日本の水生植物 水草雑記帳 Invader
オオフサモ
(C)半夏堂
Invader Myriophyllum brasiliense Cambess.

アリノトウグサ科フサモ属オオフサモ 学名Myriophyllum brasiliense Cambess.
外来生物法 特定外来生物 茨城県取手市岡 2011年8月
非沈水植物

 特定外来生物に指定されている現在は確認しようもないが、本種が熱帯魚屋で販売されていた頃は、水槽に沈めて展示販売しつつも、株はほとんど気中葉であったように記憶している。水草ビギナーであった頃には「沈水葉か気中葉か」という疑問も持つことなく購入し、比較的短期間で枯死してしまったような記憶もある。
 少しレベルが上がって「水草には沈水葉と気中葉がある」という事実に思い至り、一応購入の際に確認するようになる。(確認する自分が完全なビギナーではない、という誇らしさが無用の質問をさせる)

すぐに水中葉になりますよ

というセールトークとは裏腹に、やはり沈水葉にするのは難しい。もちろんこの頃は「ビギナー」ではないのでCO2やら照明やらオーバースペックと言える程の装備を備えていても、である。皆さんはオオフサモでこんな経験をしていないだろうか。
 いわゆる「キンギョモ(*1)」はオオカナダモ、フサジュンサイ、そしてこのオオフサモを指すようだが、それは「育成が簡単だ」という意味ではなく、金魚の餌になる程度の意味ではないだろうか。

 本種が沈水化しにくい事は野外で蔓延っている逸出株を見ても理解できる。彼らは水底に根を張りつつも、すべて気中葉となって群落を形成している。(画像参照)野外であるので光量や有機質といった室内園芸(水槽)の要素(*2)は考慮する必要もなく、単純に気中葉が普通の状態だ、ということなのではないだろうか。
 もちろん「水草」扱いされるだけあって、ある一定条件下では沈水葉を形成する。この場合、やや赤みを帯びたり気中葉に比べて繊細で大型になるなど変化があるようだが、残念なことに私は自然下で沈水葉を見たことがない。

 少し脱線するが、アクアリウムプランツの育成難種にアマニア・グラキリス(ミソハギ科)やオランダ・プラント(シソ科)といった植物がある。(和名は流通名、分類は確度の高い推定)育てにくいのは一定期間経過すると頭頂部が縮れて美しい水草の姿を維持できないためである。この現象は頭頂部にカルスを形成(つまり細胞のリセット)し、気中葉を展開するためのごく自然な植物生理であると考えている。簡単に言えば彼らは水草(沈水植物)ではなく湿地植物である、ということ。水中の姿は緊急避難的な「仮の姿」であるということだ。考えてみれば我が国に自生するミソハギ科、シソ科の植物で完全な沈水植物は存在しない。
 オオフサモもこれらの植物同様に元々非沈水植物であり、好んで沈水葉を形成するような植物ではない可能性が高いと思われる。「水草」として見た場合、けっして育てやすい植物ではない。そしてこの「事実」は現状の分布拡大の主な原因の一つとなっていると思われるのだ。


(P)水田地帯の水路に繁茂したオオフサモ 茨城県取手市岡 2011年8月

手賀沼沿岸部のオオフサモ
千葉県我孫子市高野山新田 2014年6月
幾何学的な美しさの気中葉
千葉県我孫子市高野山新田 2014年6月

逸出と定着

(P)川岸を埋めるオオフサモ 茨城県猿島郡境町 2011年6月

 逸出の経緯・・こう言うと簡単に聞こえてしまうが、私は要するに沈水葉としての育成が予想以上に困難であり、購入者が育成を諦めた結果、長年に渡って無秩序に廃棄され続けた結果だと考えている。もちろんこれは狭義のアクアリウム(熱帯魚)のみの責任ではなく、金魚も同様。そして困ったことにオオフサモはナガエツルノゲイトウ同様に分化全能性(*3)を持っている。
 この特質によって、防除しても葉や茎の欠片を残せばまた元通りになってしまう、シジフォスの神話(*4)の如き不毛の努力を強いられる厄介者だ。少なくても近隣の水辺では防除の形跡は見られないが、根絶のためには慎重かつ徹底的な計画と実行が必要である点、ナガエツルノゲイトウと変わりはない。

 オオフサモは調査の範囲ではナガエツルノゲイトウよりもかなり広範な地域で帰化定着していると推定されるが、ナガエツルノゲイトウの繁茂している場所と同様に、他の水生植物が見られない「裸地(*5)」に多いように感じられる。要するに「悪さ」は感じられず、むしろゴミの吹き溜まりのような水辺に一服の涼をもたらす緑、という明側面が感じられる程だが、環境省では本種の特定外来生物選定にあたってどのような影響を想定したのだろうか。

 環境省Webサイトによればオオフサモによる「生態系に関わる被害」として次の3つの事例が上げられている。(全文引用、外来生物法、特定外来生物の解説、オオフサモより)

■九州筑後川水系などで、過繁茂した純群落が水流を妨げる等の問題を引き起こしている。
■茨城県霞ヶ浦では、湖の一部や周辺水路で大繁茂し、在来種への影響が危惧され、駆除が行われている。
■海外でも侵略的な外来種とされ、水流を阻害して問題になっている。

