日本の水生植物 水草雑記帳 Field Note
コウホネの迷宮
(C)半夏堂
Field Note コウホネの迷宮

21世紀に入ってからの発見、シモツケコウホネ
2018年6月 栃木県日光市
Chapter1 見過ごされる真実

21世紀


 植物学の巨人、牧野富太郎博士注1)は、それまで統一呼称(和名)や正確な分類が成されていなかった植物を多数、というか自生しているものをほとんど分類整理したが、この事績はほぼ20世紀前半のことである。以降、幾多のフォロワーによって水生植物を含むあらゆる植物が分類整理された、と考えられていた。

 ところが21世紀に入って間もない2006年、コウホネ属の新種としてシモツケコウホネ(Nuphar Submersa Shiga & Kadono)が志賀隆・石井潤・井鷺裕司・角野康郎各氏によって記載された。草体が比較的大きなコウホネ属の植物なので、これまで微小で見過ごされてきた、とか、同属他種に比べて差異が目立たない、といったものではない。また基本的に人里近くの植物なので人跡未踏の深山幽谷にしかない、といった類のものでもない。私も実際に自生地に赴いたが、多少平地よりも標高はあるもののごく普通の農業地帯である。そしてその「存在」自体はずっと自生地周辺の方々が認識していた注2)のである。

 コウホネ(広義)の花は生け花にも用いられるほど見応えがあり目立つものなので、人里近くで見過ごされることはないはずであるし、そもそもシモツケコウホネは他種と異なり抽水葉を形成しないので外見的特異性もある。それでもこんな事が起きる理由は、植物にあまり関心のない一般の方々は雑草範疇の植物の多少の相違はスルーしてしまうというごく普通の現象によるものだろう。
 しかしそれは立場を変えて考えてみれば納得できる話で、山野で知り合った野鳥好きの方は「トラツグミが来た!」とか「ヒレンジャクだ!」とか興奮されているが、鳥に関心のない私にはまったく区別が付かない。せいぜいカラス、ハト、スズメ、ツバメの違いが分かる程度だ。それ以外は概ねすべて「野鳥」であり、仮に誰も見た事がない新種の鳥がいたとしても「変わった野鳥だな」程度で終わりである。ほぼ植物写真、街並み写真しか撮らない私は普段望遠レンズも持ち歩かないので写真も撮らないと思う。それは私にとってはごく普通の行動パターンであるが、野鳥マニアからみれば信じがたい事だと思う。状況はそれと同じだ。

 シモツケコウホネが太古以来生活圏に存在した周辺住民の方々も、農地によって生計を維持することが優先であって、いちいち雑草範疇の植物の形状がどうの、ましてや沈水葉が、抽水葉がといった相違は私にとっての野鳥の種類の見分けレベルの認識であったに違いない。人間誰もが博物学的興味を持っているわけではないし、一家に一人、南方熊楠がいるわけではない。
 むしろ生活人としての感覚で言えば、シモツケコウホネは水田の命運を握る用水路の水流を妨げる邪魔者であってネガティブな存在であったはず。保護運動がスタートした後も、同様の視点で少なからず批判や反対意見があったという。生活が大事か雑草が大事かという択一議論になれば、生きて行かなければいけない以上前者を採らざるを得ない。しかしシンプルな択一議論にならないのが現代社会の難しさ。

 シモツケコウホネは現在の所、栃木県の四か所、それもせいぜい40〜50mの範囲の水路に自生しているだけである。また似たような性質を持つナガレコウホネ(Nuphar×fluminalis Shiga & Kadono)は栃木県内の何か所かにあって、これも同様に見過ごされて来たということが言えると思う。しかもナガレコウホネはコウホネとシモツケコウホネの交雑種注3)であり、同所的にシモツケコウホネが存在していた可能性が高い、ということである。これもまた見過ごされて来たことを考えると、21世紀に入っても尚、新種の植物が出てくる可能性はあると思われる。以上を踏まえて、まとめれば次のように言うことが出来る。

・シモツケコウホネは21世紀にいたるまで長い間見過ごされてきた
・ナガレコウホネがシモツケコウホネの雑種である以上、以前はシモツケコウホネが複数個所に自生していたはず
・人知れず自生し、人知れず滅んだ種もあるはず。シードバンクからの復活も可能性はないわけではない



