日本の水生植物 水草事始
水生植物の観察道具2 記録道具
(C)半夏堂
§1 カメラ・撮影機材

湿地植物の楽しみ方、写真


 植物(湿地植物)の趣味と一言で表現しても、楽しみ方は千差万別、見るだけで満足できる悟りの境地から、育成するための採集命という形而下的欲求まで幅広い。さらにそれぞれのジャンルに深度があって、まさに人それぞれという表現が相応しい。湿地植物よりはメジャーな趣味だと思われるが、鉄道にも乗り鉄とか音鉄、撮り鉄などのジャンルがあり、それぞれレベルがあるのと一緒である。

 自分の場合、植物趣味は現状一部育成もしているが、方向性はほぼ写真撮影に収斂している。鉄ちゃん的表現では「撮り草」みたいなものか。Webで公開するという楽しみもあるので「自分の目で撮影し脳裏に記憶」という境地には達していないが、より自然に負荷をかけない方法であると考えている。しかしこれとて後述するように湿地環境への撮影目的の立ち入りによってダメージを与える場合があるので注意が必要であるが、そこは単なる見学でも一緒、より細心な行動を心掛けるようにしている。
 本音を言えば写真撮影程度ではよほど深入りしない限り自然に対する負荷はないと思うが、そういう批判も一部にあって、甚だしい場合には「自然の中を歩くこと自体が自然破壊」という恐るべき極論も見聞きしたことがある。こうした極論は問題外であるが、どんな形でも関わる以上、できるだけ影響を与えない行動を心掛けることは重要だ。ちなみに「極論」というのは、それを言い出すと人間の存在自体が自然破壊(現実にそうだが)ということになり自己否定になるからだ。

 さて、そんなわけで写真撮影メインになった植物趣味だが、撮影にも色々あっていつの間にか様々な目的に応じた機材、目的に応じなくても自分に負けて反射的に買ってしまった機材が増えてしまった。撮影の腕が機材の数と比例しないことはこのサイトの写真をご覧頂ければ一目瞭然、悩ましい所ではあるが、少なくても状況に応じてどのような機材を使用すべきか、ということは経験上分かってきたので、以下ご紹介したいと思う。


湿地に向いたカメラ


 湿地に向いたカメラは○○社の××、と一言で指定できれば楽だが話はそう簡単ではない。植物を対象とする以上、自生地の俯瞰的な撮影(標準)、植物体細部の撮影(マクロ)、離れた場所の植物を大きく撮影(望遠)など、様々な機能が必要がなるからで、すべてを一台でまかなえ、100%満足できるカメラ、レンズは残念ながら存在しない。あえて言えば人間の目がそれに近いというが、ズーム機能はないし、加齢とともにマクロ機能も弱くなってくる。

 必要最小限にはなるが、これらのシチュエーションにある程度オールマイティに対応出来るのは、いわゆるテレマクロ機能が搭載されたコンパクトカメラ。望遠でもある程度マクロ撮影が可能な機能である。しかしこうしたニーズはニッチ(隙間)であり、最近の製品には搭載されない場合が多いようだ。と言うよりもこのクラス自体がスマホのカメラに負けて新製品があまり出なくなってしまった。滅びゆく製品ジャンルになりつつある。
 一眼レフ用の望遠レンズにも倍率の高いマクロ機能が搭載されている場合があり、こうしたものを選ぶのも手。ただしコンパクトカメラのテレマクロも望遠レンズのマクロ機能も接写マクロに比べれば倍率も写りも劣るので記録用と割り切ることも必要だ。そこはうまく出来ていて、専用の望遠マクロを購入すれば価格は高いが写りは満足できる。費用対効果というかヒエラルキーが確立されているのである。
 被写体(植物)への接近に関して、最近はドローンを使用した撮影も増えて来た。禁止区域以外であればドローン撮影も選択肢として「あり」だろう。(ただし関係機関の許可が必要)カメラ雑誌にはよく海上空中から島の断崖絶壁を捉えた見事な写真が掲載されるが、撮影機材は立派(高額)で、写真の出来よりも墜落したり断崖に激突したら、と貧乏人根性が先に立ってしまう。


