日本の水生植物 探査記録

Vol.182 せせらぎを歩く 源兵衛川編



Location 静岡県三島市 Date 2019.05.04(SAT)
Photograph
Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM
SONY DSC-WX500

Weather sunny/Thunderstorm

Temperature 23℃

(C)2019 半夏堂


■せせらぎの道 源兵衛川


(P)源兵衛川を歩けるせせらぎの道
Canon EOS6D / EF-40mm F2.8STM

大人の遠足
■川の中の道路を散策する

 この「趣味」と言うと、一言では説明が難しいが、要は湿地や水のある所を歩いて植物を見物したり写真を撮ったりする趣味のことだと思って頂いて結構だが、とにかくその「趣味」において聖地とも呼ぶべき場所がいくつかあり、例えば尾瀬や忍野八海、奥日光の湯川などがある。それらは趣味人として生きているうちに一度はゆっくりと見るべきなのである。
 その聖地のうち未訪問で長年の宿題の一つとなっていた柿田川に行ってきた。柿田川はこの「趣味」においてはビックネームだが、実は湧水の源流から狩野川に合流するまで全長1.2km程度の短い河川だ。それよりも柿田川にいたる三島の街にある無数の河川がすべて富士山の伏流水を起源とする湧水河川であり、街中で様々な水の表情を見せてくれた。
 このことは予習の成果もあって知識として持ってはいたが、街中に、かの矢川や落合川注1)がいたる所にあるイメージで、私のような「趣味者」には理想の環境だが、普通の生活者にとっては橋を渡るために迂回したり何かと不便な側面もあるだろうな、と思った。


(P)源兵衛川スタート点近く Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM


■貧乏旅行へ

 なぜ急に思い立って柿田川に行くつもりになったのか、というと時間ができたからである。世間では10連休となったこの年のGW、こちらは休みがない医療施設で、それぞれがブツ切り交代休みなので計画が立てられない。そんな所に後半は奇跡的に3連休が取れ、家でごろごろしているのも何だかなぁ、と考えていた所に「柿田川」というワードが舞い降りたのだ。通常、連休の休み初日は溜まった疲れのため朝は起きられず、起きてもゴロゴロしている普段の自分にしては上出来なアイディアが舞い降りたものだ。

 アイディアは固まったが何しろいつも通り金がない。新幹線で行けば快適かつ時間の節約になるが、交通費は普通電車のほぼ倍額になってしまう。倍となれば迷うことなく早起きして普通電車の乗り継ぎで三島に向かうことにした。近頃は上野から東海道方面も乗車できるので乗り換えはラッキーなら常磐→東海道の1回で済むかな?と考えていたがこれはとんでもない甘い考えだった。都会人ではないが、万事大雑把なので基本的に時刻表を調べる習慣がない。何とかならぁが基本スタンスである。
 最もローコストの移動手段、食費をぎりぎりに削る、大雑把な計画、つげ義春の漫画の世界だが現代でも似たような行動パターンの人間はいる。むしろ格差社会が進んだ現代こそこういう行動様式が多いかも知れない。漫画の世界と異なるのは形の良い石を拾って商売の元にしたり、地方の中古カメラ屋を回って(それはやってみたいが)安く仕入れ、東京で高値で売りさばくことをしないだけ。後は・・・精神的な悲壮感はないかな。

