6月 種子からの発芽(自宅育成)
標準和名 オオホシクサ 学名 Eriocaulon buergerianum Koernicke 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 西日本に自生する大型のホシクサ。RDBメッシュでは愛知県、京都府、奈良県以西に隔離的に自生している。(未発見産地は除く)従って関東地方、霞ヶ浦・利根川水系には自生せず、画像の株は頂いた草体を標本にしたものである。草体はホシクサに比べると大きく、高さは15cmから30cmになる。頭花は半球形、直径5mm前後。総苞片は広倒卵形、頭花よりも短い。

 種が比較的安定しているホシクサ科にあって本種は変異や交雑種があり、神戸大学が主催する水草研究会にも「オオホシクサの変異と推定雑種」 (2007 高田)などの論文が発表されている。分布傾向はツクシクロイヌノヒゲ(Eriocaulon nakasimanum Satake)と似ており(*)、この種との交雑も可能性があるようだ。

(*)分布傾向は似ているがツクシクロイヌノヒゲは個体数が少なく、レッドリスト2007では絶滅危惧U類(VU)に指定されている。

(P)2011年10月 標本
2011年10月 標本 頭花付近 同左
2012年6月 茨城県(自宅育成) 実生 2012年9月 茨城県(自宅育成)
比較のためホシクサと同じ鉢に植栽
2012年6月 茨城県(自宅育成) 頭花 同左
標準和名 クロホシクサ 学名 Eriocaulon parvum Koernicke 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 関東地方以西に希産する頭花が黒褐色となるホシクサ。ホシクサよりやや大型、花茎に多少捻じれが入る。(右の標本画像を参照)ホシクサの変異型(頭花の黒ずむもの)やアマノホシクサ、ゴマシオホシクサと似る。葉幅などの相違もあるが、最終的には頭花を分解して観察する専門的な同定法が必要となる。アマノホシクサやゴマシオホシクサは九州南部に自生するので発見地域により絞り込むことも可能だろう。

 本種は茨城県にも自生するが、自生地は極めて少なく現状は不明。いくつかの自生地を調査したがすでに絶滅したものと思われ、草体は見つかっていない。原因は圃場整備、休耕遷移、パイプライン化によるため池の放棄などが考えられる。
 園芸植物として流通することもあるが、本種として販売されるものにはホシクサやゴマシオホシクサがかなりの比率で混じる話も聞いているので注意が必要。

(P)2011年8月 標本(宮崎県産)
2011年12月 標本(兵庫県産) 同左
2012年9月 茨城県(自宅育成) 黒い頭花 同左
標準和名 コシガヤホシクサ 学名 Eriocaulon heleocharioides Satake 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:野生絶滅(EW)

 やや大型となるホシクサ。本種は埼玉県越谷市で発見され和名の元ともなったがその後絶滅し、1975年に茨城県下妻市の砂沼(さぬま)で再発見された。しかし砂沼のものも1994年の水不足の際に水管理が変更されて消滅している。この系統の種子は東京農業大学の宮本太准教授が保管されており、現在筑波実験植物園で見られる株はその子孫である。
 同じ越谷市に自生するキタミソウとは生活史が酷似しており、水位が高い時期は水中生育、水位が下がる秋に水面上に花を咲かせて結実、という生活史を持っている。キタミソウ同様に適合した環境はそう多くない。元々の分布が薄く、環境喪失によって野生絶滅にいたったことが推測される。

 水位の変動だけであれば話は簡単だが、発芽環境や水質、日照条件など分かっていないことが多く、育成下でも環境を完全に再現できていない。2010年の展示株は元々の自生地である砂沼で発芽させたそうである。野生に戻す研究は筑波実験植物園が環境省と共同で行っている。

