日本の水生植物 | 水草雑記帳 Weed |
アゼナ |
(C)半夏堂 |
Weed Lindernia pyxidaria (Linn.) Pennell |
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被子植物APGW分類 : アゼナ科 Linderniaceae アゼナ属 Lindernia 撮影 2019年9月 埼玉県川越市 耕作田(fig1) |
【アゼナ】 *最も普遍的な水田雑草の一つと言えるが、場所によりアメリカアゼナが優勢だったりタケトアゼナが優勢だったりする。しかしどの種も絶対的な強さというものはなく、多少の優劣はあれど仲良く共存がなされている。後から入り込んだ外来種が優勢になりがちな植物の世界にあっては珍しい。 漢字で書けば「畔菜」だと思うが、食用に供されたという話は聞かない。毒はないと思われるが、こんな小さな草を食べるという場面が思い浮かばない。もっとも現代の水田では減少したとは言え除草剤や殺虫剤の影響を考慮すべきで、迂闊にテイスティングはできない。本文でも触れるがアゼナには除草剤耐性を持ったものが出現しており薬剤の影響があるかどうか、見かけでは判断ができない。 |
アゼナ科 |
■ゴマノハグサ科、オオバコ科からの分離 アゼナが属する最も新しい分類である「アゼナ科」は短期間に二転三転している。すなわち当Webサイトでprimaryな分類としている伝統的植物分類(クロンキスト体系)でのゴマノハグサ科、1990年代に登場したAPG植物分類体系のT〜Uでのオオバコ科、2008年のAPGV分類でのアゼナ科への分離である。クロンキスト体系からAPGへの変更はともかく、素人考えではゲノム解析すればピタリと分類が決まると思っていたので、APGになってもさらに見直しが発生しているのは意外な感じがする。 分類がこの有様であるので、困ったことに現状は図鑑やネット上の分類はまちまちで、最も多い(とは言え僅差だと思うが)のはオオバコ科だろうか。私が所有する図鑑は発行年代が古いこともあってほぼゴマノハグサ科である。それに加えて自分自身が頭の古い(最近は体も古くなりつつあるが)人間なのでアゼナ、と聞けば咄嗟に出てくるのはどうしてもゴマノハグサ科である。長年植物に親しみ、愛読していた図鑑の分類は一度刷り込まれてしまうとなかなか脱却するのは難しいのだ。 (P)2019年9月 埼玉県川越市 稲刈後の水田で開花するアゼナ(fig2) しかし何科に属していても単なる分類以上の意味はないので、アゼナという植物の本質が変わることではなくこだわる必要もないが、この短期間での分類の変更は興味深いものではある。そもそもゴマノハグサ科の科名植物ゴマノハグサの巨大な草体を見ているとアゼナ(アゼナ科)やスズメハコベ(ハエドクソウ科)が仲間だったのは初めから間違っていたのだろうと思う。アゼナはAPG分類でのオオバコ科への変更は当然としても、さらに独立科として再分類を行う必然性としての遺伝的な「距離」があったのだろう。(APGVでの変更の直接のきっかけは論文「Rahmanzadeh, R., K. Muller, E. Fischer, D. Bartels & T. Borsch (2005). “The Linderniaceae and Gratiolaceae are further lineages distinct from the Scrophulariaceae (Lamiales)”」) ■仲間 下位分類であるアゼトウガラシ属Linderniaは標記が「アゼナ属(アゼトウガラシ属)」とされることが多くなった他は変更がない。ウリクサやアゼトウガラシなどは相変わらず同分類であり、印象として受ける「仲間」は遺伝子的にも仲間であるようだ。またツルウリクサ属Toreniaもアゼナ属の下位分類であり、園芸植物としてポピュラーなハナウリクサ(流通名:トレニア)もアゼナ科の植物である。トレニアは私もポット植えや庭植えで多用するが、何となく草体に既視感があったがアゼナ科に分類されて納得だ。(旧分類ではゴマノハグサ科)花の形状はアゼナ同様唇形花だが色がまちまちで形も大きい。アゼナも改良すれば観賞用としての用途(ビオトープで)があるかも知れない。 