(P)ナガレコウホネ 2018年5月 栃木県佐野市


Chapter2 正体不明

偶然の発見


 駄文の総量が増えて来て今後どうしたものか、何を書こうか、と自らも考えているこのサイトだが、ありがたい事に全国に少数ながら愛読者の方々がおられて時々有益な情報やアドバイスを頂けることがある。(この場を借りて多謝、謝々)
 栃木県の植物愛好家、吉永様はそんなありがたい方々のお一人で、土地柄シモツケコウホネやナガレコウホネには関心がおありだ。ある時頂いた情報、これがまた確率が小数点以下の世界の偶然としか言いようがない情報で、ネットに公開された河津桜注4)の動画に数秒間写ったコウホネの開花動画である。普通はほぼ誰でもスルーする情報で、人一倍頭がボォーっとしている私も言われなければ気が付かない程の話だが、そもそも開花の早い河津桜は3月初めに咲いている。動画の撮影日も3月頭、ここに開花しているコウホネが写っている不自然、しかも抽水葉がない違和感。これは調べてみなければならん、というのがこの記事の発端である。

 この動画が撮影されたのは埼玉県坂戸市で、知られている限りシモツケコウホネもナガレコウホネも自生はない。自生があるとすれば立派な「事件」である。また可能性があるとすれば動画撮影者が別の場所、時期に撮影したナガレコウホネなどの動画を差し込んで編集した、という話。普通はそんな手の込んだ事をしても何も意味はないし、閲覧者もスルーしてしまうような事に手間をかけるとは思えない。どちらにしても現地を見ればある程度分かるはず、と重い腰を上げて自分で現地を見ることにした。
 自分でサイトにご紹介しておいて何だが、書いたことも片っ端から忘れてしまうので事前にシモツケコウホネとナガレコウホネの違いを予習して記憶に留めておいた(翌日ぐらいまでなら何とか覚えている)ことは言うまでもない。最近は分かったつもり、覚えたつもりの事も短期間で記憶から抜け落ちてしまう。他にやらなければならない事(生きるために)が多いという言い訳はできるが、実態は薄々自認しているが加齢現象と見た。歳はとりたくないものだ。しかし最近御意を得た脳神経外科/認知症専門のドクターからは「加齢による物忘れと認知症は違う。忘れた、という事実も忘れてしまうのが認知症」というお言葉を頂いているので安心はしている。

 現地到着、念のため注5)可能な限り(歩いて到達できる範囲)上流から川面を見ながら堤防上を歩いていくとコウホネ(普通種)を発見。抽水した姿はごく普通のコウホネで、一輪だけ開花していたのがやや早い気がしただけ。(何しろ見に行ったのは4月末である)当然ながらシモツケコウホネは見られなかった。見られればここでこんな冷静な文章は書いていない。そして事前検討によって目星を付けた地点まで来ると無数の花を付けた沈水葉のみのコウホネ群落が見られた。開花時期を除けばこの状態自体は特に不思議ではなく、日本の水草(文一総合出版 角野康郎)には「流水域には沈水葉のみの群落が見られる」とある。しかし事前に前出吉永様より12月に開花するナガレコウホネの情報を頂いていたのが引っ掛かって精査の必要性を感じていたのだ。
 残念だったのは群落が川の中央部にあり、折からの田植え時期に堰堤を開けたのか水量が増大し花がすべて水没していた点。なんとか水中にある柱頭盤は見えたが判断は微妙であった。陰影か赤か、色が付いているようないないような・・・。また沈水葉を採集し精査注6)すればある程度の絞り込みは可能だと思うが、それも水流が強く叶わなかった。いつかの?を残してきた結果となったがもとより一度で解決できるとは思っていない。

 例えば栗と柿は10〜20m離れた場所からも識別できるが、コウホネ属は水没してしまうと1mの距離から観察しても種が特定できない場合が多い。手に取って精査しなければ「流水域で沈水葉のみの群落となっているコウホネ(狭義)」なのか「ナガレコウホネまたはシモツケコウホネ」なのかは分からない。開花時期の問題は別として、草体を詳細に観察することが出来なかったことが悔やまれる。しかし、あくまで根拠のない印象としての話だが「沈水葉だけの群落、かつ開花時期が早い狭義コウホネ」に思われる。理由は色々な場所で微妙な形質のコウホネを見ていると、持っている形質が出たか出ないか程度の相違に思われてしまうからである。それを言い出すとすべて同じになってしまうがそれは違う。抽水葉を出すかどうか、開花時期が少し早いか遅いか、その程度は種内変異でも解釈できるのではないか、という話である。