参考文献:「異端の植物 水草を科学する」田中法生 ベレ出版

(P)2010年7月 茨城県(筑波実験植物園)
2010年9月 茨城県(筑波実験植物園) 同左
2010年9月 茨城県(筑波実験植物園) 同左
2014年5月 全草標本(筑波実験植物園)
標準和名 シラタマホシクサ 学名 Eriocaulon nudicuspe Maxim. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 静岡県、愛知県、三重県のみに自生すると言われる大型のホシクサ。代表的な産地は愛知県の葦毛(いもう)湿原である。他にも宮崎県などに産する、という情報もあるが遺憾なことに葦毛湿原含めて未訪なので確認していない。

 この株は何とスーパーの観葉植物コーナーで販売されていたもので、下賎な話で恐縮ながら1鉢120円であった。草体の大きさ、独特の花の構造から本種に間違いないと思うが、このような形で園芸流通しているのには驚かされた。
 一般に世代交代の難しい一年草と言われるが、ポット苗のタグの説明によれば「春先の発芽後は日照が確保でき花芽を付けたら日陰」という育成条件によるもの、かも知れない。地形によりそうした湿地もあるだろう。(もちろんタグの説明文が全面的に信じられるものではないが)

 花茎が長く、まとまって咲く様は「ホシクサ」の名にもっとも相応しい植物であると思う。自生地でも豊作の年は幻想的なまでの花畑が見られるそうである。

(P)2008年10月 茨城県(自宅育成)

2008年10月 茨城県(自宅育成)
標準和名 シロイヌノヒゲ 学名 Eriocaulon sikokianum Maxim. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし

 イトイヌノヒゲと似ているが総苞が狭被針形で花茎が螺旋状にならないことで区別できる。肉眼でも精査すればある程度の同定は可能だろう。
 水田や休耕田には見られず、砂質や鉱物質を主体とする貧栄養土壌の湿原に生育するとされる。そんな湿原がどこにあるか、と思うが、沖積平野である千葉県北東部にはそのような湿原が多く、他所に比べれば残存が多い。地下のごく浅い部分に砂礫層があり、何らかの撹乱が継続してある湿原で見られる可能性が高い。そのような代表的な湿原である成東・東金食虫植物群落でも本種が見られる。

 この特殊な生育条件は育成時の難易度になって現れる。荒木田やソイルなど栄養分の豊富な用土を使用すると経験上発芽率が大きく低下する。川砂単用の方が良いぐらいだ。しかし砂だけでは成長に必要な養分を得られず、この「見極め」が難しい。うまく開花まで持っていければシラタマホシクサのように観賞価値の高いホシクサだろう。

(P)2009年9月 千葉県
2011年10月 標本(兵庫県産) 同左
2014年9月 茨城県 同左

2012年6月 種子からの発芽(自宅育成)
2013年9月 茨城県
標準和名 ツクシクロイヌノヒゲ 学名 Eriocaulon nakasimanum Satake 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧II類(VU)

 兵庫県以西、貧栄養湿地に自生するホシクサ。頭花が黒いことでクロイヌノヒゲ。ツクシは筑紫と考えられるが、文献によって九州特産とされておりその流れで命名されたものだろう。(実際には冒頭の通り分布は広い)
 関東地方には自生せず自然状態では未見であるが、自生はため池の湖岸に見られることが多く、沈水状態でも生育していることもある、との事で水田雑草型のホシクサではないようだ。また水中生育もするようなので水草としても可能性があるかも知れない。
 この仲間は同定が難しいものが多く、よく似た種にクロイヌノヒゲ(Eriocaulon atrum)というホシクサがある。本種はブナ帯の泥炭湿原に生育するようなので、低地で見られるものはツクシクロイヌノヒゲ、高地ではクロイヌノヒゲという同定も可能かも知れない。

 環境省レッドデータのランクが(VU)と重いが、減少理由はため池の管理放棄が主因、この環境に自生する多くの植物と同様のものである。

(P)2011年10月 標本(兵庫県産)
2011年10月 標本(兵庫県産) 同左

2012年6月 種子からの発芽(自宅育成)
標準和名 ヒメシラタマホシクサ 学名 Eriocaulon cinereum R.Br. 生活型 一年草 自生環境 湿地
環境省レッドリスト2015:記載なし(園芸品種)