一方、APGTでアゼトウガラシ属とともにオオバコ科に移ったウキアゼナ属(Bacopa)はAPGWでもオオバコ科に残留しており、見た目の類似性が分類の当てにならない好例と言えるだろう。水草世界でもバコパとリンデルニアは別属として区別されており、育成難易度も微妙に異なるが草体は類似していて分類上の瑕疵もありかな?と考えていたが意外に距離があったということだ。 ■蛇足(「アゼナ」つながり) 分類的には前項の通りであるが、アゼナを名乗るウキアゼナ属の植物達、オトメアゼナ(Bacopa monnieri Pennell、つまりアクアリウム・プランツのバコパ・モンニエリ)やウキアゼナ(Bacopa rotundifolia Wettst)は外来帰化種である。オトメアゼナは特に生態系被害防止外来種にリストアップされているほど被害実態があり、またアクアリウム・プランツとしてポピュラーでもあることから逸出源はほぼ確定であると考えられるが、同様に逸出とされるウキアゼナはアクアリウムの世界ではまったく記憶がない。すべてのアクアリウム・プランツを育成したわけではなく、私の見落としかも知れないが、「ウキアゼナ」「Bacopa rotundifolia」「バコパ・ロトンディフォリア」で調べてもアクアリウム系の情報はヒットしない。 直接本稿には関係ないので「蛇足」だが、帰化植物の世界ではこういう濡れ衣も発生している。黒、グレー、白で判断すればウキアゼナは白だと思う。まさかアメリカアゼナやタケトアゼナを水草逸出とは言い出さないとは思うが、小さな植物の世界でもこのような事が起きている、ということを前書き代わりに書いてみた。濡れ衣でも何でも特定外来生物に指定されてしまえば趣味の対象として終わりだ。 |
排他的論理和 |
■交雑 近所の水田には特に競合する事もなくアゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナが共存している。これらは見るからに(という時点で自然科学的態度ではないが)形質が安定しており相互に交雑した形跡がないように見える。上記の通りAPG植物分類ではT〜Uでオオバコ科に分類されているがAPGV(2009年版)からアゼナ科として分離された。従って遺伝子的にも近縁であることは間違いない。見かけは(またもや)アゼナとアメリカアゼナが交雑するとタケトアゼナが出来そうな感じだが話はそう簡単ではない。 アゼナ(広義)は上記の通り個人的に形質が安定していると思っているが、時折「微妙な」株を見ることもある。アゼナとアメリカアゼナ(タケトアゼナ)の交雑があるとすればそれぞれの最大の判別ポイントである鋸歯の表現型が見られそうな気がするが、それは見たことがない。画像の株のように葉形がウリクサやウキアゼナに近いものをごく稀に見かけることがある。これは表現型からしてアゼナ、アメリカアゼナ(タケトアゼナ)の交雑にはどうしても見えない。アゼナとウリクサ、ウキアゼナの交雑と言われた方が納得できるぐらいだ。 (P)2019年9月 埼玉県川越市 葉の形状が相当微妙(fig3) 世の中様々な説があり、明らかに中間的形質を持った株は見られないものの、交雑がある、とする説もある。精密な遺伝子解析をしない限り今見られる3タイプ(ないし4タイプ(注1))が近縁種の血が混じっていない、と断言することはもちろん出来ないし、逆に交雑の結果出来上がった種である、と断言することもできない。さらに種内変異の多さからアメリカアゼナとタケトアゼナに関して国立環境研究所の侵入生物データベースでは「種内変異が多く(中略)正確な分類は困難」としている。国立の機関だから言っていることが正しい、とは思わないが逆に権威ある組織が「分からない」と言っていることは信じられる。 ■排他的論理和 交雑を「正」とした場合、植物の世界ではある意味原則論である「雑種強勢(注2)」が見られない点と、生態的地位がほぼ同様であっても仲良く共存している現実が交雑説の瑕疵であると考えるが、例えばこの点が強く懸念されるカワヂシャに置き換えて考えてみると、オオカワヂシャの侵入年代は1867年(注3)であり、すでに150年経過しているが、現実世界でカワヂシャもオオカワヂシャも絶えて両者の交雑種であるホナガカワヂシャだけになっているかというと事実は異なる。現在カワヂシャはたしかに絶滅危惧種であるが、レッドデータ2017でも準絶滅危惧(NT)であって、当地においても見つけるのに苦労するような植物ではない。 