日本の水生植物 探査記録

Vol.188 梅雨寒の植生多様地



Location 茨城県土浦市
Date 2019.07.13(SAT)
Photograph
OLYMPUS OM-D E-M10 + M.ZUIKO DIGITAL14-42mm
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro

Weather Cloudy

Temperature 27℃

(C)2019 半夏堂


■梅雨の遊水地


(P)今年も咲いていたヒメナエ、株数は相当減っていた
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


梅雨の中休み
■作業不順

 驚くべきことに昨年7月の記録である。探査記録は従来2〜3ヵ月遅れ程度で公開していたと思っていたが、ふと気が付くと半年以上遅れている。立派な周回遅れだ。何かと身の回りが忙しい、というのは有りがちな言訳だがそのために記事の作成も公開も時間が取れないことは事実。かつて原稿作成の速さを謳われたスピードスターの面影はいずこ、である。
 各々、探査に付いては都度メモを写真と一緒に保管するようにしているので、自分の記憶がたしかな期間(半年〜1年程度かな)であれば記事の作成には支障がない。可能な限り早めの原稿作成と公開を行うように心がけるが、この状況であるので暫くは昨年の記録の公開を続ける事になると思われるのでご了承願いたい。


■天候不順

 2019年の夏、7月中旬現在ではマスコミは「冷夏」と呼んでいる。とは言え湿度は高く蒸し暑いので「冷」の実感はないが、日照時間が極端に短く、農作物への影響が出始めている、とのこと。
 この状況で思い出されるのは1993年の夏で、ちょうど今年のような天候が続き、おまけにピナツボ山注1)の噴火の影響もあり、米の作柄は記録的な低水準となった。米はスーパーの売場から姿を消し、緊急輸入されたタイ米が出回り仕方なくこれを食べたところ食感の違いに辟易した記憶がある。米だけではなく野菜も然りで、キャベツ一つ380円とか、ほとんど「買うな」価格が付いていたことも覚えている。
 不思議なもので、後年タイに旅行した際にはタイ米が美味しく感じられたので、根本的に調理法が違うのだろう。米の味はともかく、この一連の騒ぎを「平成の米騒動注2)」と呼ぶ。今年はこういう騒ぎが起こらないことを祈るばかり。米離れが進む世の中、我が家では依然として主食は米なのである。一所懸命、米の石高で評価された武士の子孫だからかな?(関係ないか)


(P)湿地ではコウガイゼキショウが出迎えてくれた OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


■湿地植物は?

 この天候不順で湿地植物の状況はどうなのだろうか。自宅では植栽している植物たちが順調に育っているように思えるし、ヒツジグサやタタラカンガレイなどこの時期に咲くべきものは咲いている。ミズオオバコも未開花ながら草体は随分大きくなった。今後他の植物に成長や開花で影響が出てくるのだろうか。その心配は別として、6月中旬から休みのたびに荒天で出かけられず、写真を撮っていないストレスも溜まっていたこともあり、ちょうど梅雨の中休みと休日が重なったのでフィールドの状況を見てみることにした。
 とは言え、渡良瀬や房総方面など遠距離の湿地に行くのはリスクが大きい。梅雨の中休みと言っても空には幾重にも怪しい雲が連なり、いつ降り出しても不思議はなく、まさに梅雨空そのものの天気である。遠距離をはるばる移動して到着したら雨、撮影も何もできない、このパターンが最もガッカリ度が大きくストレスがMAX。ということで、もしダメでも諦めの付く県内の手近な湿地(遊水地)に向かうことにした。勝手知ったる県内であれば最悪湿地訪問がNGでも最近マイブームのリサイクルショップ回りができる。予備計画も仕込むあたり、まさに文字通り「日和った」わけだ。
 ちなみにマイブームの対象はカメラ関係ではなく、バックパック関連である。田舎にはあまりモノの価値を知らないショップがあって、あるときヤフオクでも平均3万程度で取引されるグレゴリーの限定品「All Day All Black」の新同品を数千円で入手した。これがきっかけとなって「モノの価値を知らないリサイクルショップ」がマイブームになったのである。しかしこの趣味は一期一会、新品で36KのPORTERバロンの革のショルダーバッグのA級品が7.8Kで売りに出ていたが、半日ほど迷っているうちに売れてしまったり、逆に入荷直後のお宝を廉価で入手したこともある。毎回パターンが違うこともはまった要因だが、脱線はこのへんで。