手振れと三脚使用


 望遠撮影は手振れしやすい。フィルム時代にはある公式があって、焦点距離分の1のシャッタースピードを下回ると手振れする、というものだ。つまり200mmレンズなら1/200を下回るシャッタースピードは使用しない、という公式。それでもホールドが悪かったりするとブレるので、あくまで最低ラインという程度の目安だ。
 デジタル時代になってセンサーの性能向上による高感度や手振れ補正機能がレンズやカメラに搭載されるようになり、こうした問題は少なくなったが、逆にコンパクトカメラを中心に凄まじい焦点距離(1000mmオーバーなど)のものが登場しイタチごっこの状況となっている。こうした問題の「解」は三脚だが、場所により「三脚禁止」を明示している撮影地がある。理由は主に他の見学者に迷惑となるというものだが、誰もいないから、という理由で自己判断するのはNG。レギュレーションは守るのが前提で、撮影者として管理者側に迷惑をかけないのが鉄則だ。綺麗ごとではなく、レギュレーションを無視した結果、何らかの被害実態を感じた管理者側が全面立入禁止にでもしてしまえば撮影自体が出来なくなってしまう。自分に返ってくるのだ。

 2017年にはタレントが線路に立ち入った写真をSNSで公開し、書類送検にまで至っている。そりゃ列車があまり来ない線路なら危険は少ないだろうが、それを誰もが言い出せば、そもそもレギュレーションが必要なくなってしまう。法治国家の原理原則の問題である。
 どちらにしてもこうした状況を想定して使用機材を選ぶ必要がある。もう一度言うが、個人的に良い写真を撮影することより自生を維持する方がはるかに重要である。端的に言えばルール遵守と良識が撮影者としての資格である、と言えるだろう。湿地に向いたカメラ、はないが湿地(撮影)に向いた撮影者というものはあるのだ。前置きが長くなったが、以下それぞれの撮影機材の特徴を概説する。


コンパクトカメラ


 以上の状況に鑑みて、撮影に持って行きたい機材をご紹介する。まずテレマクロ機能のあるコンパクトカメラ。上記したように最近はあまり搭載されていないが、以前RICOHで発売していたCXシリーズ、最近ではOLYMPUSのStylusSHシリーズがテレマクロ機能(最大ズームで最短撮影距離40cm)を搭載している。どちらも1/2.3インチという小さなセンサーを搭載しているため、小さな植物の特徴的な部分を意外と大きく写すことができる。上記したようにニッチな製品なので流通量は多くないが、今でも時折リサイクルショップなどで見かける場合があり、数千円で販売されているので入手も可能だと思う。
 画質や解像度やら気にしないのが記録写真なので用が足りればこれで十分である。ズーム倍率だが基本的に20倍前後が限界だと思う。今や60〜80倍(焦点距離2000mmクラス)のカメラもあるが、ファインダーなしで20倍を超えると被写体を見失う場合が多く、こうした事態を防ぐためには三脚が必要になる。三脚は上記のように禁止の場所も多く、また身軽に動けるメリットをスポイルしてしまう場合が多く、あまりお勧めできない。またファインダー搭載のタイプは、いわゆるブリッジカメラが多く(外見が一眼レフのような大きなカメラ)、一眼レフを持ち歩くのと大差がなくなってしまい、これまた手軽さがない。

 よくある「誤解」だが、コンパクトカメラしか使用しない撮影者は「高価な一眼レフならより綺麗に写る」と思いがちだ。しかしこれは時と場合による。まず写真の使用目的がWeb(HP、ブログ、SNSなど)であれば鑑賞物として大差がない。時によってコンパクトカメラの方が綺麗に撮影できるほど。最近ではスマホ搭載のカメラの性能が向上し、スマホでも十分だと考えるユーザーが増えてきた。それがコンパクトカメラの衰退の主原因と言われており、テレマクロなど特長ある製品が出なくなった状況に直結している。

 逆に一眼レフは撮影者の意図を反映できる分、その「意図」を操作系で設定しなければならない。ISOや露出補正、絞りといった、あまりコンパクトカメラでは使用しない機能の知識と操作を覚える必要がある。一眼レフと言えどもずっとオートで撮影するならコンパクトカメラを越える成果は得られない。変な話、コンパクトカメラのオートは主たる用途として設計されているので、大抵の場合自分でモードやパラメータを設定した時よりも綺麗に写るが一眼レフはそうではない。


