日本の水生植物 探査記録

Vol.180  野焼き跡歩き 渡良瀬編



Location 栃木県栃木市 Date 2019.04.20(SAT)
Photograph
OLYMPUS PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
OLYMPUS OM-D E-M1 /
M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro

Weather sunny

Temperature 20℃

(C)2019 半夏堂


■期間限定の見通しの良さ


(P)早春の渡良瀬遊水地
OLYMPUS PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8

大群落
■時間軸

 今回で何度目の渡良瀬か分からないほど通い詰めているが、何度も通って解明しようとしてもどうしても残る「謎」がいくつかあって、ヌマアゼスゲはその最大のものだった。渡良瀬遊水地ではアゼスゲ(狭義、Carex thunbergii Steud.)がほとんど見られず、近似種としてヌマアゼスゲが「ごく普通に」見られる、というのがこの遊水地の植生に詳しい方々の見解だ。しかしごく普通に見られるわりには自分では未だ見たことがなく個人的な謎であったのだ。

 もちろん1〜2回、短時間見て「ない」と言っているわけではない。それほど自信も眼力もないことは自分で良く分かっている。渡良瀬遊水地には、ほぼメインのフィールドとして何度も通っていることはこのコンテンツの過去記事に都度都度書いている通りであるし、スゲ属が見られる春にも何度も訪問している。直近ではVol.163 遊水地の春風を楽しむ(2017年5月4日)、Vol.173 渡良瀬縦踏破(2018年5月19日)など。
 普通はすぐに忘れてしまう程度の「謎」であるが、自分の性格が因業なのか、何かの拍子に気になりだすとどうしようもなくなるのだ。どうしようもなければすぐ東武線に乗るしかない。通いなれた道だ。

 4月に入り植物の写真撮影適期になってこの点を考えていたが、春の渡良瀬に通っていると言いつつも、過去の訪問は5月に集中していた点に気が付いた。その理由はチョウジソウ、ノダイオウ、マイヅルテンナンショウなどの植物群にあり、せっかく時間と費用を使って訪問するからにはこれらの「大物」の写真を撮りたい、という欲求ゆえだ。ひょっとして過去にスカタンこかされ続けたのは、5月ではヌマアゼスゲを見るには時期が遅すぎたためではないか、というのが今回の訪問理由である。

 午前中に野暮用(歯科通院)があり、時間も限られていたため「仮説」を検証する目的に絞って電車移動の最短ルートである藤岡ルート注1)を選択。急に思い立ったため歯科に行く直前にカメラのバッテリーを充電開始、帰宅後即準備をして向かうという慌ただしさ。以前似たようなシチュエーションでEOS6Dと7Dを急ぎ用意した際に片方しかバッテリーが入っておらず、レンズ交換をして1台を使うか、バッテリー交換をして交互に使うか(幸いバッテリーは共通)アホのようなはめに陥ったが、今回は歯科の麻酔の影響も自覚しており、慎重に学習能力を発揮してバッテリーもSDカードも出発前に確認した。
 およそ写真撮影を趣味とする人間で、現場でレンズ交換するかバッテリー交換するか二択で悩む人はいないはず。徐々にこういうのが多くなるのが加齢なのだろうか。最近仕事を通じて知己を得た認知症に精通したドクターは「物忘れ予防」に特化し、認知症の進行を遅らせたり、症状によっては改善したりと目覚ましい成果を上げておられるが、今後も公私ともに仲良くしておこう、と思った。

■バッテリー問題

 余談ながらデジタルカメラ、特にミラーレスで怖いのはバッテリーである。バッテリー共通の機種2台持ちは最低限のリスクヘッジであるが出来れば予備バッテリーを複数個持ちたいところ。バッテリーはどの程度劣化しているのか外見からはうかがい知れないのがネックで、ではカメラ側で検知できるかと言うと、パワーマネジメントソフトは各社各様ポンコツ仕様、フル充電からいきなり2セル落ちたりする。かなり前に使っていたニコンのCoolpix5000はバッテリーが劣化し、フル充電でやる気満々から10数枚撮影するといきなり空になっていたが、今のカメラも似たり寄ったりだ。とても完全に信用するというレベルではない。今は最悪iPhoneという手段もあるが、自分の趣味というか極端に言えば存在を自ら否定するようで、できれば頼りたくない。

