日本の水生植物 水草事始
水生植物の観察道具1 探査道具
(C)半夏堂
§1 フットギア

泥濘対策


 湿地は泥濘の土壌が基本である。そもそも水があっても無くても通常時は乾いている土地を湿地とは呼ばず、湿地植物も生えていない。また目的の湿地植物が都合良く舗装された道路際に並んでいるわけでもない。河川や湖沼でもある程度は水に入らなければ植物(特に沈水植物)を観察できない場合も多い。効率の良い植物観察のためには目指す湿地の地形、移動手段にあわせてフットギアを所持すべきだろう。

 一般的なものは長靴やトレッキングシューズだが、自ずと限界があって、もちろん長さ以上(後者の場合は防水保証性能以上)に沈み込む場所には踏み込めない。また限界があるわりにはそこそこ重量があって、長時間に渡ると持ち運びや歩行が結構しんどい。探査ツールとして中途半端の感は否めないが何もないよりはマシである。重量を考えて手軽なビーチサンダルという手もあるが、水中で想定される様々な障害・危険に対しては全くの無防備状態である。

【画像:防水性能4〜5cmのトレッキングシューズ】

 水中には意外な障害・危険があって、特に普通にありがちなのはガラス片による怪我。マナーの問題だが空きビンを放棄するのに水面があると心理的に捨てやすいと思う輩が多いようだ。私もやられた事があって、左足の側面を相当ざっくり切ってしまった。何年経っても傷跡が消えないぐらいの深い切傷だが、水中で切った際には多少の異和感を感じた程度で、これ程の傷とは思わなかった。

 幸いなことに傷口からの細菌の侵入は無かったが、場合によっては命にかかわる恐ろしい感染症(破傷風など)に罹患する可能性もある。また最近ではカミツキガメやワニガメなど危険な生物が潜んでいる可能性もあり、噛まれれば大怪我である。このような、「ここは本当に日本かよ」的な場所もあるのでビーサンは出来れば避けたい。上記獰猛な爬虫類はまだ生息個所が限られるが、チスイビルのいる場所でも無防備は恐い。最悪血を吸われるだけだが、むず痒さが相当期間継続するので不快極まりない。
 何にしても湿地歩きは足元が最重要ポイントなので、防備は不可欠である。この部分、多少の投資は甘受すべきだと思う。

【画像:最も確実な長靴】

 フットギアは本格的なウェイダー(胴長)やフロートチューブ(ブラックバスフィッシングでよく用いられる「浮輪」)も使用できるが、それらは価格や重量の点で問題がある。特に可搬性を考えると車による移動しか選択肢がなくなってしまうので、駐車場所の確認やら車で入れる場所かどうかの確認やらが必要で、事前調査が不可欠である。調査したとしても泥濘の湿地にそこまでの情報があるかどうか疑問の上、多少の雨が降れば地形は変わってしまう。入り込むことができるかどうかは地図でも分からない。まさに一長一短とはこのことだ。以前湿地に同行した若い方がウェイダーを持って歩いている姿を見たが、見ていて「私の年齢では無理だな」と思った。なにしろ近頃一眼レフも持って行くのが億劫になるほどの弱体である。

 落とし所、というわけではないが、泥で汚れることはもちろん嫌だが、怪我の防止を第一に考慮し、水中泥濘中のガラスや金属片に対して防御できる一般的な長靴が消去法的にベストだと思う。踏み込みが予想される湿地には私も画像のものを持って行くようにしている。用意した道具で及ばない場合は諦めも肝心。趣味で危険な目に合うのは本末転倒である。登山はまさにそうではないか、と言われそうだが、そのかわり命に関する装備は重かろうが嵩張ろうが不可欠で必ず持って行くではないか。命を落とすことを前提にした趣味ではないはず。また湿地は山と異なり征服すべきピークはない。町中のジョギングだって運が悪けりゃ交通事故にもあってしまう。趣味の危険有無論議はともかく、以下、湿地探査におけるその他のフットギア含め、一長一短を下表で一覧した。