アゼナ(狭義)に関して交雑があったとしても相変わらず水田雑草として発生量が多く、もちろん絶滅危惧種にもなっていない。植物全般、こうした原則論が通用するわけではないが、絶滅危惧種には圧迫要因としての交雑種が存在するという定義と絶滅危惧種には圧迫要因としての交雑種が存在しないという定義はどちらも「正」であって、いわば排他的論理和の関係となっている。 簡単に言えば、雑滅危惧種が外来種ないし交雑種に圧迫される、という「状況」は時と場合によるということである。時と場合によるのでそもそも議論すべき事案ではない、という話。特定外来生物のナガエツルノゲイトウはたしかにはびこっているが、こと「在来種に対する圧迫」という点では確認しようがない。千葉県内で同種がはびこっている水域をかなり見たが、そもそも圧迫されるような在来種がありましたっけ?という有り様だ。無いものは証明できない。もちろんアゼナ(広義)には交雑種が存在する、またはしないという論点とは矛盾しない。 ■仮説 以上のようにアゼナと外来種アゼナの関係性、特に交雑の有無の点では不明であるとしか言いようがないが、この点に関連しては世の中に様々な説がある。アメリカアゼナは1936年に兵庫県で確認されており、侵入から80年以上経過している。もっと明確な「結果」があっても良さそうなものだが論文レベルのテキストを読んでも「見解」という用語が頻出している。要するに確定情報がないのだ。仮説レベルではあるが、アゼナ(広義)に付いての分類上の説に付いて代表的なものを整理しておく。
個人的にどの立場を取るかという点に付いては明白で、当Webサイトの水生植物図譜ゴマノハグサ科においてはアゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナを独立種として扱っている。上記の通りこれを肯定するエビデンスもないが否定する材料も見当たらない。唯一疑義があるとすれば(脚注1参照)ヒメアメリカアゼナ(Lindernia anagallidea Pennell)で、鋸歯の形状や花柄の長さなど明確な特徴がありつつも種としては否定的な見解が大部分(注5)である。似たような形質を持つものは当地でも見られるが、扱いに付いては検討中である。 |
種としての特徴 |
■アゼナ(狭義) 今更であるが水田地帯のアゼナ類に付いての種としての特徴をおさらいで。実を言えば自分で見分けを行う場合、ほぼ鋸歯しか見ていない。さらに正直に告白すれば鋸歯以外の特徴は頭に入っていない。前項で触れた交雑が発生した結果、鋸歯以外の部位に特徴が現れた場合は見逃してしまう可能性もあると思い、従って「おさらい」は自分に対してのものである。しかし以下に述べるように「鋸歯しか見ない」のが意外に正解だったりもする。 アゼナは同属外来種に比べ葉幅が若干広く3〜5脈が目立ち全縁で鋸歯がない。花柄の長さは通常苞葉(注6)の半分〜同長だが変異も多く花柄が長いものも見られる。ちなみに当Webサイト水生植物図譜ゴマノハグサ科には同一株で花柄の長さがまちまちな株を掲載しているのでご参照願いたい。やはり外見的形質の最大の特徴は全縁の葉であることは間違いない。また変異が多くても狭義アゼナの場合、鋸歯に変異が現れることはない。ある意味最も判別しやすいのが本種アゼナ(広義)である、と言えるだろう。 (P)2015年6月 茨城県牛久市 水田に抽水で生育(fig4) ■アメリカアゼナ 戦前に渡来した古い帰化植物(原産は北米)で、戦後に各地に広がったと言われている。葉縁に目立つ鋸歯があるのが最大の特徴。葉は対生し植物体下部のものには短い葉柄があり、上部のものは無柄で基部が楔型となる。アゼナ同様に葉にやや不明瞭な3〜5本の平行脈がある。花柄は苞葉の長さの半分〜同長である点もアゼナに同じ。一年草であるが、自宅育成環境(屋外)の水中で越冬する姿を見ている。アゼナ(広義)のなかで最も「水草的」な性質を持っているのかも知れない。 ■タケトアゼナ アメリカアゼナより若干遅く帰化したと言われているが正確な年代は不明。2〜3対の低い鋸歯があるがアメリカアゼナより不明瞭で目立たない。アメリカアゼナ同様に北米原産。葉は対生、卵形である。花柄は同様に半分〜同長。やはり最大の判別点は鋸歯となる。上記の通りアメリカアゼナと区別しない立場もある。アメリカアゼナとの関係は例えて言えばフタバムグラとナガエフタバムグラに近いかも。