 予備バッテリーも充電時間がかかる上に最近の機種はUSB充電が主であり、平行してチャージするためには充電器まで買わなければならない。余計な出費が嵩む上に何だかメーカーの策略にはまってしまうような気がして積極的に購入できない。私自身長年メーカーの社員であったが、策略にはめるのは好きでもはめられるのは好ましくないのだ。ちなみに2〜3個の予備バッテリーと充電器を買う金で中古のカメラ本体が買えてしまう。使い込んでいない個体ならバッテリーも程度の良いものが付いているのでこっちの方が得かな?とも思う。エネループが使える乾電池式も魅力だが、本体内に電池室を設置しなければならずボディーが大きくなるので今後の機種では採用されないかも知れないが、ぜひ再登場を願いたいところだ。


(P)野焼き後の第一調整池 OLYMPUS PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8


■トネハナヤスリ

 藤岡から遊水地内のゴルフ場(遊水地会館の先)内の道路を通過し第一調整池北部に入ると野焼き後の湿原が見えた。ざっと見て5〜6割はきれいに焼かれているが枯れ葦が残る部分も相当あって、テレビで見る野焼きのイメージ注2)とは違うなぁ、と思った。どうやったらこんなに器用に焼け残るのか、一部を残す意味があるのか分からないが、何か意図があるのだろうか?実質的には野焼きの恩恵を受ける小型の植物の生育には十分な空間が確保されており何の不都合もないが、探査で踏み込んだ際に迂回しなければならない「焼け残り」があちこちにあるのは少しイラッとする。もちろん自分の都合なので文句をたれる筋合いではない。
 最近再読した開高健の名作「ロビンソンの末裔」では、北海道の熊笹の荒野を開拓するために野焼きを行い、延焼を防ぐ為にベルト状に火止めを刈り取る場面が出てくるが、ここもちょうどそんな感じだ。いかに広大な渡良瀬遊水地と言えども人工物がある場所もあって、被害を防ぐためにこうした工夫が成された名残なのだろうか?特に藤岡から入る遊水地には「渡良瀬カントリークラブ」なるゴルフ場があって、芝やらカートやらが丸焼けになってしまっては困るだろう。
 しかしこのゴルフ場、堰堤の内側、つまり遊水地内にコースを設置している。人工物とは言え渡良瀬遊水地は今やラムサール条約の登録湿地であり、賢明な利用(wise use)が求められているはず。コースを維持するために湿地を埋め立て除草剤を散布するゴルフ場の姿が賢明な利用なのかどうなのか、中の人にはもう一度考えてもらいものだ。

 それはともかく、この時期はまだアシが繁茂しておらず、野焼き後の湿原には容易に降りて行くことが出来た。ちなみにアシが繁茂した時期にも藪漕ぎという方法があるが、色々な意味でアシの藪漕ぎはやめた方が良い。アシが生えるのは基本的に湿地であり、足元が沼地なのか池なのか区別が付かないのだ。脱出できなくなった際に人間の通行も稀、かつ遭難現場が見えないのでは山岳遭難より状況が悪い。そしてそうなる確率は相当高い。湿地に踏み込むなら足元が確認できる「今でしょ」。
 焼け跡には点々と緑の新芽があり、大部分はアシであったが合間合間には他の植物が顔を出している。高熱で焼かれたためか、湿原とは名ばかりの砂浜のようなサラサラの土壌に足を取られつつ歩いているとスズランのような葉形の小さな植物の大群落があちこちに見えた。言わずと知れたトネハナヤスリ。これまでにも何度も見ているが今年ほどの群落規模は見たことがない。野生植物は年によって「当りはずれ」はあるが、今年は「大当たり」に見えた。相当の規模の群落があちこちにあって、被写体に不自由することはなかった。
 時期がやや早かったのか、トネハナヤスリの「ヤスリ」は付けている株が少なかった。年によって気温差、つまり生育状況の差は当然あると考えられる。2019年春はやや天候不順と低気温の日が何日もあって例年とは異なるかも知れないが、アシによって遮られない、ヤスリを上げた姿を見られる、という条件を満たすのは4月末ぐらいだろうか。

【トネハナヤスリの大群落】
あちらにも
OLYMPUS PEN-F / M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
こちらにも
OLYMPUS OM-D E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro

ヌマアゼスゲ
■本命発見

 今回の目的であるヌマアゼスゲを探す前にトネハナヤスリの群生に足を止められてしまったが、本命はたしかに「ごく普通に」見られた。そして今回、時期的な謎が解けたのと同時に、今まで見られなかった理由も理解できた。