アイテム メリット デメリット
トレッキングシューズ そのまま履いて行ける利便性あり 多少の「ズブズブ」にしか対応できない
長靴 泥濘、湿地、浅水域に活躍する万能選手 重いので持ち運びにやや難あり
ビーチサンダル 運搬、装着、清掃すべて手軽に出来る軽量級王者 水中泥濘中のガラス片、金属片、ヒルに対して無防備
ウェイダー 完全防備、水深部に踏み込める強力なツール とにかく重い。電車+徒歩のズブズブでは利用困難
フロートチューブ 湖沼であればどこにでも移動可 運搬困難(車限定)、高価格(数万円)、屈めない



 余談ながら。河川湖沼湿地に水生昆虫や魚類、植物を目的として踏み込む趣味を「ズブズブ」と呼ぶことがあるが、これは上記状況を擬音化したものであることは間違いない。しかし個人的にこの言葉には反感があって、その理由は表現が実態に比べてお気軽すぎるからである。都市周辺の休耕田のような場所ならともかく、本格的な湿地では「ズブズブ」しないのが基本である。本当に「ズブズブ」状態に足を踏み入れれば命の危険があるような場所は無数にあるからだ。そしてそのような場所には危険に対する注意喚起は基本的にはない。入ってみなければ危険は分からないのである。

 私はそうした場所に行く際に、あえてスニーカーだけで行くことも多い。「その心」は多分に逆説的ながら「君子危うきに近寄らず」であるわけだが、この軽装備で見られる範囲が探査の目的、と割り切ることも時には必要である。せっかくだから、とすべてを見る、把握する義務があるわけでもない。(本来はそうあるべきなのだろうが)そして人間、道具があると過信する。過信は事故に直結するのだ。こんな事で事故を起こして周囲に迷惑をかけることはできない。軽装で山に入り身動きできなくなってヘリが出動するのと同じである。避ければ避けられる時間と費用の浪費と言われても返す言葉がない。

§2 緊急時対策用品

トラブル対策


 湿地に限らず何があるか分からないのが自然・アウトドア。切り傷、擦り傷、毒虫その他諸々。経験上よく喰らうのが蚊の大群の襲撃。そりゃ蚊の生産本拠地のような場所に行くわけで、刺されるのは行く方が悪いが、最近では蚊が媒介するデング熱やジカ熱など、とんでもない病気があるので「たかが蚊」と侮れない。痒みを我慢する程度では済まないのだ。そこまで行かないが、以前刺された足を植物や泥を触った汚れた手でボリボリやったため、真菌感染症という奴にかかってしまい、数年間苦しんだことがある。不快感の持続時間から見ればデング熱より始末が悪い。
 そんな不注意な自分が言うのも何だが、幼児教育が不徹底だったのか(親を恨むつもりはないが)手洗いの習慣が希薄で、最近では意識して行うようにしている。こんな不注意の代表のような真菌感染症に罹らないように、汚れた手であちこち触るのは避けた方が賢明だ。

蚊が媒介する感染症


 東京都感染症情報センターによれば、これらの蚊媒介感染症にかかった場合「マラリアについては、抗マラリア薬を投与します。ウエストナイル熱、ジカウイルス感染症、チクングニア熱、デング熱、日本脳炎は、対症療法が中心です。感染してからの治療よりも、蚊に刺されないための対策が重要です」(下線部リンク先サイトより引用)とあり、特効薬も予防薬もなく対処療法しかない以上、まずは刺されない準備が重要である。
 根治治療が存在しない点ではこれらの感染症は悪性新生物(癌)や心筋梗塞などより始末が悪い、ということで少ないながら死亡者も出ている状況を考えればけっして軽視することは出来ない。何十年か前には蚊の羽音も夏の風物詩、蚊取り線香の香りをかぎながら退散を待つ余裕もあったと思うが、今や下手をすれば命に関わる感染症の媒介があり、けっして「むず痒い」だけで済む相手ではない。