 この湿地は植物構成が水田に近く、元々水田か休耕田だった低地を遊水地に造成したものではないか、と考えている。渡良瀬遊水地のように血みどろの歴史注3)が残っている大規模なものと異なり、遊水地と言っても地方の小規模なもの、由来を知る手掛かりもないが、植物の構成が土地の歴史を雄弁に物語っていると思う。
 その「水田由来」で最も株数が多いのがホシクサ。仲間(同属)のヒロハイヌノヒゲが自然湿地にも自生するのに対し、ホシクサ(狭義)は水田以外ではあまり見ない。こういう性格の植物がこれだけ自生しているのがこの土地の由来を証明している、と思うのだ。もちろん植物種一種のみならず、他にもアゼトウガラシ、アゼナ、サワトウガラシ、ミゾカクシなど水田で見られる「雑草」が多い。

 ホシクサは開花率が1割程度であり、冷夏の影響を一瞬考えたが、過去にこの湿地で撮影したホシクサ満開の画像は時期が一ヶ月ほど遅く、この時期はこんなものだろう。ヒメナエも上画像のように所々で開花しており、雑草達には天候不順の影響はあまり感じられなかった。むしろ後述するように、愚かな人間の行為の方に大きな影響を受けていることが感じられた。


(P)群生するホシクサ OLYMPUS OM-D E-M10 + M.ZUIKO DIGITAL14-42mm


【水田を想起させる雑草達】
コケオトギリを中心にした雑草群。白い点はヒメナエの花
OLYMPUS OM-D E-M10 + M.ZUIKO DIGITAL14-42mm
ミゾカクシは満開であった
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro

水田で見られない水田雑草

■復活

 この湿地にいつの頃からかヒルムシロが復活していることは以前に書いた。(本コンテンツ内 Vol.134 盛夏の賑)今年も素掘りの水路にはいたる所に笹型の浮葉を広げており、健在であった。かつて根絶不可能なほどの強雑草ヒルムシロを「健在」というのは相応しくないかも知れない。しかし県央の池で園芸スイレンが植栽され圧迫されて絶滅してしまった例を見ている。他の地域はあまり知らないが、少なくても千葉、茨城エリアではこういう「絵」はあまり見かけない。
 この湿地はかなり以前から見ており、ヒルムシロが突然復活した状況も見ているが、シードバンクからの復活注4)と見て間違いないと思う。管理者側が、見ようによっては涼しげなヒルムシロを植栽する可能性もないではないが、ミズマツバやヒメナエなどの希少植物を刈り取り重機で潰す(後述)人達がヒルムシロに風流を感じるとは思えない。この湿地では園芸スイレンやハナショウブを植栽しており、ヒルムシロの天敵と言える除草剤を滅多矢鱈に使用できないはず。この上は「強害草」のパワーを遺憾無く発揮して欲しいものだ。

 今まで自然下では見る機会がなかったが、今回ヒルムシロの陸生型というものを見ることができた。(下画像)モノの本や多くのWebサイトでは水が引いた環境で生きているヒルムシロを「陸生型」と言っているが、私が見るところ、どう見ても「湿生型」である。ヒルムシロは本筋が水草である以上、地下水位が担保されない環境では生きられないだろう。この点は水遣りを頻繁に行えば鉢植えで育てられるハンゲショウやミソハギの「陸生」とは異なるはず。水路の水面が浮葉でどれほど混み合っても、斜面を駆け上って「陸上」に活路を求める姿はない。ヒルムシロの「陸生型」は緊急避難的な表現型なのであろう。


(P)素掘り水路に繁茂するヒルムシロ OLYMPUS OM-D E-M10 + M.ZUIKO DIGITAL14-42mm


【がんばる強害草】
陸生型、というより湿生型
OLYMPUS OM-D E-M10 + M.ZUIKO DIGITAL14-42mm
水面にはもう余裕がない部分もあった
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


■減少

 現代の水田ではなかなか見られない水田雑草もう一種、ヒメナエ。この湿地には以前から個体数が多いが、絶滅危惧U類(VU)の希少植物である。今回、以前ほど密度が感じられなかったが、時期が早いという理由以外に、除草されている、という現実を見ることになった。
 ヒメナエが最も密度が濃いのは湿地の大部分を占めるハナショウブの植栽エリアで、草刈機を使用できないため、手で除草していたのである。ただし、手で抜き取られているのはまだ救いがあって、ハナショウブのない湿地帯に群生していたシロイヌノヒゲは草刈機によって全滅していたのである。種子は土中に溜まっていると思うのでまだ希望はあるが、何ともやるせない事をしてくれるもんだ。
 これだけ多様性のある湿地を維持存続すると成東・東金食虫植物群落のように文化的価値が出てくると思うが、自生する植物を排除して園芸スイレンとハナショウブ(もちろん園芸種)だけにしてしまったら、個人的には見る価値のない、どこにでもある水辺公園になってしまうではないか。残念なことにいまだにこんな事をやっているのが茨城県なのである。