【OLYMPUS Stylus SH-3】 【RICOH CX5】
SH-3のテレマクロ(ミズオオバコの花) CX5のテレマクロ(ミズオオバコの花)


飛び道具


 記録写真で厄介なのは「肉眼でも見えないような特徴」を写真で残さなければならない所で、それ自体に意味があるかどうかは別として、少なくても文章で書くよりも説得力があるのは事実。方法は2つあって、いわゆる「顕微鏡モード」を搭載したカメラを使用するか、マクロ撮影用のコンバージョンレンズを装着するか、である。顕微鏡モードを搭載したカメラはPENTAX(RICOH)やOLYMPUSから発売されており、カメラ単体で微小な世界の撮影が可能となっている。ある意味「飛び道具」である。
 「意味があるかどうかは別」というのは、肉眼で見えないので掲載しても植物を採集して家で調べる習慣のある人や、こういうガジェットを持ち歩く人、要するにマニアのためだけの情報になってしまうからである。このWebサイト(日本の水生植物)も性格的に「マニアのためだけ」のようなモノだし、閲覧される方も過半がそうだろう。なので自分は「飛び道具」で撮影した画像を掲載するのに躊躇はないが、果たしてそれに意味があるのか?と問われると自信を持って答えられない。

 この飛び道具が搭載されているのはPENTAX(RICOH)やOLYMPUSの屈曲光学系レンズ搭載のデジカメ。電源ONでレンズが伸びないタイプのデジカメだ。一般撮影は光学式に比べてやや画質や解像度で劣るので、人によっては一台ですべてを賄うという用途には向かない。かく言う自分も顕微鏡撮影専用に使用している。そこは弱点として認識する必要がありそうだ。ただしこのタイプは優れた防水性能や様々なアートフィルターを搭載しており、遊びとしての幅は間違いなく広がる。「シモツケコウホネ沈水葉の水中動画」なんて代物(水生植物図譜に掲載)はこういうのが無ければ撮影できなかった。

 光学式レンズを搭載したカメラに使用するコンバージョンレンズは純正品ではなくレイノックスというメーカーのサードパーティ製品。機種により(画像の旧PowerShotGシリーズなど)専用アダプターが必要になる。レンズに付属しているアダプターの他、キヤノン純正のフィルターアダプター(旧PowerShotGシリーズの場合)が必要となるので注意が必要。

 PENTAXのW90は長年使用したが(現在は後継機のWG3を使用中)、ほぼこうした用途専用になってしまった。防水仕様でレンズの沈胴がない屈曲光学式のカメラなので上記の通り通常の写真の出来がイマイチ、というのが主な理由。無駄な投資となる可能性もあるので、装着可能なコンパクトカメラを持っているのであればコンバージョンレンズをお勧めしたい。
 一眼レフでもCanonの特殊なレンズ(MP-E 65mm)のように等倍〜5倍まで撮影可能なものもあるが、事実上この用途だけしか使用せず、価格が10万円を超えるので一般的ではない。費用対効果を考えれば、どうしても必要な人(精密な植物図鑑の仕事など)か、金が余って仕方がない人が使うデバイスだと思う。


【PENTAXのW90(旧機種)】顕微鏡モードとレンズ周囲のLEDライトによって影の出ない精密なマクロ写真が撮影できる。 【コンバージョンレンズ装着のPowerShotG11】このシステムにローアングル三脚を組み合わせれば最強のマクロだ。
PENTAXのW90、顕微鏡モードで撮影したミズマツバの花。等倍以上に撮影に撮影可能だ。 上の機材で撮影したアヅマツメクサの花。実物は直径2mm弱だが等倍以上に撮影できる。


一眼レフ


 ミラーレスを含めたレンズ交換式カメラ、ざっくりしたカテゴリーで言えば「一眼レフ」(厳密にはミラーレスはレフレックスではない)は、個人的感想ながら植物を記録に残す撮影にはあまり向いていないと思う。理由はセンサーサイズが大きいために、相対的に被写体が小さくしか写らないからである。湿地植物にはごく小さな植物も多く、通常のレンズ(一般的なズームレンズなど)ではほぼ太刀打ちできない。