 蚊や蜂、アブなどから身を守るのは防虫スプレーで、多少盛大に噴霧しないと効果が薄い。意外と無力なのがモバイル型蚊取り線香。風向きによりまったく効かないので持って行くだけ無駄だ。自宅で除草作業をする際にも盛大に蚊取り線香を炊くが、風向きが変わると蚊が群がって来る。防虫スプレーが効かない水中にも(入る際にくどいほど噴霧すれば多少効果?)コオイムシ、マツモムシ、ゲンゴロウなど刺す虫が居る上に、場所によってはチスイビルなど吸血する連中がいるので、ここは前項のようにフットギアで固めたいところ。
 刺されてしまった場合、怪我をしてしまった場合に備えてバンドエイド、消毒剤(マキロンなどのスプレータイプ)も用意したい。アウトドアなので破傷風菌など大きな病気につながる菌がいることは前述の通り。出来る限りの備えが必要である。

毒のある生物


 スズメバチやムカデに刺されたりヤマカガシ、マムシなど毒蛇に噛まれてしまったら迷わず救急車を呼ぶ。その意味で携帯電話は必須だろう。あまり知られていないが、統計上、アウトドアの危険生物の定番、クマやマムシによる被害者数よりスズメバチの被害の方が多いという。原因は生息数もさることながら、刺された際のアナフィラキシーショックで、極めて短時間に全身にアレルギー症状が出て最悪死に至るというもの。一説には黒っぽい服を着ていると攻撃される確率が上がるらしいが、白っぽい服を着ていれば安全というものでもない。

 さらに危ない生物は多く、有名な所ではツツガムシというダニの一種。ツツガムシに噛まれることでツツガムシ病という死亡例もある病気を発症する。ツツガムシ病は感染症法による届出が必要な重大な疾病とされている。ツツガムシは主に森林に生息するようだが、湿地の疎林なども危険性があるので必要のない場所には立ち入らない、などの自衛策が必要。
 近年(1995年以降)分布を拡大しているセアカゴケグモという外来種の有毒のクモがいる。噛まれれば海外では死亡例もあるほどの恐るべき毒グモである。彼らは一般的なイメージのクモと異なり、アリやその他地上徘徊性の小型昆虫類を餌としており、このために地上付近に巣を持つ事が多い。公園のベンチの下や側溝の中などに巣が確認されており、これも関係ない場所には近付かない、触らないといった基本的な自衛策が必要である。

 野外の(と言うかどこでもそうだが)基本原則は自分の身は自分で守る、そのために必要な道具は面倒がらずに必ず持って行く、というもの。目指す湿地植物はたいていコンビニから数kmは離れ、また15分以内に救急車が来ない場所にある。立派なアウトドアであって、何があっても第一義的には自己責任であることを忘れないようにしたい。だからこそ、たとえ近距離の何でもない湿地でも立派な探査なのである。

【緊急時対策用品】
・防虫スプレー
・消毒剤
・カットバン(バンドエイド)
*最重要なのは緊急時に救急搬送などの連絡が取れる携帯電話

§3 位置情報アイテム

彷徨対策


 大規模な湿地、例えば渡良瀬遊水地のような場所では、湿地中の多くの場所で360度アシしか見えず、どこにいるのか見当も付かなくなる場合がある。迷路の基本はどこでも似たように見えるように作ることなので、その意味ではまさに天然の迷路だ。人の踏み跡がある場所をたどって行けば道にあたる場合が多いが過信は禁物。渡良瀬遊水地の見学では、以前は無料配布している全体地図と腕時計兼用のコンパス(画像)を使用していたが、最近はスマホアプリで代用できる。(圏外だと無力だが、意外なことに渡良瀬遊水地では電話が通じる)

 こうした道具は事故(迷子・遭難)を防止するのが主目的だが、限られた時間を有効に使って見学するという本来の目的にも適う。ちなみに都市部では現在位置の把握に絶大な効果を発揮するGoogleEarthのストリートビューも、人工物の少ない自然環境では経験上まったく無力である。どの角度から見てもアシの壁のような場所で画像を見ても見当が付かないのは当然のことである。