未確認であるが、おそらく「水草的」な形質はアメリカアゼナと同様であると思われる。 ■ヒメアメリカアゼナ(参考) 前述の種としての存在がいまいち良く分からない種。基本的に草体の特徴はアメリカアゼナと似るが、花柄の長さが苞葉の2〜3倍に達する。葉は対生、明瞭な鋸歯が葉に2〜3対ある。下部の葉の基部が楔形、上部の葉の基部は円形、つまり花柄の長さ以外の特徴がアメリカアゼナそのもの。アメリカアゼナの花柄も変異が多く(同一の株でも)時に花柄の長さが苞葉の2〜3倍になる場合も確認している。これとどう区別すれば良いのだろうか。 アメリカアゼナの花柄の長さは同一株のなかでもバラツキがあるが、いかなる場合も苞葉の2〜3倍になるものがヒメアメリカアゼナなのだろうか。しかしアメリカアゼナが「同一株のなかでもバラツキ」があり、そのバラツキがすべての花柄に出る可能性もあり、悩ましい。結果的にこの曖昧さがヒメアメリカアゼナの種としての疑義となっているのだろう。 【アゼナ比較表】
【アメリカアゼナとタケトアゼナ】
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除草剤耐性 |
■雑草の逆襲 アゼナ(広義)のような小型の、どちらかと言えば弱々しい雑草は除草剤を散布されれば、ひとたまりもなく枯れてしまうイメージがあるが、耐性を持つ除草剤抵抗性雑草(注7)というものが出現している。 アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナにはすべて除草剤抵抗性雑草が出現している。除草剤の効かない雑草、抵抗性バイオタイプ出現の理由は東北農業試験場によれば(注8)、スルホニルウレア(SU)混合剤に頼った結果とされている。同じ除草剤を毎年使うことでその除草剤に弱いタイプが淘汰され、強いもの同志の遺伝子が残る、というロジック。彼らが勝手に強くなったわけではなく原因は人間にあった、という落ちだ。 2019年に所用で訪問した埼玉県川越市の水田でも不思議な光景を見ているが、おそらく除草剤を散布したために他の水田雑草が消滅した後にアゼナのみが元気に繁茂している。(右画像)確証はないが、除草剤抵抗性のアゼナである可能性が高い。アゼナが普通に生える水田であれば他の水田雑草が繁茂していてもよいはずだ。またこのアゼナは通常のアゼナに比べやや草体が大きい印象も受けた。 (P)2019年9月 埼玉県川越市 他の水田雑草がない水田で生育、抵抗性が疑われる(fig7) 脚注8のリンク先サイトによれば抵抗性(除草剤の効かない)メシベ、花粉に対する感受性メシベ、花粉の組み合わせでは必ず抵抗性の種子を形成するという。要するに除草剤耐性を身に付けた株が一株でもあれば拡大再生産される、ということで、このパターンが多くの植物に拡大すれば耐性の対象となる除草剤は無用の長物となる。一発剤(意味するところは一度散布すれば1シーズン多くの雑草に対して効果を発揮する)という利便性により長年使われ続けたSU剤に対しては、すでにアゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナに加えアゼトウガラシ、キクモ、ホタルイ、ミズアオイなどが抵抗性雑草として出現している。これらに対しては初期剤と中期剤の組み合わせなどで除草可能だが、農業経済から見れば費用と手間が余計にかかる、ということだ。(後述) ■スーパー雑草との違い 成長が異様に早く「はびこり方」が半端ないスーパー雑草は除草剤に対する抵抗性も備えているが、アゼナの抵抗性とは経緯が異なり、突発的に身に付けたものと考えられる。由来は遺伝子組み換え作物で、収量や成長スピードとともに除草剤耐性を組み込んだ遺伝子が、花粉経由で意図しない雑草に取り込まれてしまったものだ。スーパー雑草としてはヒメムカシヨモギやオオブタクサ(注9)など17種類が知られているが、そのなかに水田で良く見られるオモダカが含まれている。成長スピードや大きさ(収量)はともかく、除草剤という観点から見れば抵抗性アゼナと同じだ。 現象面から見れば「除草剤が効かない」点でスーパー雑草と抵抗性雑草は同じだが、前者はより「逆襲度」が強いような気がして興味深い。遺伝子組み換え作物は100%人間の都合であって雑草の事まで考慮していない。