 一眼レフが、記録に残す、という観点から言えばあまり向いていないことは事実で、それは何台もの一眼レフや交換レンズを所有しつつ、湿地にはコンパクトカメラ1台持って撮影に出かける事が多くなった自分を顧みても明らかだ。重量のアドバンテージによる機動性の優位、という要素も大きいが、小さな草本植物の、さらに小さな特徴部分もある程度写し込む場合には、それなりの性能を持つレンズが要求され、撮影シチュエーションによっては三脚も必要となる。とかくシステムが大掛かりになってしまうからである。そうした苦労のわりには出来は(記録、という意味での)コンパクトカメラと大差がない、となればどちらを選ぶかは自明というもの。

【画像:一眼レフ(APS-Cサイズ)にマクロレンズとアングルファインダーを装着】

 その「それなりの性能を持つレンズ」であるマクロレンズを使っても高々「等倍」である。等倍というのは撮像面(センサー)に被写体となる植物と同じ大きさで撮影できる、という意味だ。従って同じ倍率ならセンサーが小さい方が大きく写る。別の言い方をすれば小さな倍率の小さなコンパクトカメラでも一眼レフの等倍マクロと同じ大きさ、場合によってそれ以上の大きさで撮影可能ということ。(もちろん機種毎の性能によって異なる)一眼タイプでもマイクロフォーサーズのようにセンサーサイズが小さなカメラはマクロレンズでも1.25倍、など等倍(1倍)以上に撮影可能。しかしそれは撮像面(センサーの大きさ)に対してであって、上掲したミズマツバやアズマツメクサの写真のような拡大撮影はできない。

 一眼レフのアドバンテージは画質が良いことである。センサーもAPS-Cや35mmサイズが主流で大きく、画素ピッチにも余裕がある。レンズもそれなりに性能が良い。画質が良くて当然であるので、画質にこだわる場合は一眼レフを選ぶべきだと思う。ただしその場合、マクロ撮影にはそれなりの追加装備が必要になり、マクロレンズは当然ながら、三脚も必須で、カメラ本体の重量にこれらが加わるため、移動時には相当な負荷を覚悟しなければならない。重量に加え費用的にも嵩むのでここは考えどころ。
 マクロレンズは様々な焦点距離があるが、植物撮影用に何本も使っている立場で感想を言えば一本では足りない。焦点距離、ワーキングディスタンス、撮影対象によって求められる性能が変化するからだ。そのあたりの機微は実際に使わないと分からないのであまり書かないが、結果的には自分は35mmサイズ用としては50mmと100mm、APS-C用としては30mmと60mm、MFT用としては30mmを使用している。欲を言えばMFT用に50mmが欲しい所だが製品が出ていないので仕方がない。
 湿地植物撮影用として考えた場合、この焦点距離とそれに伴うワーキングディスタンスは重要な要素である。小さな植物に50mm程度のマクロレンズでレンズ面ギリギリに接近すること(ワーキングディスタンスが短い)を考えてみて欲しい。両ひざは間違いなく泥濘の地面に付くし、場合によって肘もである。汚れる上に近頃自分の腹が邪魔で苦しい姿勢を強いられる。写真一枚撮るためになぜ多大な体力を消費しなければならんのか、という話だ。

 真夏の撮影盛期にはこれらに加え、水分補給用のペットボトルやら帽子やら何やら持物が増えるので、荷物を1gでも軽くしたいニーズに完全に逆行してしまう。繰り返すが記録写真に画質は不可欠ではない。折衷案としてミラーレスという選択もあるが、自分でも使用している経験から言えば一眼レフと五十歩百歩。折衷案だけあって、安く軽いレンズを装着すると写りはコンデジ寄り、高く重い(明るい)レンズを装着すると重量も写りも一眼レフ寄り、という所。ポジションが中途半端な感は否めない。ただし「画像はあまり妥協できないが少しでも軽く」というニーズにははまるだろう。
 と書くとミラーレスでセンサーがフルサイズ、というα7シリーズがあるのでは?と突込みが入りそうだが、SONYのフルサイズ用のレンズは大きく重く、ついでに価格も高く、カメラ本体が多少軽くても結局は一眼レフと可搬性において同様になってしまう。技術力があるメーカーなので画質は良いと思うが、ミラーレスの利点とされる軽量コンパクトは期待できない。一方的にSONYをディスっているわけではない。こう見えても数台のコンデジ、NEX-6,NEX-7,α6000のユーザーである。