【画像:コンパス、高度計などが付いた腕時計(以前の愛用品)】

 色々と便利に使えるスマホだが、私が湿地歩きを始めた当初はガラケーしか存在せず、考えてみれば地図、コンパス付き時計、植物図鑑など雑多で重量の嵩む荷物が多かった。持って行ったものでガラケーを除けば唯一通信機能があったのはPHSカードを装着したノートPCだが、屋外での画面の視認性、電波状況、バッテリー持続時間など問題点が山ほどあってほどなく持って行かなくなってしまった。今やスマホと緊急用のバッテリーを持てばこれら用品すべての用が足りるので、つくづく便利な世の中になったものだと思う。このドラスティックな変化が高々ここ10〜15年程度で起きているわけで、次の10〜15年に何が起きるのか楽しみだ。(まっ、その時まで生きていればの話だが)

 さて、こんなハイテクの時代でも意外に役に立つのが紙の地図。特に国土地理院の地形図は電子地図として閲覧もできるが、狭いスマホやタブレットの画面でスクロールさせて見ていると全体が見えず、すぐにワケが分からなくなる。この点紙地図なら俯瞰してポジショニングが可能であり、特に目指す場所へのルートの事前検討には相当役に立つ。ローテクと言えども侮れず。
 ちなみに紙地図は国土交通省の販売サイトで購入できる。目的の湿地の規模にもよるが、1万分の1もしくは2万5千分の1の地形図が使いやすいと思う。地図を片手にペンで記入する探検家スタイル、我が隣町(茨城県つくばみらい市)出身の間宮林蔵のようで何となくアカデミック・・・まぁそれはどうでも良いか。

【位置情報アイテム】
・紙地図、筆記用具(ルート記入用)
・コンパス(スマホ代用可)

余談:デジタルデータのGPS


 最近のデジカメには撮影したデータに位置情報(緯度経度情報)が付加されるものがある。この機能をオンにしたまま、Exif情報を削除せずにネット上に公開してしまうと撮影地点が容易に特定できてしまう。特に希少な植物の自生地がピンポイントで分かってしまうと、よからぬ輩に販売目的のためにごっそり採集されてしまい、自生地から消滅してしまうリスクもあるので要注意だ。
 データを取られた方は自分が絶滅の原因になったとは夢にも思わず、直接的に絶滅に追い込んだ方はそんな事は気にもしない。割を喰うのは消滅した植物だけ、ってのは悲しすぎる。

§4 植物観察・採集道具

観察道具


 基本的には自分の目があれば十分だが、補完的なツールとして遠くを確認する、小さなモノを拡大する、という肉眼では困難な世界を見られる道具があれば文字通り世界が広がる。特に植物観察のジャンルでは湿地ではマーフィーの法則通りの事がよく起きる。目的の植物が木道から20m離れている、近場には自生していない、とか。

 遠くを確認するのは以前、オーストラリアの気球ツアーで貰った20倍の双眼鏡を使っていたが、倍率20倍以上のコンパクトデジカメを入手して以降、使用する機会がなくなった。カメラで十分代用可能の上、撮影も同時に出来るので、原則通り「持ち物は極力減らす」方向で。

 小さな世界はコンパクトカメラの顕微鏡モードで代用可能であるが、実質顕微鏡モード専用の使い方なのでカメラが1台専用で増えることになり、使用しないモノは持たない、荷物は極力軽くするという原則から外れてしまう。というわけで使い出したのが画像のルーペである。それぞれのエンドに10倍と20倍のレンズが付いている便利なルーペだが、2000円以下で入手できる上に本体が小さく可搬性に優れる。