■東海道の不都合

 上野で乗車できたのは小田原行きだったが、結果的に小田原で熱海行き、熱海で沼津行きと乗り換えが必要だった。しかもどれもこれも乗り継ぎ時間が分単位(便利は便利だ)、小田原で我慢できずトイレに行ったために一本パスしてしまい余計時間がかかってしまった。普段通らない、縁のない地域なので(そもそも熱海が神奈川県なのか静岡県なのかよく知らなかった)熱海で乗り換えた際に何で2〜3個先の三島までこんなに時間がかかるのか、と北千住から亀有に行く感覚で考えていたが、途中には小学校社会で習って以来、半世紀ぶりに名前を聞く丹那トンネル注2)があるのだ。伊豆半島の付け根を横断しなければならないのだ。そりゃ時間はかかるさ。
 家を出たのが7時前なのに三島に降り立ったのは11時過ぎ、ほぼ4時間もかかってしまった。東海道線の乗り継ぎに関しては何となく理由は分かる。神奈川県までは管轄がJR東日本、静岡県以西はJR東海という「会社の壁」のようなものがあるのか、長距離電車の運転をさせない、働き方改革注3)のようなものがあるのだろう。何にしても普通電車でこのルートを移動するには数次の乗り換えが必要になる、ってことである。

 三島に降り立てば駅前広場に湧水の噴水がある程。駅前ロータリーの信号一つ渡れば湧水河川の源流が始まるのですぐに見学が開始できる。これでこそ「せせらぎの街」。「街のせせらぎ」程度の話ではない。街中せせらぎ、なのである。なんてすばらしい環境だ。休憩なしにすぐに歩き出したが、東海道線の責め苦を一瞬で忘れるほどのマイナスイオンがあたりに満ち溢れていた。そのマイナスイオンにあたり過ぎたのか、駅前にある楽寿園という有料の(300円)公園に入ってしまったが、自然景観で高名な源兵衛川の源流が園内にある、という情報に惹かれてのものだった。しかし見るべきほどのものはなく、裏口の源兵衛川流れ出しあたりからすぐに外に出てしまった。


【三島源兵衛川のビュー】
Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM

川の植物たち
■目立つ外来種

 これだけ湧水に恵まれ清浄な流れが多い三島なので、街中いたるところでミシマバイカモ注4)が見られるだろうと思っていたが、それも大きな誤解だった。源兵衛川の「川の道路」を歩き出してすぐ目に付いたのはキショウブ、オランダガラシ、オランダカイウといった外来種。(「オランダ」何某はオランダ原産ではない、念のため)

 多くの観光客が訪れる観光都市なのでキショウブやオランダカイウという花が豪勢な水生植物があることは重要なのかも知れない。しかしこれらを含めて「自然豊か」と称するのはちと微妙な気もする。関東でも「アヤメ祭り」はほぼ園芸種のオンパレードだし中にはキショウブも混じっている。世間一般の認識の水準からは大きく乖離していないが、さすがに「せせらぎの街」だけにどうだろうか。
 この地点ではミシマバイカモはもちろん沈水植物の姿はなく、湧水の湧き出し直後の河川であることから水温が低すぎるのか貧栄養に過ぎるのか、どちらにしても渓流のような印象を受けた。


(P)群落になっていたキショウブ Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM


 源兵衛川の遊歩道は幅が極端に狭く、上りも下りもないのですれ違いが大変だ。自然の河川に人工の通路を通してあるので、出来るだけ影響がミニマムになるような設計なのだろう。そして設計時の予想以上に観光客が増加している、ということもあるかも知れない。とてもゆっくり写真を撮りながら、という雰囲気ではなかった。
 自分は何かの写真を撮っている時に他人が前を横切るのを遠慮して待っているようなシチュエーションが苦手で、この時もカメラを構えつつ前から歩いてくる人の歩みが遅くなるのを感じると適当にシャッターを押している自分に気が付いた。他人に迷惑をかけるのが嫌なのではなく、ゆっくり写真を撮れないのが嫌なだけだが、せめてこの歩道が1.5倍ぐらいあればな、と思った。さすがにこの通路に三脚を広げて鳥を待っている馬鹿はいなかった。