(P)株数が減少したヒメナエ OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


 当日、中央の池を一周する遊歩道の6割ほどは立入禁止となっており、重機による作業が行われていた。おそらく「ハナショウブ園」の拡張工事だろう。個人的に最も見たかった、ハナショウブが植栽されていない「純雑草エリア」は整地されつつあり間近に現況を見ることは出来なかったが、その重機の下はヒメナエに加えてミズマツバ(絶滅危惧U類(VU))が群生するエリアでもあった。RDBにしても外来種にしても環境省の選定がすべて正しいとは考えていないが、絶滅危惧種を除草して園芸種を植栽するという行為のどこに妥当性があるのだろうか。おそらく市の予算で行っている事業だと思うが、土浦市は妥当性のない事業に税金を投入しているのか。土浦市民ではないのでこれ以上言わないが、霞ヶ浦流入の市内河川の浄化にホテイアオイを使用注5)する程度の貧しい環境理解は全国的に笑いものになる、ということをそろそろ理解して欲しい。

 今回、この工事によって複数の立入禁止箇所があり、さほど広くもない湿地全般を歩くことが適わなかったが、この湿地のポジティブな性格「毎年新たな植物が発芽する」は、純雑草エリア(放置エリア)が見られなかったことで記録が途絶えてしまった。過去、来訪の度にミズマツバ、ヒルムシロ、サワトウガラシなど次々と新顔が見られている。自分としては埋土種子由来と信じたいところであるし、その方が将来的な楽しみもあるはずだ。しかし次項で触れるように、国内のどこかから予想もしない形で移入される道があったのだ。それがこうした希少な在来植物であればまだしも(それもまったく問題がないわけではない)、この環境を一変させる外来種であれば「新顔が見られた」どころの話ではない。

見識

■犯人

 この湿地は訪問するたびにヒルムシロが復活していたりミズマツバが見つかったり、新たな発見がある場所であったが今回も「新顔」が見つかった。それもあまり嬉しくないウチワゼニグサである。
 生態系被害防止外来種(旧要注意外来生物)中の重点対策外来種注6)に指定されているウチワゼニグサはアクアリウム(屋内外を問わず)逸出とされており、そのこと自体に異論はない。しかし個別のケースを見ていくと必ずしもアクアリウムという、どちらかと言えばユーザーに寄った表現では「濡れ衣」になってしまう場合もある、という事実を今回発見した。ウチワゼニグサそのものよりも、このことが今回の「新たな発見」だと思う。

 湿地でこのような光景を見ると「いったいどこの馬鹿が」と思うが、その馬鹿は湿地の元締めであるという動かぬ証拠を見つけたのである。下の画像を見て欲しい。ハナショウブの植栽エリアの拡大に伴って植え付けを待つ株である。よく見るとハナショウブの根元の土にウチワゼニグサが生えている。


(P)今回の「新顔」ウチワゼニグサ OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


【侵入ルート】
園芸業者経由の「動かぬ証拠」
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro
こうして整然と水に入って行く
OLYMPUS PEN-F + M.ZUIKO DIGITAL30mm Macro


■馬鹿の壁

 以前、ホームセンターで販売している水生植物の鉢からナガエツルノゲイトウ(特定外来生物)が顔を出しているのを見てびっくらこいたが、その鉢のタグを見ると水生植物好きならたぶん誰でも知っている有名な関西のTという業者だった。もちろん作為的ではないと思うが、法律上故意かどうかは関係なく、業者さんであれば「3年以下の懲役または1億円以下の罰金」なのだ。罰則対象となる行為には「販売」が含まれる。ナガエツルノゲイトウを販売したわけではない、という主張もできるだろうが、同程度に罰則対象となる「運搬」は逃れられない。これはネット通販でも同じである。分かっているのだろうか?こういう脇の甘さはコンプライアンス、ガバナンス注7)の欠如と見られてしまう。早い話、企業としての信用に関わるのだ。