 本種は時折流通する「園芸植物」であるが、正体に付いては断片的な情報しかない。十中八九はホシクサ(Eriocaulon cinereum R.Br.)の園芸品種であろうと思われ、学名も同様のものになっている。
 学名に付いては「微小な変異」を選抜交配したもの、園芸用に改良したもので付与される記号は国際命名基準の定めるところであるが、このような学名は見たことがなく、上記の通りの事情であるのでホシクサそのものの学名を記してある。

 基本的には水田で採集できるホシクサと大差はなく、形質や生活史も同じであるので、ホシクサそのものの流通名である可能性も排除できない。

(P)2005年5月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ヒロハイヌノヒゲ 学名 Eriocaulon robustius (Maxim.) Makino. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 別名オオミズタマソウ。ホシクサとともに最も普通に見られるホシクサ科の植物。水田や湿地に自生するが、水田に自生するものは草体の直径5〜6cmである場合が多く、開けた湿地では直径15cmを超える大型の草体となる場合がある。(右下画像参照)草体の3倍近い相違はまったく別種の印象を受けるが、基本的な形は同じである。
 ホシクサに比して葉が疎ら、葉幅が広く和名通りの印象を受ける。葉は柔質で放射状に付くロゼット、10〜12p長、幅1〜1.5p。他のホシクサ属植物に見られる花茎の捻じれはない。頭花は7〜9o径で雌花と雄花が混生、総苞片は短くあまり目立たない。

 草体の大きさに関し、近隣の水田では稲刈時期に発芽するものもあり、草体が十分成熟する前に開花するため上記のような印象を受けるのであろう。一般に植物の発芽や成長は日照条件の影響を強く受けるが本種は特に甚だしく、この点は同属他種に比べ際立っている。
 本種は水中でも生育可能で、下の画像に見られるように湿地中の水路でも草体を大型化させて自生していた。ちなみにコシガヤホシクサの復活プロジェクトのキーパースン宮本太氏によればコシガヤホシクサの自生地、茨城県下妻市の砂沼ではコシガヤホシクサと同所的に自生が見られた、との報告がある。

(P)2002年10月 茨城県 耕作田(上)
2007年7月 千葉県 湿地(下)

2011年8月 茨城県 棚田 同左
2013年8月 茨城県 湿地水路でホシクサと混生 同左 イトイヌノヒゲ、ホシクサと混生
2014年9月 茨城県
標準和名 ホシクサ 学名 Eriocaulon cinereum R.Br. 生活型 一年草 自生環境 水田
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ヒロハイヌノヒゲと共に北関東の水田では最も普遍的に見られるホシクサ科の植物。これもヒロハイヌノヒゲ同様、発生する水田では発生量が多いが(下画像右では30cm四方程の画角に20株見えている)、出ない水田にはまったく出ない。このような例が隣合った水田で見られ、相違は少なくても見かけでは分からない。
 発生量の多い水田では発芽時期の異なる株が多く見られ、画像でも草体が大きく開花しているもの、草体が小さく成長途上のものが混在している。位置から考えて単純に日照の問題、と片付けられない不思議さがある。自生も含めて身近な草なのに謎が多い。

 ホシクサは細い葉を放射状に付けるロゼットから多数の花茎を伸ばし、白い花序(頭花)を付ける。花は密集し外側に総苞片がある。イヌノヒゲと異なり、総苞片は短く花序に隠れる。最もホシクサ(広義)らしいホシクサと言えるだろう。

(P)2007年8月 茨城県 耕作田 weedホシクサ
2005年8月 茨城県 耕作田 同左 群生
2011年9月 茨城県 頭花 同左 花茎には捻れが入る
2013年8月 茨城県 同左 水中で生育、花茎を水上に出す一群
2014年8月 茨城県 湿地
2011年9月 茨城県 耕作水田
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