■下流へ

 今回のメインの目的である柿田川は行政区分では三島市ではなく、隣町の駿東郡清水町にある。三島からのアクセスは湧水を見物しながら南方の国道1号線にいたり、1号線を西に向かうもので地図上では3〜4km程度。春の散歩としてはちょうど良いが、この日は昼過ぎから広範な地域で雷雨が予報されており、三島市内の見物はそこそこに柿田川に向かうことにした。帰りに余裕があったら国道1号線から北の湧水部分を三島駅まで見物しようという計画。(これが結果的に大正解であった)従って以降の話は柿田川見物の後、帰路の話となる。話があちこち行って自分でも混乱してしまうので、柿田川は別編とし本稿では三島市内の湧水の状況に限って話を進めることにする。
 一般に関東平野の山の見えない場所に住んでいる人間は雷雨に対してやや鈍感だ。積乱雲がわきだしゴロゴロ始まっても雨が降らずいつの間にかどこかに行ってしまう事がままある。しかし私は雷雨では山梨や長野で相当の目に合っており、近くに山がある場合の雷雨の恐ろしさをよく知っているのだ。山と言えば三島の北には日本一の山があるわけで、この地域で予報を甘く見ることは禁物、せっかく財布の中身やら時間やら万難を排してここまで来て長年の宿題をしないで帰るわけにはいかない。行動は迅速に。

■ミシマバイカモ

 湧水も河川となって1km以上地表を流れ水温も温むのか、栄養が足り出すのか、下流部では様々な植生が見られた。ミシマバイカモも姿を見せ始め、あちこちでそこそこの群落を形成する姿が見られた。もっとも開花していない沈水の姿を水面上から見るわけで実は他のバイカモかも知れなかったが、三島市内の各種案内板にはミシマバイカモという標記しかなく、とりあえず信じることにした。
 しかし過去、ミシマバイカモは三島の繊維産業による地下水の大量消費や生活排水の流入によって市内のものは絶滅している。現在見られるミシマバイカモは柿田川から移入されたもの、さらにこれが広がったもののようだ。もしかすると積極的に各所に移植しているのかも。

 よそ者から見ると三島市も清水町も似たように見えるが、三島から見れば地元の名前が付いた植物を絶滅させてしまい、隣町から貰わなければならなかったことは大きな屈辱だろう。しかし環境破壊の反省を現在の姿にまで復旧させた努力は凄い。わが町はトネハナヤスリ発見の地注5)とされているが、反省どころか言及もない。言及もないので復活の試みももちろんない。

 環境行政の片鱗も見えない市と環境を町起こしにして見事に復活させた町、同じ日本にあって行政システムも同じなのにこの差は何?住むならどっち?という対極の姿を見るようだった。住環境を優先する自分のような人間もいるだろうし交通インフラや買い物など利便性を優先する人間もいるだろう。しかし少なくてもこの環境を不快に思う人は少ないはず。そのくせ地元の町のキャッチコピーは「緑と水の町」である。うそつけこの野郎的なお題目のみで実態が伴っていないことに余計腹が立つ。ついでに言っておくと三島も取手も「市の鳥」はカワセミである。地元では20年以上住んでいてカワセミを見たのは一度きり、それが半日いただけの三島では3回見られた。この一事をもってしても「うそつけこの野郎的なお題目」であることは明白だ。市の鳥、市の花、市の木、すべて実態を少しでも現すべきで未来予想を語られても仕方がないではないか。

 環境の復活と言っても植物を移植するだけなら簡単な話。しかしその移植した植物が根付いて繁茂するためには下水道の整備、荒廃した環境の清掃など膨大な手間と費用がかけられているはず。それは市長1人の決断でも議会の決議だけでもなく、市民を含めた広範なコンセンサスが必要だったはずだ。ちょうどこの訪問の前月、地元の市長選があって毎朝駅前で候補者が演説していたが、こうした方向性には少しも触れられておらず、興味を失ってしまった。だから人口がどんどん減少する。久しぶりにプラスに転じた、と喜んでいる場合ではない。そうした事もあって、この復活劇はまぶしく見えた。