 今回ヌマアゼスゲが見られた場所はすべて遊水地内の池や水路の際、まさにヌマアゼスゲの名に恥じない、水が近い自生場所なわけだが、これらの場所はあと半月もすればすべてアシの濃密な壁に阻まれて接近できなくなってしまうのだ。ある、ない以前に近付けなければ確認のしようもない。このことは同所に何度も通って地形を覚えていたからこそ理解できたことだ。
 今までアシの壁のこちら側を見て「ごく普通に見られる?」という状態だったのが普通に見られない理由だったわけで、今回一気に氷解した。アシの壁形成以降もカサスゲやヤガミスゲなどは外縁で見ることができる。しかしヌマアゼスゲは親水性が高く、アシの壁を突破しなければ見ることができなかった、というわけ。

 しかし5月になればアゼスゲ一族の独特の模様の付いた果胞が目立つはずであり、アシの隙間からでも確認できたはず。なぜ見られなかったか、という謎は残るが、5月は上記のような植物、マイヅルテンナンショウやハナムグラなどを見るために谷中湖以外は乾燥した地形が多い旧谷中村付近に行くことが多く、元々そちらのエリアには少なかったのではないか、という仮説が成り立つ。


(P)発見したヌマアゼスゲ OLYMPUS OM-D E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro


【ヌマアゼスゲ群落】
池塘状の池のほとり
OLYMPUS OM-D E-M1
M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro
水路の縁にて
OLYMPUS OM-D E-M1
M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro


■渡良瀬七不思議

 とりあえず今や絶滅危惧II類(VU)、岩手、宮城、栃木、群馬の4県のみにしか産しない希少な植物の姿を写真に残すことができた。そこで出てくる最後の謎。なぜヌマアゼスゲがあってアゼスゲがないのか?全国的な残存数を考えればまさに不思議、たとえ元々遊水地にアゼスゲがなかったとしても遊水地の歴史注3)や現況を考えれば侵入していないことはもっと不思議だ。考えてみれば渡良瀬遊水地にはこの手の話が他にも多く、思い付く所を並べてみると以下のようになる。(あくまで植物限定)

(1)上記、希少種のヌマアゼスゲがあって一般種であるアゼスゲが見られない
(2)希少種であるワタラセツリフネソウがあって一般種のツリフネソウは存在しない
(3)遊水地内のセリはほぼエキサイゼリである。どこにでもあるセリがない
(4)アオヒメタデのような独特な種類が存在する(全国的に「アオヒメタデ」とされるタイプと違う)
(5)キタミソウやアズマツメクサなどの珍種が次々と発見される
(6)水が甚だしく汚れているのに植生の宝庫
(7)本来的な湿地の部分がごく限られているのに全域に湿地植物

 まさに渡良瀬の七不思議。もっと色々あるだろうが、とりあえず思い付くのはこんな所か。なかでも個人的に注目しているのは(5)で、近年になってキタミソウやアズマツメクサが発見された、という事実は「元々あったのに誰も気が付かなかった」ということではなく、渡り鳥による伝播が現実にあるという証明になっていると思う。キタミソウに付いてはそれ以外に解釈のしようもない注4)が、アズマツメクサが国内で伝播しているとなると楽しいではないか。
 やや残念なのはこれらの小さな植物達が「発見された」という事実と草体の展示が湿地植物園注5)にあるだけで、この広大な湿地のどこのどの地形で発見されたかという情報が欠落している点だ。あえて公開する必要のない情報、公開しても益より害の方が多い種類の情報であるとは思うが、どこにどのように着弾し定着したのか、今後他の湿地を探査する際に大きな参考になるに違いない。
 探査、と銘打つからには自分で探せ、という声が聞こえてきそうだが、ここで情報なしに片っ端から見て回れると思うのは渡良瀬を知らない人間の言うこと。ここで犬棒をやると棒に当る前に白骨化する。探すのも探査だが、ある程度の事前情報で武装するのも探査である。

食える?食えない?
■食用なビジュアル

 それこそ遊水地内で確実に「普通に見られる」コウヤワラビはこの時期、少し前に地表を舐めたであろう猛火の跡から次々と芽を出している。何気なく撮った写真を今見ていると、色といい形といい何ともうまそうではないか。ゼンマイそのもののビジュアルである。野草が食えるかどうか、味はどうなのか、たぶん一般平均よりはかなり強い興味を持っている自分なので調べてみたが、食えるという情報は見つからなかった。