 主な「被害」は水流を妨げる、というものだが(霞ヶ浦の話は後述)、実際に農業用水の取水に支障があったのか、洪水河川氾濫の誘因となった事例があったのか、いつもの事ながら具体的ではない。もちろんオオフサモを擁護するつもりは一切ないが、少なくても「水流を妨げる」のは「生態系に関わる被害」ではない。
 その「生態系に関わる被害」だが、たまたま近所の霞ヶ浦の事例なので状況はよく分かっているつもりだ。はっきり言えば「湖の一部や周辺水路で大繁茂し、在来種への影響」は無い。おそらく湖の一部や水路、ということで沈水植物や抽水植物を想定しているのだろうが、それらは水質の悪化等の理由によって絶えている。絶えた植物への影響はないはずなのでこの説明は矛盾しているのだ。深読みすれば「環境が改善され、希少な水生植物の種子がシードバンクで目覚めた時にオオフサモが繁茂していると邪魔になる」と解釈することも可能だが、この一行からそこまで読めるのはごく限られた人間だと思う。
 さらに言えば霞ヶ浦で除去対象となっているのは外来種としてはボタンウキクサやオオカナダモ、在来種ではトチカガミなどで、理由は漁港の船の出入りに邪魔(*6)であるから、というもの。この環境省の説明の情報ソースがぜひ知りたいものだ。

 念のため。環境省にも外来生物法にも、さらに指定された種にも反対意見を持っているわけではない。他種もそうだが、選定理由が玉虫色で現実感がないのだ。私が本種を見るのは多くの場合、上の猿島郡境町の画像のように、ゴミが漂着する岸部を緑色に埋め尽くすようなシチュエーションで、水流も妨げていないし在来種も圧迫していないように思われる。もちろん幾ばくかの水質浄化も行っているだろう。以上状況なので、排除理由はより具体的に説得性を持った理由が良いと思うのだが如何だろうか。


(P)ナガエツルノゲイドウ(左)と水面をシェアするオオフサモ 千葉県八千代市 2011年10月

手賀沼の怪と防除の壁

(P)手賀沼 手賀沼親水広場付近「水の館」 2014年6月


 以前どこかの文章に「手賀沼付近の水路にオオフサモやナガエツルノゲイトウが繁茂しており、防除されていないのが不思議」という趣旨の文章を書いた。防除以前に特定外来生物の繁茂を千葉県や我孫子市が認識していないのではないかと考えていたが、どうやらそうでもないようだ。

 手賀沼親水広場の「水の館」(管理者:一般財団法人千葉県環境財団)で発行する「水の館だより」72号(2014年春号)では手賀沼周辺の外来生物に付いてこう述べている。(「」内同文書より引用)「右側の写真は、ナガエツルノゲイトウとオオフサモですが、手賀沼の遊歩道を散策していると沼の脇の水路などで意外と簡単に見つけることができます
 もちろん同文書は外来生物をテーマとしたものであり、特定外来生物と要注意外来生物の解説も的確に成されている。認識がないどころか画像まで揃えており、自生場所もピンポイントで抑えている。こうなると次なる疑問は「認識しているのになぜ防除しないのだろうか」ということ。ところがこの発想自体が長年民間企業で禄を食んだ者の思考回路であるらしい。(要するに「気が付いた人間が積極的に仕事をして当然」という発想)

 手賀沼は長年我が国で最も汚れた湖(*7)であった事情を背景に、水質浄化の啓蒙を目的に作られたのが「水の館」という設備。あくまで目的は「水質浄化」であって「外来種防除」ではない。同じ水に関することだから、という理屈は通用しないのだ。さらにオオフサモやナガエツルノゲイトウは特定外来生物であって、防除が目的とは言え権限のない者が行えば「採取・移動」したことになり罰則対象となってしまう。このあたり「縦割り行政」の弊害かも知れないが、法律は法律。コンプライアンスである。
 例えば私がオオフサモを根本的に退治する画期的な手法を研究していたとする。(もちろん現実は何もしていない)そのために草体のサンプルが必要で、採取し家に持ち帰ったとする。これも現行法下では犯罪だ。広く公益に資する行為でも違法となってしまう。極論を言えば野外で特定外来生物を見かけても「何もしないこと」が適法。何か狂っていないだろうか。外来生物法の目的、特に特定外来生物に付いては究極的に根絶することが目的だと思うが、この膨大な時間と人手を要する遠大な目的に対し、不特定多数の力を考慮しない、むしろ法で排除する、外来生物法は目的とプロセスが矛盾し「見て見ぬふり」を助長するような構造になっていると感じられるのだ。

 というわけで近隣ではオオフサモをはじめとする特定外来生物はなかなか防除が進んでいない。原因を考える時、予算や人員の問題もさることながら、外来生物法自体の持つ「自己矛盾」が壁になっているのではないか、と思う。特定外来生物はもちろん「危険物」であり、これ以上の拡散は避けなければならないが、慎重になり過ぎて自縄自縛となっているのではないか。我が国には「羹に懲りて膾を吹く(*8)」という諺もある。