(P)浅水中で群落を形成するミシマバイカモ SONY DSC-WX500


【ミシマバイカモ】
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 自然環境にあるミシマバイカモは開花していなかったが、三島梅花藻の里というミシマバイカモを維持展示している施設では一面に開花する姿を見ることができた。このスポットは案内板もあまりない何気ない場所にあるが、駅前の観光案内所で貰った観光マップが役に立ち、迷わずに見つけることができた。地図は出来が良く、所々にランドマークもあって分かりやすかった。これがなければ事前のイメージと違って設備の貧弱な個人の庭のようなこの施設は見つけられなかったに違いない。
 ただしこの観光マップには重大な落ち度があって、柿田川への地図がないのだ。そりゃ地図は三島市の観光マップであって隣町である清水町の柿田川など守備範囲外なのは分かる。しかし観光というキーワードを考えたとき、またエリア半径を考慮した場合、三島の湧水河川も柿田川も同一の観光資源ではないか。私のように県外から柿田川を見に来る人も三島の駅で降りるはず。少ないながら経済効果もあるはずなのでそこは配慮して欲しかった。(だからと言って迷うような場所ではないが)

 三島梅花藻の里は想像より狭く、ミシマバイカモが植栽されているエリアも一部であったが、よく手入れされていて入場無料の設備にしては満足できるものであった。市内全域の豊富な湧水を利用できるアドバンテージは大きいな、と思った。とりあえず至近距離からミシマバイカモの花が撮れて尚満足。
 この環境に自分が居住したらどうだろう、と考えてみたがミシマバイカモやカワヂシャ、ミズハコベなどを植栽した環境は自宅に作らないだろう。それは散歩のついでにどこでも見られる。それより年間水温が15℃程度だとメダカの繁殖がキツいな、と余計なことを考えてしまった。転居の可能性は皆無なのでどうでも良いのだが。


【ミシマバイカモの花 at 三島梅花藻の里】
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川の表情
■あふれる植生

 上記のように湧水は下流部になるほど植生が濃くなり、実に様々な植物を見ることができた。ミシマバイカモは見すぎて不感症になりつつあったが、清流ならではのミズゼニゴケや、近頃あまり見なくなったミズハコベなど。
 なかでも市内全域で猛威を奮っているのはオランダガラシ。公園に設置された案内板にもイラストと名前はあったが、特にどうにかしようという注意書きはなかった。市内の湧水河川は総じて水深が浅いせいか沈水化した姿は見なかったが、岸辺を専有するほどの大群落になった姿はあちこちで見られた。

 オランダガラシはもちろん帰化植物であり生態系被害防止外来種注6)だ。柿田川でもボランティアのおじさん(詳しくは「柿田川編」で)に話を伺った際にオオカワヂシャやコカナダモの害は熱く語っておられたが、株数では他を圧倒するほどあったオランダガラシに付いては何ら言及はなかった。もしかして在来種の清流を代表する植物だと思われているのだろうか?

 柿田川で見られる沈水型のオランダガラシは植物好きの立場としては興味深く貴重であるが、それはそれ。容認されているわけではないだろうが、ずっと昔からあった植物のようにポジションを占め、風景に溶け込んでいる姿にはやはり違和感を感じてしまう。


(P)三島市内で普通に見られるオランダガラシ SONY DSC-WX500


 外来種の話を続ける。市内の河川で驚いたのは(というか今更ほとんど何も驚かないが)こんな場所に誰が放棄したのか、ウチワゼニグサが一部に大繁茂していたこと。この植物は間違いなく環境負荷、生態系に影響が出る。似たようなお仲間のブラジルチドメグサは大変なこと注7)になっているではないか。ここでも水辺の一定部分を占有しており、これが無ければミズハコベなりミシマバイカモが育つ場所が増えていたはず。
 防除しなければならない外来種の最大の問題点は、「そこにあるという認識」にあるのではないか、と強く感じた。認識がなければ何ら手が打たれることもなく、自由自在に増え続ける。これはどこから来たのか分からないオオカワヂシャと違って来歴は明らか、趣味の世界から逸出したものだ。何もこんな場所で、と思うが場所を選ばないのもこいつらの特徴。
 もう一種、目に付いたのはメリケンガヤツリ。このシリーズのVol.142 湧水河川でも訪れた湧水河川(東京都東久留米市の落合川)に繁茂しており意外に感じられたが、逆にメリケンガヤツリは一般河川ではあまり目に付かず、こうした環境が好きな植物なのだろうか。こちらの方は「点在」という程度の定着だったが、地味で目立たず、こんなものを特定するのは植物マニアだけ。知らない間に大規模に拡がっている危険性を内包する植物である。