 どちらにしても再調査は必要であると思うが、上記のように8割方は普通のコウホネではないかと思っている。種内変異であればこれ以上見ても何も出てこないことも理解している。どちらにしても山野で出会うコウホネのそれぞれの種の特徴が頭に入っているとは言い難く、第一次的にこの属を見分けるポイントを整理し、現場でもスマホで参照できるようにしたのが文末の検索表だ。(主に自分用なので誤解のないように)

*本件、調査の詳細は探査記録探査記録「Vol.172 不思議なコウホネ」を参照

・コウホネ(狭義)が流水中で沈水葉のみで生活することはあり得る
・種の確定にいたるには柱頭盤の色と沈水葉の精査が不可欠
・開花時期の謎(真冬〜早春)はどちらにしても残っている



(P)謎のコウホネ。接近して調査できず、いまだに謎である 2018年4月 埼玉県坂戸市


【「通常の」コウホネ】
抽水葉より低い位置で開花する
2015年5月 東京都葛飾区
抽水葉を出した群落
2015年5月 東京都葛飾区


開花から2〜3日経過すると花弁が開き、花の構造がよく分かる
2015年6月 千葉県市川市

Chapter3 正体不明その2

変化球


 千葉県香取市(佐原地区)の小野川にある「ナガバコウホネ(Nuphar japonica var. stenophylla Miki)」は、実はそのような「種」ではなく普通の狭義コウホネではないか、という説があるコウホネだが、2018年の自分の調査では大筋はそう(狭義コウホネ)だろうと思いつつも二つほど不思議な現象を確認している。
 小野川には複数の「ナガバコウホネ」の群落があるが、たしかに画像のような「どこから見てもコウホネ」的群落もありつつ、沈水葉のみの群落が複数見られたのである。同じ河川のごく狭い範囲であるので決定的な生育条件の相違、つまり日照、水質、水深などの違いはないはずにも関わらず、だ。
 前項で書いたように流水域で沈水葉のみのコウホネ群落が見られたとしても「すわ、大事件」とは考えていないが、この生育状態の違いが不思議である。同じ生育環境といっても河川であり、場所によって若干の水深の違いはある。コウホネが何らかの「判断」によって沈水葉で生きるのか抽水葉を出すのか決定していることは事実。その判断が何者なのか説明が付かない。ただ、これを見ることで坂戸市のコウホネも理解できたような気はする。

 問題なのは二つ目の不思議である。ある群落で柱頭盤の色が色付いている花があったのである。(この群落は抽水葉を出していた)ただしオゼコウホネやシモツケコウホネのような明瞭な赤ではなく、画像のように燈色に近い。こういうパターンは見た事がなかったが、「普通の狭義コウホネではない」とすればあり、だろう。要するに佐原小野川のコウホネは沈水葉群落と言い柱頭盤の色(すべての花ではない)と言い、何らかの影響を受けているということ。つまり千葉県の主張するように「ナガバコウホネ」なのである。
 この小野川のコウホネに付いてはよく見るとけっこう変化球があって、一概に「普通のコウホネだろ」と片付けるのは早計であるように思われる。ここに定着する過程で別の種の影響を受けている、つまり交雑によって何らかの遺伝子を拾っていると考えても良いのではないだろうか。それでも分類上、狭義のコウホネ、とするのであればそれは分類上の問題に過ぎないわけだが。

・コウホネ(狭義)と断定するには辻褄のあわない現象もある
・同じ環境でも沈水葉のみで群落を形成するのは坂戸市の例と同じ



(P)佐原小野川のコウホネ。千葉県唯一のナガバコウホネ、とされる 2018年6月 千葉県香取市

沈水葉群落
2018年6月 千葉県香取市
柱頭盤の色が・・・
2018年6月 千葉県香取市
Chapter4 紛れ

微に入り細を穿つ


 ひとまず謎の沈水葉群落は置いておいて。新発見のシモツケコウホネ、ナガレコウホネは自生地の地理的特徴、つまり「ごく限られた場所にあり、そこは「何の変哲もない農業地帯」という事情によって長い間注目を集めなかったわけだが、なかには古くから存在を知られている種でも見直しがされたものがある。
 ヒメコウホネ(Nuphar subintegerrimum (Casp.) Makino)がそれで、まさに学名に牧野博士の名前が付いている、20世紀前半に分類整理されたコウホネだ。