 ウチワゼニグサは特定外来生物ではなく罰則はないが、その環境に対する破壊力を考えれば、この場合「罰」を受けるのはこの湿地に自生する在来種の植物たちである。ウチワゼニグサが本格的に繁茂すれば、そのエリアのホシクサやヒメナエは日照を得られずにひとたまりもない。また上右画像のように隊列を組んで(そのようにしか見えない)水中に入り込む姿が各所で見られた。夏に向かい、ウチワゼニグサが入り込んだどの水域でも見られるように環境を占拠するようになれば僅かな面積の水路に復活の場を見出したヒルムシロもいずれ負けるだろう。金をかけて多様性をスポイルし園芸種と外来種を移入している。これを馬鹿と言わず何と表現すれば良いのか。その馬鹿も並みのモノではなく犯罪的な馬鹿である。ところがどっこい、管理運営側は一切そのことに気が付いていない。気が付けばこんなことはしないはず。予算を使うために、正しい事業と信じて行っている。
 この状況を行政に指摘したとしても無駄だろうなぁと思うのには理由がある。(脚注5を読んで頂ければどういう相手か分かる)私にとっては最近の韓国と同じである。養老孟司氏の「バカの壁」にはこう書いてある。”「話せばわかる」なんて大ウソ!互いに話が通じないのは、そこに「バカの壁」が立ちはだかっているからである”

 数年前のこの湿地の姿は渡良瀬遊水地や成東・東金食虫植物群落には及ばないが、それでも毎年埋土種子から様々な植物が発芽し定着する夢のような環境であった。個人的には水田の古(いにしえ)の姿を見ることができる大切な存在でもあった。こうした破壊の兆候は、ハナショウブやスイレンなど園芸種を導入しているという点で以前からあったが、少なくても雑草達が生き残る余地があり、共存できれば多様性の観点からも「価値ある湿地」として存続できただろうと思う。まったく惜しい。
 しかし今回は決定的なもの、環境を根こそぎ破壊する外来種の存在とその侵入ルート、積極的に希少植物の自生エリアを破壊する管理方針を見てしまい、水生植物を見て撮影したという高揚感ではなく、この日の天候のような気持ちで帰った。はっきり言えば「二度と来るか、ボケェ」である。私には何の権利もない湿地であるし管理側がどうしようと勝手である。そしてその愚かな行為に悪口雑言を表明するのも私の勝手である。もっと言えば土浦市に税金は払っていないが、国税は払っている。注8)税金の使途として批判する権利ぐらいはあるはずだ。

 最後にもう一度。前述したような高名な湿地はともかくとして、日光市のシモツケコウホネの自生地でも佐野市のナガレコウホネの川でも、そして先日見に行った下野市のトウサワトラノオの自生地でも周辺住民の意識が圧倒的に高く、日本人の多様性に対する認識もレベルが高い、と思っていた。ちょっと前に遠征した静岡県三島市など、全市をあげてミシマバイカモや生育環境の保全に取り組んでいる印象を受けた。この湿地でも今までのヒメナエの群生密度や株数はおそらく日本有数であり、適切に維持すれば前述の自生地のようになれたと思う。スイレンやハナショウブを植栽するのは少しでも訪問者を増やし喜んでもらうという気持ちからだと思うが、見る人が見れば大規模な自然破壊としか思えないはず。栃木や千葉で出来ていることが、なぜどちらも隣県である茨城で出来ないのだろうか。

脚注

(*1) フィリピンのルソン島にある火山。1991年6月におよそ400年ぶりに噴火し、粉塵が成層圏にまで到達したため地球の気温が約0.5℃下がり、オゾン層の破壊も著しく進んだと言われている。噴火2年後の1993年にはその影響が日本列島を襲い、気温が平年より2度から3度以上下回る冷夏となった。1993年は例年通りに梅雨明け宣言が発表されたが、天候不順が長期に渡り継続、8月下旬になって気象庁が沖縄県以外の梅雨明け宣言を取り消しするという前代未聞の事態となった。1994年以降は大規模な火山の噴火はなく、このような事態は考え難いが地球環境が大きく変動しており何があっても不思議ではない。