 今や日本全国外来種だらけ、ことさら三島市や静岡県をディスる気持ちは一切ない。この一帯の水辺で見る外来種も平均的なものであると思う。それはそれで残念なことだが、この状況の中で予定調和の如き均衡が保たれ、ミシマバイカモをはじめとする希少な植物の居場所がキープできればひとまずは良いではないか。良い、というかそれ以上どうしようもないのも現実。


【湧水河川の外来植物】
ウチワゼニグサ Canon EOS6DmarkU / EF-40mm F2.8STM メリケンガヤツリ SONY DSC-WX500


■そしてここにも

 清流らしい植物、というと人によって感じ方は異なると思うが、自分のイメージとしてはカワヂシャとミズハコベの2種である。どちらも野歩きを始めて間もなく出会った植物であり、個人的な思い入れもある。
 前述のボランティアのおじさんは、柿田川では源流近くにはカワヂシャがあり、河口近くの下流部にはオオカワヂシャがある、と言っておられたが器用な住み分けをしているものだ。まさか中流部にはホナガカワヂシャ注8)があるわけではなかろうが、清浄な流れしか見えないこの一帯の河川でも外来種の侵略の危機がそこまで迫っている、ということだろうか。

 ミズハコベを見ているとどうにも違和感が感じられた。浮葉が大振りであるし、低水温の環境なのに線形の沈水葉が見えない。水中にある葉も浮葉と大差がないのだ。この時初めて見たが、これはイケノミズハコベという外来種だ。資料を見ればこの川は過去壊滅的に汚染されており、おそらく立ち直る過程で入り込んだのだろう。
 ちなみにこの帰化植物は柿田川にも入り込んでおり「柿田川シンポジウムでも、コカナダモやオオカワヂシャとともに問題視されている。


(P)源兵衛川のイケノミズハコベ SONY DSC-WX500


【湧水らしさ】
花が白いと安心する SONY DSC-WX500 よく見ないと安心できない SONY DSC-WX500

豪雨
■迫り来る雷雲

 前述のようにこの時点では柿田川観察は終了し三島駅までの帰路を植物観察しながら歩いていたが、その頃はすでに北の空に積乱雲が成長し雷が大きく聞こえてきた。快晴であれば北には富士山が見える立地だが、あいにくこの日は午前中からもやっており、その水蒸気が積乱雲の栄養になったようだ。この日使っていたバックパックは少し耐環境性能という点で信用できず注9)カメラを濡らすのは嫌だったのでバスか電車で駅に戻ることにした。なにしろ私にとっては最新鋭の一眼レフである。そして今の経済状況から見て、しばらくの間は最新鋭でもある。壊れて再起不能は避けたい。

 すぐに見つけたバス停で時間を調べると、何と1日2便だけである。それもとっくに終バスが出た後で次は明日の朝だ。これでは(一日二便)家の近くの市営バスと同じである。しかしこういうのも「旅の醍醐味」ってやつだ。これが今の日本である。誰もが車を持っているのでバスには乗らない→バス会社の経営が苦しくなって便が減る→車を持たない年寄りが困る、という図式。