 少しだけ経緯をご紹介すると、ヒメコウホネのタイプ標本と現実に西日本に自生するヒメコウホネの形状が目視レベルで懸隔しており「疑問視」された結果、西日本を中心に自生するタイプが当初「西日本型ヒメコウホネ」、後にサイコクヒメコウホネ(Nuphar saikokuensis Shiga & Kadono)として記載されたというもの。(タイプ標本のものは「東海型ヒメコウホネ」=従来のヒメコウホネとして独立)

 いきさつはサイコクヒメコウホネの学名にも名前が見える新潟大学の志賀隆准教授のWebサイト、河骨愛に記述があるのでご興味のある方は参照されたい。この話も記憶にある限り21世紀に入ってからの話だと思うが、幾多の専門家が長い間「タイプ標本と違うな」と思いつつ、形質の異なる「種」を同一視していたわけで、この属の「揺らぎ」を感じる話である。

 もう一つ例をご紹介しよう。福島県白河市に南湖という湖があって、我が国では尾瀬と山形県の月山でしか見つかっていないオゼコウホネがここ南湖にも自生するという栃木県の研究者の報告がきっかけとなり、ちょっとした騒ぎが持ち上がったことがある。市側としてそうした希少なコウホネであれば一種の観光資源になると考えたのだろうか、オゼコウホネであって欲しかったと思うが、結果的には「柱頭盤が赤い雑種由来のコウホネ」と落ち着いたらしい。
 興味深いのは初期の段階で「研究者」が関与して結果的に誤同定があったという事実。レベルどうこうの問題ではなく、ちょっとした「異分子」が入ったコウホネは素人ならずとも正確な同定が難しい、という例である。であるので前項のコウホネも迂闊に結論を出すわけにもいかない。私は研究者ではないが、こうして細々ながら情報を不特定多数に発信しており、どこでどのような影響が出るか予測できないからだ。もちろん影響があっても何の責任も取れない。
 ちなみに白河市の観光案内的なガイドブックには、柱頭盤が赤い花と浮葉が一緒に写っている植物を「南湖のコウホネ」と紹介していた。これはこれで大きな「紛れ」を生みそうな表現だ。交雑種であっても柱頭盤が赤いということはそれなりの由来を持っているはずであり、そもそも同じ交雑種であるナガレコウホネもあれだけ大事にされている(地元に)ではないか。

・つい最近、種の見直しが行われている事実
・表現型として片付けるのは早計、種の揺らぎがまだまだありそうな属である



(P)ヒメコウホネ 2015年8月 茨城県(公園植栽)

Chapter5 検索

特徴整理


 素人考えながら、コウホネ属は抽水葉、浮葉の形成、柱頭盤の色などにより絞込みが可能であると思う。この際、多少の表現型の相違は目をつぶって、標準的な姿としてまとめたのが以下検索表である。(自分の行動範囲で見られない種類も一応掲載した)

【コウホネ属検索表】(標準和名50音順)
標準和名 抽水葉 浮葉 沈水葉 柱頭盤の色 備考
ウリュウコウホネ × 赤色 オゼコウホネに近似、子房が赤褐色
オグラコウホネ × 黄色 葉柄が極めて細い
オゼコウホネ × 赤色 ネムロコウホネ変種
コウホネ 黄色 流水域で沈水葉のみの生活型あり
サイコクヒメコウホネ 黄色 交雑種起源と考えられている
サイジョウコウホネ 赤色 交雑種起源と考えられている
シモツケコウホネ × × 赤色 沈水葉のみの生活型
ナガバベニコウホネ 黄色 ヒメコウホネ変種
ナガレコウホネ × 赤色 コウホネ×シモツケコウホネ
ネムロコウホネ × 黄色 北方型
ヒメコウホネ 黄色 従来の「東海型」
ベニオグラコウホネ × 赤色 オグラコウホネ変種
ベニコウホネ 黄色 コウホネ変種
参考文献:日本の水草(文一総合出版 角野康郎 2014)/ スイレンハンドブック(文一総合出版 川島淳平 2010)