【画像:10倍、20倍のルーペ(VIXEN)】

 このルーペが必要になるのは、種の判別にあたって種子表面の模様とか葉裏の腺点など微小な同定ポイントを見るためであって、下手をすれば全く使用しない場合も多い。使うかどうか分からないのに持って行くジレンマもあるが、モノ自体非常に小さく重量もさほどではないので許容範囲だろう。最近のVIXENの製品には、プラ筐体で重量を軽減し、対象物を見やすくするためのLEDが付いたタイプなどもあり、軽量化と利便性が向上したモノも発売されている。
 これまた最近では代用品があって、上記のガジェット満載のコンパクトデジカメに装備されている「顕微鏡モード」というものが使用できる。ルーペ以上の小さな世界が見られる上に、カメラなのでもちろんそのまま撮影もできる。(詳細は観察道具2で)歩き回ることを前提に考えた場合、代用できるものによって省けるモノは1gでも省く、という徹底した姿勢も重要である。

植物採集道具


 植物採集自体の賛否はあるが、私は採集禁止エリア以外の採集に付いては、自分で育てたり標本を作ったりする程度は一般的な許容範囲内であると考えている。もちろん法的にも何ら問題は無い。採集対象の植物は結果的に希少種、絶滅危惧種の比率が高いことは否定しないが、希少種だから採集してはいけないというステレオタイプの価値観は根拠に乏しい。植物群落は間引きしても存続するし、条件が良ければ間引きによってさらに拡大傾向を見せる。群落が縮小・消滅するのは自分で育てたり標本を作ったりする程度の採集が要因ではなく、より大規模な自然破壊や環境変化に起因する場合が多い。
 採集が群落消滅や絶滅に直結するのは販売して利益を得るための採集である。これは山野のラン科植物の運命を見れば明らかだろう。湿地植物では幸いなことに一般的に販売できるようなものは少ないが、それでもミズチドリやサギソウなどラン科では同じ状況となっている。多くの自生地ではこうした状況に鑑み、管理者によって採集禁止となっている場所も多いので採集目的の際は事前の確認が必要だ。

 採集道具の最重要は小型のスコップ。特に湿地植物は根が乾燥すると長時間もたないので、水分を含んだ土ごと採集するようにする。その際に威力を発揮するのがこの道具。対象の植物が小型種(ミズマツバやスズメハコベのクラス)であればステンレスのスプーンでも代用できる。スプーンは百円ショップのもので十分だ。画像のものは木製の柄が付いたものだが、長年水気のある場所で使用していたため朽ちてしまった。オールステンレスの方が良いかも知れない。
 土ごと採集するのには望外の「オマケ」もあって、予想外の植物が土に含まれていた種子から発芽することがある。私は何度も経験しているが、たいした植物ではなくても何となく得したような気になるから不思議だ。

 採集した植物を運搬するのに便利なのが食品用のトレーとジプロック付きビニール袋。食品用のトレーに採集した植物を並べ、トレーごとビニール袋で密閉すれば草体も痛まず水分の蒸散も防止できる。トレーはわざわざ購入する必要はなく、肉や魚を買った際に付いているものを各サイズ洗って保管しておけば十分。盛夏には運搬時の環境に拠って密閉空間の温度が上がり過ぎて植物が茹ってしまうので、保冷バッグ(これも百円ショップのもので十分)と保冷材(スーパーで無料で配っているもので十分)を用意しておけば完璧である。

 これらは小技範疇だが、育成目的で採集する場合には運搬状態によってその後の生育にも影響が出る部分なのであまりなおざりにしない方が良い。採集して来た植物がすぐに枯れたりするのは得てして運搬に問題があったりすることが多い。採集する以上はきちんと育ててあげたいし、出来ることなら世代交代もしたい。それが自生地で育っていた植物を連れて帰る最低限の礼儀だと思う。

【採集アイテム】
・小型スコップ(スプーンで代用可)
・食品トレー各サイズ
・ジプロック付きビニール袋
・保冷バッグ、保冷材


掘り上げ用の小型スコップ 運搬用のジプロック付ビニール袋
§5 植物図鑑

判別のための道具


 湿地に生える植物は水陸両用のようなグレーゾーン植物を含めると800〜900種ぐらいあるのではないか、と思う。日々増える外来種や誰も気にも留めない雑草、極め付きの希少種まで含めての話だが、とにかく膨大な種類であることは間違いない。すべてを頭に入れ、現場で即座に判断(同定)できるのが理想だが、それが可能な人間は限られるだろう。(いないかも)
 かく言う私も自分で該当種をWebサイトの記事にして公開しながらも、即座に名前が出てこない場合が多々ある。加齢現象だと薄々気が付いているが、人間は忘れる動物だ、ということにしておく。