 しかし逆に食えない(有毒、味が極端にまずい)という情報も見つからなかったので試してみる価値はあるかも知れない。ゼンマイは実は大好きな食材の一つで、以前は採集スポットを数多く押さえていたものだった。今や次々と道路になったり宅地になったりで、まとめて食べられるほど採集できる場所がなくなってしまったが、いわゆる「山菜」範疇であればセリ、ふきのとう、ノビルなどは容易に手に入りよく食べている。(なにしろ、三種類とも自宅庭で採集できる・・・)
 コウヤワラビが食用になると来れば、道路にも宅地にも開発される可能性が皆無の氾濫原でいくらでも採れる。自分の食用以外に業としても成立するぐらいである。大儲けの匂いが(笑)

 この「コウヤ」ワラビ、なぜコウヤなのか。生えている場所を見ればまさに「荒野」であるが、一説に「高野山で発見されたことから」とある。しかしちょっと待てよ、これだけあちこちにあるコウヤワラビをあえて高野山で発見するというシチュエーションが理解できないのだ。高野山で発見できるのはワラビかイヌワラビの方ではないか?というわけで個人的には芭蕉の心象風景も彷彿させる「荒野蕨」だと思って眺めている。
 コウヤワラビを食べるかどうかまだ決心が付かないが、食べるとすればアク抜き注6)は不可欠であると思われる。ゼンマイの仲間と想定すると食べる以前に触るだけでかなりエグイと思う。新芽周辺に油のような「エグミのもと」があって、素手で採っていると指先が真っ黒になる。このアクを何とかしないと食えたモノではない。何とかする方法は古人の知恵があり、ネット検索すればなんぼでも出てくる。
 最も簡単なのは重曹を使用する方法で、重曹を溶かしたお湯(水1Lに対して重曹を大さじ1杯)にゼンマイを入れてアクを抜く(沸騰直前に火を止める)→冷めたら冷水に交換して一晩さらす、という方法。家にはワケあって重曹を常備注7)しており、この方法で他の食材も必要に応じてアクを抜いている。
 料理は一般的な和風の煮物も良いが、ナムル注8)が魅力的。本場(韓国)で食ったナムルに入っていたゼンマイ風の食材はかなりコシがあったので定番のゼンマイよりはコウヤワラビのような「外道」が意外によいかも知れない。(結果責任はとれない)最近どうもアウトドアを歩くと希少な植物よりも食材としての植物に目が向いてしまう。そんな目で見ているともう一つあった。


(P)ゼンマイにしか見えないコウヤワラビ新芽 OLYMPUS OM-D E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro


■食用なビジュアル2

 もう一つの食材系植物はエキサイゼリである。この渡良瀬遊水地はもちろん、県内の湿地にもいたる所にあるが一応は絶滅危惧種である。何となく採集して食べることに抵抗がある上に、そもそもコウヤワラビ同様に食用なのかどうかもよく分からない。(コウヤワラビ同様、検索しても当らない)さらに通常のセリに比べて異常に花期が早く、旬がよく分からない。

 食用となるセリは花が咲くと尋常ではないえぐみが出て、アク抜きしようが何をしようが到底食べられる代物ではなくなってしまう。この法則を当てはめると一部で開花が始まっているエキサイゼリもすでに旬を外しているのではないか。(あくまで「食べられる」という前提の話だが)
 このエキサイゼリがやや容易に入手できる茨城県南部でも食べられるという話は聞いたことがなく(と言うか、そもそもエキサイゼリの存在自体が知られていない?)自分自身がモルモットになるのも何だかなぁ、ということでいまだに食える/食えない、うまい/まずい、はまったく分かっていない。味が似たようなものならセリを食えばよいわけで、セリの方はまだ容易に入手できるのである。あえてチャレンジする意味があるのか、というところ。

 エキサイゼリ、ここでは食えるか食えないかを考えるほど山のようにあるが全国的に見れば希少で(だからこその絶滅危惧種なわけだ)、かつ日本特産で1属1種のユニークな植物だ。エキサイの名が付いているが、本種を見出した前田俊保(号は益斎)が名付けたわけではなく、当時の益斎の絵を見た牧野富太郎が命名したもののようだ。しかし残念なことに前田俊保も牧野富太郎も、言ってみれば「植物オタク」であって食用に供するかどうか、という点までは研究しなかったようだ。


(P)柔らかくうまそうなエキサイゼリ OLYMPUS OM-D E-M1 / M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro


脚注

(*1) 自分の渡良瀬遊水地探査ルートの一つ。公共交通機関、つまり電車で行く場合に東武日光線の藤岡(栃木県栃木市)から渡良瀬遊水地まで徒歩で移動するルートである。一応栃木「市内」ではあるが、駅前から遊水地までの道筋に食料を調達する店がなく(地元の人はどうやって生活しているのだろうか)遊水地会館の入口にあるセブンイレブンが唯一のオアシスとなっている。道を外すと何もないまま遊水地に入らざるをえず、水分補給にも困ることになってしまう。ちなみにこのルートは駅前以外、自販機も稀だ。

(*2) テレビのニュースで見る渡良瀬遊水地の野焼きは壮大で、遊水地全域丸焼けの印象でバンバン燃やしている絵だが、実際はどこかで延焼を止めているはず。そうでなければこうして所々焼け残りがあるはずもない。いかに遊水地でも堰堤を越えれば道路も人家もあり、無制限に丸焼けにして放置、というわけにはいかない。また遊水地内にもゴルフ場や子供広場の売店など僅かながら施設もあるので尚更だ。個人的には遊水地内のゴルフ場などとんでもない話で(ラムサール条約の「賢い利用」か?)、こんなものは焼失した方がよいと思うが、その筋から怒られそうなのでこの辺で。

(*3) 堰堤が完成したのが1918年とされているので、人工物とはいえ100年以上の歴史を持つ「湿地」である。庭のミクロの湿地でさえ設置して1年もすれば植栽した覚えのない植物がばんばん生えてくるほどなので、100年という時間は周辺から植物が侵入する時間として十分以上のはず。このことが本文にある「渡良瀬七不思議」の本質だ。アズマツメクサやキタミソウといった希少種は飛来するのにセリやアゼスゲなどの一般種が侵入しないのだろうか。

(*4) キタミソウが元々ツンドラ地帯に自生する植物だとすれば、渡り鳥による伝播以外に合理的な解釈はできない。また特殊な環境(本サイト内記事参照)でのみ生存が可能である状況を鑑みればツンドラなど北方型の植物である点も疑問の余地はない。鳥がキタミソウの種子を運んできた現場を誰も見た事がない以上推測にすぎないが、これはまず間違いのない事実であると考えられる。

(*5) 現在の湿地資料館のやや東側、遊水地側にある旧湿地資料館に付属する小規模な植物園。植物園と言っても入場料を取るわけでもなく、湿地資料館の方々が維持しているだけなので植物の解説があるわけでもなく、遊水地の植物を網羅しているわけでもないが、敷地内を掘削してシードバンクの発芽を試したりと興味深い試みも見られる。

(*6) アクは灰汁と書くが、特定の物質を指すわけではなく、えぐ味や渋味、苦味など食べると不快になる成分の総称として用いられる。具体的には無機質ではカリウム、マグネシウム、カルシウムなど、有機物ではシュウ酸、ポリフェノール、配糖体、サポニンなど。成分や量によって「アク抜き」の方法は異なり、ナスやゴボウなど水にさらすだけでOKのものから本文にあるように重曹(炭酸水素ナトリウム)を用いるものまで様々だ。まさに「おばあちゃんの知恵袋」の世界である。

(*7) 我が家で重曹を常備している理由はカメラやレンズのメンテナンスのためだ。年数が経過するとカメラのグリップ部分やレンズのフォーカスリングなどのラバー部分が加水分解でベタ付いてくるが、初期の段階であれば重曹水溶液を含ませた布で拭き取れば復活する。またバックパックの内側にコーティングしてあるラバーの防水皮膜にも使用できる。しかしリサイクルショップのジャンクコーナーで売っているようなカメラのグリップは重曹では歯が立たず、症状によってはクレのラバープロテクタントという自動車部品の劣化防止剤を使用している。重曹は100均でそこそこの量が買えるし、ラバープロテクタントも数百円で何年も使用できるのでなかなかコスパはよい。

(*8) ナムルというより「ビビンバの具」といった方が分かるだろうか。ナムルは要するに朝鮮半島の家庭料理で、ゼンマイに限らずもやしなどの野菜を塩ゆでしゴマ油で和えたものである。ゼンマイやもやしなど味の薄い食材を使うので、舌が肥えていない自分にはゴマ油の味しかしないわけだが、歯ごたえとゴマ油の風味が合体すると何とも言えず美味い。


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