柱頭盤燈色、オゼコウホネ
2018年6月 栃木県(公園植栽、抽水葉は別種のもの)
柱頭盤黄色、オグラコウホネ
2007年7月 自宅栽培
抽水葉、サイジョウコウホネ
2018年5月 自宅栽培
沈水葉、ナガレコウホネ
2018年5月 栃木県佐野市
脚注

(*1) 1862-1957 日本の植物学者。事績は本文の通りで、今も販売されている「原色牧野日本植物図鑑」はいまだに最も質量ともに秀でた植物図鑑として評価されている。植物学に造詣の深かった昭和天皇のお言葉「雑草という名の植物は無い」は、実は牧野富太郎の言葉だった、とも言われている。写真や著書を見る限り堅実な人物像が想像できるが、実は奇人変人の類で数々のトラブルを引き起こしていたという。何となく南方熊楠を想起させられる。植物の「好き物」は変わり者が多いのだろうか?そう言われてみるとレベルは比較にならないが自分も「変わり者」の傾向はあると思う。一般に知られていないが彼が生誕した4月24日は「植物学の日」になっている。

(*2) 現地では農業用水の通水確保のため、水流を阻害する雑草としてシモツケコウホネを刈り取ってきた歴史がある。これは一方的に批判するに能わず、例えば自宅の庭で貴重な古代遺跡が発見されたと思えば良い。私だったらその後の騒ぎや不自由を考えて誰にも告げず埋め戻すと思う。俯瞰すれば個人の利益<社会の利益、だが、そこで生活する人間にとっては逆の価値観もある。たとえば、いまや見る機会も激減したマルバオモダカが最も繁茂している秋田県のジュンサイ畑(池)では雑草として引き抜かれているという。一方ではこの植物を育てたくて通販で1000円以上出す人間もいるわけで、これぞ価値観の多様化ってやつだろう。

(*3) シモツケコウホネ記載者のグループによってゲノム解析されて判明した事実。ほとんど不稔であることは確認されているが、見た目の印象にコウホネ(狭義)は入ってこない。抽水葉を形成する(形成しない場合も多い)ことがある、という程度。ただし沈水葉の形状は葉幅も切れ込み角度も、葉柄の断面形状も大きな相違がある。自生地を観察すると浮葉や抽水葉らしきものも若干ではあるが確認できる。

(*4) オオシマザクラとカンヒザクラの自然交雑種であると「推定」されている種。開花が早く、地域によっては1月から開花する。ソメイヨシノより桃色が濃く花期も1か月ほどある事から好んで植栽する地域もある。和名由来は静岡県賀茂郡河津町で1955年に発見されたことによる。埼玉県の郊外になぜ植栽されているのか事情がよく分からないが、周辺の環境整備状況を見るに、観光資源として育てようとしているのかも知れない。

(*5) 上流にコウホネとシモツケコウホネがあれば種間交雑種のナガレコウホネがあっても不思議ではない・・・が、栃木市や佐野市のナガレコウホネの自生地ではシモツケコウホネどころかコウホネも見られない。以前あって現在は絶えているという見方が自然だと思うが、それにしても両市の自生地付近ではコウホネも見られないのが不思議といえば不思議。ナガレコウホネが不稔であれば鳥による種子運搬も可能性がなく、コウホネ全般分化全能性もないと思うので、考えれば考えるほど不思議な現象である。

(*6) 本文にあるようにシモツケコウホネやナガレコウホネは沈水葉に明瞭な特徴があり、花とあわせれば両種の場合種を特定することはやや容易。両種の特徴に合致しなければ「シモツケコウホネとナガレコウホネではない」という一応の結論を得ることができる。どちらにしても沈水葉の精査は不可欠だ。しかし様々な交雑の末に現在の「種」が確定したと考えれば突発的に出現する形質もあるので100%の同定とは言い切れない。


【参考文献・参考にさせて頂いたWebサイト(リンク)】
・日本水草図鑑  文一総合出版 角野康郎 1994
・日本の水草 文一総合出版 角野康郎 2014
・スイレンハンドブック 文一総合出版 川島淳平 2010

河骨愛

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