(*2) 1993年の冷夏により、米の日本全国の作況指数が74となった。ちなみにこの指数が90になると作柄は「著しい不良」であり、この数字は壊滅的なものと言えるだろう。当時の記憶では必要以上に世間が騒ぎすぎ、混乱に拍車がかかった感がある。忘れてならないのは、この事態を受けて政府が各国に米の緊急輸入の要請を打診した結果、タイ王国政府がいち早く応えた事実である。たしかにタイ米は日本人の味覚には合わないものだが、この恩は忘れてはならないだろう。また2011年の東日本大震災の際に台湾の人々から受けた援助も忘れられない。困った時に動いてくれるのが真の友人だと思うが、何につけ文句と批判だけの隣の国は友人ではない。最近は政府もやっとそれなりの対応をするようになり大慶至極。

(*3) 渡良瀬遊水地は100年以上経過して客観的に評価できる環境となったが、歴史を読み返すと成田空港の三里塚闘争以上の悲惨な状況が垣間見える。田中正造の戦いは有名だが、1911年の旧谷中村民の北海道常呂郡への移住は戊辰戦争に負けた会津藩の斗南(青森県下北半島)移住よりも過酷だ。現在の渡良瀬遊水地が多様性の宝庫、ラムサール条約登録湿地として、また熱気球や谷中湖のヨットなど多面的に利用されている現状から、けっして無駄にはなっていないと思うが、強制退去させられた人々は生物多様性や後世の人間の遊びのために去ったわけではない。

(*4) ヒルムシロの発芽率は2〜3%である、という研究結果があり、毎年生産される種子のほとんどはシードバンクとなる。この湿地の復活劇を見るとヒルムシロの戦略の正しさが証明された、と思う。以前の環境では除草剤も使われていたはずで、シードバンクに影響がなかったのが幸いだが、同じように除草剤に弱いスズメノトウガラシやミズマツバも復活している事実を鑑みると、代謝の行われない種子には薬剤が浸透しないのかも知れない。関係ないが毎年のように除草剤を散布しても同じ顔ぶれの雑草たちがすぐに復活する自宅裏庭を見てそう思った。

(*5) 以前、読売新聞の地方面(茨城版)に、土浦市内の霞ヶ浦への流入河川にホテイアオイを浮かべ浄化を行っている、という記事が掲載されていた。ホテイアオイ導入時の重量と回収時の重量を比べて差額分の窒素を吸収した、と好意的に評価していたが、24時間監視できない以上霞ヶ浦への逸出の危険は常在するはず。ホテイアオイは世界の侵略的外来種ワースト100にリストアップされている危険な植物で、ビクトリア湖(アフリカ最大の湖、ケニア、ウガンダ、タンザニアにまたがる)で壊滅的な被害が出ている事例もあり、水質浄化目的とは言え安易に利用するものではない。

(*6) 環境省が公開している「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」(このリストに掲載される外来種が「生態系被害防止外来種」)は階層的なカテゴリーとなっており、重点対策外来種は(国外由来の外来種)>(総合的に対策が必要な外来種)>(重点対策外来種)となっている。他のカテゴリーの外来種と何がどう違うのか、判断基準は何か、という点に付いては記述がなく、また表現も修辞的であるためによく分からないというのが本音。お役所仕事の通弊というか、分かりやすい表現にしても誰も批判しないと思うのでそろそろこういうのは見直して欲しいもの。

(*7) ちょっとした規模の企業に勤務されている方なら分かると思う。コンプライアンスは「法令遵守」で、法令に違反して上げられる利益よりも違法性が明らかになり社会的制裁を受けることによる損失の方が大きい、という認識から一般化した。別に「いい人、いい企業」と思われたくて広まった概念ではない。正しい行いをする企業でも利益がなければ消えるだけ。今回のこの会社の話はコンプライアンスの問題よりはガバナンス(企業統治)の問題で、育種・出荷現場に対する統制が全く機能していないのではないか、という話だ。現場で明らかに違法である植物を一緒に出荷してしまえば企業として罰則を受ける。場合によっては事業存続に関わる大問題ともなる。その指導管理が甘いという類の話で、通常の感覚で言えば「脇が甘い」企業と思われても仕方がないだろう。

(*8) 地方自治体が地方税の税収だけで運営ができないことは周知の事実。国税から一定金額、地方自治体に対し地方交付税が交付されてはじめて健全な運営が可能となる。この地方交付税は総務省の説明によれば「地方交付税は、本来地方の税収入とすべきであるが、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば「国が地方に代わって徴収する地方税」(固有財源)という性格をもっています。」とある。すなわち、縁もゆかりもない地方都市であっても自分が支払った税金による恩恵を受けている、ということである。


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