(P)三島田町駅に入ってきた伊豆箱根鉄道の電車 SONY DSC-WX500


 雷鳴はますます激しくなり、そんな評論家のような事も言っておれなくなってきたので来た時にもらった地図を見ると程近い場所に「三島田町」という駅があった。JRではなく伊豆箱根鉄道というローカル私鉄の駅だ。
 駅であれば雨が降っても屋根はあるだろうし、電車の運行がまさか一日二便ということもないだろう。自分の主義には反するが注10)豪雨には勝てそうもないし、今日は十分歩いたから良いだろう、と思いつつ駅に近づくとどこかで見た電車が走ってくるのが見えた。昔、東京都東大和市に住んでいた頃に通勤で使っていた西武電車だ。カラーリングも黄色ベースのそのまま。(写真の電車ではない)地方の私鉄は新規に車両を導入するとコストが嵩むので中古車両を売買している、と聞いたことがあるがまさかここで再開するとは夢にも思わなかった。
 三島田町から三島までは2駅、料金は良心的な140円だった。運賃はともかく、この時点でJR三島まで2駅分の距離を残していたことになる。植物を見ながらだと変なアドレナリンが出るのか結構な距離を無意識に歩いてしまうが、空模様からすると歩けば確実に降られていたに違いない。

 三島駅に付いてJRを待っていると、タイミングがぴたり、大粒の雨が降り出した。それも記憶にないような大きな粒で雹でも降ってきたのか、と思ったほど。やはり山が近い場所の天候はなめられない。普段の行いはけっして良いとは言えないが、今回ばかりはツキに恵まれたようだ。

*静岡県に詳しい方より駅名違い(×三島田島 ○三島田町)のご指摘があり、訂正しました。(2019年8月31日)「どうせ誰も読んでいねぇだろ」と思ったわけではないのですが、確認せずうろ覚えで書いてしまったことをお詫びいたします。

脚注

(*1) 都内近郊の湧水河川として矢川(東京都国立市)、落合川(東京都東久留米市)は有名で、植生も非常に豊富。矢川も落合川も住宅地を流れる普通の河川であるが、流域を外れればまったくの住宅地であり、流れを外れても次の流れに出会うのが三島の街の特徴。しかも次に出会った河川も湧水起源であり、ミシマバイカモその他の水草が当然のように生えている。ほとんど小河川と言えばドブ川レベルしかない町の住人からすればうらやましい限りだ。ただ、モノは考えよう、この光景を遠くから来てまで見る、という贅沢は三島の人にはできない。(単なる負け惜しみ)

(*2) 東海道本線の熱海駅〜函南(かんなみ)駅間にあるトンネル。長さ7,804m。平行して走る東海道新幹線のトンネルは新丹那トンネルと呼ばれる。丹那トンネル開通以前は山塊を迂回した御殿場線が東海道本線のルートだった。このトンネルがなければ気軽に三島に来ることはなかったと思う。(国府津→沼津を御殿場線で走ると1時間40分かかる)このありがたいトンネルは1934年に16年の歳月と犠牲者67名を出して完成した。これほどの苦闘の歴史遺産であるので通過に時間がかかるとか文句をたれてはいけないのだ。

(*3) 厚生労働省ホームページ参照。というか、参照してもよく分からん。職場では「休みを取って残業してはいかん」という意味で受け取られている一方、専門職はいくら労働しても良いという矛盾した内容に読み取れる。もともと成立の根拠たる統計データがデタラメな上に何を目指した改革なのかサッパリ分からんという、まるで定着しないために作られたような仕組みだ。いつもは何にでも噛みつく野良犬のように見える野党も今回ばかりは正論を言っているように見えた。

(*4) Ranunculus nipponicus var. japonicus イチョウバイカモの変種とされ、扇状の浮葉を生じる。1930年に三島市の楽寿園にある小浜池で発見された。三島の名を冠するが、発見以後三島市内では絶滅し、現在市内で見られるものは隣町の駿東群清水町にある柿田川産を移植したもの。 花は条件次第で一年中咲くと言われているが、見た限りではこの時期(5月上旬)自然状態で開花しているものはごく少なかった。また柿田川本流にあるものはすべて沈水状態で開花は確認できず。動画や写真にあるように水深のある場所の株は水中花になるのかも知れない。