(P)千葉県我孫子市手賀沼北岸 2014年6月

脚注

(*1) もちろん「キンギョモ」という植物は存在しない。自分の認識では本文にあるようにオオカナダモ、フサジュンサイ、オオフサモを総称する「呼称」であると思っているが、クロモ、キクモ、フサモ、ホザキノフサモ、マツモ、コカナダモなど広範な種を含む呼称であるとする立場、また逆にマツモ(ホーンワート)の別名とする立場もある。
 こうした「手軽に入手できる水草」の一つとして本種オオフサモ(パロットフェザー)が販売され続けてきた、ということを言いたかっただけなので誤解のないよう。

(*2) 室内の「水辺」園芸は要するにアクアリウムだが、野外の水辺では充足されている光(照明)、土壌(肥料分と微生物)、水(溶存気体、濾過)が要素として重要になってくる。野外の気中葉植物を沈水化するためにはこれらの要素が高次元でバランスしなければならない。オオフサモがこれらの要素が十分な野外でも、きわめて限られた場合にしか沈水葉を形成しない理由は不明。「論理的に」考えれば通常の状態が抽水植物である、という理由しか考えられない。

(*3) 本シリーズ「ナガエツルノゲイトウ」脚注(*7)参照。ちなみにオオフサモは我が国には雌株のみ帰化しており実生は行わない。従って増殖はすべて栄養繁殖である。

(*4) アルベール・カミュ(1913-1960、仏)の実存主義小説タイトル。1942年発表。神々の怒りを買ったシジフォスが罰として大きな岩を山頂に運ぶ苦行を課されるが、山頂に到達した瞬間に岩は転がり落ちてしまう、という内容。要するに徒労の代名詞。
 分化全能性を持つ特定外来生物、ナガエツルノゲイトウやオオフサモは除去する際に根はもちろん、葉や茎の欠片を残してしまうとそこから群落が復活し、元通りになってしまう。やるなら徹底して、やらないなら放置、と腹を括らないと永久に大岩を山頂に押し上げなければならなくなる。問題はそこに筋力だけではなく、税金が投入されること。税金を徒労に投入することの是非は語るまでもない。

(*5) 「らち」。国土地理院によれば「植物や建築物に覆われておらず、土がむきだしになっている土地のこと」で、水辺に限って言えば湖沼の波打ち際、河川の砂州などが該当する。こうした地形には在来種水生植物はなく(植物や建築物に覆われておらず)オオフサモが在来種を駆逐する、という表現はあたらない。
 安定した湿地でも土地利用のための明渠排水や護岸工事などによって短期的に出現する地形だが、こうした場所には在来種と言ってもアシやガマなど競争力が異常に強い種が幅を効かせるのでオオフサモはさして問題にならないだろう。問題となるのは裸地でも元々の植生が復活し、希少な植物群が繁茂するような水辺。私はこうした地形を1か所知っているが、ホシクサやヒメナエの大群落にエダウチスズメノトウガラシやミズマツバ、サワトウガラシなどが点在する豊饒な湿地だ。ここにオオフサモが入り込めば確かに危ない。

(*6) 霞ヶ浦は沿岸部に15の漁業協同組合があり、全体で年間2000tの漁獲量がある「漁業の湖」である。魚種はエビ、ハゼ、ワカサギなどが上位を占めている。また一時期鯉ヘルペスで下火となったが、養殖漁業も盛んだ。従って漁船の出入りに必要な漁港が多数あり、こうした漁港に繁茂するオオカナダモ、フサジュンサイ、ボタンウキクサ、トチカガミなどが問題となっている。植物側から見れば波の荒い霞ヶ浦でも防波堤の内側の漁港は居心地が良いのだろう。しかし漁港でオオフサモが邪魔になり除去した、という話は聞いたことがない。

(*7) COD(化学的酸素要求量、水質の指標)値で1974年から2001年まで27年連続でワースト。北千葉導水路(利根川の水で薄めるという場当たり的手法)によって多少の改善は見られたが、それでも同じ水系の印旛沼(千葉県)に次いで第2位である。見た目には何も変わっていない。以前はガシャモクをはじめ沈水植物が肥料にする程あったというが現在はもちろん面影もない。ちなみに建設省の工事の際に突発的に発芽したガシャモクは我孫子市の「水の館」で系統保存されている。

(*8) 今や死語になりつつある諺。羹、つまり熱い汁物を食べたら火傷しそうに熱かったので、膾(生肉の刺身を指す古語、鱠は魚の刺身で同音異義)を食べる時にもフーフー吹いてしまうという意味。そんな奴はおらんやろ、と思うが諺の話なのでその辺は穏便に。
 外来生物法では凶悪な特定外来生物の拡散を恐れるあまり、採取移動飼養などすべて禁止、がんじがらめの法律になっているが、逆に民間ボランティアが自発的に防除を行う道を塞いでいるのではないか、という現状を例えてみた。



Photo :  RICOH CX4 CX5 PENTAX OptioW90 Canon PowerShot S95

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