これを逆手に取って強い遺伝子のみ取り込んでしまうしぶとさ。まさに雑草魂ここにあり、ってところか。 一方、SU抵抗性の方は異なったALS(acetolactatesynthase、アセト乳酸合成酵素)、つまりSU剤が標的とする植物の機能が異なるもので、防衛機能として進化したと見ることができる。長年SU剤を使用し続ければ植物も学習する、ってことだ。要するに抵抗性は外的要因(除草剤)に対する防衛機能の進化、スーパー雑草の方は突発的な天佑(雑草にとって)であって望外の強化であったと言えるだろう。 ■そしてコストアップ SU剤抵抗性を持った雑草達に対しても効果を発揮するというキャッチコピーでヒエクリーンバサグラン(注10)など新しい除草剤が登場している。雑草に抵抗性を持たれたら新しい薬剤を開発する、科学技術の進歩は素晴らしいが、その進歩に対して金を払うかという事は別問題である。製品ページを見ると適用雑草名にアゼナは含まれていないようだが、より厄介なオモダカ、シズイ、ホタルイ(イヌホタルイか?)などは含まれている。 しかしこれは「SU剤抵抗性」の雑草に対する使用を前提にしているわけで、現実問題、初期剤として一発剤として駆除できる雑草も多数あり、使用せざるを得ない。つまりコスト的に見れば除草剤だけで二重三重に費用がかかることになる。水田は除草だけしていれば稲が育つわけではなく肥料や病虫害対策の薬剤も考慮に入れると、多くの生産者にとっては受け入れられない費用になるだろう。ちなみにこの点、非常にザックリした計算ながら当Webサイト湿地環境論の水田の危機 第一部お米の経済学という記事で試算しているのでご参照願いたい。 エッセンスだけ再録すれば、稲作はすでに多くの農家にとっては構造的に赤字となっているので、どのような形でもコストが発生すればその分が赤字に加算される。上記のヒエクリーンバサグラン、安いと言われるネット通販でも3kgあたり4,000円近くするわけで、個人農家としては効果とは別の次元で使用するのに二の足を踏んでしまう事は容易に想像できる。手で除草すれば良い、というのは農家の平均年齢と真夏の水田を知らない都会人の発想だ。 話がアゼナ(広義)から離れてしまったが、抵抗性アゼナの画像を見ていても(近隣では実物を確認していない)大繁茂して養分収奪や作業の邪魔になるような場面は見られない。おそらくアゼナ単独ではさほど問題にはならないと思われるが、抵抗性を身に付ける柔軟性を勘案すると将来的に思わぬ影響がないとも限らない。近隣でもまだ除草剤を散布する水田はあるので観察を続けたいと思う。 |
脚注 |
(*1) ヒメアメリカアゼナ「葉の形がタケトアゼナに似るが、鋸歯がはっきりし、花柄の長さが苞葉の2〜3倍と長い。(森田1994)」しかし本文で疑義を表明している通りアメリカアゼナの変異幅がはっきりせず、特に花柄に付いては度々変異が見られることから現実的に区別が難しい。また形質が遺伝的に継続するかどうかも明確ではない中で独立種として扱うことが妥当かどうかは疑問である。 (*2) ヘテローシス。交雑種として誕生した生産性や耐環境能力などの点で両親より優れた形質を示すことだが、第一世代(F1)以降は優れた形質が現れなかったりすることもあり安定しない場合もある。逆に雑種弱勢として弱い形質を受け継いでしまうこともあるので、植物の交雑では弱い原則。水生植物の交雑でもカワヂシャとホナガカワヂシャの現状は本文にある通りだし、インバモ(ササバモ×ガシャモク)がササバモより残存しているかというともちろん違う。従って弱い原則よりも「という場合がある」程度の話だろう。 (*3) 国立環境研究所侵入生物データベースの記述によるが、考えてみれば1867年は大政奉還の年、こんな世の中ひっくり返る騒ぎの時代に外来植物の記録が残っているとは考えにくく、誤記の可能性が強い。一応参考情報だが信憑性は限りなく低いことを注記させて頂く。(では最初から引用するな、という話もある) (*4) United States Department of Agriculture、アメリカ合衆国農務省。ワケ分からん政策ばかり出して稲作農家を窮地に追い込む日本の農水省と異なり、全米オーガニックプログラムやこういう雑草レベルの分類など真面目に仕事をしている雰囲気がある。また日米貿易交渉では農産物を前面に立てて押してくるし敵ながら天晴、というしかない。