日本の水生植物 水生植物図譜
ヒルムシロ科(2)交雑種 Potamogetonaceae
(APGV:ヒルムシロ科 Potamogetonaceae
絶滅危惧種表示:環境省レッドリスト2015準拠
外来生物表示:外来生物法第八次指定
植物分類:APGV分類 併記
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ヒルムシロ属

ヒルムシロ属 Potamogeton
標準和名 アイノコイトモ 学名 Potamogeton x orientalis 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 一応の同定ポイントとして、葉がヤナギモより細いがイトモより太い両者の交雑種、とされるがヤナギモ自体環境によって草姿が変化するので正直よく分からない。
 東京都多摩川北岸の支流には数多く残存し専門機関の同定も成されており、当該地域で採集したこと、育成するヤナギモやイトモと明らかに形質が異なることから一応の「同定」を行ったものである。当然ながらゲノム解析はもちろん植物学的な同定は行っていない。少なくても形態的に判別可能な類似種のツツイトモ(Potamogeton pusillus L.)ではない。(もっともこちらは絶滅危惧IA類(CR) であり生涯お目にかかれるか、という程だが)

 各地に残存するヤナギモに比してイトモは相当減少している状況を勘案すれば新たな発生は望めず、交雑種であるためにシードバンクも期待できない点はインバモに同じ、隠れた絶滅危惧種である。

(P)2009年5月 茨城県(自宅育成)
標準和名 インバモ 学名 Potamogeton x inbaensis Kadono 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 本種はヒルムシロ科の雑種でガシャモク(Potamogeton dentatus Hagstr.)とササバモ(Potamogeton malaianus Miq.)の交雑種である。「北九州市お糸池における自然雑種インバモの起源と現状」(2008 天野他)によれば、本種には遺伝子的にガシャモクを母親とする型とササバモを母親とする型があり、葉の形態で差異が見られるそうである。以前栽培していたインバモはササバモの形質が強く、ササバモと再交雑したものかと思っていたが、よく考えれば不稔だろう。この説を見て目が開かれた。
 そう言えばオオササエビモやヒロハノセンニンモのなかにも同種か?と思うほどの差異がある場合があり、母親側がどちらか、という観点で考えれば納得できる。

 その名の通り以前は千葉県印旛沼周辺で見ることが出来たらしいが、現在ではガシャモクとともにほぼ消え去ってしまった。印西市に残存があるとのマッピング情報を見て調査したがササバモが僅かに見られる有様なので復活も難しいだろう。実生しない交雑種であり埋土種子からの発芽もない。ただガシャモク同様にアクアリウムプランツとしての流通があり、環境の喪失が即種の喪失には繋がらないのが救い。
 葉脈のパターンは大型のポタモゲトンに共通のものであり、同定は葉柄と葉形による。すなわち葉柄は中程度(ガシャモクはほぼない、ササバモは長い)、葉形も中程度(ガシャモクがずんぐり、ササバモは細長い)というポイントであり、三種をすべて見比べれば一目瞭然。形質も中間的なものがあり、気中葉は形成しないまでもササバモの形質故か、水面近くで異形葉を出すことが稀に見られる。

 育成は容易で底床を選ばず地下茎で盛んに栄養繁殖するが、この属共通の特徴としてトリミングに弱い面がある。特に根を失う「差し戻し」では溶けるように枯死してしまう場合が多いので、レイアウトには向かない。
 自然環境で発見することは困難であるが、交雑種のためか環境省RDBへの記載はない。自生の実態はガシャモクに準じると思われる。

*下画像は3種の比較。左からガシャモク、インバモ、ササバモ。(各、葉2枚、ササバモ左は浮葉)葉柄と葉の形状による相違に注意

(P)2003年11月 茨城県(自宅育成)

標準和名 オオササエビモ 学名 Potamogeton anguillanus Koidz. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 本種はヒルムシロ科の雑種であり、ササバモ(Potamogeton malaianus Miq.)とヒロハノエビモ(Potamogeton perfoliatus L.)の交雑種であることが神戸大学の飯田聡子氏及び角野康郎先生の遺伝子研究によって分かっている。
 葉の大きさはササバモの形質を、透き通り反り返る形質はヒロハノエビモのそれを色濃く受け継いでいるかのような印象の植物である。また水槽内では赤みが強く出現し独特の透明感と相まって美しい水草である。

 分布は西日本に偏っており琵琶湖近辺では普通に見られる種であるらしい。育成時に浮葉及び気中葉の形成は確認していないが、インバモの例にもある通り交雑種の表現型は予測が付かないので形成の可能性(ササバモの形質)は否定できない。

(P)2003年9月 茨城県(自宅育成)
標準和名 ササエビモ 学名 Potamogeton gramineus L.var.gramineus. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:絶滅危惧U類(VU)

 本種はエゾヒルムシロとヒロハノエビモの雑種とされるが、詳細はよく分からない。本種自体も希少種だがエゾヒルムシロも希少であり関東地方では両種+ヒロハノエビモが自生する環境を見つけることが困難である。ササエビモが自生する奥日光湯川でもエゾヒルムシロを見たことはない。
 植物体の特徴であるが、エビモから縮れを抜いたような葉が互生する中型のヒルムシロ科で、地下茎から数珠繋ぎに新芽を出して群落を形成する。結実が確認されていないことで上記の通り交雑種と考えられ、また冷涼な地域に分布することから母種の一つがエゾヒルムシロであると考えられているらしい。和名から連想されるササバモは関係がないようだ。
 文献により学名がPotamogeton nipponicus.と標記されるが、これまたシノニムであるのか、「ササエビモ」を名乗る別種、つまり同名異種であるのかよく分からない。自生が少ない上に正体がよく分からない謎だらけの植物だ。

 以下は個人的感想だが、霞ケ浦付近で正体の分かっていないヒルムシロ科植物のイサリモはこの手の植物であるのかも知れない。

(P)2011年1月 茨城県(自宅育成)
2011年1月 茨城県(自宅育成) 同左
標準和名 ヒロハノセンニンモ 学名 Potamogeton leptocephalus Koidz. 生活型 多年草 自生環境 湖沼
環境省レッドリスト2015:記載なし

 ヒルムシロ科ヒロハノエビモ(Potamogeton perfoliatus Linn.)とセンニンモ(Potamogeton maackianus A. Bennett)の交雑種と言われる琵琶湖特産種である。琵琶湖での群落数は年々減少しているとの報告もある。当然ながら私の活動エリアには存在しない水草なので前述実態は伝聞情報。

 新芽が透き通り、細い葉がややカールする以外はヒロハノエビモの形質を色濃く受け継いでいるようである。ただし交雑種の表現型は様々であり、一概にこのような形であるとは言い切れない。時折水草ショップで販売しているヒロハノエビモのなかにも葉形が微妙な混じりがあるようで、これは区別せずに琵琶湖で採集したものであるか、ヒロハノエビモの表現型であると考えられる。(別名ツクシササエビモ)

(P)2006年11月 茨城県(自宅育成)
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