 それはともかく、せっかく植物探査に行っても痛い見落としがあると、貴重な時間を費やしながらもったいないし、後で写真で気が付いて(私の場合、目的じゃない植物写真の背景に希少なモノが写っていて後悔したり焦ったりする場合がよくある)もう一度行くという二度手間をかけることもある。それこそ時間の無駄の見本のような行動だ。

【画像:多様な植物図鑑、本棚の一角は図鑑に占領されている】

 よく分からない植物は写真に残し、帰宅後に調べる、という手もあるが、厄介なのは普通写真に撮らないような場所が重要な判別ポイントになっている植物が多い、という点だ。開花期以外のホソバイヌタデの葉裏の腺点など良い例で、知らなければ普通は植物の葉裏を撮影することはないし、まして腺点が判別できる写真を撮ることもない。こうした写真を残していないとこの方法はまったくの無力なのである。もっとも判別点が分かっていればその場で同定できるわけで矛盾した話ですな。

 従って正体不明の植物は可能な限り現場で解決することが望ましい。植物図鑑は必須となるが、実は上記800〜900種を網羅した湿地植物図鑑は存在しないのだ。(正確に言えば数分冊に及ぶ「牧野植物図鑑」というレジェンドはある。ただし牧野先生後に入って来た帰化植物は多く、新種登録された種もある)仮に存在したとしても種の特徴が分かる写真や解説を入れていくと最低数千ページの巨大な図鑑になるだろう。重量的にも巨大になってしまうので持ち運びを考えると現実的ではない。
 しかし近年、便利な時代になったもので、以前こうした図鑑代わりにモバイルPCを持ち歩いていたものだが最近はスマホで同じ事が出来る様になった。ネットの世界のデータがすべて手元にあるのと同じなので便利に使用している。湿地でも余程の奥地でない限り電波は届くようだ。ネットで調べるためには最低条件として、その植物が何科なのか程度は把握する必要がある。種毎の特徴よりグループ毎の(科毎の)特徴を日頃から覚えるようにすれば手早く調べることが可能だ。
 近年こうしたネット上の植物図鑑もAPG分類が増えており、正直に言えば私のような古い人間はピンと来ない。全面的に切り替わるのはあと10年程度かかると思うが、出来ればそれまでは併記して欲しいと思う事も多々ある。オオバコ科と言われれば道端にしぶとく生えるオオバコを思い出すがシソクサ属やアブノメ属は連想しない。連想ゲーム的(ここは手掛かりがない時のとっかかりとして重要)な部分では旧分類の方が良かったような・・(だから「古い人間」と呼ばれる)

難敵対策


 湿地植物のうち、正体不明(同定が難しい)が多いのはズバリ、カヤツリグサ科とイネ科である。最近自然科学系の出版社、文一総合出版から科別の植物図鑑が出版され、両科の図鑑も販売されている。科毎に独立した(しかも地味な科の)図鑑が出版されるのは画期的である。両科の図鑑は自生写真やイラストではなく、実物のスキャナー画像が掲載されてるので「絵合わせ同定」も可能である。重量もさほどないので難しい種類の図鑑だけ持ち歩く、という方法もありだと思う。
 関東近辺の渡良瀬遊水地や成東・東金食虫植物群落など管理された自生地では植物の開花時期や特徴などが写真とともに記されたパンフレットを無料で配布している場合があり、こうしたものも簡易的な図鑑として活用できる。両湿地ではガイドもいるので、質問できることを考慮すればこうしたもので十分だと思う。

検索結果は玉石混淆。判断は自己責任で・・・植物名検索で自分のサイトが一番上に来ると正直かなりイヤなものだ 成東・東金食虫植物群落のパンフ。無料配布物だが開花時期や解説が的確に記載してあり使いやすい

日本の水生植物 水草事始
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