特に交渉の過程で余剰のトウモロコシ250万tまでちゃっかり日本に買わせる(2019年8月26日)ところなど凄腕としか言いようがない。農水省もこのぐらいの迫力を持って仕事をして欲しい。 (*5) 主要な植物図鑑には記載がない。「日本帰化植物写真図鑑」(全国農村教育協会)には記載されているが、それもそのはず、主要な著者の一人である森田弘彦氏(秋田県立大学生物資源科学部教授)は脚注1の通り、ヒメアメリカアゼナに関する論文を発表している。いわばヒメアメリカアゼナ「推し」のご本人だ。ヒメアメリカアゼナがいつ頃認識されたのか不明で、森田教授の論文は1994年だが、実際には50年以上前に帰化定着したという説もある。 (*6) 花芽を包む葉状の部位。開花後も残存するので目視で確認可能。本文ではこの包葉に対する花柄の長さをアゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナはそれぞれ「半分〜同長」、ヒメアメリカアゼナは「2〜3倍」とし、判別点にも上げているが、それぞれ変異が多くあまり当てにはできない。ヒメアメリカアゼナ(種と仮定して)が突出して長いのは理解できるが、その他の特徴がアメリカアゼナと被っているため、アメリカアゼナの変異とどう区別するのかが問題となるだろう。 (*7) 主にスルホニルウレア系除草剤に耐性を持った雑草を指す。略して「SU剤耐性」とも呼ばれる。商品名としてはアワード(武田薬品工業)、ウルフエース(DPX-84、デュポン)、ガンバルーチ(日産化学)などがあり、これらはすべて水稲除草剤である。従って耐性を身に付けたのはすべて水田雑草で、イヌホタルイ、コナギ、アゼナ、オモダカ、ヘラオモダカ、ミズアオイ、ミゾハコベ、ウリカワなどである。これらの除草剤は主成分がベンスルフロンメチル、ビラゾスルフロンエチル、イマゾスルフロンなど異なっているが、狙いとする受容体が同じであるためにどれを使っても効果がない、という現象が起きる。これら除草剤抵抗性雑草の出現によって夢の一発剤は有名無実化し、二発目、三発目の除草剤が必要な状況となっている。 (*8) 本項参考グリーンジャパンのホームページ。リンクサイトには我々の素朴な疑問に応えるQ&Aがあり、勉強になる。しかしこのサイトの主催者「グリーンジャパン」は非営利系の団体ではなく、農業資材メーカー10社の寄合団体であって、通読していくと「除草剤が効かなくなった雑草には新しい除草剤を」という流れになる。除草剤に恨みがあるわけではないが、水田に雑草を見に行った際に、田水面は稲以外見当たらず、畔はすべて枯死、という状態は雑草マニアとしては悲しい。 (*9) ヒメムカシヨモギ(Erigeron canadensis)はキク科ヒメムカシヨモギ属の越年草。畑地や荒れ地の代表的雑草。北アメリカ原産の帰化植物で日本には明治時代に渡来した。オオブタクサ(Ambrosia trifida)はキク科ブタクサ属の一年草。これも北アメリカ原産の外来植物で、日本には1952年に侵入したという記録が残っている。オオブタクサは花粉症の主要なアレルギー源で、スギ、ヒノキに次ぐ患者数が存在すると言われる。ただでさえ害のある外来種がスーパー雑草化してしまっては救いがない。もはや外来種問題ではなく災厄である。 (*10) クミアイ化学工業製の水稲用中・後期剤。SU剤抵抗性雑草にも効果を発揮する、というのが売り文句。適切な使用下では残留性が少なく安全性が高い、とされている。主成分はピリミノバックメチルとベンタゾンナトリウム塩。使用量は10アールあたり3kgだが、10アールとは平均的な水田1枚分。水田1枚で業として稲作を営む農家はないので、本格的に使用するのであれば水田の枚数×4000円弱の費用がかかってしまう。(初期剤とは別に) 【Photo Data】 ・OLYMPUS STYLUS SH-3 *2019.9.14(fig1,fig2.fig3,fig7) ・SONY CyberShot DSC-WX300 *2015.6.13(fig4) ・Canon PowerShotG11 *2019.9.15(fig5,fig6) |
Weed Lindernia pyxidaria (Linn.) Pennell |
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