(*5) トネハナヤスリは茨城県取手市の利根川河川敷で発見されたことで利根の名を冠している、とされる。現在では河川敷の利用が進み見ることはできないが、この点に関する行政側の見解は一切ない。(少なくても私は知らない)利根川河川敷にはチョウジソウを植栽したり、田島が原の桜草公園からサクラソウを貰ってきて植えたりはするが、地味系の植物には見向きもしない、と言われても仕方がない。

(*6) 旧カテゴリーの要注意外来生物。誰も注意しないので生態系被害防止外来種と名を変え、階層として一見名前では判断が付かないカテゴリーが新設されている。オランダガラシは生態系被害防止外来種のうち重点対策外来種とされているが、他のカテゴリーとの相違がよく分からず(定着予防や総合対策とどう違うのか)、相変わらず文字だけでは何が何やら判断できない状況が続いている。もともと要注意外来生物も法的な枠組みではなく「適切な取り扱い」という解釈の難しい語彙を並べ、結果的に人を煙に巻いている。やる気があるのであればお役所的修辞の用語を使わず、何をどうして欲しいのか直感的に分かる言葉を使って表現して欲しいものだ。ちなみにリストは環境省ホームページからCSV(EXCELで開けるファイルフォーマット)でダウンロードできる。

(*7) 特定外来生物に指定されているブラジルチドメグサは九州を中心に猛威を奮っており、定着した河川では川面を覆い尽くすほどの被害が出ているらしい。(見たことはないので伝聞)理由は他の強力な外来植物同様の「分化全能性」にあって、欠片からでも植物体が復活する。従って駆除しても手に負えない状況となってしまう。これが恐ろしいことに年々北上しており、中国地方まで来ている。今や日本全国、東北・北海道の冬は別として気候的な差異が無くなりつつあり、関東地方に来ていないのは単なる彼らの伝播スピードの問題かも知れない。

(*8) ホナガカワヂシャ(Veronica × myriantha Tos.Tanaka)は外来種のオオカワヂシャと在来種のカワヂシャの交雑種。オオカワヂシャ自体も問題(特定外来植物)だが、次々と交雑種を生み出すのはより問題が大きいと考えられる。カワヂシャがオオカワヂシャに圧迫されるだけでも大変なのに、さらに自らの自生地で交雑種にも圧迫されるとなれば存続は風前の灯。柿田川でも下流域にはオオカワヂシャが入り込んでいるようだが、カワヂシャの自生領域に入り込む前に完全な防除が必要であると思う。

(*9) この日使用したのはPatagoniaのトロミロパック22Lというバックパックだが、長距離を歩くのに少しでも軽量のバックパックを、というつもりで選択した。バッグ自体はたしかに軽かったがどういうわけかショルダーハーネスへの負荷が大きく、歩くにつれ肩が痛くなってきた。生地自体も防水性能はさほど期待できず、アウトドアメーカーなのにこの造りは?という疑問がある。最近は前回のL.L.Beanのノースウッズ・ヘリテージ・デイ・パックやGregoryのデイパックなど「背負い心地極上」を使っていたため余計にそう感じたのかも。アウトドアメーカーでもタウンユースの製品はあるわけだし。(一応フォロー)

(*10) 移動する手段はコスパを優先、というのが基本的な主義。今回で言えば時間が決まっていたわけではなく、昼頃三島に着けば見物時間は十分に確保できる、という見通しがあって普通電車を選択した。午前中しか見られない、という話であれば無理をしても新幹線を選択したはず。雨が降るかも知れない、という状況は逆に言えば降らないかも知れないので通常であれば歩いていたはず。それで失敗することもあるわけだが、それは結果論だ。


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