【ローアングルポジションが可能な小型三脚】
一眼レフの重量を支えるため、小型でもそれなりに重い
【葉の表面や水面の反射光を拾わないためのPLフィルター】
一眼レフでの撮影は小物も必要となる

動画撮影


 主にHPでの公開を目的として、スチール以外に動画を撮影することがある。動画の方が臨場感や自生地の状況を伝えるという点で優れている、と判断した場合である。この場合、極めて短時間の撮影でほぼ用が足りるので、専用のビデオカメラは必要なく、デジカメに付いている動画撮影機能で間に合うことが多い。
 以前のデジタルカメラは画像が粗い動画機能(サンプルを載せておく)をオマケ程度の機能として搭載していたが、最近では4K、6K、8Kなどクオリティの高い機能を謳った製品が出てきた。どうせ撮影するのなら綺麗に撮れた方が良いに決まっている。こうした機能も製品を選ぶ際の重要なポイントになると思う。またLUMIX(Panasonic)のカメラの多くはこれらの動画機能から静止画を「切り出す」機能を持っており、確実にシャッターチャンスをモノにすることが出来る。植物撮影では必要ないが(という理由で私は使用したことがない)、鳥や昆虫など動きの速い被写体を狙う方には便利な機能だろう。
 日本的、求道精神至高メンタルでは4Kフォトや6Kフォトは邪道扱いされることもあるが、写真は柔道や剣道のように「道」が付かない趣味であって、正道も邪道もないはず。手軽に大きな成果が得られるのであればそれに越したことはないと思う。芸術写真の場合でも、芸術性云々が評価されるのは写真そのものであって、撮影したカメラの機能や設定ではない。

§2 筆記用具

筆記用具


 記録する道具としてはつまるところスマホのメモでも良いのだが、見栄えが悪い。湿地に来てまでオンラインゲームをやっているように見えてしまうのが弱点。フィールドノートに何か書いていればそれなりに他人から見て「何か研究しているのかな」と見えるのがメリット。と言うか私の年代ではスマホに打込むよりは書く方が早い。湿地のような場所に来てまで他人の目を気にしても仕方がないと思うが、自分のスタイルを貫くのも趣味のこだわりだ。ところで何を書くのか、私のように中高年で記憶力が減退している方、もともと記憶力に自信が無い方は植物見学において以下項目が必須である。

・植物名、見られた地形
・周囲に生えていた植物
・見られた時期(写真に残せばexif情報でも可)
・見られた場所(特に広大な湿地ではピンポイントの場所が重要)
・宿題(後で調べるべき項目、例えば開花期、結実期、分布情報など)

【画像:使用中のフィールドノート。上ダイソー、下コクヨ、それぞれA6サイズ】

 植物観察といっても見るだけなら誰でもできるが、趣味でやる以上何かは残したい。記憶にも残らなければ毎回新鮮な気持ちで見学できる、というメリットはあるが、傍から見ればアホである。と言うか根本的に何をやっているのか、という疑問が残る。(そんな人はいないだろうけど)少しでも何か残れば、趣味に深みが出るというもの。

 さて、フィールドノートは小さなメモの方が良い。理由はもちろん荷物にならない、というのが第一だが汚れて濡れても構わないという手軽さも重要だからだ。私はA6サイズ(105×148mm)の小型ノートを使っている。ダイソーなら3冊100円、ペンも3本100円なので、汚れようがなくそうが(失くして内容が失われるのはイタいが)痛手にはならないからだ。整理する必要のある情報は家に帰ってから情報整理用のノートにまとめる。面倒と言えば面倒だが、何でもかんでもPC、スマホ、タブレット(最近は携帯電話の契約もタブレットに入力させる)の世の中、漢字を忘れない、文章を書く習慣を保持する、という点で甘受している。幸いなことにまだ兆候はないが、認知症予防にもつながるかも知れない。
 単価が安い、薄いのですぐに情報で埋まってしまう、ということもあって色々なメーカーのものを見かける度に買っていた時期があって、今や自室の一角には一生分以上のストックが出来てしまった。機を見て湿地毎、植物毎のフィールドノートに分けようかと考えている。どちらにしても手書きの要素は捨てるつもりがなく、用途や形が変わったとしてもフィールドノートは継続しようと思っている。

 実の所、このWebサイトを始めようと思ったきっかけはフィールドノートである。自分用の情報としても、調べることは極力正確に調べるし、不正確な情報は書かないが、つまるところ「自分用」で完結してしまう。広く公開すれば様々なご意見を頂戴できるチャンスが増えるし、自分のためにもなると考えたのだ。予想通り植物の同定や育成方法などで未知の方から貴重な情報、時には論文や絶版となった図鑑のコピー、植物生体などを頂けたし、それをさらに情報発信できる。ごく僅かでも世の中のためになっている、他人に貢献していると思えば趣味にも張り合いと意義が見い出せるはず。

§3 標本道具

野冊の必要性


 私自身は植物標本を作製する習慣がなく、同好の友人に言わせれば「趣味人の風上にもおけない」人間だそうだが、一言だけ反論させて頂くと、すでに存在が明らかで世の中に写真や基本データが出回っており、多くの標本も存在するのに個人でさらに標本にする意義が感じられないのである。しかし筆記用具の項で述べたように、何らかの「形」を残すのは重要なことであって、この「形」が植物標本であっても否定するつもりは毛頭ない。
 さて、標本用具と言っても現場では植物採集が主な作業になるので、採集用具があれば事足りるはず。足りないのは、採集後に花が散りやすかったり、植物体がしおれやすかったり、はたまた短時間で葉を閉じてしまったり(マメ科植物に多い)、持ち帰り後の標本作成を困難にしてしまう特性を持った植物のためのケアである。

 このためには野冊という道具を使用する。野冊は新聞紙などを紐で束ねたイメージのもので、植物を採集後、変化、劣化が現れる前にその場で挟み込むためのものである。要するに標本作りの第一段階を植物採集現場で行ってしまう、というもの。弱点はご想像の通り、重量容積ともに嵩むこと。しかし標本を目的とした場合は甘受するしかない。ゴマノハグサ科の小さな植物ならともかく、ミズアオイやタデ科ギシギシ属の植物を対象にした場合の苦労は想像に余りある。ただし、いかに技術が進んでも技術が及ばない部分なので致し方ない。

 植物標本の作り方については、詳細に紹介したWebサイトが検索でいくらでもヒットするので興味がある方はご参照願いたいが、標本ラベルなど決まった「作法」もあるようだ。また数種類ならともかく何十何百種類となった際に保管するスペースがある方は限られると思う。簡単なようでなかなか難しい世界だ。植物好きがすべて牧野富太郎と同じ条件にあるわけではない。

ハーバリウム


 紙に貼り付けるイメージの植物標本だが、最近ハーバリウムというお洒落な標本が一部でブームになっている。ハーバリウムという言葉は広い意味での植物標本だが、ドライフラワー(要するに従来の意味での「標本」)をガラス瓶に入れて特殊なオイルを充填するというもの。これによって劣化が防げる上に綺麗な花であればインテリアにもなるという優れものだ。私的には花が綺麗ではなくてもミズマツバやスズメハコベなどでテンションが上がりそうな気がする。

 特殊なオイルはシリコンや流動性のパラフィンなどだが、流動性のパラフィンは引火点が低いものもあるので取り扱いに注意が必要なようだ。また、綺麗なものはつい窓際に置いてしまいそうだが、透明の瓶と液体によって収斂火災(太陽光がレンズ効果で一点に集中し高温になって発火する火災)が発生する可能性もあるので置き場にも注意が必要。ともあれ、結果的に死蔵してしまいがちな通常の標本に比べれば役に立つし、作るプロセスも面白そうだ。蛇足として「こんな標本もあるよ」的プチ情報。もちろん植物体を一度乾燥(ドライフラワー)にするので、採集現場に瓶やオイルを持って行く必要はない。


日本の水生植物 水草事始
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